収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

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5週目の世界 偽りの千年王国 その32

5週目の世界 偽りの千年王国 その32

 

ヤヌスの討伐は正直に言って私にはどうでも良い内容だった。ただ長久に頼まれたからリーナの手伝いをしただけだ。それが無ければ私の居場所を奪ったリーナを殺して、その場所を取り返す。それだけが私の目的であり、存在理由だ。その気持ちはリーナとミズキがヤヌスを切り倒した技を見てますます強い物になっていた。

 

(知らない、私はあんなのを知らない)

 

葛葉の術はジャックさんに教わったし、ジャックさんの戦闘技術も教わった。だがジャックさんの教えの中にあの虹色の輝きは無かった……本来教われる術を覚えることが出来なかった事に怒りを覚える。

 

(……警戒されているか、当然か)

 

リーナとミズキはMAGの消耗でダウンしているが、ゴトウとベスの2人がついているので私1人では手に余る。一応契約しているが私よりも格上のナジャは間違いなく私の指示には従がわない。

 

(……こうして体を休めるしかないか)

 

まだ焦ることはない、長久に頼まれているのだから無事に作戦を完遂し、その後で改めてリーナを排除すれば良い。そんな事を考えているとナジャの小さい手が私の視界に入ってきた。

 

【食べる?】

 

「果物か……ありがとう」

 

態々取ってきてくれたであろう木の実を受け取り、それを服で軽く拭いて齧る。口の中に弾ける甘みとほのかな酸味に笑みが零れる。

 

「美味い」

 

【そ、良かった。水もあるよ】

 

ナジャが差し出してくれた水の入った半透明の入れ物を受け取り水を口にする。乾いた身体に水が染みこんで行く感覚がして思わず溜息が零れた。

 

【怖い顔をしてるね。リーナが嫌い?】

 

「嫌いだな。リーナは私が手にする物を悉く奪った。だからリーナを殺して場所を奪い返すんだ」

 

【でもさ、それをして……貴女はリーナになれるの?】

 

「え?」

 

ナジャの言葉に私は間抜けな返事を返した。何を言われているのか理解出来なかったからだ

 

「いや、奪われた場所を【取り返しても貴女はリーナじゃないよ? 貴女はダレス、リーナじゃない】……そ、それは……」

 

違うとは言えなかった居場所を取り返したらダレスという名前を捨ててリーナを名乗るのか……?

 

【貴女は自分の居場所を取り返す。それ以外のことを考えてないわ……それは本当に貴女の考えなの? 本当に望みなの?】

 

分からない、ナジャが何を言っているのか分からない……。

 

「……向こうへ行ってくれ、お前の話は聞きたくない」

 

【分った。何か困っていたり、分らない事があったら相談してね?】

 

そう笑って歩いて行くナジャの背中に視線が向くがその姿は私の目には映らず、私の脳裏にはずっとナジャに言われた言葉が繰り返されていた。

 

【ダレスをどう見る?】

 

【多分こいつで思考誘導してた】

 

ゴトウの言葉にナジャはその手の中で暴れている小さな悪魔ですらないMAGの結晶体を見せた。

 

【人造悪魔か?】

 

【多分ね。まぁセンターの常套手段だよね】

 

その手の中の悪魔とも呼べない生命体を握り潰し、地面に座り込むナジャに周囲を警戒しているゴトウは視線を向ける。

 

【態々君が助けた。理由には大体予想がつくが……】

 

【なら黙ってて、これは後で長久と合流出来たら話すかどうか考えるから】

 

ナジャがダレスと契約した理由……そして長久がダレスと決して相容れることはないとしつつも、リーナ達に同行を求め、そして悪魔召喚プログラムを渡す事を拒否しなかった理由……沈痛そうな表情のゴトウと体育座りをし、膝の間に顔を埋めるナジャの姿がその異常さを物語っていた……。

 

 

 

 

ヤヌスを討伐した我々はやっとの思いで収容所に足を踏み入れたのだが、そこは想像を遥かに越える地獄だった。

 

「ああ……う……」

 

「あああ……」

 

何人もの人間が機械に繋がれMAGを抽出されている。ガリガリに痩せ衰え、骨と皮ばかりになっていても機械に繋がれている人間は生きている……いや生かされている。

 

「……これを正義だと他のテンプルナイトはそう思っているのでしょうか?」

 

「分からない……だがセンターの中にいれば私達はこれを異常と思わなかったと思う」

 

センターは正しい、センターの行いに疑問や疑いを抱くなんてことすら思ってなかった私達では、この光景を見てもなんとも思わなかったかもしれないと思うと背筋が冷える思いだった。

 

「センターの為に死ぬ事だけが私達の罪を償う方法です」

 

「ああ、早く罪を償う時がくるのが楽しみです」

 

牢に囚われている者は皆正気ではなく、自分が機械に繋がれるのが楽しみだと口々に言う姿に薄ら寒い物を覚える。

 

(これがセンター……私達が正しいと思っていたもの……)

 

長久達に出会わなければ、大教会でセンターが計画していた人造メシア計画を知らなければ……私とベスはまだセンターを信じていた。これが現実、センターに作られた偽りではなく、真実が私達の目の前にあった。

 

「急ごう。こんな所に長くいたら頭がおかしくなる」

 

リーナの言葉に頷きこの収容所の中にいるヒロコを探す。

 

【ここはそう広くはない、ヒロコ君のいる場所はすぐに見つかるだろう。問題は監視カメラだ、通路の隅にあるから見つからないように移動してくれ】

 

監視カメラに姿を捉えられると面倒なことになるというゴトウの言葉に頷き、周囲を最大限に警戒し、監視カメラに写らない様に亀のような歩みで薄暗い通路を進み、ヒロコを見つけることが出来たのだが……そこにいたヒロコは私達の知るヒロコでは無かった……。

 

「リーナ? それにベスにライドウ……? 貴女達に用はないわ。帰って頂戴」

 

私達の顔すら見ずに帰れというヒロコの目は濁りきっていて完全に正気を失っていた。

 

【センターの常套手段だな。憑依されているか、洗脳されているか……どちらにせよ厄介だな。長久君なら何とかできるかもしれないが……】

 

「……駄目。式神は反応してない」

 

長久ならなんとかできるかもしれないと思ったが、式神に声を掛けても反応は無く、まだ長久はこちらの支援を行える状況ではないようだ。

 

「無理矢理連れて行けば良いだろ? 意識を刈り取って引き摺っていけば良い」

 

「確かにそれも1つの手段ではあると思いますが……」

 

意識を刈り取って無理矢理連れて行くのも確かに1つの方法だと思う。

 

【そんな事をしなくても大丈夫だよ?】

 

「「「「え?」」」

 

大丈夫というナジャに思わず振り返るとナジャはピースサインを作る。

 

【戦闘よりこういうのが私の専門だからね。ちょっと離れて、後チャクラドロップ頂戴】

 

チャクラドロップを求めるナジャにリーナが頷き、その手の上にチャクラドロップを乗せるとナジャはそれを美味しそうに頬張った。

 

【やることが沢山あるからここで時間を使うわけには行かないからね】

 

【アムリタ】

 

両手を突き出したナジャの両手からMAGの光が放出されヒロコを包み込んだ。その優しく温かい光がヒロコを包み込んだ瞬間に変化は劇的に訪れた。濁りきっていた瞳に光が戻り、私とベスの面倒を見てくれていた時の優しい光を取り戻したヒロコがきょとんとした表情で牢屋の中から私達を見ていた。

 

「……はっ!? 私は何をしてたのかしら……? ファクトリーに連れて来られてからの記憶がないのよね……リーナ? それにベスにライドウ……? 貴女達が助けてくれたのね。でもどうして私のいる所が分かったの?」

 

「……目加田が教えてくれた」

 

「目加田にあったの!? 早く彼の所に行きましょう! 彼は真実を知ってるはず……私の知りたい本当の事を知ってる……うっ」

 

早く目加田の所に行こうというヒロコだったが、衰弱しきっているヒロコは頭を押さえて蹲った。

 

【駄目駄目。今貴女は動ける状態じゃないわ。少し休んでからよ】

 

「貴女が……でも私は」

 

「ヒロコ。私達の目的はお前の救助だが、もう1つ目的がある。この収容所で回収したい物があるんだ、それが終わるまで休んでいてくれ」

 

「……分った。でも出来るだけ早く道具の回収をしてね。私は早く目加田に会いたいから」

 

とりあえず納得してくれたヒロコに待っていてくれと念を押し、ゴトウの案内で収容所を再び歩き出す。

 

「隠している道具はこれからの戦いに役立ちますか?」

 

【それは間違いないと約束する。正し……】

 

「……使いこなせるかどうかは別問題」

 

【その通り。強力な武器に道具ではあるが、それを今の君達が十全に使いこなせるかどうかは別問題だ。だが回収しておくことに意味がある】

 

そう言ってゴトウは収容所の壁に手を当てると、壁は独りでに開き。センターの……いや天使の悪逆と戦う為に長い年月の間隠されていた宝を私達の前に現した。

 

「……凄い」

 

「こんな物が隠されていたのか……」

 

「これはきっとこれからの戦いに必要になりますし、役にも立ちますね」

 

貴重な悪魔由来の素材に、高密度のMAGの結晶体……私含めてこの場に誰も技術者はいないが、それでもこれらの道具が現在の技術を持ってしても作る事が出来ない最高の物であると一目で理解し、これらの武器を隠していたゴトウに心から感謝しつつ、それらの道具を持ち帰るための準備を始めるのだった……。

 

一報その頃ヴァルハラエリアとファクトリーエリアに結界を展開し、安全な拠点を作り出したのは良いがMAGだけではなく、体力まで消耗した長久はというと……。

 

「貴方はいつもいつも、どうして自分の命を計算に入れないのかしら」

 

「はい……返す言葉もございません……」

 

「こんな事を繰り返していたら本当に死ぬわよ!?」

 

「……すみません」

 

「謝れば良いって物じゃないのよ! 分かっているのッ!」

 

百合子にガチすぎる説教を受けていた。天使の今後、そして地下世界についての情報共有の為に訪れていた百合子だが、瀕死の長久を見て悲鳴をあげ、治療を施した上で説教をしていた。その余りに鬼気迫る表情に誰も口を挟めず、説教がヒートアップするに連れて小さくなっていく長久と、凄まじいMAGと怒気を噴出させ怒髪天を衝く勢いで説教をヒートアップさせていく百合子に岡本達も何も言えず、百合子の説教が飛び火しないように体を小さくさせて震えることしか出来ないのだった……。

 

 

 

5週目の世界 偽りの千年王国 その33へ続く

 

 




ナジャもベスも生存かつダレスは一時味方ルートとメガテン2とは全然違う流れとなっておりますが、メガテン1の時空から繋がっているのでこういう形にして見ました。次回からは長久とアオイをメインにしたオリジナルシナリオをやって行こうと思いますのでどうなるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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