収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

109 / 114
5週目の世界 偽りの千年王国 その33

5週目の世界 偽りの千年王国 その33

 

リーナとダレスの攻撃を受けて瀕死の重症と聞いていたが、一目見て長久の不調が怪我ではないと私は理解した。

 

「長久。分ってると思うけど……今世の貴方の寿命は多分今までで1番短いわよ」

 

「……だろうな」

 

「ど、どういう事ですか百合子さん!?」

 

全てを理解している私と、体感で理解している長久にアオイがどういう事かと声を荒げる。

 

「神に呪われたわね。多分高位の死に関する権限を持った神よ。心当たりは?」

 

「ベテルギウスにトドメをさした時にマハムドダインを喰らったが……女の声を聞いた。貴様の存在が世を乱す。ここで死に果てよ、それが真なる意味で世界を救うと知れってな」

 

何を勝手なと言いたくなるが、長久の言葉で長久を呪った相手の立ち位置が分った。

 

「多分地母神の類だと思うわね……誰かとまでは特定出来ないけど……とりあえずこれを飲んでおきなさい」

 

指先を切って水を飲んでいた長久のコップの中に数滴垂らす。水は一瞬で赤く染まり長久は心底嫌そうな顔をした。

 

「これを飲めと?」

 

「今の貴方は穴の空いた風船よ? ただでさえ短い寿命を更に短くするのが嫌なら飲んでおきなさい」

 

MAGが減り続けている今の状態で天使と事を構えるのは勿論、地下へ行くのも自殺行為だ。長久もそれが分かっているから私の血を混ぜ込んだ水を嫌そうに飲み干した。

 

「ふう……これ定期的に飲まないと駄目だよな?」

 

「目的を果たす前に死にたくなければね?」

 

良い趣味してるとぼそっと呟く長久の頭に軽く拳を落としてから私は改めて持ってきていた地図を広げた。

 

「さてと分ってると思うけどこのヴァルハラはもう駄目よ」

 

「でしょうね……私の事もばれてるでしょうし」

 

「遅かれ早かれだけどな」

 

マダムと名を変えセンターを探っていたアオイに、長久の存在に、目加田の事が明らかになればセンターは……。

 

「あの馬鹿なラファエル、ミカエル、ウリエルは動くわ」

 

「……そんな上位が動いてたのか?」

 

「ええ、ガブリエルはどっちかと言うと中立よりだけど……人間を軽視してるから信用も信頼も出来ないわね」

 

そもそも天使達は神の予言を信じ、救世主が現れないから救世主を作る計画を立てた馬鹿だと説明すると長久は頭を押さえた。

 

「まぁそんな訳だからセンターは排除するしかないわね。とは言え……戦力不足は否めないけど……」

 

「それを何とかする為に地下に行くんだろ? これを持って」

 

「……どこで手に入れたの?」

 

「本人から貰った」

 

どうやって手に入れたのかは横に置いておいて良いだろう。元の東京に蓋をしているこの世界に隠されていることを見つけるのが最優先目的だったからだ。

 

「それなら良いわ。後は地下に……もう始まったみたいね」

 

激しい地響きと重く暗いMAGが広がって行く……思っていたあの4バカ天使は短絡的だった様だ。

 

「お、おい! 長久! 闇が広がってきて……」

 

「これがもしかしてセンターがヴァルハラを排除するってことなの!?」

 

話をするからと外に出ていてもらっていた男達が2人駆け込んでくると同時にヴァルハラエリアは闇の中へと沈んだ。出来ればリーナ達が戻ってくるまでは動いて欲しく無かったが、どうもそうも言ってられないようだ。

 

「で、どうすれば良い?」

 

「そうね、まずは……外とこのエリアをつなぐ所から始めましょうか? これ、見てて気分良くないでしょう?」

 

臓器で出来た壁に囲まれた……というより巨大な悪魔に飲み込まれたヴァルハラエリアの外を指差しながら私はそう呟くのだった……。

 

 

 

 

巨大な悪魔に飲み込まれたヴァルハラエリアの内部は当たり前だが酷いパニック状態だった。

 

「長久! お前何かしてたよな!? これどうにかできるのか!?」

 

「何が起きたの!? 説明してよ!」

 

長久さんが結界を作っていたのを見ていた住人達がどういうことなのか、何が起きているのか説明してくれと押しかけてきていた。

 

「皆さん落ち着いてください。現在ヴァルハラエリアおよびファクトリーエリアは巨大な悪魔に飲み込まれてしまいました。これより私と長久さんが指揮を取り、この事態の収拾を図ります。皆さんは一時それぞれの家へ戻り待機してください。良いですね」」

 

マダムの正式な発表とすることで一時騒動を治める事が出来たが、それも時間の問題だろう。

 

「それで長久。何とかする方法はあるのか?」

 

「俺は何でも知ってるわけじゃないですよ、岡本さん。でもまぁ……対策がない訳じゃ「「却下」」……」

 

長久さんがそれを言う前に百合子さんと共に却下とその提案を無かった事にした。

 

「……もしかして長久が危ない?」

 

「術者の長久だけをこの場に残して全員外に出るって奴よ」

 

「却下だ却下! この馬鹿野郎!」

 

「なんでそういうのを解決策って言おうとするの!?」

 

岡本さんと羽田さんにまで怒鳴られ、長久さんは身体を小さくさせるが自分の命を軽視する長久さんは少しへこませておいた方が良いと思うのでフォローはしない。

 

「別の方法もある。トラエストとトラフーリを組み合わせるのは同じだが、ヴァルハラエリアとファクトリーが襲撃を受けた際に外に印を刻んでおいた」

 

そこまで聞いて長久さんが何をしようとしているのか私と百合子さんは理解出来た。

 

「外と中をMAGで繋いで脱出する訳ね」

 

「街を捨てることにはなるかもしれないけど消化されるのは避けられそうね」

 

「ならそれを今すぐ」

 

「出来ないんですよ。外の印と中の印の位置を揃えないといけないから」

 

脱出出来るかもしれない可能性は確かに希望になった。だがその希望は余りにも儚い物でした……。

 

「どうやって位置を揃えるんだ?」

 

「……」

 

岡本さんの問いかけに長久さんはソッと目を逸らして、足元のパスカルを抱き上げた。

 

「わふ?」

 

「まさか……パスカルで匂いを探すとか言わないですよね?」

 

「そのまさかしか方法がない」

 

悪魔犬へと変化したパスカルの嗅覚を頼りにして外に刻んである印を探す。もしくは長久さんがこの悪魔の体内の残る変わりにヴァルハラエリアとファクトリーエリアを外に出す……長久さんにはそれしか外に出る方法が思いつかないと深刻な表情で呟いた。

 

「歩き回って探せば良いだろ! とりあえずまずは足で探す! それからだ!」

 

岡本さんがそう叫び、長久さんの手を引いて歩き出す。そう最悪を考えるよりも先ずは行動、全てはそこから考えればいい。臓物に塗れた不快感しか感じない空の下私達は外に出るための印を探す為に走り出すのだった……。

 

 

 

パスカルに匂いを辿ってもらって外に残した印の位置を探すと口で言うのは簡単だったが、それを成し遂げるのはとんでもない難行だった……。

 

「くうーん……」

 

「やっぱり難しいか?」

 

「……わふう……」

 

俺のMAGの痕跡は僅かに残っているのでパスカルはある程度は誘導出来るが正確な位置を特定するのはかなり難しいようだ。

 

「おめえ覚えてないのか? どこら辺に刻んだのかとかよ?」

 

「覚えていますよ。でも今ヴァルハラエリアは悪魔の腹の中なんですよ?」

 

自分達が今立っている道路が本当に正しい位置なのかが分からない。悪魔の体内でMAGによって位置が固定されているだけで、上下逆さまかもしれないし、左右が逆かもしれない。

 

「ああ。悪魔の体内だから正確な位置が分からないのね」

 

「その通りですよ羽田さん。どうしたものか……」

 

俺自身も最悪に備えて準備をしておいたのだ。だが事態は俺の想定していた物よりも数段酷い状況だった。

 

「長久さんが想定していたのは結界で隔離とかでしょうか?」

 

「正直な話それくらいだと思ってたよ。それか強力な悪魔を送り込んでくるとかな……」

 

臓物塗れの空と壁を見ると気が滅入ってくるが……それでもこの臓物塗れの空と壁を調べなければ脱出の糸口すらつかめない。

 

「百合子さん。この悪魔の特定とか出来たりするか?」

 

「出来たら教えてあげてるわねぇ。でも多分……あんまり賢い悪魔じゃないと思うわよ。天使の口車に乗ってしまうくらいだから」

 

それは確かにその通りだろうがと言い掛けて、にやにやと笑っている百合子に気付いた。

 

「なるほど、そういう事か。この悪魔は堕天使に属する何かってことだな?」

 

「正解。まぁ普通に考えれば分かるわよね」

 

悪魔は特定出来ていないが、大よその悪魔の系統を百合子は理解していた。天使の口車に乗ってしまった悪魔……考えられるのは基は天に属する者だったが、なんらかの原因で堕天した悪魔という線が浮上して来た訳だ。

 

「悪魔が特定出来てもそれだけじゃ外にでれねえだろうが」

 

「まぁそうなりますね。パスカル、もう良いぞ。1回ジムに戻ろう」

 

「くうん……」

 

謝るように小さく鳴くパスカルの頭を撫でる。パスカルが悪いわけではない、俺の想定が甘かったのと、天使の動きが早かったのが原因だ。

 

「どうします? 何か考えはありますか?」

 

「……目加田を探しに行こう。あいつはセンターの中枢にいた、何かこの状況を打破できる手掛かりを掴めるかも知れない」

 

一応明日もまた探しに来るつもりではあるが、パスカルの嗅覚で見つけられないのならば恐らく外の印を見つけるのは極めて困難だ。目加田にも話を聞いて、そこからまた別の方法で悪魔の体内から脱出する方法を見つけるしかない。

 

(式神とのリンクもない……リーナ達の状況も分からないが無事であることを祈るしかないな)

 

リーナ達の状況も気になるが悪魔の体内にいる俺達に出来る事などあるわけも無く、リーナ達の無事を祈りながら悪魔の体内から脱出する術を求めて目加田が潜んでいるヴァルハラエリアのダウンタウンへと足を向けるのだった……。

 

 

 

5週目の世界 偽りの千年王国 その34に続く

 

 




ヴァルハラ編のシナリオはルート分岐系です、1つはパスカルと共に、1つは目加田、そして最後は飲み込まれる前に合流して来たザインとのルートですね。ルート分岐までは流石にかけないので、こういうルートがあるよくらいな感じで書いてみようと思います。それではオリジナルのアバドン体内編がどうなっていくのか楽しみにしていてください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。