5週目の世界 偽りの千年王国 その36
MAGプレッサーとヴァルハラタウンのデビルバスターと羽田さんと岡本さんを加えたメンバーでヴァルハラタウンを飲み込んだ悪魔への再戦に挑む。
「じゃあちょっと動かず待っていてくれ」
悪魔の体内に入ってすぐの所で長久さんから待てと言われ全員その場で待機し、長久さんの動きに視線を向ける。僅かに残っている元の地面に手を当て、良く聞こえないが聞き馴染みのない言葉による呪文を唱え始める。
「長いな」
「長いですね」
「長い」
「本当に長いな」
誰もが口を揃えて長いというほどにその詠唱は長かった。もうじき5分を越えるという所でMAGの光が長久さんの手の下から溢れ出し、私達を包み込んだ。
「これで良しっと、デカジャでは無効にされないがンダ系を重ねがけされると効力が失われていくからな。そこだけ気をつけてくれ」
じゃあ行くぞと私達に声を掛けて歩き出す長久さんの後を追って早足で歩き出す。
「本当にンダ系で無効化されるんですか?」
「無効化というより効果が薄くなる。デカジャで無効にはされんが、弱体化は普通に通るからな。それはアオイ達も同じだぞ、出来れば避けるか防いでくれ。俺でもそう何度も使える術じゃないからな」
そう言って歩き出した長久さんは悪魔の体内の開けた場所で止まれと私達に声を掛けて来た。
「長久さん。こんな所に悪魔の核があるんですか?」
ザインさんが回りを見て怪訝そうな顔をする。だがその気持ちも良く分った。長久さんが足を止めたのはヴァルハラエリアの入り口が見える場所だったからだ。
「相手もこっちを監視してる。姿を消せるなら街の近くに陣取る筈だ。俺ならそうする」
確かにそういう考えた形も出来ると思うが……まさか本当にという考えがどうしても脳裏を過ぎる。
「悪くないんじゃない? 私は賛成よ。天使に唆されていう通りにする悪魔なんて馬鹿に決まってるしね」
「だろ、俺もそう思う。戦闘になるから気を引き締めておけよ」
物凄く毒を吐く長久さんと百合子さんにまさかと思いながらMAGプレッサーを起動させる長久さん。まさか街の目の前にいるはずがない……そう思っていたのだが……。
【いっ 一体何をした? わ わしの身体がーっ!!】
動揺しながら私達の目の前に脈打つ心臓のような部位が現れ、そこから慌てふためいた悪魔の声が響いて来る。
【わしの身体を実体化させるとはなッ! だがすぐに悔やむぞッ! 実体化させねば良かったとなッ! この魔王アバドンの力を見るが良いッ!】
気を取り直したのか威厳に満ちた声で話し始める悪魔……魔王アバドン。確かに魔王級の悪魔は強力だが、この間の抜けたやり取り、そして長久さんと百合子さんのいう通り間抜けと馬鹿としか思えず、気を引き締めろと言われたがどこか油断してしまっていた。だがアバドンは確かに馬鹿だったが、魔王の名に恥じない強力な悪魔であった。
【これで消し炭になるがいいッ!】
【マハラギバリオン】
マハラギダインを越える劫火が目の前に広がり、その衝撃と閃光に悲鳴を上げる事も出来ずに吹っ飛ばされ、長い間戦闘を離れていたなんて言葉で片付けられない失態を私とザインさんは犯してしまうのだった……。
マハラギダインを遥かに越える劫火にザインとアオイが吹っ飛ばされたが長久の術のお蔭で消し炭になるということは無かった。
「わふ……」
ケルベロスであり火炎吸収の特製を持つパスカルもダメージを受けている。今の術は間違いなく私達の理解を超える術だった。
「百合子さんよ。今の術は何だ? マハラギダインじゃないのか?」
「分からない、私は少なくとも知らない」
マハラギダインが最上位、マハラギバリオンなんていう術を私は知らない。
【はっははははああッ! わしは強い! 言ったであろう! 身体を出現させたことを後悔しろとなッ!!】
【アグネヤストラ】
アグネヤの矢という大層な名前の通り放たれた物質化したMAGの一撃に全身を打ち据えられる。
「くうううっ! 長久! あれは私の知ってるアバドンじゃないッ!」
「だろうなッ! パスカル来いッ!」
足を引き摺りながら寄って来たパスカルと私達に向かってソーマが振りかけられる。
「パスカル。アオイとザインを頼む。出来るだけ早く復活させてくれ」
「わん!」
ケルベロスの姿へと変身したパスカルが駆けて行くのを見送り長久と並んで立つ。
「ラスタキャンデイ行ける?」
「……焼き石に水だぞ」
「でしょうね、じゃあMAGは温存の方向で行きましょうか」
「それで行こう。後は……」
私と長久は弾かれたように走り出すとアバドンの目は私と長久を交互に追う。
【ええい! うろちょろと! 面倒なことを!】
【アギバリオン】
私目掛けて飛んできた劫火の塊を懐から取り出した魔反鏡で受け止める。本来反射される魔法だが反射しきれず防ぐだけに留まる。
「直撃してたらやばかったわね……」
アギダインの倍以上の威力と炎の密度だった。いや、そもそもダイン系を更に強化しようなんて事を考えたことも無かった。
「いつまでも調子に乗ってるんじゃないわよッ!」
【電撃ブースタ】【電撃ハイブースタ】【ジオダイン】
【ぬ、ぬおおおおおおッ!?!?】
凄まじい落雷がアバドンを貫き、アバドンが絶叫を響かせ肉が焼かれた不快な匂いが周囲に立ち込める。
「百合子さん!」
「ありがと!」
投げ渡されたチャクラドロップを噛み砕き、目の前のアバドンを見て舌打ちする。
「回復してる。魔王級だとしてもこれは異常よ」
私のジオダインは並じゃない。事実アバドンの身体は焼け焦げていた……だが今は完全に回復していることを考えると最初はMAGプレッサーの高密度のMAGが原因だと思ったが、別の要因がありそうだ。
「……近接は駄目そうだな。あれ見えるか?」
「ええ、見えたわ。でも遠距離だけじゃ削りきれないわよ」
アバドンの触手が伸び悪魔を飲み込み肉体とMAGを同時に回復させている。ただでさえ高い回復能力に悪魔喰いまでされてしまうと少し厳しい。
「こりゃ耐久戦だな」
「そう見たいね、かなり厳しいけど……」
あの火力を相手に耐久するのはかなり厳しいが、今は突破口を見出すまで耐えるしかない……そう思っていたのだが……。
【ぐわあはっははははは! これでも喰らえぃッ!】
【メギドラ】
虹色に輝くMAGの球体が天空から降り注いでくるのを見て、私と長久は咄嗟に頭を庇って地面を転がった。
「……耐久も無理そうね」
「ですね。さてどうしたものか……」
長久の術によって致命傷は避けれたがメギド系を連発されるのは正直かなり厳しい。しかも相手が馬鹿なアバドンでバカスカ魔法を乱射してくるのも相まって私の額から大粒の汗が流れ落ちるのだった……。
俺がアバドンと戦う為に使ったのは峰津院の術……即ち龍脈を用いた術だ。並みの補助魔法など置き去りにする強化に耐性と魔王級相手でも戦えると思っていた。
「くっ!」
近くで炸裂したアギバリオンの余波に思わず顔を歪める。炎吸収のパスカルもダメージを受ける劫火であり、俺が付与した耐性なんて簡単に貫通してくる。
「援護します!」
【氷結ブースタ】【氷結ハイブースタ】【ブフダイン】
アオイの放ったブフダインによってアギバリオンの熱が僅かに下がり、発生した蒸気でアバドンが俺を見失った内に1度後退する。
「アオイ助かった」
「いえ、私が油断した所為で戦況が崩れたのですからこれくらい」
開幕のマハラギバリオンのせいでダウンしていたアオイが謝ってくるが、あれほどの火力は俺も想定していなかった。
「いや、俺も油断していた。ダイン位なら耐えれると思ってたんだ」
ダインクラスの魔法なら龍脈を利用した耐性で十分耐えれる計算だった。だがバリオンは俺の想定を超える火力と威力だった。リリスである百合子さんが知らない魔法となると対策など立てれるわけが無かった。
【貴様らを喰らってやるぞッ!】
【喰らいつき】
「飛べッ!!!」
地面をMAGの気配が走ってくるのを感知して飛べと俺は反射的に叫んでいた。俺の言葉に従がい百合子さん達が地面を蹴って跳躍した瞬間アバドンの巨大な口が俺達の足元を通過する。
「今のは危なかったな。しかし、これでますます戦いにくくなったな」
接近戦を仕掛けたいが複数の口を召喚出来るのを目の当たりにすれば下手に近づけば背後や足から喰らいつかれて終わりだ。
「ですが魔法だけでは火力が足りません。リスクは承知で突っ込むしか」
「相手の回復力を上回れないと無駄死にになるぞ、ザイン」
魔法と白兵戦によるダメージがアバドンの回復力を上回らなければ攻撃を仕掛けても意味がない。
【いい加減に消し炭になれッ!】
【マハラギバリオン】
「パスカル!」
「アオーンッ!」
【火炎ブースタ】【火炎ハイブースタ】【マハラギダイン】
パスカルの吐きだした炎がマハラギバリオンとぶつかり合う。完全に威力を軽減することは出来なかったが身を固めれば十分に耐えれる威力にまでダメージを軽減する事が出来た。
「体勢を立て直してください!」
【メディラマ】
アオイの両手から溢れたMAGの光が俺達を包み込み火傷が回復するが、それに一息ついてる間は無かった。
「長久!」
「分ってるッ!」
百合子さんがテトラカーン唱えるのと俺が物反鏡を投げると同時にアバドンが咆哮を上げた。
【いい加減に消え失せろおおおおおッ!!】
【チャージ】【アグネヤストラ】
アバドンから放たれたMAGの塊を見て俺は自分のミスを悟った。確かにテトラカーンは物理を跳ね返せるのは事実だ。だが物理貫通などがあればその限りでは無いが、基本的には物理を全て反射出来る。そう「基本的」にはだ。余りにも威力がありすぎればMAGで作り出された鏡が破壊され反射が出来なくなる。そしてアバドンの使ったアグネヤストラという技は俺も知らない技であり、チャージによってその破壊力を倍増させた攻撃はテトラカーンでは防げない代物だった。ピシピシとMAGの鏡に皹が入る音が周囲に響き渡る。
「身を固めろぉッ!!」
避けることは不可能だと悟り、せめて致命傷だけは防げるようにと身を固めろと叫んだ瞬間にMAGの隕石が炸裂し、そこから放たれた凄まじい衝撃は龍脈で強化し、その上で守りを固めても防ぎ切れる物ではなく……更に爆心地に近かった俺は呻き声を上げる事も出来ずに吹っ飛ばされ、背中から何かにぶつかり意識を失ったのだが……。
「まさか君がここに来るとは……君は招かれざる客だが拒むというのも失礼だな。ようこそベルベットルームへ」
気がついたら俺の目の前にはパピヨンマスクを付けた黒タイツの男が酷く不快そうな顔で俺の目の前に立っていて……。
「変態がいる!?」
全身タイツ、そしてパピヨンマスク姿に俺は動揺を隠しきれず変態がいると叫んでしまった。
「君は失礼だな」
そして俺とパピヨンマスク……フィレモンとの初邂逅はとんでもなく険悪な物となるのだった。
5週目の世界 偽りの千年王国 その37へ続く
5週目でペルソナ要素してパピヨンマスクと遭遇、アグネヤストラの直撃で臨死体験したのでベルベットルーム入りしました。
まだ死ぬ時ではないのでペルソナを認識している事でベルベットルーム入りです。これでペルソナの制御レベルが少し上がるかもしれません……それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。