収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

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5週目の世界 偽りの千年王国 その37

 

5週目の世界 偽りの千年王国 その37

 

気がついたら変な部屋で黒タイツ、パピヨンマスクの男と対面していた俺は混乱していた。

 

(変態!? 変態がいるぞ!?)

 

「変態だッ!?」

 

アバドンとの戦いとか、何故ここにいるのかというよりも変態に思考が奪われていた。ついでにいうと考えている事と頭の中も完全に変態で合致していたからか、考えるだけではなく口にもしてしまっていた。

 

「君は失礼だな」

 

パピヨンマスクの変態が気を害したようだが、誰がどう見ても変態に変態と言って何が悪いのかと思う。

 

「……まぁ良い。君は招かれざる客だ。このベルベットルームに来て欲しくは無かった」

 

今すぐにも帰って貰いたい位だと吐き捨てた男はフィレモンと名乗った。

 

「君は自分の名前を名乗れるか?」

 

「道睦長久だ」

 

何を言ってると思いながら自分の名前を即答するとフィレモンは小さく溜息を吐いた。

 

「素質はあるか……でなければここには来れないか……戻りたまえ、そしてもう2度と来るな」

 

お前には会いたくないと視線で物語る変態にそれはこっちも同じだと思っていると俺の意識は急速に浮上していき……目を開くと手の中に奇妙なカードが納まっていた。

 

「ペルソナァッ!!」

 

反射的に、いや衝動的にとでも言うべきか俺はペルソナと叫びながらカードを握り潰していた。

 

「……どこかで……いや、今は力を貸してくれ」

 

王冠を被った青い影はどこかで見たような気がする。だが今はそれを考えている場合ではないと分っていた。

 

「行けッ!!」

 

【氷結ブースタ】【氷結ハイブースタ】【ブフダイン】

 

今まで感じたこともない強烈な冷気を感じたと思った次の瞬間目の前で脈打っていたアバドンが氷柱の中へ閉じ込められた。

 

「すげ……うっ!?」

 

その凄まじい威力に驚いていると凄まじい胸の痛みに胸を押さえて蹲る。今まで感じたことのない強烈な痛みだった、何が起きているのかわからず、必死に呼吸をしようとするが、いくら呼吸をしようとしても酸素が入ってこない。

 

「馬鹿! 一瞬しか使ったら駄目だって言ったでしょう! ペルソナを戻しなさいッ!」

 

百合子さんの怒号が聞こえ、心の中で戻れと呟くと王冠を被った青い影は粒子となって消え、胸の痛みと息苦しさが消えた。

 

「ぜぇ……ぜぇ……い、今のは」

 

「ペルソナに力を吸い取られすぎたのよ。一瞬しか駄目って何度も言ったでしょう」

 

「……俺はペルソナを使ったのか……?」

 

ペルソナが一瞬しか使ってはいけないと言われていたし、俺自身もペルソナを使うのはアバドンを追詰めた時に一瞬だけ使うつもりだった。

 

「長久。貴方何を言ってるの?」

 

「……分からない、記憶がハッキリしない……」

 

ペルソナを使った記憶もない、誰かに何かを頼んだようなことは覚えてるがそれもぼんやりとしている。

 

【グググ……おのれぇッ!! 消し炭になれッ!】

 

【アギバリオン】

 

ぼんやりとしている俺と俺を正気に戻そうとしている百合子さんに向かってアギバリオンが放たれようとした瞬間だった……背筋が凍るような強烈な殺気そして……今まで聞いたことのない死神の足音を……。

 

(いや、知ってる……この足音を……俺は知ってるッ)

 

この足音は俺に死を伝える死神ではない、この足音は……この気配はッ!

 

「撤退だぁッ! ヴァルハラエリアに戻れぇッ!!!」

 

俺は喉が張り裂けんばかりに叫んだが……遅かった。いやある意味間に合ったのかもしれない……。

 

【逃げても構わんよ、お前以外はな。そして失せろ、汚らしい俗物め】

 

【血のアンダルシア】

 

紅い16条の閃光がアバドンを一瞬で細切れにしMAGの粒子と変え、紅いカポーテを翻しながらサーベルを片手に、腰に日本刀を下げた骸骨が俺達の前に舞い降りる。

 

「マタドールッ!」

 

【久しいなニーニャ。前よりも精悍な顔付きになったじゃないか】

 

骸骨の癖ににこやかな笑みを浮かべながらマタドールはサーベルの切っ先を俺に向けた。

 

【あの時の続きだ。私は戦いが好きだが、ニーニャとの戦い以降心踊る事が無くてな。再び心踊る戦いをするためにこの場に馳せ参じたわけだ】

 

来るな馬鹿野郎と本気で思ったが、マタドールは好戦的な笑みを浮かべ俺だけを見ており、逃げる事は出来そうにないと悟り俺も赤口葛葉を抜き放ち、マタドールと対峙するのだった……。

 

 

 

アバドンとの戦いの中に割り込んできた魔人マタドールに私は目を見開いた。それは私が翔子さん達と旅をしていて時に長久さんを殺した悪魔だったからだ。

 

【行くぞッ!!】

 

【赤のカポーテ】

 

カポーテを振るうと同時にマタドールが凄まじい速度で切り込んでくる。それを長久さんは受け止めるのではなく、刀身を使って受け流す。

 

「はぁッ!」

 

【はっはぁ! 良いぞッ! 良いぞッ!!】

 

受け止めていたら両断されていたであろう一撃を受け流されたことをマタドールは楽しそうに笑い、腰の刀を逆手で抜き放ち長久さんの胴を切り払おうとする。

 

「舐めんなッ!!」

 

靴の裏で受け止め、刀身を地面に向かって踏みつける。

 

【む? 何故切れん?】

 

「刀の構造もしらねえのか素人ッ!」

 

長久さんの拳がマタドールの顔面を穿ち、マタドールは数歩後ずさる。

 

【これでも私はこの刀で何体もの悪魔を切り倒してきたのだがな】

 

「力任せに切り倒してきただけだろ? 刀身がボロボロじゃねえか」

 

長久さんの言葉を聞いて我に帰った私は支援に入ろうとするが私の肩を百合子さんが掴んで止めた。

 

「止めておきなさい、ここで割り込んだら長久は死ぬわ」

 

「どういう事ですか……」

 

「あいつは長久と戦いに来た、割り込んだらかえって長久を危険に晒すわ」

 

助けに行くことを禁じられた私とザインさんは見ていることしか出来なかった。

 

「くううん……」

 

パスカルも飛び掛って行きたそうにしているが、それをしたらかえって長久さんを危険に晒すと分かっているからか飛び出そうとしては、堪えるようにする素振りを繰り返していた。私達の目では閃光にしか見えないやり取りが数秒……数分……長いのか、短いのか良く分からない攻防が続いている。割り込むことも、近づく事も出来ない神速の戦いを私達はただ呆然と見ていることしか出来なかった。

 

 

 

魔人……それは絶対の死の象徴。遭遇すれば避けられない死を受け入れるしかないとまで言われる凶悪な悪魔……そんな魔人の1柱と長久さんは斬り結んでいた。

 

「シッ!」

 

【はっは! やるなッ!!】

 

【ザンダイン】

 

サーベルの柄で赤口葛葉の切っ先を受け流し、カポーテを振るうマタドール。それと同時に凄まじい風が長久さんとマタドールの間に作り出された。

 

「くそっ!」

 

頭を抱えて長久さんが転がって回避し、マタドールも地面を蹴って長久さんとの距離を取る。

 

「させるかッ!」

 

銃の発砲音が響き、放たれたMAGの塊がマタドールを捉えるとマタドールの動きがガクンと鈍った。

 

「貰ったッ!!」

 

【ちいっ!!】

 

MAGの塊が斧の形になり、斧による袈裟切りがマタドールを捉えた……そう思ったのだが、マタドールは紙一重でかわし、再びカポーテを振るうと鈍くなった動きが元に戻った。

 

【……デカジャをMAGに込めて打ち出したか、器用なことだ】

 

「てめえのその動きがどれだけ厄介かってことはこれでもかって知ってるんでな」

 

マタドールと長久さんが油断無く互いを警戒しながらサーベルと赤口葛葉の切っ先を向け合っている。

 

「……これが人間の戦いですか……」

 

私の理解を完全に超えている。魔人と戦える人間が存在するとは私は夢にも思っていなかった。

 

【行くぞ!】

 

「とっとと帰れよ! マタドールッ!!」

 

互いの立ち位置が目まぐるしく変わり、剣での激しい剣戟の嵐、そして魔法まで織り交ぜた超高速の戦いだ。

 

「何か私達に出来る事はないのか……何か、何か長久さんの手伝いは出来ないのですか」

 

「止めておきなさい、今下手に長久に手を貸せば流れが変わる。何か大きく動きが変わるまで備えてなさい」

 

百合子さんに睨まれ、何も出来ないことに奥歯を噛み締め、拳を強く握り締める。

 

(マタドールには今は勝てない、隙を見て一気に離脱するから備えてなさい、タイミングを見誤れば全員死ぬわよ)

 

タイミングがずれたら皆死ぬと言われ、全集中を集中させて離脱するタイミングを図っていると戦況が大きく動いた。

 

「ペルソナァッ!!」

 

何度目かの剣のぶつかり合いの中で長久さんがそう叫ぶと、青い影が長久さんの背後に揺らめいた。それは巨大で強力な悪魔だと誤認するほどに強力な何かだった。

 

【驚いた……こんな事が出来たのか! 良いぞ! 良いぞもっと戦いを楽しも……これはッ!!】

 

ペルソナとやらを見て興奮した面持ちだったマタドールだが、突然その動きを止め私達も思わず自分で自分で抱きしめていた。

 

「寒い……」

 

「どうもここが離脱所ね、スクカジャの準備」

 

「は、はい……」

 

身体が震え、吐く息さえも白い……その異常な冷気が長久さんがペルソナというものを呼んだ事が理由だとすぐに分かった。

 

「悪いが逃げさせてもらうぜ、マタドール」

 

【氷結ブースタ】【氷結ハイブースタ】【ニブルヘイム】

 

【ああ、それで構わない。どうも気が逸った様だ。今度はお前は万全の時に来るとしよう】

 

マタドールはゆっくりと氷棺の中へ閉じ込められていった。

 

「走れ! アバドンが消滅したからこの空間も消える! ヴァルハラエリアに戻れないと俺達も消滅するぞ!」

 

長久さんがそう叫んで走り出すと遠くのほうでMAGの粒子が舞っているのが見え、私達も血相を変えて走り出した。

 

「間に合いますか!?」

 

「俺が知るか! 死にたくなければ走れッ!!」

 

遠くのほうで氷が砕ける音を聞きながら私達は消滅していくアバドンの体内から脱出する為に必死に走り続けるのだった……。

 

 

 

双眼鏡でヴァルハラエリアの跡地を観察していた私は地響きと共に元の世界に戻ってくるヴァルハラエリアを見て思わず笑みを浮かべた。

 

「流石は我が王。アバドンと魔人を一蹴しましたか。素晴しい! エクセレントッ!!!」

 

子供の時でもあれほどに強かったのだ。今の成人した姿の我が王ならばもっと強いのは当然の理屈だ。

 

「さてさてさて……どうしたものか」

 

センターの連中はライトニング号のエネルギーを用いて人造神霊を作っている。我が王に害なす存在になるのは確実だが、センターにはそれ相応の金を貰っているので取り引き相手としてこちらも誠実な対応をしている。

 

(まぁこれは我が王への反逆ではないから怒りを買うことはないでしょう)

 

ちゃんと我が王へ相応しい女を見繕ったし、直接的に害をなしていないから許されるだろう。

 

「我が王の女も無事戻って来ておりますし……まぁ今回はこれ位で1度身を引くとしましょう」

 

もう少し我が王の勇姿を見ていたいが、今は取引相手である元老院と痛くもない腹を探られるのは面白くない。

 

(姿を隠す能力に秀でた部下はつけていますし、今回の事で元老院も大きな打撃を受けたから暫くは動かないでしょうしね)

 

アバドンを呼び出すのにかなりの数のテンプルナイトを生贄にしていますし、それ相応の道具も使っているので元老院……いや、セラフ達も思うようには動けないはずでしょうし……1度センターで暫く腰を落ち着けてセラフの動きを見て、それを元にどう動くか決めるとしよう。

 

「……ダレスはもう良いですか」

 

ダレスは十分にもう役目を果してくれた。我が王の威光に触れれば命じなくてもダレスは我が王の配下になって当然。だから勝手に我が王について行っても裏切りでもなんでもない、むしろそうあって当然であると私は思っている。

 

「我が王がこれからどう動くのか楽しみですね」

 

アバドンと魔人を退けた我が王はどう動くのか、それが楽しみですねと呟きながらヴァルハラエリアに駆けて来るリーナ達の姿を見て、見つかる訳には行かない私は踵を返した。そして次に私が王の動向を聞いたのは3週間後……。

 

「地底に封じられた神を連れて戻って来た!? はっ! はっはははははは!!! 流石は我が王だッ!! はっはははははははッ!」

 

元老院とセラフが策謀を張り巡らせて地下に封じていた神々を連れて帰還したと聞き、お前らが侮った我が王の力を見たかと心の底から笑っていたのだが……。

 

「大佐。セラフがお話があると使いを出しておりますが……」

 

「……分った」

 

あの馬鹿な鳥と顔を見合わせないといけないことに酷く気落ちした気持ちで、セラフが待っている金の無駄遣いとしか思えない教会へと足を向けるのだった……。

 

 

5週目の世界 偽りの千年王国 その38へ続く

 

 

 

 

 




アバドンに続いてマタドールが現れましたが、イベントの連続バトルですね。次回はリーナ達と合流し、情報交換などをしてから地下へ向かって行こうと思います。ここら辺はかなりオリジナル要素を強めにしてみようと思いますのでどうなるのか楽しみにしていてください。
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