収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

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5週目の世界 偽りの千年王国 その38

 

5週目の世界 偽りの千年王国 その38

 

アバドンを撃破し、マタドールをニブルヘイムで作り出した氷の棺に閉じ込めて命からがらヴァルハラエリアに戻って来た訳だが……俺達には休んでいる時間は無かった。

 

「おい、長久。止めろ」

 

「なんで俺に言うんですか岡本さん。俺怪我人ですよ」

 

「全然平気そうだけど何処を怪我してるの?」

 

「両手首の骨は多分砕けてますね。あと肋骨と……右手の指は全部折れてると思いますけど……あ、後足は皹くらいですかね」

 

羽田さんの問いかけに返事をすると岡本さんと羽田さんは重傷が過ぎるぞと叫ばれたが、魔人に遭遇してこの程度で済めば御の字だ……と現実逃避もこれくらいにしておこうと思う。

 

「なぁ、リーナもダレスも止めないか?」

 

「「ふみゃもにゃもがもはーッ!!」」

 

互いの頬を引っ張りあいながら転がっているリーナとダレスの返事に軽い頭痛を覚える。

 

「あんたのせいだぞ、目加田」

 

「すまないと思っている……だがもめるのもどうかと思ったのだ。姉妹なのだから出来れば仲良くして欲しいと思ったんだ」

 

リーナとダレスは姉妹と目加田が余計な事を伝えた所為でリーナとダレスはこうして取っ組み合いをしている。

 

「喧嘩してたのか?」

 

「いや。多少口論はしていたが、喧嘩するほどではなかったぞ」

 

「ええ、結構相性も良かったですしね」

 

ヒロコの救出をしている間は仲良くしていたわけではないが、揉めてはいなかったらしい。リーナとダレスが喧嘩している理由は……。

 

「あんたが余計なことを言ったからだな」

 

「……すまないと思ってる」

 

目加田が余計な事を言って火種を作ったのが原因な訳だ。

 

「……ちょっと外で喧嘩して来い。2人ともやりすぎるなよ」

 

「「ひゃいっ!!」」

 

「……悪い、ミズキとベスで見ておいてくれ。2人がヒートアップして来たら止めてくれ」

 

本当は俺が見ているべきだと思うが、今の俺ではリーナもダレスも止めれないので、ミズキとベスに頼んでリーナとダレスの喧嘩を止めてくれと頼みジムの外に出て行く4人を見送る。

 

【良いのかね? 長久君】

 

「1回優劣つけたほうが良いでしょう。このままダレスが俺達に同行するならね」

 

ダレスはヒロコを救出するまでという話だったが、このまま同行してもいいと言い出した。センターに帰っても居場所はないしこっちにいるほうが楽しい、それに何よりも……。

 

【私との約束だからね!】

 

ダレスと契約したナジャという悪魔との約束で何が正しくて、何が間違っているのか、そして自分で物を考えるという約束をしたからだそうだが、盲目的にリーナを敵視し、俺に執着しているよりもずっと良い筈だ。

 

「ひんにゅうううううッ!!!」

 

「黙れちびいいいッ!!!」

 

「「ふっしゃああああああああッ!!」」

 

ジムの外から聞こえて来るリーナとダレスの怒号に頭痛が酷くなった気がするが、それを気のせいだと思う事にしゴトウさん達に俺は視線を向けた。

 

「それじゃあゴトウさんとナジャ。地下について聞かせてくれよ、俺達のこれからの方針を決める為にさ……あとはそこまで地下に向かおうという理由も聞かせて欲しい」

 

地上世界で出来る事はほぼやりつくした。あとは地下に赴き封印されている神の解放とセンターと戦う為の準備を整える事と金剛神界へ再び足を踏み込む為にも地下を知り尽くしているゴトウとナジャに地下がどうなっているのか教えてくれと俺は頭を下げるのだった……。

 

 

 

 

地下世界に向かうという方針に長久君は文句自体は無い様だ。だがその変わりに何故そこまで地下世界に拘るのかに疑問を抱いていたようだ。

 

【まずだが我々には大きく分けて2つの目的地がある。1つは地下、もう1つは魔界だ】

 

言うまでも無く魔界の悪魔は天使のやり方に不満を抱いているので天使と戦うのならばある程度は協力してくれる可能性が高い。

 

「その後に戦う可能性は考えてないのか?」

 

【勿論考えている。だが敵の敵は味方というだろう? それに人造神霊製造装置……偽霊であっても最上位の悪魔が出てくる。それはかつての私の記憶にもある。特にエロヒム……あいつの炎は極めて強力だ。ヴァルハラエリアを消し飛ばすなど訳にないほどにな」

 

火力の高いエロヒム、高い生存能力にこちらの攻め手を妨害するシャダイ、魔法攻撃を強化しつつ、こちらを弱体化させるツァバト……その誰もが強力な悪魔だ。正直に言えば今の戦力でセンターに仕掛けても戦いにならず蹂躙されるだけというのが私の意見だ。

 

「特にシャダイが私は苦手ですね。攻めているのに勢いに乗れませんから」

 

【それも恐らくシャダイの能力の可能性が高いだろう。それだけ強力な悪魔だ。作るにもそれ相応のコストが必要だと思うが、元老院はそれを作れる土台を有している。故にまずは地下にいるミュータントに協力を求める】

 

「ミュータントっていうのはなんだ? 悪魔の亜種か?」

 

この面子の中でミュータントを知らない長久君がミュータントはなにかと尋ねてくる。

 

【簡単に言うと高濃度のMAGに当てられて変異した人類だよ。異形になって強力な能力も持ってる。ある意味では進化した人類とも言えるね、でもセンターはそれを認めずに地下に封じ込めたの、臭い物には蓋って奴ね】

 

ナジャの説明に長久君はなるほどと頷き、その上でもう1度質問を口にした。

 

「先に魔界に行くのもあり何じゃないのか? ミュータントが友好的とは限らない、特に俺達が行くのはリスクが高いんじゃないのか?」

 

確かにそう考えることも出来るが、それを加味した上で我々は地下に向かう作戦を立てている。その事を長久君に説明する必要があった。

 

【まずだが、地下にはミュータントだけではなく天津神などのセンターに反抗した神も封印されているのは話しただろう?】

 

「勿論覚えている。だが天津神が味方ともいえないだろう?」

 

【それはその通りだが、地下にはセンターでは扱いきれない物も封じられている。例えば……葛葉の遺産もな】

 

葛葉の遺産と聞いて長久君は漸く納得した様子だった。

 

「そういうことは最初に聞かせて欲しいもんだな」

 

【遠目で確認しただけで我々が確認した訳ではないのだよ。近づけばそれを守っている悪魔に攻撃されるからな】

 

葛葉が使役した強力な悪魔が守っているので近づくのも危険だ。遠目で葛葉の家紋を確認しただけだが、間違いなくあの悪魔が守っている何かがあると我々は考えている。

 

「準備を整え次第地下に向かうとして……岡本さん達には防衛を固めてもらうことになりそうですね」

 

「お、俺達ですか? マダム」

 

「他にいませんしね。長久さんの結界もありますし、最悪は避けられるでしょう。貴方達はヴァルハラエリアの防衛を行ない、我々の帰る場所を確保してもらいますし、ドッペルゲンガーに長久さんの姿を模倣して貰ってヴァルハラエリアに残っているように思わせますのでせめて来る事はないと思いますしね」

 

長久君達がいない間は岡本達に守ってもらうとして……後の問題は1つ。

 

【百合子さん。貴女の口引きで魔界の悪魔は引いてくれるだろうか?】

 

魔界の重鎮の1人である百合子さんが魔界での抑止力になるのかと尋ねる。だが返答は私の求める物ではなかった。

 

「私は大分前に魔界を出てるから発言力なんて無いに等しいわよ。昔の知り合いになら顔は通ると思うけど、そこまでは期待しないで」

 

【そうか、いや、一応の確認だから気にしないで欲しい。私は君達を無事に地下まで届ける。その後は地下の私に任せるが、それで良いかね?】

 

「問題も文句もない、よろしく頼むよ。ゴトウさん」

 

私の役目ももうじき終わり、寂しい気もするが何よりも優先すべきは元老院の撃破と人造神霊製造装置の破壊……それを可能になるレベルまで長久君達を鍛え上げる。その役目が無事に終わることに安堵したが、やはり安堵と同時に最後まで共に戦いたいと思わずにはいられなかった……。

 

「……勝ったから私が姉」

 

「……くそう……」

 

ズタボロでジムに帰ってきたリーナ君達には苦笑したが、長久君が1人で重荷を背負っている訳ではなく、翔子君達の変わりに共に歩いてくれる仲間達がいてくれる限り最悪の事態になる事はないと改めて長久君の回りに大勢の人間がいてくれることに安心し、きっと今の彼ならば地下にあるかつての思い出と対面しても取り乱す事はなく、過去と対面することが出来る。私はそう確信するのだった……。

 

 

 

 

地上とも魔界とも違う清涼な空気に満たされた空間の中で白い導服に身を包み座禅を組んでいた男がゆっくりと目を開いた。

 

【……時が来たか】

 

【そのようです、役小角様】

 

【出迎えの準備を致しましょうか?】

 

2体の鬼……前鬼、後鬼の言葉に役小角は首を左右に振った。

 

【いずれこの地に訪れるだろうがまだその時ではない、それに出迎えなど不要だ。あやつの運命は複雑に入り乱れておる、その時が来れば自然とこの地に訪れるだろうよ】

 

前鬼と後鬼に下がるように命じ、役小角は再び座禅を組み瞑想を始める。

 

(焦る事はない、あやつは誰に命じられるでもなく、自らの意志でこの地に訪れる)

 

将門公の威光と共に運命に囚われ、死ぬ事も出来ず彷徨い続けるあの青年は再び私の前へと立つだろう。

 

(楽しみだ。どれほど成長したのか、それをこの目で見るのが実に楽しみだ)

 

前は力を授けることが出来なかった。前に出会った時は余りにも幼く、力を受け入れるだけの器が出来ていなかったが……再び合うあの青年はどれだけ力をつけているのかが楽しみでしょうがない。

 

【時は誰にも等しく平等に流れる……ならばそれを待つのも一興よ】

 

望もうが、望まなかろうが時は等しく皆平等に流れる。そしてその流れる時の中で道半ばで力尽きるとしてもそれもまた運命。その運命を乗り越えてこの地に訪れるのか、それともまたの生でこの地に訪れるのか…。

 

【いかんな修行に身が入らん……まだまだ人の子か……】

 

もう1度あの青年に会えると思うと修行に集中出来ない自分に気付き、思わず苦笑してしまうのだった……。

 

 

 

 

 

5週目の世界 偽りの千年王国 その39 へ続く

 

 




地下はほとんどオリジナルで行こうと思います。役小角も出しますし、天津神も国津神もガンガン出して行こうと思います。かなりオリジナル要素が強くなると思いますが、楽しんでいただけるように頑張りますので次回の更新もどうかよろしくお願いします。



それと今回の更新を持ちまして収束×集束×終息する世界は未完とさせていただきます。詳しくは活動報告に書きたいと思います。

今まで本作の応援まことにありがとうございました。
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