収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

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3周目の世界 3人の救世主 その1

 

3周目の世界 3人の救世主 その1

 

本当に大丈夫かと、お母さんを呼ぼうか? と繰り返し尋ねてくる翔子に大丈夫だと言って記憶の中の家へと帰ってきたのだが……。

 

「隣の家かよ……」

 

翔子はまさかのお隣さんだった……何かあったら電話してといって隣の家に入って行ったのには驚かされた。

 

「ふう……前よりは楽か」

 

大正時代で目覚めた時よりも頭痛はずっと軽いが、頭の中心が痛む度に記憶が消え……いや、これは上書きとでも言うのだろうか、暮らしていた里の記憶が消え、代わりに小学校、中学校、高校、大学と俺が知らない学生時代の思い出や記憶が次々と植えつけられていく……。

 

「……これが因果の鎖とかいう奴の影響なのかよ」

 

死んでも死ねない、別の時代、別の場所で目覚める――別の長久の記憶を得て、その時代でも生きれるだけの知識、友人関係、知りもしない思い出を無理矢理与えられる――それは言いようのない不快感と痛みを伴う現象だった。

 

「ああ……くそ……」

 

怒りに身を任せ柱を殴りつけた所為で柱に掛けられていた壁掛け時計が落下する。ガラスが砕け凄まじい音を響かせるが……「この家」の住人は姿を見せない。

 

「……好都合って言えば良いのかわからねえな」

 

この時代の俺の家族は今海外旅行に行っている。では何故俺が日本に留まっているかと言うとインフルエンザと食中毒のWパンチで日本に残る事になったからだ。正直に言えばこの時代での父と母がいないのは都合が良かった、今はぼんやりとしか思い出せないが里での記憶がまだ残ってる――父と母と認識はしているが、里での両親の方が俺にとっては父さんと母さんと言う認識が強く、どうしても両親とは思えなかったからだ。

 

「長にい!? 凄い音したけど大丈夫ッ!?」

 

ドンドンと扉が叩かれる音と翔子の焦った声がし、そんなに大きな音を立てたか? と目の前に落ちている時計の残骸を良く見ると鳩の人形が転がっていた。

 

「そりゃ外まで響くわな」

 

壁掛けの鳩時計が落ちれば外にまで響くのは道理だなと苦笑しながら家の扉を開ける。

 

「ああ、良かった。倒れてるかと思ってお母さんに頼んで合鍵借りようかって思ってたんだ」

 

合鍵持ってるのかよ……俺と翔子ってどんな関係なんだ? と思っていると俺の後ろを歩いていた着物姿の少女の姿が消えてランドセルを背負った翔子の姿へと変わる。

 

「酷い顔色だよ? 本当に大丈夫? 救急車呼ぼうか? インフルエンザと食中毒って聞いてたけど……ぶり返したんじゃ?」

 

「いや、大丈夫だ。少し足を滑らせて時計を落としただけだから……」

 

大事だった少女が別の人間に変わり、記憶が書き換えられる。片親の翔子の母親と父と母が仲が良くて、歳の離れた幼馴染の翔子とも仲が良くて、兄妹同然に育った。家がお隣さんと言う事もあって俺が大学生になり、翔子が高校生になってもその親密な関係だったようだ。

 

「時計……あーあ、よっぽど勢いよく滑ったんだね。片付けるの手伝うよ」

 

「いや、大丈夫だから……」

 

「そんな酷い顔で何言ってるの! ほら、行った行ったッ!!」

 

背中を押されてリビングに押し込まれた……見た目よりも翔子は遥かに活発で活動的だったようだ。

 

「すぐ片付けてご飯の準備するから、普通にご飯食べれる? 無理ならうどんとかおじやとか作るけど?」

 

……本当に兄妹同然に育った幼馴染だよな? 箒や塵取り、ゴミ袋を当然のように引っ張り出して掃除の準備をしながら何を食べる? と尋ねてくる翔子はどう見ても彼女のような距離感で正直困惑を隠しきれなかった。

 

「やっぱり調子悪い? うどん炊こうか?」

 

「……うどんか、うん。うどんにするわ」

 

正直頭痛が酷くて肉や魚って気分じゃないし、うどんで身体を温めて薬を飲んで寝たいと思いうどんが良いと返事を返し、リビングのソファーに背中を預けて思わず溜め息を吐いた。

 

(……もう誰かも思い出せねぇ)

 

大事だった……好きだった。それなのにもうその少女の顔すら思い出せず、そしてその少女に向けていた感情を翔子に向け始めていた。思い出せない少女の代わりとして翔子を見ているような気がして……酷く自分が浅ましいように思えてならなかった。

 

「今から作るからね、あ、どうせなら卵を落として月見にしよっかッ! 長にい」

 

邪気も警戒心も感じさせず、天真爛漫と言う様子で声を掛けてくる翔子から感じる純粋な好意が眩しくて思わず翔子から視線を逸らすのだった。

 

 

「……大正時代の次は平成か」

 

俺が今は何年にいるのかという事を調べる為に朝早くから起きて新聞やインターネットに本にテレビを片っ端から調べ、今が平成であるということ、そして東京の吉祥寺であるという事までは分かった。

 

「……少し自分の目で確かめてみるか」

 

バターを塗っただけのトーストを頬張りコーヒーを口にする。俺の知る東京と何が違うのか、同じ所はあるのかこの目で確かめてみるのも悪くない。

 

「足はあるしな」

 

どうも大学生の俺は相当活発な性格だったようで、野球のグローブやバットにボールに加えて、モデルガンや迷彩柄のコートの中にバイクのヘルメットのバイクの横で翔子と記念撮影している写真を見つけ、バイクの免許があるなら東京を見て回りたいし、他にも確かめたい事もある。食べ終わった朝食の皿を流しに入れてバイクのヘルメットとグローブ、そして免許証を入れた財布と鍵を持って家を出ようとすると外から翔子の俺を呼ぶ声が響いて来た。

 

「朝っぱらからどうしたんだ翔子」

 

「ね、寝過ごしたのッ!! 学校まで送って長にいッ!」

 

鬼気迫る表情で送ってくれと言う翔子に俺は思わず天を仰いだ。確かにバイクの免許はあるし、交通法規も覚えている。だが大学生の「長久」と輪廻の鎖に囚われた「長久」は別人で、バイクを乗りこなせるか不安しかないのに送ってくれと頼まれれば不安しかなかった。

 

「お願いッ!」

 

「分かった。分かったからッ! ほら、ヘルメット」

 

「ありがとー長にいッ!」

 

不安しかないが、ここで無理と言うと翔子に疑われるかもしれないと予備のヘルメットを投げ渡し、俺はガレージからバイクを引っ張り出して翔子を後ろに乗せて高校へ向かってバイクを走らせることになるのだった……。

 

 

 

 

幼い頃にお父さんを亡くした私にとって身近な異性は隣の家の住んでいる3歳年上の長にいだった。私は覚えてないけど幼稚園の時から私は長にい、長にいとついて回っていたとお母さんから聞かされていた。そんな子供の時からと思うと恥ずかしさもあるが、長にいは私にとってとても頼りになる異性であり、何があっても私の味方と断言出来るほどに信頼している相手でもある。

 

「今度は寝坊するなよ。何時も送ってやれるわけじゃないからな」

 

「分かってるッ! ありがとーッ!!」

 

今朝も寝過ごして電車を逃した私を学校まで送ってくれた長にいにありがとうと叫んで、私は鞄を肩から下げて教室に向かって走り出した。

 

「セーフッ! 痛いッ!?」

 

予鈴が鳴る前に教室に滑り込む事が出来て思わずセーフと叫んだ次の瞬間に頭に衝撃が走り思わず痛いと叫び、私の頭を叩いた人物に恨めしい視線を向ける。

 

「葵……なんで叩くのよ、遅刻してないよ?」

 

「このお馬鹿ッ!!! 朝から長久さんに迷惑をかけてどうするのよ」

 

長にいと同じ私の小学生からの幼馴染の葵が呆れたというジェスチャーをし、朝から何をしてるのよと私に叱り付けてくる。

 

「う……でも、長にいも出掛けようとしてたよ?」

 

「それ大学に行くつもりだったんじゃないの?」

 

「はっ……!? あ、でも長にい、インフルエンザと食中毒で病院に行くって「病院に行くって言ってる病人にバイク運転させてどうするのよ、このお馬鹿ッ!!」痛いッ!?」

 

今度は平手じゃなくて空手チョップが頭に叩き込まれ、思わず頭を抑えて蹲った。

 

「ううう……あんまり叩かれたら馬鹿になるよお……」

 

「元々あんたは馬鹿よ。翔子」

 

「酷くない!?」

 

幼馴染なだけあって言葉に容赦が無い、余りにも鋭い言葉のナイフにもう私の心はボロボロだ。

 

「家に帰ったらちゃんと謝っておきなさいよ。全く長久さんは翔子に甘いんだから」

 

「葵にも甘いと思うよ?」

 

「……まぁあの人は基本的に優しいけど、それに甘えすぎたら駄目なの。分かるでしょ? そのとりあえず分かってるって顔で頷くの止めなさい」

 

なんで分かってしまったのかと思わず首を傾げていると予鈴が鳴り、私は慌てて自分の席へ向かうのだった。

 

「んで? 今日はなんで寝坊したのよ? パスカルの散歩があるから普段寝坊なんてしないでしょ?」

 

「夢見が悪かったんだよ、葵」

 

お弁当を食べながらなんで寝坊したのかと尋ねてくる葵に夢見が悪かったと返事をしながら購買のサンドイッチの包みを開ける。

 

「あんたみたいな単純馬鹿でも夢見が悪い時なんてあるのね」

 

「今日なんか辛辣じゃない?」

 

葵はきつい性格だけど、今日はいつにも増して言葉の切れ味が鋭いように思える。

 

「あんたが朝から馬鹿やってるからよ」

 

「……長にいのバイクに乗ってきたのが面白く……「馬鹿を言うのは、この口かしら~?」いひゃいいひゃいッ!?」

 

私が長にいのバイクに乗ってたのが面白くないと尋ねると思いっきり頬を抓られた。暫く頬を抓ると満足したのか葵は手を離し、それでどんな夢を見たのか? と尋ねてくる。

 

「磔にされてる男の子となんか化物に襲われてる男の子が夢に出て来てさ、それが本当に凄いリアルでさぁ」

 

「……なんか変な映画でも見たんじゃないの?」

 

映画を見て夢に影響されたんじゃない? と葵は言うが、そんな映画は見てないし、勿論漫画や小説も見ていないと言うと葵もうーんっと首を傾げた。

 

「なんかの予兆とか予知夢じゃない? 帰りに占いの館行ってみる?」

 

「そうしようかなあ……なんか凄い気になるんだよねぇ」

 

葵には言わなかったけど、長にいみたいな人も夢に出てきたし……これが何かの予兆や予知夢って言うのなら余りにも不吉だ。

 

「……どうしたの? 顔色悪いけど大丈夫?」

 

「う、うん。大丈夫」

 

私が眠れなかったのは余りにも夢がリアルで、本当に起きる出来事のように思ってしまったからだ。だって長にいが死ぬ夢なんて私にとって悪夢以外の何物でもない……遅刻しかけたから長にいに送って貰ったけど、本当は長にいの顔が見たかったからだ。

 

「占いの館で何か分かるかな……?」

 

「結構当るって評判の夢占いだし、気休めかもしれないけど翔子の見た夢がなんなのか占ってもらいましょうよ」

 

「うん……そうする。ありがと」

 

どうか私の見た夢が只の夢であって欲しい――その確証を得る為に私は放課後に葵と共に夢占いの館へと行く事を約束した。だけどこの時の私は知る由も無かった、私の見た夢が紛れもない予知夢であるという事を……。

 

 

 

 

 

ぽっかりと開いた大穴を前に俺は完全に言葉を失っていた――俺の記憶にあった場所、俺の母校である軽子坂高等学校に訪れていたのだが、そこにあったのは軽子坂高等学校の名前が書かれた看板と校門と規制線だけだった。

 

「……何があったんだ……?」

 

厳密に言えば俺の通った高校ではないのだが、「俺」が卒業した母校ではある――しかし、そこに校舎は無くあるのは巨大な穴と、瓦礫の山ばかりだった……何があったのかと規制線の方に足を向けた時背後から声を掛けられた。

 

「失礼ですが、規制線の中に入るのは止めた方がいいですよ?」

 

その声に振り返るとバイオリンケースを片手にしたスーツ姿の青年が心配そうな表情で俺を見つめていた。

 

「……あ、ああ……すまない、ありがとう」

 

もしもこの青年に声を掛けられていなかったら穴の中に落ちていた。後ずさりながら感謝の言葉を告げると青年は柔らかく微笑んだ。

 

「いえ、もしかして軽高の卒業生の方ですか?」

 

「ああ……なにか大きな事故があったって聞いて見に来たんだ」

 

この場に来て唐突に思い出した――軽高でガス爆発が発生し、生徒と校舎を吹っ飛ばした痛ましい事故。その事故から2年も経っているのに、事故の跡は痛々しく刻まれていた。

 

「そうでしたか……でも良かった」

 

「良かった?」

 

青年の言葉を思わず鸚鵡返しで尋ね返すと青年は慌てた素振りで右手を左右に振った。

 

「酷く思いつめた表情をなされていたので飛び降りてしまうのかと思いまして」

 

「あ、ああ……そうか、悪いな。邪推してた」

 

事故が良かったのではなく、俺が飛び降り自殺をするかもしれないと思った青年は俺を止めれた事を良かったと言ったのだと分かり、邪推して悪かったと謝る。

 

「いえ、勘違いさせた僕も悪いのでお気になさらず。では」

 

一礼し歩いていく青年を見送り、俺もバイクへ跨りヘルメットを被った。

 

(軽高はあったが、2年前にガス爆発か……俺の家はなくて、狭間議員はいない……か)

 

大分記憶……いや、記録か? まぁどっちでも良いか、俺の認識している物と相違はあるみたいだが、基本的な……。

 

「ん?」

 

停まっている俺のバイクの横を別のバイクが通り、少し前で停車する。信号待ちしているそのバイクは淡い光を纏っていた――その光は間違い無く生体マグネタイトの輝きだった。俺の視線に気付いたバイクの運転手は挑発するように手招きし、青信号に変わると同時にバイクを発進させる。

 

「ま、待てッ!」

 

走り出したバイクを追って俺もバイクを走らせるが、鈍い頭痛が続いていてバイクのスピードを上げる事が出来ない。

 

(生体MAG……封魔管……葛葉……悪魔……ぐっ!)

 

隠れ里で学んだ事を次々と思い出すが、どうしても葛葉の里の住人の顔を思い出せない。ずっと一緒にいたはずの少女の顔すら思い出せないのに、学んだ剣術、銃の扱い方、対悪魔の体術の数々を思い出していく……だがそれを思い出す度に言いようのない焦燥感が俺を襲う。

 

(まさか……いや、そんなはずは……)

 

ここは平和な平成の世の中の筈だ。なのに何故、俺の視界には生体MAGの輝きがあるのか……まさかと思いバイクのミラーに視線を向けて絶句した。軽高の跡地には凄まじいMAGの残滓が合ったからだ。

 

(……ガス爆発じゃなくて悪魔の仕業とでも言うのか……くそッ! どうなってるんだよッ!)

 

思わずそう叫びたくなった。生体MAG、そしてMAGの残滓が残る軽高の跡地――それら全てが悪魔が東京にいるという事を俺にこれでもかと伝えていた。

 

(あいつは一体何者なんだ)

 

そして目の前を走るライダーが纏うMAGは凄まじい物だった。とても人間とは思えない凄まじすぎるMAGに気圧される。だが俺はバイクの速度を緩めることなく、目の前を走るライダーを追いかける。

 

(いつまでも流されてばかりで堪るかッ!)

 

今まで俺は流されるばかりだった。自分が置かれてる現状も、自分に何が起きているのかも理解しようとせず、ただ流されるままに生きて来て、そして死に続けてきた――自分で変わろうとしなければ、自分で知ろうとしなければ何も変わらない。目の前のライダーが悪魔かもしれない、ダークサマナーかもしれない……追いついた所で殺されるだけかもしれないが、それでも逃げていては何も変わらない。

 

「自分で変わろうと行動しなかったら何も変えられないッ!」

 

恐ろしいと逃げたいという気持ちを捻じ伏せて、俺が知らない事を知る為の第1歩を俺は踏み出すのだった……。

 

「追いかけてくるか、なるほど……興味深いね、態々出てきた意味もあったかな?」

 

長久の前を走るライダーは自身の圧倒的なMAGに気圧されながらも、それでもなお自分を追いかけて来る事を選んだ長久を見て興味深そうに笑い、バイクを僅かに減速させた。

 

「さて……STEVENが見出した希望は私にとっての希望になるかな?」

 

気圧されて逃げ出すのならば期待外れ、だが恐れ、恐怖しながらも追いかけてきた長久を見定めるのも悪くないと呟き、バイクの進路を変え、丘の上の広場で長久を待ち構えるようにバイクを停車させるのだった……。

 

 

 

3周目の世界 3人の救世主 その2へ続く

 

 




今回はロウヒーロー、そしてルイ様とエンカウントの所まで書いてみました。今作の設定ではメガテンIFとメガテン1の間に2年の月日があり、その2年の月日がルイ様とSTEVENの言う揺らぎとなります。次回はルイ様と会談、カオスヒーローとエンカウントまで書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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