3周目の世界 3人の救世主 その4
手術中の赤いランプが廊下を赤く照らす中、私は手が白くなるほどに力を込めて長にいの無事を祈り続けていた。
「翔子さん……なんの慰めにもならないと思いますが……気を落さないでください」
「気休めはよせッ! 母親が目の前で死んだ上に恋人まで死に掛けてるんだぞッ! 少しは考えて物を言えッ!」
私を慰めようとしてくれた俊樹を武が怒鳴りつけ、廊下の椅子に座っている私の前までやってきた。
「翔子。俺と俊樹は勝手だが風呂を借りて来た」
その言葉に顔を上げると確かに血塗れだった俊樹と武の身体は綺麗になっており、少し湯気が出ているように見えた。それに着ていた服もさっきまでと随分と変わっていた。
「服……どうしたの?」
「……緊急事態だったので、主義には反しますが……」
俊樹が口ごもっているので武に視線を向けると武は小脇に抱えていた鞄を持ち上げて見せた。
「悪いとは思ったが悪魔に襲われてた近く家に忍び込んで拝借して来た。血塗れで歩いてたんじゃすぐに警察を呼ばれちまうし、下手をしたら悪魔と間違えられて襲われかねないからな」
見た目は粗暴で口も悪いのに武が思った以上に考えていて正直驚いた。
「風呂で血を流して来い。手術が終わったとしても血塗れじゃ近づく事も出来ねえぞ」
確かにその通りだ。仮に手術が終わったとしても血と言うのは病原菌の集まりだ。服は勿論、血で塗れてない場所を探すのも難しい有様で、血の匂いと汗の匂いで思わず眉を顰めてしまうほどに臭かった。
「葵に聞いていますが家は近いんですよね? 家に帰ってお風呂に入ったらどうでしょうか?」
葵の服を借りる事は出来るけど、流石に下着とかは借りれないし……他に必要な物もあるだろうから1度家に帰る事を勧めて来る俊樹の提案は正直ありがたかった。
「ごめん、すぐに戻るから」
「ちょっと待てよ」
長にいも心配だし、いつ悪魔が現れるか分からないのですぐに戻るからと言って病院を出ようとすると武に呼び止められた。
「何?」
「家の入り口に悪魔を召喚しておけ、何かあったら俺達もすぐそっちに行く。自分の身を守る事を忘れるな」
「ありがと、武は見た目より優しいね」
ぶっきらぼうだが私を気遣ってくれる武にそう言って、私は家に向かって走り出した。
「くうーん?」
「ただいま、パスカル」
家に入ると同時に心配そうに近づいて来たパスカルに掌を向けて待てと声を掛ける。1回目の待てで止まらず、それでも近寄ってこようとしたのでもう1回待てと言うとパスカルは不機嫌そうに足を止めた。
「すぐ戻るから」
お風呂場に向かって走りだした私はお母さんのいないキッチンを見て足を止めた。
「お母さん……」
大好きだったお母さんはもういないって言うのを嫌でも理解してしまって涙が零れた。
「う……泣いてる場合じゃない……急がないと……」
お風呂場の前でピクシーとノッカーをCOMPから召喚して、武と俊樹以外の人間が来たら足止めしてと頼んでお風呂場へと足を踏み入れた。
「これはシャワー、シャワーだから……」
暖かいシャワーを浴びながら私は自分に言い聞かせるように目から零れる雫はシャワーだからと繰り返し呟いていた。
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荷物を纏めてパスカルを連れておじさんの病院に向かうと手術中のランプが消えていて、背筋が凍りつくのを感じた。
「武、俊樹。長にいはッ!?」
地図と睨めっこしていた武と俊樹に長にいはどうしたのかと慌てて尋ねる。
「大丈夫です。手術は成功したそうですよ」
手術は成功したの言葉に思わず腰が抜けてその場にへたり込んでしまった。急にへたり込んだ私を心配して頬を舐めてくるパスカルを抱き寄せて、良かったと呟いた。
「俊樹。省いて伝えんな、長久だったか? 医者が言うにはあいつの回復能力は尋常じゃ無いそうだ。縫合している間から傷口が塞がり始めてたそうで、とても人間とは思えないって言ってたぞ」
「え?」
武の言葉に自分の物とは思えない呟きが零れた。人間じゃない……長にいも悪魔……? 信じたくない、受け入れ難い現実に目の前が暗くなるのを感じた。
「武ッ! もっと段階を踏んで言うべきだと思わないのですか!?」
「うっせえな。後回しにしてどうすんだよ、もし目覚めた長久が人間じゃなかったらどうするんだ」
「それ……はッ!?」
長にいが人間じゃなくなっているかもしれないという言葉に俊樹も私も身体が硬直した。
「助かったのは良かったと思ってる。俺や俊樹みたいに魔法を使える身体になってるだけなら良いと思ってるが……最悪は常に想定するべきだろうが……もう俺達の知ってる常識は何の役にも立たないんだよ」
武の正論に私も俊樹も言葉を失った、私達の常識が何の役にも立たないと言う武の言葉が重く圧し掛かってくるのを感じた。
「おじさんが言うには回復力が高いだけなそうなので……きっと大丈夫ですよ」
俊樹の励ましの言葉に私は震える声で返事を返す事しか出来なかった。お母さんだけじゃなくて、長にいもいなくなるかもしれないと言う恐怖に思わず私は自分の身体を抱き締めて震えてしまった。
「翔子。俺と俊樹はエコービルっつう所に行こうと思うんだが、お前はどうする?」
「エコービルって誰も入れないんじゃなかったっけ?」
エコービルは凄く立地が良いのに厳重なセキュリテイの所為で誰も入れないビルで、色んな噂のあるビルだった筈だ。
「……お前の母親を襲っていた悪魔がこいつを持ってたんだ」
武が私の前に差し出したのはエコービルの名前が刻まれたIDカードだった。
「エコービルから化け物が出たって言う噂はありましたが……事実なのでしょうか?」
「それを確かめに行くんだよ、もしもエコービルから悪魔が出て来てるなら、そこを何とかすれば悪魔の出現を押さえれるかもしれない、藁をも掴む話だが……行ってみる価値はあると思うぜ。長久が心配なら翔子はこの病院に入ればいい、強制はしない」
ついて来るか? と尋ねてくる武に返事に困っていると召喚していたピクシーが長にいの病室をジッと見つめているのに気付いた。
「どうしたの?」
『ん? んーすっごく美味しそうな匂いがするんだよ。ね、ノッカー?』
『うんッ! 物凄く濃いマグネタイトの匂いがするんだ!』
ピクシーとノッカーの言葉に血の気が引くのを感じた。
「長にいが凄いMAGを持ってるの?」
悪魔を召喚するのに必要な生体マグネタイト――悪魔はそれを求めて人間を襲うのだとピクシーが教えてくれた事を思い出し、長にいはそんなに凄いMAGを持っているのかと尋ねる。
『すっごいMAGだよ、多分血の一滴でも暫くMAGに困らないよ』
血の一滴で消滅の心配がなくなるほどのMAGを長にいは持っていると聞いて私の心は決まった。
「私もエコービルに行くよ」
長にいを1人で残すのは心配だけど、大本を叩かない限り長にいの周りが安全になる事はない……私は長にいを守る為にパスカルと、ノッカーに長にいを決して傷つけてはいけないと念を押し、ノッカーが好きなお菓子を大量に与えてから病院に残し、おじさんに長にいをお願いしますと深く頭を下げながら頼んで俊樹と武と共にエコービルへと向かったのだった。
~翔子達が病院を後にしてから2時間後~
「う、うう……ここ……は?」
「長久君! 起きたのか……良かった」
「おじさん……? つうっ……」
「動いてはいけないッ! 君は瀕死の重傷だったんだッ!」
重傷の長久をベッドに寝かせようとする葵の父だったが、その手は長久によって止められた。
「おじさん、翔子達は今どこに?」
長久の問いかけに葵の父は言葉につまり、その反応を見た長久は病院にいないと悟って立ち上がった。
「動いては駄目だッ! 傷口が開くぞッ!」
「おじさん、心配してくれてありがとう。でも行かないと……俺はおばさんを助けれなかったからさ、翔子は見捨てられねぇんだ」
手術着の上からジャケットを羽織る長久を葵の父は何とか止めようとするが、長久の意志は固く止める事は叶わなかった。
「おじさん。助けてくれてありがとう、出来れば病院に鍵を掛けて家の奥にいてください。見たでしょう? 悪魔を」
「あ、ああ……見た。君の怪我も巨大な氷柱による物だったが……悪魔なんてものがこの世に存在するなんて信じられないよ」
長久を守っていたノッカーに視線を向けて葵の父が信じられないと呟く姿を見て長久は小さく笑い、病室に立てかけられていた木刀を握り締める。
「俺が出て行ったら鍵を掛けて部屋の奥へ、大丈夫ですよ。葵も見つけて翔子と一緒に帰って来ますから」
「……気をつけてな」
葵の父の言葉に頷き病室を出た長久は病室の外でお菓子を食べていた悪魔――地霊ノッカーを見つけ、ノッカーへと声を掛けた。
「ノッカー。お前、翔子の悪魔だな? 翔子の所に行くからついて来てくれ」
『えーオイラ、翔子の仲魔なのになんでお前の言う事を聞かないといけないのさ』
「ほれ」
『……しょうがないなあ、付き合って上げるよ』
長久が投げた飴を受け取ったノッカーはしょうがないなあと呟いて、長久に同行すると返事を返した。
「パスカル。お前のご主人の所に連れて行ってくれるか?」
「わふッ!!」
長久の言葉に頷き尻尾を振るパスカルの頭を長久が撫で、長久の行けと言う言葉と共に駆け出すパスカルを追いかけて長久は病院を飛び出していった。パスカルは翔子の匂いを辿って見事長久をエコービルへと導いて見せ、長久がエコービルに乗り込もうとした時に扉が開き姿を見せた女に長久は足を止めた。
「……あんたはあの時の」
「あら、奇遇……って訳じゃないわね。あの子達を助けに来たのかしら?」
ルイ・サイファーと出会ったその日にアーケード街でぶつかった悪魔の女に長久の額から大粒の汗が流れ、その様子を見た女はくすくすと楽しそうに笑い長久に道を譲った。
「急いだ方が良いわよ? このビルで魔界の門を開こうとしている男とあの子達は戦ってるから、急がないと手遅れになるかも」
その言葉に長久は返事を返さず、MAGの光を宿した木刀を握り締めパスカルとノッカーと共にエコービルの内部へと飛び込んで行った。その後姿を女――百合子は楽しそうに見つめ一陣の風と共に消え去るのだった……。
長にいを守る為に、長にいを傷付けさせないためにと……エコービルに乗り込んだ私達はビルの最上階にいた男の圧倒的な力を前に膝をついていた。
「中々に頑張ったがここまでだ……同胞を呼び寄せる儀式の邪魔をした罪――死を持って償うが良い」
アニメや漫画に出てくる魔法使いが着ているような服を着た禿頭の男――道満の力は凄まじく、エコービルの中で仲魔にした悪魔は倒され、MAGの粒子の光と消え武と俊樹は道満の放った風の魔法――マハザンで切り裂かれ地面に倒れ伏している。
(……駄目だった)
長にいを守る為にエコービルへ乗り込んだけど、魔法を使えたって、悪魔を仲間に出来たって私達は結局の所子供で……道満の放つ強烈な殺気に萎縮してまともに動けなくて痛めつけられた。私達は特別なんかじゃなくて……普通の子供だったと思い知らされた。
「業火に焼かれて消えうせろッ!!」
道満が掲げた両手の間に炎の帯が発生し、突き出された両手から凄まじい勢いで炎の魔法――マハラギが放たれた。
「逃げろッ!!」
「逃げてくださいッ! 翔子さんッ!!」
武と俊樹の逃げろという声が聞こえるがもう私に立ち上がる気力はなくて……迫ってくる炎を見て、どこか他人事のように死ぬんだと理解した。
「ごめんね……長にい」
ずっと守ってくれていたのに、ずっと助けてくれていたのに、私は長にいに酷い事を言ってしまった事を後悔して、ごめんねと呟いて目を閉じた。
「はああああああッ!!!」
目を閉じた次の瞬間――私の横を誰かが駆け抜けていき、裂帛の気合の込められた雄叫びがビルの廊下に響き渡った。
「馬鹿な……貴様……何をしたッ!?」
「何をした? 炎を斬っただけだぜ、おっさん」
嘘だ、あれから2時間しか経ってないのに……手術を受けた長にいがいるわけが無い、私の都合の良い幻だと、死ぬ前の幻聴だと思った。
「わん、わんわんッ!!」
『たぁーッ!!』
パスカルの声と病院で仲間にしたノッカーの声が続いて響き、ゆっくりと目を開くと私の目の前にはずっと見てきて来た大きな背中が合った。
「長……にい?」
「遅れて悪いな、助けに来たぞ翔子」
入院着の上にコートを羽織り、頭に包帯を巻いた長にいが木刀を片手に私達を道満から庇うように立っていた。
「その術……葛葉の手の者かッ!! 今頃になってのこのこやって来ても手遅れだぞッ!」
「生憎と俺は葛葉じゃねえ……只の大学生だよ」
葛葉……? 何か意味のある言葉なのだろうか、不思議とその言葉を忘れてはいけないような気がした……長にいが後手で持っていた何かを私達に向かって投げて来た。それは宝石がつけられたペンダントのような輪っか状の宝飾品に見えた。
「……身体が動く」
「痛くねぇ……」
「一体何が……」
「ここに来るまでに見つけた宝玉輪だ。助けに来たって格好良い事を言っておいて悪いけど、俺1人じゃ多分勝てないから力を貸してくれ」
力を貸してくれと言う長にいの言葉に力が抜けていた手足に再び力が戻って来るのを感じた。
「うんッ! 分かったッ! 武と俊樹はまだ大丈夫!?」
「ええ、大丈夫ですッ! 今の道具のおかげで傷も治りましたから」
「俺も大丈夫だ、行けるぜ」
「ええい、何人集まった所で私の敵では無いわッ!! 貴様らを儀式の生贄にしてくれるッ!!」
「来るぞッ!!」
今まで絶望感しかなかったのに長にいが一緒にいてくれる――それだけで絶望感は消えて大丈夫だと言う安心感が広がり、私達は長にいと共に超人道満との2回目、いや……夢を含めて3回目の戦いを挑むのだった……。
超人を名乗る道満との戦いの後。俺達は謎の装置によって吉祥寺から新宿へと飛ばされた、そこでは悪魔が人間へと化け次々と人の街に紛れ込んでいく信じられない光景が待ち構えていた。そして更に新宿の研究所で俺はSTEVENさんに再会したのだが……。
『すまない、誰かと勘違いしていないか? 私は君の事を知らないのだ』
と言われた。赤いスーツに眼鏡、そして車椅子姿は俺の知るSTEVENさんだったが……どうも俺とは出会う前のSTEVENさんで、俺の事は分からなかったようで、また因果の鎖について何か分かるかと思ったが……結局因果の鎖については何の進展も無かった事を残念に思いながら、地面にペグを打ち込んでいた。
「長にい、ごめんね」
「急にどうしたんだ? 翔子」
研究所を出た俺達を待ち構えていたのは五島という自衛隊のクーデター、トールマン大使が出撃させたアメリカ軍の争い――そして五島とトールマンと戦うレジスタンスとの出会いと……怒涛の1日だった。
「お母さんの事もそうだけど……武と俊樹の事も」
「……しょうがねえよ、あいつらにはあいつらの考えがある。お前が葵と一緒に行くって決めたのと同じでな」
レジスタンスのリーダーは信じられない事に俺と翔子の幼馴染の葵と同じ名前の少女だった、彼女は五島とトールマンと戦う為に俺達に協力を求め、翔子はそれに応じた。だがそこで悪魔が化けている美女――どうやら百合子と言う女が現れ葵を連れ去り、都庁前広場で公開処刑をすると言いそれを阻止する為に俺と翔子、そして武と俊樹は都庁前広場に乗り込み葵を助け出したのは良いが葵が俺達に提供してくれた情報を聞いて武は小澤を追って、俊樹は恋人の葵を助け出すと言って俺達と別行動をする事になった。
「すいません、私のせいで」
レジスタンスのリーダーの葵がすいませんと謝ってくるが、誰が悪い訳ではない武と俊樹、そして俺と翔子、葵の考えが違うのは至極当然の事で、別行動になるのもしょうがない事だ。それに俊樹と武が別行動を選んだのは小澤と葵の事だけではなく、別の理由もあった。
「俺が怪しいって言う2人の言う事も分かるさ」
悪魔と戦う術を持ち、剣道とは違う対悪魔用の剣術を使う俺を怪しいと疑うのも仕方ない事だと笑うと翔子が悲しそうな表情をした。
「長にいは怪しくないし、敵じゃないのに……」
「それはお前が俺を信用しているからだよ。葵だって少し俺を疑ってるだろ?」
俺の問いかけに黙り込む葵――時に沈黙は悠然に語るって言うのは本当の事なんだなと思う。
「なんで!? 葵、長にいは怪しくないよッ!」
俺を疑っている葵に翔子が怒鳴り声を上げるが、葵の反応がどちらかと言えば正しいと言える。
「長久さん。貴方は何を知っているんですか? この神社に悪魔が入れないという事を何で知っていたんですか?」
葛葉の家紋が刻まれた名前のない神社。結界が生きている此処は安全な拠点であり、テントを張って休む拠点としたのだが、何故此処が安全だと知っているのか? と尋ねてくる葵に俺が足りない頭で考えていた設定で答えた。
「俺の親父の爺さんが葛葉って言うんだ。葛葉は昔悪魔と戦った事があるって言う一族らしくてな、親父は胡散臭いと言って信じてなかったが、俺は爺ちゃん子だったから色々と話を聞いて、昔の文献を調べたりもした。そこの家紋が見えるだろ? それが葛葉の家紋だ。爺ちゃんのいう事が本当ならって踏み込んだらその通りだったのさ」
「貴方のお爺様がですか?」
「そ、古武術の道場の師範でもあって剣術とか教えてくれたんだよ。翔子は知ってるよな? 俺の爺ちゃん」
ここで翔子に話を振り爺ちゃんの存在を確かな物とする。実際には爺ちゃんは普通の古武術の師範で悪魔の事なんて知らないが、翔子と葵にはそれを確かめる術は無く、不信な所はあるが葵はそれを信じるしかなかった。
「明日は五島とトールマンの所に行くんだ。飯を食ってさっさと休もう」
俺はかなり強引に話を切り上げ、この神社に来る前に量販店で拾って来たキャンプセットでお湯を沸かし始める。葵も翔子も明日は今日以上に大変だと分かっているのか深く詮索して来ようとしない事に俺は安堵し、お湯の中にインスタントラーメンの麺を入れるのだった……。
レジスタンスの葵がくれた偽造IDカードで私達はクーデターを起した五島という自衛隊員がいる市ヶ谷駐屯地へとやってきた。
そこでは「葵」という名前の少女が何人も集められていた。私達は協力して見張りを出し抜いて葵たちを助けていたのだが、その中の1人が俊樹について教えてくれた。
「さっき俊樹って人が私達を助けに来てくれたんだけど、見張りに見つかって逃げて行ったわ……無事だと良いんだけど」
一晩休んでいた私達と違い俊樹は分かれてから1人で市ヶ谷駐屯地に乗り込んだと知り私と葵は驚きに言葉を失い、長にいは額に手を当てて天を仰いでいた。
「……とにかく今は俊樹が無事だと祈るしかないな、見張りを随分と倒してきたから警戒が強くなってる。今から引き返すのは無理だし」
殺してはいないがスタンガンなどで気絶させた兵士が見つかったのか、あちこちで怒号が響いてくるのを聞いて長にいの言う通り引き返すのは無理だと悟り私達は基地の奥へと歩みを進め五島を見つけたのだが……。
「ようこそ諸君。待っていたよ、私が五島だ」
筋骨隆々の褌姿の五島の姿に私と葵の悲鳴が部屋の中へと木霊した。
「……失礼した。婦女子に対して配慮が足りなかった」
「悪魔と戦うのに褌だけって正気ですか?」
長にいの後に隠れた私はきっと悪くない、悪魔が蔓延る世の中でなければ変質者で五島は1発でアウトだと思う。少ししょんぼりした様子で上着を羽織っている五島に長にいが正気かと尋ねる。
「悪魔の攻撃にはどんな防具も無意味だ。ならば動きやすさを追及するべきだと私は思う」
「だからって褌はおかしいですよ、絶対」
うんうんと葵と一緒に頷くと五島は気不味そうに咳払いをしてから、私達に向かって頭を下げた。
「葵の件に関しては謝罪しよう、この通りだ」
それは誰がどう見ても土下座だった、いきなりの土下座に私も長にいも、そして処刑されそうになっていた葵までも驚きに目を見開いた。
「しかし私の話も聞いて欲しい、今神の名の下に理想郷千年王国を作り上げる計画が進んでいる。そこに住む民は永遠の安らぎが約束されると言うが、千年王国に住む事が許されるのは一握りの人間だけだ。それ以外の民は神の意に従がい行動しているアメリカ軍によって殺される。諸君らも見たはずだ」
五島の言葉に私達は眉を顰めた。市ヶ谷駐屯地に来る前にアメリカ軍兵士が人を殺している光景は確かに見た……それを防ぐ為に自衛隊が悪魔と共に天使とアメリカ軍と戦っているのも見た。
「このままでは日本国民は神と天使によって滅ぼされてしまう。今私達がこうして話をしている間も古き神々がアメリカのミサイル攻撃から日本を守ってくれているのだよ。しかし我々の力はまだ弱い、どうか力を貸して欲しい」
五島はそう言うと長にいへと視線を向けた。それは期待するような、味方になってくれと願っているような視線だった。
「君は国家国防の徒葛葉の人間の筈だ。私の言う事が分からない訳ではないだろう?」
「……生憎だが、俺は葛葉の人間じゃない、只の一般人だよ」
また葛葉の名前が告げられた。道満も五島も長にいの事を葛葉と呼んだ……長にいは違うと否定するが、こう何度も葛葉と呼ばれているのを聞いていると、本当に長にいのおじいちゃんが悪魔と戦う力を持っていたように思える。
「違うと言うのならば、私はその言葉を信じよう。道睦長久君」
「俺の名前も知ってるじゃねえかよ。とんだ狸だよ、あんたは」
「ふっふ、同士になるかもしれない相手の事を調べるのは当然の事だろう? 今すぐに答が欲しい訳ではない、良く考えて返事を聞かせて欲しい」
とてもクーデターを起した人間とは思えない丁寧な態度で頼んでくる五島は時間は多く与える事は出来ないが、待とうと言ってくれた。
「客人が帰るぞ、基地の外まで案内してやってくれ」
「「了解ッ!!」」
マシンガンで武装した兵士に案内と言う名の追い出しを受け、五島の部屋から外へ出る。
「あんたならクーデターなんかじゃなくて別の道もあったんじゃないか?」
「過ぎたことだよ、アメリカ軍の侵略を食い止める気になったらまた尋ねて来てくれたまえ、勿論今ここで私に協力してくれると返事を返してくれると嬉しいのだがね?」
「……あんたの一方的の話だけじゃ判断がつかない、少し考えさせてくれ。行こう、翔子、葵」
マシンガンの銃口が向けられているのに長にいは一切動揺も恐怖も見せずに私と葵に外に出るように促した次の瞬間――マシンガンを持った2人の兵士の間をすり抜けて五島へと突進した。
「えっ!?」
「な、長にいッ!?」
五島の日本刀と長にいの木刀がぶつかり合い周囲に凄まじい轟音と衝撃音を響かせた。
「これが返事かね? 随分と物騒な事だ、お嬢さん方を危険に晒すのかね?」
「いいや、違う。これは警告だ、五島さんよ。悪魔はそんなに生易しいもんじゃない、裏があるって常に警戒して行動する事を勧めるぜ」
「ご忠告痛み入るッ!!」
一際強烈な音と共に長にいが弾き飛ばされ、マシンガンを持った兵士2人がその銃口を長にいに向ける。
「止めるんだ。彼は私達に警告してくれたんだけだよ。無事に基地の外まで連れて行くんだ」
「「はっ!!」」
五島の指示に頷きマシンガンを手にしていた兵士は再びマシンガンを肩に担いで、長にいの後へ回った。
「君の様な部下が私の下に居てくれたらと思うよ」
その言葉に長にいは返事を返さず、そのかわりに片手を上げてそれを左右に振って歩き出した。
「何考えてるの!? 長にいッ!? 死ぬ所だったよッ!」
基地を出た所で長にいに怒りながら詰め寄ると長にいは悪いといって小さく頭を下げた。
「どうしてあんな事を?」
「1つ確かめたかった事があったんだ。あの五島って言う自衛隊員……悪魔に憑依されてる。こうなってくるとトールマン大使も怪しいな……天使と悪魔の戦争に巻き込まれたか……?」
その言葉に私も葵も顔を強張らせた。長にいを怪しいなんて思ってもいない私だけど、流石にこの言葉は無視出来なかった。
「長にい、長にいは何を知っているの? 葛葉ってなんなの?」
長にいの事は信じてるし、信用してる。だけど……余りにも信じられない事が続きすぎている。長にいは余りにも悪魔に詳しくて、そして魔法の扱いも剣の扱いも私達よりもずっと上だった。味方だと信じたい、疑いたくない……だけど長にいには余りにも謎が多すぎた。
「……葛葉は前も言った通り悪魔と戦う術を持つ者だ。親父はそれを継ぐ事を拒んだ、この平和の世の中に必要のない技術だと知識だと言ってな……いや、多分爺ちゃんがボケてるか、嘘を言ってるって親父は思ったんだと思う……だけど俺はそうは思わなかった。爺ちゃんの顔が余りにも必死で、真実を言っていると思ったんだ。悪魔が実在してると、爺ちゃんの武術は紛れも無く悪魔と戦う為の武術だったんだって」
そこまで言われれば流石の私達も長にいが何を言いたいかを理解した。
「まさか……貴方は」
「そうだ。途絶える筈だった葛葉流の武術の最後の後継者って所かな……まぁ全部を覚えれた訳じゃないから葛葉を名乗るのはおこがましいし、俺も爺ちゃんの武術を教わっても本当に悪魔が居るなんて思ってなかったから親父の事を言えないんだけどさ……こんな事ならもっと真剣に教わっておくんだったよ……」
どこか自嘲気味に笑う長にいに私も葵も掛ける言葉がなく、ただ黙ってお爺ちゃんを信じきれなかった自分を悔いるような表情をする長にいに私は寄り添うことしか出来ないのだった……。
3周目の世界 3人の救世主 その5へ続く
今回は五島との話まで進めましたが、トールマンの所はまるっとカットして、次回は金剛神界からスタートしたいと思います。メガテン1はイベントが多いので飛ばし飛ばしで急ぎ足の展開になりますが、重要な所はしっかりと書いて行きたいと思いますのでそこは安心してください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。