収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

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3周目の世界 3人の救世主 その9

3周目の世界 3人の救世主 その9

 

双眼鏡を覗き込んでいる長にいの後で私と武は装備を整えていた。俊樹が渋谷の支配者である裁判官と検事の上山夫妻の息子であると言う長にいが集めてきた情報にも驚かされたが、凶悪な悪魔が上山夫妻の裏にいる可能性が高い上に俊樹がそこにいるのならば一刻も早く上山の屋敷に乗り込みたかったが、敵陣に乗り込むのだから準備が必要だと言う長にいに止められたからだ。

 

「長久さんよ、なんで俺達が敵に考慮しなくちゃ行けねえんだ?」

 

だが武は長にいが用意してくれた銃弾を使う事に不満があるのか監視をしている長にいにその理由を問いかける。

 

「不満か?」

 

「ああ。不満だね、襲ってくる相手を無力化するなんて甘っちょろい事をやってたら俺達が死ぬぜ? 後腐り無くぶっ殺すべきだ」

 

「でも武、あの屋敷には人間もいるんだよ?」

 

悪魔を殺す事にも私はまだ抵抗があるのに、人間を殺すのは勿論銃口や刀の切っ先を向けるのに抵抗があるのは言うまでも無い。

 

「だからどうした。悪魔が後にいてその甘い汁を吸ってるんだろ? なら外が人間でも悪魔と大差ねぇ。そんな奴らは生かしておいても何の益になりゃしねえ、後の事を考えても殺しておくほうが世の為人の為だろ。あいつらは人間のまま悪魔になったんだ。そんな奴らを生かしておいたらそれこそ第二、第三の渋谷が出来る事になるんだぜ?」

 

武の言葉に思わず言葉に詰まり、長にいに視線で助けを求めると長にいは溜め息を吐きながら肩を竦めた。

 

「別に俺は人間を殺さないためにその銃弾を用意した訳じゃない」

 

「え……?」

 

だが長にいは武と同じで人間を殺す前提で考えているのかと思わずその顔を凝視してしまった。

 

「悪魔が裏にいる以上人間じゃない可能性が高いんだ。その銃弾は葛葉の秘術を施してある悪魔に当ればMAGを乱してその変装を解除する効果がある。人間に当ればまぁよっぽど当り所が悪くなければ身体を痺れさせるくらいで殺すほどの効力はない代物だ」

 

「なーる、人間の中に悪魔が紛れている可能性があるからそれを炙りだす為って事かッ!」

 

「人間に擬態できるほどの悪魔は高位の悪魔の可能性が高い。人間だと思って気絶させて通りすがりに不意打ちされたら為す術無く殺される可能性があるからな。念には念を入れておくだけだ、後は好き好んで人殺しをしたいわけじゃないのもあるけどな」

 

長にいの言葉にホッと息を吐いた。長にいが人殺しを容認していないと言うのが分かって安堵したが、安堵している場合ではないとすぐに気を引き締める。

 

「俊樹の場所は分かってるのか?」

 

「ああ、お前達に付けてるのと同じ目印の反応が地下にある」

 

「地下……結構厳しそうだね」

 

「だけど俊樹を見捨てる訳にも行かない。行くぞ、武、翔子」

 

長にいの言葉に頷き遠くに見える上山の屋敷に視線を向ける。遠めに見れば豪邸にしか見えないが、その中身は悪魔の巣窟だ。気を引き締めて行こう……。

 

 

鳴り響く警報に長にいと武が振り返って嘘だろと言う顔をしながら私を指差した。

 

「それを空けたのか……翔子」

 

「なんでそんなあからさまな罠に引っかかってんだッ!?」

 

「ごめん……ちょっと気になっちゃって」

 

屋敷に入ってすぐの所で豪華な装飾が施された箱を見つけた。長にいと武はそれを無視したが、私は空けてしまったのだ。何故ならばそれは金剛神界で貴重な道具が入っている物でつい反射的に開けてしまった私達は落とし穴で地下へと落とされていた。

 

「結果オーライで行こう、地下にすぐに来れたと前向きに考えよう」

 

「この悪魔に囲まれてる状況のどこが結果オーライだッ!! この状況で和んでるんじゃねぇよッ!! この馬鹿野郎共ッ!!!」

 

落とし穴の下は侵入者を始末する為の悪魔の巣窟になっていて、あちこちから聞こえて来る獣型の悪魔の唸り声とか荒い呼吸と叩きつけられる殺気に武の怒鳴り声が地下の薄暗い通路に木霊する。

 

「ごめんなさーいッ!!!!」

 

自分の所為で侵入に失敗し、その上命の危機に陥っているという現実に私は申し訳なさで一杯になって謝罪の言葉を叫ぶが、その言葉さえ通路に反響して来て悪魔を更に誘き寄せる結果になった。

 

「てめえ馬鹿野郎ッ!! これ以上敵を集めてどうすんだッ!?」

 

「ふえええんッ!! ごめんなさーいッ!!」

 

「とにかく立て直すぞッ!! 鼻と口を押さえて走れッ!!」

 

長にいがそう叫んで煙玉を悪魔に向かって投げ付け、私達は鳴り響く警報の中煙幕に紛れて決死の逃亡劇を繰り広げる事になるのだった……。

 

 

 

 

薄暗くじめじめとした部屋……いや取り繕うのは止めよう。僕は父さんと母さんに逆らった罪として折檻を受けた後に屋敷の地下の牢屋に閉じ込められていた。

 

「いっつ……」

 

両腕に枷を嵌められ鎖で吊り上げられているので自分の体重が腕に全て掛かってくる。その上肋骨を痛めたのか呼吸する事すら辛く呻き声が口から零れる。

 

「うう……」

 

この枷には魔法を封印する効果があるのか魔法で傷を癒す事も、牢屋から脱出する事も叶わない。絶体絶命の窮地だが、翔子さん達が一緒でなくて良かったと僕は安堵していた。

 

(巻き込まなくて良かった)

 

こうして囚われ、拷問をされたのも動くなとホテルにいろと言われていたのを無視したからだ。家族を見つけたからと何も考えずにホテルを飛び出した自分の愚かさに嫌気がさすが、長久さん達を巻き込まなくて良かったと密かに安堵していた。だがそれも警報が鳴り響き、通路の奥から翔子さんの泣きそうな謝罪の声が響いて来るまでの事だった。

 

「く……うっ!?」

 

その騒動で長久さん達が僕を助けに来たのだと悟った。僕1人が死ぬと思っていたが、長久さん達の性格を考えれば僕の救出に動くのは十分に考えられた事だった。

 

「ぐっううっ!?」

 

「おやめなさい、それ以上暴れたら取り返しのつかない事になりますよ」

 

痛む身体に鞭を打ってなんとか鎖を外そうともがくが、身体を痛めるだけで拘束から脱するのは不可能だとすぐに理解した。それでも必死にもがいていると向かい側の牢屋から男性とも女性とも取れない声が聞こえて来た。

 

「止めろと言われて、止めるなら最初からやってないッ! 無理だって事は自分が1番分かってるッ!!」

 

悪魔さえ拘束する鎖を人間である僕がどうこう出来るなんて思っていない。だけど自分の所為で仲間が窮地に追い込まれるかもしれない、いや悪魔に殺されるかもしれないと知ってどうして黙っている事が出来ると言うのか、自分1人が死ぬのならば良い自業自得の結果だ。だがそれが仲間を巻き込むのならば僕はそれに耐えられない。

 

「囚われたのは僕の不始末だ。親を見つけて疑いもせずに駆け寄った僕が馬鹿だった、それで僕が死ぬとしてもそれは自業自得だ。だけどその所為で仲間が傷付けられるのを……黙って見ていられるかぁぁッ!!!」

 

ゴキリと嫌な音が肩から響き、その激痛に顔を歪める。無理に暴れたことで肩の関節が外れてしまったようだ……肩の関節が外れた事でもがく事も出来ず、そして爪先が辛うじて床に届く高さに吊り上げられている事もあり言葉にしがたい痛みが襲ってきた。

 

「貴方は高潔な魂の持ち主のようですね。この崩壊した世界で貴方のような人間に出会えるとは……私は幸運だ」

 

「天使……」

 

反対側の牢屋に入れられていたは薄汚れ、翼もその大半を失っているが紛れも無く天使だった。長久さんから天使は信用するな、常に疑えと言われていたのを思い出した。

 

「はい、私は天使です。ですが貴方方からすれば悪魔に分類されるのでしょうね」

 

「消滅……しかけているのですか」

 

痛みで歪む視界でも目の前の天使の身体からMAGが零れ出し、その存在感が急速に薄れていっているのを感じた。

 

「はい、私はこの地に現れた大悪魔マモンを討伐する為に顕現したのですが……如何せん私は使命とは言え人殺しをするのに忌避感が強くてですね。ふふ、この様で情けない限りです」

 

そう笑った天使の姿は長久さんから聞かされている天使とはまるで違う存在に思えた。翔子さんが連れている悪魔でも性格に個体差があるように天使にも個体差がかなりあるのかもしれないと思った。

 

「ああ、派閥が違うんですよ。私は穏健派なので、過激派とは考え方が違うんです」

 

「僕の考えを……う……よ、読んだんですか?」

 

心の中を読まれたという形容し難い不快感と身体の痛みに顔を歪めながら問いかける。

 

「嫌悪感のような物を感じましたので、心を読んだのは申し訳ありません。ですが私は貴方を見極める必要があった」

 

そう言うと天使は崩れかけた身体を更に崩壊させながら鉄格子の間を抜けて僕の目の前に立った。

 

「私はこのままでは消滅します。ですが使命を果たせずに消えるわけには行きません、ですから貴方に私の力を託そうと思います。ああ、ご安心ください、洗脳とかはしませんのでご安心ください。貴方は貴方のまま、その高潔な魂を抱いて前に進んでください」

 

止めろと静止する間もなく消滅しかけている天使は僕の頭に手を置き、風船が割れるような音を響かせて消滅し、そのMAGの残滓が僕の身体に降り注いだ。

 

「力が……力が漲ってくるッ! あ、ああああッ!!!」

 

外れていた筈の両腕の関節も、鞭で打たれた事で出来た蚯蚓腫れも完全に消え少し力を込めただけであれほど暴れても壊す事の出来なかった鎖を容易に破壊する事が出来た。

 

「ふんッ!!!」

 

そして鉄格子を掴み左右に開くだけで人1人がたやすく通れる隙間を作り出す事が出来た。その凄まじい力に僕は思わず自分の手を見つめながら大きく目を見開いた。

 

「武と同じになったという事ですか……」

 

悪魔と合体した武も尋常じゃない身体能力を得ていたが、天使のMAGを取り込んだ僕も武に近い存在になったのだと理解した。

 

「……角とか、翼はないみたいですね。良かった」

 

牢屋を出ようとした所で罅割れた鏡を見つけ、自分の今の姿を確認した。僕は左目が青くなり、髪の一部に金のメッシュが入り別人のようになってしまったが……武のように角が生えた訳でもなく、翼が生えた訳でもないと分かり安堵の溜め息を吐いた。

 

「ありがとうございます。天使さん」

 

名も知らない天使に僕は心から感謝した。自分が消え去るならばと力を託してくれた、そして不甲斐無い僕を高潔な魂の持ち主だと認めてくれた。だけど僕は自身がそんな大それた人間とは思えるほどに楽観的ではなかった……短絡的な行動で仲間を危険に晒した挙句囚われるような馬鹿だ。本当に情けなくて、みっともない……だけど僕の人間性を認めて力を託してくれた名も知らぬ天使に恥じない男になろうと決意し牢を出る。

 

「俊樹!? なんだ、お前……イメチェンか?」

 

「俊樹が不良になっちゃった……」

 

「お前の所為でこんな事になってるんだぞッ! 今度はこんな馬鹿なするんじゃねえぞッ!」」

 

「あ、あははは……話すと長いんですがまぁ色々とありまして……勝手な事をして本当に申し訳ありませんでした」

 

僕を探しに来てくれた長久さん達に謝罪しながら頭を下げ、僕は天使から聞いた話を長久さん達に伝え、渋谷の悪政を行なっている父と母を止める為に、そしてマモンの完全な顕現を防ぐ為に異界と化した屋敷へと足を向けるのだった……。

 

 

 

 

白く清潔な部屋の中で包帯塗れで俺、俊樹、武、翔子、そして救出した葵の5人はベッドに横たわりながら、上山の屋敷で戦った大悪魔マモンの事を思い出していた。7つの大罪の1つである強欲を司る極めて強大な悪魔だが完全に顕現していなければ勝率はあると思ったんだが……現実はそう甘くなかった。

 

「死ぬかと思ったぜ。高位の悪魔つうのはあんなにやべえのか」

 

「本当にそれな、良く全員生き残れたもんだ」

 

不完全な顕現で上半身と左腕、そして骸骨の頭部だけのマモンだったが、マハラギオン、マハジオンガなどの広範囲の攻撃呪文にアイアンクローなどの強力な物理を使いこなし翔子の悪魔を含めて10対1だったのに蓋を開けてみれば生き残ったのは俺達4人とピクシーとジャックフロストの2体だけ、しかも全員が重傷で渋谷の外に控えていた五島部隊が突入してこなければ手当ても受ける事が出来ずに全員が死んでいただろう。

 

「あの攻撃と魔法を跳ね返すシールドは反則だよ、めちゃくちゃ痛かった……」

 

「テトラカーンとマカラカーンだな……あれは焦った」

 

俺も使った記憶はあるが、今は使えない攻撃反射魔法――あれで翔子と武は吹っ飛ぶし、俺と俊樹は炎に巻かれて大変だった。

 

「俊樹はもう大丈夫なのか?」

 

「複雑な気持ちなのは変わりませんが……気持ちの整理はつきましたよ」

 

マモンの後で俺達を嘲笑っていた上山夫妻だが、マモンが破れればみっともなく命乞いをし、息子なのだから助けてくれと縋りついたが俊樹はそれに耳も貸さず、両親が自衛隊に拘束されている姿を冷めた目で見つめていた。

 

「正しい事をするって言うのは難しいんですね」

 

「当たり前だ。何が正しくて、何が間違ってるかなんて俺にだってわからねえよ」

 

正義と悪……口にするのは簡単だがこれほど難しい事はないだろう。1つの側面から見れば正しいことでも悪になるし、その逆も然りだ。目に見える悪党がいて正義の味方がそれを倒してハッピーエンドなんて物語の世界でしか存在しない。

 

「例えばだ。誰か1人が犠牲になれば世界を救えるとして、その1人を殺すのは正しい事か?」

 

「それは……」

 

「俺はそう思うな。1人死んで世界が救えるんだ。ならそれは「じゃあ、武。それがお前の親父だったら?」……」

 

軽はずみに触れて良い問題ではないと分かっているが、自分の父親を引き合いに出され武が黙り込んだ。

 

「葵と翔子はどう思う?」

 

続けて葵と翔子に話を振るが2人とも黙り込んで言葉を発する事が出来ないでいる。

 

「長久さんならどうするんですか?」

 

「俺か? 俺なら……俺の我が侭を通す。人が犠牲にならねえと救われない世界なら滅んじまえば良いだろ?」

 

俺の返事に俊樹達は唖然とした表情を浮かべ、俺を見つめている。だがこれは俺の嘘偽りのない気持ちである……ただその1人が俺と言うのならば俺はその死を受け入れるつもりだがな。

 

「俺がその1人を守った事で世界が滅びるとしよう。周りの人間から見ればそれは悪だろうな、1人が死ねば世界が救われるのにそれを阻む俺は間違いなく悪人だ。だがその殺される1人からすればどうだ? お前が死ねば世界が救われるだから死ねと言われて世界中の悪意に晒され、心休まる場所も信用出来る人間も1人もいないとして、その1人を守ってる俺は悪か? それとも正義か?」

 

俺の問いかけは意地悪な問いかけだ。だが正義か悪かなんて物は言葉遊びに過ぎない。俊樹の正義感は悪い物では無いが、それに引き摺られて大局を見失えば皆が危険になるという事を理解してもらわなければならない。

 

「その人にとっては長にいは正義の味方だよね」

 

「ええ、ですが回りの人間からすれば長久さんは悪党です」

 

「そういう事だ、正義か悪かなんて言葉遊びだ。これは俺の個人的な考えだけどな」

 

正義か悪かなんて物は不確かでその時によってその形を大きく変わるって事を俊樹達もしっかりと肝に銘じておいて欲しいと思っている。

 

「それにな、善か悪を選べるなんて思ってどうするんだ? 自分が正しいと思ってもほかの人間から見れば悪かもしれないし、悪だと思っていたら正義かもしれないんだぞ? 俺達はマモンを倒して渋谷を解放した。だがマッカを献上して優雅な暮らしをしていた奴らからは俺達は悪党だ。だが虐げられていた者からすれば救世主だ。見る側面が変われば感じ方も結果も違うって事を肝に銘じておいてくれ。これからこんな事は幾らでもあるかもしれないんだからな」

 

この崩壊した世界を生きる以上渋谷みたいになってる場所は幾らでもあるんだ。耳が痛いかもしれないが、自分達の行動がどう見られるか、そして正義や悪という観点に囚われては苦しむのは俊樹達だ。今はまだ俺がフォロー出来るが、それもいつまで続くか分からない以上翔子達には正義や悪という曖昧な言葉ではなく、何を言われても折れない信念を持って欲しい。

 

「まぁこの様じゃ偉そうな事は言えないけどな。結局正義だ悪だと言っても極論を言えばエゴの押し付け合いって事を覚えとけば良いと思うぞ」

 

妙な雰囲気になってしまったがこれだけはどうしても覚えおいて欲しかった。耳が痛い話だったかもしれないがマモンとの戦いの傷の痛みと共に教訓になってくれれば良いなと思っていると翔子がその雰囲気を変えようと思ったのか口を開いた。

 

「それよりも、長にい。これからどうするの? やっぱり療養?」

 

「五島を頼るのは嫌だが傷が治るまで動けんし……そうなるだろうな。それに葵もリハビリしないと動けないだろ?」

 

「はい……すみませんが、半年以上閉じ込められてて、まともに動くのも辛いです」

 

思念波で翔子に助けを求めていた葵はレジスタンスのリーダーだった葵だった。どうも生まれ変わりで、大使館で俺達を逃がした葵ではないのだがその時の事ははっきりと覚えているそうなので悪魔か天使か、そのどちらかが関与して葵を生まれ変わらせたのは間違いない。

 

「無理しなくて良いよ。私達も暫く動けそうにないし」

 

「クソッタレ、ギプスが邪魔くせえんだよッ! いつつつッ!!」

 

「何やってるんですか。武、僕達は絶対安静ですよ」

 

動こうとして呻いている武とそんな武に注意をしつつ、自分も顔を歪めている俊樹を見て笑いながらも俺は別の事を考えていた。

 

(……俺の弱点が分かっちまったな……)

 

マモンとの戦いは何時もの通りランダマイザ・ラスタキャンディを発動してからの戦いだった。いや、そもそも圧倒的な実力の差があるのでそれを埋める為に補助魔法を使うのは至極当然の事だ。事実ランダマイザが効いてなければアイアンクローや冥界波と言う強力な技を耐え切る事は不可能だっただろうし、ラスタキャンディで身体能力と反射神経を強化してなければ攻撃の為の事前モーションを見切る事も出来なかっただろう……だがやはり最上位の悪魔だけあって容易に倒せる相手では無く、今までにない長期戦に俺の身体は突如糸の切れた人形のように動かなくなった。

 

「もう大丈夫? 長にい。急に動けなくなったみたいだけど……悪魔の魔法の影響はない?」

 

「しかしあんたみたいに強くても魔法を喰らっちまうと動けなくなるもんなんだな」

 

「大丈夫だ。ほら、もう動いてるだろ? いっつつつ……」

 

誤魔化すように腕を持ち上げて振り、縫合された傷痕が突っ張り思わず呻き声を上げる。

 

「長にい大丈夫!?」

 

「大丈夫ですか? 長久さん。無茶はしないほうがいいですよ?」

 

「その通りです。ただでさえ前に出て戦い続けたんです、無理はせず療養に専念してください」

 

大丈夫かと尋ねてくる翔子と俊樹に療養に専念しろと言う葵に分かってると返事を返してベッドに再び横たわる。

 

(勘違いしたままでいてもらうしかないな)

 

急に俺の動きが止まったのを翔子達は魔法の影響だと思っているようならば、そのまま勘違いしておいて貰おう。布団の下で痺れて動かない右手と左足に力を込めると少しずつ感覚が戻ってくるが指先の感覚は重く鈍いままだ。それに左目の様子がどうもおかしい、どうしてもぼやけてしまって翔子達の姿が霞んで見える。

 

(俺の意識に身体が着いてこれないのを魔法で誤魔化して来たからな……いつまで持つかな……せめて翔子達がまともに戦えるようになるまで持ってくれれば良いが……)

 

この荒廃した世界に、人の悪意に、悪魔の悪辣さをまだ翔子達は理解していない。そしてそれと同時に俺がいる事で翔子達の成長を妨げているのだろう……正直これは良くない傾向だ。役小角が見せてくれた俺の生きれる時間は決して長くはない、武と俊樹が悪魔と天子の力を得て、そして葵と合流した途端に身体が限界を迎えた……それは俺の役目が終わりに向かっているからではないかと言う嫌な予感がどうしても脳裏を過ぎる。

 

(……俺は後どれだけこうして過ごせるんだろうな……)

 

包帯塗れでギプスを嵌めていても楽しそうに笑い、俊樹を励まし互いに寄り添って前に進もうとしている翔子達の姿が遠くに見える。翔子達は生きる為に前に進んでいる……だが俺は死ぬ為に後へと歩み続けている。今はまだ進む道が残っている、だがそう遠くない内に俺の進む道は途絶えるだろう……。

 

(その時まで俺に出来る事はなんでもやろう……多分俺にはもう余り時間は残されてないからな)

 

金剛神界では遠くに聞こえていた死神の足音がもうすぐ近くまで迫っている……いまだ痺れて動かない右手と霞む左目に嫌がおうにも俺の命の終わりが近いのを感じさせられるのだった……。

 

 

 

3周目の世界 3人の救世主 その10へ続く

 

 




天使の力を得て俊樹(ロウヒーロー)は進化、そして救世主葵も参入しましたが、長久の命の終わりが近づいて来ております。左目の視力低下、右手と左足の麻痺と魔法で身体能力を強化してきたツケが出てきたって感じですね。次回はちょっとしたインターミッションとか、そんな感じの話を1度やって見たいと思いますので次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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