収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

29 / 114
3周目の世界 後日譚

3周目の世界 後日譚

 

長久が死んでから世界は大きく変わった……いや、元々俺達はこの世界の変革に巻き込まれていたのだと思う。

 

「何故……お前は我らに逆らう……? お前は我らの理想に……最も近き者である筈なのに……」

 

「黙れよ。俺はてめえらのクソみたいな思想に共感なんてしねえ、てめえもさっさとくたばれッ! アスラ王ッ!!!!」

 

「ぐ、ぐぐうう……お、おのれ……もう少し……後一息で神の千年王国を叩き潰せた物を……カテドラルを……我が手に治め……「うるせえよ、とっととくたばりやがれ」ごがあ……」

 

ぐだぐだと恨み節を口にしているアスラ王の頭に倶利迦羅の剣を突立てその首を跳ねる。

 

「ああ……くそったれ……やっと終わったぜ、畜生」

 

アスラ王との戦いで折れた右腕を押さえて、壁に背中を預けながらずりずりと崩れ落ちる。

 

「……はっ、何が千年王国だ、力が節理の王国だ。ふざけんじゃねえ……俺らがてめえらに賛同するわきゃねえだろうが……舐めんなよ」

 

全ては天使と悪魔の戦いだった。俺達人間はそれに巻き込まれただけ……そんなクソみたいな争いがなければ長久は死ななかったし、東京に住む人間も死ぬことは無かったのだ。

 

「態々人間界に出てくるからだ。腐れ悪魔どもめ……てめえらのクソみたいな理屈に俺達を巻き込むんじゃねえよ」

 

MAGへと分解されていくアスラ王に唾を吐きかけ、倶利迦羅の剣をカテドラルの床に突立て、それにもたれかかるように俺は立ち上がった。

 

「まだ終わりじゃねぇ……待ってろ、翔子、葵、ついでに俊樹……俺も今行くぜ」

 

まだ俺達の戦いは終わりではないのだ。いや、きっと俺達の戦いに終わりなんて無いのだ。神と悪魔のクソみたいな戦いが続く限り、そのクソみたいな争いに巻き込まれて死んだ長久の事を俺らが忘れない限り……俺らの戦いは終わらない、大きかったあの背中に追いつけないままに一生届かない場所に行ってしまった。

 

「俺はあんたのおかげで道を誤らずに済んだぜ……長久さんよ」

 

いつまでもあの背中は俺の目標で目指すべき場所である。その背中が見えている限り、本当の強さを俺に示してくれたその背中を目標に俺は歩みを止める事はない、そしてそれは俊樹も、葵も翔子も同じだ。

 

「救世主なんて柄じゃねえよなあ、俺達はよ」

 

世界を救うなんて事は俺達は考えちゃいねぇ、結局の所俺達は長久を奪ったこの理不尽な世界をぶっ壊してえだけなんだよ……でもな、そんな事をしたらよ、くたばった後にまた説教されちまうからな……。

 

「こんな世界にした天使と悪魔をぶっ殺してやるさ」

 

天使と悪魔がいなければきっと俺は、いや俺達は長久に出会うことは無かった。だが天使と悪魔がいなければ長久が死ぬこともなかったし、こんな荒廃した世界になる事もなかったのだ。何があったとしてもそんな奴らの仲間に俺達がなるわけが無い、憎くて、憎くてしょうがない相手に服従するくらいなら俺は、いや翔子と俊樹だって自ら死を選ぶだろう。

 

「はっ、俺らでてめえらの仲間になる奴なんていねえんだよ」

 

僅かに残っているアスラ王の頭を踏み潰し、痛む身体に顔を歪めながら歩き出す。カテドラルの上層から響く轟音……戦いはまだ終わっていない、こんな所で足を止めている時間はないのだから……。

 

 

 

 

目の前で身体をMAGへと変え消滅しようとしている天使を見ても僕の心は全く動く事は無かった、

 

「何故だ……何故我らに逆らう、その身に我らと同じ大天使を宿しながら、何故このような……悪逆を行なう?」

 

「何を持って貴方は悪逆とするのです? 大天使ミカエルよ。千年王国を作ると言う妄言を吐き、何度も人間を滅ぼそうとし、やっとの思いで復興を始めた人間達の都市を沈めたその行いこそが悪逆だと何故思わないのですか?」

 

「我らに従う善良な人間だけが生きる資格があるのだ……人間は悪であり、悪魔の囁きに簡単に乗り、悪へと堕ちる。そのような愚かな存在は生きるに値しない」

 

「そうですか。分かりました」

 

「おお、そうかッ! ならば汝のMAGと身体を……「何を勘違いしてるんです? 貴方は天使などではない、どんな悪魔よりもおぞましい悪魔だ」……あがあ……」

 

我が意を得たりと近寄ってきたミカエルの頭をカテドラルで手にした天の御剣で跳ね飛ばす。

 

「己……天使を汚した……罪人が……」

 

恨み節を口にし消滅していくミカエルだった者に僕は目もくれなかった。

 

「これが独善的な正義の恐ろしさなのですね」

 

最高位の天使・大天使・熾天使(セラフィム)と呼ばれるミカエル達ですら、自分達が正しいと疑わず、東京の住人を水の中に沈めて殺しても、愚かな存在なのだから殺して当然だと神が降臨する東京に汚らわしい人類がいる事が許されないと悪びれずに言っていた。それがどれほど恐ろしい事なのか、そしてどれ程傲慢な事なのかすらもミカエル達は理解できないし、思わなかったのだ。

 

「……長久さん、貴方のお蔭です」

 

長久さんがいなければ僕はきっと神の教えだからと、天のお告げだからとミカエル達の言葉に耳を傾け、そしてメシア教の教えにはまり何が正しいか、何が間違っているかも考えることもしなかっただろう……。

 

「僕も今行きます」

 

ミカエル達がこのカテドラルに降臨させようとした神は決して神などではない。これ以上東京を、そして今を必死に生きている人間達を殺させる訳には行かない……きっと長久さんも同じ選択をしたはずだ。僕達よりも先に神の降臨する祭壇へと向かった翔子さんと葵の後を追ってカテドラルの最上段へ続く階段へと足を向けるのだった……。

 

 

 

 

 

私は翔子さんのサポートをしなければならないと思いながらも恐怖のあまり一歩も動く事が出来なかった。

 

『何故拒む。我はお前が愛した「黙れ、長にいを侮辱するなぁッ!!」ぐうっ!!?」

 

カテドラル……天使達が作り出そうとした千年王国の母体となる巨大建造物――その最上階の神を呼ぶ祭壇から現れたのは長久さんだった。いや、正しくはセラフ達が呼び出そうとした神が長久さんの姿をコピーしたものだった。

 

『分からないな、我は道睦長久だ。何故我を殺そうとする?』

 

「私を、長にいを馬鹿にするなッ!! 姿形を真似したその姿で喋るなあッ!!!」

 

表情も喋り方の間の取り方も全てが長久さんと同じだった……私が30年前の記憶を持ったまま転生したように、死の定めを背負った長久さんもまた翔子さん達を導くだけではなく、ほかの役目を負った特別な人間だったのだろう……そうでなければ神として降臨した何らかの悪魔がその形を借りる訳が無い。

 

『翔子、お前は我を殺すのか、お前を思って「黙れ。もうこれ以上喋るな」がぁッ!?』

 

鋭い抜き打ちで放たれた銃弾が神の目を穿った。目を押さえて蹲る神を翔子さんはどこまでも無表情に見下していた。

 

『何故、何故殺す、巫女よ。お前が「うるさい、黙れ」があッ!!!」

 

怒りの沸点を越えたのかどこまでも静かに淡々と、仲魔の力も借りず翔子さんは神を追詰めていた。それは自分が大切に思っていた相手を姿だけとは言え穢された事に対する強い憤りが感じられた。

 

「馬鹿なのよ、神を名乗れば全てが自分の想い通りになると思ってるし、姿形を真似れば攻撃できないと本気であの馬鹿は思っているのよ」

 

「百合子さん、貴女はこうなる事を」

 

「知ってるわけが無いでしょう? ただ長久は特別な子だったのよ。翔子と対成す大事な存在、2人が揃えばどんな事も出来る。そんな世界を変えうる存在が翔子と長久だったのよ」

 

カテドラルで仲間ではなく、協力者と同行してくれた百合子さんが悲しそうに、目を伏せながらそう呟いた。

 

『もう許さぬ、手足をもいでから従順になるまで躾けて「あ? てめえ、長久の姿で何を言ってやがる」「許しませんよ……長久さんを馬鹿にするなッ!!」……己、神に逆らう愚か者共がぁッ!!!』

 

武と俊樹の2人も長久さんの姿を使っている神に激しい怒りを露にし、もう神を名乗るあの悪魔は何も出来ずに滅ぼされる事になるだろう。神を名乗った愚かな悪魔は触れてはいけない逆鱗に触れてしまったのだ。

 

(……これは……ッ)

 

30年前、そして今生でも唐突に感じた使命感……私がやらなければならない最後の使命を私は唐突に理解するのだった……。

 

 

 

 

満月の光がカテドラルの神の祭壇へと降り注ぐ……長にいの姿を借りた神を名乗る悪魔が現れた祭壇の前で百合子が腕を組んで待っていた。

 

「良いのね? 翔子。貴女は救世主としてこの世界に残る事も出来るのよ?」

 

その言葉に私は首を左右に振った。長にいの姿を使っていた悪魔を倒し、大天使ミカエルを俊樹が、鬼神アスラ王を武が倒し、私達3人はこの世界を救った救世主と言われた。だけどそんな肩書きなんて私は欲しくもないし、救世主だ、英雄と崇められるような者でもない。

 

「私は長にいを今度こそ助けたいの……英雄、救世主なんて肩書きは欲しくないし、そんな物に未練もないの。長にいに会えるなら、私はそれが良い」

 

「……本当に会えるかも分からないのよ? それでも良いの?」

 

「うん。百合子、私を送り出して欲しい。長にいを探すための旅に」

 

無責任だと、やるべき事をしていないといわれるかもしれない。だけど私にとっては世界よりも長にいの方がずっと重くて大切なのだ。世界と長にいを量りに掛けるのならば、私は迷う事なく長にいを選ぶ。

 

「分かったわ、送り出してあげる」

 

「ありがとう、百合子」

 

この世界には武と俊樹と葵がいる。3人がきっとこの世界を正しく導いてくれる……そう思いながら百合子が祭壇の先に開いた扉に向かって歩き出し……。

 

「おい、翔子。お前1人で探せると思ってるのか?」

 

「水臭いじゃないですか、僕と武も連れて行ってくださいよ」

 

武と俊樹の声に私は足を止めて驚きながら振り返った。

 

「どう……して?」

 

私は2人に声を掛けていない、それなのに何故武と俊樹の2人がカテドラルにいるのかと、私の弱い心が見せた幻なのかと目を擦るが、完全武装の武と俊樹の姿は変わらずそこにあった。

 

「どうしてだ? てめえの吹っ切れた顔を見ればなんかあるって分かるに決まってるだろうが、なぁ? 俊樹」

 

「ええ、翔子さん。貴女は隠し事や誰かを騙す事には向いてないですよ。素直すぎますから」

 

今生の別れになると思って2人に会いに行った時に気付いていた笑う武と俊樹に向かって歩き出しそうになったのと踏み止まる。

 

「駄目だよ。この先に行ったら帰って来れないんだよ? 2人はやる事がある筈」

 

3人の救世主として讃えられて、市長みたいになってる2人に考え直すべきだと言うと武はいたずら小僧のような顔で笑った。

 

「救世主だ、英雄だぁ? んなもん俺に向いてるわきゃねえだろ? それによ……その先に長久がいるんだろ? このまま勝ち逃げされたくねえんだよ。俺はな」

 

「僕はあの人を助ける事ができませんでした。だから今度は僕が助けたいんですよ」

 

勝ち逃げさせたくないと言う武だが、その言葉が本意ではないことはその顔を見れば分かった。

 

「帰れないんだよ?」

 

「それはお前も同じだろ? お前はどこか抜けてるからな。お前1人じゃ心配なんだよ」

 

「連れて行ってください。僕も救世主だ、英雄だなんて言われるのは性じゃないんですよ」

 

もう戻れない旅なのに付いて来てくれると言う武と俊樹の言葉に私の目から涙が溢れた。

 

「良いの? もう戻って来れないよ?」

 

「かまやしねえ、なーに、葵が残ってくれる。五島のおっさんと葵がいりゃぁなんとでもなるだろう」

 

「2人に押し付けるようで申し訳ないとは思っているんですけどね、翔子さんを1人で行かせるわけには行きませんから」

 

カテドラルに挑んだ時の装備を身に付けている武と俊樹は最初からそのつもりだったのだろう。自分1人で長にいを探しに行くつもりだったのに一緒に付いて来てくれると言う武と俊樹に向かって私は深く頭を下げた。

 

「急ぎなさい、これ以上は扉を維持出来ないわよ」

 

百合子の急ぎなさいと言う言葉に私達は頷き、開かれた扉に向かって走り出す。きっとこの先には私達の旅よりもずっと過酷で辛い世界が待っているだろう……だがそれでもその先に長にいがいるのならば、長にいが1人で孤独で戦っているというのならば……。

 

「行くぜッ! 今度こそ長久の助けになるぞッ!!」

 

「ええ、もう足手纏いにはなりませんよ」

 

「うん、行こうッ!!」

 

後悔しない為に私達は開かれた異世界に続く扉の中へ飛び込んで行くのだった……。

 

 

「貴女は良かったの?」

 

光の中に消えた翔子達を見送った百合子は階段に視線を向けて問いかけると葵がゆっくりと階段を上がってきた。

 

「はい、私にはやるべき事がありますから」

 

「翔子達がいなくなったと知れば天使達はまた侵攻してくる。それを食い止めるつもりかしら?」

 

「……そのつもりですけど、完全に食い止める事は出来ないでしょうね。間違いなく地球は天使に支配される」

 

翔子、武、俊樹の3人が抑止力となり天使の侵攻は止められていたが、3人がいなくなったと知られれば間違いなく天使は再侵攻を始めるだろう。そしてそうなれば今度こそ千年王国は建築され、ディストピアになるだろう……それを分かってなお葵は翔子達を止める事無く送り出した。

 

「……私はその戦いの中で死ぬでしょう、そしてまた転生する。長久さんが再び戻ってくる時まで、何度も転生を繰り返して、天使に頭を垂れて少しだけの人間を生かすんです」

 

「それを変える事は出来たのよ? 翔子達についていけばね」

 

百合子の言葉に葵は困ったように笑いながら首を左右に振った。葵は自分の運命を、そして自分の死を受け入れ、そしてその上で自らの道を選んでいたのだ。

 

「私にだってやりたい事があるんですよ、世界を救ったのは3人の救世主だけじゃない、3人の救世主を導いた導き手をこの世界に広めたい、絶望の中にだって希望はあるって伝えるんですよ」

 

葵が残った理由――誰にも知られていない長久を希望の導き手として、翔子、武、俊樹を導いた英雄とするのだと笑う葵から百合子は背を向けた。

 

「そう、頑張りなさい。気が向いたら助けてあげるわ」

 

「ありがとうございます。百合子さんもお元気で」

 

この後百合子と葵が予見したとおり天使の再侵攻が始まり……人間を束ねてその侵攻に抗った葵は四大天使との戦いの中で死亡、カテドラルに天使達は次々と再臨し──千年王国を建築する為に再び地上に大洪水を発生させ、東京全土を水没させた後にカテドラルを中心に巨大建造物「TOKYOミレニアム」を完成させたのだった。

 

悪魔人間となっていた五島は自らに協力してくれた古き神と共に千年王国の建築阻止の為に戦ったが、最終的には天使に敗北し、古き神々と共に地下世界へと幽閉された。

 

そして天使の助力を得たメシア教は再び力を付け、天使によって発生させられた大災害から人間を救う事で爆発的にその勢力を増大させ、東京を支配する一大勢力となり、実質的な地球の支配者となるのだった……。

 

 

 

 

4周目の世界 滅びを求める地球意思 その1へ続く

 

 

 




これにてメガテン1編は終わりです。ヒーロー・カオスヒーロー・ロウヒーローの三人によって救われた世界ですが、3人は長久を求めて世界を旅立って行きました。これによってメガテン2へと繋がりますが、流れは大幅に変わる予定です。次の世界は滅びを求める地球意思と言う事で前回のラストで少しだけ書いた「ストレンジジャーニー」および「ディープストレンジジャーニー」の世界で進めて行こうと思います。それでは次回の更新もどうか宜しくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。