4周目の世界 滅びを求める地球意思 その3
澪に背負われながら医務室に向かう道中で俺は必死に得た情報を整理していた。峰津院長久は幼いが決して馬鹿ではなく、むしろその頭の回転は尋常じゃなく早かった。下手をすると高校生だった俺よりもずっと頭が良いかも知れない……つまり何が良いたいかと言うと峰津院長久は紛れも無く天才であった。そして葛葉の知識、悪魔との戦いで得た経験……それらを峰津院長久の頭脳は100%……いや120%理解していた。
(……そんな事を覚えているなら、俺としてはもっと別の事を覚えていたかったけどな)
悪魔の知識、そして悪魔との戦い方を覚えているくらいならば……もう覚えていない少女の事を覚えていたかった。だが今はそんな事を考えている場合ではなく、医務室に現れたと言う悪魔を倒す事が最優先だ。
(どうせなら……いや、止めよう)
どうせ思い出せなくて忘れてると言う事だけしか分からないとしても……大切な誰かが居たという事だけは忘れたくない、そう思った。
「ゴア隊長ッ! これ今速攻で作った傷薬ですッ!! 使ってくださいッ!!!」
資材室から顔を出した女性の隊員がボトルのような物を投げ渡してくる。澪にしがみ付いているので必死な俺は受け取れなかったが、一緒に医療室に向かっている機動班のクルーは勿論、澪やゴア隊長は片手でそのボトルを受け取り、デモニカスーツの腰の鞄へと入れる。その間も走りっぱなしで、かなりの容量に入ったそれを走りながら、しかも片手で受け取ると言う荒業を見て俺は正直驚いた。
(これで悪魔が見えていたらな)
やはり訓練を受けた軍人の身体能力は凄まじい物で、これでゴア隊長達が悪魔を見る事が出来ればと思わざるを得ない。
「チェンッ! 感謝するッ! 悪魔がどこにいるか分からない、君も周囲の警戒を怠るなよッ!!」
了解と返事を返すチェンさんはヘルメットを被り、護身用らしい銃を構えながら資材室へと踵を返す。気弱な女性に見えたが、その澱みのない動きを見るとやはり彼女もしっかりと訓練を受けた軍人なのだと一目で分かる。
(これだけやばいって事か……)
ゼレーニンさんが言っていたシュバルツバースの説明を聞けば、人類全滅の危機である事は間違いがなく、調査隊に選ばれたメンバーが国連で選ばれた選りすぐりのエリートと言うのも頷ける。
「医療室に突入するぞッ! 各員、周囲の警戒を怠るなよッ!!」
ゴア隊長がそう叫んで真っ先に自身が医療室へと飛び込み、澪達もその後に続いた。
「ゾイ! 大丈夫か!?」
「ゴ、ゴア隊長! レッドスプライト号の天井の隙間から化け物が出て来て……きゃあッ!?」
ゾイさんに向かって鋭い鎌のような伸びる。ゾイさんは辛うじて回避したが、腕を切ったのか右腕を押さえている左手の隙間から鮮血が滴り落ちるのが見える。
『ニンゲン……』
『ニンゲンだ……』
『コロセ、ニクキニンゲンヲコロセエエエッ!!』
医療室に居た悪魔はスライムだったが、やはり降車デッキで見たスライムと同じで、身体の一部に別の悪魔の特徴があったのだが、その中の一体を見て俺はぎょっとした。
「澪! ゴア隊長! あの奥のスライム! あれを狙ってください早くッ!」
カボチャ頭と融け掛けたランタン……その特徴を持つ悪魔を俺は知っている。
「あんなコミックのキャラ見たいのが怖いのか坊主? 大丈夫だ、俺達があんなピエロもどきぶっとばしてやるぜ!」
アメリカでピエロ恐怖症と言うのがあると言うのは知っているが、そうじゃないのだと俺は声を上げた。
「違うッ! あの悪魔は広域に広がる炎の魔法を使うんですッ!! 全員炎に巻かれることになるッ!!」
『モエロォッ!』
【マハラギ】
ジャックランタンがスライム化したであろう悪魔の頭上のランタンが赤く輝き、視界を埋め尽くす勢いの炎が俺達に迫ってくる。後には医療室の設備があり、避ければ設備が、だが避けなければ間違いなく死ぬ……完全に詰みだと分かる状況で誰もが動きを止める中ゴア隊長だけが動き出した。
「全員伏せろッ!!」
そう叫び、俺が横になっていたベッドを蹴り上げマハラギの炎の帯にぶつける。本来のマハラギならばベッドなどをぶつけても相殺することは出来ない。だが消滅寸前でスライムに成り掛けているジャックランタンにはマハラギを維持し続ける力は無く、ベッドを燃やし尽くすと同時に炎の帯は乾いた音を立てて消え去った。
「そこだッ!!」
『ギャアアアアッ!?』
炎が消えると同時にゴア隊長が放った銃弾がジャックランタンの頭に風穴を開け、スライムに変貌しかけていたジャックランタンが断末魔の雄叫びを上げながらその身体をMAGの光へと変える。
「残るスライムは2体だッ! 冷静に対応しろッ! 1人で戦おうとするな、囲んで確実に処理するんだッ!!」
戦闘力だけではない、その判断能力、広い視野……ゴア隊長がこの未曾有の事態に指揮官として選ばれた理由が良く分かった。
(なんという冷静で的確な判断力なんだ……)
マハラギを相殺する為の動きはシーツが広がる事で悪魔の視界も同時に奪っていた。そして頭を下げろと言う指示で俺も澪達も炎に焼かれることは無かった、炎が消えると同時に放った抜き打ち……冷静で的確な判断力だけではなく、自分の行動に絶対の自信と迷いを持たないからこそ出来る……いや、それだけではない少しでも間違えれば誰かが死ぬと言う中でGOサインを出せる勝負度胸……そのすべてに俺は驚いた。
「良し、医療室は奪還した1度司令部に「ゴア隊長大変ですッ! レッドスプライト号の中の悪魔によってクルーが艦外に連れ去られました!!」
デモニカスーツだけではない、艦内放送によるクルーが連れ去られたと言う言葉に医療室にいた全員に衝撃が走った。見捨てるか、救出に向かうか……まだ外の状態を十分に把握出来ていない中で俺達は選択を強いられる事になるのだった……。
まだ再起動していないアーサーのモニターの前で私は深い溜息を吐いた。シュバルツバースに突入してからまだ1時間も経っておらず、調査も始まっていないのに状況は悪化の一途を辿っていた。
(……決断をしなければならない)
クルーを救出する為に外に出るか、悪魔に攫われたクルーを見捨てるか……その決定権は隊長である私にある。
「皆良く聞いてくれ、悪魔によって我々の仲間が攫われると言う最悪の事態に陥っている。だがこういう事態だからこそ、判断力を持って、落ち着いて行動してくれ……その為にまずクルーを救出する」
クルーを救出すると言う選択を私はした。攫われたクルーは代わりの居ないエキスパート揃い、補給も、応援も、他の3隻との合流も期待出来ない今、レッドスプライト号のクルーだけで調査を成し遂げる為には悪魔に奪われたクルーを取り返す必要がある。
「ゴア隊長。複数名の機動班は艦内の巡回を続けています。ただあれ以降悪魔の気配はないそうです」
「良し、分かった。だが気を緩める事無く巡回を継続させてくれ、カトー攫われたクルーはどうなっている」
救出を選択した私に反論するわけでも無く、現状を報告してくれるタイラーに感謝しながら司令部のカトーに攫われたクルーについて尋ねる。
「攫われたのは現在時点で通信班1名、観測班1名、インフラ班1名、そしてラボのアーヴィンの4人までは確認出来ています。しかしまだほかに攫われたクルーがいないとは言い切れません」
シュバルツバースに突入してから襲撃を受け続けている……クルーの点呼なども行なえていないし、悪魔に襲われ死んだクルーの確認も済んでいない状況だ。司令部も混乱しているというのも分かっているが状況は私の想定していた物よりも遥かに悪かった。カトーからの報告にあったクルーの1人……アーヴィンは我々の生命線と言える人物だったからだ。
「アーヴィンまで攫われたのか!? なんと言う事だ……アーヴィンが居なければ物資や武器の補充が出来ないッ! 観測班外気の分析はどうなっている! 艦外での活動は可能か!?」
『チーフが悪魔に攫われてしまったので詳細データにアクセス出来ませんが……デモニカさえ着用していれば人体に影響は出ないようです』
デモニカスーツが無ければ駄目と言う報告に私は目を伏せた……振りをして内心は安堵の表情を浮かべていた。悪魔の専門家である長久君用のデモニカスーツはない、つまり長久君を艦外に連れ出せないことを意味している。彼は責任感が厚く、勇敢だが彼はまだ10にも満たない子供なのだ。艦内では非常事態と言う事で同行させたが、外に連れて行けないと聞いて正直安堵していた。
「……良し、行動を急ごう。機動班クルーは全員出撃準備を急いでくれ、艦外の位置情報は無いが、ここを戦区。「セクター」と呼称し、
名称コードを発行する。当該セクターは「A」……セクター・アントリアと呼称する」
『ゴア隊長! 動力班より報告します! プラズマ装甲の展開に成功しました!!』
テリーの報告はシュバルツバースに突入してから初めての明るいニュースだった。
「良くやった! これで艦内の安全は確保された。機動班は攫われたクルーの救出に注力してくれ! では出撃準備を急げッ!」
「ゴア隊長! 僕は……僕も同行します!」
司令部を出ようとした私に向かって長久君がそう叫んだ。私は足を止めて他の機動班クルーに先に行くように目で促す。すると澪だけを残して他の機動班クルーは出撃準備をするために司令部を飛び出す。
「若様、外はデモニカスーツが無ければ活動出来ないのです。どうか司令部にお残りください」
「でも、でも澪! それは僕は何の為に……」
澪の言葉に嫌だと首を振る長久君の前にしゃがみ込んで視線を合せる。
「長久君……君の勇気と献身にシュバルツバース調査隊の隊長として深く感謝する」
最も幼い長久君が誰よりも責任感を持って行動してくれている事を恥じねばならない、本来子供を守るべき大人が子供に守られているというのは余りにも恥ずかしく、そしてみっともない話だ。
「君はとても良く頑張ってくれている。だが君は戦う為に調査隊に招かれたのではない、君はアドバイザーであり、そして子供なんだ。悪魔も見えない、悪魔の事も知らない私達を心配してくれている気持ちはよく分かる」
医療室に居た悪魔だって長久君の言葉が無ければあの炎の帯で何人かは重傷を負い動けなくなって居ただろう。それほどまでに長久君の助言は悪魔と戦う事において必要な物であることは間違いない。だが戦場に連れて行き、不慮の事故で長久君を失う訳にも行かないのだ。
「観測班にデモニカスーツのカメラと司令部のモニターを繋げる様に頼んである。そして高性能の通信装置も準備が完了している、長久君。君は司令部からモニターに映る映像を見て我々に指示を出して欲しい」
彼の責任感を考えればそれでも納得してくれない事は分かっている……だが長久君の知識はこれから先シュバルツバースを攻略するのに必要不可欠だ。彼の力も借りたいが、彼を死なせる訳には行かない。
「ゴア隊長」
「悪いが問答をしている時間はないんだ。カトー、長久君のフォローを頼む。澪、行くぞ」
「はい! 若様、行ってまいります」
強引に話を切り上げて司令部を後にし、降車デッキへと走る。
「ありがとうございます。ゴア隊長」
「いや、礼を言うのは私の方だ。長久君、彼が居なければ我々は悪魔とのファーストコンタクトで全滅していた筈だ」
悪魔を見る事が出来なかったのだ。間違いなく長久君が居なければ我々は最初の悪魔の襲撃を退ける事も出来ず全滅していただろう。
「彼はシュバルツバース調査隊の、いや、地球を救う為に必要な人材だ。これ以上無茶はさせれん、長久君を安心させる為にも私達だけでクルーの救出を達成するぞ」
「はいッ!」
いつまでも子供に守られているなんて情けない真似は出来ない……長久君に安心して貰うためにも、この救出作戦は我々だけで達成しなければならない。
「待たせてすまない、準備は完了しているな。行くぞッ!!」
「「「「イエッサーッ!!」」」
そしてそれは機動班のメンバーも同じで、気合の入った返事と敬礼に私も敬礼を返し、開かれた降車デッキからシュバルツバースへ足を踏み出すのだった……。
ゴア隊長から長久のフォローを命じられた訳だが……正直に言えば、何故こんな子供のフォローをしなければならないと言うのが私の嘘偽りの無い気持ちだった。
(確かに専門家だろうが……それとこれとは話は別だ)
長久は何かを隠している。いや、もっと言えば内心では悪魔について無知な私達を嘲笑っているかもしれない。それに澪に若様と呼ばれていることから旧家の人間なのは分かるが、その関係を調査隊にまで持ち込むのは如何な物かと思っているのはきっと私だけではないだろう。
『悪魔を発見したが、姿を正確に確認出来ない。長久君、そちらから悪魔を確認出来るかね?』
デモニカスーツのカメラから送られて来た映像はノイズ混じりの何かが動いているようにしか見えず、悪魔がいると言う事は分かるがそれ以上は分からない。
「……ゴア隊長、いや、ゴア隊長だけじゃないんですが……おしゃべりは得意ですか?」
「は?」
喋るのは得意か? と尋ねる長久に思わず声を出してしまう。この窮地の中で何を言っているんだと言う嫌悪感と共に長久に鋭い視線を向けるが、長久はそれを気にせずゴア隊長からの応答を待っていた。
『お喋りか? んん、演説や士気を上げるような事を言うのは得意だが……』
「それだと不味いですね。えっとじゃあ、子供の扱いに慣れてる人はいますか?」
『若様、私が』
澪が挙手するが長久は渋い顔をするので、思わず私は長久に問いかけた。
「お前の世話係じゃないのか?」
「……ああ、いや、まぁそうなんですけど……ちょっとねえ? 澪はズレてる所ありますし、僕もですけど……この場合は不適格と言いますか……うん、澪」
『はい!』
「ちょっと下がっていようか」
『…………はい』
物凄く落胆した感じで小さくなる澪に変わって、機動班のクルーが手を上げた。
『私はベビーシッターの経験があるけど、それでも大丈夫?』
「バッチリです。えっとじゃあ、あの悪魔にコンタクトを取ってくれますか?」
『えっとコンタクトって?』
「声を掛けてください」
声を掛けろと言う長久に司令部がざわめき、私も黙っていられず声を上げた。
「悪魔は我々を襲って来るんだぞ! 声を掛けろ何て正気か!?」
「正気も正気ですよ、カトーさん。今はまだ良いですよ、でももっと高位の悪魔が出てきた時に人間だけで勝てると思っているんですか?」
その鋭い視線に気圧された。軍人である私が自分の年齢の半分にも満たない少年に気圧されたのだ……それだけの迫力が長久にはあった。
『長久君、大丈夫なのかね?』
「はい、こっちからはしっかりと悪魔の姿が見えています、その悪魔は妖精ピクシー。比較的人類に友好的な悪魔です、ゴア隊長。僕を信じてください」
『……了解した。頼めるか?』
『はい、分かりました』
女性の機動班が一歩前に出るとノイズ交じりの声とも思えない声が司令部に響き渡る。その声は敵意があるように感じられて、本当に大丈夫なのかと言う不安が脳裏を過ぎる。
「だ、大丈夫なの!?」
「大丈夫です。良く見ていてください、ピクシーが姿を見せますよ」
『あは、ごめんごめん! 人間はこうしないと私の姿が見えないんだよね? どう? これで見える?』
モニターから響いたのは鈴の音のような可憐な少女の声。そしてそれに続くようにその姿が見えるようになり、私達は目を見開いた。
「……本当に妖精なのか」
「昔絵本で見たまんまだ……」
モニターに映る悪魔はレオタードのような服に身を包み、蝶の羽を持つ小さな少女の姿をしていた。私達が最初に戦ったスライムとは似てもにつかぬその姿に言葉を失う者もいる……恥ずかしい話だが、私もその口だった。
『ねえ、こんにちは!』
『こんにちは……』
『えーそんなに脅えないでよ? 私はねー、人間さんと話がしたかったんだ』
明るい子供のような声だ。敵意などを感じない、幼い少女の声がモニターから司令部内に響いた。
『えっと……ごめんね? 悪魔を見るのは初めてだから』
『そうなんだ! 私も人間を見るのは初めてだよ! おあいこだね』
にこここと楽しそうに笑い、蝶の羽を羽ばたかせる悪魔は機動班の周りを飛び始める。
「大丈夫なのか? 行き成り攻撃してくるなんて事はないだろうな?」
あのまま攻撃されれば間違いなく重傷を負う者もいるだろう、本当に悪魔を信用して大丈夫なのかと言う不安が鎌首をもたげる。
『此処から先に行くとこわーい悪魔が沢山いるよ? 人間だけだと死んじゃうかも』
『……そんなに?』
『うん、私はほら弱い悪魔だからここまで逃げてきたんだ。でもそこで人間さんに会えるなんて私は運が良いのかもしれないね、ねぇねぇ? 仲魔になってあげようか?』
『仲間? なってくれるの?』
『うん! だからねー10マッカ欲しいなー?』
急に物をねだり始めた悪魔に私の眉間に皺が寄った。それにゴア隊長達も困惑する素振りを見せている。
「要求に応じてください」
『え、あ。うん、はい。10マッカで良いのよね?』
悪魔を倒す事で得たマッカと言うエネルギーを悪魔に渡すと悪魔はそれを両手で受け取って嬉しそうに笑った。
『んーじゃあ次は少し貴女のパワーが欲しいなあ?』
「おい、本当に大丈夫なのか?」
パワーは恐らく生命力を意味している筈、そんな物を渡して大丈夫なのかと思わず声が荒くなる。
『長久君、大丈夫?』
「ピクシーならそんなに沢山の生命力は吸えません、少し苦しいと思いますが応じてください」
『……分かった。良いわよ』
『わーい、ありがとー!』
悪魔が手を突き出すと赤い光が機動班の身体から抜き出される。
『うっ……』
『大丈夫か!?』
『ちょっと立ちくらみしただけ、大丈夫よ。これで良いのかしら?』
『うん! ありがと! 私は妖精ピクシー、コンゴトモヨロシクね?』
そう笑うとその悪魔は細かい粒子になり、機動班クルーのデモニカスーツに吸い込まれて消えた。
『デモニカに新機能が追加されました! 悪魔召喚と悪魔のところにピクシーの名前が!召喚して見ても大丈夫かしら?』
「大丈夫です。召喚してみて下さい」
『分かった。召喚してみるね』
デモニカスーツを操作するとさきほどの悪魔が何時の間にか機動班の肩に座っていた。
『やっほー♪ お手伝い何かすることある?』
ニコニコと友好的な素振りを見せる妖精ピクシーの姿に思わず毒気を抜かれた気分だった。
「悪魔と会話をすることで仲魔にすることが出来ます。ですが悪魔の情報がなく、その姿が見えない時は会話になりません。まずは悪魔を倒してMAGを収集して情報を集めてください」
『了解した。ほかに気をつける事はあるか?』
「あります、悪魔が全て仲魔になるわけではありませんし、要求を呑んでも仲魔になるとは限りません。それに僕も全部の悪魔を知ってるわけではありません。会話という手段があり、仲間になってくれる可能性があると言う事だけを覚えておいてくれれば良いと思います」
『了解した。もしも長久君が知っている悪魔がいて、仲間になるものが居たら教えて欲しい。良し、では行くぞ!』
ゴア隊長の号令の元機動班が悪魔に攫われた仲間の救出。その為に悪魔を仲魔にすると言う作戦を始めるゴア隊長達。
「少しずつですけど悪魔を仲間にしてるみたいですね」
「……これがシュバルツバースで生き残る為に必要ならば我々も順番で悪魔を仲魔にする必要があるかもしれんな」
仲魔になる悪魔はピクシーとノッカーの2体だけだが、単純に手数が倍以上に増えると言うのは僚艦を失い、クルーも動けない者が多い現状は日本で言う猫の手も借りたいと言う状況だ。まぁ借りているのは悪魔の手だが……シュバルツバースの調査を続ける上で悪魔の力が必要不可欠と言うのは認めざるをえない事実である。
(……思う事はあるが、評価を改めねばならないか)
長久に関しては思う事はあるし、彼を送り込んで来た日本にも不満はある。だが悪魔の専門家としてその知識を持って我々を助けてくれているのは紛れもない事実であり、私は長久に対する先入観を改めねばならないと感じた。自分の偏見と先入観によってクルーの感に疑いや疑惑の種を作るのは私に取っても本位ではない。皆で協力し合ってこの調査に望まねばならないと改めて実感したのだ。
(1度休息を勧めるか)
長久の身体が少し揺れている。大人である我々も疲労を感じているのだから、子供の長久の疲労はもっと深刻な筈だ。
『カトー、悪魔に攫われたクルーは全員発見した。今より帰還する』
「了解です。降車デッキに医療班を待機させておきます」
クルーの確認に時間が掛かってしまったが、最終的に計6人のクルーが悪魔によって拉致されていた。
(全員連れて帰れたのは奇跡だな)
ゴア隊長と機動班には悪いが、全員連れて帰れると思っていなかった……恐らくゴア隊長達もそうだろう。
「ふう……」
全員生存、全員救出を成し遂げる事が出来たのは紛れも無く長久の存在が大きい。オペレーターとして、そして悪魔の専門家として長久は的確なサポートを続けてくれた。その疲労は察するに余りある、司令部のクルーが目配せしてくるがそれよりも先に私は長久に歩み寄って居た。
「長久。1度……」
「カトーさん! セクターアントリアの奥に同型機と思える質量を感知しました!」
1度休めと声を掛けようとした時。回復したレッドスプライト号の機能の確認をしていたクルーがそう声を上げた。
「照合と通信を試せ! ゴア隊長に判断は仰ぐが間違い無く捜索に出るはずだ! 補給物資の準備を急げッ!」
「「「了解ッ!!」」」
同型機の反応を感知した事で司令部は再び慌しくなり、クルー達が次々と司令部を出て再出撃の準備を整え始める。
「長久、休んでもらおうと思ったが……まだ大丈夫か?」
「全然大丈夫ですよ。カトーさん」
そう笑う長久だがその顔には濃い疲労の色が浮かんでいるのを見て、私は司令部の女性クルーに視線を向けた。
「ココアとチョコレートを準備してくれ」
「了解です。すぐ持って来るから待っててね、長久君」
「……すみません」
「気にするな、我々は君に助けられているんだ。本当は休んでもらいたい所だが、そうも言ってられない。せめて甘いものを食べて休んでくれ」
チョコレートとココアくらいで長久の疲労が回復するとは思っていないが、不甲斐無い事に今の我々に出来るのは幼い子供に責任を押し付け、酷使する事だけであり、私は己の無力さに拳を握り締めた。もう私の中に長久に対する不信感が消えていたのは言うまでもないことだろう……。
4周目の世界 滅びを求める地球意思 その4へ続く
次回で1回しっかり書くのは終わりで、その次からは要所要所の話のピックにしたいと思います。ストレンジジャーニーはかなり濃厚なシナリオですし、全部を書くのはさすがに無理ですしね。次回ヒメネス登場、どうなるか楽しみにしていてください。