収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

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4周目の世界 滅びを求める地球意思 その7

 

4周目の世界 滅びを求める地球意思 その7

 

リャナンシーとマカラに血を与えて意識を失った俺が目を覚ましたのは澪達が2つ目のセクターボーティーズに観測用のビーコンを打ち上げる為の作戦行動中だった。ゾイさんにそう聞いて、俺は慌てて司令部に向かおうとしたのだが……。

 

「まだ寝てなさい、動ける状態じゃないんだから」

 

「寝てる場合じゃないですよッ! って……あ、あれ……」

 

寝ている時間なんてないとベッドから飛び降りた立ちくらみがし、立っていられずにその場に膝をついた。

 

「ほら、いわんこっちゃないッ! 長久君、君は今とても消耗しているのッ! どうしても司令部に行きたいなら車椅子を用意してあげるから少し待ちなさい」

 

「すみません」

 

3歩も歩く事が出来ず崩れ落ちた俺を抱き上げて車椅子に乗せてくれるゾイさんに謝ると頬を軽く摘ままれ、そのまま揉まれた。

 

「えっとゾイさん?」

 

「貴方は頼るって事を覚えたほうがいいわね、頼りっぱなしの私達が言えることじゃないけど……そんなに難しい顔をしてないで少しは笑っても良いのよ」

 

笑顔笑顔と笑うゾイさんにつられて笑うとゾイさんは俺の頭を撫でて笑った。

 

「うん、そっちの方がいいわよ。あと連れて行ってはあげるけど療養が第一だから目が覚めましたって伝えるだけよ」

 

「え、でもそれじゃあ」

 

「それで良いのッ! 病人なんだから医者の言葉に従うッ!」

 

「は、はいッ!!」

 

笑顔が怖いって初めての体験かもしれない、俺は思わず背筋を伸ばしてゾイさんに返事を返すのだった……。

 

「遅れてしまってすみません、ゴア隊長」

 

「長久君。無理をする必要はない、まだ休んでいてくれて良いのだぞ?」

 

つくづくゴア隊長は聖人だと思う、どこぞのうさんくさい褌とは……。

 

(……なんでまた褌がちらついた?)

 

なんか良い笑顔で褌の男が一瞬脳裏を過ぎったが……そんな変態は知らないので多分気のせいだろうと思いなががらモニターに視線を向ける。

 

「今度も凄い世界ですね」

 

けばけばしいというか毒々しいというか……見ているだけで目が痛くなってくる光景だ。行った事は無いがパチンコ店のような印象を受けた。

 

「長時間の活動は精神上も余り良くないと私は考えている。時間は掛かるがビーコンの射出は段階を踏んで班を交代しながら行なおうと思っている」

 

「んーそういうのは僕は分からないのでゴア隊長にお任せします。僕は悪魔の専門家で軍事活動については素人ですから。そちらの方はゴア隊長達にお任せします」

 

餅は餅屋と言うし、悪魔との戦いには助言も出来るが軍事活動に関してはゴア隊長達の決定の口を挟むつもりはない。

 

「ゾイ。長久君を医療室へ、まだ彼の出番はない。休ませてやって欲しい」

 

「了解です。さ、長久君。部屋に帰りましょうね」

 

ゾイさんの言葉に頷き司令部を出ようとした所で奇妙な声がモニターから聞こえて来たのは……。

 

【あはははは】

 

【きゃはははは】

 

【イヒヒヒッ!!】

 

様々な耳障りな笑い声は紛れも無く悪魔の声だ。だがゴア隊長達には聞こえていない様子でビーコンを射出する装置をセットしている澪達を見つめているだけだ。

 

「さ、澪さん達が戻るまでもう少し休んでましょうか」

 

「はい、分かり……待って、待ってください」

 

俺に声を掛けて司令部を出ようとするゾイさんにこのまま司令部を出たら取り返しの付かないことになると気付いて声を上げる。

 

「どうかした? もうすぐ澪さん達は戻ってくるわよ?」

 

「違うんです。悪魔です、悪魔が澪達の近くにいるッ!」

 

「何ッ!? 観測班悪魔の反応はあるか!?」

 

「あ、ありません! ちゃんと観測しています!」

 

俺の言葉に心外だと言う様子の観測班には悪いとは思ったがそうも言ってられない。澪とヒメネスさんと行動を共にしている機動班の1人の様子がおかしい。

 

『おい……誰だよ……さっきから………何がそんなに可笑しいんだ? クスクス笑うなよ……ッ! ヒメネス、澪、お前らか? お前らが俺を笑ってるのか……?】

 

『ノリス。誰も笑ってなんかいないぞ? こんな状況で笑えるわけないだろう? 澪、お前も聞こえてないだろ?』

 

『ええ、誰も笑ってないわよ?』

 

ヒメネスさんと澪が笑っていないと言われノリスさんが目に見えてうろたえる。

 

「いけないッ! ゴア隊長、マイクをッ!」

 

「あ、ああッ! 誰でもいい、長久君に通信機をッ!」

 

澪達のやり取りを見ていたゴア隊長もただ事ではないと分かってくれたのか、俺にマイクを渡すように指示を出してくれた。

 

「長久君、これッ!」

 

「ありがとうございますッ!」

 

差し出された通信機を受け取り、通信機の電源を入れる。

 

『聞こえる、聞こえるんだよ。誰かがずっと笑ってるんだよ』

 

『誰も笑ってねぇってんだろ。しっかり「ヒメネスさん! ノリスさんの背中を思いっきり叩いてくださいッ!」は? 長久か? 何を「いいから早くッ!」お、おう』

 

ヒメネスさんがノリスさんの精神にトドメを刺す前に通信が繋がって良かった。ヒメネスさんが困惑しつつ大きく振り被り平手をノリスさんの背中に叩きつける。

 

『いぎいッ!?』

 

【わわッ!?】

 

【び、びっくりしたあッ!?】

 

画面越しでも思わず身体が竦むような音が響き、ノリスさんの呻き声と悪魔の声が響き、小さな人型のような悪魔が2体姿を見せた。

 

「澪射撃ッ!」

 

『了解ッ!!』

 

悪魔が再び姿を隠す前に澪の放った銃弾が悪魔……ポルターガイストを撃ちぬき、MAGの光になって消滅する。

 

「ゴア隊長。澪達に帰還命令をお願いします、また憑依されると今度こそ危険です」

 

「分かった。澪、ヒメネス、ノリス。ビーコンの射出は確認した直ちに帰還せよ、ノリスに起きていた事態は帰還後に長久君から改めて説明がある。今は急いで帰還してくれ」

 

『『『了解』』』

 

澪達は返事を返すとビーコンの射出装置を回収し、帰還の準備を始める。その姿を見ながら安堵の溜息を吐いて、握っていた通信機をゾイさんに差し出す。

 

「長久君、悪魔の反応は無かったのに、なんでノリスは悪魔に攻撃されていたの?」

 

ゾイさんは俺の差し出した通信機を受け取り、ノリスさんに何が起こったのかと尋ねてくる。

 

「デモニカとレッドスプライト号の今のレーダーじゃ感知出来ないタイプの……多分隠密行動に特化した極めて存在感の薄い悪魔だからだったと思います」

 

ポルターガイストは弱い部類の悪魔になるが絡め手に特化した悪魔と言える。多分だけどさっきのノリスさんの状態は混乱か錯乱、あるいは狂乱状態に近い物だったと思う。

 

「このセクターの悪魔はアントリアと違って絡め手を使う悪魔がいるという事か……」

 

「厄介な事になってきたみたいですね」

 

精神に異常を来たさせる魔法と言うのは多くあリ、それらを扱う悪魔は総じて回避や治癒魔法に秀でており、そう簡単に倒せない非常に厄介なタイプの悪魔になる。更に言えばもっと怖いのはシュバルツバースという異常空間にいることで発狂したのか、悪魔による攻撃で発狂したのか判断が付きにくい事だ。疑心暗鬼に陥り、仲間を信用できなくなると言うのは非常に怖い物になる。混乱して悪魔が仲間に、仲間が悪魔に見えるようになったらそれこそ最悪だ。

 

(いきなりこれかよ……)

 

悪魔に対する経験も、そして戦闘技術も確立していない中で絡め手に秀でた悪魔が多く生息するであろうエリアの探索……余りにも厳しく、人類に不利な状況だ。無策で突っ込めば間違いなく全滅すると断言出来る。

 

「ゴア隊長。アーヴィンさんに協力して貰えるように頼んで貰えますか?」

 

「アーヴィンに? それは構わないが……何をするつもりなんだ?」

 

「無策で捜索を続けるのは余りにも危険です。でもそれなら対策をすればいい、今まで集めたフォルマで悪魔の魔法に対抗出来るなんらかのアイテム、あるいは装飾品が作れるかもしれません。それを試してみたいんです」

 

精神耐性を上げる、あるいは精神異常を治すようなアイテムが作れれば少しはこのセクター……ボーティーズの捜索が楽になるかもしれない……狙ったアイテムをピンポイントで作れると言う保障は無いが試してみる価値は十分にある筈だ。

 

「なるほど、道理だな。分かった、アーヴィンには私から連絡を入れておこう。だが長久君、君は自分が病みあがりという事を自覚し、無理をしない事。ゾイ、悪いが長久君についてやってくれ、無茶をする素振りを見せたらドクターストップを掛けるように」

 

「了解ですゴア隊長。さ、行きましょうか、長久君」

 

お目付け役がついてしまったがフォルマの使用許可を得れたので良しとしよう。

 

「ゴア隊長。対策が出来るまでは一時捜索は中断出来ますか」

 

「緊急事態が発生しない限りは無理に捜索を推し進めるつもりはない、まずは捜索の基盤を固めることが最優先だ」

 

ゴア隊長の言葉に安堵し、今度こそ司令部を出ようとしたその時……澪達が打ち上げたビーコンが周波数を感知したのか司令部に今にも消えそうな女性の声が響いた。

 

『……デー……メーデー………誰か……助けて……ください……だいさん………私………とらわれ………なぞ……せいめいた…だれか……』

 

助けを求めるその声はノイズと共に徐々に聞こえなくなっていき、ゴア隊長は俺に1度視線に向ける。俺は少し考えた後に指を1本持ち上げた。

 

「1時間の間に部隊の編成およびアーヴィンと長久君を主導にして装備を整える! 機動班は今の内に身体を休め出撃の準備をッ! アーヴィンを除く資材班は物資の補充を行なえッ!」

 

装備や道具を整えるのに1時間と言う時間は余りにも短い、だがそれ以上は悪魔に囚われている調査隊の仲間の命の保障が出来ない。救出に向かう仲間がミイラにならないように……そのどちらも守れるギリギリの時間……それが1時間という余りにも短く、そして余りにも長い時間なのだった……。

 

 

 

 

精神攻撃を多用する悪魔への対策装備を作る為に与えられた時間はたったの1時間。そんな短い時間は何も作れないか、効果が未知数の物を使うしかないと思っていたのだが……。

 

「精神攻撃を使う悪魔が耐性を持つのは当然。ならばその悪魔のフォルマを使えばその対策になるアイテムを作れるのは道理だと思うんです」

 

「おんし、中々頭がよかなッ! なるほど確かに道理じゃあ、良し! じゃあやってみるかッ!」

 

「ええ、やってみましょう」

 

長久君とアーヴィンさんがアイテムの開発をしている中、私はアプリの開発を行なう……と言っても原型はアーヴィンさんが作ってくれているので細かい微調整を行なうだけだが……アントリアと違って搦め手を多く使ってくる悪魔の事を考えれば僅かでもデモニカの性能を上昇させれればこれも対策になるかもしれないと出発時間に間に合うように必死にアプリの調整を行なう。

 

「出来た。アーヴィンさんは……」

 

「むむう? どういうこっちゃ、これはぁ……」

 

長久君の手の中には指輪が1つ、しかしアーヴィンさんの手の中には用途の分からない奇妙な物体が1つ。

 

「ゾイ。何があったの?」

 

「私にも何がなんだか……長久君と同じ様に作業をしていて、途中まで指輪だったんですけど……」

 

途中まで指輪だったのが多角形の意味不明な物質になっていると言う事に私も、ゾイも長久君もアーヴィンさんも驚いている。

 

「……こりゃ、あれじゃの。お前さんの知識もかなり影響があるんじゃなかろうか?」

 

「え? でも同じ様に作業してましたよ?」

 

「んーワシにもわからんが……なんかの影響があるんじゃろ。長久よ、悪いが指輪の方はお前に任せる。ワシは武器でもつくっちょる」

 

アーヴィンさんでも作れない物を長久君が作れると言うことに私は驚いていた。

 

(やっぱり悪魔の専門家って言うのは伊達じゃないのね)

 

フォルマは悪魔の身体の一部であったり、装飾品の欠片だったりする。それらに対する知識の差、あるいは扱う上で言葉に出来ないに何かがあるのかもしれない。

 

「チェン! 何をぼけっとしておるんじゃッ! 時間が無いいうちょろうッ! 作業を進めんかッ!」

 

「は、はい! すみません!!」

 

自身も作業をしているアーヴィンさんに叱られ、私は慌てて与えられた作業を再開する。

 

(えっと……これと、これ……)

 

悪魔の魔法は多岐に渡る上に科学ではとうてい再現できない代物ばかりだ。だが魔法には魔法の周波数のような物があり、それを検知出来るようになれば仲間が悪魔の魔法を受けて錯乱状態に陥っているかどうかの判別がつくはずだ。

 

「長久君、こんな感じでどうかしら?」

 

「上手に出来てますよ。ゾイさん」

 

「普通の処方箋よりは難しいけど、なんとか1人2つずつくらいは持たせる事ができそうね」

 

1人2個しか持たせる事が出来ないと聞き、私はいっそう気合を入れてアプリの最終チェックを行なうが……。

 

(またパターンが……あああ……ま、間に合わないかもしれないッ!)

 

悪魔の魔法の周波数に合わせる作業は想像以上に難しく、何度もエラーを繰り返しやっと使用可能段階まで仕上げれたのはゴア隊長に与えられた1時間のタイムリミットの僅か10分前の事だった。

 

「出来ました! アーヴィンさん、確認宜しくお願いします!」

 

「おう! すぐに確認する! チェン、お前は長久達と資材の最終確認をせいッ! 出発まで時間がないでのッ!」

 

「はいッ!!」

 

長久君の助けもあったおかげか、1時間の中でメパトラストーン、パトラストーン、そして魔石、チャクラドロップを機動班6名にそれぞれ2個ずつ、計12個と最初想定していた物よりも多くの資材を準備する事が出来た。

 

「ほおー? これを叩きつけると悪魔の魔法と同じ効果があんのか」

 

「破魔札って言うんですよヒメネスさん。とは言え使い捨てですし、銃と比べればリーチなんかないに等しいですからね。ナイフとか剣が間に合わなくて悪魔に接近された時の備えくらいで思っておいてください。それとお守りも1つずつですけど用意してます」

 

「助かる、1回の出撃で駄目になってしまうが魔法のなんだったか?」

 

「ラクカジャですよ、防御力を上げてくれる魔法と同じ効果があるからいざって言う時の備えになるから助かるわ、ありがとう長久君」

 

「いえ、何かの助けになれば幸いです」

 

長久君に1番優しいのは悪魔と戦う最前線の機動班のクルーだ。超常の存在である悪魔と戦う恐怖は凄まじい物であるのは明白だ。そんな中で助けになる情報を与えてくれる長久君を恩人と思っている機動班のクルーはかなり多いだろう。

 

「ノリスさん、ちょっと」

 

「あ、ああ。長久、さっきの出撃の時は助かったよ。ありがとう」

 

悪魔の攻撃を受けて錯乱状態になっていたノリスが柔らかく微笑んだ。本当は外される予定だったが、このままではいられないと志願し今回の作戦に参加しているノリスは凄く気合が入っているように見えた。

 

「あんまり力みすぎないでくださいね、それとこれ、飲んでおいてください」

 

「これは?」

 

「試作品の魔法薬みたいなものですかね?」

 

「おいおい、そんなもんがあるなら俺にもくれよ、ちょいと不公平だろ?」

 

ノリスと話していた長久にヒメネスがそう声を掛ける。だけどその顔は笑っていて本気じゃないって言うのが一目で分かる。

 

「ヒメネス、もう少し若様に対する口の聞き方を」

 

「澪、良いよ。ヒメネスさんみたいな感じの人は僕は結構好きだよ」

 

「え?」

 

「お? そーかそうかっ! はっはッ! んで、あの薬まだないのか?」

 

固まる澪の隣でヒメネスは笑顔を浮かべ長久君の頭を撫で回しながらノリスの持っている薬の瓶を指差した。

 

「あれは1回魔法に掛かった人が飲むと抗体が出来るかもしれない薬なんですよ」

 

「つまり魔法に掛かったノリスじゃないと効果が無いと……OK、分かった。ノリス、ここまでやって貰ったんだ。今度はパニックになるなよ」

 

「あ、ああッ! ありがとう長久。今度はあんな恥は見せないようにする。悪魔をちゃんと倒して見せるさ」

 

ノリスが力瘤を作りながら長久君に言うと長久君は首を左右に振った。

 

「人間が悪魔と戦おうなんて言うのがまず無茶なんですよ。だから一番大事なのは生き延びる事ですよ、生きていれば次がありますから、だから無理はしないでくださいね」

 

生きていれば次がある。無理をするな……普通なら何も知らない子供がっとなるかもしれないが、大人びたその表情を見て何故か幼い彼が私達と同年代くらいの青年に見えた。そしてそれは私だけではなく、機動班の皆もそう感じたのか真剣な表情で頷いていた。

 

「金言だな、皆肝に銘じろよ! 良し、行くぞッ!!」

 

「「「了解ッ!!」」」

 

ゴア隊長の変わりに機動班の指揮を取るタイラーさんを先頭に資材室を出て行く機動班のクルーに向かって私達は口々に気をつけてと見送りの言葉をその背中に投げかけ、シュバルツバースいう恐ろしい世界に向かう機動班を全員で見送るのだった……。

 

 

 

 

 

機動班がボーティーズに潜入し、悪魔に囚われている仲間の救出に向かっている中――私と休憩中の機動班のクルー3名はレッドスプライト号の外にいた。

 

「ゴア隊長。本当に大丈夫なんでしょうか」

 

メアが心配そうに視線を向ける先には簡易のデモニカスーツを着た長久君の姿があった。

 

「うむ、アーヴィンのお墨付きは貰っている、短時間の活動ならば問題はない筈だ」

 

「だとしても彼を失う事になったら大変な事になりますよ」

 

降車デッキの守りをしているデントも気が気じゃないと言う表情で長久を見つめている。勿論私も同じだ……彼に合うデモニカスーツが無い以上、彼を外に出すのは余りにも危険だ。本来ならば絶対に許可してはいけない事なのだが……私とメア、そしてデント、大分負傷も回復してきたウルフの3人がいるから特別に許可を出すことになったのだ。

 

「それも分かっているが、長久君にあそこまで頼まれては……駄目だとも言えなくてな」

 

澪達が出発してからどうしても1度シュバルツバースに足を踏み入れたいと言う長久君の要望を最初は却下した。だが余りにも粘り強く頼まれ、今後の調査にも関係していると言われれば無碍には出来なかったのだ。

 

「長久、なんかわかったか?」

 

「あーえっとウルフさんでしたよね?」

 

「おう、んで、なんか分かったのか? わからねぇならさっさと戻ってくれ」

 

ぶっきらぼうな口調のウルフに長久君は首を左右に振り、手にしていたシュバルツバースの砂を地面に落とした。

 

「ちょっと分かった事があるんですよ、やっぱりシュバルツバースは異界の一種です。かなり不味いかもしれないです」

 

「不味い? それはどういう意味でだ?」

 

レッドスプライト号の降車デッキの近くまでやってきた長久君は木の棒で地面に絵を書き始める。

 

「普通異界って言うのは強力な悪魔が核になって作られる隔離世界なんです。異界、異なる世界って書くんですけど……その通り通常の物理法則とかは通用しない世界なんですけど、大体が何かベースになる場所があるんですよ」

 

ベースと聞いて少し考えた後に私は口を開いた。

 

「古い戦場の跡地とかかね?」

 

「はい、大体そんな感じですね。日本だと神社とか、ヨーロッパとかだと多分お城とかになるんです。悪魔の伝承の中にお城とかに関係してる悪魔がお城に現れた事で異界になるんですけど……シュバルツバースが異界となると僕の説明した異界とは違う要素があるんですけど、分かりますか?」

 

「おいおい、謎かけやってる場合じゃねえだろ」

 

「大事なことなんですウルフさん。悪魔との戦いに大事なのは理解する事、答えだけ知ってても駄目なんです。例えば日本の有名な侍の幽霊が神社に現れたとするでしょう? そうするとその神社は昔のお屋敷みたいになって、その侍の幽霊と似たような性質を持つ悪魔が発生しやすくなるんです。悪魔の力量によって規模は変わりますけど……現実世界に浸食するような異界もあるんですが、基本的には小規模な異界になることが多いですね。それでこれは異界の大前提になるんですけど……異界の主が死んだら異界は消滅するんですけど、アントリアってまだ存在してますよね?」

 

「あ、ああ……アントリアは感知して……」

 

異界の例を説明してくれる長久君の話を聞き、長久君の質問に答えている最中で自分の中で長久君が言おうとしている事が分かった。

 

「なんということだ……」

 

「え!? ゴア隊長、分かったんですか!?」

 

「ああ、私には分かった。良く考えるんだ、良いかシュバルツバースは多層空間になっていると言うのは皆分かっているな? そしてアントリアとモラクス、そしてボーティーズとここを支配しているであろう悪魔……良く考えるんだ、答えはすぐに出る」

 

考え込む素振りを見せるデント達の顔色が少しずつ変わり始める。何を言わんとしているのか徐々に理解してきたようだ。

 

「……あのモラクスって強い悪魔だったわよね?」

 

「ええ、魔王級の悪魔ですね。かなり強力な個体になります」

 

「……アントリアは氷と燃える都市で、ボーティーズは遊興地だよな?」

 

「そうですね、恐らく悪魔の個性だと思います」

 

「……もしかしてだけどよ、とんでもなく強い悪魔がシュバルツバースを作って、その中に強力な悪魔が異界を作ってる……蜂の巣みたいになってるとかいわねぇ?」

 

「ウルフさん、その通りです。このシュバルツバースはかなりの高位の悪魔が主体になって作られ、その悪魔の配下か、その思想に共感した高位の悪魔が自分の異界を作り出している……そんな場所がシュバルツバースなんです。そして最初の異界を作った何者かが存在しているかぎりシュバルツバースは消滅しないですし、どんどん探索区域が増える可能性があるって事です」

 

長久君によって告げられた衝撃的な事実に私達が言葉を失ったその時だった……デモニカに緊急通信が入った。

 

『こちらヒメネスッ! 澪がやられたッ! 黒いデモニカを着た奴に一撃で殺されたッ! くそったれッ!! 繰り返すッ!! 黒いデモニカを着た何者かに澪がやられたッ!! そいつは宮殿を出て行ったッ! 遭遇したら隠れるか逃げろッ!! 殺されるぞッ!!』

 

「ヒメネスッ! ヒメネスッ!! どういうことだッ! 応答を……「見つけたわ。長久」

 

聞き覚えのない女の声がし、振り返ると黒いデモニカスーツを来た何者かが私達の前にいた。

 

「てめえが澪をやりやがった……「邪魔」……がぁッ!?」

 

「デントッ!? こ「言ったでしょう? 邪魔だって」うぐっ!?」

 

銃を構えたデントは女の手から放たれた光に弾き飛ばされ、長久を守ろうとしたウルフは腹に拳を叩き込まれその場に崩れ落ちた。

 

(メア、今から閃光弾を投げる。デントを連れてレッドスプライト号へ向かえ、私は何とか長久君を救出する。メアは移動して私の腕を隠してくれ)

 

目的は判らないがあの女は長久君を連れて行こうとしている。それだけはなんとしても阻止しなければならない、メアを隠れ蓑にし残された右手をゆっくりと腰のポーチに伸ばし……。

 

「動かないでッ!」

 

女が銃を私達に向けながらそう叫んだ。

 

「長久、来なさい。貴方が来れば彼らには危害は加えないわ。でも拒否するのならばまずはこの男を殺す」

 

「……僕が行けば殺さないんですか」

 

「ええ、そうよ。貴方が来れば殺さない」

 

長久君が振り返り私を見て、もう1度目の前の女に視線を向けた。

 

「分かった。ついていく」

 

「賢明な判断ね。良い、動かないで、動いたら殺すわよ。彼の決意を無碍にしたく無ければ動かない事よ」

 

『長久よ、警戒する事はない。我々は君に危害を加えるつもりはない、私はジョージ、彼女はアレックス。君の救出の為にこの場に訪れた』

 

「救出ッ!? どの口でッ! あぐッ!?」

 

救出と口にした女にメアが激昂し銃を構えるが、それよりも早く女の放った銃弾が足を撃ちぬきメアが崩れ落ちる。

 

「危害を加えないって言ったじゃないかッ!」

 

「ええ。でもそれは私に敵対行動を見せない場合に限りよ。良い、長久。私は貴方を助けに来たの、ジャック部隊がこの地に訪れる前に貴方を安全な場所に連れて行く、それが私の任務」

 

奇襲のタイミングを図っていた私は女の言葉に気勢を削がれてしまった。その名前は戦場に身を置く者ならば皆知っているからだ。その悪辣さを、その恐ろしさを、何度も煮え湯を飲まされた相手の名前を聞いて黙っていられるわけが無かった。

 

「ジャック? ジャック部隊だとッ!? 何故その名前を知っているっ!」

 

最強最悪の傭兵部隊の名前を口にした女に向かって叫ぶと女は片腕で長久を抱き抱えながら振り返った。

 

「貴方は誰? 私のデータに貴方はいないわ」

 

「私はこのシュバルツバース調査隊の隊長のゴアだ! 何故ジャック部隊の名前を知っているッ!」

 

もしも彼女がジャック部隊の関係者ならば間違いなく長久君は殺される。その名前を聞けば引き下がる事などできはしない、命と引き換えでも長久君を助けようとナイフを握ると目の前の女は信じられないほどにうろたえる素振りを見せる。

 

「ゴア? 嘘……貴方は死んだはず、オリアスに殺されたって千代子と翔子が……「あ、あああ……あああああああああッ!!!」な、なにッ!?」

 

女の名前を口にした時長久君が突然頭を抱えて凄まじい悲鳴を上げる。身を裂くような悲鳴に驚いたのか、女が長久君を放したのを見て、これが長久君を救出する最初で最後のチャンスだと思いフラッシュバンを投げると同時に地面を蹴って一気に距離を詰める。

 

「なっ!? うっ!」

 

「長久君は返してもら……な、なんだッ!?」

 

視界を奪っている間に長久君を奪い返そうとした私と長久君を再び抱えようとした女の間に私達を遮るような巨大な影が現れたのだ。王冠のような物を被った巨大な上半身だけの影は拳を握り、女に向かって突き出した。

 

「がっ!?」

 

凄まじい追突音と悲鳴を上げて吹っ飛んでいく女を横目に私の前に立ち塞がる影に視線を向ける。

 

『……』

 

無言で私を見つめ、黒いデモニカスーツを着た女を弾き飛ばした影は溶ける様に消え去った。あの女が何者なのか、そしてあの影がなんだったのか……気になる事はこれでもかとあるが今の騒動で悪魔の気配が凄まじい勢いでこっちに向かってきているのがデモニカスーツのレーダーに感知される。

 

「ウルフ! ウルフ動けるかッ!」

 

「な、なんとか……動けます」

 

ふらつきながら立ち上がったウルフに肩を貸してやりたいが隻腕でもそれも叶わないなんとか長久君を抱えウルフと共にレッドスプライト号へと向かうと降車デッキが開き、待機していた機動班と資材班が私達に駆け寄り、私とウルフに肩を貸してくれる。

 

「ゴア隊長! デントとメアは救助しました!」

 

「ウルフ! しっかりしろよッ!」

 

救助に来てくれたクルー達によって私とウルフは悪魔がレッドスプライト号に到達する前に帰還する事が出来たがヒメネスからの澪が死んだという報告を思い出し、意識を失っている長久君になんと説明すれば良いのかと全員が頭を悩ませるのだった……。

 

 

4周目の世界 滅びを求める地球意思 その8へ続く

 

 




アレックスにはレッドスプライト号を急襲してもらいました。後は話の中で分かると思いますが、流離っている千代子と翔子とアレックスは面識がある感じで考えております。ここは難しくなる所だと思いますが、アレックスも絡めたかったですし、こう言う形にして見ました。次回は澪の視点から始めていこうと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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