収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

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4周目の世界 滅びを求める地球意思 その9

4周目の世界 滅びを求める地球意思 その9

 

縋りつくように神に祈る声がする……。

 

不条理に奪われた肉親を想い、そんな運命を与えた神を怨む声がする……。

 

何故こんな世界になったのかと、何故神はこんな試練を与えるのかと嘆く声がする……。

 

神などいない、力を持つ者は何をしても許されると吼える声がする……。

 

何故自分達はこうも踏み躙られなければならぬかと泣く声がする……。

 

それは俺ではない、長久が延々と聞き続けていたものだった……救いを、助けを、怒りを、嘆きを、悲しみを……ありとあらゆる声が峰津院長久の元へ届いていた。

 

【神子としての責を果たせ】

 

【お前はその為に生かされているということを忘れるな】

 

莫大な報酬を得た長老達に命じられ、長久はほんの僅かな人間を救う、ほんの僅かな救済を与える……。

 

(それが神子の力)

 

膨大なMAGを用いて自然現象までも操る神の代理人……この荒廃した世界で日本が滅びなかったのか……その理由が分かった。

 

【神子の力は素晴らしい】

 

【お褒めに与り光栄です大統領。ですが、神子を操れるのは我ら南条と桐条だけということをお忘れなき様に】

 

【はははは、分かっているさ。最大限の譲渡をしようではないか】

 

南条と桐条によって操られ、使役され、望まれるがままに自然災害を操り、もう治らないと言われた者を癒し、死者を蘇らせる。その対価で小さな島国である日本はこの荒廃した世界でも国としての体を保っていた。

 

【……】

 

奇跡の代価として消費されたMAGによって血反吐を吐いて悶えるたった6歳の少年の苦しみと引き換えに日本という国は存在していたのだ。

 

【いつまで寝ている。さっさと部屋に戻れ】

 

【お前の価値はそれだけなのだ。自分の役割を果たせ】

 

【汚らしい愚図め】

 

痙攣している長久を汚物のように見つめ、犬や猫のように襟首を掴んで持ち上げ結界が張られた部屋に投げ込む。神子と呼ばれても必要とされているのは奇跡のみ、桁違いのMAGを持ち奇跡を起せる長久はこの時代では既にMAGを、悪魔を総べる術を失った南条と桐条には疎ましい存在であると同時に生きていなければならないモノだった。

 

【すまないね、長久。私ではお前を牢から出せんのだ】

 

長久の味方は2人しかいなかった……1人は唯一の肉親であり、長老衆の1人である祖母――桐条■■……。

 

(……なんだ……分からない)

 

知っているのに祖母の名前が分からない、ノイズが走ったように……名前だけがどうしても思い出せなかった……。

 

【お前は聡い子だ。喋らず、自分の意志を見せず、それが己の身を守ることだとよく知っている。それがどれだけ苦しいことか……すまないね、孫すら守れぬこの愚かな婆を許してくれ】

 

結界の外で泣き崩れる老婆を見ても長久の心は揺れなかった……いや、本当は駆け寄りたかった、憎んでないと、祖母を愛していると口にしたくてもそれが許されなかった。神子は南条と桐条に命じられたままに動く装置でなければならない、どこで監視されているかも分からない以上長久は人形であり続けなけれならなかった。

 

【■■様、若様は私がお守りします】

 

【澪、頼むよ。この婆の代わりに長久を守ってやってくれ】

 

巫女服の澪に抱き抱えられ長久は屋敷の奥へと連れて行かれる……何人もの巫女に世話をされるが、そこには触れ合いすらない。下手にふれあい人間性を与える訳にいかないと徹底した隔離の中、澪だけが長久に触れ言葉を投げかける存在だった。

 

【若様、今日は良い天気ですよ。後で散歩に行きましょうか】

 

【若様、今日は雪が降っていますね】

 

【若様、今日の夕食は珍しい生の食材が手に入りましたよ。これで煮物でも作りましょうか】

 

何気ない話、今日は何をしよう、今日はこんな天気だ、今日の食事は美味しかったか……そんなありふれた話ですら長久には無かったのだ。澪の存在……それが何時しか長久の救いとなっていた。

 

【何ゆえ、このような暴虐をするのですか! ヤタガラスッ! いや、ライドウッ!!】

 

【澪、分かっているだろう! 神子の力を利用する南条と桐条の存在を許してはいけないんだ! 神子は殺す。MAGを必要以上に消費する神子のせいで日本はもう滅びかけているんだッ!!】

 

【だからって若様が何をしたって言うの! 若様が悪いんじゃない! 殺すなら南条と桐条だけを殺せば良いッ!!】

 

【それでは駄目なんだ! 神子が生きている限り、その力を求める者はいるッ! 神子は【若様を神子と言うなッ!!】わからず屋めッ!!】

 

黒い外套に身を包んだ誰かとの戦いの中で澪は呪いに倒れ、そして黒い外套に身を包んだ若い少女は驚きに目を見開き長久を見つめていた。

 

【馬鹿……な、何故呪い……が……】

 

己自身を呪いとし、長久を殺そうとしたライドウは血反吐を吐いて死んだ。長久のMAGとライドウのMAGに差がありすぎて呪いがその効力を発揮しなかったのだ。

 

【ひゅー……ひゅー……】

 

か細い呼吸で光を失いつつある澪の目を見て、長久はいつも持たされている短刀で手首を切った。

 

『大丈夫だよ、澪は死なせない。僕の血を分けてあげる……澪は特別だから……だから死なないで』

 

ずっと隠し通してきた長久の自我は己の半身とも言える澪を死を目の当たりにして解き放たれた。神子を演じ己を守るではない、神子という地位を捨て、自分の只1人の理解者の為に奇跡を使い、神子の地位を奪われシュバルツバースへ澪と共に捨てられた。

 

「お前強いな、俺なんかよりもずっと強いよ」

 

【そんな事はないと思うよ。僕も君の記憶を見たよ、ずっと頑張って来たんだね】

 

半透明の着物を纏った幼い少年の長久と懐かしい軽高の制服を纏った俺は互いに差し出した手を握り返した。

 

「初めまして、俺/僕。道睦長久だ」

 

【初めまして、僕/俺。峰津院長久です】

 

互いに微笑みながら握手を交わした。何度も死んで、何度も別の自分に憑依し続けて初めて俺は肉体の元の持ち主との邂逅を果たした。

 

「悪いな、お前の身体を取っちまって」

 

【良いよ。僕じゃ澪は助けられない、僕は運動したことないし、引っ込み思案だし、きっと僕/俺なら澪を助けてくれるって信じてる】

 

「期待には応えてやりたいが、俺はレッドスプライト号から出れないんだぜ?」

 

口にはしなかったが、峰津院長久の身体は幼く、力も弱いし体力も無い、悪魔と戦うには余りにも弱すぎる。

 

【大丈夫だよ。君は何度も死を乗り越えて来た、そんな君だからこの力を使える。だけどそれは命と引き換えになる】

 

「だろうな。また聞こえるよ、死神の足音が……」

 

前も聞こえていた避けられない死の足音……まだ遠いが必ずあの死神はまた俺の元へ辿り着くだろう。

 

「悪いな、お前も俺と一緒に死んじまう」

 

【大丈夫だよ、僕もずっと生きているのに死んでいたんだ。今更死ぬのが怖いなんて言わないよ、澪を守れるならそれで良いんだ】

 

「……そっか、分かった」

 

もう名前も忘れて、顔も思い出せない。だけど命を捨てても守りたい人が居たのは覚えている……俺/僕も大事な誰かの為に、死ぬ覚悟はもう出来ているのだ。

 

「教えてくれ、戦う術を」

 

【勿論、でも忘れないで……これは1度だけ、1度だけの奇跡だ。次はないよ】

 

その警告と共に伝えられた戦う術を得て目を覚ました俺はベッドから身体を起こした。

 

「ここは……」

 

「長久君! 長久君、起きたのね! よかった……1度心肺停止してから丸1日寝たきりだったのよ」

 

ゾイさんが駆け寄って来て良かったと微笑むが、心肺停止していたと言う言葉と丸1日寝ていたと聞いてベッドから降りようとするとゾイさんに止められた。

 

「駄目よ。起きたならまずは身体の検査からよ。それが終わって「澪達は?」……宮殿に向かったわ、連絡はあるから心配ないわよ」

 

心配ないと言われてもはいそうですかと納得する訳には行かない。

 

「ゴア隊長の所へ連れて行ってください」

 

「駄目よ、君の身体は相当弱ってる。まだ寝てないと」

 

ゾイさんが心配してくれているのは分かっているが、俺は首を左右に振り、もう1度司令部に連れてってくれとさっきよりも強い口調でゾイさんに頼んだ。

 

「長久君……?」

 

「時間が無い、澪達が危ない」

 

夢の中で峰津院長久と出会ったからか、俺の能力は意識を失う時よりもずっと上昇していた。いや、これは上昇というよりも……ずれていた感覚が完全に合致したとでも言うべきかも知れない。俺の顔を見てゾイさんは溜息を共に車椅子を運んで来てくれた。

 

「すいません、心配してくれてるのに」

 

「本当よ。でも止めても駄目ならしょうがないわ、行きましょう」

 

ゾイさんの手で車椅子へと乗せられ司令部に向かう間、俺はレッドスプライト号の中にいるのに遠く離れた宮殿の中の様子も手に取るように感じていた。

 

(これが峰津院長久の感じていたものなのか)

 

神子として峰津院長久が持っていた超感覚に伝わってくる凄まじいMAGの気配に、俺はゾイさんに急いでくれともう1度頼んだのだった……。

 

 

 

ミトラスの宮殿に侵入した澪達によってゼレーニンの救出に成功した……だがそれは同じくミトラスの宮殿に侵入していた天使――マンセマットの助力によるものだったこともあり、素直に喜べないという状況だ。

 

「長久は天使を信じるなと言いましたが、それは間違いではないでしょうか?」

 

「マンセマットは助けてくれました。長久の言葉を鵜呑みにして天使を全て敵と考えるのは間違いではないでしょうか?」

 

天使によって救われたことで長久君を目の敵にしている司令部のクルーが又勢いを増してきた。

 

「マンセマット……か。諸君に問うがマンセマットがどういう出自の天使か覚えているかね?」

 

私はキリスト教の信者ではない、だが両親がキリスト教の信者であったし、親戚には天使に傾倒する者もいた。無論専門家の長久君ほどの知識があるわけではないし、子供時代のうろ覚えの記憶だが……マンセマットの名前を覚えていた。

 

「悪魔でありながら神に使える天使、敵意、憎悪を意味する天使を何故信用できるのかね?」

 

若気の至りという訳ではないが……ティーンエイジャー時代はダークヒーローなどに憧れていた。日本のアニメや漫画の影響もあっただろうが……まぁあれだ。中二病と呼ばれるものになったと時もあった……マンセマットの名前を覚えていたのはそういう経歴からだが、過去の恥ずかしい記憶がこんな形で生きてくるとは想定外だった。

 

「……それはそうですが」

 

「協力してくれるのならば感謝はしよう、だが信用も信頼もしない。あくまで協力者という形だけだ」

 

牢を破り澪達を一時レッドスプライト号に帰還させてくれたこと、そしてフォルマを与えてくれたことには感謝をしよう……だが味方として信じる訳には行かない。

 

「そうね、私もそれが良いと思うわ。だってマンセマットはクルーが実験されているのを見ていたんでしょう?」

 

「ああ。助けるだけの力を持っているのにそれをしなかった。マンセマットには何らかの思惑があると見たほうが良いだろう」

 

ウィリアムとカトーも私の意見に同意してくれ、マンセマットに全面的に協力を求めようとしたクルーは黙り込んだ。だがその目は不満を訴えていた……。

 

(何かに縋りたい気持ちは分かるがな……)

 

天使に神の使いに縋りたいと言う気持ちは分かるが……あのマンセマットの見定めるような視線はどう見ても人類に友好的ではない、我々を利用しようと打算がある目をしていた。そんな目をしているマンセマットを信用する訳には行かない……あれを信用すれば何か取り返しの付かないことになると私の勘が訴えていたからだ。

 

「ゴア隊長、ヒメネス隊員から通信です」

 

「メインモニターに回してくれ」

 

モニターに映るヒメネス達の背後ではノリスがぐったりとした様子で倒れている姿が映し出され、司令部にいた全員の顔付きが険しいものになる。

 

『こちらヒメネス。ノリスと機動班のクルー3名が行動不能になった。ミトラスの所には俺と澪とマッキーの3人での突入になりそうだ』

 

「3人か……マッキー。戦力の確保はどうなっている?」

 

『交渉に応じてくれた悪魔は仲魔にしました。ミトラスの間に突入する前に一度悪魔合体を行う予定です』

 

「了解した。悪魔合体については其方に全て任せる」

 

突入したクルーは全部で10人……ゼレーニンの救出で2人、3回目の突入でノリスを含めて5人の行動不能は余りにも痛かった。悪魔がどんな攻撃をしてくるか、どんな行動をしてくるのか分からず後手に回ったのが大きい要因だ。

 

(長久君が抜けただけでこの有様か……)

 

悪魔に関する知識不足……その一言に尽きるが悪魔というのは本当に我々の理解を超えているといわざるを得ない。

 

『ゴア隊長。若様は……まだ眠っておられますか?』

 

「ああ。まだ休んで「いえ、起きましたよ。ゴア隊長、澪」

 

私の言葉を遮ってゾイの押す車椅子に座った長久君が司令部に姿を見せたが、その姿を見て私は思わず目を見開いた。

 

(なんだ……まるで別人のようだ)

 

姿形が大きく変わっているわけではないが、長久君がまるで別人のように思えた。

 

『頼もしい援軍が来たな。長久、俺達はこれから3人でミトラスの所に突入する。何か気をつけることはあるか?』

 

「モラクスのように暴れた痕跡が無いのでどんな攻撃をしてくるとかは予測はつかないですが、モラクスのように広域攻撃を持っていると考えて良いと思います。それと澪、ミトラスは何か実験をしていたんだよね?」

 

『は、はい。身体を切り開かれているのにまるで苦しんだ様子もなく……』

 

「ありがとう。精神に関係する魔法を使ってくること思うので前衛は悪魔で澪達は守りを固めたほうがいいと思う。悪魔が精神攻撃を受けてミトラスと挟み撃ちになるなんて冗談じゃないからね。まずは様子見から入ろう」

 

『了解した。これより我々は悪魔合体を行う予定だ、助言を貰えるか?』

 

「分かりました。では悪魔合体プログラムを使用した際に表示された悪魔を名前を教えてください、それを元に助言をします」

 

口を挟む間もなく澪達と話を進め、ミトラスとの戦いに備える長久君の姿に司令部のクルーが良いのかという視線を向けてくるのに気付き、私は咳払いをした。

 

「ゴア隊長すいません、勝手に」

 

「いや、構わない。対悪魔戦闘は全て長久君……君に一任している。素人が口を挟み仲間を危険に晒すわけには行かない、君が思うままに指揮をとってくれ」

 

対人戦闘ならば私が指揮を取れる。だが悪魔との戦いでは素人であるということを嫌というほどに思い知らされた……ミトラスという脅威を前に見当はずれな指示を出し、澪達を危険に晒すわけには行かない。この場は全て長久君に任せると言うと長久君は小さく頷いた。

 

「ゴア隊長から許可を貰ったので指揮を取ります。澪、ヒメネスさん、マッキーさん。良いですね?」

 

『私は構いません、若様の指示に従います』

 

『俺もだ。お前に従うのが一番生存率が高いからな、上手いこと指示をしてくれや』

 

『私も異論はない』

 

機動班のクルーが1番長久君に助けられている。だからこそ反論することなく、長久君の指示に従うと頷いた。

 

「ありがとうございます。ではまずは突入する前に補助魔法を、仲魔を召喚して事前打ち合わせをしてください。悪魔は馬鹿ではありません、ちゃんと話せば分かってくれます、指示がない場合の判断をこうして欲しいと説明してください」

 

「長久、大丈夫なのか? その悪魔に勝手な行動を許可して」

 

カトーが心配そうに尋ねるが、長久君は大丈夫だと言って笑った。

 

「だからすぐに突入せずに会話をする時間を取るんですよ。戦いは始まる前が肝心って言うでしょ?」

 

「道理だな、良し。マッキー、ミトラスをすぐに討伐せよ言う話ではない、悪魔合体を行った悪魔とのコミュニケーションをとり、万全な

態勢を整えてからミトラスの元へ突入してくれ」

 

『了解。では長久、助言を頼む』

 

「はい、分かりました」

 

長久君と澪達がミトラスとの戦いに備え準備しているのを見て、私も何かしなければと思い澪達が集めたアントリア、そしてボーティーズに出現する悪魔のデータに目を通し始める。

 

(一任すると言ったが、少しは手助け出来なければ余りにもみっともないからな)

 

悪魔に対する知識が無いと言って何もかも押し付けるのは違う。今は作戦行動中で話をしている時間がないが、少しずつ悪魔に対する知識の交換を行なう為にデモニカに登録されたデータに目を通し始めるのだった……。

 

 

 

王座の間の扉が開き、澪と2人の人間が入って来たのを見てアタシは笑みを浮かべた。

 

「よう戻った、してお前達の答えを聞こう。アタシの配下となるか、それともアタシと殺しあうか、はたまたアタシを屈服させるか、汝らの答えを聞こう」

 

迸る闘志と殺気を感じ取り、答えは分かっているがそれでも問いかける。

 

「ミトラス。私達の答えは……お前を屈服させ、私達がお前の上に立つだッ!」

 

悪魔を召喚し、武具を構えるその姿にアタシは笑みを深めた。

 

「良かろう、力を持つ者が全てを手にする。それは道理じゃ、どれアタシ自ら相手を『待ってくれミトラス』……ほう?」

 

澪の着ている奇妙な服から声が響いた。それは力のある声でアタシの動きを縛った。

 

『これはどちらかの力が強いかの力比べだ。これは殺し合いではない、違うか?』

 

「ふうーむ……まぁ確かにそう受け取ることも出来るな。で、お前はアタシに何を望むのだ? 神子よ」

 

『力比べなんだ、殺すまでやる必要はないということを徹底してくれれば良い。人間は弱い生き物なんだ。神なのだろう? それくらいの寛容さはあるだろう?』

 

「良かろう! その条件で勝負をしてやろうではないか、これは契約だ! 良いな、アタシが破れても報復などするではないぞ!」

 

契約の力で部下達を縛ると同時に、己も縛り付ける。

 

(強き力を持つ神子よ。あれならば軍門に下るのも悪くはない)

 

この場にいなくともアタシに干渉する神子ならばその力は申し分ない、母よりも強き者ならばそれに従うのも一興。

 

「さぁさッ! アタシを下して見せるが良いッ!! 殺しはせん、全力でかかってきやれッ!!」

 

【マハブフダイン】

 

剣を振り上げると同時に放たれた猛吹雪の前にジャックフロストとアザミが立ち塞がり澪達を守る。

 

「くらいなッ!!」

 

「こいつもだッ!!」

 

澪と共に侵入して来た2人の人間が手にした筒から放たれた銃弾がアタシの腹に当る。

 

「ほっほほ、今何かしたかえ?」

 

だがそれは何の痛みもない、強いて言えばほんの少しだけジオやアギの気配があったがそれだけだ。ダメージとは程遠い一撃にアタシは笑いながら剣を振り被った。

 

「攻撃とはこうやるのだ」

 

【デスバウンド】

 

剣から放たれた衝撃破が澪達を複数回打ちつける。並みの悪魔なら一撃で戦闘不能にする一撃を澪達はケロッとした様子で耐え、即座に柔らかな光が包み込み傷を癒した。

 

「ラクカジャ、それとメディアか、神子は随分と強かよのう」

 

戦う前に補助魔法を己に掛けていたか……そうでなければデスバウンドを無傷で切り抜けることなどできる訳がない。

 

「これは力比べ、そして私達は弱い人間。その力の差を埋めるために策を講じるのは当然のことでしょう? それとも卑怯と罵りますか?」

 

「はっははは!! 言わぬわ! さぁ来いッ! 澪よッ!!」

 

悪魔を踏み台にして飛びかかって来た澪の剣とアタシの剣がぶつかり合い……一瞬の均衡の後にアタシの腕に切り傷が刻まれた。

 

「やるものだ。ならばこれはどう耐える?」

 

【幻虚夢】

 

剣を逆手に構えMAGを光に変えて放射する。マカラカーン等では防ぐことの出来ない万能属性の輝きに澪達が吹き飛ばされ、更にMAGの光による精神による干渉で前後不左右になってる澪達に狙いを定め、剣を振り上げようとした……その時だった。

 

【飲むホー!】

 

【ほら何してるの! さっさと飲むッ!!】

 

【バカーブーッ!!】

 

澪達に協力している悪魔達が何かを飲ませ……いや待て……。

 

「助かったぜ、バガブー。流石俺の相棒だ」

 

【バカーブー!!】

 

「待て待て、それはアタシが作った実験体ぞ? 何故連れておる?」

 

人間から抜き出したものを混ぜ合わせて作った実験体が何故人間と共にいると問いかける。

 

「あん? 拷問されてたのを助けたら仲間になったんだよ。文句あっか!」

 

【ブ、ブーッ!!】

 

「……まぁ良かろう。仲魔になる、ならんは本人の意志。人間と共に行くと言うのならばアタシはそれを尊重する……だが素直に行かせるとは言っておらんがな!!」

 

【大冷界】

 

マハブフダインよりも遥かに強烈を剣から放つ、それを見てジャックフロストとアザミが盾になろうとするが……それは愚策だった。氷結に耐性を持つ悪魔だけでアタシを止められるなどと……。

 

「アタシも甘く見られたものよな」

 

【い、痛いホーッ!?】

 

【こりゃアカンッ!! 氷結貫通じゃッ!?】

 

澪達の盾になれず、大冷界の冷気で凍り付いていくジャックフロスト達を見据えながらアタシは高笑いを上げた。

 

「ほほほ!! すこーしばかり本気を出したぞ。耐えられるものならば耐えてみるが良い」

 

温度差によって発生した霧の中に澪達が消えていく……追撃すれば確実に勝てると分かっているのにアタシは動かなかった。

 

(見せてくれ、人間を)

 

神子の気配に当てられたのか、それとも共に寄りそい助け合う人間と悪魔の姿にかつてを見たのか……アタシは人間の可能性をこの目で見たい……そう思ってしまった。それが己の敗因になると分かっていても……人間の可能性を見たい、そう思ってしまうのだった……。

 

 

 

ジャックフロスト達が凍り付き氷像と成り果て、地面を氷柱が走ってくる……その冷気に掠れば私達も物言わぬ氷像となるが……不思議と恐怖は無かった。

 

『澪は右、マッキーさんはジャンプ、ヒメネスさんは左に跳んで下さいッ!!』

 

若様の声がデモニカから響き、その声に従い迫ってくる冷気を全て紙一重で回避する。

 

「この靄は好都合だ。この靄を突っ切って決める。アタッカーは澪、お前だ」

 

「了解。ヒメネス、マッキー。支援をお願いします」

 

「任せとけ。道は作ってやるさ」

 

切り札はある……悪魔合体で作り出した1体の悪魔。それを召喚するだけで私のデモニカのMAGは枯渇するだろう……その強力な悪魔の存在を隠したのは、一瞬使役するのがやっとだからだ。

 

『澪、気をつけて』

 

「はい、大丈夫です。ミトラスを倒して……ちゃんと若様の元へ帰りますから」

 

剣を抜き放ち、冷気によって発生した靄が消えるその時を待つ……時間で言えば僅か数秒、だがその数秒がとんでもなく長いものに思えた。

 

「行け澪ッ!!」

 

マッキーの言葉と同時に地面を蹴って走り出し、1体の悪魔を召喚する。

 

「マカラッ!」

 

【特別にノセテヤル! 感謝シロッ!!】

 

マカラの背に飛び乗るとマカラは空中を蹴って一気に加速する。

 

「ほほう! そんな物を隠しておったか、だが無意味ッ!! 地に堕ちるが「悪いな、隠してたのはマカラだけじゃねえんだよッ!」ギッ!?」

 

ヒメネスとマッキーがショットガン――アラバスターSから放った風の散弾がミトラスのがら空きの胴を捕らえ、私とヒメネス、マッキーのデモニカが共鳴しデビルCO-MPを発動させ不可視の力場がミトラスを穿つ。

 

(若様の言う通りだ)

 

飛べない人間がそれを舞えばミトラスはそれを叩き落すためにデスバウンドを使うと言っていたがその通りになった。弱点である風、そしてデビルCO-MPの追撃のダメージからミトラスが立ち直る前にマカラの背を蹴って飛び全体重を乗せた剣の一撃をミトラスの頭に叩きつける。

 

「ぐぎいっ! だがこの程度ッ!!」

 

重い一撃だったが、ミトラスを倒すには力が足りなかった。頭から流血しながらも私を睨みつけてくるミトラスは空中の私に向かって剣を突き出してくる。

 

「違う、この程度じゃないッ!」

 

マカラを帰還させ、切り札たる悪魔を召喚する。MAGだけではなく、体力もごっそりと持っていかれ消えそうになる意識を歯を噛み締めて耐え、この戦いを終わらせる切り札の悪魔の名を私は高らかに叫んだ。

 

「来てモラクスッ!!」

 

【ブモオオオオッ!!】

 

「な、なにいッ!?」

 

召喚したのは牛頭の巨大な悪魔――セクターアントリアの支配者だったモラクスだ。予想外の悪魔の姿に反撃をしようとしていたミトラスの動きが止まった。

 

「巨角の連撃ッ!!」

 

【ウォオオオオオッ!!!】

 

咆哮と共に振るわれたモラクスの巨角の二連撃がミトラスの胸を抉るのを見届けると同時にモラクスを帰還させる。何時暴走するかも分からないモラクスの長時間の召喚は危険であり、トドメの一撃にだけしか使えないと若様に念を押されていた。

 

「私達の勝ちよ、ミトラス」

 

「……そのようじゃな……無念なり」

 

力比べでなければ私達は死んでいた。力比べという罠にミトラスを落とし入れ、可能な限りの対策をし……そこまでやってやっとモラクスの一撃を通すことが出来た……殺し合いだったら負けていたと確信していた私はミトラスが負けを認めてくれたことに小さく安堵の溜息を吐くのだった……。

 

 

 

 

4周目の世界 滅びを求める地球意思 その10へ続く

 

 




作中の悪魔の使うスキルなどは原作のストレンジジャーニーでは使ってない物もありますが、流石にマハラギとか成仏拳、暴れまくりではインパクトが無いのでバージョンアップしております。本来はミトラスは大霊界もデスバウンドも使いませんが小説の流れと言う事でご理解いただけると幸いです。次回ボーティーズのラストまで書いて行こうと思います、その後はオーカス編のカリーナですが、その前に少し別のイベントもやって見たいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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