4周目の世界 滅びを求める地球意思 その12
ミトラスとの協力を結び、そして魔人デイビットを撃破した俺達はスキップドライブによって次のセクターへ無事移動する事が出来た。歩みは非常に緩やかだが、1歩1歩確実に前に進む事が出来ているという実感を得れると共に俺は1つの安心感を覚えていた。
(まだ聞こえない……魔人との遭遇が俺の死を意味しているわけじゃないんだな)
死の足音――それがまだ聞こえない、避けられない死はまだ遠いと分かり俺は安堵していた。
「アーサー。スキップドライブは無事に完了したか?」
『ゴア隊長。ランディングは正常に終了しました。無事に新セクターに到着です。この作戦地はセクターコード「C」カリーナを発効する事とします。観測班クルーはフィールドの気象観測を開始して貰おうと思いますがよろしいでしょうか?』
「構わない、ミッションの発令を頼む」
ゴア隊長の許可を得てからアーサーが観測班へセクターカリーナの観測のミッションを発令する。
「……スキップドライブはどうだったかしら、ゼレーニン? この新作戦地では、貴女にも行動して貰うわよ。頑張ってちょうだい」
「ええ、皆の力になれるように努めるわよ。まずは量子トンネルの位置探査あたりを主要な任務にしたら良いのかしらね?」
ウイリアムズさんの言葉にゼレーニンさんが力強く返事を返すとヒメネスさんが肩を竦める。
「次の地獄の入り口探しも良いが、地上へのハシゴ探しも忘れんでくれよな? 調査は必要だと教わってはいるが、どうにも異界の奥地に向かってばかりの気がしてな……早く安心させて貰いたいもんだぜ」
外に出る出口を探すのも忘れないでくれよとヒメネスさんは言うが、俺の予想ではもっと奥深くに行かなければ外に繋がる量子トンネルは見つからないだろう。
「ヒメネスさん。仮に外に繋がる量子トンネルを見つけたとしても、恐らくそこには桁違いに強力な悪魔、恐らく女神か地母神がいると思います」
「前も聞きたかったんだが、女神と地母神はそんなにやばい悪魔になるのか? 魔人や魔王よりもやばいのか?」
「観測班の調査結果が出る前に私も聞いておきたい。女神と地母神とはどんな悪魔なんだ?」
ヒメネスさんとゴア隊長だけではなく澪達も俺に視線を向けてくる。確かに1度女神や地母神がどれほど危険で強力な悪魔なのかは説明しておいたほうが良いかも知れないと思い、簡単にだが女神や地母神についての説明をする事にした。
「女神は文字通り女神です。色んな神話の形態に出てくる女の神。分かりやすくいうと……聖母マリアも女神という区分の悪魔になります」
「聖母でも悪魔に区分されるの?」
信じられないという表情のゼレーニンさん。気持ちは分かるが女神であれ、悪魔という区分には変わらない。
「女神は比較的人類に友好的なもの、人類を嫌悪している物の2種類に分けられます」
「それは何故だ?」
「信仰によって貶められた女神は人を憎みます。自分達はこんなに人間を愛しているのに、人間は自分達を捨てたとね」
「愛が反転する訳か。女つうのは怖いもんだねぇ」
ヒメネスさんの呟きに司令部の女性隊員の視線が向けられ、ヒメネスさんは肩を竦めて冗談だよと言うが、冗談にしては少々性質が悪いものだったと思う。
「それで地母神と言うのは?」
「基本的には女神と変わりませんが、それよりももっと古い神様になりますね。基本的に……そうですね、自然現象の擬人化とでもいいましょうか? 台風、洪水、地震に太陽に満月――当時の人間が理解できなかった物が神格化したもので女神よりも攻撃的な特性がありますね」
司令部が静まり返ってしまうが、このシュバルツバースを進む上で何れは必ず対峙し無ければならない相手だ。今の内に知識だけでも覚えておいて欲しい。
「今の段階で勝てるかね?」
「言いにくいですが不可能です。だからセクターを進んで力を付ける必要があるんですよ、急にもし出口に繋がる量子トンネルが見つかったとなれば間違いなく僕達を一網打尽にする罠ですよ」
正直ミトラスが全力を出していれば俺達は確実に負けていた。連携を鍛える必要もあるがやはり個々の力を高める事も必要不可欠だし、フォルマを集めてより強力な武具、そして探索を楽にするアプリの開発と俺達が解決し無ければならない問題は今も山積みだ。
「ゴア隊長。観測班から通信が入りました」
「メインモニターに回してくれ」
女神と地母神についての話を終えたところで観測班からカリーナの調査結果が出たと連絡が入り、メインモニターに外の光景が映し出された。
「オイオイオイッ! 何だよコレはッ!? 小綺麗なビルに……商品棚が山ほどあるぜッ!」
「こっちには……食料品店。向こうは……アパレルが……南極の果ての異世界に、何だってこんなショッピング・モールがあるんだッ!?」
外の光景はどこからどう見てもショッピングモールだった。凄まじい高さの商品棚に山ほど食料品があり、服や靴といった衣服が掛けられたハンガーも山ほどある。
「物資の確保が出来ると考えるべきかね?」
「絶対止めて下さい。欲しくなるのは分かりますがそれだけは絶対に止めて下さい。澪達も外の捜索中に空腹になっても外の食料品を絶対に口にしないでください」
これだけ物資があれば補充したくなるのは分かる。だがそれだけは絶対に駄目だとゴア隊長だけでは無く、澪やヒメネスさん達にも釘を刺す。
「なんでよ? これだけ物資があるならここで補充をしておけば……」
「メイビーさん。考えて見てください、ここはシュバルツバースで悪魔が闊歩する地獄なんですよ? そんな所にまともな物があると思いますか?」
俺の言葉に司令部にいたクルーがハッとした表情を浮かべる。アントリア、ボーティーズと2つのセクターを抜けて来た訳だが、本来ならば4隻で進む筈がレッドスプライト号単機で進む事になり、指揮官機のレッドスプライト号だけでは十分な物資を確保する事が出来ない。そんな中で物資を見れば補給したくなるが、そこが罠だ。
「食べ物を食べれば間違いなく死ぬか、悪魔になります。ヨモツへグイって奴ですね、黄泉の国の物を食べれば自身も黄泉の国の住人になるって奴です」
外の食べ物を食べれば確実に死ぬか、悪魔になる。悪魔の住む世界の物は人間は口に出来ないと思ってくれと説明する。
「じゃあ物資の補給は出来ないのか? これだけ目の前に物資があるのに?」
カトーさんが本当に無理なのか? と尋ねて来る。カトーさんだけではなく、司令部のクルーの多くが本当に無理なのかと視線で訴えて来ている。
「出来ないって訳じゃないです。安全なものを調べて回収して、フォルマとして使って精製すれば少量ながら物資は確保できると思いますよ」
「安全な物を調べるって若様、外に出るのは許可できませんよ?」
この中で安全な物を調べる人間は俺しかいない、それは流石に許可出来ないと澪が言うが……。
「しょうがないよ。僕しか多分調べられないから、それにここで補給しないと僕達は何処にもいけなくなる」
ここでリスクを承知で補給しなければ駄目というのは澪も分かっていて、でも納得出来ないと言う表情を浮かべる。
「大丈夫だよ、澪。僕だって馬鹿じゃない、ちゃんと考えてる。ゴア隊長、提案としては探索班とは別に僕を含めて物資回収班を編成して物資を確保するのが最善だと思います」
戦えない俺が外に出るのは自殺行為だが、物資を補給しなければ確実に俺達の旅路は終わる。調べながらで少しずつしか確保出来ないとしても補給は必要不可欠だ。明らかに罠であるが……カリーナの宝の山を見過ごせるほど俺達には余裕はないのである。
「仕方あるまい、長久君に私が付き、レッドスプライト号周辺で物資の確保を行なう。澪達は捜索を……「ゴア隊長、ミーティング中申し訳ありませんが、同型機の反応を感知しました」何!? それは本当かッ!? ただちに交信を行なってくれッ!」
行動指針が定まりかけたその時アーサーからの同型機の反応を感知したという報告に喜色が広がるが、俺は言いようのない不安が胸の中に込み上げてくるのを感じるのだった……。
澪達が同型船――ゼレーニンが乗っていたエルプス号の捜索に出ている間。私はマイク達と共に長久君を守りながら物資の補給作業を行なっていた。
「長久。こいつはどうだい?」
「それは駄目ですね、中身悪魔の体組織ですね。MAGの反応があります」
「うげえ。マジか……はぁ、思ったよりも全然少ないね」
キーマがやれやれと肩を竦め、回収できた補給物資を見て溜息を吐いた。だが私もその気持ちは良く分かる。天井に届くほどの食料品の棚からフォルマとして活用できる物はたったの数個だったからだ。
「これは中々骨ですね」
「そうだな。タフな仕事だ」
「文句を言うものじゃないさ、こういう地道な作業が皆を救うんだ」
「その通りだ。作業は大変だと思うが、皆頑張ってくれ。ただ決してビルの中には足を踏み入れない事、良いな?」
「「「了解」」」
マイク達の返事に頷き、食料品の棚に手を伸ばす。その中にある缶詰は瓶詰めは人間界で見たものがあるが、瓶詰めの中身を見て溜息を吐いてしまう。
「ラベルは同じでも中身は別物だな」
「そうですね、ちなみにそれは食べたら確実に死にますよ」
「だろうな」
毒々しい液体に満たされたピクルスなど見るだけで有毒と分かるのでその食料品棚を離れる。
「長久君、エルブス号はどうなっていると思う? 君の正直な感想を聞きたい」
エルブス号のクルーが生き残っているかもしれないのでその保護、あるいは重力子通信機を入手する為に澪達を送り出し、カリーナの情報を得る為にゼレーニン達に実地観測の命令を出したが……正直に言えばエルブス号のクルーの生存は絶望的だと私は思っている。
「一応多分をつけますね? エルブス号のクルーは死んでるもしくは悪魔になっていると思います」
「……やはりか」
長久君がいるからこうして調べながら物資を補給しているが、そうでなければ間違いなくこの食料品の山を片っ端から回収していただろう……長久君のいないエルプス号のクルーはそれを知るわけもないのでこの食料品を口にしてしまったと考えるのは当然の事だ。
「長久、こいつはどうだ?」
「それは大丈夫ですよ! スティードマンさんッ!」
「こ、これは?」
「ドーソンさん、それは駄目です」
「そ、そう……はぁ全然見つからないなあ」
私と話をしながらもマイク達の確認に返事を返している長久君は真剣な表情で振り返る。
「アントリアでも言いましたが、レッドスプライト号は莫大なエネルギーの源です。悪魔がそれを取り込んでいる可能性は極めて高い、僕はエルブス号はこのセクターの支配者が取り込んでいるのではないかと考えています」
「……ミトラスからの情報か」
「ええ、支配者の悪魔は互いのセクターを行き来出来る。そしてミトラスは船は興味が無いので放置していたが、何時の間にか消えていたとも言ってました。恐らくミトラスに気付かれないように忍び込みエルブス号を取り込んだのだと思いますよ」
エルブス号の膨大なエネルギーを取り込んだ悪魔がこのセクターの支配者である可能性が長久君から示唆される。
「レッドスプライト号から離れてはいけないというのも関係してるのか?」
「ええ。エルブス号を取り込んで味を占めていれば……」
長久君がそこまで言い掛けたところで凄まじい地響きが響き渡った。だが近くに見えるものは無く、そしてデモニカにも何の反応もない。
「長久。悪魔が近くいるのか?」
「違うと思いますよ、マイクさん。多分……このセクターのMAGが何かに反応して鼓動してるんです」
なにかと長久君は言葉を濁したが、その何かがなんなのかは言うまでもないだろう。
「このセクターの支配者の悪魔か」
「まず間違いないですね。ただ悪魔の気配は近くに無いですし……これは相当強力な悪魔かもしれません。ゴア隊長、1度物資回収を断念して帰還しましょう、悪魔の気配があちこちからしますよ」
長久君の言う通りまだ遠いがデモニカに現れ始めているのを見て、それをデモニカに反応が出る前に感知出来た長久君の能力に改めて驚かされた。
「仕方あるまい。1度レッドスプライト号へ帰還するッ! 周囲の警戒を怠るなよ、行くぞッ!」
回収できた物資は極少数だが、ここで欲張り全員を危険に晒すわけには行かない。急いでレッドスプライト号へ帰還すると指示を出し、2時間の探索で得たとは思えない少量の物資を手にレッドスプライト号へ帰路を急ぎながら、悪魔の大量出現が澪達になにかあったのではないかと不安を感じる。
「ゴア隊長。今は僕達の事を考えましょう。レッドスプライト号へ戻ったらすぐに式神を飛ばして澪達の安否を確認しますから」
私以上に澪達の身を案じているであろうに冷静さを失わない長久君の姿に指揮官である私が動揺してどうすると気合を入れなおす。
【ニンゲンだ、ニンゲンだぞッ!!】
【オエ、ニンゲンヲコロセッ!!】
「全員私に続け、強行突破するぞッ!!」
「「「了解ッ!!」」」
銃を片手に道を阻む悪魔の群れへと突撃する。今私がやるべき事は全員無事でレッドスプライト号へと帰還することであり、そして頼もしい部下達ならば無事に帰ってきてくれることを信じる事であり、その身を案ずる事ではないのだから……。
私とヒメネスの2人は悪魔の攻撃でボロボロの身体を引き摺り、アーサーは特定したエルプス号のある区画から逃げおせた。
「はぁ……はぁ……くそったれッ!! 畜生、バガブー……」
通路に座り込み悪魔に吸い込まれたバガブーの名前を呼ぶヒメネスに私は掛ける言葉がなかった。悪魔と人間ではあるがバガブーとヒメネスの間には確かな絆があった。軽い気持ちでヒメネスを励ます事など出来る訳も無く、ヒメネスが再び立ち上がるまでの間一瞬で私達の仲魔を殺し、私とヒメネスにも大きな痛手を与えた悪魔――オーカスの事を考えていた。
(あれが若様の言っていた最悪の結果ですか)
エルブス号を取り込んだオーカスはプラズマ装甲を己の物としていた。どんな攻撃も通用せず、そしてエルブス号の動力を攻撃に転化しているオーカスの攻撃力は凄まじかった。
「悪りい、澪。落ち着いた、これからの事を考えようぜ。特にどうやってレッドスプライト号まで戻るかとかな」
「そうですね、悪魔の反応が凄い事になってますし、仲魔無しで突破するのは不可能でしょうね。最悪救助要請を出すしかありませんが……」
「電波は多分届かないだろうよ。あのオーカスのせいでな」
忌々しそうに言うヒメネスだが実際その通りだ。エルブス号の動力とプラズマ装甲を展開しているオーカスのせいでここら辺の磁場はしっちゃかめっちゃかになっている。仮に電波が通じてもノイズ交じりでまともに交信すら出来ないだろう……。
「澪。お前予備の弾あるか?」
「ありますよ。それがどうかしましたか?」
「俺の予備の剣をやるから、予備の弾くれ、誰かがオーカスを見張る必要がある。俺が此処に残る」
足を怪我しているヒメネスでは悪魔から逃げるのは不可能だが……悪魔が増えてきている今武器だけを渡してヒメネスをこの場に残す事は出来なかった。
「これを、若様から貰っていた予備の結界札です」
「……良いのかよ。お前の愛しの若様からの贈り物だろ?」
「茶化さないでください。若様は私が守るべき人なだけです。私はあの人の為に生きて、そして死ぬんです」
私の言葉にヒメネスは驚いたように目を見開き、何かを言いかけたが黙りこんだ。
「俺は人の事情に踏み入らないようにしてる。だから詳しくはきかねえよ」
ほかの人間に言えばそれは良くないや、間違っているというだろうが、ヒメネスならばこう言ってくれると分かっていたからわたしは私の嘘偽りの無い気持ちを口にする事が出来た。
「俺は此処であいつを監視してる。早いところ応援か、あいつをどうにかする方法を見つけて戻って来てくれよ」
結界札を通路に張りつけ結界の中で声を掛けてくるヒメネスに分かっていますと返事を返して、デモニカスーツに映る悪魔の反応を見ながらレッドスプライト号への帰路を急いでいると私の目の前に影が落ちた。反射的に銃を構えかけ、私はすぐに銃を降ろした。
『澪! 良かった無事だったんだね』
「若様、はい。なんとかがつきますが私は無事です」
若様の式神を腕の上に乗せ、何があったのかを若様に報告する。
『やっぱりエルブス号は悪魔に吸収されてしまったんだね』
「はい、ヒメネスに結界札を渡して監視して貰っていますが、ヒメネスも負傷しているので出来れば応援を呼んでいただけるとありがたいです」
監視と言うのは名目で負傷しているヒメネスを連れて移動出来なかったので、出来る限り早く応援を呼んで欲しいと若様にお願いする。
『すぐにゴア隊長に相談するよ。多分手の空いてるマイクさん達が向かってくれると思うよ』
「助かります。それで……何者だッ!」
救援が来てくれる事になり安堵し、オーカスをどうするかと相談しようとした時何者かの気配を背後に感じ、銃を構えながら振り返る。
【お止めなさい。人の子よ、私です】
そこにいたのは黒い翼を持つ天使――ボーティーズで牢屋から脱出するのに手を貸してくれたマンセマットだった。
『天使……いや、大天使かな?』
【流石は神子。見るだけで私が大天使と分かりますか……ならば分かるでしょう? 私は貴方達の敵ではないとね】
にこりと笑うマンセマットの姿は天使の名に恥じない慈悲を感じさせた……だが。
(若様? どうしたと言うんでしょうか?)
式神ごしでも若様が緊張しているのが伝わって来る……ミトラスとの会談以上に若様が緊張しているのを感じ取り、私も必然的に身構える。
【まずは話をしましょう。対話と言うのは何よりも大事だと私は思いますよ? 神子】
『分かったよ、こうして僕達の前に現れたということはオーカスを何とかする手段があるということだろう? マンセマット』
【ええ。その通りですよ】
ニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべているマンセマットは確かに怪しいが、エルブス号と融合したオーカスを何とかする手段があると言われれば無碍には出来ず、私と若様は緊張したままマンセマットの話に耳を傾けるのだった……。
4周目の世界 滅びを求める地球意思 その13へ続く。
と言う訳でペ天使参戦です。前回は長久無しだったのですが、今回は長久ありでマンセマットとの話し合いです。この話し合いがどうなるのか、そして天使に傾倒するゼレーニンがどうなるのか、そこを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。