4周目の世界 滅びを求める地球意思 その13
大天使マンセマット――その語源はマステマ、即ち悪意。悪意を持って神に仕える者……もっと言えば悪霊を部下とし、人間を堕落させ、人間を滅ぼす権利を持った天使……それがマンセマットである。
(こいつがマンセマット……相当やばいな)
式神こしでもマンセマットのやばさがひしひしと伝わってくる。俺の死因になったマタドールよりは弱いが、それでも今の澪達が勝てる相手ではないのが一目で分かる。
【遊びふける国ではお会い出来ませんでしたね。神子よ、人の子に私に助けられたと言う話は聞いていますか?】
「ええ、聞いていますよ。澪達を助けていただきありがとうございます、しかしなにぶん僕は外に出れるほど身体が強くないので式神越しでの話になり申し訳無い」
心配そうに見ているゴア隊長達にハンドサインで大丈夫と送りながら、会話を記録するようにお願いする。
【いえいえ、御気になさる事はございませんよ。神子ともなればこの滅びの地の瘴気はさぞ毒でしょうからね】
にこやかに笑うマンセマットだが、その目は鋭く俺を観察……いや値踏みをしているのが伝わってくる。ミトラスとの話で分かっていたが、天使にもこの肉体は凄まじい価値を持った物なのだろう。暫く互いに観察しあっているとマンセマットが先に笑みを浮かべた。
【神子よ、遊びふける国の支配者と協力することを選択したのは失敗ですよ。あれはこの滅びの地の支配者の手下、いつ寝首をかかれるか分かりませんよ?】
「僕達はこのシュバルツバースの事を何も分かりませんから、リスクは承知しておりますが……それでも貴重な情報を幾つも提供してくれましたよ」
【ふむ、情報をくれたからミトラスの話を信じたと……? 神子とは思えない発言ですね】
「神子と言えど人間ですよ、マンセマット。それに僕には仲間がいます、彼らを無碍に死なせるよりも話し合いで済めばそれに越した事はないと思いませんか? 戦いだけが全てではありません。こうして対話する事は大事だと思いませんか? マンセマット」
マンセマットの先の言葉の言葉尻を取るとマンセマットは少しだけ怒気を見せ、すぐにそれを霧散させた。
【確かにその通りですね。対話は大事ですからね、それにこうして敵地の中で同じ志の者に出会うのは困難ですからね】
「同じ志……それはこのシュバルツバースを何とかしようとしているという事でよろしいでしょうか?」
俺の言葉にマンセマットは我が意を得たりと言わんばかりに笑みを浮かべた。
【その通りです。神子よ、私と貴方達の目的は同じ……敵対する必要はない、そうは思いませんか?】
「確かにその通りですね。ですが、マンセマット。僕は貴方をすぐ信頼出来ないのです。なんせ出会ったばかりですからね、それにオーカスを何とか出来ると言う話はどうなったのですか?」
正直こんなペ天使と話をするつもりはないのだが、オーカスの対処法を知っているのならばそれだけは聞きだす必要があると思いそうといかける。
【ふむ、私はまず信頼を得る為に貴方方に情報を渡さなければならないと……】
「そういう訳ではないですよ、マンセマット。貴方は確かに僕達の仲間を助けてくれた。だけどそれだけは信用するに値しない、それにシュバルツバースを消すためにこの地にいるのに、僕達の前に現れた……それはつまり貴方だけではオーカスを何とか出来ないのではありませんか?」
俺のストレートな言葉にマンセマットは笑みを浮かべつつも、その目に強い敵意を……いや、これは違うか。
(人間に馬鹿にされた事を切れてるな)
礼節を重んじているように見えるが、その実は人間を馬鹿にしている。天使の典型のような性格をしていると分かり、やはりマンセマットは信用できないと言う考えを俺は強め、澪も俺に敵意を見せたマンセマットに対して身構える素振りを取るとマンセマットはハッとした表情を浮かべ、再び笑みを浮かべた。
【確かに私ではオーカスを倒す事が出来ません。ですが、それは貴方方人間のせいでもあるのです】
「僕達のせい? それは舟の事でしょうか?」
オーカスが取り込んでいるエルプス号の事か? と尋ねるとマンセマットはその通りですと頷き、なぜ自分だけではオーカスを倒せないのかというのを説明し始めた。
【本来私の使命とは神に従がう善き魂を守り導き、そして悪しき霊を滅ぼす事にあります。ですが貴方達の船と同じ物を取り込んだオーカスは機械の力も有しています。となると私の力だけでは些か不安が残ります、なので私に提案があります】
エルプス号の動力とプラズマ装甲を考えれば魔法や霊的な力だけでは突破するのはかなり難しいのは自明の理。それにエルプス号が原因と言われればこちらもマンセマットの提案に耳を傾ける必要がある。
「僕達に何を求めているのです? 大天使マンセマット」
あえて大天使をつけるとマンセマットは少し機嫌を良くした様で、少しだけ口調を柔らかくしてきた。
【私がオーカスが嫌う神物を作りましょう。それを貴方方の利器と組み合わせることでオーカスを倒せる力となると私は考えています。ただその神物を作るにも貴方方の協力が必要なのですが……どうでしょうか? 私の申し出を受け入れてくれますか?】
一応尋ねると言うスタンスではあるが、オーカスを倒さなければならないのはマンセマットも俺達も同じで、実質選択肢は1つしかない。
「少し待ってください、僕達のリーダーと話し合います。これだけの内容を僕の一存で決めるわけには行きませんから」
【分かりました。ですがオーカスは今も力をつけています……時間が無いという事をお忘れなきように……】
式神を媒介に澪を守る結界を展開してから溜息と共に顔を上げる。
「と言う訳なのですが……ゴア隊長。どうしましょうか? マンセマットの申し入れを受け入れますか?」
式神の視点は俺を通じてレッドスプライト号のモニターにも映し出されていたので司令部のクルーもゴア隊長も俺とマンセマットの話を聞いてくれていた。個人的にはマンセマットと協力するなんて冗談ではないと思っているが、俺の一存だけで決めてしまえば間違いなくそれを理由に一部のクルーは俺を責め立てるだろう。そうればゴア隊長は俺を庇う、そうなればクルーの間の軋轢はますます根深い物になる。それを避ける為にもゴア隊長に負担を掛けることになるが、ゴア隊長にマンセマットに協力するか、否かの決断を委ねるのだった……。
「と言う訳なのですが……ゴア隊長。どうしましょうか? マンセマットの申し入れを受け入れますか?」
長久君が私に問いかけて来たのは正解だったと正直にそう思った。悪魔に関する全ては長久君に任せているが、天使と悪魔を=で考えていないクルーも一定数いる、そしてその一定数のクルーの多くは悪魔に関して博識の長久君を悪魔の子と影口を叩いている者も含まれる。ここで長久君の一存で決めればまた大きな亀裂が生まれかねなかったので私に判断を仰いでくれて良かったと心からそう思った。
「ゴア隊長。どうするもなにもシュバルツバースを壊す為に降臨した天使が協力してくれと言っているのですから答えは決まってるじゃないですか」
「おいおい、アントリアの悲劇を忘れたのかよ? 天使が俺達の仲間の心臓を抉り出して首を刎ねたんだぜ? ゴア隊長。天使と協力するなんて冗談じゃないぜ」
「殺されたのは信仰心が足りなかったからよ」
「はぁ? ふざけんなッ!! あいつらは熱心なクリスチャンだった! あいつらの信仰心が足りないから殺されたなんてよくも言えたもんだなッ!!」
マンセマットに協力するか否かで口論しているクルー達を見て私は強く手を叩いた。
「落ち着け皆。今は我々で口論している場合ではない。長久君、君はあの天使――マンセマットに協力する事には賛成かね?」
「個人的には反対です。でも調査隊として考えれば賛成です」
幼い長久君が感情では反対しつつも、調査隊の為には受け入れる事も視野に入れていると発言する。その言葉を聞いてから揉めていたクルーに視線を向けると恥ずかしそうに身を小さくし黙りこむ姿を見てこれでやっと冷静に話し合いが出来ると心の中で呟いた。
「マンセマットに質問したいのだが、何を求めているのか明確な回答を求める。生贄などは差し出せんぞ」
「当然ですね。マンセマットに聞いて見ます」
長久君が目を閉じ意識を集中させるとモニターに映る鳥が喋り出した。
『質問ですがマンセマット。貴方は何を求めていますか? 生贄等は困るのですが』
【……ああ。これは配慮が足りませんでしたね。私が何を求めているか、それを説明するのを忘れていました。私が求めるのは女神と妖獣
に属する悪魔を1体ずつです。それさえあればオーカスを退けた女神の神物を作り出すことが出来ます】
マンセマットの要求は悪魔が2体で、生贄などではないと分かり安堵する。
『分かりました。少しお時間をいただきますが、よろしいでしょうか? 我々の仲間をそちらへ送り出し、そこで女神と妖獣を引き渡します』
【構いませんよ、私はここで待っていましょう】
澪とマンセマットが向かい合う中長久君が再び目を開いた。
「交渉をしている時間はないので合体で用意しましょうか、カトーさん。機動班のクルーの契約してる悪魔の一覧がありましたよね、それを見せてもらえますか?」
「あ、ああッ! すぐに準備する」
カトーがコンソールを叩き機動班が契約している悪魔の一覧がメインモニターに映し出される。
「どうだ? 悪魔の準備は出来そうか?」
「多分大丈夫ですけど……応援に送り出すマイクさん達の錬度が心配ですね。レッドスプライト号の守りが手薄になりますがタイラーさんも派遣してもらえますか?」
悪魔を従がえるには悪魔よりも召喚者が強く無ければならないのが大前提だ。それを我々は錬度と呼称したが、マイク達の錬度は約10前後、オーカスを監視しているヒメネスが17、澪が20、タイラーが15、そして私が28となっている。
「タイラー。マイク達に同行してもらえるか?」
「イエッサー! お任せください」
「じゃあまずはピクシーとタンガタ・マヌでエンジェルを作り、エンジェルとアプサラスで女神ハトホルをタイラーさんのデモニカで作成してください。次にコッパテングとウブでカクエンを作りましょう」
長久君が必要とする悪魔の名前を次々と読み上げ、機動班のクルー達が悪魔合体で必要な悪魔の作成を始めるのを横目に小声で長久君に問いかける。
(長久君。あのマンセマットは……味方か?)
(今は協力出来ても最終的には敵になると思いますよ。天使の考えと僕達の考えは絶対に相容れませんからね)
(だろうな)
短い会話でもマンセマットが人間を見下しているのは感じ取れた。それは私だけではなく司令部のクルーもその多くが感じ取った筈だが、それでもマンセマットに全幅の信頼を向けてるものもいる。
「恐ろしいのは宗教か、それともシュバルツバースの環境か……どっちだろうな」
「しょうがないですよ、ゴア隊長。誰だって縋りたいと思うのは当然の事です。所でゴア隊長の耳にだけ入れておきたい内密な話があるのですが」
「聞こう」
「天使、いや神の側からマンセマットが派遣されたことを考えると、恐らく魔王側からも悪魔が派遣される可能性があります。もっと言うと魔王の頭領が自ら乗り込んでくる可能性があると思います」
「魔王の頭領……そんな者がいるのか?」
「います。全ての魔王の頂点、魔王を従える者……ルシファーがいます」
宗教などに詳しくなくともその名前は知っている。そしてルシファーがどれだけ恐ろしい存在かもだ。
「確かに共有できないな、その話は」
「でしょう?」
ルシファーが、あるいはその部下が乗り込んでくるかもしれないと聞けば間違いなくマンセマットを協力者として迎え入れるべきだと言う話が出てくるだろう。下手をすれば調査隊が二分されるかもしれない、私にだけ伝えたいと言う長久君の考えも至極当然の事だった。
「考える事は山積みだが、まずはオーカスを何とかすることが最優先だな」
問題は増える一方、そして協力し合わなければならない調査隊の中でも不和が生まれている……そんな今だからこそ思うのだ。
(私は死んでいた……か)
長久君を拉致しようとしていた少女――アレックス。彼女は私が死んでる筈と言って驚いていた事を思い出す。彼女のデモニカは私達のデモニカよりも高性能だった事を考えると1つの仮説が浮かび上がってくる。
(シュバルツバースを破壊する事に私達は成功した。だがまたシュバルツバースが発生したと考えるべきか)
シュバルツバース自体は時空の流れが歪んでいると聞く、未来のシュバルツバースと現在のシュバルツバースのどこかが繋がっていて未来から来ている者もいるかもしれない。
(出来る事ならば彼女から話を聞きたいが……それも難しいだろうな、タイムパラドックスだったか? それを誘発させる事にもなるやもしれん。いや、もしかすると現在進行形で起きているのかもな)
私が生きている……それだけでタイムパラドックスは発生する筈だ。死んだ者が生きている……それがどんな結果を齎すかは想像もつかないが、私のやるべき事は変わらない。
「ゴア隊長! 悪魔の準備が完了しましたッ!」
「良し! マイク達はタイラーの指揮下に入り澪と合流、その後ヒメネスの治療へと向かえ!」
「「「了解ッ!」」」
仲間と共にシュバルツバースを消滅させる、私がいる事でもしもタイムパラドックスが起きると言うのならば……歴史を変える事が出来ると言うのならば……。
(2度とシュバルツバースを発生させない、これを最初で最後にしてみせる)
カリーナの観測作業をしている中で話し声がし、観測作業を中断し声の元へ向かったそこで私は澪とマンセマットの2人と再会した。
「あら……? 澪、あの時の天使と一緒なのね」
【おお、貴女は確かゼレーニンでしたね、見た所随分と元気になられたようで良かったです】
柔らかい笑みを浮かべてくるマンセマットに私も微笑み返すと頭の上に長久の使い魔を乗せた澪が私に鋭い視線を向けてきた。
「ゼレーニン。貴女1人で何をしているの? 貴女の護衛に機動班が割かれているのに、彼らを撒いてここに来たの?」
かなり強い口調でむっとするが、冷静に考えれば悪いのは私だ。それに事実機動班のクルーからも悪魔を使えと何度も言われたのにそれを断って、苦渋の策として護衛をつけて観測作業をしていた事を考えれば1人でこうして行動しているのは許されない行為だろう。
【護衛? ゼレーニン。貴女は悪魔を利用していないのですか?】
私が謝罪の言葉を口にしようとした時にマンセマットが私と澪の会話に割り込んできた。
「え、ええ。悪魔は恐ろしくて信用出来ないわ。召喚プログラムもあるけど、お飾りなだけよ」
「それは貴女が嫌悪するからよ。悪魔召喚プログラムがあるのだから悪魔と契約するべき」
「……分かってはいるんだけどね、そうは割り切れないわ」
ボーティーズで悪魔の実験台となり死んでいった仲間達、もう少し遅ければ私もその実験台になっていたかもしれないと考えると悪魔と契約するなんて冗談じゃない、もっと言えば私達の仲間を実験したミトラスと協力する決断を下したゴア隊長にも正直に言えば不信感がある。
(頭では理解できても感情じゃ理解出来ないわよ)
悪魔関連の専門家として調査隊に同行している長久の決断にだって不満はある。ミトラスと協力する選択をしたのは長久の判断だ。確かに悪魔の情報、シュバルツバースの内情を知る為に協力すると言う選択は間違いではない、だがその悪魔の実験台になりかけた身としてはその決断に不満を抱くのは当然の権利だと思う。
「澪。悪魔を連れて来た……ゼレーニン? お前こんな所で何をしている。護衛はどうした?」
「タイラーさん、いえ、その話し声が聞こえて」
「ゼレーニン。お前が悪魔が嫌だからと護衛に戦力を割いているという事を良く理解しろ。お前は自分勝手に行動出来る立場にないんだぞ」
タイラーさんだけではなく、マイク達の責める様な視線が私へと向けられる。タイラーさん達の言ってる事が正しいと言うのは分かっている……だけど。
(もう少し私の事を考えてくれても良いじゃない)
こんな一方的に責められる謂れは無い筈だ。悪魔に恐ろしい目に合わされても調査隊としての任務は果している筈だ、それなのに悪魔と契約していないだけでどうしてこうも責められなければならないのだと叫びたくなったのをグッと堪えてすいませんと頭を下げた。
【まぁまぁ、そう責める事もありますまい。ゼレーニンが悪魔を嫌悪するのはその霊感がそうさせるのかもしれませんよ】
『マンセマット、これは僕達の問題です。あまりに口を挟まないでいただきたい』
長久としてはマンセマットの甘言からゼレーニンを守ったつもりだが、ゼレーニンからすれば長久は信用出来ない相手であり、優しい言葉を投げかけてくるマンセマットを責める発言にゼレーニンは長久に敵意を抱いた……マンセマットの計算通りに……。
【それは失礼しました。では早速私の術に取り掛かるとしましょうか、これ以上オーカスが強くなっても困りますしね。この術は悪魔を焼き組み替え精髄たる石に変える事が出来るのです。ですが……その炎を人の子が見る事は許されません。災いを齎しますからね? それは神子であっても変わりません。ですので私が合図したら、目を閉じて、再び合図するまで開けないでください。よろしいですね?】
『……分かりました。澪、タイラーさん達も目を閉じてください』
長久の言葉に澪達が頷いて目を閉じる。その姿を見て何故そこまで長久を信用するのかとますます不信感を抱く事になるが、マンセマットに目を閉じろと言われたこともあり、少し遅れて目を閉じる。
【では始めます。ムォッ!!……ムォオオオッ……グォフッ……フンフンッ!! はぁああああッ!! 良し、上手くいきました、もう目を開けても大丈夫ですよ】
マンセマットに言われて目を開くとマンセマットの手の中には菱形の結晶体が乗せられていた。
「それは一体……何かしら? その結晶に悪魔は変化したのかしら?」
【その通りです、ゼレーニン。連れて来て頂いた悪魔は、この結晶へと姿を変えました。名はシボレテとでもしておきましょう】
「セボ?」
「セボルテ?」
「シウボレテじゃないのか?」
タイラーさん達が上手く言えないでいるが、そんなに難しい言葉だろうかと思いながら私は小さく呟いた。
「シボレテ……? 聞きなれない言葉を付けるのね?」
私の言葉にマンセマットはとても嬉しそうな笑みを浮かべた。
【そう、シボレテ……良い発音でしたよ、ゼレーニン。お渡しするのはあなたになるのかな? 澪、そして神子よ。どうぞ、受け取ってください。私の力は見せましたから次は貴方達人間の力、技術を見せて貰うのを楽しみにしていますよ】
マンセマットはそう笑うと澪にシボレテ結晶を手渡した。
「期待に答えれるようには頑張るわ」
『ありがとうございます。マンセマット』
【いえいえ、お気になさらず。それと……ゼレーニン。貴女にこの贈り物を、貴女をお守りすると思うのですが……?】
マンセマットの背後に盾と槍を手にした天使が現れ、その天使が私の前で膝をついた。
『マンセマット困ります』
【これは私の気持ちですよ。悪魔が恐ろしいと言うのならば天使を使役すれば良い。違いますか?】
『お気持ちだけで結構です。どうぞお引取りを』
マンセマットが授けてくれた天使を返そうとする長久の言葉にマンセマットは返事を返さず私に視線を向けた。
【ゼレーニン。貴女は悪魔は使えないかもしれませんが、私の友たる力ではどうでしょう? 貴女にも悪魔と戦う者として永らえて貰いたいです。決めるのは貴女ですよ、神子に賛同するのならばお返しください、ですが貴女の意思で使役すると言うのならば授けましょう】
決めるのは私……そう私だ。長久は専門家でアドバイザーかもしれないが、結局安全な場所で指示を出しているだけ、そんな人間に従がわなくても良い筈だ。
「私にも使えそうだわ。ありがとう、マンセマット。この天使と契約させて貰うわ」
【受け取ってくれて、ありがとう。貴方達にも我が主の加護があらんことを……では貴女達がオーカスに立ち向かう時にはご一緒しましょう。ではいずれまた……】
私が天使を受け取るとマンセマットは柔らかく微笑み、私達に背を向けて歩き去っていった。
「シュバルツバースは悪魔の棲む世界だけど……光の霊の助けもあるのね。私達、きっと帰れるわ。そして、悪魔もシュバルツバースを消し去ることも……じゃあ私も任務に戻るわね。天使がいるから前よりももっと観測がしやすくなると思うわ」
私を信じられないと言う様子で見つめている澪達に背を向けて歩き出そうとすると式神とかいう使い魔でこの場にいた長久が私に声を掛けてきた。
『ゼレーニンさん。本当に良いんですね?』
「ええ、貴方の助言は聞いたわ。でも決めるのは私、悪魔と天使は違うもの。私は天使を使役するわ、行きましょうパワー」
【御意】
私につき従ってくれるパワーと共に私は今度こそ澪達の前を後にするのだった……。
天使を引き連れて歩き去っていくゼレーニンの姿を見送り、私は長久に視線を向けた。
「あれは良いのか? 長久」
『良いか悪いかで言われると悪いです。と言うか最悪です、マンセマットにこちらの事情が筒抜けになりますから』
「スパイを押し付けられたって事かい、最悪だね」
天使の悪逆を覚えている身とすれば天使と契約したゼレーニンの方が信じられないが、ゼレーニンからすれば悪魔と契約している私達のほうが信じられないのかもしれないな……。
「とりあえずこの件はゴア隊長と長久の方で話し合ってくれ、マイク、それとスティードマンは澪と一緒に1度レッドスプライト号へ帰還してくれ、このせ、せ、せぼ……駄目だ。上手く言えない、何でだ?」
簡単な一言が上手く言えない、そのもどかしさに何でだと呟くと長久が答えをくれた。
『シボルテはかつてのエフライム族とギレアド人の戦争の際に敗走したエフライム民族を炙り出す為に使われた言葉です。これは恐らく概念的なものなのでしょう。天使に従うものか、否かという選別です。タイラーさん達が上手く言えないのは恐らく天使に対して反発心があるからでしょう』
天使に対して反発心があるのは当然だ。アントリアで天使に仲間が殺された、それを目の当たりにし天使を信じるなんて出来る訳が無い。
「そう言うことか、とりあえず澪達はこれをレッドスプライト号へ持ち帰り、アーヴィンに渡してくれ。アーヴィンならこれを有効活用してくれる筈だ」
「了解です。若様はどうしますか?」
『僕はこのままタイラーさん達と一緒にヒメネスさんの様子を見に行って、オーカスを見てみるよ。澪もマイクさんもスティードマンさんも気をつけて帰還してください』
長久の言葉に頷き来た道を引き返していく澪達を見送り、私達はヒメネスがオーカスを監視しているポイントへ向かって移動を再開する。
「それにしてもあのアホ女は何を考えてるんだ?」
「確かにな、マンセマットなんてどう考えても怪しいだろうに」
「仕方あるまい。何か切っ掛けがあればゼレーニンも考え直す切っ掛けになるだろう。それよりもヒメネスが心配だ。先を急ごう」
とにかく今はヒメネスと合流する事が最優先だ。ただ懸念材料もあるゼレーニンが天使を迎え入れた事で長久を危険視、あるは排除しようと思っている派閥と長久を擁護する私達やゴア隊長の派閥で二分化が加速するのは確実、あんなあからさまに怪しいマンセマットの言葉を信じたゼレーニンによって協力し合うべき仲間達の中で不和が生まれる未来しか私には見えなかった。
「怨むぞ、ゼレーニン」
思わずそう呟いてしまうのは当然の事であり、これからの事を考えると頭が痛くなる。私でさえこれなのだから指揮官のゴア隊長はもっと大変だ。ゴア隊長、そして長久の苦労を考え私は深い溜息を吐くのだった……。
4周目の世界 滅びを求める地球意思 その14へ続く
改変ポイントとしてゴア隊長やマイク達の生存があるので絶賛タイムパラドックス中ですね。そしてゼレーニンは馬鹿と結構救いようがありませんね、次回はレッドスプライト号に焦点を合てて話を進めていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。