4周目の世界 滅びを求める地球意思 その15
澪達がオーカスを撃退した頃、日本でも1つの大きな動きが起きていた。
「き、貴様ら正気かッ! わ、我ら桐条を……」
1発の銃声が日本家屋の中に響き、長い間峰津院家を支配していた1つの名家の長が己の額から溢れ出た血液と脳漿の海に沈んだ。
「勘違いしていたようだな、俺達はお婆様がいたからお前達を見逃していたに過ぎなかったのだ」
壁、廊下、天井……その全てが血塗れという凄惨な現場の中で1人の青年が吐き捨てるようにそう呟き、インカムに手を当てる。
「都、こっちの処理は終わった。そっちはどうだ?」
『た、助け、ぎゃあ……こっちも終わったよ、大和』
恐らくナイフで喉を掻ききられたであろう男の小さな悲鳴に対して楽しそうな少女の声に男――「峰津院大和」は僅かに眉を顰めるがすぐに気を取り直したのかコートを翻し、3体の悪魔を引き連れて屋敷の出口へと向かう。
「これで桐条も南条も終わったが……」
『もっと早く実行していれば長久がシュバルツバースに行く事は無かったんだよね……はぁ、しくじったなあ』
峰津院の名の通り、大和、都の2人は長久と血の繋がった兄姉であり、長久と異なり自分で戦える悪魔召喚師でもあり……そして本来はシュバルツバース調査隊のアドバイザーとして乗り込む筈だった者達である。
「言うな、まさか俺とお前が動いている間にあの愚者共が動くとは思っていなかったのだからな」
当初の計画では大和、あるいは都がアドバイザーとしてレッドスプライト号に乗る予定だった。だが日本に出現した悪魔の討伐に都と大和が動いている間に長久を邪魔と考えていた者達によって長久は南極に送り出され、それに反対していた唯一峰津院家と協力体制にあり、長久の祖母である桐条美鶴も事故に見せかけ殺害されたと知り、大事な弟とそして唯一の味方を失った大和と都は長年計画していたクーデターを実行したのだ。
『この後は?』
「この後は合同会議場に乗り込むぞ、どうせあいつらは何の役にも立っていない。俺と都が行くほうが調査隊にとって有益だ」
『ついでに主導権もとっちゃう訳ね、完全に乗っ取ちゃう?』
くすくすと楽しそうに笑う都に大和はふんっと不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「どの道地球にも悪魔が出現するのも時間の問題だ。先手を打たなければ一気に押し潰される、それを避けるだけだ」
『まー馬鹿ばっかりだしね、じゃあ早速行こうか』
「ああ、我々の部下は優秀だ。我々がいなくとも日本は問題ない、それよりも重要なのは長久だ」
『そうだね、長久が無事だと良いけど……』
「葛葉を裏切った澪がついているから心配はない、それよりも1度通信を切るぞ」
『りょーかい、合同計画の本部で会おうね』
軽い都の言葉に返事を返さず大和は屋敷の庭に止まっていたヘリに乗り込む。
「合同計画の本部に向かえ」
「了解です、局長」
パイロットの言葉に返事を返さず大和は座席に座り、腕を組んで目を閉じる。その姿は冷静その物に見えるが、良く見ると足が小刻みに貧乏ゆすりを繰り返しており、その精神状態は冷静とは程遠い状況にあった。
(合同本部も一枚岩ではない、アメリカが独自にもう1隻の万能艦を持ち出したという噂もある)
調査隊と連絡が取れず、次の部隊を送り込むか、どうかという議論の裏でシュバルツバースをただの資材の宝庫、あるいは一部の選ばれた人間だけが生き残るシェルターと考えている権力者もいる。
(とにかく今は長久の安否確認が最優先だ。澪がついているから心配はしていないが……長久の性格を考えるとな)
長久は大和と都と異なり慈悲深く、そして弱者に奉仕することを厭わない性格をしている。だがその性格はこの終末環境では利用されるだけの物であると言う事を大和は嫌というほど知っている。幼い長久が調査隊に利用されていないか、それとも悪魔と契約する為の生贄にされていないかと強者だけを尊ぶ性格をしている大和でさえも血を分けた弟には甘いのか、合同本部に到着するまでの間長久の無事を祈らずには居られないのだった……。
グレーバー通信機をエルブス号から回収出来たのはシュバルツバース調査隊にとって久方のぶりの朗報であり、司令部が明るい雰囲気で満たされたのは久方ぶりの事だった。
「澪、ヒメネス。ご苦労だった、2人の活躍によってグレーバー通信機の回収に成功したのは我々にとって大きな一歩だ。いまアーサーとムッチーノによってグレーバー通信機の調整が行なわれている。それが完了次第地上との交信を試みる」
ゴア隊長の言葉に司令部に歓声が上がる中、若様だけが浮かない顔をしていた。
「どうしたのですか? 若様」
私がどうかしたのですかと尋ねると若様はハッとした表情を浮かべてから、小さくごめんねと謝ってからどうしたのかを教えてくれた。
「夢を見たんだ。白い龍が2匹、別々の場所で豪華な屋敷を破壊する夢を……」
「それはまさか……予知夢でしょうか?」
「わかんない……でも何か良くないことだけで良い事が起きているような……ちょっと判断に悩むところ」
白い龍、そして屋敷を破壊する光景と聞いて私の脳裏には2人の人物の姿が横切り、それと同時にありえると思った。何故ならばあのお2人は桐条と南条を憎んでいる。
(日本で何か起きているかもしれないですね)
クーデターを起したかもしれないと心配に思っているとムッチーノとアーサーの声が司令部に響き、私と若様は顔を上げた。
『グレーバー通信機に異常はありませんでしたが、オーカスによってエネルギーを吸収されていた為通信時間に制限が掛かる事になりそうです。ムッチーノ隊員、詳しい説明をお願いします』
「分かりました。通信機のエネルギーである重量子の関係から交信は最大で30分ほど、最低で10分ほどになると思います。エネルギーが回復するまで通信は再び可能となりますがその為にはグレーバー通信機のメンテ等が必要で数日の時間が必要となります」
「ここでも豚野郎の弊害かよ」
ヒメネスが吐き捨てるように言うが私達も同じ気持ちだ。あれだけ苦労したのに通信時間に制限が掛かる上に不安定ともなれば不満を口にしたくなるのは当然の事だ。
『という訳で通信は慎重に行なってくださいゴア隊長』
「了解した。アーサー、ムッチーノ交信を始めてくれ」
『了解』
「分かりました。交信チャンネルのサーチを開始します。対象はシュバルツバース合同計画の本部…………………………………ッ! 見つかりました!!M28のチャンネルで通信開始しますッ!!」
ムッチーノがコンソールを操作し、メインモニターにノイズが走り、それが少しずつ鮮明になり合同計画本部が映し出される。
『……こちらシュバルツバース行動計画。交信派をキャッチした。そっちは調査隊か? 応答されたし』
声も不鮮明だが確かに地上との交信に成功し、声を上げようとする隊員がいるがカトーに手で制され、メインモニターの前に立つゴア隊長が応答する。
「合同計画本部へ連絡。こちらはレッドスプライト号、この交信は極めて不安定なため安定した交信可能時間は15分前後と思われる。その範囲で可能な情報交換を希望します」
『おおおっ……!応答だッ! 応答があったぞッ! 生きていたのかゴアッ! 良かった、本当に良かったッ!! 私は合同計画局長だッ!……おおっ! しかし信じられんッ! いや、今はそんな話をしている場合ではないな、今どこだ?! どうしている!? そっちの状況を知らせてくれッ!』
応答してくれたのは合同計画の局長であり、ゴア隊長を調査隊の隊長に推薦した議員だったようだ。通信時間に制限があると聞いて無駄話をやめてすぐに本題に切り替わってくれたのはありがたいことだった。
「現在当艦はシュバルツバース内を作戦を続行中です、ですが全4艦の中、ブルージェット、エルブス号が壊滅、ギガンティック号は消息不明、死傷者・負傷者共に多数です」
あまりに絶望的なゴア隊長の報告に合同本部の局長が息を飲み、本部にも静寂が広がる。
『何があった、シュバルツバース内で何があったのかを説明してくれ。調査隊のメンバーは国連が選んだエリート部隊、簡単に壊滅すると信じられない』
『局長、自分の常識を当て嵌めない方が良い』
局長の言葉を遮って黒いコートを羽織った青年がメインモニターに映し出された。
「誰だ?」
「いや、本部では見たことが無い」
「何者だ」
ヒメネス達が誰だとひそひそ話をする中、若様の呟きが司令部に響き渡った。
「大和兄さん」
『その声は長久か、無事で何より、それより何があった』
『ちょいちょい、大和。もう少し長久の安否を聞いて上げなよ、やっほ、長久。元気?』
「都姉さん、はい、僕は元気です。無駄話をしている時間はないので何があったのかを説明しますね」
『ああ、そうしてくれ、局長。よろしいですね?』
『そうしてくれ、頼むぞ峰津院君』
峰津院の名前と若様が兄さん、姉さんと呼んだ事で目の前の若い男女の2人が若様の血縁関係者だと分かり、司令部にざわめきが広がるとモニター越しの大和様が手を叩いた。
『やかましいぞ、ゴア隊長。貴方ももう少し部下の手綱を握るべきだ、何故律しない?』
傲岸不遜その物の大和様の言葉にゴア隊長がすまないと謝罪すると大和様はやれやれと肩を竦める。
『長久、俺と都はシュバルツバースを異界と推測しているが、どうなっている』
「かなり強固な異界となっています、主は恐らく女神もしくは地母神。それらの配下が単独で異界を形成しています」
『やっぱりね、それで中はどう?』
「先遣調査機で測定された物とほぼ同等の環境状況です。デモニカスーツがあれば外での活動はできますが、人間生活にはとても適しているとはいえない環境です」
若様と大和様、都様の話にゴア隊長も、合同本部の局長も口を挟む事が出来ず、3人の間で情報交換が目まぐるしい速度で行なわれる。
(なぁ、澪。長久の兄貴と姉貴って言ってたけど随分と長久と雰囲気が違う事ないか?)
(大和様と都様はお2人とも自他共に厳しいお方ですから)
都様も雰囲気こそ大和様と違うように感じられるが、大和様と同じく自他とも厳しく、そしてやや享楽的な面もあるので大和様以上に恐ろしいお方でもある。
(そして本当なら調査隊に同行するはずだったお2人です)
(こんな事を言うのなんだが、長久で良かったと思うぜ。多分俺らとは馬が合わないと思う)
確かに大和様と都様ならば今よりも調査隊の不和が大きくなっていたのが容易に想像出来てしまい、私もヒメネスの言葉に思わず頷いてしまった。
『長久、シュバルツバースの内部はどうだ? やはり事前の調査の結果のとおりか?』
「はい、異界の中に戦場、歓楽街、ショッピングモールを確認しています、それらの区画にはやはり強力な悪魔が支配者として存在していました」
『君達を信じていないわけでは無いがやはりシュバルツバースの内部には悪魔が存在しているのかね?』
『局長、貴方達は既に悪魔を見ている。それなのにまだ悪魔を信じないのですか?』
地上にいる局長が悪魔を見ているという大和様の言葉に司令部に同様と驚愕の声が広がる。
「大和だったな、地上に悪魔が出現しているのか?」
信じたくない言葉だっただからこそゴア隊長が大和様に地上にも悪魔が出現しているのかと問いかける。
『シュバルツバースから出現した悪魔によって元々地上に生息していた悪魔も活性化を始めている。悪い話は伝えたくはないが既に南極の各基地はほぼ壊滅、その後悪魔は周辺の土着の悪魔を活性化させながら北上を続けている』
「悪魔の侵攻は食い止められているのですか? 大和兄さん」
『ギリギリという所だ、悪魔使いの数は多くはない、いくつかは切捨て選択をせざるを得ない状況だ。幸い人口が少ないから住人を保護して街を放棄すると言う選択をしている」
地上世界への悪魔の進軍、それを食い止める術は僅かしかなく、街を捨てると言う選択もしなければならないまでに地上の状況は良くないらしい。
「地上に進撃すると言っていたが、もう奴らは動いているのかッ!」
「それだけじゃないわ、シュバルツバースがもうあんなに巨大化してる……ッ」
乗り込む前の倍以上に巨大化しているシュバルツバースの光景にゼレーニンが声を震わせる。
「それに地上に脱出した所で待ってるのは悪魔の大群かよ……」
「それで済めば良いが、地上に脱出しても人間が全滅している可能性まであるぜ……」
超常の力を持つ悪魔を前に通常の兵器しか持たない兵士達では食い止める事は出来ず、悪魔に蹂躙されるだけだろう。絶望的な未来が脳裏に過ぎり通信機を手にした時の明るい雰囲気は消え去り、誰もが俯いていた。
「このような現状では調査任務遂行は不可能です! 脱出プランの構築や、応援艦艇の派遣などは検討いただけませんかッ!?」
余りにも絶望的な状況に耐えかねたのか司令部の女性クルーがそう声を上げた。だが合同計画本部の返答は更なる絶望を私達に与えるだけだった……。
『残念だが我々には君達に脱出プランを授ける事も、応援の艦艇を送る事も出来ない。何故なら我々が想定していた全ての自体に備えてシュバルツバース攻略用の装備をつくり、それを授けたのが君達調査隊だからだ。その君達が遭難し、脱出出来ないとなれば……合同本部から出来る事は殆ど何もない……』
応援部隊が来るかもしれないという希望も局長の言葉に断ち切られてしまった……。
「大和兄さん、何も考えてない訳じゃないよね?」
『ふっ、当たり前だ、通常の方法で応援を送る事は残念だが俺と都でも出来ない、だが長久。お前がいるなら話は別だ』
若様がいるなら話が変わると聞いて司令部にいたクルーの視線が若様へと集まる。
『こちらで霊脈と悪魔を用いて陣を作る。ただこちらで作れるのは入り口だけだ』
『長久、そっちの方でゲートを作れたりする?』
「……ちょっと、いや大分難しいです。霊脈が安定していないですし、僕は2人ほど霊脈の扱いは得意じゃありません」
『だが陣を作ることは出来るだろう? それさえ出来ればこちらでこじ開けて少量だが物資や食料をそちらに送る事も出来る、地上で俺と都が仲間にした悪魔もそちらへ送り込める』
大和様達が出来るのは峰津院家の秘術を用いた物資の支援と、地上世界で仲魔にした悪魔を転送してくれるらしい。
『それだけではないぞ、重力子ビームを使って、君達の「時空位置座標」の測定に協力することは可能だ。こちらから次元に干渉されず直進する重力子ビームを発射する。それをレッドスプライト号でキャッチすれば時空位置座標も明らかになることだろう。我々は、決して君たちを見捨ててはいないッ!』
大和様に続いて局長も手を拱いているだけではなく、私達を救出、あるいは支援する準備があると力強く叫んだ。
「電波が急速に乱れてきています! 通信切断の危険性がありますッ!」
ムッチーノの報告の通り再びメインモニターにノイズが混じり始め、映像が不鮮明になり始める。
『今から重力子ビームを発射する。活用してくれ、ゴア隊長、アーサー、残りの通信で可能な限りそっちが持っている観測データを送ってくれ』
「アーサー、ムッチーノ!」
『正にデータを送信します。ムッチーノ隊員は受信を行なってください』
「了解ッ!」
アーサーとムッチーノによって合同本部が送ってくれた座標データと私達の調査結果のデータの交換に成功した所でグレーバー通信機は沈黙するのだった……。
峰津院大和と都、峰津院長久の記憶があってよかった。そうでなければ話をあそこまで合せる事が出来ず、俺が長久本人ではないと気付かれてしまっていたかもしれないからだ。
(とりあえずは希望は繋がったか)
支援物資が手に入る算段がついただけでも大きな進展と言えるかなと考えているとゴア隊長が俺に声を掛けてきた。
「陣という物はすぐに準備できるのかね?」
「準備自体は出来ますが、かなり大規模な物になりますし、大和兄さん達がどれだけ物資を送ってくれるかわかりませんから……降車デッキに陣を作りたいと思うんですがどうでしょうか?」
「その陣っつうのが良くわからねえんだが……どういうものなんだ?」
ヒメネスさんが手を上げてどういうものなのかと説明を求めてくる。もちろん口にはしていないが、ほかのクルーの皆も同じだ。
「簡単に言うとTVの受信送信機ですね、大和兄さんが送信して僕が受け取る形になります」
「送受信は……出来ないと言っていたな。すまん、忘れてくれ」
「いえ、こればっかりは僕の力不足といいますか、どうしようも出来ない問題の部分なんですよ。僕が幼すぎるっていう時間が経たないとどうしようもない問題なんです」
霊脈を操るだけの肉体的な強度が無い、単純に言うとこの身体が幼すぎるのが問題なのだと説明する。
「そりゃどうしようもねえな、しかしあれだな。苦労してグレーバー通信機を手に入れ、ようやく出来た地上との交信だったが……分かったのは地球がいよいよヤバそうだって報告だけだな」
「確かにネガティブな報告が相次いだわ。脱出方法不明、援軍無し……とくれば沈む気持ちも分からなくはないけど……希望を失うには、気が早すぎるわ」
ヒメネスさんの言葉にゼレーニンさんが諦めるには早すぎると言うとヒメネスさんは肩を竦めた。
「俺はこう見えて現実主義者で、目の前の事実に素直なんでな。それとも何か? アンタが夢のある話でもしてくれるのか?ゼレーニン中尉殿?」
その挑発的な言葉にゼレーニンさんは不機嫌そうに眉を顰めたが小さくため息を吐き、気持ちをリセットさせたのかヒメネスさんの言う「夢」のある話をしてくれた。
「ゴア隊長、アーサーに時空位置座標の重要性の説明をして貰いたいのですがよろしいでしょうか?」
「構わない、許可する。アーサー、皆に時空位置座標システムの説明を」
ゴア隊長の指示でアーサーが時空位置座標システムの説明を始めてくれた。
『時空位置座標の重要性についてですが、我々がこのシュバルツバースから脱出できない最大の要因はどこにいるか分からないという事です。たとえ行動範囲を広げても、戻ろうとする地上との時空相関が分からなれば……我々は永遠にこのシュバルツバースを彷徨う危険に晒されます。合同本部から送られる重力子ビームを利用する事で、初めて我々の現在位置を知る事が出来るのです』
出口が分からないから脱出出来ない、だが重力子ビームを活用する事で始めて俺達の詳しい現在位置が分かる。それによって脱出経路を見つける事が出来るとアーサーの説明を受けて合同本部の支援がどれだけ重要な物であったのかを俺もやっと詳しく理解する事が出来た。
『合同本部から送られてきた時空位置座標によって我々は、詳しい自らの位置を知る事が可能になり、それと同時にシュバルツバースの構造を理解する事が出来ます。これによって量子トンネルに流されて奥地に進むというばかりでなく……地上への脱出路を手に入れる事を意味します』
今まではただ進んでいたが、それが出口に進んでいるのか、それとも奥に進んでいるのかが定かではなかった。だが時空位置を正確に把握できたことで自らの進行方向をしっかりと把握出来るようになった……らしい。
(まぁ出口に強力な悪魔が陣取ってる可能性は言わない方が良いよな)
余りにも暗い話が続いていた中でやっと見つけた希望に水を差すような真似はしないでおこうと考えていると俺にだけ向けられている強烈な威圧感に息を呑んだ。
(……そうか、忘れていた。この可能性があったんだ)
地母神が単独で動いてると考えていたが、「誰か」に命じられている可能性を考えていなかった。そしてそんな強力な悪魔に命令を下すことが出来る悪魔を俺は知っていた。
「我々は少しずつだが前に進んでいる。決して絶望せずに前を向いて進んでいこう! 当面の目的はオーカスからのロゼッタ物質の入手だが、これも厳しい戦いが予測される。機動班達は暫し休息をとって英気を養ってくれ」
ゴア隊長がそう指示を下し、皆が動き出そうとしたその瞬間に司令部に鈴を転がしたような可憐な声が響いた。
「絶望の中で希望を抱いて前に進むか、素晴しい。それでこそ人間、儚くもあり強くもある人間の美しさだ」
突然聞こえて来た第3者の声にゴア隊長達が身構えようとするよりも早く、俺は声を上げた。
「動かないでッ! 動いたら駄目だッ! この人と戦えば僕達は何も出来ずに全滅する。お願いだから誰も動かないでくださいッ!」
俺の悲鳴にも似た言葉にゴア隊長達は動きを止め、そんなゴア隊長達を見て突如司令部に現れた少女のくすくすと言う笑い声が司令部に響いた。
「良い判断だ、そうだね。私もか弱い身だ、武器を向けられたら怖くて反撃してしまっていたかもしれないね」
くすくすと笑うドレス姿の少女――俺の知ってる姿とは違うが、その気配を、その恐ろしいMAGを俺はしっかりと覚えていた。
「初めましてだね。人間の諸君、私は……そうだね、ルイ。ルイ・サイファーとでも呼んで貰おうかな、よろしく」
にこにこと笑うルイさんの言葉に誰も返事を返せなかった。モラクス、ミトラス、そしてオーカス。その何れも強力な悪魔だった。だがルイさんはそんな悪魔を指先1つ、いや下手をすれば視線を合わせるだけで倒せるようなそんな桁違いに強力な悪魔だ。その威圧感に当てられれば、動けなくなるのは当然だ。
「シュバルツバース調査隊隊長ゴアだ。よろしく、ルイ・サイファー」
だがそんな中でゴア隊長だけが動き握手を求めて手を差し出す、それを見てルイさんは心底楽しそうに笑いゴア隊長の手を握り返す。
「少し話をしたんだけど良いかな?」
「構わないとも、何か飲み物でも用意しよう」
「ふふ、楽しいお茶会になりそうだ」
ゴア隊長を気に入ったようでルイさんは柔らかな笑みを浮かべる。だが俺はこれから始るであろうお茶会を考えて胃が痛くなってくるのだった……。
4周目の世界 滅びを求める地球意思 その16へ続く
原作では主人公の前にだけ現れたルイ様ですが、今回は長久もいるので調査隊の前に出現してもらいました。次回はルイ様との会話ターン、当然ファンぶるとすると全滅不可避なので、かなり緊張感を持って話を進めていこうと思います。それでは次回の更新もどうか宜しくお願いします。