収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

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4周目の世界 滅びを求める地球意思 その16

4周目の世界 滅びを求める地球意思 その16

 

ドレスを着た一見品の良い女性……だがその女性と向き合ってから身体の震えが止まらない。その細い首は軍人として鍛えてきた私なら片手で折れそうに思えるが、そうした瞬間に私の命が終わるのを直感で感じた。

 

(何故分からない、ヒメネス達は何故分からないんだ)

 

この圧倒的な存在感と威圧感を持つ女性の恐ろしさを何故分からないのだと困惑していると長久君がトレーを手にして、私達が座っている机へと歩いてきた。

 

「どうぞ」

 

「やぁ、ありがとう。そうだ、君も座るといい長久君」

 

にこにこと笑いながら座るように促すルイに長久君は頷き、私の隣に腰掛けた。

 

「ゴア隊長もどうぞ、気分が落ち着きますよ」

 

「ああ、ありがとう」

 

温かいハーブティーを口にし、冷え切っていた身体が温まるのを感じ、私は小さく息を吐いた。

 

「その義手はいいものだねゴア。素質のない物でも悪魔を感じ取れるだけの加護が掛けられている。素晴しいものだ、大事にするといい」

 

突然そんな事を言い出したルイの言葉に、長久君の方を確認しなかった自分を褒めてやりたい気分だった。これで長久君を見てしまえば長久君がこの義手の作成者という情報を与えてしまう。未知数の力を持つルイに情報を渡さないですんで良かったと思うのと同時にヒメネス達が何故ルイの危険性を理解出来ないのかを理解出来た。

 

(これがMAGが薄いということか)

 

デモニカスーツを介して悪魔召喚プログラムを運用している澪達は根本的に悪魔使いとしての素質が低いと長久君は言っていた。もちろんそれは私にも当て嵌まるが、長久君が作った義手が私の足りないMAGを補填し、私の悪魔使いとしての素質が上がっているからルイの危険性を理解出来たのだろう。

 

「それにしても立派な船だ。洪水を乗り越えた船でも、これには叶いそうにないね」

 

洪水を乗り越えた船……一瞬何の事かと思ったが聖書のノアの箱舟の事だと気付いた。

 

「人間が科学で作った船があの箱舟に匹敵するとは、製作者に伝えたらさぞ喜ぶでしょうね」

 

「それはいい、ぜひ伝えてあげるといい。誰でもない、この私が認めよう。人間はあの時と同じく、神の怒りを買うだけの発明を可能にしたとね」

 

くすくすと笑うルイはハーブティーを口にし、司令部のクルー、機動班と次々に視線を向ける。

 

「長久君。君は分かっていて、自由にしているのかな? 災厄の種が3つ、いや君を含めて4つか、4つも紛れているじゃないか」

 

「……それは可能性の事でしょう? ルイさん。僕はその災厄の種が花を開くことはないと思っていますよ」

 

「ふふふ、相変わらず君は甘いことだ、何度裏切られれば、何度犠牲になれば、何度生贄にされれば君は学習するのだろうね?」

 

スッとルイの視線が細くなり、長久君に向けられる。

 

(なんの、何のことだ……死ねば? 生まれ変われば……何のことを言っている)

 

ルイの言い振りはまるで長久君が何度も死んで、そして生まれ変わっているとでも言いたげな響きがあった。

 

「何のことです?」

 

「うん? ああ、そうだね。人間は分からないだろうね、失敬失敬。私達にだけ分かる事さ。そう気にしないでくれよ、ただの戯言さ、いやただの娯楽さ。私は君がそう好きじゃない、他の私はどうかは知らないけどね」

 

「戯言……戯言と言ったのかッ! 人をなんだと思っているッ!!」

 

ルイの言葉に私は思わず激昂し、机を叩きながら立ち上がった。長久君の立ち位置は決していいものではない、それを自分の娯楽の為に、自分の興味を満たす為だけに不和の種をまいた。それを黙って聞き流す事など出来るわけが無い、詰め寄ろうとした私の手を長久君が掴んで止める。

 

「ゴア隊長。怒らないで、この人はこういう人なんですよ。それとさっきの返事変えてもいいですか?」

 

「構わないよ、君なりの答えを聞こうか」

 

「ここの全員が生まれて、死んで、生まれ変わって生きてる。それが輪廻転生です、まぁ少しばかり前世を覚えていたり、前世の宿命があったりしても……今を生きる人間に変わりはない、違いますか? 僕もその1人、ゴア隊長だって澪だってカトーさんだってそうだ。人間である限り、輪廻を繰り返す。僕も、僕じゃなくても、人間ならそれはみな同じ事。だから今を少しでも良くしようと抗える……違いますか?」

 

輪廻転生……? それは日本の死後の考え方だった筈だ。そう返事を返した長久君にルイは楽しそうに笑った。

 

「そうだね、人間だから輪廻を繰り返す。ごめんよ、訂正する。前世の災厄の化身がいたとしてもそれは今に関係の無いことだよ」

 

にやにやと笑うルイの視線は長久君に向けられているが、その視線は僅かに上を向いていた。それはまるで失った子を見るような優しい視線だった……。

 

 

 

STEVENから、そして別の世界の私からも話は聞いていた。運命を変えることが出来るであろう人間――性は幾つも変われど、名は変わらず長久。STEVENと同じく輪廻の鎖に囚われた流浪人にして導き手である長久を「私」は余り好きではなかった。

 

(愚か者と思っていたが、そうではないようだね)

 

自分の命を犠牲にし、人を導く者。それは見るものから見れば美しい献身であろう、だが自分の命を使い捨てにするような人間をどうして好意的に見ることが出来る? 私が好きなのは抗い、立ち向かう人間であり、死を受け入れている人間に興味などない。長久も輪廻の鎖に囚われ、死を受け入れた人間だと思っていたが……。

 

(見に来て正解だった。見に来なければ誤解したままだっただろうからね)

 

避けられない死を知っている。だがそれに自暴自棄になるのではなく、今を生きる者として未来を少しでも良くしようと必死に足掻いている……それは私の好きな人間であり、そしてその命の輝きは確かに美しいものであった。

 

「これは善意からの警告だ。君達の中に奴らに名を知られている者がいるよ」

 

名を口にはしない、名を口にするだけで干渉できるような連中だ。私は平気でも人間はそうではない、個人を失い群で生きる人間を人間とは呼ばない。

 

「警告感謝します。あの鳩は本当に鬱陶しいですね、ぺ天使もいますし」

 

「は、ははははははッ!! くっくっく……ははははッ!! そうか、そうきたか、うん、うん、鳩にぺ天使とは良い例えだ」

 

私が考えている以上に彼は愉快な人間だったようだ。あの禿を鳩、そしてあの禿についた堕天使とペ天使とは実に良い例えだ。

 

「いやー笑った、笑った。君が望むなら私が力を貸してあげようじゃないか」

 

「……ちなみに貸す方法とは?」

 

「マガタマっていう人造悪魔を埋め込んで君を悪魔人間にする」

 

私が今考えている最強の悪魔を作るための試作品だが、多分大丈夫、うん、大丈夫……な筈だ。

 

「お断りします」

 

「そうかい? まぁ気が向いたら何時でも声を掛けてくれたまえ、なんならあそこの人間に上げてもいいよ」

 

「それは私も断る」

 

ゴアまで割り込んできた、酷い話だ。この時代の人間はMAGが致命的に薄いので悪魔と戦うのは大変だろうと善意で勧めたというのに……。

 

「まぁ良いさ、私が手助けしなくとも君達の中に選ばれた者がいる。彼らがいれば君達にも僅かな選択が許される、自ら危機を招き、そして滅びを向かえるのは人間を創った者が君達に与えた運命だ」

 

あの禿は人間にいつか滅びるように仕掛けをしていた、天使を動かす大義名分として……全て自分の思い通りになると思っている愚かしい考えだ。

 

「なんだと、滅びるのが俺達の運命だっていうのかッ!!」

 

黙っていられなかったのか1人の人間がそう叫び声を上げ、私は声を上げた人間に向かって微笑んだ。

 

「運命なんて物は壊せばいい、簡単だ。確かに滅びる運命は変えられないとしても、その結末という運命は変えることが出来る。混沌か、それとも秩序か、それともそのどちらでもない中立か……少なくともその柱になる人間はこの場に全て揃っている」

 

私に叫んだ人間もその中の1人だ。まぁ彼は混沌に近い人間なので人間には生き辛い世界になるかもしれないが、少なくとも世界を変える1つの柱である事は間違いない。

 

「貴方は悪魔なのですか?」

 

「さぁどうだろうね? でも悪魔だの天使だの、拘るのはナンセンスだよ、だってこの世界には悪魔しかいない。天使の姿をしていてもそれは悪魔であり、本来の天使とは違うのだからね」

 

そもそも天使と悪魔は同一の存在、見方によっては天使と悪魔の立場なんて変わる。まぁこの世界の天使は天使とも呼べない鳥モドキだが……天使に拘るこの女もまた世界を変える柱の1人ではあるが……正直にいって興味なんてわく訳もない。

 

「世界を変える柱とはどういう意味だ?」

 

「その内分かるよ。何もかも私が答えを言うのはおかしいだろう? それに……君達に客人が訪れたようだ。この続きは君達が生きのびて、また私に出会った時にしよう。じゃあ、私はこれで失礼するよ」

 

全ての答え合わせをするほど私はお人よしではない、それに墜ちた神は再び箱舟を狙って来ているのを感じ取り、待てという声を無視して私は箱舟を後にする。

 

「さてさて、導き手はどうこの世界の住人を導くのやら……楽しみだね」

 

箱舟に向かって走っていくオーカスの姿を見て私は笑みを浮かべるのだった……。

 

 

 

 

 

ルイさんが消えた瞬間に不味い事になると俺は直感で悟った。悪い人? ではないが、良い人でもない。人間に試練を与え、それを退けるか、押し潰されるかを楽しんでみている節があるからだ。

 

「ウィリアムズさん! 探知をッ!」

 

「え、あ……これッ!? 本艦付近で急激なフラックス変動を感知ッ! 何らかの異常発生の可能性があります! 総員警戒態勢に入ってください!」

 

俺の言葉でレーダーを見たウィリアムズさんが艦内放送を行うのを横目に外の光景を映しているメインモニターに視線を向けると膨大なMAGの塊が動いているのが分かる。

 

「あの豚野郎か!?」

 

「まず間違いないと思いますけど……駄目だ。相手が早過ぎるッ!」

 

気付いたのが遅すぎるというのもあるが、オーカス自体が迎撃されないように姿を消し、最大速度の突撃をかまして来れば当然だが悪魔を召喚するのも、澪達に出撃して貰ったとしてもオーカスのその質量自体が強固な守りになってしまう。

 

「アーサー! 悪魔の位置は特定出来たか!?」

 

『3時方向! メインモニターに映します』

 

【グオオオオォォォォッ!! ブォーノッ!ブォーノッ!!ブォーノッ!!!】

 

アーサーがモニターを操作し、オーカスの姿を映し出そうとする。だがオーカスの姿は確認出来ず、その代りにオーカスの怒号が司令部に響き渡る。

 

「うるせえな、あの豚野郎ッ!!」

 

「み、耳が……くう」

 

オーカスの声は凄まじい声量で俺もちょっとふらついたが、なんとか踏み止まる。

 

「ウィリアムズさん、特定出来ますか!?」

 

「駄目ッ! 強力なエネルギー反応は感知出来るけど場所を詳しく特定出来ないッ!」

 

エルプス号を取り込んだ事で本質的にレッドスプライト号の構造を理解し、自分が特定されないように立ち回っているようだ。

 

「悪魔を召喚するのはどうだ!?」

 

「駄目です! あれだけ高出力のMAGを纏っていると召喚した瞬間に取り込まれる可能性があります!」

 

召喚される瞬間が1番悪魔が無防備だ。そして貪欲にMAGを喰らう性質のあるオーカスは具現化する寸前の悪魔を喰らってしまう。

 

「悪魔を失うだけではなく、オーカスを強化する事になるのですか若様ッ」

 

「まず間違いない。なんとか初撃を防げればいいけど……」

 

あのオーカスの質量と速度を考えると初撃すら耐えれるか怪しいレベルだ。

 

「スキップドライブッ! スキップドライブはどうだ!?」

 

ヒメネスさんがスキップドライブで攻撃を回避出来ないかと提案してくれる。

 

「駄目だ! それも間に合わんッ!」

 

ヒメネスさんよりも先にスキップドライブを実行しようとしていたカトーさんが無理だと声を上げる。

 

【襲われたならッ! 襲い返すッ!奪われたならッ! 奪い返すッ! 魔王オーカスは引かぬッ! 襲い、奪い、食い尽くすッ!】

 

凄まじい執着心を見せるオーカス。このまま反実体の状態で突撃され、実体化されれば俺達全員が一瞬で取り込まれる可能性がある。だが解決策がどうしても思い浮かばない。

 

「アーサー! 接触に合わせプラズマ装甲の出力を上げろッ! 出力は可能な限りの上限! エンジンリアクターに直結しても構わんッ!」

 

『了解。エンジンリアクターに回路直結。接触まで10秒、9、8、7、6……』

 

「総員対衝撃防御ッ!!」

 

【ブ! オ ! ナ! ペ !ティーッ! ブオナペティーッ!】

 

「若様ッ!」

 

「わぷッ!?」

 

アーサーのカウントダウン、ゴア隊長の指示、そしてオーカスが実体化してレッドスプライト号に手を伸ばすのも、そして俺が澪に抱き抱えられるのも……その全てが同時だった。

 

『ゼロ。装甲発動します』

 

レッドスプライト号が唸り声を上げ、実体化しようとしていたオーカスは最大出力のプラズマ装甲に自ら飛び込み、耳障りな悲鳴を上げる

 

【ギャギャギャギャギャアアアアッ!!!】

 

凄まじい悲鳴をあげ、オーカスは地響きを上げてレッドスプライト号から離れていった。

 

「なんとかなったみたいですね、若様」

 

「うん、でも……多分次はない。そうだよね、アーサー」

 

『はい、今の最大出力でエネルギーパイプが一部損傷しました。通常稼働には問題ありませんが、プラズマ装甲で防ぐ事は不可能です』

 

あのオーカスにダメージを与えるだけのエネルギーを放出したレッドスプライト号の内部は現在非常灯の光で照らされていて、辛うじて機能は維持しているがもう無茶が出来る状態ではないのは一目瞭然だった。

 

「つまりこっちから仕掛けるしかねぇってこったろ? ならどうするかはもう決まってるよな」

 

「その通りだ、ヒメネス。どの道オーカスは我々に必要なロゼッタを有している。戦う事は避けられない」

 

どの道、俺達はオーカスを倒さなければならない、ならば待つのではなく俺達から仕掛けるのがもっとも安全策だ。

 

「アーサー艦内放送は出来るか?」

 

『可能です、ゴア隊長』

 

「良し、これからオーカス討伐作戦を決行する! 各員は清聴せよッ!」

 

ゴア隊長のオーカス討伐の為の作戦は第一段階はシュバツルバース内で使用可能な乗り物とオーカスバスターを用いて俺達にとって戦いやすい場所にオーカスを誘導する事、次に陽動班が時間を稼いでいる間にアーヴィンさん達に装備と消耗品の準備……そして。

 

「長久君はオーカスに対抗出来る悪魔を悪魔合体で作成出来ないか試してみてくれ」

 

「分かりました」

 

ゴア隊長達が悪魔を大量に仲魔にしてきてくれたので時間は掛かるかもしれないが、オーカスの強力な物理に対抗出来る悪魔を用意出来る筈だ。

 

「良し! オーカスがダメージを回復するまでが勝負だ! ここを逃せば勝機はないッ! 全員速やかに行動に移れッ!」

 

「「「了解ッ!!」」」

 

こうしてカリーナでの大一番……オーカス討伐戦に向けて俺達は動き出すのだった……。

 

 

 

4周目の世界 滅びを求める地球意思 その17へ続く

 

 




今回はルイ様とトークメインの話となりました。善意でマガタマを置いていこうとする辺り、やはり閣下っていう所ですね。ヘタしたら上半身裸で刺青の集団が生まれる事になったので長久のインターセプト大活躍です。

次回は強化オーカス戦、戦いの内容は考えている途中ですが、カタキラウワによるムド即死をそろそろ1回くらいやりたいと思いますので、どうなるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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