4周目の世界 滅びを求める地球意思 その18
オーカスを倒して帰還した私達を待っていたのは司令部クルーの暴走によって長久君が殴打され、意識不明に陥っているという悲報だった。その司令部クルーを殺そうとする澪、怒鳴り散らすヒメネス……機動班と司令部の対立が一気に噴出してしまった。
「申し訳ありません。ゴア隊長……私の責任です」
「いやカトー。お前だけが悪い訳ではない、私の判断ミスもある」
レアフォルマとロゼッタ物質を入手出来た代償が長久君の意識不明ではあまりに酷すぎる。
『何故司令部クルーは長久を危険視する? 彼はとても優秀なアドバイザーだ』
「ああ、そのとおりだ。アーサー、だがそれだけでは解決出来ない問題もあるのだ」
『分からないなゴア隊長。長久が居なければ調査隊は壊滅していた。何故敵視できるのだ?』
アーサーが悪魔合体に反対したのはその危険性から、だが今は長久君の能力を認め調査に必要不可欠な人材として認めている。だが司令部クルーの多くはそうではない現実に頭を抱える事しかできない。
「澪達は?」
「……機動班と司令部クルーを隔壁で分断しました。澪が司令部クルーを殺しかねない勢いでしたので……ヒメネス達がなんとか押さえ込んでくれましたが……」
「……今回に関しては澪が圧倒的に正しい。無能な味方は敵にも劣るからな」
隔壁で分断しなければならない段階まで来ている……その信じられない現実に思わず溜息を吐いた。
「マンセマット……いやそれだけとは言い切れないか」
私や機動班が長久君を立てるのが面白くないと思っている司令部クルーは間違いなくいる。本来ならば司令部クルーがアドバイザーであり、調査の助言をする立ち位置にあるのを長久君が奪った形になるからだ。だが仮に司令部クルーがアドバイザーをしていれば間違い無くアントリアで我々は壊滅していたと断言出来る。
「……そこまでプライドが大事か……ッ! それでエリートとよく名乗れるなッ!」
国連に選ばれたエリートだとしても今の司令部クルーは正直に言って足を引っ張る存在でしかない。長久君は自分の身を削って我々に道を示して来てくれたというのに、その結果がこれかと怒りを覚える。
『ゴア隊長、指令コマンドとして提案する。司令部クルーの適性検査、及び長久に護衛をつけることを提案する』
助け合う仲間を疑いたくはない、だが最早そんな事を言ってる場合ではなくなってしまった。このままではいつか長久君が殺されてしまう、それが現実になってしまうと言う確信があった。
「……長久君が目を覚ますまではセクターカリーナに残る。それと司令部クルーの個人的な面談を行なう」
『それが最善だと思われます。次のセクターは恐らくカリーナよりも危険です、内部分裂……ゴア隊長。緊急事態です、オーカスよりも巨大なMAGを保有した悪魔が3体、本艦の前にいます』
「すぐにメインモニターに回せ! それとカトーは機動班に連絡をッ!」
「りょ、了解!」
オーカスよりも強力な悪魔が3体同時に出現したと聞き、カトーに機動班を呼ぶように指示を出し、私はメインモニターに映る外の光景を見て言葉を失った。そこに居たのはどこからどう見ても人間だったからだ……。
「……アーサー」
『ゴア隊長。言いたい事は分かります、ですが事実です。あの3人はオーカスよりも遥かに強大な悪魔です、長久から提示された悪魔の階級によるMAGの内方量の予測表から見てもあの3体の悪魔のMAGは魔王級と推測されます』
魔王級悪魔……それは今まで戦ってきたモラクス、ミトラス、そしてオーカスに匹敵する悪魔であると言う証拠……だが私の目にはモニターに映るその姿はどこからどう見ても……。
「老紳士が2人と幼女にしか見えないのだが……」
黒と赤のタキシード姿の老紳士が2人とゴスロリドレスを着た金髪の幼女と手を繋いでいる。シュバツルバースで無ければ微笑ましい光景と言える光景を目の当たりにし、その3人が魔王級の悪魔と言われても到底信じられなかった。
『悪魔であるのは間違いありません。最大の警戒を持って当ってください』
アーサーの言葉に分かっていると返事を返し、澪達を引き連れて降車デッキから外に出る。
「あ、赤おじさん、黒おじさん、やっと出て来てくれたよ!」
「ああ、そうだねアリス」
「随分と待たせるものだな、人間は……まぁ良かろう。我が名はベリアル、こっちはネビロスだ。我らはかつての恩に報いるために参った。長久はいるか?」
長久君の名、そしてかつての恩……それはルイ・サイファーの語っていた前世の事だとすぐに分かった。
「その言葉を無条件に受け入れるわけには行かない」
「そうでしょうね、我々は悪魔。そして貴方達は人間、我々を警戒するのは当然です。ですが我々は敵ではない、しかしかと言って貴方達の味方でもない」
敵でもない、そして味方でもないの言葉にヒメネスが銃を構えようとするがそれを右手を上げて制する。
「ゴア隊長」
「落ち着け、敵意も殺意もない。こんな挑発に乗るな、気が立っているのは分かるがな」
機動班の多くが浮き足立っているのは分かる。だがその焦りと怒りで目を曇らせてはいけないのだ。目を曇らせた結果が長久君の暴行と言う結果を導いたのだ、我々は冷静に敵か味方であるかを見極める必要がある。
「アリスはね、お兄ちゃんの味方なんだよ!」
「そうだな、我々は長久の味方であると言おう」
長久君の味方……その言葉に嘘は感じない。それに敵意も殺意も感じない事に嘘は言っていないと感じ、私は銃を降ろした。
「長久君の味方である事を信じよう、乗艦してくれ」
私はこの3人が敵ではないと判断し、ベリアル達をレッドスプライト号へ招き入れた。機動班の誰も私の決定に意を挟まなかったのは間違いなく、ヒメネスや澪達から見てもこの3人は敵ではないと感じたからに他ならないだろう……。
若様に大恩があると言う3体の悪魔……ベリアル、ネビロス、そしてアリスの3体の悪魔は若様が意識不明だという事を知ると見舞いをすることを望み出た。その目には敵意などは無く、しかし悪魔と言う事で警戒。そして監視状態ではあるが若様への見舞いをゴア隊長は許可した。
「……お兄ちゃん……」
「……痛ましい事だ。いつの時代も人間は己と違う物を廃する……人間とはこうも愚かか……」
「ふー……」
深い息を吐いている紅いスーツの老紳士の身体から熱が発せられ、怒りをぶちまけないように耐えているのが良く分かる。今の私と同じだからだ……監視されていなければ、隔壁の向こうにいなければ私は間違いなく若様を殴り昏倒させた司令部クルーを間違いなく殺していた。その私と同じだからベリアル達が心から若様を心配してくれているというのがよく分かった。
「ベリアルでしたか? 若様に大恩とはどういうことなのでしょうか?」
「……今生の長久ではない、長久の前世に我々は恩がある。故にこうして来たのだ」
前世……ルイ・サイファーとの話で言っていた事がここで表に出てきた。若様の前世が一体どんな物なのか興味はある……興味はあるが、今は若様が目を覚ますのを待つのが何よりも優先だ。
「お兄ちゃんはね、凄く強かったんだよ。悪魔は使役出来なかったけど悪魔使いよりずっと強かったんだ」
アリスという悪魔が笑みを浮かべながら若様の前世について話し始める。
「強かったのか? 長久は」
「うんッ! すっごく強かったよ。お兄ちゃんと、口が悪いお兄ちゃんと優しいお兄ちゃんと、アリスみたいにお兄ちゃんをお兄ちゃんって呼んでる人とね、あと1人で5人で行動してたんだ。でもね、その4人は悪魔を使えるより、その4人よりお兄ちゃんの方がずっとずっと強かったよ!」
悪魔使いよりも若様の前世が強かったと語るアリスは目に見えない剣を振るうような素振りを見せる。
「アリス。それくらいにしておきなさい」
「え、でも黒おじさん」
「今はそれ以上語るべきではない。さてと大事な話を始めよう、このままでは長久は死ぬ。それは間違いない事実だ」
「どういうことだッ!」
若様が死ぬと平然と語った黒いタキシードの紳士を思わず怒鳴りつけてしまい、ゴア隊長とヒメネスが私を押さえた。
「仲間が失礼した。長久君が死ぬとはどういうことだろうか?」
「簡単だ、MAGとは生命力。前世の長久ならばまだしも、今生の長久は余りにも幼い。このままではMAGの枯渇で命を失うだろう、今も目を覚まさないのがその証拠だ」
ゾイに視線を向けるとゾイが深刻そうな表情で頷いた。それほど強く殴られていないのに、これだけ長い時間意識不明なのはおかしいと言っていたが、私達では知りえないMAGの枯渇が原因だとは考えてもいなかった。
「だがお前達は運が良い、我々ならばMAGを回復させることが出来る」
「本当か! それなら今すぐにでもッ!「まぁ待て話は最後まで聞け、確かに我々ならば長久のMAGを回復させる事が出来る。だがその薬を作る為の材料が手持ちにない。それをお前達が集めてきてからだ」
材料を集めて来いと言うベリアル。若様を回復させる為ならば材料を集めるのは苦ではない……苦では無いが……。
「神子っつう長久を攫う目的で嘘を言ってるんじゃねだろうな?」
ヒメネスがベリアルとネビロスを睨みつけながら尋ねる。私達を騙して若様を連れ去ると言うのは十分に考えられる事だが、ベリアルとネビロスはきっぱりと違うと断言した。
「我々は本来この時間軸、この世界線に長くいられる存在ではない。見ての通りだ」
ネビロスが手を上げるとその手は透けて反対側が見えていた。
「我々は長くこの場所にはいられない、精々8時間ほどだ。そしてこの世界の物は持ち出せない」
ベリアルが若様の寝ているベッドの脇の机の花瓶に手を伸ばすが、ベリアルの手は花瓶をすり抜けた。
「この通りだ。我々には時間制限があり、この世界の物には触れられない。だがそれでも長久には恩があるから死んで欲しくないと思っている、まぁ死んだら死んだで……」
「アリスのお友達になってもらっても良いよ! アリスはねーゾンビを作れるんだ、でもお兄ちゃんには生きたままお友達になって欲しいなあ……」
若様をゾンビにすると言うアリスを一瞬睨みかけるが、悲しそうに生きていて欲しいと言うアリスの姿に本当に若様を思ってくれているのだと分かって握り締めていた拳を開いた。
「材料はなんですか?」
「長久に死なれる訳にはいかねぇ。取りに行ってやるよ、材料を」
確かに悪魔ではある、悪魔ではあるが、若様を思ってくれているのならば、今の私にとって人間よりもベリアル達の方が信用出来る。
「アリス、本を」
「はーい! よいしょっと」
アリスが首から下げていた鞄を開いてそこから本を取り出し、若様を治療する為に必要なアイテムの写真を指差してくれた。
「まずはねーこれ、「反魂香」だよ、これはね。死んでる人を完全に生き返らせる事が出来る道具なんだ、んで次はこれ「ヒランヤ」! 生命力と精神力を回復させるアイテムで何回か使えるんだよ? んで「如来像」と「きんたん」! この4つが必要なアイテムだよ!」
写真で現物を見せられたが、たった4つ、だけどその4つのアイテムは私達が今まで見たことも聞いたことない道具ばかりなのだった……。
長久は当たり前のように無茶をする。死の足音を聞いていても、なんでもないように、己の成すべきことを果し続けた。それは次の輪廻の先でも変わらない、だが幼い身体には限界があった。身体は死に掛け、それをMAGで無理矢理動かしている状態だった。
(……お前は優しいな、だがその優しさがお前の身を滅ぼすとしてもお前は献身を止めないのだな……何故人間は長久の献身を理解しないのだろう)
神子……それはかつてのアリスと同じ、世界に望まれた存在として生まれ変わった長久は恐らくルイ様に匹敵する膨大なMAGを有している。だがそのMAGもここの人間達が悪魔を認識出来るようにする為に使われていれば膨大なMAGを持つ神子であっても枯渇するのは当然の事だ。
(……かなり不味いな)
指先が黒くなっているのはMAGの循環が上手く行っていないからからだ。生命力を失ってもそのMAGで生きることが出来るだろうが、それは生者ではなく、ゾンビとなると言う事だ。それだけはなんとしても阻止しなければならない。
「アーヴィン、この道具は作れそうか?」
「……無理じゃあ、オーカスから回収したレアフォルマを使っても今の設備じゃ作れん」
反魂香・ヒライヤ・如来像・きんたん……それらのアイテムは恐らく人間では作れない道具ばかりだ。長久が目覚めていれば作れただろうが、少なくとも今この船の中にいる人間では作ることは出来ないだろう。
「この世界にはさまざまな物が流れ着く、浪費する事が目的の世界だ。雑多な物ほどあちこちに散らばっているだろうが、稀少品とてこの世界に流れ着いている。それを探して回収して来てくれれば良い」
「……このアイテムは全てこの世界に流れ着いていると?」
「その可能性は極めて高い、私達のような高位の悪魔も、ルイ様もこの場に現れた。この世界は異界の中でも流動している。間違いなく、長久を救うための道具はこの世界に流れ着くだろう」
本当の事を言えば既にそのアイテムは我々によってこの世界に配置され、それを守る為の悪魔も召喚してある。これは試練だ、長久と共にあるに値するのか、それを確かめる為の試練だ。
「分かった。時間的な猶予は……6時間ほどか?」
「調合するのに1時間ほど掛かる。余裕を持つのならば5時間で全てを集めきって欲しい」
この5時間と言うのは武や俊樹、翔子ならば十分に余裕を持って集めれる時間だ。
(これくらい出来なくては論外だ)
あの子供達は長久の為に頑張り、そして戦い続けた。今も長久と出会う為に様々な世界、時間を渡り歩いている。それを憐れだと思うし、その献身を素晴しいとも思う。だからこそ……。
(長久を使い潰すような真似をしているこいつらに腹が立つ)
この人間達はMAGの適正があまりにも低い、それらを守る為に長久は無茶をしていた。それなのに長久は人間に襲われた……頭の後を見れば分かる。長久は後から殴られ、それが原因で長久は意識を失い。消耗しているMAGが原因で長久は眠り続けている……このまま酷使されて息絶えるくらいならば……我らで連れ去ってしまおう、これはネビロスと事前に話し合って決めた事だ。
(因果の鎖を立ち切る事は出来ない……それでも僅かな安らぎを)
長久は傷つき続けている。大切な者を忘れ、自分が何を願っていたかも忘れ、生まれ変わるたびに背負わないで良い重荷を背負い続けている。それが哀れでならない、死せばまた別の人生が待っている。そしてその生は前よりも過酷な物となる事が宿命付けられているのならば例え僅かでも心休まる時間をと願うのは当然の事だと思う。
「良し、私も」
「いえ、ゴア隊長は残ってください、私達がいない間に若様に危害を加えられるわけには行きませんから」
「ああ、それが良い。ゴア隊長がいねえと長久が危ねえ。ゴア隊長は長久を見ててやってくれよ、行こうぜ皆」
「「「おおっ!!」」
長久を救おうと思う者はいる。だがそれだけでは駄目だ、それだけでは長久の重荷が増えるばかりだからだ。
(何故こうも過酷な道しかないのだろうな)
背負わなくても良い重荷を背負い、苦しみ続け、そして人間に裏切られ今眠りについている長久を見て、何故こうも長久が苦しまなくてはならないのかと思わずにいられなかった。
「私の部下は必ず長久君を治療するのに必要な材料を集めてきてくれる。材料が集まったら治療を頼む」
「任せるが良い、材料さえ集まれば長久は必ず救おう」
強い精神を持つ者も、長久を心から案ずる者も、長久を信頼している者も居る……だがそれが何だと言うのだ。
(どんな思いも強い力に潰される)
どれ程高潔な思いがあろうと力が無ければ、その想いは潰されるだけだ。抗うだけの力を、未来を切り開く力があるのか、長久と共にあるだけの力があるのか。
(あの程度の悪魔を倒せないのでは話にならないからな)
我らの配下では下から数えたほうが早いような悪魔であるドッペルゲンガー、それに武、俊樹、翔子の3人の姿を真似させた言うならば翔子達の劣化コピーそんな悪魔に勝てないのならば、そしてそんな悪魔を作った事に長久は怒るだろうが、かつて長久と共に戦ったあの3人と同等の力を持つドッペルゲンガーにすら勝てぬのならばここで死に絶えたほうがこの人間達にとっても、そして長久にとっても良い筈だ。何故ならば……。
(この世界は何をしても救われないのだから……)
地球、この星としては救われるだろう。だがそこは最早人間の世界ではない、この世界の人間はもう星の支配者としての資格を当の昔に失っているのだから……。
4周目の世界 滅びを求める地球意思 その19へ続く
今回はちょっと短いですが、ここから探索・戦闘となると文字数が多くなりすぎるのでここで切る事にしました。次回は探索と心理描写をメインにオリジナルイベントをやりたいと思っております。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。