収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

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1周目の世界 孤独の女神 第4話

 

1周目の世界 孤独の女神 第4話

 

人気のない静まり返った夜の病院――厳重にロックされている筈の正面玄関を開けて2人組みの男が病院の中に足を踏み入れた。紫のスーツに頬に傷のある壮年の男と金髪の若い男の2人組みだが、纏う気配が明らかに真っ当な人間の物では無く、裏の世界を生きる者と言うのが一目で判った。

 

「親父も病院に忍び込めなんて無理難題を言いますね」

 

「うるせえぞ、ぼやくな。俺達は親父の命令に従って行動すれば良いんだ。それがヤクザつうもんだ」

 

ぼやいていた若い男に壮年の男性が鋭い視線に息を呑んですいませんと頭を下げた。

 

「わかりゃあ良いんだ。それに大体な、お前がしくじらなければこんな事にはなってないんだよ」

 

「うっ、すいやせん。でもまさかお嬢ちゃんを突き飛ばす奴がいるなんて思ってなかったんです」

 

「あんときは流石の俺も肝を冷やしたぜ。下手すりゃ親分達に俺達が殺されるところだったからな」

 

道睦長久と言う高校生を事故に見せかけて殺せという命令は裏社会に身を置いてるこの2人には簡単な仕事だったが、想定外の事態――拉致して来いと言われている幽子が道路に突き飛ばされた事で失敗した。長久が幽子を庇った事で車で撥ねることには成功したが減速した事で意識不明だが生きている。今度こそ確実に殺せと命じられた2人は雇い主から受け取った病院のマスターキーと自然死に見せかけることが出来る毒を手に深夜の病院に忍び込んでいた。

 

「ん、アニキ。お嬢ちゃんがいましたよッ!」

 

「ちっ、先にそっちだな。逃げられたら面倒だ」

 

雇い主――狭間議員の娘である狭間幽子は先日から家出しており、長久の殺害と幽子の確保。それが2人のヤクザに与えられた仕事だった。

 

「んで、どこで見たんだ? ええっ?」

 

幽子を見たと言う子分の言葉を信じ、集中治療室に背を向けた兄貴分だったが、子分が見たという幽子の姿はどこにも無かった。

 

「アニキ、嬢ちゃん確かに見たんですが……あ、アニキ! いましたよ」

 

明らかに怒っている兄貴分に子分は顔を青褪めさせ、視線を動かして幽子の姿を探しその姿を見つけたと声を上げる。

 

「ちっ、お嬢様のくせにちょろちょろしやがって、まぁ良い。さっさと確保して、小僧を殺してさっさと引き上げるぞ」

 

「うっす」

 

幽子の後姿を追ってヤクザは暗い病院の通路を歩いていく、その後姿を見つめている者に気付ずに……。

 

「こ、ここ霊安室って所ですよね?」

 

「ちっ、今度はかくれんぼかよ。お嬢様の癖にアグレッシブな事だ」

 

幽子の姿を追って2人のヤクザが辿り着いたのは大病院特有の霊安室だったのだが……今日は死者がいない為に、空いていた。長久を見舞っている間にその事を知っていた幽子はそれを利用する事を決めたのだ。人間の屑である自身の父が自分が家出すればどんな行動に出るかを幽子は熟知していた。そして幽子の計算通り屑の父親は長久を今度こそ殺害する為に動き出し、幽子がそれを許す訳が無かった。

 

「……悪魔召喚プログラム。起動」

 

悪魔召喚プログラムによって幽子が手にした超常の力……それのほんの一部、己の生命力で作り出す分身を本物だと思い霊安室に誘い込まれたヤクザの目の前で光が集まり、空中に【魔法陣】が浮かび上がった。複雑な図形をズレ一つ無く描く、それは人の技によるものではなく、何が起きているのか理解していないヤクザの目の前で魔法陣が光り輝き何もない空間にヒビが入り……次元が裂けて行く。それと同時に霧のような物が発生し、ソレは霊安室の床に集まりピンク色のスライム状の物となった。

 

「な、なんだこりゃあ……」

 

「気味が悪いな……んだよ、これは?」

 

突然現れた液状の物体にヤクザ2人が困惑しながら近寄った瞬間――ピンク色に物体は大きく広がり鳥の頭部を持つ異形の人型へとその姿を変えた──……明らかなこの世の者ではナイモノにヤクザ2人は完全に硬直し唖然とした表情で自分達の前に立つ異形を見つめていた。

 

『──汝の呼び出しに応じ参上した、我は魔であるモノである』

 

「う、うわあああッ! ば、化物だああッ!!」

 

「ちくしょうどうなって……逃げるぞッ!!」

 

「逃がすな──」

 

『心得た、召喚者よ』

 

幽子の言葉に反応したのか、カラダの下の部分が液状化し触手となって──2人のヤクザの首を絞め吊り上げる。2人の動きを完全に封じた所で霊安室に隠れていた幽子がヤクザの前へと立った。

 

「ひ、ひぃいいいい!?」

 

「く、ぐがぁっつ?!!! てめ……ふざけんなッ!」

 

年を取っているヤクザの方が反抗的な動きをした事で、その身体に巻き付いているピンク色の触手が明らかにその身体に食い込んでいき……舎弟が見ている前でその顔が見る見る間に土気色へと変わる。

 

「ぁああッ!! あ、アニキッ!!」

 

「げぼあ」

 

舎弟の言葉に男は潰れた蛙のような呻き声を上げ、生々しい骨の砕ける音と共にありえない量の血を吐き出して身体から力が失われた。糸の切れた人形のようになった男の姿は次の瞬間には首に食い込んでいた触手の中に飲み込まれて消え去った……。

 

「さて、お前には聞きたい事がある」

 

「あああ、ア、アニ、アニキ……っ!?!? て、てめえッ! 何をしや……「お前は私の質問に答えれば良い、それ以外の言葉を発して良いなど言ったつもりはないぞ、少し痛めつけてやれ」ぐえッ!!?」

 

この異形の存在が幽子に従っている事に気付いた舎弟は幽子を怒鳴りつけるが、聞くに堪えない怒声と恐喝など幽子は聞くつもりは無く、悪魔へと指示を飛ばし舎弟の首を絞めさせる。

 

「もう良いだろう。力関係は理解した筈だ」

 

「げほッ!? がほっ!? げほげほッ!!?」

 

舎弟が首を絞められていた時間は1分にも満たないが、舎弟の顔色は悪く恐怖にその身体を震わせていた。視線で命乞いをする舎弟に目もくれず、幽子はおもむろに口を開いた。

 

「お前、長久を撥ねた車に乗っていた奴の部下だな。誰に雇われた、言え」

 

「し、知らねえよお……!「そうか、ならしね」 ま、待ってくれッ!! あ、あんたの親父さんだよっ、邪魔だから殺──」

 

悪魔に殺されると判断した舎弟は慌てて自分の雇い主と何を命じられていたかを叫び――全てを言い切る前に舎弟はアニキと呼んだ男と変わらない末路を歩んだ。驚く程薄い半透明のスライム、それに一瞬で包まれたかと思うと──膨らんだ風船が萎む様に小さくなった……。

 

「長久に手さえ出さなければ放って置いた──モノヲ」

 

自身の父親への凄まじい憎しみからか、幽子の瞳は暗く……けれども消える事の無い炎が燃え始めていた。

 

「長久が何よりも優先だ、塵は後で纏めて磨り潰してやる」

 

佇む魔は、微動だにせず。或いは分かっていたのかもしれない……魔である身であっても────幽子にはカナワナイコトヲ。

 

「チカラが必要だ、必要なのだ──案内しろ、“魔界へ”」

 

『分かりました。我が主よ』

 

悪魔からすれば矮小な存在である人間の幽子を悪魔は主と認め、命じられたままに巨大な魔力が傅き、罅割れた空間に向かって幽子はその歩みを進める。

 

「待っていろ──……長久」

 

意識不明の長久が目覚めるまで待っている時間はなく、そして人間の医療技術では長久を救うのは夢のまた夢――幽子は長久を救う術を魔界に求め、魔法陣と悪魔召喚プログラムを用いて魔界への扉を開いた。

 

「ここが魔界か……案外普通……と言う訳ではないか」

 

周囲を見渡し、人の手によって作られたとは思えない天を突くほどに高い塔の前に狭間は立っていた。その腕には長久が街で見たと言っていたハンディターミナルが巻かれていた。

 

「……STEVENとやらは随分と趣味が悪い。悪魔召喚プログラムか……ふん、最初は悪い冗談かと思ったが……本物だったようだな」

 

鋭い視線で塔を見上げた狭間が扉の中に足を踏み入れる。すると扉は独りでに重々しい音を立てて閉まったが狭間は振り返ることをせずに目の前の扉に視線を向ける。

 

「時間がないんだ。元々戻るつもりなんかないさ」

 

長久が交通事故にあって早1ヶ月――長久の両親は金を工面しなんとか延命治療を望んでいたが、先日見舞いに言った際に延命治療をこれ以上維持しても無駄と言われたと長久の母親に告げられた狭間は絶望し、そして昨晩ヤクザが送り込まれてきたことで完全に父親への情を捨てた。自身の理解者である長久を殺そうとしたヤクザにも、それを命じた父親に対する怒りで目の前が真っ赤になるのを感じた。

 

「屑め……そんなに私が自分に従わないのが不満かッ」

 

長久の事故も、延命治療を続けるなと病院に圧力を掛けたのも――国会議員である狭間の父親だった。家では従順な振りをしていた狭間だが、時折見せる素に不信感を抱いた父親によって監視され長久の存在を知られた。反社会組織とも繋がりのある父親は長久の処理を依頼し、交通事故に見せかけて殺そうとしたが結果的にヤクザ達は失敗した。

 

「……馬鹿が……私なんかを……庇おうとするから」

 

人が良く、優しい長久と冷酷で人を見下す癖のある狭間――2人の関係は彼氏彼女と言う物ではなかったが、軽子坂高校の生徒はそうは思わなかった。面白おかしい噂を流し、それを真に受けた生徒の1人が狭間を道路へ突き飛ばし、それを庇った長久が轢かれた。長久が即死しなかったのは車の前に押し出された狭間の姿にヤクザがブレーキを踏み僅かに減速していたからだ。だが時速40キロの鉄の塊に突っ込まれた長久は狭間の目の前で吹っ飛ばされた。狭間の早い処置と目撃者が救急車を呼んでくれた事で一命は取り留めたがそれでも植物状態に陥っている。

 

「……お前の好きにさせるものか」

 

今も長久は集中治療室で死んだように眠っている。いつ意識を取り戻すかも分からない長久を毎日見舞っていた狭間を狭間の父親は許さなかった――病院に圧力を掛け、長久の両親から生命維持装置を外すように頼ませるような説明を医師にさせている。しかもそれだけでは飽き足らず、脳死状態の長久の臓器を提供するようにと同意書にサインをさせようとしている。絶対にそんな事をしては駄目だと言った物の……その内長久の父親の会社にまで圧力を掛けかねない、2人が折れる前に長久を救う手立てを得る必要がある狭間には時間が無かった。だが人間の医療では長久を救う事は出来ない、長久を救う手立てを悪魔召喚プログラムに求めた狭間は今魔界に立っていた。

 

『お待ちしておりました。我が主よ』

 

「何者……いや、お前は病院で私が呼んだ悪魔か?」

 

塔の中を進む狭間の目の前に現れたのは梟のような頭部を持つ1体の異形――魔神アモンだった。梟の頭部と言う特徴を幽子は覚えており、アモンが自分の呼んだ悪魔だと一目で理解した。

 

『貴女の忠実たるシモベ――隠れたる者アモンでございます。人の子と悪魔の約定に従い、貴女の力になるべく参上しました』

 

「下らん御託は良い、ここは魔界で良いのだな?」

 

『そのとおりでございます』

 

悪魔召喚プログラムに従い、己のシモベとなるというアモンの言葉を聞いて狭間はアモンにあることを問いかけた。

 

「命を救う術を知る悪魔はここにいるのか?」

 

『それでしたらこの塔の中にいる女神イシス、神獣トートを見つける事がその術を知ることに繋がると思います。しかし私の仲間は封印され石像と』

 

「ならば石像のもとへ案内しろ。封印されているというのならば封印を解けばいい簡単な話だ。それに私には時間がない、無駄話をするつもりはない」

 

『分かりました。ではこちらへ』

 

アモンに案内され狭間は塔の中を進んでいく、たった1人の友人の為に、自分を狭間ではなく幽子という個人で見てくれたたった1人の理解者である長久を救う為に悪魔が闊歩する魔界を狭間は歩き出した。

 

 

 

 

 

さて、2週間前に幽子に友達になろうと言ったのだが……当然ながらそんな一言だけで幽子と俺の関係が変わると言うことは無かった。少し変わったところがあるとすれば……ほんの少しだけ幽子の表情が丸くなった事と少し距離感が近くなったってくらいだろう。

 

「色々と調べてみたんだがな、このフロッピーディスクをくれたと言うSTEVENと言う男だが、その道ではかなり有名らしい」

 

「え? あの人有名人だったのか?」

 

TVとか雑誌で見たことないけど……海外とかで有名な博士だったり、研究者だったりするのだろうかと思っていたんだが、続く幽子の言葉に俺は言葉を失った。

 

「何十年も姿を変えずにいる怪人、現行の人類よりも遥かに進んだ技術を持つ男として研究者の中では都市伝説のように語られているそうだ」

 

ヘブライ語もそうだが、幽子の話を聞いて一気にオカルト的な雰囲気が増してきたように思える。

 

「運が良いのか、悪いのか、世界中の科学者が出会いたいと望み、出会えないでいるSTEVENに出会い……直々にフロッピーを貰ったんだ。

ほかのプログラムよりきっと遥かに精度がいい筈だぞ、なんせ製作者のオリジナルだ」

 

「ん? ほかのプログラムよりってどういう意味だ?」

 

言葉の意味が判らず、どういう意味なのかと尋ねると幽子は自分の鞄から俺と同じ機種であるPC-9801Nを取り出した。

 

「持ってるのに、なんで俺の使うんだよ」

 

「態々最初から解析する必要なんてないだろう? お前のPCの方が進んでいるんだ。これで続けるのは当然だ。まぁ良い、話を戻すが私の

もとに昨日STEVENからあるプログラムが送られて来た。中身は恐らくフロッピーの中身と同じだろうが……劣化、あるいは簡略化コピーと言うところだろう」

 

幽子のPCのモニターを見るとロックの数が俺の物よりも少ないプログラムが表示されていた。

 

「なんで簡略化してるって分かったんだ?」

 

「プログラムの容量が圧倒的に少ない、メールに送付出来るまで容量が削減されてるようだ」

 

「何がしたいんだろうな? STEVENさんは」

 

高性能なプログラムを態々削ってまでメールで送りつける――何をしたいのか、何を考えているのかが全然分からない。

 

「ウィルスを送りつけているわけでもない、メールの中身は簡略化されたプロテクトと劣化したプログラム……調べてみれば同様の事例は山ほどあると来た。何らかの目的があると思うが……プロテクトを解除しない事には分からないだろうな」

 

知れば知るほどにSTEVENと言う人物の考えている事が分からなくなってくる。

 

「なぁ俺がこのフロッピーを貰った所に行って見ないか?」

 

「ふむ……面白そうだ。学校の帰りに行ける場所か?」

 

「秋葉原だから行こうと思えばいけると思うけど、幽子さえよければ明後日にしないか? 休みだしさ」

 

学校の帰りに慌しく向かうよりも、休みの日に行った方が時間も取れるし、プロテクトを解く為のヒントも掴めるかも知れないし、我ながら良いアイデアだと思う。問題は休日にまで幽子が俺に付き合ってくれるかだが、それは全くの杞憂だった。

 

「良いぞ。どの道今の段階では行き詰っていた、気分転換も兼ねて秋葉原で調べ物をするのも良いだろう」

 

「OK、じゃあ土曜日に駅前の広場で」

 

「駅前の広場だな、分かった」

 

2つ返事で了承を得れた事に驚きながらも待ち合わせの場所を決めた所で予鈴が鳴り、俺と幽子は屋上を後にした。

 

~土曜日~

 

「それ……変装か?」

 

「そんなつもりはないぞ? 動きやすさを考えただけだ」

 

俺の言葉の意味が判らない様子の幽子。彼女は気付いていないが、俺達のように広場で待ち合わせをしている人達が男も女も関係なしにチラチラと幽子に視線を向けている。

 

「なんで男装したんだ?」

 

「男装? そんなつもりはない、歩き回るのならばズボンの方が良い、それと肌を露出するのは余り好きではないからジャケットを羽織っただけのこれのどこが男装だ? 似合わないとでも言いたいのか?」

 

いやまぁそうなんだけど……幽子の雰囲気のせいで男装に見えてしまったのか、それともセーラーに見慣れすぎていたからそう思ってしまったのか、不機嫌そうにしている幽子に謝罪し、電車に乗って秋葉原へと向かった俺はSTEVENさんが目的地としていたビルへと幽子を案内したのだが……。

 

「……本当にここか? 長久場所を間違えてないか?」

 

「い、いや、ここだ。ここにビルがあったんだ……」

 

ビルがあった場所は何年も空き地という雰囲気で、とてもビルがあったようには見えなかった。

 

「怪人だけあって目的地も存在しない場所と言う事か」

 

「ええ……そんなオカルトな事ある?」

 

「そうとしか説明出来ないだろう? STEVENに会うことは諦めてPCショップでも見て回るとしよう」

 

門前払いされる可能性は考えていたけど、そもそもビルが存在していないって言うのは想定外だった。狐に化かされたみたいだと思いながら俺と幽子は空き地に背を向けてPCショップへと歩き出した。

 

「良かったのかい? 折角尋ねてきてくれたのに」

 

「まだ会うべきではないのさ、彼らはプロテクトを解除出来ていない。私が彼らと会うのは彼らが悪魔召喚プログラムを手にしてからさ」

 

長久と幽子の姿が見えなくなると浮き出るようにビルが姿を現し、歩いて行く幽子と長久の姿をルイとSTEVENの2人が窓から見つめていた。

 

「まぁ君のやる事に私は口出しするつもりはないが……怨まれることになるぞ?」

 

「覚悟の上だよ、それに私は人に怨まれるのは慣れている。それに……」

 

「それに?」

 

「彼でなければ駄目なんだよ。彼ならば……世界を超えられる、世界を変えられる。救世主の資格ではない、創生者の資格を持つ彼が私達には必要なんだ」

 

意味深な事を言うSTEVENにルイは肩を竦め、遠くから聞こえて来る悲鳴に始まったかと小さく呟き、ノイズが混じり消えていく己の身体を見下ろした。

 

「始まるな」

 

「その為に彼には特別製の悪魔召喚プログラムを託したんだよ、ルイ。後は私達の出番が来るまで……眠ることにしよう」

 

ルイとSTEVENの姿はノイズに飲み込まれ、身体がバラバラに分解されていく……自分の身体が分解されていく、常人ならば発狂しかねない光景にも2人は全くうろたえる事無く、身体を分解しながら上って来たノイズが首まで上がってきても全く動揺する事無くノイズの中に飲み込まれて消えていくのだった……。

 

 

「……さ……長久ッ!! 死ぬな、死ぬんじゃないッ!! すぐ救急車が来る。だから……ッ」

 

全身に走る激痛と幽子の悲鳴で俺は意識を取り戻した。だけど身体に走る痛みで息をするのもやっとで、大粒の涙を流しながら俺に声を掛けてくる幽子に返事を返すことすらできなかった。

 

(……良かった……無事だ)

 

秋葉原のPCショップや本屋を巡り専門書やオカルト雑誌を買った帰り道――駅へと続く交差点で信号待ちをしていると隣であっと言う幽子の間抜けな声が聞こえ、その背中が俺の目の前に広がった。そして走り去る足音に誰かに幽子が突き飛ばされたと悟った次の瞬間俺は周りの制止を振り切って道路に飛び出し、幽子を突き飛ばしていた。

 

「……あ……あ」

 

「長久ッ! 長久ッ! しっかりしろッ! 死ぬなッ! 死ぬんじゃない」

 

声が出ない、泣いている幽子の顔もしっかりと見えない……それに凄く眠い。

 

「だ、駄目だ! 目を閉じるなッ! 眠るんじゃないッ!!」

 

無理を言う……こんなにも、眠いのに……眠るんじゃないなんて……無理なことを……言ってくれる。

 

「……ゆ、幽……子」

 

「長久ッ! しっかりしろッ! きゅ、救急車がすぐ来る……ッ!! しっかりするんだッ」

 

力の入らない右手を幽子に向けると幽子がその手を両手で握り締めて救急車が来るとしっかりとしろと声を掛けてくるが、もう手足の感覚もないし、身体も痛まない……完全に手遅れだと俺自身が悟っていた。

 

「……け……怪我……は……ない……か?」

 

「ば、馬鹿者ッ!! 私の心配をしてどうするッ!! 自分の心配をしろッ!」

 

これだけ怒鳴れるなら、怪我とかはしてなさそうだ。声しか聞こえないが……その声だけで幽子が無事だと判り、俺は緊張の糸が切れるのを感じた。

 

「……良か……った……」

 

幽子が無事で良かったという安堵と共に俺の意識は覚める事のない闇の中へと沈んでいくのだった……。

 

「なが……ひさ? おい、長久……止めろ、悪い冗談は止めろ……おいッ! お、お前まで私を置いて逝くのかッ!! 長久ッ! 長久ッ!!!」

 

「急患は! 急患はどちらですかッ!!!」

 

「な、長久を……長久を助けて……し、死なせないで……ッ」

 

「分かっていますッ! ここからは我々に任せてくださいッ!!!」

 

血塗れの幽子も怪我をしているかもしれないと長久と同じ救急車で病院へと運ばれ、病室で長久の無事を祈り続けていた幽子。だが現実は非常であり長久が頚椎を損傷しており、目を覚ます可能性が極めて低い昏睡状態だと聞いた幽子の泣き叫ぶ声が病院の通路へと響くのだった……。

 

 

 

 

1周目の世界 孤独の女神 第5話へ続く

 

 




こんなの狭間じゃないと思うかもしれませんが、TSすると極めてめんどくさい性格の依存癖のある少女になりました。解釈が違う、これはおかしいと思うかもしれませんが、TSハザマはこんな感じだと思っているのでこうなりました。次回でメガテンIF編は終わりで次のシナリオに入っていこうと思います、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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