4周目の世界 滅びを求める地球意思 その23
澪達の活躍によって長久君を治療する為のアイテムは無事にベリアル達に渡す事が出来た。その上ドッペルゲンガーという悪魔がかつて悪魔と戦った者の姿を模倣し立ち塞がり、それを撃破した際に強力な武器や防具を残したのでそれも回収することができ、今アーヴィンが解析してくれている。ベリアル達による長久君の治療が完了したら次のセクターへ向かいたいところではあるが……その前に私は澪に問わなければならない事が出来てしまった。
「澪。タイラー達から君が生身で戦っていたと報告があった。それに葛葉ゲイリンとは何なのか、長久君が目覚めるまでで良い。君が我々に隠していることを教えてもらいたい」
長久君への暴行で我々に対して澪が良い感情を抱いていないのは分かっている。勿論私や機動班のクルーは澪が頼れる仲間であると思っている事は間違いないが、それで不問と流すことは出来ない状況でもある。
「澪。デモニカスーツなしで外で活動出来るようになるのならば色々とやれる事は増えると思うのだけどどうかしら?」
「それは無理ですね。私がデモニカスーツなしで外で活動出来ていたのは女神デメテルの助力による物です。今デモニカスーツを脱いで外に出ればその有毒な空気で私は死にますよ」
女神デメテル……澪に協力してくれた悪魔の助力による物と聞いてゼレーニンは眉を顰める。
「女神デメテルか……あのクラスの悪魔になるとシュバルツバースの有害な空気も浄化出来ると言うわけか……」
「まぁ浄化出来るからどうなんだって話ですけどね。ヒメネスはどう思います?」
「デモニカスーツがなきゃ悪魔と戦えねえんだ。脱いで外で活動する事に俺は価値を見出せねぇよ」
確かにヒメネス達の言う通りではあるが……私の脳裏には一抹の不安が過ぎった。アレックスが言っていたジャック部隊の事、そして女神によるシュバツルバースの有毒な空気の浄化……それによって最悪の可能性が現実味を帯びて来る事になったからだ。
(ジャック部隊が乗り込んでくるという話に信憑性が出てきてしまったな……)
シュバルツバースを消滅させる事が出来ないのならば、逆にそのシュバルツバースを人類の生存圏にする……これは合同作戦本部でも1度は考えられたことだ。ただ実際はシュバルツバース内の有害な毒素が問題に成り立ち消えになったが……高位の悪魔による毒素の浄化はシュバルツバースをただの資材の宝庫くらいにしか思っていない一部の富裕層には朗報となるだろう。となればそれらの富裕層、あるいは権力者によってジャック達が雇われ送り込まれてくる可能性は十分に考えられる。
(アレックスから話を聞ければ良いが……それも難しいか)
アレックスが未来の住人であるという仮説が正しいのならば一度話を聞きたいが、間違いなく交渉の余地がなく戦いになる。話を聞くのは不可能に近いかと思わず溜息が零れた。
「では葛葉とはなんだ?」
「葛葉とはかつて日本にあった悪魔を使役し護国を成した集団の事を指します。若様達峰津院家とは対立関係でしたけどね」
「待てよ。なんでお前はその対立関係にあった峰津院の子供を守っていたんだ? おかしいだろ」
対立関係にあったのならば長久君を守る理由が無いじゃないかとヒメネスが尋ねると澪は小さく笑った。
「簡単ですよ。私が葛葉を見限ったからです、裏切ったって奴ですね」
裏切ったという言葉に司令部に沈黙が広がったのを見て、私はすぐに手を叩いて自身に視線を集めさせた。
「落ち着け、ここにいる誰もが知られたくない過去を持っている。そしてそれらを追求し、責めるのは筋が違う。それと澪、誤解と偏見を生むような発言は避けるように」
「失礼しました。裏切ったというよりも私は葛葉のやり方についていけなかったんです。日本の上層部の一部は神子としての若様の力を欲しました。若様の力は自然に影響を与える事が出来る……日本に多額の金を払う変わりに雨を降らすことや、自分達の国に迫っている自然災害を他国に押し付けることが出来る。南条と桐条はそれで莫大な富を得ていました……葛葉は若様の存在が世を乱すとして殺害を計画し、私にも殺せと言う指示が来ましたがそれを蹴り私は峰津院についた。若様が居ようが居まいが世は乱れている……ライドウやキョウジを失い没落しつつある葛葉が復権する為だけに子供を殺そうとする……そこに何の正義がありましょうか?」
感情を何も感じさせない声と冷酷な瞳……シュバルツバースに踏み込むまで悪魔を知らなかった私達と違い、地上にいた頃から悪魔を知っている澪は我々が知りえない闇を見てきたのだろう。
「私は分かるね。子供を殺さなきゃ世界が救えないっていうなら滅んだほうが良いだろ」
「私もそう思いますね、澪さんと同じ立場なら私もきっとそうします」
女性陣の多くは澪の意見に賛同し、私も同じ意見である。
「待って長久は他国に災害を押し付けていたの? 葛葉が危険視するのは当然ではないかしら?」
「ではゼレーニン。貴女も同じ事をして見ますか? 首輪を付けられ、いう事を聞かなければ首輪に電気を流され、言う事を聞けと大人に血反吐を吐くまで暴行を加えられても貴女は言う事を聞かないのですよね? 試してみても?」
澪の言葉にゼレーニンは顔を青褪めさせ、ごめんなさいと謝罪の言葉を口にした。
「……南条と桐条って言うのはそんなに胸糞悪い事をしてたのか……確か日本の大企業だよな?」
「ああ。今の日本、いや世界でも上から数えた方が早いような大企業だが……裏でこんな事をしていたのか……」
南条と桐条の悪逆を知り憤る者、無言で拳を手の平に打ち付ける者……反応は様々だが、長久君の余りに悲惨な過去に言葉が無いものも多い。
「待て、大和と都っつう兄貴達は何をしてたんだ? 長久を守ろうとしなかったのか」
「守っていましたよ。お2人は……悪魔と率先し戦い続けることで若様が戦場に出されないようにしていました。でも逆を言えば……それしか出来なかったのです。峰津院家と言いますが生き残りは大和様、都様、そして若様の3人だけでほぼ壊滅した家でした。まぁ滅ぼしたのは南条と桐条で、若様達の親族はありもしない罪を押し付けられ殺されてしまったのです」
司令部に大きな音が響き、そちらに視線を向けるとヒメネスが無言で拳を壁に叩きつけていた。悲惨等という言葉では片付けられない、親族をありもしない罪で殺され、無理矢理言う事を聞く様に命じられてきた少年……救いが無いにも程がある。何故長久君にだけが、それほど過酷な目に合わされなければならないのか……私は自分の爪が手の平の皮膚を突き破るほどに強く握り締め己の無力さに唇を噛み締めるのだった……。
悲惨……そんな言葉で片付けられないほどに長久の過去は酷いものだった。仮に俺が同じ立場だとしたらとてもではないが長久のように他人に優しくする事など出来なかったと思う。
「……とりあえず長久の過去は分かった。それらについては俺は長久に聞いたりしない、それで良いな?」
「ええ、是非そうしてください。若様にとっては普通に接してくれるヒメネスやゴア隊長の存在はとても大きいのです。私としては大変複雑なのですが……ゴア隊長達の為に無茶をするくらいには慕っているのですから」
ゴア隊長の義手や、ヒメネスに渡したアイテムの数々……それらは長久なりの自分を普通に扱ってくれたゴア隊長達への感謝の証だったようだ。
(だがそれも当然か……)
長久にとって大人とは自分を傷つける者であり、言うならば敵だったはずだ。そんな中で優しく扱ってくれるゴア隊長達の存在はとても大きな物であったのは簡単に想像できる。
「こんな場所でなければもっと良かったんだがな」
「……確かにね。でも逆を言えばこんな場所でなければ俺達は長久に会えなかったのだと思う」
確かにマイクの言う通りだ。長久は南条と桐条が繁栄する為に必要な存在であり、冷静な思考を奪う為にも家族である大和や都という兄と姉にも長久は会う事は出来なかっただろう。そして勿論他国籍の俺達も地上に居たら絶対に会う事が出来なかったのだと簡単に想像が……とここまで考えた所で事で俺はあることに気付いた。
「大和だったか? あいつが総合本部に居るのは危ないんじゃないのか? 南条グループは確か総合本部に出資していた筈」
このレッドスプライト号を始めとした舟の作成にも南条と桐条は関係していた。大和が我が物顔で本部に居るのは危険ではないかと尋ねると澪は何とも言えない表情を浮かべた。
「……多分ですが、大和様達はクーデターを起していると思います。そうでなければ本部に居る訳が無いですから、若様をシュバルツバースに送り込まれた事で従うつもりは無かったと思います。事実南条と桐条にもかつては悪魔使いがいましたが、今はおらず。大和様達とその部下が実働部隊となってましたから」
「そう……か、いや、すまない。心配になったんだ。長久の事だから兄姉が怪我をしたら悲しむんじゃないかとな」
「ありがとうカトー。そうやって若様のことを心配してくれる人が増えてくれるのが私は一番嬉しいですよ」
長久の過去を知ったのだ。もう長久が傷つくようにならないように俺も全力を尽くそうと思う。
「話を戻すが、澪。ゲイリンという名は何か意味があるのか?」
「勿論ありますよ、ミッキー。ゲイリンは葛葉四天王の名の1つ、悪魔使いとしても優れていながらも剣術に秀でた者がその名を襲名する事が出来る名です」
「ではライドウとキョウジというのも?」
「ライドウは最も悪魔使いとして優れた者に、キョウジは詳しくはないですが葛葉四天王ではなく、葛葉の暗部を務める悪魔使いですよ」
称号のようなものか、そんな物があるということはかつて葛葉がそれだけ大きな組織であった事が容易に想像がついた。
(だがそんな彼らがこの場に居ない……それほどまでに状況が悪いのか)
もしもライドウの称号を持つ者が生きていればこの場にいないのは明らかにおかしい、つまりそれらの称号を継いだ者は既に死んでいるのだろうなと予想する。
「澪。悪魔使いとして優れているというが……それらしい素振りは見せなかったが、何故アントリアとボーティーズでその力を使わなかった?」
確かに澪が悪魔使いとして優れているのならばアントリアとボーティーズで何故その力を使わなかったのかとゴア隊長が尋ねると、澪は腰に挿していた日本刀を鞘に収めたまま俺達の前に差し出した。
「この紐が見えますか?」
「あん? 見えるがそれがどうかしたか?」
紐が見えるかと尋ねる澪にヒメネスがそう返事を返すと澪が紐を解いて刀の封を解いた。その瞬間、司令部のあちこちに黒い影が現れた。
【裏切り者め】
【葛葉の使命を忘れたか】
【呪う、呪うぞ】
【ゲイリンの名を継いでおきながらこの恥知らずが……】
その影から澪に向かって投げかけれる怨嗟の声には思わず身が震えた。澪はそんな俺達を見ながら解いた紐で再び刀を縛ると黒い影は溶けるように消え去った。
「これが理由です。私は葛葉を裏切った者として呪われていて、葛葉の力を使うとこの通り私を呪い殺そうと葛葉の先祖が現れるのですよ。ちなみに生きてる人間が近くに居ると憑依して身体を乗っ取ろうとして来ますよ」
さらりとなんでもないように告げられた澪の言葉に俺は、いや俺だけではなくヒメネス達も絶句していた。
「お前とんでもない事になってんのな」
「ええ、でもまあ馴れましたよ? 人間は馴れる生き物ですからね。という訳で私は仮に葛葉の力を使うなら回りに誰もいないかつデモニカスーツを脱いで活動出来る環境が必要になりますね」
「実質不可能という訳だな、必要の無いリスクは背負う必要はない。皆も分かったな」
「「「了解」」」
アレックスを退けるほどの力を使えたとしてもリスクが余りにも大きすぎる。そんな不確かな力を使うつもりはない、ただでさえ調査隊に不和が広がっているのに、その不和を更に広げるつもりはないからだ。
「一応葛葉から持って来た悪魔は弱体化していますが、召喚は出来ます。こちらのほうは戦力として運用したいと思います」
「仲魔に関しては澪、君に一任する。必要となれば召喚しても良いが、我々の成長を妨げるような使い方は極力避けて欲しい」
「了解です」
成長を妨げる……葛葉の悪魔がどれくらいなものか分からないが、アレックスと戦えるレベルの悪魔ならば今の我々の悪魔よりも遥かに強い個体なのはわかる。その悪魔に頼ってしまい、自らの力を高める事を忘れれば待っているのは死だけだ。
(ゼレーニン達は違うようだけどな)
マンセマットから授けられたパワーに縋っているゼレーニン達はその力があれば良いと思ってる節があるが、彼女達がそれで良いと思っているのならば俺からいう事は何も無い。
「良し、では我々は長久君が目覚めるまでカリーナで待機とする」
『ゴア隊長、今医務室のゾイから連絡がありました。長久が目を覚ましたと』
長久が目を覚ましたと聞き澪が止める間もなく飛び出して入った。
「諸君、我々も長久君のお見舞いへ向かおう。長久君の容態次第ではカリーナへ停泊を続ける事になるだろうが、諸君らの理解を求める」
ゴア隊長の言葉に俺達は無言で敬礼し、早足で医務室へと歩き出すのだった……。
「ここ……は……「お兄ちゃん!」……アリス?」
目を開いた俺の目の前に広がったのは見慣れた医務室の天井だった。何が起きたのかと思い返していると少女の声が聞こえ、腹に何かが抱きついて来て、起していた上半身が再びベッドへと戻された。誰がと思っていると目の前に広がるのは青と白のエプロンドレス、そして眩い間での金髪……俺がぼんやりとした様子でアリスと名を呼ぶと腹に抱きついていた少女は顔を上げた。
「うん! アリスだよーッ!」
華の咲くような笑みを浮かべるのは間違いなくアリスだった。新宿であった、あのアリスだ。
「こらこら、アリス。長久は今まで寝ていたのだ、嬉しくともそんな事をしては駄目だよ」
「……ネビロス?」
「我も居るぞ、長久よ」
「ベリアルも……」
黒と赤のタキシード姿の紳士の姿を見て、俺はすぐにネビロスとベリアルの名を思い出した。
(あいつらの事は思い出せないのに、アリス達の事をは覚えているのか)
何故アリス達の事は覚えているのに、それ以外の事は思い出せないのかと思わず苦笑する。
「お兄ちゃん?」
「あ、うん。大丈夫だよ……アリスも元気そうで良かった」
「うん! アリス元気!」
にぱっと笑うアリスに俺も微笑み返し、今度こそベッドから身体を起す。
「どうしてここに」
「色々と事情があってね。世界を巡っている間に君のMAGを感じてお邪魔していたのだよ」
「人間に殴られて負傷したようだが、大丈夫か?」
ベリアルに殴られてと言われて、オーカスとの戦いの中で何が起きたのか思い出した。
「そうだッ! タイラー……うっ」
身体を起こそうとしたが目の前が揺らいで、俺はまたベッドの上に逆戻りになった。
「無理に動いちゃ駄目だよ! お姉さん、お姉さん! お兄ちゃん起きたよッ!!」
「本当!? ああ……長久君。よかった」
アリスの呼ぶ声にゾイさんがすぐにベッドの脇に駆け寄って来て、良かったと目に涙を浮かべる。
「何が……あったんですか?」
「落ち着いて聞いてね、長久君は2日間意識不明状態だったの、それをネビロスさんとベリアルさんが治療してくれたのよ」
ネビロス達が治療してくれたと聞いてそちらに視線を向けるとネビロスは軽く片手をあげ、ベリアルは誤魔化すように腕を組んでソッポを向いた。
「ありがとう」
「何、気にすることはないさ。かつての恩を返しに来ただけだよ」
「ふん、お前が善良なのは分かっているが、もう少し警戒する事を覚えるのだな」
「赤おじさん! そういう風にいうのはアリス良くないと思う!」
「む、すまない」
アリスに怒られ小さくなるベリアルに思わず笑ってしまう。するとゾイさんが俺の手を取って脈を図り始める。
「脈拍は安定してるわね。ちょっと点滴だけ交換するわよ」
「はい、お願いします」
「素直でよろしい、それとゴア隊長に連絡を取ってくるから間違えても出歩かない事、良いわね」
「……はい」
目力が凄いゾイさんに逆らってはいけないと理解し、素直に返事を返すとゾイさんはゴア隊長に連絡を取って来ると言って1度ベッドからはなれた。
「長久。君が苦しむと分かっていたが、我々はこの船の人間に試練を化した。もしもこの船の人間が試練を乗り越える事が出来なければ我々は君をここから連れ去るつもりだった。僅かでも、ほんの少しでも良い、君に休息を与えたかったんだ」
ネビロスの言葉には俺を思う真摯な響きがあった。澪やゴア隊長達を傷つけたのは思う事があるが……。
「僕が意識が無かったのが原因だね?」
「うん。お兄ちゃんが意識不明って聞いて、黒おじさんも赤おじさんも凄く怒ったんだ」
「そっか……じゃあ僕は何も言えないよ。それで試練って何をしたの?」
俺を思って怒ってくれている相手を怒れる訳も無いので試練に何をしたのかとネビロスに問いかける。
「お前が忘れた者をドッペルゲンガーとして立ち塞がらせたんだ。君と別れたばかりの彼らの模倣品、それを敵として差し向けた」
「……それ……は」
怒れば良いのか、悲しめば良いのか、分からなかった。大切だった、大事だった。だけど名前も顔も思い出せない白状者の俺が怒る権利はないように思えて、浮かしかけた腰をベッドに戻した。
「理由があるの、お姉ちゃん達はお兄ちゃんを探してるんだ。だからお兄ちゃんとお姉ちゃん達の縁を繋ごうとしたんだよ」
「さがして……僕を……?」
「ああ。世界を旅してお前を探している。いつか何処かの世界で再びお前の道とあの子達の道は繋がる事もあるだろう」
俺を探して……恨まれているのか、それとも俺を心配して探してくれてるのか……怖いという気持ちと嬉しいという気持ちが複雑に俺の中で入り乱れる……だけど1つだけ決まってる事がある。
「分かった。僕はまだ足を止めてはいけないって事がね」
辛くても、悲しくても自分の行いに、選択に責任を持たなければならない。俺は前に進むと決めたのだから……前に進み続けるしかないのだ。
「お前の覚悟と献身はいつだって素晴らしい。だが、自分自身をそう責めぬことだ。さてともっと話をしてやりたいのだが我々にはさほど時間が無いので簡潔に話すぞ、質問に答えてる時間も無い。死を理解しろ、己を殺せ、良いな。お前は人間でありながら1番死に近い存在だ。それを理解しろ、お前は死に近ければ近いほどにその力を発揮出来る。自覚がある筈だ」
死を理解しろ、己を殺せ、死に近いほどに力を発揮出来ると畳み掛けるようにネビロスは俺に告げる。
「良いか、お前の旅はまだ終わらん。我も、ネビロスもお前に直接力を貸す事はできん。だがどうすれば良いか、何をすれば良いかは教えられる。良いか、お前の今までの旅は全て無駄ではない、その全てに意味がある。そして世界を移る度に得た名前、姿。その全てに意味があることを胸に刻め、良いな? それがお前の力になる、忘却は辛く、苦しいものであろう。お前の苦しみは我らには理解できぬ、だがお前の力になってやりたいと言う気持ちは嘘ではない、足掻け、前へ進め、立ち止まるな。良いな」
医務室の外から走ってくる音が聞こえる。澪がこっちに来ているのは間違いなく、恐らくゴア隊長達もすぐに医務室にやってくるだろう。
「ありがとう。胸に刻むよ」
「ああ、そうしてくれ、助言しか出来ない私達を許してくれ」
「本当ならば同行してやりたいがそれもできん。すまないな」
「謝らなくて良いよ。ありがとう。少し元気が出た」
俺の苦しみを知ってる相手が居る。それだけで胸の中に詰まっていた何かが少し軽くなった気がする。
「若様! 若様ッ!! ああ……良かった、良かった若様が目覚められて……良かった。ありがとう、ありがとうございます。ネビロス、ベリアル」
澪が駆け込んできて俺に縋りつきながらネビロスとベリアルへ感謝の言葉を告げ、それから少し遅れてゴア隊長達も医務室へと入って来て一気に医務室が賑やかになり、俺に声を掛けてくれるゴア隊長達のお蔭で自分は1人ではないと分かり、笑みを浮かべると同時に俺は受け入れ難い現実を直視する事になった……。
(聞こえる、また聞こえてきたな)
避けられない死の足音……まだその音は小さくて遠く離れている。だが確かに今まで何度も聞いた死の足音が俺が目覚めた事を喜び、声を掛けてくれる皆の声の中、確かにその足音が俺には聞こえるのだった……。
4周目の世界 滅びを求める地球意思 その24へ続く
今回は澪と長久の過去をゴア隊長達が知る話とベリアル達との再会となりました。ここでは今後のフラグの一部、それと長久がこの世界でやるべき事、手にする力のヒントに触れてみました。次回はベリアル達との話、それと地上の大和達と話をしてデルファイナスに向けていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。