収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

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4周目の世界 滅びを求める地球意思 その24

4周目の世界 滅びを求める地球意思 その24

 

長久君は目覚めてすぐレッドスプライト号の降車デッキへ向かうと言って聞かなかった。まだ無理をしないほうが良い、休むほうが良いと言っても今で無ければ駄目なのだと言って聞かず、最終的に我々が折れて長久君を降車デッキへと連れて行く事になった。

 

「ここはもう少し鋭角な方が良いな」

 

「これくらい?」

 

「うむ、それくらいだな。あとそこの円が少し曲がっている」

 

「OK。これくらいだね」

 

「アリス色塗りするーッ!」

 

ベリアル、ネビロス、アリスの3人と一緒に何かを書いているのを見て、通信で大和達が言っていた支援物資受け取る為の物を準備しているのだとすぐに気付いた。

 

「長久君、我々も手伝おう。どうすればいい?」

 

「ありがとうございます。えっとじゃあ、そこの白いペンキで僕達の指示を聞きながら書いてくれますか?」

 

「皆も分かったな、全員で協力して書き上げるぞ」

 

「「「了解!!」」」

 

長久君達だけに負担を掛けさせるわけには行かないと我々も手伝い始めたのだが……。

 

「ヒメネスさん。そこの陣に足型ついちゃってるんで、書き直してくださいね?」

 

「え? マジかよ……」

 

「そこの、色が違うぞ」

 

「そ、そうなのか?」

 

「おじさん、線ずれてるよ?」

 

「す、すまない」

 

ミリレベルの技術が必要であり、手伝いではなく邪魔に近い感じになってしまっていたのは本当に申し訳ないと思うが、それでも作業開始から2時間ほどで大きな図形を描く事が出来た。

 

「すまないな、長久。難しいと思うが息災であれ」

 

「何れまた会おうぞ」

 

「お兄ちゃん! これ上げる! また会ったら今度は一緒に遊ぼうねー」

 

図形が光ったと思うとネビロス達の姿は私達の目の前から消えていた。

 

「消え……た?」

 

「違いますよ、ゼレーニンさん。ネビロス達みたいな高位な悪魔はカリーナのMAGじゃ長く存在出来ないんですよ、でもこの世界に来てしまったから自分達だけじゃ移動出来ないんで魔法陣を書いて欲しいって頼まれたんです。これでネビロス達はまた別の世界を目指して移動し始めたと思いますよ」

 

「高位というが、ネビロス達とミトラスやオーカス達だとどっちが上なのだね?」

 

良かった良かったと笑い長久君に我々が倒して来た魔王とネビロス達どっちが上なのかと興味本位で尋ねる。

 

「ダントツでネビロス達ですよ。ゴア隊長達を考慮して人間態でいてくれた事に感謝ですね」

 

「……なぁ、長久。もしネビロス達が悪魔の姿をしたら俺達はどうなってた?」

 

ヒメネスが少しの躊躇いの後に長久君にそう問いかける。すると長久君は少しだけ気まずそうな顔をしてから口を開いた。

 

「発狂してたかもしれないですね。ネビロスとベリアルって上から数えた方が早いような高位の悪魔ですから、正直今のゴア隊長達だと視認しただけで危なかったかもしれないですね。澪、ちょっと手伝って」

 

「はい、今行きます」

 

高位の悪魔と対峙した時の危険性を私達に説明した長久君は澪を呼び、魔法陣の中心に2人でしゃがみ込み何かを始める。それが恐らく外と連絡を取る為の準備なのだろう。だが私達には長久君の準備よりも視認しただけでも危ないという言葉のほうがずっと衝撃的だった……。

 

「どうやら我々はもっと強くならねばならないようだ。次のセクターに着いたら訓練のメニューを変更する。悪魔に負けない力を手にするぞ」

 

「「「了解」」」

 

我々はもっと強くならねばならない、次のセクターではミトラスやオーカスよりも強い悪魔が我々の道を塞ぐのは分かりきった事であり、長久君や澪達だけに負担を掛けないためにも強くあらねばならないと改めて決意するのだった……。

 

 

 

 

部下から上げられてくる報告の数々には流石の俺も都と共に眉を顰める事になった。

 

「思ったより早いね、どうする大和」

 

「どうしようもないな、あの愚か者共の横槍が響いてる……戦力の育成が間に合っていない」

 

俺と都の部下は間違いなく今の日本、いや世界で見ても上から数えたほうが早いほどに悪魔との戦いに慣れた集団だ。ヤタガラス、メシア教会、ガイア教、葛葉……それらの組織の方針についていけなかった者達で構成され、完全に裏が無いことを確認し、魔法や呪物で洗脳されておらず、嘘発見器、使役している悪魔などその全てを精査した上で部下にした。悪魔の存在を知りえているという事は悪魔と戦う術と同意義だ。悪魔はまず存在を知り、認識する事が戦いの全て。それが出来なければ戦いの舞台にすら立つことは出来ない。

 

「中級までならなんとかなるけど、上級は流石に不味いでしょ?」

 

「不味い所ではない。だがかといって龍脈を使うわけにはいかん」

 

「ボロボロだもんねぇ……」

 

シュバツルバースから出現した悪魔によってその土地の……いうならば土着の神や、妖怪、妖精等が活性化し凶暴化しているが、それでもジャックフロストやフェニックスの下位から中級クラスの悪魔だったが、ここ最近はカナダのインディアンの伝承で知られる雷を操る精霊鳥「サンダーバード」や人を喰らう雪男「ウェンディゴ」といった強い力を持った悪魔の出現情報が多くなって来ている。

 

「それだけシュバツルバースから放出されるMAGの密度が濃いって事だよね」

 

「まず間違いない、早急に味方を強化するか、悪魔合体が急がれるな」

 

これ以上地球全体のMAGが上昇すると下位の魔王級の出現まで視野に入れなければならなくなる。そうなれば竜脈を使う必要が出てくるが、竜脈を使うという事は地球の寿命を使う事と同意義でありシュバルツバースの範囲の拡大を早める事に繋がりかねない。

 

「長久からも連絡ないしね……こっちの準備は出来ているのに、何かあったのかな」

 

「……ありえる。人間は弱いからな」

 

悪魔の事を知る長久を危険視する者がレッドスプライト号にいるかもしれない。あの船には確かにエリートが揃っているが、悪魔の専門家がいるかと言われるとそうではない、むしろ頭でっかちの自称エリートもいるので長久に危害を加えられている可能性もある。地上に出現している悪魔の事もあるが、無知な連中の中にいるであろう長久の事を心配しているとオペレーターの1人が声を上げた。

 

「局長! レッドスプライト号から通信です!」

 

「メインモニターに回せ!」

 

俺が指示を出すよりも早くオペレーターはコンソールを操作していて、ノイズ交じりだがレッドスプライト号の降車デッキの中の長久の姿が映し出される。

 

『大和兄さん、都姉さん。連絡が遅れてすいません、大和兄さん達のほうは大丈夫ですか?』

 

「いや、こちらは何の問題も無い。そちらはどうだ?」

 

『こっちも大丈夫です。今竜脈の準備が出来たのでそれについて連絡しました』

 

こちらも大丈夫と言う長久だが、前髪に隠されている包帯を俺は見逃さなかった。間違いなく何かトラブルがあったのだろうが地上にいる俺達では何も言えないので喉元まで込み上げてきた言葉をぐっと飲み込んだ。

 

「そっか、元気なら良いよ。でも無理はしちゃ駄目だからね?」

 

『はい、分かってます。都姉さん』

 

儚い笑みを浮かべる長久の姿に駆け寄ってやりたいと思うがそれが出来ない自分に歯噛みする。

 

『電波が……乱れ……ので……こち……を……ます』

 

急速に電波が乱れ始め、長久の姿も声も良く見えなくなってくる。

 

「こちらも物資を送る。大変だと思うが、そちらも頑張ってくれ」

 

長久の返事は聞こえず、その姿も良く見えなかったが頷いた長久の姿だけは見えた。

 

「俺と都は少し席を外す。後は任せるぞ」

 

「よろしくねえ~」

 

返事を待たずに席を立ち、長久に物資を送る為に龍脈を利用した陣の元へ向かう。

 

「都」

 

「OK。行くよ、1……2……」

 

「「3ッ!」」

 

全く同じタイミングでMAGを放出しながら転移陣に触れると、転移陣が光り輝き準備していた支援物資が姿を消し、その代りに陣の中心に1枚の便箋が現れた。

 

「……見てこれ、どう思う?」

 

便箋を拾い上げた都が俺に差し出してくる。便箋には国連のマークの下に黒い熊の絵が書かれ、それらが赤い十字で消されていた。

 

「精査する。あともう1度全員の裏を取れ」

 

「りょーかい」

 

黒い熊のマークはジャック部隊のマーク。そして国連のマークと共に消されている事を考えれば導き出される答えは1つ……国連の一部、あるいは国連に圧力を掛けることが出来る何者かがジャック部隊を動かそうとしている。

 

(南条と桐条の生き残りか……とにかく、万能艦が製造出来るドック全ては要監視だな)

 

長久が態々こうしてメッセージを送ってきたことに意味がある筈だ。ジャック部隊の悪辣さを考えれば事前に潰す事が出来るのが1番最善だが……。

 

「都、最悪は覚悟しろ」

 

「OK、そん時は私が残るよ」

 

「すまんな」

 

ジャック部隊のシュバツルバースの突入を防ぐ事が出来ないのならば、それに便乗してシュバツルバースへ侵入する。残る方も、残される方も命がけになるがそうしなければならない自体がもう間近へと迫っているのを俺も都も本能で理解しているのだった……。

 

 

 

 

大和兄さん達から送られてきた物資の山に俺もゴア隊長達も心から感謝した。食べ物、医薬品、それに嗜好品と今俺達が欲してならない物がコンテナで3つも来たのだ。これで喜ばない者がいるわけも無く、久しぶりのまともな食事にありつける事に誰もが笑みを浮かべていた。

 

「手紙は確かに向こうに届いたかね?」

 

「多分大丈夫だと思います。後は大和兄さん達が上手くやってくれると思います」

 

ゴア隊長達が危険視するジャック部隊の事を伝える事は出来たから後は大和兄さん達が上手くやってくれることを祈るしかない。

 

「良し、ではこれより本艦はスキップドライブを実行する。各員は衝撃、振動に備えてくれ、アーサー頼むぞ」

 

『了解です。動力班へ通達します、これより本艦はスキップドライブを実行します』

 

アーサーの連絡が動力班へと伝えられ、すぐに動力班から館内放送で返事が返ってくる。

 

『動力班より! 動力班より! 全クルーに連絡ッ! 新セクターへのスキップドライブ準備完了ッ! 作戦班の命令を受け次第、スキップドライブを行います! クルーは衝撃に備えてください』

 

その連絡を聞いて澪の隣の椅子に座りベルトでしっかりと身体を固定する。

 

「次のセクターで外へ脱出するヒントが得られると良いですね、若様」

 

「そうだね、あと出来れば少しでもこのシュバルツバースの謎を解決するヒントが得られると良いね」

 

まだ解決するべき謎は山ほど残っている。次のセクターでそれらの謎を解決するヒントが得られれば、もしくは、このシュバルツバースを支配する悪魔の手掛かりが得れれば良いなと心からそう思う。

 

「スキップドライブ実行!」

 

『了解、スキップドライブを実行します!』

 

ゴア隊長の号令と共にスキップドライブが実行され、俺達は4つ目のセクターへと足を踏み入れた。

 

「良し、無事に量子トンネルを越えたな。4つ目のセクターとなるが、ここで何か進展したと思える手掛かりが得れると良いのだが」

 

ゴア隊長が独り言のように呟くと意外な事にアーサーが返事を返してくれた。

 

『ゴア隊長。量子トンネルの解析に基づく予測でも収束は近いと思われます。シュバルツバースの仮説の中にこの量子トンネルの構造を予想したものがありましたが……これまでのデータはその仮説と符合しています』

 

「なに? そんな話は聞いていないが……」

 

シュバルツバースの構造予測のデータがあったというアーサーの言葉にゴア隊長がそんな話は聞いていないと言うとゼレーニンさんが手を上げた。

 

「ゴア隊長。アーサーが言っているのは恐らくハンマーシュミット博士の仮説だと思われます」

 

「ハンマーシュミット……ああ。だが確かハンマーシュミット博士の仮説は余りにも斬新的過ぎて、余り聞き入られてなかったが……」

 

「まさかそんな人の意見が真実とはとんだ皮肉ですね、ゴア隊長」

 

「全くだ」

 

ありえないと言われていた話がまさか俺達の道を示す事になるとは……真実は小説より奇になりとは良く言ったものだ。

 

「ゴア隊長。観測班から連絡です。フィールド状態報告の準備が出来たようです。艦外画像をメインモニターに繋いでもよろしいでしょうか?」

 

「ああ。頼む、ウィリアムズ」

 

「了解です。メインモニターに映します」

 

モニターに外の様子が映し出された外の光景はゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミばかりの光景で思わず俺だけではなく、モニターを見ていたゴア隊長達も眉を顰めた。

 

「シュバルツバースは人間文明の影響を受けて形態を作る傾向があるって事は分かってたが、ここまでとは一周回って笑えて来るな。それでアーサー。外の空気はどうなってるんだ?」

 

『デモニカスーツが無ければ数分と持たずに死にます」

 

「OK、分かりきってた事だけどやっぱり確認するのは大事だよな。なぁ、長久」

 

「ええ、そうですね。認知するって事は悪魔との戦いでも重要な事です、知っているって事は大事ですよ」

 

知っているか、知らないかでは悪魔との戦いも大きく変わってくる。分かっていることだとしても再確認する事は大事なことである。

 

「では任務を整理するぞ。まずは作戦地のコードを発行する。このエリアのセクターコードはD、デルファイナスを発行する。アーサー、全クルーへ通達を」

 

『了解です。ただいまよりセクターDをデルファイナスと呼称します』

 

ゴア隊長の指示をアーサーが復唱し、澪達がデモニカスーツを確認する。

 

「発行されてる?」

 

「ええ、セクターD、デルファイナスとデータが入りましたよ。若様」

 

俺はデモニカスーツが着れないので情報を共有出来ないのが少し苦しいところだが、俺は外に出れない身だからそれもしょうがないかと苦笑する。

 

「デルファイナスでの任務はまず第一に当艦の機器を中心に行い、レッドスプライト号と機動班による外部調査を主軸にする。データを収集後地上へと送信し、地上と協力しながら量子トンネルの捜索とロゼッタ物質の探索を行なう。ロゼッタ物質の確保、量子トンネルの位置把握をミッションとして発令する。各員細心の注意を払ってミッションに当ってくれ、皆ならば無事にやり遂げることが出来ると私は信じている」

 

「「「了解!!」」」

 

ゴア隊長の激に澪達が返事を返し、司令部を出て行く、俺とゴア隊長、それと少数のクルーだけが残された司令部で俺はモニターを見つめながら眉を顰めた。

 

「どうかしたのかね?」

 

「いえ、なにかこう……上手く説明出来ないざわめきがあるんですよ。ゴア隊長、状況次第では1度澪達を帰還させることも視野に入れてくださいね」

 

「分かった。長久君の言う通りにしよう」

 

ゴア隊長が了承してくれた事に安堵しながら、俺は再びモニターに視線を向けた。

 

(なんなんだ、この感じは)

 

今までのセクターとは違う不快感がこのデルファイナスにはある。一体このセクターは何なのか、そしてこのセクターを支配する悪魔は何者なのか、外に出る事の出来ない俺は澪達の無事を祈ることしか出来ず、そしてこのデルファイナスに潜む悪意は俺の想定を遥かに上回り、俺にある決断を強いる事になるのを今の俺は知るよしもないのだった……。

 

 

4周目の世界 滅びを求める地球意思 その25へ続く

 

 




DSJの最難関ステージデルファイナスの開幕です、ここはただでさえ難しいステージですが、今までのステージと同じで難易度は当然上げて行こうと思います。眠りから目覚めたばかりの長久君が頑張る予定ですので、デルファイナスでの戦いがどうなるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

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