4周目の世界 滅びを求める地球意思 その26
シュバツルバースの地に出るのはこれで3度目だ。1度目はボーティーズ、2度目はカリーナ、そして3度めはデルファイナス……だが3回目の今回は1回目と2回目よりも異なる点があった。
【神子ぉぉおおおおッ!!】
【我らカオスの柱となれッ!!】
神子……つまり俺の存在を求める下の上、中の中クラスの悪魔の襲撃だ。確かにモラクス、ミトラス、オーカスよりも劣るのは事実である。だが数の暴力と言うのは何時の時代も脅威であり、そしてそれがこちらよりも強いのだから常に全滅の危険性を孕んでいた。
「はぁッ!!」
「大国主ッ!」
【任された!】
【マハンマオン】
ゴア隊長の振るった妖刀ニビルから放たれた飛ぶMAGの斬撃と大国主の放った破邪の光が突っ込んできた悪魔――黄色の身体をした鬼「キンキ」と赤い身体に2振りの剣を持った悪魔「ラクシャーサ」を消し飛ばす。
「戦況終了。皆無事かッ!」
前線を維持しているゴア隊長が周囲に悪魔がいないか警戒しながら妖刀ニビルを鞘に収め、俺達に無事かと声を掛けてくる。
「な、なんとかこっちは大丈夫です」
「きゅ、急に強い悪魔が出てき始めましたね……」
マイクさんやタイラーさんが息も絶え絶えという感じでゴア隊長の問いかけに返事を返す。
「確かにその通りっぽいな、俺達が倒した悪魔えっと……マンドレイクとウェンディゴより、ゴア隊長と澪の悪魔が倒したキンキとラクシャーサのほうがずっと強かった。長久、こいつはどういうか分かるか?」
デモニカの悪魔召喚プログラムを確認したウルフさんが尋ねてくる。本来デルファイナスに出現する悪魔より強力な個体であるキンキとラクシャーサが出現した理由は勿論いうまでも無く……。
「こうやっていうのはなんですが、僕がいるからですね」
「……やっぱりなのかい?」
「分かっていた事だ。態々確認するまでもない、違うか? ウルフ」
「そう睨むなよ。スティードマン……長久も言ってただろ? 知る事が大事なんだって、でも悪かった。態々聞くまでも無かったよな、悪かった」
スティードマンさんに睨まれてウルフさんが肩を竦めながら謝罪の言葉を口にする。
「大丈夫ですよウルフさん。ご迷惑を掛けているのは僕も分かっています。ただ神子のMAGというのが悪魔にとってはどうなのかというのがいまいち分からないんですよね、そこの所どうかな? 大国主」
悪魔にとってMAGが必要不可欠と言うのは分かっている。だが神子のMAGと通常のMAGにどれほどの差があるのかというのは正直良く分かっていない。俺の血で契約したリャナンシーやマカラは良く分からないと言っていたし、ミトラスはMAG払いで貴重なフォルマを分けてくれていて、ゴア隊長のMAGの質を向上させる義手なんかも作れたので、それなりの価値はあると思うんだけど……。
【神子のMAGを大量に取り込めば位階が上がるぞ?】
「……え?」
【だから位階があがる。私のように神と定義されている悪魔は変異しないと思うが、そこら辺の悪魔ならば上位悪魔に変異する事も考えられる。だから容易にMAGを分け与えるという真似はしないように】
大国主に注意され、相当やばいって事が分かったので引き攣った顔で俺は頷いた。
「異界とは?」
「ああ、違います。位階です、悪魔に階級みたいなものがあって、1つ位階が上がるだけで悪魔の力っていうのは爆発的に上昇するんです。強さ的に言えばキンキとラクシャーサはデルファイナスに出現する悪魔の階級の1つ上ですから」
位階と説明しても理解出来ないだろうけど、具体的な強さの指標が目の前にあるのでそうやって説明すると無言で澪達が俺の乗っているバギーとの距離を詰めた。
「ゴア隊長。行きましょう、余り若様をデルファイナスにいさせるわけには行きません」
「私もそう思う。全員デモニカのモードを切り替えろ、仲間のデモニカの反応を感知したらすぐに報告をするんだ。レッドスプライト号へ帰還していないクルーは7名だ。早急に7人を回収し、レッドスプライト号へ帰還するぞ!」
「「「了解!!」」」
俺しか完全にデルファイナス奇症を治療出来ないとしても、モラクス、ミトラス、オーカスを纏め上げる悪魔がいる場所に足を踏み入れたのは失敗だったか? と思い始めた頃、1人目のデルファイナス奇症の感染者のクルーを見つけ、俺は自分の判断が間違いではないと悟った。
「皆離れてください、バギーの後へ」
バギーと言ってもクルーの回収や、俺の安全を確保する為に原形を留めていないほどに改造されているが、バギーはバギーだ。今の子供の俺でも運転できるから誰がなんといようがバギーだ。そのバギーを停車させ、バギーの近くに集まるように声を掛ける。
「長久? 急に何を?」
「ゼレーニンさんもです。離れて、バギーの後までとは言わないですが、せめてバギーの横に来てください。早く、足音を立てず、騒がずに移動してください」
俺のあまりに真剣な声にゴア隊長達はゆっくりと後ずさり、バギーの横についてMK型治療器を構えた。
「長久君、彼……ジョーンズに何が起きている? 君に何が見えている?」
「悪魔のMAGが全身に纏わりついています。出発前に言いましたが、デルファイナス奇症は極小の悪魔の寄生による物です。でも今のジョーンズさんは違います、レッドスプライト号で治療したクルーとは違います」
俺がいるという事はこのセクターの支配者は知っているのだ、だから俺がどうしても前に出てこなければならない状況を作り出した。
【神子ヨ……何故お前は美しくナイ人間と共にいるのダ?】
デモニカスーツのヘルメットの前面が開き、ジョーンズさんの顔が露になるがその目は赤く輝き、大きく開かれた口の中には黒いガスのような塊が出来ていて、そのガスの塊の中心に黄色く輝く1対の目があった。
「美しくないとはどういうことかな?」
【強いという事は美しい事ダ。じゃ、じゃじゃじゃじゃ……弱……】
ジョーンズさんに取り付いている悪魔から情報を聞き出したいが、これ以上はジョーンズさんが死ぬ。
「MK型治療器を!」
「了解した!」
ゴア隊長が構えたMK型治療器から放たれた光がジョーンズさんに纏わりついている影を弾き飛ばし、再びジョーンズさんの肉体に取り付く前に印を結び、ジョーンズさんの身体に戻ろうとした悪魔を完全にはじき出す。
【流石……神子……また会おうぞ……】
そういい残しジョーンズさんに寄生していた悪魔の気配は完全に消え去った。
「もう大丈夫なのか?」
「大丈夫です。ジョーンズさんを回収をお願いします。僕はバギーの中で受け入れの準備をしますので」
このバギーは俺の移動用の物でもあるが、それと同時にデルファイナス奇症に感染したクルーをレッドスプライト号へ運ぶ為の物でもある。ジョーンズさんを横にする布団などを用意しながら俺は首を傾げていた。
(今の感じ……胸の奥がざわめいたけど……なんだ?)
ジョーンズさんに寄生していた悪魔が表に出た一瞬、まるで家族や親戚にあった時のような奇妙な感覚を抱いた事に首を傾げているとマイクさんとダニエルさんがジョーンズさんに肩を貸してバギーの中に入ってきた。
「連れてきたぞ長久!」
「そこに寝かせれば良いのかい!?」
「こっちへ! お願いしますッ!」
悪魔に寄生されてMAGを失い、その上結界で動きを止めていたとはいえ、その中で暴れていたジョーンズさんの身体はボロボロでアーヴィンさんとゾイさんが積んでくれていた道具とMAGを併用してジョーンズさんの治療に取り掛かるのだった……。
洗脳装置であるMK型兵器を改良したとは言えMK型治療器には思う事があった。だけどクルーを救えるならばと私は我慢して受け入れたし、長久が同行するというのもいうのは悪いが、自分の立ち位置を確立させたいんだろうなくらいにしか思っていなかった。
「う、ううう……痛い……いたい……」
「大丈夫、大丈夫ですよ。すぐに治療しますからね」
保護されたクルー1人1人に声を掛けて懸命に治療をして居る長久の姿にはそんな打算があるようには見えなかった。
「うっく……ごめん、ごめんねえ……また迷惑掛けて」
「大丈夫ですよエリーさん。迷惑を掛けられたなんて僕は思ってないですよ」
機動班クルーとは仲が良いとは聞いていたけど、長久のそれは仲が良いとか、そんな理由ではないように見えた。むしろ長久の姿は子供ではあるが、私が両親と共に通っていた教会の神父様のように見えた。
「長久。貴方はメシア教はどう思う?」
6人の治療と保護を終えて最後の1人……ヒメネスを探している所でメシア教をどう思うかと長久に尋ねる。
「どうとは?」
「信じるべきなのか、そうではないのか、って話ね。貴方はどう思う?」
「前も言いましたけど、その人が何を信じよう、何を疑おうって話に口を挟むつもりはないですよ? ただ……僕は余りメシア教は好きじゃないですね」
メシア教が好きじゃないと言った長久に私は腰を浮かしかけ、それを我慢して腰を再び下ろした。
「その理由は?」
「簡単ですよ、メシア教は信じる者は救われるって言うじゃないですか、じゃあ信じない者を救わないのに本当に救済なんて出来るんですか? 人を救うのに差別をする人が本当に救いを求めてる人を救えるんですか?」
その言葉は私の胸の中にストンっと落ちた。まるで欠けていたパズルのピースが嵌るかのように、驚くほどに心の隙間を埋めた。
「それは……そうよね。うん、そう……あれ?」
「どうかしましたか?」
「ん、んん? メシア教はキリスト教よね?」
「そうですね、一応キリスト教ですけど、法皇には認められていないですよね。あくまでキリスト教の1部って形ですよね」
「……そうだったかしら?」
あれ……私は……私のお父さんとお母さんは……。
「メシア教じゃなかった?」
「いや、それは僕には分かりませんけど……大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ、ゼレーニンさん。少し横になった方が良いんじゃないでしょうか?」
ただの世間話だった。だけど何かとても大事な物のような気がした、そして今聞いておかなければ後悔するという予感があった。
「キリスト教とメシア教は違ったかしら?」
「全然別物ですが? 大丈夫です?」
「全然……別? ごめんなさい、メシア教は何を主神としていたかしら?」
「YHWH.ですけど?」
「……ありがとう。うん、何か思い違いをしてたのかもしれないわ、やっぱり気分が少し悪いから休ませて貰うわ」
長久にそう声を掛けて私はバギーの中で女性陣が集まっている場所に横になり目を閉じた。
(なんでかしら?)
お父さんとお母さんはメシア教を好きじゃかった、それに神父様もメシア教に関わるのは良くないと言っていたのに……。
(なんで私はメシア教徒だと思っていたのかしら?)
私はメシア教ではなく、キリスト教徒だった。なんでそれを忘れていたのかと疑問に抱きながら私は目を閉じて眠りに落ちるのだった……。
ヒメネスを探してデルファイナスを進んでいる私達にバギーの長久君から文章通信が入った。
『ゴア隊長。それに澪達にも話しておきたい大事な話があります、一時的にアーサーと司令部と繋がりをきってください』
アーサーと司令部との通信を切れという要請に少し悩んだが、ノイズと言えば処理できると判断し要望通りに通信を一時OFFにする。
「どうしたんだ長久。そんなに大変な話か?」
『はい、今ゼレーニンさんと話をしていたんですが……彼女に洗脳、もしくは精神誘導されていた痕跡がありました』
その言葉に思わずこの場にいた全員の身体が強張った。
「どういうことだね?」
『話を聞いただけなんですが、どうもゼレーニンさんは自分をメシア教徒と思っていたようですけど、ゼレーニンさんはキリスト教徒だったって自分で言ってしきりに何度も首を傾げていたんです』
「それはつまりマンセマットから与えられた天使が原因という訳か?」
『恐らく、1度司令部と面談する際にメシア教について聞いて見ると良いかもしれません。もしかすると司令部の暴走もマンセマットが関与してる可能性があります』
「でも、そうとは言い切れないんじゃないのか?」
『ウルフさん、確かにその線もありますけど、そうじゃない可能性もあります。疑わしきは罰せずですよ』
数日眠ってしまうほどの暴行を受けているのに、それでもまだ司令部のクルーを信じようとしているのかと私は驚いた。
「了解した。具体的にはどうすれば良いのだ?」
『簡単です。迷わせてください、メシア教とキリスト教の違い、とかそんな話で良いんです。少しでも疑問を抱かせれば何らかのリアクションがあると思います。後は……』
「パワーを死んだままにすることですね?」
『うん、絶対にパワーを蘇生しないで、今ならまだ調査隊を正常に戻せるかもしれないから』
マンセマットに授けられたパワーがラクシャーサの奇襲で死んだが、まさかそれが良い流れを運んで来てくれるとは……今だけはあのラクシャーサに感謝しても良いかもしれないな。
「ゴア隊長。ヒメネスのデモニカスーツの反応を感知しましたッ!」
「よし! ヒメネスを治療してレッドスプライト号へ戻るぞ!」
デルファイナス奇症に感染している最後の1人ヒメネスを治療し、レッドスプライト号へ戻ると号令を掛けヒメネスのデモニカスーツの反応の元へ向かうとヒメネスの仲魔、バガブーがヒメネスを覆っている結界の前でボロボロの姿で仁王立ちしていた。
【ナガ……ナガヒサッ! ヒメネス! ヒメネスッ!! デ、デンジャーッ! へ、へ……ヘルプッ!!】
「お、おい、今あいつ喋ったぞ……ッ!?」
「本当だわ……信じられないわ……」
バガブーは喋れないタイプの悪魔だったが、ヒメネスがコミュニケーションと言って言葉を教えていたが、バガブーは拙いなりに言葉を喋り、長久君の名前を呼び、ヒメネスを助けてくれと叫んだ。
『バガブー。大丈夫、僕達はヒメネスさんを助けに来た。だから任せて』
【だいじょ……だいじょうぶ?】
『勿論。僕がヒメネスさんを殺すと思う?』
長久君の言葉にバガブーは少し考える素振りを見せた後に私達に道を譲り頭を下げた。
「ここまで絆が出来ていたのか」
「俺達よりもヒメネスの方がずっと悪魔使いとして優れているのかもしれないな」
確かに使役するだけの私達と違ってヒメネスは仲魔と認めて、バガブーに接していた。それがバガブーの成長を促したのだろう。
「澪、悪魔使いとしてヒメネスはどう?」
「かなり上位だと思いますよ。まだ悪魔に関しての知識とMAGが不足していますが、悪魔使いとしての素質はあると思います」
葛葉の人間だった澪までもが適正があると言うのだ。間違いなくヒメネスは悪魔使いとしての素質があるのだろうな……だが今はヒメネスの治療が先決だ。
「……ウオオォォッッ!!オマエラ、だれだ……ッ!! …テキかッ!?……テキだなッ!!?」
デルファイナス奇症で錯乱状態になっているヒメネスに向かってMK型治療器を構え引き金を引いた。
「……グヌゥゥッッ!!?」
呻き声を上げ膝をついたヒメネスの回りを黒い靄が漂い始めるが、長久君の気合の入った一喝でヒメネスに再び寄生しようとした悪魔は霧散し消え去った。
「…………………あん? オレは一体……どこにいるんだ!? ゴア隊長!? タイラーにウルフ!? おいおい!? こんな大人数で動き回って何やって……あいだだだだッ!? な、なんだ!? 身体中がいてえッ!?」
状況を把握しようとして、自分を取り囲んでいる私達を見て驚き、身体が痛いと叫ぶヒメネスの姿に安堵の溜息を吐いた。
「こちらゴア。デルファイナス奇症に感染したクルー7名の治療及び保護が完了した。ただいまよりレッドスプライト号へ帰還する」
『了解しましたゴア隊長。医療班と回復ポッドの準備をしておきます』
「ああ。頼むぞアーサー」
長久君が応急処置をしてくれているが、それでも傷や暴れまわったことによるダメージは大きい、早急にレッドスプライト号へ帰還し、治療をする必要がある。それに……ゼレーニンを始めとするクルーの洗脳疑惑、それにクルーに寄生していた悪魔が消え去る瞬間に言っていた言葉の意味を調べる必要もある。
「ヒメネス混乱していると思うが、我々は君含めて7人の負傷者の運搬中だ。バガブーをデモニカへ帰還させて長久君が待っているバギーに乗り込んでくれ」
【ヒメネス! ヒメネス! よかった!】
ヒメネスが回復したことを喜んでいるバガブーがヒメネスにしがみ付いている姿は微笑ましいが、いつまでもこの危険なデルファイナスに長久君をおいていく訳には行かないので、ヒメネスの意識が回復した今、急いでレッドスプライト号へ戻る必要がある。
「長久の奴まで出てきてんのか!? あいただッ! 分かった! もうバガブー分かったから! 俺は大丈夫だ。お前もデモニカに戻るんだ。バガブー」
【バガッ!】
ヒメネスに戻れといわれて大人しくデモニカに戻るバガブーの姿を見届けたヒメネスは頭を振りながら立ち上がった。
「皆迷惑をかけたみたいで悪いな。助けてくれてありがとうよ」
足を引き摺りながらもヒメネスは自力で歩いてバギーに乗り込んだのを確認し、レッドスプライト号へと帰還しようとしたその時。
『ゴア隊長! 周りだ! 回りを見ろ! なんだよ、なんだよこれはッ! 長久これは何なんだ!?』
『分かりません! でもヒメネスさん達に寄生していた悪魔と同じかもしれません、バギーの近くに集まってください!』
ヒメネスが混乱するのも、長久君が悲鳴を上げるのも当然だった何故ならば……。
「死んだ仲間を冒涜するかッ!」
レッドスプライト号から消え去ったクルーの遺体がドレスやタキシードを身に纏い、白く濁った目で私達を見つめていたのだから……。
4周目の世界 滅びを求める地球意思 その27へ続く
超人ゴア隊長ではなく、ここまでの調査で死んだ複数名のクルーが3賢者に操られているルートに入りました。次回はなぞの解明と司令部クルーの洗脳疑惑の究明などをやりつつアスラ戦に進めて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。