収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

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4周目の世界 滅びを求める地球意思 その27

 

4周目の世界 滅びを求める地球意思 その27

 

バギーの周りを取り囲んでいるのは間違いなく調査隊の仲間だった。シュバルツバース調査隊のドッグタグにはICチップが埋め込まれている。シュバツルバースの内部は悪魔の巣窟、遺体が残っている事すら稀少で、せめて遺族にドッグタグだけでも帰そうという考えの元ドッグタグにはICチップが埋め込まれている訳だが、その中でも悪魔に食われる前に綺麗な状態で遺体を回収できたクルーもいた。俺達を取り囲んでいるのは綺麗な状態で回収することの出来た数少ない遺体だった。

 

『ゴア隊長』

 

『澪』

 

『マッキー……タイラー』

 

『ウルフ、スティードマン……』

 

『マイク……ダニエル……ドーソン』

 

何の感情も感じさせない冷たい声で次々に外にいる皆の名前を口にする声がする。

 

「な、長久! あ、あれは悪魔なのか!? 悪魔が遺体に入り込んでいるのか!?」

 

ヒメネスさんがどうなっているんだと俺に詰め寄ってくるが、俺も正直言って混乱している。

 

「分からないです、でも……悪魔の気配じゃない」

 

「じゃあ天使か!?」

 

「いえ、天使でもないです……ッ! 本当に訳が分からない、未知の存在としか言い様が無い!」

 

天使でも悪魔でもない、超常の存在であることは分かる。だがそれ以上がどうしても分からない。

 

「マリー、ホーク、ユート、カイル、ルナ……調査隊メンバーなのは間違いないです」

 

「だがあいつらは死んだッ! そうだろ!?」

 

データベースには確かに情報は残されている。マリー、ホークはアントリアで、ユート、カイルはボーティーズ、ルナはカリーナで死亡が確認されている。間違いなく、今俺達の目の前にいるあの5人は死人だ。死んだ事が確認されている、だがこうして目の前に立って動いている。

 

『『『この身体がお前達の名前を教えてくれる。お前達は何者だ』』』

 

5人が異口同音がゴア隊長達へ問いかけるのを見て、俺は咄嗟にマイクを掴んだ。

 

「返事をしちゃ駄目です! 会話がなんらかの術のトリガーの可能性があります!」

 

俺がそう叫ぶと返事を返そうとしたゴア隊長達は口を閉ざし、襲われても良いように銃口を向けた。

 

『『『神子よ、お前は私の存在が判らないのか? 私は1であり、そして全である』』』

 

1であり、全である……その言葉に脳裏に最悪の予想が過ぎった。俺が感じた、天使でも、悪魔でもないというのは間違いでは無かった。言葉に詰まった俺にマリーさん達に憑依している何かは我が意を至りと言わんばかりに笑みを浮かべた。

 

『『『人間によって地球は滅ぼされようとしている。蝕み、増え、汚毒を残す。病魔と化した人間にな。その病魔共を根絶する為、地球は、この聖域を生んだのだ。病魔たる人間を抗体たる悪魔が駆逐する。それが、地球が生き延びるただ1つの方法だ』』』

 

「お、おい! 長久、なんとか言えよ、何を黙って聞いているんだ!?」

 

「大丈夫なのか!?」

 

ヒメネスさん達が声を掛けてくるが、俺の意識は目の前の何かに完全に向けられていた。認めたくないが、あの何かの言っている事は間違いではないと、神子だから分かってしまう。目の前の何かは地球の意思の具現化、地球その物だ。

 

『『『神子だけではない、お前達もだ。お前達に正しい霊感があるのならば分かる筈。この地に満ちた人間の宿業を感じているだろう。殺戮の力。欲望への耽溺。無際限の消費に救いのない排泄……滅びるべくして滅び人間共の戯画のようだ。この体の持ち主だった者達もきっと嘆いていたことだろう……戻したいとは思わないか……? 傲慢な人間の支配から逃がし、地球をあるべき姿にしたいとは思わないか?』』』

 

それはきっと間違いではない、人間という種を根絶しなければ地球の問題は解決しない。それはきっと1つの正しい答えなのだろう……。

 

(本来目覚めてはいけない地球の意思が目覚めた。目覚めてはいけない物が目覚めたのがシュバツルバースの生まれた理由かッ)

 

分からなかったピースが埋まった。何故シュバルツバースが生まれたのか、その理由が分かった。分かったからと言って、それを認めるつもりは無いが、これを知った事でこれから何をするべきなのか分かった。

 

「誰でも良い! 撃ってください! 早く!」

 

これ以上は危険だ。俺のどこかで目の前の何かの言葉が正しいと思っている部分がある。これ以上あの何かをこの場に残す訳には行かないと俺が叫ぶとゴア隊長が銃の引き金を引き、それに続くように澪が銃の引き金を引いた。

 

『『『残念だ、神子よ。お前は人間へ毒されている、中立であるべき物が人へと近すぎるのだ。だが我らはそれを許そう、今お前達に、そして神子に必要なのは人間の宿業が宿るこの地を巡り、何が正しく何が間違っているのかを知る事だ。このまま悪魔に身を裂かれるも良し、アスラの毒気に身を冒されるも良し、お前達が再び答えを見出した時に会おうぞ』』』

 

その言葉を残してマリーさん達の遺体は消え去り、俺は額に浮かんでいた脂汗を袖拭った。

 

「ゴア隊長今すぐ帰還しましょう、レッドスプライト号で全てを説明します。だから今すぐに帰還しましょう」

 

『……分かった。全員帰還するぞ!』

 

聞きたいこと尋ねたい事もあるだろうに俺の意見を汲んでくれたゴア隊長に感謝し、俺はその場にへたり込んだ。少し会話をしただけで精神力とMAGを根こそぎ持っていかれた……とんでもない化物であると同時に、あの何かの言葉が真実味を帯びてしまった。

 

「だ、大丈夫……あいちち」

 

「っく、大丈夫なの?」

 

へたり込んだ俺を見てヒメネスさん達が声を掛けてくるので、今にも途絶えそうな意識を繋ぎ止め、俺は何をするべきなのかを口にした。

 

「な、何とか大丈夫です。でもこれ以上この場に留まるのは危険です、もう今の僕にはあの靄を払う力はないので、今すぐに戻らないとまた逆戻りです……誰でも良いのでバギーの運転お願いします」

 

その言葉を最後に俺の意識はぷつりと切れてしまうのだった……。

 

 

 

レッドスプライト号に逃げ帰った私達は先ほど見た光景を思い返していた。死んだ筈の仲間が何かに操られ動き回っていた光景に誰も口にしないが激しい憤りを覚えていた。

 

「死者の尊厳まで冒涜するか……一体何が目的なんだ」

 

長久君が会話をするなと言ったので黙っていたが、マリー達の身体を使っている何かはまるで自分達が地球の代弁者とでも言いたげな口振りだった。

 

「思い返しても腹が立ちますね」

 

「全くだ。デルファイナナス希症の原因の悪魔が取りついてるんだろ? 早く何とかしてやらないと」

 

「待ってくださいよ、タイラーさん。それなら長久がMK型の治療器を使えっていう筈ですよ。もしかすると別口なのでは?」

 

「つまりすべては長久君が回復してからか」

 

長久君を始め、ヒメネス達も相当体力を消費しており、今ゾイの元で治療を受けている。我々で考察したとしても見当違いの考察をしてしまうと凝り固まった考えを持つ原因になりかねない。確かに仲間の事は気になるが、もう1つの問題はどうなったかも知る必要がある。

 

「アーサー。司令部クルーの思考についてだが何か分かっただろうか?」

 

ゼレーニンが長久君と話している間に判明した思考誘導、そして洗脳について、脳波に何か異常が無いかアーサーに調べてもらうように頼んでいたが、何か分かった事はあるかとアーサーに尋ねる。

 

『はい、それに関してですが、脳波の一部異常が見られました。左脳の一部に微弱なMAGの反応が感知されました』

 

アーサーの言葉にタイラー達の表情が曇る。マンセマットから授けられた天使パワー……それがなんらかの洗脳を行なっていた事はこれで確定となった。

 

「本当に天使はクソだなッ!」

 

アントリアでのクルーの殺害に始まり、怪しい言動を繰り返しマンセマットに、そしてそのマンセマットから授けられた天使からの思考誘導と洗脳とこれで天使を信じろというほうが無理な話である。

 

「だがこれで司令部のクルーがおかしい理由も分かったぞ、思考誘導を受けていて正常な考えが出来なかったという事だろう? アーサー」

 

『残念ながら違います。思考誘導の内容はメシア教こそ全てという考えに傾けるもので長久とは大きな関係性はありません。あるとすれば

自尊心を強く刺激されているので、それが原因ともいえますが、司令部クルーの大半は長久へ不満を抱いていたのは事実です、思考誘導を解除する事で友好的な関係を築きなおせる可能性は25%です』

 

「そう……か」

 

洗脳と思考誘導で長久君を排除しようとしていると思いたかったが……選ばれた国連のエリートとしてのプライド……それが天使の洗脳と思考誘導によって増大されているということか……。

 

「ゴア隊長、どうするのですか?」

 

「……現状維持となるな。天使パワーの排除によって洗脳と思考誘導は少しずつだが影響は薄れていくと思うが、長久君に危害を加えられる可能性がある以上。すぐに決断を下す事は出来ない」

 

神子である長久君を求める存在は多い、マンセマットの元に連れらさられても困るが、前のように障害を加えられては今度こそ長久君の命に関わる。洗脳と思考誘導の影響が無くなったとしても、区画を分断する隔壁の解放には十分なカウンセリングが終わった後とするべきだろう。

 

「これからの方針として大まかな流れは変わらない、バニシングポイントを捜索しながらシュバルツバースの調査を続ける。この異常事態の中で仲間を疑わなければならないのは皆辛いと思うが、今しばらく司令部クルー居住区画との隔壁は下ろしたままとする」

 

当面の方向性を発表した所でエアロックの開く音がし、その音に振り返ると車椅子に乗った長久君とその車椅子を押す澪の姿があった。

 

「もう大丈夫なのか、長久君」

 

「先に話す事を話しておこうと思います、このセクターの支配者を倒す為には念入りな準備が必要です。仲魔を増やす、装備を整える。やる事はこれでもかってあります。準備が終わるまでは休めるので先に話をしたいと思います」

 

この強い責任感には頭が下がる。長久君には無理をして欲しくないが、恐らく澪も説得して駄目だったのならば、私で止める事が出来るわけも無い。

 

「分かった。長久君、君の考えを聞かせてくれ」

 

話が終われば長久君も休む事が出来る。そう思って話を聞くことを決めたのだが、長久君から語られた言葉に私は、いや私だけではなく調査隊全員が途方も無い衝撃を受けることになることを今の私は知るよしもないのだった……。

 

 

 

 

若様には休んでいて欲しかったが、どうしても今話しておく必要があると言う若様に押し切られて、車椅子に乗ってもらい司令部へと連れてきたが、若様の話の内容は私としても信じられないものであった。

 

「まずマリーさん達の身体を動かしているのは地球の意思と呼べる存在です」

 

「は……は? えっとすまない、長久君。どういう意味なのか理解出来ない、地球に意思があると言うのかね?」

 

「はい、地球には2種類の意識があるとされます。1つは人類を守る為の意思、もう1つは星、つまり地球を守る為の意思、恐らくマリーさん達の中に入っているのは地球が自分を守りたいと願う意思そのものです」

 

悪魔でも天使でもないというのは私も感じていたが、まさか地球の意思とは思っても見なかった。

 

「な、なんで地球が俺達を敵視するんだ? マリー達の言い分だと悪魔を認めているようなものじゃないか」

 

信じられない、いや信じたくないのだろう。ウルフが違うと言ってくれと言わんばかりの縋りつくような視線を若様へと向ける。

 

「このまま人間が繁栄すれば自分が滅びる。限界寸前まで追詰められた地球の自浄作用……恐らくそれがシュバルツバース。1度全てを滅ぼして全てをリセットする……それが地球の出した答えであり、マリーさん達はその端末となっているのだと思います」

 

自分達の行いが自分達に帰ってきた。それはシュバツルバースの調査の中で何度も語られて来たことだが、こうして改めて言われると立っているのも辛いほどの衝撃を受ける。

 

「ですが、そう絶望する事もありません。地球意思が目覚めた、これは確かに最悪ではありますが、最良でもあります」

 

「……地球の意思は俺達人類を滅ぼそうとしているのになんで最良なんていえるんだ?」

 

掠れて消えそうな声でカトーが若様へそう問いかけ、若様が口を開く前にゴア隊長が顔を上げた。

 

「今目覚めているのは星を守ろうとしている意思、なら人類を守る意思を目覚めさせれば良い!」

 

「そう、その通りです。ゴア隊長、あの地球意思はこう言いました。再び答えを見出した時に会おうぞと、地球意思は僕達を見ている。なら僕達の行動を見てまだ人間も捨てたものじゃないと思わせる事が出来れば……」

 

「新しい道が出来るというわけですね、若様」

 

「そう、その通りなんだ。澪、確かに状況は決して良いものじゃないです、でも地球意思が目覚めているという事は僕達にとっても好機であるのもまた事実なんです。確かに厳しい状況ではありますが、まだ絶望するに早いです、皆で協力し合って、そして地球に僕達人類を認めさせましょう!」

 

若様の言葉にも力が入り、そして若様の言葉を聞くに連れて絶望していた機動班の皆の目にも光が戻ってくる。

 

(やはり若様は人の上に立つべき人間だ)

 

この絶望的な状況の中でも僅かな希望を見つけ出し、その希望を皆に広げる事が出来る。そういわれると扇動と思う者もいるかもしれないが、若様はそれは全く違う力だ。

 

「まずはこのセクターを攻略する。全てはそこからです、ヒメネスさん達の取り憑いていた悪魔からある程度、このセクターの支配者の傾向が見て取れました、恐らくこのセクターの支配者は炎を扱うタイプの悪魔であり、そしてそこにデルファイナス稀症の凶暴性を付与し、冷静な判断をさせないことで戦闘手段を制限すると言う戦い方をする悪魔であると思います、必要な物は氷属性の魔法を使え、炎に強い悪魔、そして炎に強い耐性を持つ防具と氷で攻撃できる銃であると思います。フォルマ集めや悪魔との交渉も必要不可欠ですが……まずは皆で少し休む事にしませんか?」

 

悪魔のある程度の分析、そして必要な物を告げた所で若様が少しやすまないかとゴア隊長に提案する。

 

「確かに今まで休息などとっていなかったかな、良し、補給物資もある。現在時刻が17・15……20・00まで休息とする。羽目を外しすぎるなよ、我々にはまだやる事があるからな」

 

「「「了解!」」」

 

羽目を外しすぎるなよとゴア隊長が釘を刺すが、機動班の皆の顔は緩んでいて、ゴア隊長もやれやれと肩を竦めた後に振り返った。

 

「長久君、澪。2人もしっかりと休息を取るように、休息の後はまた働いてもらうからな? ただ今はそうだな、2人ともチョコレートを

食べ、そして身体を休めるように、では私も休息に入る。2000にまた会おう」

茶目っ気のある表情を浮かべて敬礼するゴア隊長に若様と共に敬礼する。

 

「では若様、まずは医務室へ戻りましょうか?」

 

「分かってる、分かってるよ。でも」

 

「たこ焼きも準備しますよ、行きましょう」

 

「ありがとう、澪。たこ焼き楽しみだなあ」

 

たこ焼きも準備すると言うと子供のような笑みを浮かべる若様に私も笑みを返しながら、私と若様は医務室へと向かうのだった……。

 

 

 

4周目の世界 滅びを求める地球意思 その28へ続く

 

 




地球意思は型月の設定から持って来たのでアラヤとガイアのイメージでお願いします。司令部クルー洗脳と思考誘導問題、正し、殆どは自前の選民しそうとしり、深い溜息のゴア隊長達と司令部と機動班クルーの亀裂の修復はまだまだ難しそうですね、次回はアスラとの戦闘開始までを書いて行こうと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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