4周目の世界 滅びを求める地球意思 その28
約3時間の休息を終えた俺達は再び司令部へと戻って来たが、当然ながら全員素面で酒を口にしている者は誰1人としていなかった。当然と言えば当然だ。これからまだ大作戦が残っているのに酔っ払っている馬鹿がいたら怒鳴り散らしていただろうから、そんな馬鹿がいなくてよかったと心からそう思う。
「合成食料じゃない生の肉は久しぶりだったな」
「美味すぎて身体が震えたぜ」
「違いねぇ、この作戦が終わった後は酒と一緒にやりたいね」
このセクターの支配者の悪魔が凄まじく強力な悪魔という事は皆知っている。再び全員戻れるという保証もない、だがだからこそ全員で戻って来てまた肉を食いながら酒で一杯やろうという何でもない話は戻ってくるという決意を寄り強くさせる。
「私は酒よりもジュースが良いわね。果実水ってあったかしら?」
俺達の話にゼレーニンが割り込んでくるが、その顔を見て俺達は驚いた。顔付きがまるで異なっていたからだ。
「なんだ、随分と良い女になったな?」
「頭の中がぼんやりしてる感覚が無くなったのよ。自分でも気付いてなかったけど、これが洗脳されてるあるいは、思考誘導されてるって事だったのね」
出発前の会議に参加していたゼレーニンに戻っており、しっかりと理知的な話を出来ているというのが俺にも分かった。
「あのクソ天使は?」
「長久に預けて完全に封印してもらったわ。変わりに地上から送られてきた悪魔をデモニカにインストールしたわ」
天使に拘っておらず、悪魔をインストールしたと憑き物が落ちたような顔で笑うゼレーニンだが、はいそうですかとそれを信用する事は出来ない。
「またおかしくなってたら撃つからな」
「それで良いわ。長久もいつまた洗脳状態に戻るか分からないけど、出来る限りの処置はするってしてくれたし、私が気付かないうちにおかしくなっていたら躊躇わなくて良いわ。撃って頂戴」
「そこまで覚悟が出来ているなら俺達は何も言わない。ヒメネスもそれで良いな?」
「マッキーとタイラーに任せるさ、俺は隊長でもなんでもないんでね」
それに長久がここに寄越したということは当面は問題ないという事で間違いないだろう。
「諸君、遅くなってすまない。長久君と話し合っていたのだが、我々は1度カリーナへと戻る事になる」
カリーナへ戻るというゴア隊長の決定に俺は首を傾げた。
「ボーティーズじゃなくてか? カリーナに何のようがあるんだ?」」
ボーティーズのミトラスからフォルマを買うなら納得できるのだが、あの豚野郎の住処のカリーナに何があるんだと尋ねる。
「カリーナでアイスベストとフロスト砲を交換してくれると言っていたジャックフロストがいたのでそれを交換しようと思っています」
「そんな悪魔いたのか?」
長久の説明を聞いても俺はそんなジャックフロストとは遭遇しておらず、誰が出会ったんだと尋ねる。
「俺だ。自分の家族が殺されたから、その悪魔に復讐する為にアイスベストが欲しいと言っていた。お礼に自分では使えない武器をくれるといっていたが、かなり強力そうな大砲だったぞ」
タイラーの説明を聞いて、それなら態々カリーナへ戻ると言うのも納得出来た。
「だけどよ、俺達はこのセクターの支配者に遭遇してない。予測だけで戦うのは無謀じゃないか?」
「ヒメネスさん。僕達はもう全員このセクターの支配者に出会っていますよ?」
「どういうことだ? それらしい悪魔は俺達は見ていないぞ?」
ミトラスにしろ、オーカスにしろ特別な悪魔の存在感と言うのはしっかりと覚えている。そんな存在感を持つ悪魔に出合った覚えは俺達にはなかった。
「セクターにあった。巨大な石像ですよ、覚えていませんか?」
巨大な石像……巨大な石像……そういえば確かにやけにでかい石像を見た覚えがあるが……。
「だがあれは悪魔じゃなかったぞ?」
「違うんです。あれがこのセクターの支配者、アスラなんです。ヒメネスさん達に寄生していた悪魔、あれはアスラが自分の身体を幾つも分離させて自分の存在を維持できる最小単位にまで自身をばらばらにした姿なんだと思います」
本当に俺達の理解を超えているなと思わず苦笑したが、長久の続く言葉に俺達は絶句する事になった。
「問題はアスラが並外れて強力な悪魔であると言う可能性です。アスラとは神と争い続ける神であり、現代でも信仰がある神なんです。つまりほぼ完全な姿の悪魔と言えます」
今まで戦ってきたモラクスやミトラスは信仰の末にその形を失い、悪魔になった元神ということは分かっていた。だがそれとは桁違いに協力だと長久に聞かされ、俺は勿論マッキーやタイラー達も顔が引きつったのが分かる。
「十分に対策を練ってからこのセクターの支配者であるアスラへと挑む。当面は装備の作成、悪魔の作成、そしてアナザーヒーロー達に託された武具を誰に渡すかを決める。1歩ずつ、確実に、そして少しずつ前へと進むぞ」
「「「了解!!」」」
俺達を同士討ちさせようとしたクソッタレの悪魔を倒すにはまず戦う為の武器を手にする事に異論などあるわけが無く、俺達は1度デルファイナスを後にし、カリーナへと向かうのだった……。
出来る限りの準備はしたつもりだ。カリーナのジャックフロストにアイスベストと交換でフロスト砲を貰い、火炎に耐性を持つ事の出来るロックベストもアスラとの戦いに挑むメンバー全員分準備する事が出来た。悪魔も火炎耐性を持つ悪魔と補助魔法やメディア・メディラマを使える回復と補助を担当する悪魔も準備で来たし、流石に全員分作成する事はMAGと悪魔の都合上出来なかったが、十分に切り札たる悪魔も準備出来た。
「頼りにしてるからね、頼むよ、じゃあくフロスト」
【ヒホホー! オイラに任せるホーッ!!】
ジャックフロスト、ランタン、インキュバスの3体を素材に作った黒くなったじゃあくフロストが2体。物理に耐性を持ち、火炎反射、氷結吸収、呪殺無効と優秀すぎる耐性に加えてブフダイン、マハムドオン、食いしばりと段違いに強力なスキルまで持ち合わせており、間違いなくアスラ戦で澪達の力になってくれると確信出来る悪魔だ。
【強敵との戦いならば我も文句はない。どのような敵と戦えるか楽しみだ】
「貴方が満足してくれる悪魔であると約束するよ、タケミナカタ」
両腕が無いが物理に秀でている鬼神タケミナカタ、これを澪、ヒメネスさん、ゴア隊長の3人に準備出来たのはかなり大きいと思う。それに攻撃手段は無いが、炎無効でいざと言う時の盾に出来るフェニックスもいる。
「良いかい、フェニックス、カラドリウス。僕が指示を出したら、それを皆に掛けるんだ。良いね?」
【クアーッ!】
【キュ!】
「よし、良い子だ。頼りにしているよ」
バガブーがアイテムを使えると聞いたのでしっかりと躾ければ悪魔もアイテムを使えると気付き、状態異常を回復させられるアムリタソーダとシャワーを持たしている。これで状態異常を付与されてもある程度は対策出来る筈だ。そしてアナザーヒーロー達から託された武具はMAGの都合上強力な悪魔を使役出来ないマッキーさんとタイラーさんに装備してもらった。
(悪魔は使役出来ないとしても、ゴア隊長達が召喚した悪魔もいる。何とかなる筈だ)
タケミナカタやフェニックスは召喚出来なかったが、それでも火炎反射のカラステングや、火炎耐性のハイピクシーや火の精霊のフレイミーズの使役は出来ているので主力として戦う事は出来なくともゴア隊長達の支援なら十分に出来る筈だ。
「ゴア隊長。こっちは準備できました」
「良し、突入するぞッ!」
石像を発見した場所へ突入すると、そこには無数の靄状の悪魔の姿があり、その部屋の中心の石像へと吸い込まれて行き、石像に色がつき、そしてその姿が悪魔へと変わる。
【我が虚像を悉く打ち破った人間、そして神子よ。その力を認め我との謁見を認めてやろう。我は……かつて人間共が「アスラ」と称し、畏敬をもって奉った天魔である】
やはり分かっていた事だが、アスラから感じるMAGは今まで戦ってきた悪魔と段違いだ。
「謁見ということは話をする気はあると言うことで良いのかな?」
【勿論だ。神子よ、我はミトラスのようにお前達に組する事は無いが、それでも互いの意思疎通は大事であると考える。我は貴様ら人間共に問う。何故この世界から逃げ出そうとばかりする? 貴様らがシュバルツバースと呼ぶこの世界は貴様らが現出させた世界だと言うのに、何故逃げようとする?】
分かっていた事だがやはりシュバルツバースは人間の業によって作られた。それを改めて指摘されるとやはり言葉に詰まる。
【……貴様らの霊は「美しいカタチ」とは程遠いッ! 私欲を貪り、この星を傷つけるッ! 低俗極まる霊だッ! 故にシュバルツバースが現れ、貴様らに試練を与えているのだッ! 我は貴様らの精神に入り込み互いに霊を研磨し合う機会を与えてやったのだ。だのに人間共は、逃げ出す事ばかりを考えるッ! 何故霊を磨かぬッ! 何故「美しく」なろうとしないのだ?】
アスラの言う美しいとは何かがやっと分かった。強く、己を磨き続ける立ち止まらない強い意志の力……それがアスラのいう美しさだったのだ。
「アスラ。お前は人間に強く、競い合い、この滅びに立ち向かって欲しいのか? その為の試練として僕達の前に立ち塞がっているのか?」
人間を愚かだと、低俗だというのならばアスラの力ならば俺達を殺す事なんて容易い筈だ。だがそれをせず、デルファイナス奇症として遠回りな手を使ったのは人間に試練を与えるためであったのかと問う。
「長久君、そんな物は試練ではない。人の手は傷つけるためだけではない、その手を取り合うためにあるのだ」
「ゴア隊長の言う通りよ。確かに世の中には悪い人間だっている。でも皆が平和を願って手を取り合えば、良い世界が作れる筈よッ! 争いで人間が良くなるなんてそんなの間違っているわッ!」
これがもしゼレーニンさんが操られていれば、あるいは洗脳されていれば規律・調和とでも言っただろうが、平和と手を取り合うのだといってくれた事に少し安堵する。
【平和だと!? 手を取り合うだと!? そんな言葉は戯れ言だッ! 我は貴様らが「古代」と呼ぶ頃より数千年の間この世を見てきた。その時代の人間の霊は「美しい」形だった。強者が民を統率し、民は強者を崇めながらも、自らの非力さを恥じる事は忘れず、己を磨き、弱者もまた強者に美しい形になろうと研鑽を忘れなかったッ! 古代の世界が「混沌」の中にあったからこそ、人間の霊は「美しい」形でいられたのだッ! 所が、何者かの入れ知恵で「規律」なぞという戯れ言が蔓延し、今では人間の霊は腐り切ってしまった。「規律」など、力無き者の慰みに他ならぬッ! 力無き者など死に絶えて然るべきだッ! この世界に「混沌」を齎し、人間の霊の劣化を止めなければならぬのだッ! そうする事で地球は再び「美しい」形へと戻る事が出来るのだッ!】
腕を振り上げ力強く演説するアスラにヒメネスさん達が何とも言えない表情を浮かべる。
「こいつの話はとんでもねぇ暴論だな」
「だが一部分だけは同意出来る部分もある。財や物を独占する者がいる。それは決して良いものだとはいえない」
特級階級の事を言うタイラーさんの事も分かる。今の地球でも一部の富裕層は贅沢な暮らしをし、食に困るものもいない。それ所か食べきれないほどの料理を作り、それを捨てる事を娯楽としているとまで言える。
「アスラよ、お前の言う事も分かる。お前の言葉は1つの道理である」
「……そんなゴア隊長ッ!?」
アスラの弁を認めるような事をいうゴア隊長にゼレーニンさんが詰め寄るが、ゴア隊長はそれを手で制した。
「だが我らは人間である。言葉を交わし、その手を取り合う事が出来る人間だ。争うだけではなく、言葉で分かり合うことも出来る。お前の言う美しい世界は今の人間には必要のない間違った世界だッ!!」
ゴア隊長の言葉にアスラはその顔を怒りの表情を浮かべ、地面を強く踏みしめた。
【何故分からないッ!! 地球が醜くなったのは人間の霊が文明に現を抜かし、腐り始めたからだッ! 故に我らが遣わされた!「地球の意志」にッ! 再び混沌をッ! 力を呼び戻す為にッ! 間違いなどないッ! 我らは強く……そして美しいッ!……ここまで言うて神子お前には分からぬか? 何もせず、その身の霊も、地上も、腐りゆくのを眺めるのか…? 人間の霊が衰えゆくを見過ごすのか……? 世を正す立場でありながら何故我らと対峙するッ!】
何故か感じていた懐かしさ……その正体は恐らくアスラの言う通り、俺の魂の形がアスラの語る美しい世界を知っているからだろう。もしも本当の意味でこの身体の持ち主が峰津院長久だったのならば、アスラの言葉に賛同していたかもしれない。だけど俺は道睦長久は決してアスラの言葉に賛同することはない。
「人は強さを忘れ、弱くなり、そして地球を汚し、滅びを導いた。だがそれで終わりじゃない、終わりじゃないんだ。アスラ。人間はやり直せる、まだ前へ進む事が出来る。後へ進むのではなく、前へ進む事が出来るんだよ。そして前へ進む中で再生は始るんだ」
アスラのいう美しい世界は過去へと向かう事だ。だが人間の道は後ではなく、前へと進み新しい世界を、再生を行なうことが出来るのだ。
【神子、お前には落胆したぞ、再生を始めた等と嘘と吐きおっては我も見過ごせぬなッ! それとも……お前が信じる者達に我を打ち負かすほどの霊の力があるとでも……ッ!? ならば来るがいいッ! 美しさの何たるかを知らせてやろうぞ!】
「すいません、ゴア隊長。皆、アスラを怒らせてしまったみたいです」
「良いや、良い言葉だった。そう人間は前へ進む事が出来る、そして過ちを糧に前に進む事が出来るんだ」
「ああ、お前がもう少し大人だったらゴア隊長の次くらいに尊敬してたぜ」
「いいや、ゴア隊長に匹敵するさ。安心しろ、俺が保障してやる、お前は立派だぜ、長久」
「さぁて、ここからは大人の時間だ。長久は離れてな、行くぜ澪」
「ええ、若様。後は私達にお任せください」
俺に出来る事はもう殆どない後はゴア隊長達がアスラに勝つことを信じて待つしかない。
「僕は皆が負けるなんて思ってないよ。みんなでレッドスプライト号。きっちムッチーノさんがご馳走を作って待ってるよ」
だから敢えて軽口を叩き、おうっと言う言葉と共に仲魔と共にアスラに挑みかかっていくゴア隊長達の背中を見送るのだった……。
4周目の世界 滅びを求める地球意思 その29へ続く
次回からアスラ戦ですが、じゃあくフロスト×2とかフェニックスとか火炎耐性カチカチですが、今作のアスラは少し一味違う感じにして見たいと思いますのでどんな戦いになるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。