4周目の世界 滅びを求める地球意思 その29
モラクス、ミトラス、オーカス。それらは皆没落した神である。かつては異なる姿と神格を有していたが歴史の間でその存在を歪められた神である。キリスト教が悪いとは言わないが、キリスト教によって多くの神が悪魔や邪神へと陥れられたとされる。だがそれでもかつては強大な神格を持っていたので、陥れられてもその力は強大だ。そしてアスラは陥れられた神ではなく、元々が強大な神であり、神と対立する神であり、その源流はインドにあるが日本でも二十八部衆として仏教において仏法を守護する神であり、日本では阿修羅、修羅と呼ばれる……つまり何が言いたいかと言うと現在の地球でも信仰されているアスラはモラクス達とは比べ物にならない巨大な力を秘めた悪魔ということだ。
【お前達の魂の形は美しくないッ! まずは美しくしてやろうではないかッ!】
【アスラローガ】
アスラの身体から赤黒いMAGが放たれ、ゴア隊長達を飲み込むのを見て不味いと思った時にはもう遅かった。
「うぐぐ、おおおおおおッ!!!」
「ふうーッ!! ふうーッチ!!」
獣のようなゴア隊長達の声が聞こえてきた瞬間俺は指笛を吹いた。ノーモーションでデルファイナス奇症……凶暴化と呼ぶべき状態を撒き散らす事が出来るとは想定していなかった。念の為の備えをいきなり切る事になったがそれでも俺の備えは間違いでは無かったのだ。
【【【きゅーッ!!】】】
フェニックス、カラドリウス達がゴア隊長達の頭上を旋回し足に括りつけていたアムリタをぶちまける。
【折角美しい形にしてやったというのに……だがまぁ良い。我の敵である事は変わらない、骨すら残さず燃え尽きるが良いッ!!】
【火炎ブースタ】【マハラギダイン】
アスラの複数の腕から凄まじい業火が放たれ、ゴア隊長達を飲み込まんと迫る。
「じゃあくフロストお願いしますッ!!」
【【任せるホーッ!!!】】
前後不左右になっているゴア隊長に変わって澪が指示を出し、じゃあくフロストが両手を広げて仁王立ちしマハラギダインを吸収する。
「何が……」
「デルファイナス奇症ですッ! アスラから赤黒いMAGが放たれたら身を固めてください! 何回も防げませんよッ!」
「了解したッ!!」
フェニックスの持っていたアムリタはもう使ってしまった。カラドリウスが持っているアムリタはまだ残っているし、カラドリウス自身もアムリタは使える。だが消費するMAGを考えると乱用は出来ない、だが仮に十分なMAGがあったとしても不安は残る。
(今の……こちらの手札を確かめて来たな)
ゴア隊長達が凶暴化してからマハラギダインを放つまで大分ラグが合った。凶暴化させる魔法を発動させてもアスラのMAGに減退は見られ無かった事を見るとまず間違いなく今のは様子見だ。
(まだアスラには手札があると見て良い)
神と対立する神だ。その戦闘経験は勿論アスラ自身の戦闘力も群を抜いていると見て間違いない……恐らく1つの判断ミスが容易にゴア隊長達の命を刈り取ってしまう。
(次は何だ? 何をしてくる……考えろ、考えるんだ)
数の利は何の意味もない、そもそもがアスラは乱戦に慣れていると見て良い、マハラギダインを初手で使ってきたが恐らく物理攻撃にも秀でている。
(絡め手が出来て、広域攻撃と強力な物理……そしてその思想……)
そこまで考えた所で俺の脳裏に前世の死因である腐れ骸骨の姿が過ぎった。この状況で思い出したくない奴の顔であったが、奴を思い出した事で今の状況が不味いという事に気付く事が出来た。
「いけないッ! 皆下がってッ!」
もしもアスラとあの腐れ骸骨……いや、マタドールと同じタイプの悪魔ならば間違いなく次の一手は決まっている。
【小細工など捨てて己の力だけで掛かって来るが良いッ!】
【デカジャ】
アスラの突き出した右手から放たれた不可視の波動がゴア隊長達を包み込み、目に見えてゴア隊長達の動きが鈍くなった。
「ラクカジャをッ! ラクカジャを使うんだッ!!」
俺が声を張り上げるとアメノウズメとフレイミーズがラクカジャを唱えてくれたが、ラクカジャを使える悪魔6体の内、ラクカジャを唱えてくれたのはたったの2体だった。
【見るが良い、我が力をッ!!】
【物理ブースタ】【阿修羅】
アスラの6つの腕が唸りを上げ、ゴア隊長達を打ち据えゴア隊長達がボールのように吹っ飛んだのを見て俺の口からは悲鳴が出たが、吹っ飛ばされたゴア隊長達がすぐ体勢を立て直すのを見て、自分がやるべき事は、悲鳴をあげる事ではないと気付いた。
「アメノウズメ! メディラマッ! それとネコマタはスクカジャを!」
【分かったわ!】
【任せるニャーッ!!】
デカジャを使えると分かった以上補助魔法に頼り切るのは危険だ。だが補助魔法が無ければアスラの強烈な攻撃を凌ぎきれない、安全マージンを確保しながら持久戦を挑みたいが凶暴化の魔法を使ってくるアスラを相手に持久戦は不得手だ。
「考えろ、考えるんだ」
圧倒的な力を持ちながら絡め手も使いこなすアスラを短期決戦で撃破する……余りにも絶望的な勝利条件に今までと異なり、まるで勝ち筋が見えない状況をどうやって打破するかと考えるが、アスラの手札が何一つ明らかになっておらず、アスラという神格を持つ悪魔の経歴を生半可な策など力づくで突破されるのが目に見えていて……破られると分かっていても補助魔法を使うように言う事しか出来ないのだった……。
凄まじい轟音を立ててアスラの丸太のような腕がほんの数秒前まで私のいた所に叩きつけられ、拳がめり込んだ場所が蜘蛛の巣状のクレーターを作り出すのを横目にフロスト砲を構え豪氷撃を地面にめり込んだままのアスラの腕に向かって発射する。
【効かんッ!!】
アスラが腕の筋肉を隆起させ、たったそれだけで弾丸は弾き落とされる。冷気はアスラを襲うがデビルCO-OPが発動する気配はない。
「ちいっ! どうなってるッ! さっき1度デビルCO-OP発動しただろう!? なんで氷結が効かないッ!」
タイラーがいらだった様子で叫ぶ、補助魔法とデビルCO-OPは私達の戦略の基盤と言えるものだった。それが両方とも効力を発揮しないということに焦る気持ちは分かる。
「落ち着いてください、オーカスと同じですよ。何らかのスキルで氷結弱点を無効にしてるんでしょう」
壁系のスキルは悪魔の弱点を無効化してくれる有効なバリアだ。オーカスが使えるのだからアスラが使えるのも不思議は無いが……。
「長久ぁ! あいつのバリア何とかできるか!?」
ヒメネスがそう叫ぶと若様は両手で×マークを作り、首を左右に振った。
「どうやら壁系の魔法ではないようだな」
「そのようですね、となれば我々に出来るのは……正面からの真っ向勝負だけですか」
強化魔法はデカジャで、弱体化魔法はデクンダで無効化され、デビルCO-OPも発動が不安定とアスラとの戦いは終始劣勢を強いられていた。
「皆気をつけて!」
若様が気をつけろと大声を張り上げるのを聞いて仲魔から距離を取り身を固める。
【アスラローガ】
アスラの身体から噴出した赤いMAGが周囲を包み込む……今回私は狂気に囚われなかったのでポーチからアムリタシャワーを取り出してそれをぶちまける。
【うおおおお……む? サマナー?】
「タケミカヅチ! 両腕落としをッ!」
「じゃあくフロストッ! ブフダインだッ!!」
【りょ、了解ホーッ!!】
タケミカヅチがアスラの伸ばされた腕を攻撃し、ブフダインがアスラを飲み込むとデビルCO-OPの不可視の打撃がアスラを打ち据えた。
「こ、今度は通ったのか!? 澪、ゴア隊長。なにしたんだ!?」
アムリタシャワーで正気に戻ったヒメネスが何をしたのかと尋ねてくるが、私もゴア隊長も狂気に囚われなかったのでアムリタシャワーを使い、攻撃を攻撃を指示しただけ……そこまで考えた所で私の脳裏にある考えが過ぎった。
「ゴア隊長。アスラの守りのからくりが分かったかもしれません」
「奇遇だな、私もだ」
凶暴化させるMAGを放出してから短時間の間だけアスラの氷結耐性は消え去り、弱点として露呈する。だがそのタイミングはとてもシビアだ。事実視界の隅でマッキーとタイラーが氷結弾を発射したが、デビルCO-OPは発動しなかった。
(文章通信で連絡する。声に出すなよ、澪)
(了解です)
言葉にすればアスラに別の行動を誘発させかねない。付け加えればデビルCO-OPが発動し、アスラにダメージを与えてもアスラはピンピンしている。
(まだ何かカラクリがあるのかもしれない)
アスラは神々に対立する悪神……今まで倒してきた悪魔とは異なり戦う逸話を多く持つ悪魔だ。モラクスやオーカスとは違う何かを隠している可能性は十分にある。
【我が炎を喰らうが良いッ!!】
【地獄の業火】
アスラの6本の腕から同時に放たれた業火をじゃあくフロストの後ろに隠れて防ごうとした瞬間じゃあくフロストの巨体が吹っ飛び、私は炎に飲み込まれた。だが火炎耐性を持つロックベストのおかげで致命傷は免れたがロックベストから煙が上がっているのを見て私は顔を歪めた。今まではロックベストでダメージの大半を押さえ込む事が出来ていたが、今の炎はロックベストの耐性を「貫通」してきた。
「これは厳しくなってきましたね……」
補助魔法が無効化される中でロックベストなどの装備によるダメージ軽減は私達の生命線だった。だがその生命線の1つが今破られてしまい、私の額から冷たい汗が流れ落ちるのだった……。
じゃあくフロストとフェニックスはアスラの強力な業火を防ぐ我々の生命線だった。だがその生命線の1つであるフェニックスが目の前でMAGの光に分解されていく姿は流石の私も肝を冷やした。
「貫通って奴かッ! なんで今まで使って来なかったんだ!?」
「多分使わないんじゃなくて使えなかったんだわッ! 多分何か、何か条件があるのよッ!」
自分も炎にまかれながらも、いや炎に飲まれたからこそ今までとは何か違うとゼレーニンは気付く事が出来たようだ。
「タケミカヅチ! 鬼神楽だッ!!」
「強烈な一撃を頼むぜッ! 鬼神楽ッ!」
ヒメネスとマッキーの指示でタケミカヅチがアスラへ強烈な一撃を叩き込み、アスラの巨体が大きくよろめいた。
「澪! タイラーッ!」
今がチャンスだと思い澪とタイラーと共に追撃に出た瞬間。横殴りの一撃を叩き込まれ背中から私はデルファイナスの壁に叩きつけられていた。
「がはっ!?」
「ぐうう……今のは効いた……」
「な……何が……」
アスラはよろめいていて反撃出来る態勢に無かった。私達が何に攻撃を受けたのか困惑しているとタケミカヅチが獣のような唸り声を上げヒメネスとミッキーに襲い掛かっていた。その角がヒメネスに当る前にバガブーがアムリタを掛けてタケミカヅチを正気に戻した。
【む……何が】
「何がはこっちの台詞だぞっ!? どうしたんだタケミカヅチ」
アスラからは赤いMAGは放出されていなかった。では何故タケミカヅチが凶暴化したのかが理解出来なかった。
【このや……ヒ、ヒホオオオオオオッ!】
【ど、どうし……ヒホーホーーーーッ!!】
アスラに攻撃を仕掛けようとしていたじゃあくフロストが凶暴化し、2体のじゃあくフロストが広げた手の間にどす黒いMAGの光が宿るのを見て、私は咄嗟にポーチに手を伸ばすのと、私とじゃあくフロスト達の間に鳥の式神が割って入ったのは全く同じタイミングだった。
【【マハムドオン】】
『テトラジャストーン』
「渇ッ!!」
テトラジャストーンから放たれた光と式神の口から放たれた光が私達を飲み込もうとしていた即死の光を逸らしたが、フレイミーズやカラドリウス、そしてゼレーニンを庇ったタケミカヅチの姿が黒いMAGの光に飲み込まれて消え去ったが、その間にカラドリウスがアムリタを掛けてじゃあくフロストを正気に戻し、2度目のマハムドオンを防ぐ事が出来たがさっきのじゃあくフロストの行動が私達に衝撃を与えていた。
「凶暴化しているのに魔法を使ってきたぞ!?」
「こ、これはどういうことだ!?」
今までと違う行動に私達が驚愕しているとバギーの近くにいた長久君が声を上げた。
「近づかないでください! アスラは凶暴化する魔法をまとって自分を強化してますッ! 近づいたら操られてしまいますッ!」
今まで放出していた凶暴化の魔法を身に纏って強化しており、近づけば操られる……。
「これで白兵戦まで禁じられたかッ!」
白兵戦を封じられ、切り札である義経と大国主も使えなくなった。まるでチェスのようにじわじわとしかし確実に手札を奪われていく、流石の長久君もこの状況を打破する手段はないのか悪魔への指示に留まっている。
「これが高位の悪魔と戦うと言うことか……」
「ここまでとはな」
今までだって高位と戦ってきた、だがアスラはそれを完全に上回っていた。
「大丈夫です。ゴア隊長、私に良い考えがあります」
「ゼレーニン? こんな状況で冗談はやめろよ」
「お生憎様ね、ヒメネス。こんな状況で冗談なんか言わないわ」
「聞かせてくれ、ゼレーニン。君は何を思いついたんだ?」
この状況では少しでも勝てる可能性を増やしたい、だからゼレーニンに何を思いついたのかと問いかけるとゼレーニンは科学を持ってアスラを打倒すると自信満々の表情を浮かべ、思いついた作戦を私達に伝えてきた。
「……そんな事出来るのか?」
『いや、流石に僕も分かりませんよ?』
長久君もゼレーニンの作戦にはためらいを覚えたようだが、それでも現段階で勝てる手段が無いのならば、駄目元でゼレーニンの作戦に乗ってみる価値はあると考え、私はゼレーニンの作戦を実行する事を決断するのだった……。
ゴア達が考えているよりもアスラには実質余裕は無かった。それは長久が戦場にいる事が大きく関係していた。長久を殺す訳には行かないアスラは長久を巻き込まないように立ち回る必要があった。神子である長久を狂気に落とすのもより高位な、別次元の神を呼び寄せる事に繋がりかねないのでアスラローガを使うタイミングも図る必要があった。
【だがそれもこれで終わる】
【コンセントレイト】
ゴア達が作戦会議をしている間に集中力を高め、魔法の威力を倍以上に跳ね上げるコンセントレイトを使用したアスラは勝利を確信していた。補助魔法を無効化し、アスラローガを警戒させ、そして今は白兵戦を封じ込め、ゴア達の攻撃を少しずつ、しかし確実に奪った。アスラローガの脅威を知る人間達は目の前で操られたじゃあくフロストを見てもう1度接近して来る事はないとアスラは考えていた。
(神子を連れて帰れば全てが終わる)
神子が母の下に行けば全てが終わる。耐え難い屈辱の日々が終わるのだとアスラは獰猛な笑みを浮かべ、6本の腕の手の平を全て開いた。
【我が業火によって燃え尽きるが良い、人間達よッ!!】
【極炎の闇】
地獄の業火の非ではない、アスラが扱える最大の威力を持つ炎を打ち出そうとした瞬間銃声が響き、アスラの6本の腕の内4本が吹き飛んだ。
【がッ!? がああああああッ!?】
銃を豆鉄砲と侮っていたアスラは想像もしていなかった痛みに絶叫し、コンセントレイトは途絶え、極炎の闇は明後日の方角へ炸裂した。
「確かに悪魔の力は強大だわ。だけど人間には科学と言う武器があるのよ」
ゼレーニンの策は極めて単純だった。アスラが炎を扱う時、必ず手の平から炎が放たれる。そしてその炎は球状から始まると戦いの中でもゼレーニンはアスラの行動を観察し続けた。悪魔との戦いは素人であったとしてもゴア達は国連が選んだエリート兵士達であり、アスラの手の平に発生した火球に氷結弾を当てる事なんて朝飯前だ。MAGによって冷やされた銃弾と極炎の闇がぶつかりあい、その温度差によって水蒸気爆発を発生させる。その爆発によってアスラの腕は根元から吹き飛んだのだ。
「これは流石に僕は思いつきませんよ」
「でしょう? これでも私科学者なのよ。とはいえ、水蒸気爆発を発生させれるかどうかは賭けだったけどね」
4本の腕を失い、アスラローガを発動させる余力も、それを身に纏う事も出来ないアスラに飛び掛った義経の刀の一閃がアスラの3つの頭を一太刀で跳ね飛ばし、腕と頭部を失ったアスラの巨体は膝を付いて倒れMAGを放出しながら消滅する。
「よっしゃああッ!! 最初は上手く行くのかよって思ったがなんにせよ成功してよかったぜ!」
「ええ、確かにそうですね。しかしまさかこんな方法で勝てるとは……1回粉塵爆発とかも実験してみますか?」
「悪くないな、攻撃手段が増える上に悪魔とは言え生物だ。それを突いた戦い方というのも悪くないな。だがまずは皆ご苦労だった! このセクターの支配者アスラの討伐、そしてロゼッタ物質の確保は成功した。これよりレッドスプライト号へ帰還する!」
「「「了解ッ!」」」
こうして天魔アスラの撃破は成し遂げられた。だが長久の表情は暗かった……何故ならば……。
(聞こえる。死神の足音が大分近いな)
アスラを倒した瞬間に大きく脳内に響き出した死神の足音に己の死が近い事を悟ってしまったのだ。
「どうかしましたか? 若様」
「ううん、なんでもない。レッドスプライト号へ戻ろう澪」
分かっているのだ。自分の死はもう避けられないと、だから生きることが出来る間は、まだ生きていられる時間を大切にしたい。
必ず失われると分かっているから、目の前にあるなんでもない日常が宝物であるという事を俺/僕は知っているから……。
4周目の世界 滅びを求める地球意思 その30へ続く
と言う訳でアスラ戦はこれにて終了、次回はシナリオデモを挟み4週目のラストに向けていこうと思います。つまりジャック部隊って事ですね、この周回での長久の死因がついに出てくる感じにしたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。