収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

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4周目の世界 滅びを求める地球意思 その30

4周目の世界 滅びを求める地球意思 その30

 

合同会議本部局長であるノーマンは深い溜息と共に掛けていた眼鏡を外し、目を揉み解した。シュバルツバースから出現した悪魔により地上の悪魔が活性化し、爆発的に伸びていく被害、滅びる都市……そして広がるシュバルツバースと解決出来ない問題が山積みだった。

 

「夜分失礼します、局長に内密にお伝えしたい話があります」

 

自分の部屋に響いた年若い青年の声にノーマンは眼鏡を掛け、懐に手を伸ばしたが月明かりに照らされる大和の姿に抜き放とうとした拳銃を懐へ戻した。

 

「……大和? いつの間に私の部屋へ……いや、君の事だ。何が出来ても不思議ではないが、何故私の私室に来たのだね?」

 

言外に本部で話せば良いだろうというノーマンに大和は首を左右に振った。

 

「合同本部に内通者がいるのです。こちらを」

 

大和が差し出してきた便箋を受け取ったノーマンはその封を見て顔を歪めた。国連のマークが消され、その下に熊のマーク。それが何を意味するか分からないほどノーマンは無知ではなかった。

 

「ジャック部隊か」

 

「はい、どうもレッドスプライト号を始めとした万能舟を開発した企業が内密にもう1隻建造していたようです」

 

大和が差し出した写真には黒塗りのレッドスプライト号の同型機の写真と黒いデモニカスーツがハンガーに固定されている光景が写されていた。

 

「シュバルツバースを資材としか思っていないのかあの連中は……ッ」

 

シュバルツバースを危険な場所ではなく、資材の宝庫としか思っていないのかとノーマンは握り拳を作る。

 

「問題は既にこの舟は出発してしまっているのです。私も後手に回ってしまった様で申し訳ありません」

 

「いやいやかまわん。よく気付いてくれた。しかしジャック部隊がシュバルツバースへ向かうのは不味いな」

 

レッドスプライト号からの情報でジャック部隊の乗るライトニング号はデルファイナスまでは到達できる。それはレッドスプライト号のクルーとジャック部隊がぶつかり合う事を意味していた。

 

「ノーマン局長。私もシュバルツバースへ向かいます。レッドスプライト号には私の弟がいます、弟の協力があれば私1人ならレッドスプライト号へ移動できます」

 

大和の顔を見たノーマンは説得する事を諦めた。大和は既に覚悟を決めた顔をしていた、その顔を見れば何を言っても無駄だと一目で理解出来たからだ。

 

「都は残ってくれるのだね?」

 

「はい、後の事は都に任せています」

 

「分かった。君の好きにするが良い、地上は我々で何とかしよう」

 

「ありがとうございます。局長」

 

深く一礼し大和はその姿を消し、1人残されたノーマンは大和が残した便箋に記されているジャック部隊を送り込んだであろう富豪や企業のリストを見てその目を鋭くさせる。

 

「どうやらまだ休んでいる時間はないようだ」

 

第二、第三の敵対者が送り込まれる前に、このような状況になってもなお私腹を肥やそうとしている者達が善良に生きている者達を苦しめる前にと強い決意を持ってノーマンは休む為に入った筈の私室の机の上にノートパソコンを出し、これ以上好き勝手にはさせまいと動き出す。確かにこの世界は荒廃し、人の心も荒みきっている……だが全てが全てそうではなく、少しでも世界を良くしようと、この滅びへ向かう世界を何とかしようと動く者は確かにまだ存在している、だがそれを上回る悪意が今の地上を埋め尽くしているのだった……。

 

 

 

 

アスラ討伐を祝って地上から送られてきた物資で久しぶりに合成食品ではない、生の食材に舌鼓を打つ私達機動班の中にも数人の司令部クルーの姿があった。

 

「なんかこう夢から覚めたみたいな感じだ」

 

「うん。なんかずっとボーっとしてたのよね……」

 

「俺は映画を見てるような感じだったな……みんなには本当に申し訳無い事をした」

 

ゼレーニンの洗脳疑惑から調査を行った結果司令部クルーの4割はゼレーニンと同じ状態だった。では残りの6割はと言うと……。

 

「まさかメシア教徒が食い込んできているとは思わなかったね、澪」

 

「はい、事前調査は行なわれていた筈なんですが……これには驚きました」

 

司令部クルーの半分以上がメシア教徒で天使エンジェルを所持していた。シュバルツバースに来てから何らかの方法でエンジェルを召喚したと思われるが、それでもこれは想定外だった。

 

「飯が不味くなる話は止めろよ。ほれ、長久。しっかり食え」

 

何故メシア教徒が紛れ込んでいたのかと若様と話をしているとヒメネスが私と若様の机に料理をおき、バガブーが運んで来た椅子を置いてどっかりと腰を下ろした。

 

【バガブ!】

 

「これが美味しかったのかな? ありがとうバガブー。君は優しいね」

 

【ぶ、ぶう~】

 

「ははッ! こいつ照れてるぜッ!!」

 

ヒメネスが上機嫌に笑いながら私にワインの瓶を差し出してきた。若様がいるので我慢していたが、上質な肉を食べているのだからワインが欲しいと思っていた。それを知って持って来てくれたヒメネスのにやりとした笑みに私も笑みを浮かべた。

 

「行ける口か? 澪」

 

「嗜む程度には」

 

「OK。年代もんだ、大事に飲めよ」

 

グラスに注がれた赤ワインの香りを嗅ぐと思わず溜息が零れた。

 

「確かに上物ですね。大和様達には感謝しなければいけません」

 

送られてきた物資には合同本部でも手に入らない生の食材が多数用意されていた。これを準備してくれた大和様と都様には感謝しかない。

 

「大和兄さんと都姉さんはすこし過保護だから」

 

「良いじゃねえか、兄貴と姉貴がそれだけ心配してくれてんだ。良い事だ」

 

ぐりぐりと若様の頭を撫でながらヒメネスは牛肉の塊に齧りついた。

 

「うっめえなあ、ベーコンとかハムとかと全然違うぜ」

 

「当たり前よ。長久、こっちの魚も美味しいわよ」

 

そう笑いながらゼレーニンまでが私達の机にやって来て料理を置くと小さな瓶を取り出した。

 

「ジュースがあったわ。長久にはこっちの方が良いんじゃない?」

 

「わぁ、ありがとうございます」

 

「私も探していたんですけど、どこにありました?」

 

「かなり隠されてたわね。ムッチーノが見つけておいておいたそうよ」

 

今鉄板の上で肉や魚を焼いているムッチーノに視線を向けるとムッチーノは小さくウィンクをして声を張り上げた。

 

「さぁお肉が焼けましたよー! 長久に感謝していただきましょうか」

 

「「「「おおおおッ!!!」」」」

 

野太い歓声が響き若様に敬礼した後に鉄板へと群がる機動班には流石の私も苦笑する。

 

「俺も行ってくるか、ちゃんと全員分とって来るから待ってな」

 

ヒメネスがそう言って席を立ったが、ヒメネスが歩き出す前にゴア隊長の声がした。

 

「その必要はない、私が持って来たからな」

 

ゴア隊長が態々全員分の料理を持って来たのを見て私達の間に冷たい緊張が走った。

 

「あ、美味しい。うん、バガブー。これ美味しいよ」

 

【ブウー! おいし、おいしいねッ!】

 

「うん。おいしおいし」

 

そんな私達の後ろでバガブーと若様のやり取りはとてもほのぼのとしていたりする……。

 

 

 

 

 

牛肉に魚に少量だが新鮮なサラダ。今の情勢では口にするのは勿論、見るのも困難な食材で腹を満たした後に私は話を切り出した。

 

「長久君。次のセクター……エリダヌスについてだが、どう思う?」

 

「正直に言いますと僕がいることで危険性が跳ね上がっていると言って良いでしょう」

 

長久君が居る事で危険度が跳ね上がっていると聞いて澪達も手を止めた。

 

「若様、それはどういう意味ですか?」

 

「神子である僕の価値を理解している悪魔がアスラだった。次のセクターの支配者の悪魔がそれを理解していないとは思えないんだ。僕が

神子であると言うこと、そして僕が皆に知恵を与えている事を前提にした悪魔が恐らく出てくると思います」

 

「すまないが、そもそも神子とはなんなのだ? 何故そこまで悪魔は神子に固執する?」

 

神子……長久君が特別な存在と言うのは分かっている。だがそれが何故特別なのかというのが分からない。神子とは何なのかと問うと長久君はうーんっと困ったように呻いた。

 

「なんだ? そんなに人に話せない内容なのか?」

 

「無理して話さなくても良いわよ?」

 

ヒメネスは勿論だが、洗脳が解けたことでゼレーニンも優しい言葉を長久君に掛ける。1度は壊滅しかけた調査隊だが、少しずつ正常になりつつあるようだ。

 

「神子っていうなら生贄……なんですよ。歳若く、清らかで、星の言葉に耳を傾ける事が出来る者……生きていても、死んでいても良い、

ただ僕が存在していれば良いんです。多分セクターの支配者が僕を望むのはシュバルツバースを固定するため、マンセマットが望むのは……」

 

「新しい世界を作るため?」

 

長久君の言葉を継いで澪がぼそりと呟き、私とヒメネス、そしてゼレーニンの視線が澪へと向けられる。

 

「多分そうだと思う。今の地球はシュバルツバースに傾いてる。それを自分達の世界に傾ける為にマンセマットは僕を求めているんだと思う」

 

「つまりなんだ……お前の存在が世界の方向性を決めるのか?」

 

「そこまでは……ただその方向に向かいやすくするといえば良いんですかね……?」

 

「指向性を持たせる?」

 

「そう、それ、多分それですゼレーニンさん。僕がシュバルツバースの支配者の一派に囚われれば多分シュバルツバースは一瞬で地球を覆うでしょう。天使に捕まれば司令部のクルーのような人間だけが認められる支配された世界になるでしょう」

 

「どちらもお断りだな、人間の世界は人間が決めるべきだ」

 

人間の求める世界は人間が決める。アスラの言う闘争の世界も、マンセマットの語る理想郷もそのどちらもお断りだ。

 

「俺もそう思うぜ。とにかく今まで以上に長久を守れば良いってこったろ?」

 

「ええ、その通りです。若様を狙っている勢力は多数あると思いますが、それでも私達ならば若様を守りぬけると思います」

 

長久君の価値というのは嫌だが、長久君を守るべき理由が増え、これからも長久君を守り続ける事を改めて決意した。

 

「……うん。澪もヒメネスさんもゼレーニンさんもゴア隊長も皆を僕は信じてる。きっと皆なら世界を救える」

 

私達の言葉と長久君の言葉がどこか噛み合っていないような気がした。まるで自分はそこにはいないと、自分の事を計算していないように思えたのだ。

 

「長久君「今度はケーキが焼けましたよー」澪、行こう。僕ケーキが食べたい」

 

「ええ、行きましょう。若様」

 

ケーキが焼けたというムッチーノの言葉に長久君と澪は席を立ってしまい、その言葉の真意を問いただす事は出来なかったが……私はあの時の消えてしまいそうな儚さを見せた長久君を見間違いだと思う事にしたのだが……それが間違いであったと、アレックスの言葉の真意を、そしてジャック部隊の悪辣さを知っていれば見間違いだ何て楽観視出来ないという事を分かっていたのに、深く追求しなかった己に酷く後悔する事になるのだった……。

 

 

「僕はずっと死を知っている。僕の生は死ぬ為の生、そして今生の命の終わりがまた来た。だけどただでは僕は死なない、僕には希望がある。きっと皆なら世界を、地球を救ってくれると信じている。だから僕は悲しむ事も、嘆く事も無く全てを託し、この命を終える事が出来る」

 

ジャック部隊の奇襲を受け倒れる私達の前で長久君は己の胸に短刀を突き立て、私達の悲鳴がエリダヌスへと響き渡る。

 

「……門を開こう……我が命と引き換えに……来たれ……我が写し身、我が分身、もう1人の我……ペ……ル……ソ……ナ……」

 

【我は汝、汝は我、数多の姿を持ち、数多の顔を持つ者……■■■なり……来たれ……我が運命の欠片……】

 

黒い靄が現れ、黒い光が眩い光を放つと2つの影が現れていた。

 

【我は汝、汝は我、我汝と共に永劫の時を歩む者……創造神……ズルワーンなり……】

 

【我は汝、汝は我、我汝と共に永劫の時を歩む者……帝都守護者……ライドウなり】

 

「幽子……千代子……ああ……覚えてる、覚えていたんだ……命の終わり、その時にだけ……思い出せていたんだ……僕はもうじき死ぬ……ただでは死なないよ……ジャック……僕の大事な者に手を出した……それ相応の罰を受けてもらう……」

 

「撤退! 撤退だああッ!!」

 

「……逃がしは……しないよ……」

 

【【メギドラオン】】

 

何処かへと引っ張られる感覚と共に私達の視界を虹色の輝きが埋め尽くした……。

 

 

 

 

 

4周目の世界 滅びを求める地球意思 その31へ続く

 

 




今回はインターミッションと今回の長久の最後の瞬間を少し出してみました。元の長久から託された術と死を受け入れろはペルソナ3式のペルソナ術(本当に死ぬ)でした。なので今回のラストは多分40~45話位になると思いますので、どんな結末が待っているのか楽しみにしていてください、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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