収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

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1周目の世界 孤独の女神 第5話

 

1周目の世界 孤独の女神 第5話

 

神聖でありながら邪悪な気配に満ちた純白の塔の最深部へ続く階段の前で幽子は最後の休息を取っていた。ここまで数多の悪魔を、あるいは神を、屠って来たからこそ幽子には分かるのだ――この先にこの塔を支配する悪魔がいる。

 

『主よ、この先に進んだとして貴女の望む物があるとは限らない。トートそしてイシスの力を借りて貴女が救いたい者を救うべきではないか?』

 

「アモン……それは出来ない話だ。仮に今トートとイシスの力を借りて長久を救ったとしよう。だがその先に待っているのは私の愚父による心休まる時もない逃走だ。私には力がいる、何もかも支配する力だ。だが私は権力などはいらない、私は長久さえいれば良い」

 

『主……私は貴女の力になれるとは限らないわよ』

 

『ワシもじゃ、全力は尽くす。じゃが……』

 

イシスもトートもこの強く、そして弱くもある幽子を心から助けたいと思っていた。己の封印を解いてくれただけではない、この気高く、そして憐れなほどに人を頼れず、己の力だけで生きねばならなかった幽子の力になりたいと心から思っていた。

 

『失敗した時の事なんか今から考えるべきじゃねぇぜッ! 失敗したら次だ。次を考えればいい、それで終わりじゃねえんだ。諦めねぇ限り道はあるッ!』

 

セベクの言葉は精神論であったが、確かにその言葉の中には幽子への信頼とそして親愛の情があった。

 

「その通りだ、セベク。諦めない限り、心が折れない限り私の道は途切れない。トートとイシスが駄目でも、この塔の力が、塔の力で駄目

ならばまた次を考えれば良い……私の心は決して折れない、あんな奴の思い通りになどなってやるものかッ」

王の気迫と今にも消えてしまいそうな儚さ、そして只1人の為に己がどれほど傷ついても歩みを止めない深い愛情をアモン達は好いていた。

 

『申し訳ありません。弱気になっておりました、この先の悪魔は強い……もしもの事を考えた愚かな私をお許しください』

 

「構わない、お前は私の事を思ってくれたのだろう。私が長久のもとへ帰れない可能性を危惧した、私と長久の事を思ってくれたお前の忠義に感謝する」

 

長い間共に歩んで来た。この地獄の様な塔を、人間では到底耐えれない地獄の底を共にアモンは歩んで来た。アモン達は人間ではない、だが人間の醜さをずっと見てきた幽子から見れば人間ではないアモン達の方がよっぽど清らかで信用出来る存在だった。

 

「行くぞ、この塔を支配する悪魔を倒し……私は何者にも屈しない力を手にするッ」

 

アモン達を引き連れ、幽子は天のバグスの最上階へ続く階段を登り――バグスを支配する神と対峙した。

 

『まさか魔王を力で退ける者がヒトから現れようとは……我は「時」を治める者――魔族の中からは時を越えようとする者が稀に現れる。アンリ・マンユもそうであった……そなたもアンリ・マンユと同じように私の次に時を支配しようと思っているのか?』

 

天のバグスの支配者であり、時を支配する神――ズルワーンの問いかけを幽子は鼻で笑った。

 

「時を支配する? そんな物は私にはどうでも良い。私は私の理解者を、私のただ1人の友を救う為にここに来た」

 

『時を支配する力はいらぬと申すか?』

 

「ああ、そんな物はいらない。だが貴様の力――そしてこの塔の力は私には必要だ。支配者の地位を退いてもらおうか」

 

『そうか……そなたは愛ゆえに我の前に立つか……ふふふ、よかろう。この神霊――ズルワーン。そう易々と討ち取られはせんぞッ!!』

 

時を支配する力を欲しているのではない、そんな物はあくまでついでだと言わんばかりの幽子の言葉にズルワーンは楽しげに笑った。

数千年に渡る時の中でこの場に現れた者は皆時を支配する力を求めてやって来た。だがそうではない、自分を愛する者を救う為に神の力などどうでも良い、あくまで友を救う為の過程にすぎないと言わんばかりの傲岸な態度をズルワーンは認め、幽子がこの力を手にするに相応しい相手かを見定める為に幽子達の前に立ち塞がった……。

 

 

『良き戦いであった。だが結果は変わらぬ、そう……私の勝利と言う結果はな』

 

【マハラギダイン】

 

ズルワーンと幽子達の戦いは熾烈を極めた、セベクが倒れ、トートが倒れ、そしてイシスも倒れた。だがズルワーンの身体もボロボロでMAGの放出が始まっていた。互いに後一撃で決着がつくと言う極限状態の中で先に動いたのはズルワーンだった。掲げられた両手から放たれた業火の帯――マハラギダインが幽子とアモンに迫る。

 

『まだ、まだ終わらないッ!! 主ッ!!』

 

だがアモンはいまにも消えそうな身体を気合で維持し、同じくボロボロの幽子を天へと投げ飛ばしマハラギダインの炎の帯から幽子を逃がし、自身はマハラギダインの炎の中に消える。

 

「アモンお前は本当に良く出来た仲魔だったッ!! ズルワーンッ!!! これでっ! 終わりだあああああッ!!」

 

『お、おおお……ッ!?』

 

アモンが投げ飛ばす瞬間に使ったタルカジャの光に包まれ、ズルワーンの頭に手にした祭器を全力で叩き付けた。

 

『は、はははは……ああ、清々しい、実に清々しい敗北だ……人の子よ、名を最後に聞かせてくれ』

 

「狭間、狭間幽子」

 

『そうか、幽子よ……お前の願いは……叶わぬ』

 

「敗者の戯言を言う為に私に名を聞いたのか?」

 

『違う……この時代で……2つの魂……時……輪廻……て……いる……お前が……求む者は……恐らく……世界……贄……で……』

 

最後まで言う事無くズルワーンの身体は崩れ果てた。最後まで幽子に同情するような声色を響かせて……。

 

「輪廻? 長久が輪廻に囚われていると言うのか? いや、そんな物は戯言だ。そうに違いない、私は力を手にする……この力で長久を救うんだ」

 

ズルワーンを倒すと共に現れた不思議な炎を灯した燭台に幽子は手を伸ばし塔の力を手にし、長久を救う為に病院へと転移をした。だが病院で待っていたのは自身の父による病院への圧力、そしてその病院への圧力に負け長久の延命を諦めた長久の両親――そして振られた幽子が腹いせに長久を突き飛ばし、長久を殺そうとしたと言う根も葉もない噂……。

 

「何故……何故だ、何故……目覚めてくれない……長久……ッ」

 

だが1番幽子の心を傷つけたのは目覚めない長久だった。悪魔の力、塔の力を持ってしても長久は救えなかった……絶望の中幽子の脳裏を過ぎったのはズルワーンの同情するような言葉だった。

 

「いいや……私は諦めないぞ、失敗したなら次だ。次がある、そうだろう……セベク、イシス、トート……アモン」

 

幽子の声に従がうようにその影が伸びてセベク達がその姿を現した。塔の力を得た幽子にとってCOMPは必要な物ではなかった。幽子にその意志があれば幽子の仲魔は即座に魔界から幽子のもとへと現れる。

 

「セベクとイシスは長久を塔へと運んでくれ、あそこが1番安全だ。トート、アモンは私と共に来い、私を陥れた者、そして愚父を殺す」

 

目覚めない長久、謂れのない誹謗中傷、そしてズルワーンの言葉――元々幽子には最早頼れる人間などいない、政治家の父はもっとも唾棄するべき存在であり、家を出て1度しか会いに来なかった母も、妹も頼るつもりは毛頭無かった。どんな手段をもってしても長久を救う事へと幽子の意識は切り替わった。この日狭間幽子という人間は死に、魔神皇ハザマが生まれた。

 

正史での狭間偉出夫は愛されない悲しみ、そして陰湿な虐めによって人を見限り、人を支配する者へと変わる事を望んだ狭間は人外へと至った。

 

だがこの世界での狭間幽子は己も理解していない執着にも似た愛をもって、己を理解し共に歩もうとしてくれた、あるいは共に歩んでくれる相手として選んだ男を救う為だけにその力を使う事を決めた……己の為にだけに力を使う者と愛の為に使う者。辿り着いた場所は同じでも、その強さには天と地ほどの差があるのだった……。

 

 

 

 

狭間幽子と言う少女の17年の人生は空虚で、そして怒りに満ちた悲しい時間だった。幼い頃に母と妹は家を追い出され、父には虐待に等しい英才教育を施され、食事や世話をする人間は金で雇われた家政婦で幽子の心に寄り添おうとはしなかった……そして美しく成長すれば政略結婚の駒として一回りも二回りも年齢の離れた男と食事をしろと命じられた。身体を許すことは無かったが……幽子の心は罅割れ、砕けていった……だが道睦長久と言う理解者を得た幽子の心は罅割れたままだが、その形を再び取り戻そうとしていた。その矢先に長久を失った幽子の心は歪んだ形でその心を取り戻す事になった。執着・依存――決して良い感情ではない、だがそれは唯一の理解者であり、共にありたいと思った人間に向けるにはある意味正しい感情とも言え、長久を救う為に何もかも捨てると言う覚悟を抱いた幽子を突き動かしている物であり――紛れも無く、長久への無償の愛であり、献身だった。

 

【お前達は愚か者だ。ノリオ、レイコよ。私は学校にいれば害することはないと何度も言った筈だ。それなのに私の前に立ち塞がり、あまつさえ我が僕のセベク達を殺してここまでやってきた……許されざる愚行である】

 

長久を守る為に、そして私の安息の時間を守る為にセベク、イシス、トート、アモンは階段の前に陣取り、誰も通れないように門番を務めていた。ノリオとレイコがこの場に現れたと言う事はセベク達が倒されたという事だ。

 

「だがお前はクラスメイトを、教師を殺しただろう! それを見てジッとしていられると思ってるのか!」

 

【ノリオ。私は確かに人を殺しただろう――それは認めよう。それを恐れてジッとしていられなかった……と言うのも分かる。だが良く考えてみるが良い……私が殺した者はどんな生徒だった?】

 

「……狭間先輩の悪い噂を流していた生徒……ッ」

 

【その通りだ。レイコよ、根も葉もない私が長久を殺そうとしたと言う噂を流しッ! あまつさえそれをTVや新聞記者に伝えッ! 孤立した私を強姦しようと下種な笑みを浮かべて寄って来た教師と男達ッ! そしてそれを見て楽しんでいた者達だッ! それらを殺して何が悪いッ! 先にやったのはあいつらだッ! やられたからやり返したッ! ただそれだけだッ!】

 

私の言葉にノリオとレイコは引き攣った声をあげ、その場で後ずさった。

 

【私が望んで議員の娘となったわけではない、天才児と呼ばれた訳ではない。持たぬ者は持つ者を妬む……それは私とて分かっている、だがな、ほんのささやかな――私の理解者である長久と共にいたいという事すら許されぬと言うのか? まだ生きているのに、死んでいるとされ殺されようとしている長久を助けようとして何が悪いッ!】

 

言葉もないノリオとレイコは顔を青褪めさせ、この部屋に踏み込んで来た時の闘志は既に消え去っていた……だがそれを見ても、私は何も感じなかった。

 

【もう謝っても、後悔しても遅い……こうなった以上私はもう止まれない、そして止まるつもりもない。事が済めば全員を無事に戻すつもりだったが――お前達は違う、悪魔召喚プログラムを手にし、私に抗う力を手にした。ならばお前達は私の敵だ……私を、長久を脅かす者を私は許さない。そして私の忠実な配下を殺した……故に私はお前達を殺す。殺して良いのは殺される覚悟がある者だけだッ!! それすらも分からずここまでやってきたとは言わさんぞッ!!!】

 

戦う意欲を失っていようが、抗うつもりがなかろうが……そんな事は関係ない、私の同志を殺したノリオとレイコへの怒りと共に2人に向かって絶対零度の吹雪の嵐を放った。

 

【ほう、それに耐えるだけの力はあるか】

 

マハブフダインからノリオとレイコを守っていた悪魔達――氷結に耐性があったのか、その身体は物言わぬ氷像とはなっていないが決して少なくないダメージを受けているのは一目で分かった。だがそれで手を緩めるような甘さは私にはない。

 

【長久を守る為に私は人の身を捨てたのだ。私と長久を引き離す者を私は決して許さないッ!】

 

アモン達には劣るが高位の悪魔達だ。決して私とて油断できない相手と言うのは分かっている――アモン達を失った今、私に信用出来る仲魔はいない……慣れ親しんだ孤独と言う名の闇が私を覆ってくるのを感じながら無数の仲魔に囲まれているノリオとレイコへと戦いを挑むのだった……。

 

 

 

目の前で崩れ落ちた人外へとなった幽子の姿にノリオとレイコは言葉を失った。魔界へ落ちた学校を、生徒を救う事を考えて2人はここまでやってきた。だが幽子は労働などはさせたが、逆らわない者には寛大で、そして生徒や教師の多くは今も学校で暮らしていた。リュウイチとアキコを殺された事で幽子は自分達を殺すかもしれないと思った者は学校の外に出て、悪魔に襲われて死んだ。

 

「レイコ……俺達は間違っていたのか?」

 

幽子によって殺された教師や生徒の数は決して多くない、死傷者の多くは学校の外に何の備えも無く出て悪魔に殺された者が大半で学校の中に悪魔の姿はなく、大人しくしていれば殺す気はないと言う幽子の言葉は決して偽りでは無かった。

 

「……ノリオさん。これ……」

 

「なん……だ……これ」

 

崩れ落ち、MAGへと変換されていく魔神皇の身体から溢れる光はノリオとレイコを包み込んだ――それは幽子の思い出だった……痛みと苦しみしかない黒い記憶が魔神皇の身体を構成していたMAGと一体化し、ガーディアンが本能的にMAGを取り込んだ時幽子の記憶がノリオとレイコの脳裏を過ぎった――自分達の動機は高校の同級生を助ける為だった、が……

 

『やったぞ! 狭間が1人だ!!』

 

『いつもいつも邪魔だったのよね……(片方が!)』

 

『狭間をココに呼び出せば──』

 

多くの生徒、それも男女共にであり、更に教師にいたっても1人や2人ではない……議員の娘、恵まれた勝ち組である幽子を陥れ、辱め、その写真を元に議員の父親から金を巻き上げようと企む獣にも劣る浅ましい姿……幽子はたった1人でその悪意と戦い続けていた。そう先程の幽子とのやり取りは、全て真実でしかなかったのだ──。

 

「や、やめて! 見たくない!! 見たくないの!!!」

 

「おまえら、なんでそんなことを思えるんだよ……! あんた教師だろっ!! ふざけんな……これじゃ、俺は、俺達は…………こ、コイツらと……ナニも、かわら……ない!!」

 

大勢で幽子を襲おうとするクラスメイトや同じ学校の生徒に教師の姿――実際に辱められることは無かったが……ボロボロにされた制服、青痣を残す頬、捨てられた教科書や私物の数々……幽子が味わった痛みと苦しみを追体験することになり涙を流す2人、だが……後悔先にたたず──やってしまった事は元に戻せない。

 

『よお、幽子。一緒に飯を食おうぜ』

 

『ほら、これお前の好きな蛸さんウィンナー』

 

『そうだ、写真。写真を撮ろうぜ、幽子』

 

だが苦しみと絶望に満ちた記憶が眩いまでに輝き始める――それは決して長い時間ではない、半年にも満たない時間共に過ごしただけの長久と共に過ごした記憶――それは幽子の苦しく痛みしかない記憶を塗り替えるほどの美しい思い出だった。人の姿を捨てたとしても、長久を救う為だけに魔神皇と至った幽子の思いは紛れも無く美しい無償の愛だった。

 

「……ね……えさん」

 

「うる……さい。私を……姉と呼ぶな……レイコッ!」

 

頭から血を流し、片腕を押さえながら立ち上がった幽子の姿に思わずレイコは姉と呼び、幽子は鬼の形相で姉と呼ぶなと叫んだ。

 

「勝者は全てを手に入れ、敗者は全てを失う……それは世の節理だ……良いだろう……学校は……帰してやる。お前達もな……」

 

「姉さんッ! 手当てをッ! 手当てをさせてッ!! このままでは死んでしまうわッ!」

 

頭から血を流し、セーラー服を真紅に染めている幽子にレイコが手当てをさせてくれと叫ぶが、幽子はボロボロの身体を引き摺って長久の眠るベッドへと倒れ込み、長久の眠るベッドを自身の血で紅く染め上げながらノリオとレイコへと身体を向けた。

 

「……手当てなど……いらん。どうせ……帰れば私は……籠の鳥。そして長久は……殺される……そんなのは……耐えられない……ただ私は……長久と過ごせれば……それだけで良かったんだ……それだけで……私は……幸せだった……」

 

幽子がセーラー服のポケットから出したCDロムをノリオとレイコに向かって投げる。

 

「私を……哀れと思うのなら……そいつを公表してくれ……私の父の……悪行の証拠だ……ごめんな……長久……私はお前を救えなかった……お前は私を……救ってくれたのにな……」

 

長久が眠るベッドの床が崩れ狭間と幽子の姿を奈落の底へと飲み込んだ。

 

「姉さんッ!!」

 

「狭間ッ!!」

 

崩れ落ちた床へノリオとレイコが駆け寄るが、そこに既に幽子と長久の姿は無かった。

 

「そんな姉さん……きゃっ!」

 

「脱出するぞッ! レイコッ!」

 

「で、でも姉さんが、道睦先輩が……ッ!」

 

「ここにいたら俺達も死ぬッ! もしかしたら逃げてる内に見つけられるかもしれない、ここでジッとしていたら共倒れだッ!」

 

泣き崩れていたレイコをノリオが強引に立ち上がらせ、この世界の主である幽子が死んだことで崩壊を始めた世界から決死の逃亡を図るのだった……。

 

 

魔界と学校を繋ぐリングの間も幽子の死によって崩壊を始めていた。崩れて来る天井、津波のような地響きの中――魔界へと踏み込んでいた生徒達が決死の形相で学校へと戻ろうとする姿は地獄の餓鬼にしかノリオとレイコには見えなかった。

 

「ふざけんなッ! 開けろッ!!!」

 

「なによおッ! 貴方達だけ逃げようって言うのッ!」

 

「人殺しッ!!」

 

学校へと続くリングの間の扉をガーディアンによって押さえているノリオとレイコの耳を打つのは罵詈雑言の数々――魔界で手に入れた宝石を売り捌けば金持ちになれる。魔界で覚えた魔法でどんな女も好きに出来る、男も好きに出来ると言う欲望だけを口にする同じ学校の生徒や教師の姿にノリオとレイコの想いは固まった、

 

「「……ね」」

 

2人の言葉は図らずとも重なった。共に魔界を旅し、戦って来たからこそノリオとレイコの想いは1つになっていた。

 

「リング、リングを壊そう……戻してはダメだよ、戻したら……他の誰かが、ねえ……さんみたくなっちゃうから──」

 

「……ああ」

 

ここで学校を元に戻せば、魔界で力を得た浅ましい獣達は私利私欲の為にその力を使うだろう。幽子は学校を元に戻そうとしていた……だがそれをしてはいけないとノリオとレイコは幽子の記憶、そして今も扉を破壊し学校へと戻ろうとしている者達の叫び声を聞いて決断した。

 

「……せめてこれだけ……これだけが心正しい人のもとへ届きますように……」

 

「俺達も同罪なのは分かってる……でもこの願いだけは叶えてくれッ! 神様ッ」

 

幽子が2人に託したCDロムを消えかけている人間界へ続くゲートの中に投げ込んだノリオとレイコは生命力・魔力その全ての力をリングの間へとぶつけるのだった……。

 

『ニュースをお送りします、狭間議員の行った──』

 

リングの間に力をぶつける前に彼らは念を込めて、ディスクを送り出した。届いた先は……対抗馬の所だったのだ。最初は怪訝に思った対抗馬の議員だったが、ロムを再生しその余りに残酷な事実に涙し、ディスクに書き込まれていた狭間議員のありとあらゆる不正と悪事が世間に暴かれたのだった…………。

 

『元国会議員狭間氏の黒い繋がりッ! 汚職、そして賄賂ッ!』

 

『己の娘さえ政治の道具とした悪魔の所業に迫るッ!』

 

『罪もない男子高校生をヤクザに殺すように命じた議員の裏の顔に迫るッ!』

 

『父の裏の顔を知り、愛する恋人を殺され自身も殺された運命に翻弄された狭間幽子の素顔に迫るッ!』

 

『警察すらも己の部下とし、なんでも自分の思い通りになると豪語した非道の男』

 

連日連夜狭間議員の悪行は公表され、最も総理に近いと言われた男は今は最低最悪の犯罪者となり刑務所の中にいる。勿論狭間に賄賂を贈り、甘い蜜を吸っていた者達も、政敵を屠る為に使われたヤクザも、隠蔽に協力していた警察官も皆芋づる式に逮捕された。

 

狭間議員のニュースの裏でひっそりと軽子坂高等学校が消え、教員、生徒が皆行方不明と言うニュースも報道されたが、 軽子坂高等学校の消失はガス爆発という形で処理され、何時の間にか誰も口にする事は無くなり、子を失った親に消えない心の傷を残し事件は終息を迎えた……。

 

 

だが物語は終わらない、幽子と共に奈落の底へと落ちて行った長久は再び目を開いていた。

 

「若様、若様。いつまでもこんな所で昼寝をしてないで御屋敷に戻ってくださいな」

 

「……はい?」

 

着物姿の妙齢の女性に揺り起こされた長久は間抜けな声で返事を返し、そんな長久の頭上でピーヒョロロと鳴きながら鳶が旋回しているのだった……。

 

To Be Continued

 

 

 




メガテンIFの世界はこれで終わりですね。5話と短かったですが、主人公サイドではなく狭間側。そして終盤は完全に登場していなかったのでこういう終わりとなりました。次回はまた別のアトラス作品で2週目の世界となりますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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