4周目の世界 滅びを求める地球意思 その31
久しぶりの美食と酒、文字通りの勝利の美酒を味わったゴア達はレッドスプライト号のプラズマ装甲を展開し、今日に限っては司令部詰めのクルーも就寝し、全員が次のセクターへ向かう為に身体を休めている頃、無人の司令部の扉が開いた。
『長久。こんな時間になんのようですか? 貴方も休むべきだ』
司令部のメインモニターだけが点灯し、アーサーの姿が映し出された。そして映し出されたアーサーは司令部に入ってきた長久に休むべきだと促した。
「そうしたいけど、そうも言ってられなくてね。アーサー、君と僕だけの時間が欲しかった。だから大和兄さんに頼んで酒を送ってもらったんだよ」
この無人の司令部を作り出したのは長久だった。お疲れ様ですと労いながら度数の強い酒を注いで回り全員を酔い潰したのはこの時の為だったという長久にアーサーは何故と問いかけた。
「余り人には聞かせたくないんだ。今回のアスラの事で分かったんだ、僕にはもう時間が余りない。次がもう迫っている」
『……ルイ・サイファーの言っていた転生、前世の事ですか? 長久、貴方は……』
「穴だらけだけど覚えてる。今生は余りにも幼すぎるけど……全部通算すると多分50年くらいは生きてるんじゃないかな?」
どれほど転生したのかアーサーには判らないが、それでも50年しか生きていないという長久にアーサーはプログラムでありながら、悲しさを寂しさを覚えた。
『この会話は記録されますが、良いんですね?』
「それで良い、だけど再生のタイミングだけはお願いしたい。僕がいなくなった後、僕の今生の役目が終わった後にゴア隊長達に伝えて欲しい。これは僕の遺言であり、願いである。アーサー……頼めるかな?」
『どうにもならないのですか? 貴方の死は覆せないのですか?』
「無理かなぁ……僕は導く者なんだってさ、だけど導いた先に僕はいないんだ。導くなんていえば聞こえは良いけど、僕は死地に送り出して、あとは知らないんだ。だから僕は死神なのかもしれないね」
それは長久の嘘偽りのない気持ちだった。名前も顔も覚えていない、だけど誰かがいた。大切な者達がいた、彼らに戦いを強要し、自分は死ぬ。その先に何があるかも、どんな悲劇が待っているのかも知らず、戦えるだけの知識を与え、そして勝手に死ぬ。こんな無責任な事はない、だから長久は自分の事を死神だと思っていた。
『……貴方は死ぬはずの人間を何人も救った。誰も死神なんて思っていないと思いますよ』
「ありがとう、アーサー。じゃあ録音してくれるかな、僕がいなくなった後に皆に聞かせて欲しい。身勝手で、一方的だけど……別れをしたいんだ。今度はね」
『了解。それと長久、私から貴方へ』
「何アーサー?」
『貴方のこれからの旅路に祝福を、そして貴方の命が終わるその時まで僅かでも平穏と安らぎがありますように』
調査隊の旅はまだ続く、だがその旅に長久はいないのだ。アーサーは機械だから、プログラムだからなんの悲しみも苦しみも無く、善意から長久のこれからを祝福し、そして僅かでも安らかな時を願った。
「ありがとうアーサー。僕/俺の旅はまだ終わらない、辛く険しくても前に進み続けると誓ったんだ。だから僕/俺はまだ歩いていける」
『誓った……何にですか?』
「今まで出会った全ての人に、そして僕/俺の魂にかな。ふふ、なんか恥ずかしいから忘れてね? じゃあ始めようか」
『はい、では始めてください』
本当はもっと前から記録していたが、アーサーはそれを長久には言わなかった。そして長久の遺言を記録した、それが後に己を苦しめる事になるとも知らずに、善意から、長久の今生の生の最後の頼みを聞き入れた事を「心」から後悔する事になるのだった……。
特殊な素材で作られた武具、御札、魔石、そしてCOMPを身につけ、黒いコートを羽織った大和の姿を後から私は見つめていた。
「やっぱり黒?」
「ああ、完全に黒だ。見張っていたが余りにも遅すぎた」
レッドスプライト号達と同じ万能艦は既に完成してしまっていた。そして世界各地に散っていたジャック部隊もアメリカに集結しているという情報が入ったのは昨晩、大和の言う通り私達は遅すぎた。
「後は私が何とかするよ。ちゃんと帰ってくる場所は守り抜いて見せるから」
「心配などしていない、後は任せる」
「OK、任せて」
双子だから必要以上の言葉は必要ない、互いに何を考えているか、何を願っているのか分かっているからだ。
「……間に合う?」
「……分からん。最善は尽くす」
「……そう……分かった」
言いたくない事、触れたくない事はある。間に合うのか、間に合わないのかは完全に五分。
「大和、貴方は気性が激しいから言っておくわ、長久を悲しませないで、そこに長久がいなくとも」
「……分かっている」
かなり間を置いてから頷き、シュバルツバースへ向かう為に部屋を出て行った大和の姿を見送った私はその場に崩れ落ちた。
「……ううう……ああ……うああああ……ッ」
声を押し殺して私は涙を流す、長久が私と大和に託した手紙……それにはジャック部隊に気をつけろと言う警告ともう1枚の長い手紙が託されていた。
「どう……して……お願い、お願い大和……間に合って……ッ」
もう1枚の手紙、それは長久の遺言書だった。恐らく自分は死ぬであろうと、その後を大和か私に頼むと……ゴア隊長達を助けてやって欲しいと願う言葉と、私と大和への別れの言葉が書かれていた。そしてその事を伝える事が出来ないように呪が刻まれていて、私達はゴア隊長達に長久が死を覚悟し、そして受け入れている事を伝える術が無かった。
「まだ……まだ間に合う……よね……」
まだ長久は生きている、大和が間に合えば長久は死ななくてすむ筈……出来るなら私も一緒に行きたかった。
「頑張るから、私も頑張るから……」
長久と大和が帰ってくる場所を守らなければならない、だから私は地上で頑張るから、大和が長久を救う事を、そして長久が早まった事をしない事を祈り涙を流した。
『局長……悪魔の出現が確認されました。指揮をお願いします』
「……ッ! 分かった。今行くわ」
だが都には悲しんでいる時間は許されない、部下の言葉に都は涙を拭い、大事な者が戻ってくる場所を守る為に悲しみを隠して戦場へと出るのだった……。
デルファイナスからスキップドライブで訪れた新たなセクターは今までのセクターと全く違う様相を呈していた。どこか神聖な雰囲気さえ感じさせる厳かな空気があった。
「長久君、どうだろうか? モニターで見るだけでも何か分かるか?」
「かなりMAGの密度が濃いですね……今までのセクターとは比べ物にならないですよ」
長久君の顔もかなり険しく、それだけでこのセクター……エリダヌスの危険性が分かるという物だ。
「長久やはりあれか? バニシング・ポイントがあるだけに、それだけ特別なセクターだということか? もしくは、もっと別の理由があって……いや、すまない、お前に言ってもどうにもならないという事は分かっているんだがどうも気に入らん……バニシングポイントを前にして緊張しているのだろうか……」
カトーの言い分も分かる。恐らくこのエリダヌスはバニシングポイントがあり、アスラよりも間違いなく強力な悪魔がいるであろうエリダヌスを前に緊張しているのだろう。
「長久君。どうかな? このセクターを攻略すれば外に脱出できるかな?」
ウィリアムズが長久君にそう尋ねる。他の隊員達も長久君へ視線を向けた、今司令部に全員の視線が長久君へと集まった。
「流石に僕にもそこまでは……だけどここには外に出る何かがあると思います。ただ……」
「ただなんですか? 若様」
「シュバルツバースの支配者も、そして地球の意思との対峙もせずに脱出すれば、僕達はシュバルツバースを何とかする術を失うことに繋がると思います」
このエリダヌスに脱出するポイントがあるのは間違いないが、長久君の言葉に全員がはっとした表情を浮かべた。
「そうか、脱出は目前だけど、今脱出してもシュバルツバースが消えるわけでもないし、地球の意思に操られている皆も取り返せない……それに、脱出に気を取られたらその足元を悪魔は簡単に掬うわ……今は脱出の事は考えないのでミッションの遂行を考えるべきって事ね?」
「はい、酷な事になると思いますけど……今はこのセクターの支配者を倒す事、そしてロゼッタ物質を手に入れることを最優先で考えましょう。ゴア隊長もそれで良いですか?」
私に確認にとってくる長久君の言葉に私は勿論頷いた。
「私も同意見だ。確かに脱出出来るポイントを発見することも大事だが、今はまだ調査が完全に終了した訳ではない。全員気を引き締めるように」
「「「了解!!」」」
旅の終わりを目前にし、それに気を取られる訳には行かないのだ。ここで1度全員気を引き締める必要がある。
「良し、ではまずは周辺の調査から始める。このセクターが他のセクターよりも危険なのは一目瞭然だ。まずは慎重に調査を進めるぞッ! 各員出撃準備を始めてくれッ!」
今までのセクターで1番危険だと思われるエリダヌスの調査は今まで以上に慎重にならねばならないと私は考えていた。
「危険だと思ったら1度帰還してくださいね。一歩ずつ確実に調査範囲を広げていきましょう」
長久君も今まで以上に険しい顔をし、司令部を出て行く機動班クルーを見送った。
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『機動班からの定時連絡です。調査済みのエリアのMAPのデータが届きました。これはヒメネス隊員からですが、どうも床が動いてしまい、思うように移動出来ない区画があるそうです』
「移動制限か……他のエリアにもありそうだな」
「外見通り他のセクターとは全然違うようですね、ゴア隊長。どうしますか? 1度帰艦命令を出しますか?」
カトーからの提案に私は少しばかり考える。思うように移動出来ないエリアを踏んでしまい、悪魔の群れに囲まれるリスクが露になった。
「そうだな、1度全員に帰艦命令を出してくれ、チームで行動するように再編成する」
個別行動で調査エリアを広げていたが、思うように移動出来ないトラップによって悪魔が待ち伏せしている区画に移動させられては1人でが対処出来ない可能性がある。カトーの提案通りに1度機動班を呼び戻す事を決断する。
「長久君もそれで良いか?」
「はい、悪魔もかなり強力なので1度帰艦して装備を整えるべきだと思います」
「アーサー。行動中のクルーに帰艦命令を出してくれ」
『了解、今帰艦命令を……ゴア隊長、緊急事態です』
アーサーが行動中のクルーへと帰艦命令を出そうとし、緊急事態だと報告してくる。
「何事だアーサー!?」
『原因不明の通信異常です。こちらからも、クルーからも連絡が出来ません』
「馬鹿な!? さっきまで連絡は普通に出来ていたぞ!? どういうことだ!?」
今まで普通に連絡も出来、調査完了エリアのマップも届いていた。それなのに連絡が出来ないという報告に続いて、司令部に緊急アラートが鳴り響いた。
「もう今度は何!?」
『正体不明の高エネルギー態がシュバルツバースを通過中です、これが通信異常の原因だと思います』
正体不明の高エネルギー態がシュバルツバースを通過したというアーサーが報告をしてくる。
「謎の高エネルギー態だと!? 悪魔なのかアーサー!?」
「待って、合同本部がシュバルツバース破壊ミッションを始めたのかもしれないわッ!?」
「私達がまだシュバルツバースの中にいるのに!?」
最悪の予想が脳裏を過ぎり、連鎖的に司令部の中に怒号が飛び交うのを、私は手を叩いて止めた。
「落ち着け! アーサー。詳しい報告をしてくれ、皆もだ。恐怖を感じるのは分かるが冷静になれ、良いな」
アーサーに詳しい報告を頼みながら司令部にいるクルーに落ち着くように命じながらも私も内心は焦っていた。
(もしや……?)
通信異常を起こすような高エネルギー反応……私にはそれに思い当たる節があり、それが外れていて欲しいと思ったがアーサーの報告は非情なものだった。
『いえ。この反応は……恐らくですがレッドスプライト号と同型機と同じだと思われます』
通信異常を起こしている高エネルギー反応の正体が同型機であるという報告に司令部に動揺と混乱が広がっていくのだった……。
「駄目ですね、レッドスプライト号と連絡がつきません」
「おかしいわね。さっきまで連絡出来ていたのに……どうする? 1度帰還する澪、ヒメネス」
「帰還するっつてもよ、俺ら全員移動床でここまで来てるだろ? どうやって戻るんだよ。来た道はもどれねえんだから、先に進んでそこから帰還するしかねえだろ」
「そうですね、とりあえず今は前に進んでそこから戻れるように考えて行きましょうか」
移動床で奥へと移動させられた澪、ヒメネス、ゼレーニンの3人は運よく合流する事が出来たが、戻る事は出来ず、レッドスプライト号へ戻る為に前に進まざるを得ない状況になり、エリダヌスの奥へ奥へと進んで行くのだった……。
4周目の世界 滅びを求める地球意思 その32へ続く
今回はエリダヌス調査開始とフラグを準備してみました。ちょっと今回は短かったですが、次回から話を長くして行こうと思いますので、今回はお許しください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。