収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

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4周目の世界 滅びを求める地球意思 その32

4周目の世界 滅びを求める地球意思 その32

 

鋭い斬撃音が響き、それから少し遅れて悪魔の絶叫が響き渡り、私は構えていた銃を腰のホルスターへ戻した。

 

「随分と腕を上げたわね。ヒメネス」

 

澪と全く同じタイミングで悪魔を切り倒したヒメネスに向かってそう言うとヒメネスは手にしていた刀を腰の鞘に戻した。

 

「この刀のお蔭だ。アナザー・カオスヒーローの刀……こいつがなきゃもっと苦戦してる」

 

アナザーを名乗る3人の人間を模したドッペルゲンガーを倒して手に入った武器はマッキーやタイラーと言ったゴア隊長や澪、ヒメネスよりも劣る機動班へ回されたが、アナザー・カオスヒーローの刀だけは他の機動班は使えずヒメネスが使う事になった。

 

「素質が大きいのでしょう。こうやっていうのはあれですが、ヒメネスは……」

 

「アスラ達に近いって事だろ? 自分でも分かってるぜ」

 

アスラに近い性質である事をヒメネスは認め、その言葉を聞けば私も認めざるを得なかった。

 

「私はマンセマット達に近い性質って事ね」

 

洗脳される前の状態に戻ったのは分かっているが、それでも元の性質がマンセマットを始めとした天使に似ているというのは認めざるを得ない事実だった。

 

「近いと言っても微々たる物ですけどね、それを意識しすぎてしまうと余計にそちらに傾きやすくなります、そうなると簡単に悪魔に染められるので気をつけてくださいね」

 

澪はそう言うとさっさとエリダヌスの奥へと向かって歩きだしたので私とヒメネスもそれを追って歩き出した。

 

「しかし思うように動けないって厄介だな」

 

「確かにそうね、運よく合流出来たのは良いけどバラバラにされていたら厳しかったかもしれないわね」

 

エリダヌスの悪魔は今までのセクターの悪魔よりも強力だ。下手をするとアントリアの支配者のモラクスにさえ匹敵する個体さえいるかもしれない。観測班の私ならば1回か2回は退けられるが、それで体力とMAGを使い果たして3回目には死んでいたと確信出来る。だからこそ澪とヒメネスと合流出来たのは紛れも無く幸運だったと思える。そんな事を考えながら通路を進んでいると澪が急に足を止めた。

 

「どうした?」

 

「どうしたの? 澪」

 

私とヒメネスの問いかけに返事を返さない澪に何事かと通路の先を見て私とヒメネスも黙り込んだ。通路を塞いでいたのは悪魔ではなかったが、ある意味悪魔よりも危険な相手が進路を塞いでいたのだ。

 

「来たか。澪、ゼレーニン、ヒメネス」

 

黒いデモニカを纏った女……アレックスが私達の名を呼んだ。

 

「なんで俺の名前を知っているんだ? 俺とお前は初めましてだろ?」

 

「そうだな。だが私はお前の事を知っている、ゼレーニンも、調査隊のメンバーの事も知っているぞ」

 

知っているの言葉に私は反射的にある事を問いかけていた。

 

「未来の知識かしら?」

 

ゴア隊長の言っていたアレックスは未来から来たのではないか? と言う推測が当っているのかどうなのか、まともな返事があるとは思って無かったが、予想に反してアレックスは私の問いかけに返事を返してくれた。

 

「当らずとも遠からずだな、ゼレーニン。それとそこまで殺気立つな、澪。確かに私はお前を殺したいが、それよりも優先すべき事がある。一時的に手を組まないか?」

 

澪への殺意を隠そうともせず、だが目的の為に手を組まないか? と問いかけてくるアレックスに私達は驚いた。アレックスは言葉を聞かずに何度も戦闘を仕掛けてきたと聞いていただけに一時的に手を組まないかと言う問いかけには正直驚いた。

 

「手を組む事は吝かではないですが。貴女が手を借りたいというだけの敵がこのエリダヌスのセクターの支配者だというのですか?」

 

「確かにこのセクターの支配者の悪魔は強いと聞いているが、私にはこのセクターの支配者を倒す理由が無い。私の敵は今も変わらずお前だけだ澪」

 

敵意と殺意を隠そうともせず敵だと言い放ったアレックスは小さく鼻を鳴らし、この申し入れが不服だというのがその態度が物語っていた。

 

『お初にお目にかかる。バディは私の決定に不満を抱いていてね、私が説明しよう』

 

口を閉ざしたアレックスに対してアーサーの電子合成音に似た音がエリダヌスに響いた。

 

『単刀直入に言うがこのままでは長久の命が危ない。私達の目的は澪の殺害ではあるが、それは副次的なミッションに過ぎない。我々の本来の目的は長久の救出にある』

 

長久を救出するのが自分達の目的であると言う電子合成音に私達は反射的にどういうことだと尋ね返していた。

 

『このシュバルツバースに新たな侵入者が迫っている。ジャック部隊だ、君達もジャック部隊の名は知っているだろう? 最悪の傭兵部隊だ。彼らがいると長久の死の結末は固定されてしまう、だがジャック部隊を撃退するのはバデイだけでは厳しい。ジャック部隊を退けるまで停戦協定を結びたい、とは言え私とバデイの今までの行動を考えれば信用出来ないのは分かっている。だから連絡先を渡しておく、もしも私達の話を信じるのならば連絡が欲しい。目的のためならば私情を捨て我々は協力し合えると私は思っている』

 

ジャック部隊の名前は私も知っている。金の為なら何でもする傭兵部隊、それがジャック部隊だ。最悪のハイエナと言えるジャック部隊がシュバルツバースに現れるかもしれないと聞けばアレックスの申し出では聞き入れるだけの価値がある。

 

「情報の前払いだ。この先にバニシングポイントがあるが、その区画は封印されている。現段階では中に入る事は出来ない、嘘か真かは自分達の目で確かめると良い。ではな」

 

アレックスは長い黒髪を翻し私達の来た道を進んで行き、私達は少し迷った後にアレックスが道を塞いでいた通路の先を一応見に行くことにした。

 

「今までにない高エネルギー反応。バニシングポイントはこの先にある……あるけど……」

 

「あいつの言う通りとおれねえな……帰り道もみつけたし、1度レッドスプライト号に戻るか」

 

「……ですね、アレックスの話も精査する必要がありますし、1度ゴア隊長に話をして見ましょう」

 

アレックスの話が真実なのか、どうなのか、それを確かめる為にレッドスプライト号へ帰った私達はそこでギガンティック号ではない、別の艦艇反応が発見されたと聞いて、アレックスの話が真実であると分かり、アレックスから停戦を望む申し入れがあった事をゴア隊長へと伝えるのだった……。

 

 

 

 

 

アレックスから停戦の申し入れがあったと澪達から聞かされたが、その割には澪達の顔が険しいのを見て何かアレックスから聞かされたのだろうとすぐに分かった。

 

(考えられるのはやっぱり……あれか)

 

アレックスが未来を知っていると可能性は随分と前から浮上していたが、そこで俺の死因について聞いたのかもしれない。

 

(余計な事を……)

 

死神の足音はもうずっと前から聞こえている。この死の運命は覆せない、それを何とかしようと思ってくれるのは嬉しいが、どうしても覆せない死の運命なのだから、俺の事よりも自分の事を考えて欲しいと思う。

 

「ゴア隊長。調査隊の艦艇の他にも万能艦はあるんですか?」

 

艦艇反応はカリーナで停まり、澪を初めとした機動班が艦艇反応のある所まで向かっている間にゴア隊長にそう尋ねる。

 

「同型機はあと1隻だけあると聞いている。我々のレッドスプライト号の原型艦で、現在は桐条グループに譲渡されている」

 

「桐条……ですか」

 

桐条と聞いた瞬間に胸がざわめいた。心の底から桐条に対する嫌悪感が沸いてくるのが分かるが、それはとりあえず横に置いておくことにした。

 

「レッドスプライト号と何が違うんですか?」

 

「そうだな、レッドスプライト号は調査の為に武装のいくつかをオミットしているし、動力もそれように改造してある。だが同型機のライ

トニング号は戦闘艦だ。武装も動力もレッドスプライト号よりも遥かに上だ」

 

「つまり艦艇戦では勝てないって事ですね」

 

同型機って事でそれほど性能の差が無いと思っていたが、全くの別物を聞いてやばいということは十分に分かった。

 

「ゴア隊長。もし仮にライトニング号に乗っているのがジャック部隊だとすれば我々はどうしますか?」

 

「……難しい所だ。人間同士の戦いならば我々に分があるだろうが……ライトニング号を持ち出されると厳しいな」

 

ライトニング号というのはそんなにやばいのかとゴア隊長の説明を聞いて顔が引き攣る。

 

『ゴア隊長、長久。澪達がライトニング号の前へ到達し、どうするか判断を仰いでいます』

 

「メインモニターへ回してくれ」

 

『了解』

 

レッドスプライト号のモニターに黒塗りの外見はレッドスプライト号と瓜二つの艦の姿が映し出される。

 

「……救出や共闘じゃないですよね?」

 

「そんな希望は捨てろ、ウィリアムズ。ジャック部隊が乗ってる以上その可能性はゼロだ、恐らく独断で進入して来ている。限りなく敵に近い第3勢力だと思え」

 

カトーさんも表情がかなり固いのが一目で分かる。そんなにジャック部隊っていうのはやばいのかと思わず肩を落としたその瞬間レッドスプライト号に静かな声が割り込んできた。

 

『酷いじゃないか、ゴア。かつては一緒に戦った仲だろう? 敵に近い第3勢力など悲しいじゃないか』

 

「……ジャック。こちらにハッキングしておいてどの口で言うのかね?」

 

『それは失礼。だがね、君の所の部下が銃で威嚇でもするか? と言い出していてね。こういう場合責任者と話を付けるのが1番早いだろう?』

 

口調は丁寧だが、その言葉に感じられる棘と嫌味にゴア隊長達の表情が固い理由も分かった。この短い会話でジャックが敵だと分かってしまうほどに、その言葉には敵意と悪意が感じられた。

 

「ヒメネス、余計な事をするんじゃない」

 

『わぁってるよ! まさかこっちの会話が筒抜けなんて思って無かったんだよ!』

 

ヒメネスさんが銃を撃つといっていたのかカトーさんに注意を受けているが、口調ほどカトーさんがヒメネスさんを怒っているようには思えなかった。

 

(交渉で足を取られるのを嫌がったか)

 

こちらの本意ではないという事と、あくまでヒメネスさんの独断という形にカトーさんは持っていこうとしていた。

 

『流石はゴアが認めた司令部の頭脳だな、カトー。良いだろう、君の顔に免じて、今回の事は不問としようじゃないか、我々には敵意はないのだからね』

 

「ジャック大佐の寛大なお心に感謝します」

 

苦虫を噛み潰したような表情のカトーさんは本当に嫌々謝罪の言葉を口にしているのが分かった。

 

『さてと出来れば旧友と顔を見合わせて話の1つでもしたい所だが……どうだろうか? 長久と共に我々の艦の来るつもりはないかね?』

 

「悪いが無い。長久君は子供だからな、お前のような悪辣な大人に会わせるつもりはない」

 

『酷い言い様だ。私はこれでも紳士のつもりなのだがね、だがまあ良いだろう。ゴア、我々にはお前達と敵対するつもりはない、それについての話もしたい。お前が信用出来る特使を3名だ。3名だけライトニング号へ受け入れる。良く考えて部下に指示を出してくれたまえよ? 私も旧友に手荒な真似はしたくないからね。では連絡を待つ』

 

「ライトニング号との通信遮断されました! これよりプロテクトを強化します」

 

またハッキングされてはかなわないと司令部のクルーが凄まじい勢いでコンソールを叩き始める音を聞きながらゴア隊長が深い溜息を吐いた。

 

「……タイラー、マッキー、ヒメネス。ジャックとの交渉を任せる。澪達は周辺の警備を固めてくれ」

 

『了解しました』

 

タイラーさん、マッキーさん、ヒメネスさんの3人がライトニング号に乗り込んでいく姿が澪達のデモニカスーツのカメラを通じてレッドスプライト号へ映し出されるが、やはりというかやっぱりというか、3人のデモニカスーツのマイクは何の音も映像も拾ってくれなかった。

 

「どうしましょうか、ジャック部隊の目的は大体分かるとして、それは間違いなく僕達にとっては良い事ではないですよね」

 

「ああ。地球の意思が歩き回っている事を考えるとジャック達は、完全に3アウトだ」

 

品性、性根、思考、間違いなく3アウトだな……だけどジャック部隊は間違いなく強いのでどうするかと頭を悩ませる。

 

「まずですが、合同本部の情報は全部筒抜けでしょうね」

 

「間者はいるだろうからな。つまり我々の提出したデータは全てジャック達も手にしているだろう。そうでなければ長久君を呼んだりはしない」

 

俺が悪魔の専門家という事を知り、ジャックは俺と話をしたいと言い出した……いや、それだと少し弱い……んージャックが俺を求める理由は何だ? と考えていると脳裏をある可能性が過ぎった。

 

「カトーさん、ライトニング号の総出力ってどれくらいなんです?」

 

「総出力? あーっとちょっと待ってくれ……えっと、レッドスプライト号の約5倍ほどだ」

 

レッドスプライト号の5倍と聞いて足りないピースが嵌るのを感じ、ジャックが俺を求める理由を悟り、その不味さも理解した。

 

「……ゴア隊長。澪達が戻ったらボーティーズへ向かいましょう」

 

「それはかまわないが、どうかしたのかね?」

 

「ミトラスに協力を要請します。多分ジャックの狙いはシュバルツバースの中にコロニーを作ることですよ。僕とライトニング号でデメテルの結界を再現しようとしているんです」

 

レッドスプライト号の5倍の出力、そして俺がいればデメテルの真似くらい余裕で出来る。そうなったら後は一部のエリートや金持ちにそのコロニーで暮す利権を売れば良い。物資はシュバツルバースの中で十分に確保出来るし、擬似異界を作ろうとしていると考えれば筋は十分に通るのだ。

 

「そんな事可能なのか?」

 

「可能だと思いますよ。やろうと思えば僕でも出来る、それに南条には悪魔使いも何人かいます、恐らく入れ知恵してるやつらがいます」

 

実戦に耐えれる悪魔使いで無かったとしてもその知識は十分に使える。異界を作る事自体はそれほど難しい事ではない、リソースと術者がいれば簡単に作れる。

ライトニング号と南条の悪魔使いで条件はクリアしている。

 

「ミトラスと協力してジャックを倒すのだな?」

 

「違いますカトーさん。そんなに異界が欲しいなら異界をあげれば良い、そしてそれをミトラスの力で封鎖すれば良い。簡単でしょう?」

 

異界が欲しいというのなら異界を作らせれば良い、だけど外には出れない牢屋にしてしまえば良い。どうせ避難所として使うつもりだったのだから絶対に外には出れないが、外からも侵入出来ない異界を作れば良い。

 

「マッキー達が戻り次第、話の内容を聞いてどうするかを決定するとしよう」

 

バニシングポイントがあるエリダヌスに辿り着いたのは良いが、人類の悪い部分を煮詰めて凝縮したようなジャック部隊がエリダヌスへ現れた。

 

(そうか、これが俺の終わりか……)

 

自分の終わりを明確に理解した。どれだけの時間が俺に残っているのか……それだけが問題だが、この命を賭して何をなすべきかが分かった。

 

(アーサーには託した、だけど……足りるかどうか)

 

アーサーには出来る限りの事をした。だがアーサーがそれを十全に使えるかはどうかは未知数だ、せめて「事情」を知って、悪魔について詳しい「知識」を持つ相手がいなければアーサーは学習しきれない、もしそうなったら俺がいなくなった後のゴア隊長達がどうなるかと不安に思っていたときだった。再び通信ジャックが行なわれ、ノイズ交じりの声が司令部に響いた。

 

『こ……ら……本部……長……いん……大和……現在……ボー……ズに……る。調査……は……に……し……ザ、ザザザザ……』

 

ノイズと途切れ途切れの声でよく聞こえなかったが、俺が求めている知識と事情を知る相手がシュバルツバースに訪れたようだ。

 

「今の声は……長久君」

 

「はい、大和兄さんだと思います。澪達が戻ったら大和兄さんと合流する為にボーティーズヘ向かいましょう、でもその前にタイラーさん達が何の話をしているか確認しておきましょうか」

 

ジャック達との交渉の内容を知っておくべきだと思い、俺は着物の懐から取り出した札を破くとMAGがあふれ出して空中に映像を映し出した。

 

「ボーティーズで澪が消息不明になった時の奴か」

 

「ええ、緊急通信用って事で渡しておいたんですよ。今回は僕から使ってタイラーさんのカメラをMAGで繋げた感じですね」

 

俺がいなくなった後を埋めてくれるであろう大和兄さんが来てくれた……これで不安要素は全て消え、俺は残された時間を全て使いきる覚悟をする事が出来た。悪魔以上の脅威になる可能性があるジャック部隊のライトニング号の中の姿を見て俺の顔は引き攣った。何故ならば……ライトニング号の中には邪教の館にあった悪魔合体の設備がいくつも積み込まれていたからだ……。

 

 

4周目の世界 滅びを求める地球意思 その33へ続く

 

 




ジャック部隊参戦と大和の途中合流でした。これで長久の不安は全て消え、ここで全てを燃やし尽くす覚悟が出来た感じになります。
ここから4週目、ストレンジジャーニーの終わりまで書いて行こうと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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