4周目の世界 滅びを求める地球意思 その34
ヒメネス達がライトニング号から戻って来たのは良いが、その手に持っている刀を見て私は眉を細めた。離れていてもその刀から溢れている邪気とおぞましい赤いMAGに呪物だと一目で分かったからだ。
「なんていう物を貰って来たんです? 呪われているじゃないですか」
私の言葉に飛びのいたゼレーニン達と汚い物を持つような素振りを見せるマッキー達は心底嫌そうな顔をした。
「一応贈り物だ。長久が封印してくれている」
「でしょうね、そうでなければ貴方達の自我は刀に食われていましたよ」
刀に関係する悪魔……恐らくはフツヌシの超が10個くらいつく劣化魂が寄生していた。これなら刀の扱いに秀でてなくても剣士として活躍できる……その人間は使い捨てになるが……。
(葛葉らしい外道だ)
大義の元になら何でもしても良いと思っている下種の考え方だ。若様がお守りでお札を渡して居なければこのまま私達はマッキー、タイラー、ヒメネスの3人と殺し合いをしなければならなかったと思うと正直ゾッとする。
「おいおいおい……そんなやばいものなのか!?」
自我を食われていたと聞いてヒメネスとタイラーが同時に刀を地面へと置き、大きく飛びのいて身構えていた。
「間違いなく悪魔が取り憑いていますね。寄生と洗脳に特化した人造悪魔ですね。まぁ、この程度なら簡単に除霊出来ますし、一応これは
とんでもない貴重品です。大事にしましょうか」
ヒメネスが地面に置いた刀を抜いて刀身を確認してから鞘へ納める。
「貴重品なのか? これが?」
「ええ、これは錬気刀。持ち主のMAGと倒した悪魔のMAGを吸収して変化する刀です。私の刀と同じで貴重品ですよ、使えば使うほどに持ち主に適応して進化する。マッキー達が使っている刀よりも劣りますが、これからの戦いに役立ちますよ」
極限まで鍛えてから悪魔と合体して作り出したであろうヒメネスが持っている倶利伽羅の剣、タイラーが持っている天御剣ほどの最上級の業物と比べれば劣るが、それでもこれからの調査には必要不可欠な代物となるだろう。
「それは良い事を聞いたな。よし、これより帰還するぞ」
マッキーの号令に頷きライトニング号に背を向けて歩き出した。不躾にこちらを見つめてくる悪魔の視線、そして敵対する意志を隠そうともしない殺気の数々。だが頭に来ているのは私のほうだ。今はまだ良いが若様に手を出すと言うならば……。
(惨たらしい死をくれてやる)
南条も桐条も葛葉も若様を傷つけた憎い敵だ。本音を言えばすぐにでも斬り殺したいが、それをすれば調査隊に迷惑を掛けるから我慢しているだけだ。
「澪どうかした?」
「いえ、何でもありません。ゼレーニン、戻りましょう」
この手で殺したいと思っていた憎い相手がすぐ近くにいる。今は不可侵条約を結んだとしても、かならず葛葉はそれを反故にする……その時は必ずこの手で殺してやると心の中で呟き、私達はレッドスプライト号へ向かう帰路へついた。
「……業物の錬気刀だね。芯の悪魔もかなり上位と言える、うん。ゴア隊長。これは除霊出来たらゴア隊長が使ってください。こっちはマッキーさん、最後の1本はとりあえずウルフマンさんにお願いします」
錬気刀の除霊を若様は殆ど一瞬で行い、ゴア隊長、マッキー、ウルフマンの3人へと渡した。
「MAGを用いた緊急通信で我々もライトニング号での中でのやり取りは把握している。何れ敵対行動に出るのは間違いないが、我々はエリダヌスの捜索を進めなくてはならない。ジャック達の申し入れを受け入れる事にする」
100%敵になると分かっている相手ではあるが、ジャック部隊の事を考えれば無理に転送装置の先に行けば罠などもある可能性もあるので不服ではあるが、ジャックの要求を聞き入れる必要があることに私含めて全員が嫌そうな顔をした。
「これにかんしてはマッキー達に再びバギーでライトニング号へ向かってもらうことで対応する。その後私達はボーティーズへ向かう」
「ボーティーズですか? エリダヌスではなく?」
「はい、エリダヌスではなくボーティーズです。ミトラスの元に大和兄さんがいるそうなので大和兄さんと合流します」
「おいおいおい、どうやってお前の兄貴はシュバツルバースに来たんだ?」
「それは僕も分かりませんが、大和兄さんは凄腕の悪魔使いなのでこれからの戦いが楽になる筈ですし、僕も大和兄さんが心配なので合流して欲しいのです」
どうやって大和様がシュバルツバースへ来たのかは分からないが、若様の言う通り大和様は凄腕の悪魔使いなので合流出来ればこの上ない頼もしい味方になるのは紛れもない事実だ。
「ではゴア隊長。ジャックへ返答を伝えてまいります」
「うむ、頼んだぞ。その間に我々はスキップドライブの準備を行なっておく」
マッキー達をジャックへの返答へ送り出し、その間に装備の生成やスキップドライブの準備を行い、マッキー達が再び帰還した後に私達は大和様と合流するべくボーティーズへとスキップドライブを行うのだった……。
ミトラスの宮殿に足を踏み入れると黒いタキシードの悪魔が私達を出迎えてくれた。
【お待ちしておりました神子。そしてそのお仲間の皆様、ミトラス様がお待ちです。こちらへ】
私と澪と長久君の3人でミトラスの宮殿を進む、ミトラスの配下の悪魔は私達を見て恭しく頭を下げているのを見るとミトラスの統率力の高さには正直驚いた。
「しかし長久君、私達だけで本当に良かったのかね?」
最初はヒメネスとタイラーも同行する手筈だったのだが、長久君が私と澪だけが良いと言って意見を曲げなかった。その理由を問うと長久君は少し苦笑した後に口を開いた。
「大和兄さんは無駄を嫌う人ですから、調査隊のリーダーのゴア隊長、そして僕と僕の護衛の澪。余り人数が多いと無駄話が長くなって怒るかもしれませんから」
澪に視線を向けると澪も小さく頷いた。前で分かっていたがやはり大和という人物はかなり気性の激しい男のようだ。
【こちらです。お客様もお待ちですよ】
黒いタキシードの悪魔が開いた扉の先は何度もフォルマを交換する為に訪れている部屋だった。
【ふうむ。なるほどの、異界を作る為に悪魔を集めているのか】
「ああ、お前の所の悪魔だと堕天使が狙われる可能性が高い、気をつけておけ」
【ほっほ、感謝するぞ大和。さて、神子が来たようぞ】
ミトラスの言葉に大和が振り返ったのがその目を見て私は思わず身体が強張った。鋭い目付きと色素の抜け落ちた髪、そして長久君とは違う拒絶すら感じさせる敵意……だが私が驚いたのは成人しているか、いないか微妙な年齢の少年がこれだけ荒んだ目をしている事に衝撃を受けていた。
「調査隊のリーダーゴアだ。峰津院大和君で良いのかね?」
「大和でかまわない、そもそも俺は馴れ合うつもりはない」
「大和兄さん、そういう事を言ったら駄目ですよ」
「む……むむ……すまない」
長久君には弱いのかかなり不服そうに謝る大和に長久君は駆け寄った。
「大和兄さん。お久しぶりです」
「あ、ああ……そうだな。大分……背が伸びたな、長久」
長久君の頭を撫でるその姿からは先ほどの敵意は感じられず、思わず笑ってしまうと大和がギロリと私を睨んだ。
「失礼、少々微笑ましかった物でね」
「ふん、まぁ良い。無駄話をしている時間はない、さっさと本題に入ろう。お前達はジャック部隊と遭遇したか?」
「しました。ジャック部隊からフォルマの提供を要求されています、それと悪魔が取り憑いている武器を提供されました」
澪の言葉に大和は忌々しそうに顔を歪めた。
「ハイエナらしいやりかただな、その武器はどうなった?」
「僕が除霊しました。錬気刀で稀少な物なのでこちらで有効活用しようと思いまして」
「ふふ、それで良い。そのフォルマは確保出来ているのか?」
「これからだ。エリダヌスに戻る前に君と合流する為にボーティーズヘ来た」
エリダヌスに突入した後にボーティーズに来るのは難しい、エリダヌスへ向かう前に大和と合流するのが最適だと判断したというと大和は合理的だなと笑った。
「それで大和兄さんはどうやってシュバルツバースへ?」
「龍脈を用いた転移の応用だ。とはいえ、テストもなしで使ったのでな、レッドスプライト号ではなくボーティーズに転移してしまったんだ」
【急に現れたのでアタシも驚いたぞ、そうそう驚いたといえば……こんなものをお前達は見たか?】
ミトラスが手を叩くとミトラスの配下の悪魔が磔にされた何かを運んで来たのだが、それを見て私は絶句した。
「デモニカ……いや、だがこれは悪魔……か? いや、人間の頭部もある……なんだ……これは」
デモニカスーツを着た悪魔にも見えるが、人間にも見える。人間と悪魔が中途半端に融合したかのようなナニかに顔を歪める。
「悪魔人間……ッ」
「そうだ。ライトニング号にはかつて悪魔使いが運用していた悪魔合体の設備が搭載されている。ジャックは悪魔と人間を合体させている」
悪魔と人間を合体させている。大和から告げられた信じがたい言葉に私は絶句した。
「やっぱりですか……」
だが長久君だけは驚いておらず、思わず私と澪は長久君に視線を向けた。
「MAGを応用した通信で見ていてももしかしてって思っていたんです、でも違うかもしれないと思って黙っていたんですけど、最悪の予想が当ってしまいました」
「そうだ。考える限り最悪だ。この設備は成功率は低いが人間と悪魔の合体も可能な、文字通り悪魔の研究だ。これを持ち出されると戦力差はますます厳しい物になる」
悪魔と人間を合体させる……その悪魔の所業、そしてそれを平然と行なっているジャックを心底嫌悪した。
「ミトラス。何時ものお願いしても良いかな?」
【MAG払いじゃな、かまわんぞ。MAGとフォルマを交換してやろう】
「長久……お前そんな事をしていたのか?」
MAG払いと聞いて大和が長久君を僅かににらんだ。
「でもこれが一番戦力強化になるんですよ、大和兄さん」
長久君が必要な事だと言うと大和は深く深く溜め息を吐いた。
「俺のMAGも払う、それでフォルマを寄越せ、ミトラス」
【アタシはかまわんぞ、MAGさえくれれば情報もフォルマも売ろう】
情報……今までに無い事を言い出したミトラスに思わず視線を向けるとミトラスはにやりと笑った。
【エリダヌスの支配者の事を聞きたくないかの?】
「勿論聞きたいよ、その情報も貰おうかな、MAG払いで」
【うむうむ、流石神子よ、上客じゃな】
私や澪、大和が口を挟む間もなくミトラスとの交渉を進め、血を流している長久君を見てどんどん顔が険しくなる大和。
「長久。お前は前線は勿論交渉にも出るな」
「何故?」
「見ていて心臓に悪い」
「?」
訳が判らないと言う顔をしている長久君だが、私も澪も大和の意見には全面的に同意であり大和が長久君をコントロールできるのならば、彼に長久君の無茶を止めて貰おうと思うのは至極当然の事なのだった……。
ミトラスとのフォルマ効果でMAG払いをしたら大和兄さんにまで怒られた。真に遺憾で……。
「いひゃい、いひゃいです。やまふおひゅうひゃん」
「不服そうにしているからだ。お前自分が幼いって事を自覚してないだろ? それだけMAGを払えば命に関わるぞ」
「指の3本、4本、腕と足の1本や2本無くなっても死ななければセーフでは? 痛いッ!?」
生きていれば最終的にセーフと言うと無言で大和兄さんに拳骨を落とされた。解せぬ……。
「お前達が長久に負担を掛けるからだぞ」
「自分に出来る事をするのは当たり前では?」
「それで死に掛けてどうする。たわけめ」
「いひゃいいやひゃいッ!?」
頬を両手でつままれて餅のように伸ばされ、手足をじたばたさせていると大和兄さんは溜息と共に俺の手から頬を離した。
「余り無茶をするな。お前が傷付くのは肝が冷える」
「ひゃい……」
口調は刺々しいが心配してくれているのは分かるので素直に謝罪する。
「長久はいつも無茶をするから大和が見てくれるのは助かるな」
「本当ね。私達のいう事を全然聞いてくれないから」
え。俺の評価ってそんなバーサーカーだったのか? と内心驚いたが、大きく深呼吸をして意識を切り替えてモニターに視線を向けるとエリダヌスでのヒメネスさん達とジャック部隊の隊員のやりとりが映し出されていた。
『へえ、だいぶフォルマでデモニカを強化しているな。だが先にシュバルツバースへ来たからと言って、変な先輩風は吹かすなよ。機能も、装備も、技術も通常スペックなら皆俺達の方が上なんだ。デモニカもここでの実績もすぐに追い越してやるぜ』
敵意を剥き出しにしているジャック部隊の隊員の言葉にヒメネスさんはへーへーっと興味無さそうに返事を返した。
『なんだよ、言いたい事があるなら言えよ』
『別に? ただ頭上がお留守だなって思っただけさ、お前がくたばろうとくたばらなかろうと、俺には興味がないし助ける謂れもない』
『何を【キシャアアアッ!!!】う、うわああああッ!?!?』
上空からの悪魔の奇襲に絶叫しながら銃を乱射するジャック部隊の男に背を向けてヒメネスさん達は歩き出した。
『装備は上だとしても錬度は全然だな』
『悪魔との戦いの経験が足りてないのよ。装備は充実していても何の意味もないって言うのが良く分かるわね』
まぁ確かにその通りである。確かにジャック部隊の装備は充実しているが、それだけで悪魔との戦いに勝てるわけではない。
「こうして見ると長久君どれだけ助けられていたか良く分かるな」
「そうですかね? 安全な所であれやこれやと言ってるだけだったと思いますけど」
「悪魔との戦いで情報は宝だ。悪魔との戦闘経験が無い連中にとってお前の助言はそれこと値千金だ。それがないからこそ、あいつらは死んで行く」
大和兄さんの視線の先には悪魔人間となった状態のジャック部隊の屍骸が転がっていた。
『うへえ、これが悪魔人間って奴か……』
『本当に悪魔と合体しているのだな……とは言え、悪魔に負けているようだが……』
『人間としても死ねないとは、愚かな選択をしたものだな』
悪魔人間となったとしても悪魔と人間の感覚の差異がある。身体能力が向上したからと言って悪魔との戦いに勝てるわけではないという事を分かっていない。
「大和兄さん、これは弱点を把握していなかったってことですね」
「だろうな、身体能力の強化ばかりに気を取られて根本的な部分に気付いていなかったというわけだ」
表向きの強さにばかり気を取られて弱点に気付いていなかったのだろう。弱点攻撃が当って、動けない所を袋叩きと言った所だろう。
「ここの悪魔は非常に攻撃手段が多彩だが、特に物理に強力な悪魔が多い、スクカジャ状態を常に維持しろ。分かったな」
『OKだ。アドバイザー殿、んで長久。フォルマの位置は特定出来ているのか?』
「今式神で位置を特定しました。デモニカに位置情報を送りますね」
『助かります若様。ヒメネス最短ルートで行きましょう、ここは罠が多すぎる』
澪のいう通りでエリダヌスの中は罠だらけだ。移動床に睡眠床、毒床に痺れ床……移動するだけでも細心の注意が必要なエリアだ。
「こっちでは床の罠の識別まではつきません、気をつけて」
『OK、今俺の目の前でウルフマンが寝やがった。ぶん殴って前に進む』
『これ誰かジャンケンで先に行かせて、みんなでフォローした方が良くない?』
『『『ジャンケン……ポンッ!』』』
「……なんかヒメネスさん達が物凄く頭の悪い事をしてる」
「回復リソースはある。これが1番最適だろう」
「最適……なのかなあ」
俺と大和兄さんの後でジャンケンに負けたらしいヒメネスさんの絶叫が響いてるけど……本当に良いのかなあっと俺は首を傾げるのだった……。
『お前ら……後で絶対殴る』
『ヒメネスがジャンケン弱すぎるのが悪いんですよ、バガブー。ヒメネスをお願いしますね』
【バガブ!】
バガブーにおんぶされ運ばれているヒメネスさんという尊い犠牲によってジャック部隊が求めるフォルマを集める事が出来たのだけど。
「15回中13回負けてたな、ヒメネスの奴」
「こんなにジャンケン弱い人がいるのね」
カトーさん達のいう通りヒメネスさんのジャンケンの弱さは凄まじかった。本当にここまでジャンケンが弱い人がいるのかと言うレベルで司令部に明るい雰囲気が広がるが、気を緩めて良いのはここまでだ。
「気を緩めるのはまだ早いぞ諸君。ジャックに渡すフォルマは全て確保する事が出来たが、我々にとっての試練はこれからだ」
「その通りだ。ミトラスから与えられた情報が確かならば、エリダヌスの支配者は今までのセクターとは段違いに強力な悪魔だ」
そう、その通りだ。ミトラスから貰ったエリダヌスの情報の中には俺達の想定を遥かに越える悪魔の情報があった。ジャック部隊が道を塞いでいるとか、罠だらけの床も厄介だ。だがこのセクターの支配者の事を考えればそれは本の前座に過ぎない。
「自らの尾を噛む蛇、ウロボロス……死と再生の象徴であり、始まりも終わりも無い完全の象徴。それがウロボロス……もしもその通りならば勝つことの出来ない悪魔が僕達の敵となります」
ジャック部隊が先へ進む事を断念したのがウロボロスが理由だとすれば辻褄はあってしまうのだ。今までの悪魔も強力だった。だが倒す事が出来た。だが今度の支配者は神話、伝承、逸話、全てにおいて倒す事が出来ないと定義された存在が俺達の道を遮っているという事実がドッと俺達の肩へ圧し掛かっているのだった……。
4周目の世界 滅びを求める地球意思 その35に続く
今回はここまで、長久の自己犠牲に怒っている大和と長久のやり取りは兄弟の感じがあってよかったかなと思っています。
次回はウロボロスのところまで進んで行こうと思いますが、ゲーム通り1度戦って勝てないって所もしっかりと描写して行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。