4周目の世界 滅びを求める地球意思 その38
カワンチャに姿を変えられていた名も無い英霊の話を聞いたと聞いて帰還してきた澪とヒメネスの報告は予想にもしないものだった。
「相手の土俵で戦わなければ倒す事が出来ないとは……」
名もなき英霊も詳しくは分かっていないらしいが、相手の力を使う事が勝利する為の条件だそうだ。
「タイラーさん達が見た弱点をついた攻撃が急速に回復したのを見ると多分ですけどインデイアンズ・キメラを倒す条件は軽減される攻撃でしょうか?」
「恐らくはそうだろう……となるとバジリスク達を倒すのにも厄介な法則がありそうだな」
「それだけじゃないですよ、順番もあるそうです」
倒すためには何らかの法則に乗っ取る必要があり、しかも倒す順番を間違えれば回復してしまうと来た。
「次は私も出る」
「お願いしますゴア隊長。後は……アレックスにも協力要請ですかね」
第3勢力であるアレックスは協力しても良いと連絡先を渡してくれていた。確かにリスクはあるがアレックスの力も借りる必要がありそうだ。
「1時間だ。1時間で俺と長久で対策を練る。それまでにアレックスとやら連絡を付けておいてくれ、行くぞ。長久」
「はい、大和兄さん」
長久君と大和がウロボロスの子供達への対策を練り、澪達を休ませている間に私は澪達が預かってきたというアレックスのデモニカスーツへの通信コードを入力し、アレックスとコンタクトを取る。すぐに連絡を取る事は出来ないと考えていたのだが、ワンコールでアレックスは返事をしてきた。
『共闘で良いのか?』
「ああ。君の力を借りたい」
想像以上にウロボロスも、ウロボロスの子供も厄介だった。澪とヒメネス、そして私だけでは手札が足りない。大和を現場に出すことも出来るがまだ彼専用のデモニカスーツの準備が出来ておらず、初期状態のデモニカで戦いを挑むのは余りにも無謀なので大和を戦力として数える事が出来ない今危険ではあるが共闘を持ちかけてきているアレックスの申し出を断る余裕は我々には無かった。
『条件がある。長久と2人きりでの対談を求める。同席する事は認めないがカメラで監視は認めるし、デモニカの悪魔召喚プログラムも停止させる、そして武装解除もしよう』
「無理矢理長久君を連れて行く意図はないということだな』
『そうだ。私とジョージの力を貸す以上それなりの対価を求めているだけだ』
「了解した。我々は1時間後に作戦を開始する。それまでにレッドスプライト号へ来て欲しい」
『10分でそちらへ向かう。ではな』
長久君とアレックスを対面させるのは言うまでも無くリスクがあるが、監視が可能、そしてアレックスの悪魔召喚プログラムを停止するというアレックスの言葉を信じ、私は長久君とアレックスの対談を了承した。
「ようこそ、レッドスプライト号へ」
「時間が無いのはお互い様だろう? 無駄話は止めておこう。アーサーだったな、私の悪魔召喚プログラムを停止させろ」
『了解しました。ようこそ、レッドスプライト号へ』
そしてそれからきっかり10分後やってきたアレックスは刀と銃を私に手渡し、アーサーに自分のデモニカのアクセスさせ悪魔召喚プログラムを停止させ完全に武装解除をした。
「こっちだ。言っておくが余計な真似はするなよ」
「分かっている。今は私に敵対の意思はない、今はな」
今を強調するアレックスの後をヒメネスが、前に私が立ちアレックスをブリーフィングルームへと案内した。
「そちらの出した条件の通りカメラで室内を監視する。対談時間は30分だ。30分経ったら我々も入室する。良いな?」
私の言葉に頷いたアレックスはブリーフィングルームへと入って行き、我々ももう1つのブリーフィングルームのモニターでアレックスと長久君の対談の状況を確認しながらも、ウロボロス、そしてウロボロスの子供への対策会議を始めるのだった……。
アレックスと1対1での対談というのは流石の俺も緊張していた。アレックスは俺の予想が正しければ葛葉の人間、もしくは葛葉の人間に師事した極めて優秀な悪魔使いだからだ。デモニカの機能を停止した? それでは足りない、悪魔召喚プログラムを停止させた? 申し訳ないがゴア隊長達は悪魔使いへの理解が足りないと言わざるを得ない、武装解除をした? 葛葉の悪魔使いが鍛え上げられたその五体とMAGがあれば戦える……つまり何が言いたいかと言うと俺の目の前に座っているアレックスは紛れも無くベストの状態で戦闘が可能な悪魔使いと言う事だ。
「こうしてゆっくり話をするのは初めてかもしれないね。アレックスさん」
「そうだな。前は私はお前の話を聞かずに連れ去ろうとした、その前は澪を殺そうとした。正直に言えばお前がこうして丸腰で私と対面してくれるとは思っていなかった」
「はは。確かにそうだね、普通ならそう思うだろうね」
アレックスと対面する危険性は十分に把握している。だがそれ以上にアレックスという今シュバルツバースの中にいる中でミトラスに告ぐ味方になってくれるかもしれない相手を説得する機会を無碍にするほど俺は馬鹿ではないつもりだ。
「単刀直入に言う。長久、私達と共に来て欲しい。私とジョージにはお前を守る準備がある」
固い口調と表情だが、それだけアレックスは緊張しているのだろう。そしてそれと同時に俺を思ってくれているのも事実だろう。それを感じ取った上で俺は首を左右に振った。
「僕はもうじき死ぬのだろう。君は、そして君を鍛えた人達はそれを阻止しようとしている。だがそれは全くの無意味、時間の無駄だ」
俺の言葉にアレックスは目を見開き、身体を硬直させた。
『何故それを知っている? 予知か? 悪魔の知恵か?』
「ジョージだったね。らしくない、らしくないじゃないか。君は僕、僕は君。そうだろう?」
ジョージという名前のデモニカのAI。確かにAIであり人間が作り出したものであることは間違いない、だがそれと同時に俺のMAGがジョージから発せられていた。MAGというのは基本的にその人間だけの物だ。つまり俺と同じMAGの波長を持つジョージは紛れも無く俺である。
「考えられるのはあれかな? 殺された後で機械に繋がれて精神データを機械に移し変えられて量産されたとか?」
「……」
「沈黙は肯定と受け取るよ。僕を殺すのはジャック部隊、そして僕をプログラムに変えるのは「やめろッ!」……ごめんよ」
俺の言葉を遮り叫んだアレックスに謝罪するが、それは形だけの物だ。
「お願いだ。私と共に来てくれ、私は、私は貴方に死んで欲しくない。生きていて欲しいんだ」
懇願するアレックスに俺は最後の言葉を口にした。
「それは君の願い? それとも君の師匠の願い? それとも……君の先祖の澪の願いかい?」
今度こそアレックスは完全に動きを止めた。澪とアレックスは余りにも似ている。血縁関係があると見て間違いないと思っていたが、あたりだったようだ。
「……全てだ。私は貴方に死んで欲しくないだけなんだ。貴方が来てくれるなら私は調査隊に協力しても良い。だから「気持ちは嬉しい。だけど無意味だ。僕の死は世界に定義されている……これは何者にも覆せない」
仮にジャック部隊のいないところに行ったとしても僕は死ぬ、死因がジャック部隊から別の何かに置き換わるだけで死という結末は覆せない。
「そんな事は「あるんだよ。アレックス、聞くんだ」……あ、あああああ……ッ」
大和兄さんにしたようにアレックスの額に自分の額を押し付け、死神の足音を聞かせるとアレックスはその場に崩れ落ちた。
『……駄目なのか』
「駄目だね。君は僕の欠片のほんの一部だ。多分覚えてないんじゃないかな? この足音を』
『それは認めざるを得ない。私はお前の知識を最適化して、支援用に組み替えられた擬似霊魂だ。悪魔に対する知識以外は欠損している』
「だろうね」
もしもに死神の足音を覚えているのならば時間の無駄だと割り切っていたはずだ。
「い、いや。まだ、まだチャンスは「無いよアレックス、僕の命は終わる。死神の足音を聞いのなら分かる筈だ。「今」の僕はもう終わりだ。だけど「次」の僕は違うかもしれない」
今と次を強調するとアレックスの瞳に光が戻った。
「……私に旅を続けろというのか。いつか救えるかもしれない貴方を探して」
「そうかもしれない。正直分からないんだ。生きていられる時間があるのか、何処の世界でも僕は死ぬのか本音を言えば分からないんだ」
俺に出来るのは何時だって自分を大事に思ってくれた人を悲しませて、苦しませて、ただ1人逝くだけなんだ。地獄へ送り出して、俺は全てを忘れる……これほど罪深い者はいないと思っている。だけどそれでも歩み続けるしかないんだ。立ち止まらない、そう決めたから。
「どうか僕じゃない僕を助けてくれないか、アレックス」
「……酷い人だ。死ぬと分かっているあなたを見捨てて、別の貴方を救えと言うなんて」
「ごめんよ」
謝る事しか俺には出来ない、アレックスの善意も思いも全て踏み躙り、勝手な事をアレックスに頼もうとしている。
「……良いよ、やるよ。貴方の次の言葉は分かってる。「俺は良いから世界を救え」だよね。良いよ、貴方を見捨てて世界を救うよ、それが貴方の願いなら」
「……俺/僕はそんな事を言ったのかな? あとこっちがアレックスの素なのかな?」
『言った。何回目の長久かは知らないが、それともお前に繋がりのない長久かも知れないがな。後これはあれだ。お前がいなくなった後に現れた3人の影響だ。私は関与していない』
3人……3人かあ……丁度俺の死んだ回数と同じだ。間違いなく俺の生きている間の知り合いなんだろうなと思いながらアレックスに視線を向けた。
「僕を見捨てて、世界を救って欲しい。頼めるよね? アレックス」
「うん。やるよ。貴方がそれを望むなら、そうしろと私に命じるならば」
……なにかとんでもない爆弾に火をつけた気がするが、俺は無事にアレックスとの協力要請を取り付けることが出来たのだった……。
正直に言えば長久とアレックスの対談は拗れると踏んでいたのだが……。
「アレックスだ。馴れ合うつもりはないが、よろしく頼む」
「……よろしく」
「ああ。よろしく」
澪とアレックスがバチバチに火花を散らすのは正直俺でも恐ろしい。
「お前どうやって仲間に引き入れた?」
「世界を救う手伝いをして欲しいとお願いしました」
それだけじゃないと思うのだが……澪を殺すとあれだけ息巻いていた奴が何故、それにモニターではなんか泣き崩れていたし……。
(マジで何をしたんだ?)
長久が何かしたようにしか思えないわけなのだが、とりあえず強力な味方が増えたと思う事にしよう。
「作戦概要を説明する。マンドレイクとマンドラゴラは変化の最中に回復魔法を当てろ」
「は? 敵に回復させるのか?」
マンドレイクを回復させろという大和の言葉に俺だけではなく、機動班の全員が怪訝そうな表情を浮かべる。
「マンドレイクは子供、マンドラゴラは老婆です。そして変化の最中に体力が回復しているのが分かりましたので……」
「回復のサイクルを崩して自滅させる訳ね?」
「さすがゼレーニンさんですね。話が早いです、回復のサイクルを崩す事で細胞分裂などを」
「悪魔にも当て嵌まるのかしら? だって~」
なんか長久とゼレーニンが俺達には意味不明の話をしている。多分俺だけじゃなくてマッキー達の頭上にも? が飛び交っていたと思う。
「なるほどね。つまり変化のタイミングを見て回復すればいいのね」
「その通りだ。これは観察能力の高い隊員が必要となる。つまりお前だ」
なんかいつの間にか大和も加わり、3人で話をした結果マンドレイクとマンドラゴラの討伐にはゼレーニンを主軸にする事が決定していた。
「バジリスクは龍。生命溢れる者と言っていた。その生命力をマンドレイクとマンドラゴラの再生のサイクルから炙れたエネルギーで賄われていると仮定し、マンドレイクの撃破が見えたらバジリスクへと突撃してもらう。こちらは純粋な戦力が低いドーソン達に任せる」
「大和兄さん、そういう言い方はちょっと」
「事実だ。その分人員を割くという事を理解してもらう。それとバジリスクに戦闘を挑む際は鶏の鳴声を流してもらう」
間違いなく全員の脳裏に?が浮かんだと確信した。何故鶏の鳴声?と困惑していると長久が説明してくれた。
「バジリスクは鶏の鳴声が苦手という逸話があるんです。これで弱体化する可能性が高いのでここを一気に叩いてください」
鶏の鳴声が効くのか? という疑問はあったが、とりあえず専門家である長久の言葉を信じることにする。
「インデイアンズ・キメラはヒメネス、マッキー、タイラーを主軸に耐性のある攻撃で攻撃してもらう。弱点をつけばインデイアンズ・キメラは自己強化と回復を行なう、かなりの長期戦に加えて純粋な戦闘力も要求される。タフな作戦になるがヒメネス達ならば問題ないだろう」
それくらいやってのけるだろう? と言外に言う大和に本当に良い性格をしてるぜと苦笑する。
「ああ。やってやるよ、俺達なら楽勝だ」
「そうだな。任されたんだ。やって見せるさ」
「こちらは俺達に任せてください、ゴア隊長」
俺達の言葉に頷いたゴア隊長はわずかな不安を見せながらまだ互いの手を握り潰してやると言わんばかりに握手を続けている澪とアレックスに視線を向けた後に長久に視線を向けた。
「不安しかないのだが?」
「多分、大丈夫です。うん、大丈夫。澪もアレックスも喧嘩しないでね?」
「大丈夫です、若様、上下関係というものを教えてるだけですので」
「そうだな、どちらが上かって言うのは大事だな」
「ははははは」
「あははははは」
「「ははははははははッ!!!」」
目が全く笑ってない笑顔で握手を続けている2人を見て長久がゴア隊長に視線を向けた。
「駄目かもしれません」
「しれませんではなく、駄目だろうな」
「……ですね。僕も言ってて無理があるなって思ってます」
知れないではなく完全に駄目だなと誰の目から持ても明らかだった。英霊が強いと言うのは分かっているがゴア隊長、澪、アレックスの3人ではゴア隊長への負担が凄まじい事になるのは明白であり……俺達は何も言わず無言で合掌し、なんとか澪とアレックスを仲裁しようと右往左往している長久とゴア隊長をその場に残し出撃準備をする為にブリーフィングルームを後にするのだった……。
4周目の世界 滅びを求める地球意思 その39へ続く
特殊コミュ成功でアレックス参戦、なおアレックスに出会った時の周回の長久はやや命令口調だった為、アレックスは長久に何かを入れるとうんっと言ってしまうようです。長久離脱後は大和とアレックス追加で新ルートですかね。次回はウロボロス子供戦を書いて行こうと思いますので次回の更新もどうかよろしくお願いします。