収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

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4週目の世界 後日譚その1

4週目の世界 後日譚その1

 

若様を失った喪失感と悲しみを癒す時間も若様の遺体を探す事も私達には許されなかった。私達がウロボロス、そしてジャック部隊と戦っている間に合同本部はシュバツルバースに向かって核ミサイルを発射したのだ。それは間違いなく都様の判断ではなく、合同本部にいるジャック達の支援者の独断でありった。

 

『乗り込め! スキップドライブの準備は出来ている! 急げ!』

 

エリダヌスの壁を破壊しながら飛んできたレッドスプライト号から響くカトーの怒号に私達は即座に走り出し、降車デッキを開いているレッドスプライト号へと跳ぶのだった……。

 

『高エネルギー反応が接近中。クルーはただちに対衝撃準備を、ショートドライブを敢行します』

 

アーサーの対衝撃準備の言葉に私は咄嗟に降車デッキのデモニカスーツを固定していたハンガーに掴まり、次の瞬間凄まじい衝撃が私達を襲った。

 

『滑稽な事よ……地上へ戻れるつもりでいたとは』

 

『人間など、我らに言わせれば所詮、人猿よ』

 

『人猿なんぞが鉄の船に乗ったからと言って宇宙の摂理を操れる筈は無かろうて』

 

私達を蔑む3人の声が聞こえる。その声は間違いなく、シュバルツバースに突入した時に私に声を掛けてきた声だった。

 

『愚か愚か! 貴様らを救う鍵であった神子をお前らは失った』

 

『神子がいなければ地球に、母にお前達の声を届ける術はない』

 

『貴様達の滅びは決まったようなものよッ!』

 

大声で私達を嘲笑う声に咄嗟に武器を構えようとしたが、私の身体はそこには無かった。ただ魂だけが、この場所へ引き寄せられていた。

 

『愚か者め! 我々は貴様らに現実を見せてやろうとしているのだ』

 

『何故「母」はお前達を翼持つ身体に産まなかったのか?』

 

『空から地を眺め「世界を支配出来る」等と驕り高ぶらぬようする為よッ!』

 

『人間の英知? 科学力? その程度の力で何が出来ると思っているのか、己を知るが良かろう。そして下らぬ諍いで神子を失った事を悔いるが良いッ!!』

 

その一喝の後私達の目の前に広がったのはシュバツルバースの外の光景だった。

 

『人間が作り出した「雷」か……これはまた、沢山用意したなッ!』

 

『奴らは知らぬからな。宇宙の摂理の深さを……おお……ッ! 「雷」が爆ぜるか。だが皆……飲み込まれようぞッ!』

 

核ミサイルが発射されたのは知っていたが、こうしてそれを目の当たりにすると何故という言葉が脳裏を過ぎる。

 

『神子を失ったお前達に……地球の怒りを止める等不可能な事……人間に自らの道を選ぶ術はもはや無いのだ。お前達も、人類も呪われた地を生きるのだ……『良いや、そうはならないよ。僕がいるからね』

 

「若様!」

 

若様の声がこの白い空間の中に木霊した。魂だけで周囲を見ても若様の姿はない。

 

『ほう! 死んでも尚、人間共を救うか神子よ!』

 

『勿論だとも、人間は確かに弱いし、間違った選択をすることもある。だけど皆で力を合わせれば新たな道も開けるさ』

 

『長久!』

 

『長久君!』

 

白い空間にヒメネスとゴア隊長の声が、いやそれだけではない調査隊の皆の声がする。

 

『澪。それに皆これで僕に出来る事は最後だ。アーサーだ。アーサーに僕の全てを託した。彼に聞くんだ、そうすれば何をすれば良いのか分かる』

 

『全く愚かだ』

 

『だが、しかし』

 

『だが、しかし』

 

『『『我らはその献身に免じて貴様らに1つの道を示そうではないか』』』

 

私達を嘲笑う3つの声が1つになり、凄まじい怒声が私を襲った。

 

『すべてのエキゾチック物質が皆集まるようなことがあればッ!』

 

『母達が携えし、エキゾチック物質を全て集めれば道を開くことも出来るだろう! 神子が希望を託した回路の霊へ聞くが良い! その先に絶望するか、僅か希望を手にするかはお前達次第だッ!!』

 

『頑張って……皆なら出来る……僕は……そう……しん……る』

 

「若様ッ!」

 

小さくなって消えていく若様の声に思わず若様を呼んだ次の瞬間……身体の感覚が戻って来た。そして降車デッキにいたはずなのにレッドスプライト号の司令部に私はいた。

 

『あーこれを見ている、あるいは聞いているということは僕は多分死んだのだと思う。ゴア隊長に澪、それにヒメネスさん……うん、あーうん。まずはごめんなさい。多分僕は自分で死を選んだのだと思う……だけど、それしかなかったんだ。僕は何度も死んで、何度も生まれ変わった。だから分かるんだ。僕の死は定められていると……だから限られた命は自分が思うように願うように使いたかった。だから僕を救えなかった事に後悔をしないで欲しい。この結末は定められたものであると同時に、僕自身が選んだものだ。だから自分を責めないで欲しい……皆は僕の為に色んなことをしてくれた。僕はその事に本当に感謝しているんだ。「長久、録音時間は後1分45秒です」……うん、いざ遺言を残すっていうのは難しいんだね。僕の知ってること、やるべき事は皆アーサーに伝えた。アーサーは融通が利かないから気になることは口に出して聞いて欲しい。それとミトラスとの契約も文章にして残してある。大和兄さん、これを使ってミトラスと契約して欲しい。後言っておくべきことは「長久。後27秒です」もう、分かった! えっと、愛してくれて、僕を案じてくれてありがとう! 僕は幸せだったッ!』ピーッ! 長久の遺言の再生を終了します』

 

機械合成音による若様の遺言の再生終了の声が響いた時には司令部は嗚咽だけが木霊していた……。

 

 

自分が死ぬと分かっていても若様は私達に様々な物を残してくれていた。セクターエリダヌスからフォルナクスに墜落するまでにアーサーにダウンロードされていた3生命体の情報を捕捉するような情報に、今までの傾向から考えられる悪魔の傾向、若様が作ってくれていた様々な補助アイテムの作り方に、材料を手に入れたら作るべき道具、錬気刀を鍛える方法……シュバツルバースを進むのに必要な本当に様々な情報を若様はアーサーに残してくれていた。それらを頼りに私達はシュバツルバースの捜索を続けていた。

 

【そうか、神子が死んだか。悲しいの、あい分かった。神子の遺言というのならばあたしはお前達の仲魔になろうぞ】

 

ミトラスが若様の願いならばと仲魔に加わってくれた事でこれから進むべきセクターの事、そしてシュバルツバースの支配者であるメムアレフの情報を得ることも出来た。若様を失った悲しみと苦しみは消えることは無かったが、それでも若様の地球を救ってくれという願いを叶える為に私達は前に進み続けた。若様と同じ様に死の恐怖に直面しても、それでも前へ進み続けた。その中でジャック達が生きていて、何か悪巧みをしている予兆があると言うアーサーの言葉でジャック達の基地を強襲する事になったのだが……そこで私達を待ち構えていたのは想像を絶する人間の悪意だった。

 

「嘘だろ」

 

「ここまでするのかよ」

 

悪魔をバラバラに切り刻み、培養液で埋め尽くされたポッドの中に沈め、ドロドロヘ溶かし。

 

【ああああああああ!】

 

【ひゃははははははああああ!!】

 

悪魔との融合実験に失敗し、悪魔と人間の中間になり発狂したジャック部隊の隊員……。

 

【シテ……コロ……シテ】

 

【ゆるさん……ゆるさんぞ……にんんげええええんッ!!】

 

悪魔を武器や薬に加工する為に細かく切り刻む機械……同じ人間がやっているとは思えない数多の悪魔の所業に顔を歪めながら奥へ、奥へと進んでいるとアレックスが私達の前に立ち塞がった。

 

「このさきには最もおぞましい悪魔の研究がある。心を強く持て、良いな」

 

「分かった。だがこれより酷いものなんてあるのか?」

 

「ヒメネス。あのアレックスが警告してくれたんだ。さぞおぞましいものがあるに違いない」

 

「その通りだ。ここまで来るのに我々はとても人間の所業とは思えないおぞましい物を見てきた。ジャック達はもう同じ人間だと思うな、行くぞ」

 

ゴア隊長の言葉に頷き研究施設の最深部に足を踏み入れ、そこで研究されている者を理解した瞬間……私はデモニカスーツの中で吐いた。

 

「ジャック……ジャックぅううううッ!!」

 

「ふざけんなよ、あいつらぁッ!!!」

 

「こんな……こんな、これが人間のやることかよぉッ!!」

 

怒りと怨嗟の声が研究施設へと木霊する。私達が目の当たりにした悪魔の光景……それは口にするのもおぞましい、決して許されない悪魔の研究だった。

 

巨大なモニターの回りのポッドには眼球、舌、耳、細かい神経の標本の数々が……そして部屋の中央には小さな小さな培養液で満たされたガラスのケース。そしてそのガラスのケースには夥しい数の配線が繋がれ、その先は部屋の中央のモニターへと続いていた。

 

『初めまして、貴方達が僕のユーザーでしょうか?』

 

ガラスケースの培養液の中に沈められた小さな脳味噌、それと繋がれている機械から響いて来る若様の声……。

 

「若様……若様ぁぁッ!!」

 

私達がフォルナクスで彷徨っている間にジャック達は若様の遺体を回収し、研究標本としていた。そのおぞましい光景を目の当たりにし、私達はその場に崩れ落ちる。だが人の悪意はそれだけでは終わらなかった……。

 

「嘆くことはない、長久君は。私達の王は蘇る、その為の研究、その為の術だ」

 

悪魔との融合を更に行い、更に強大となったジャックは熱に浮かされたような、恍惚の表情を浮かべ一番奥の布をかけられていたポッドを私達の前に晒した。

 

「貴様! そこまでするか!」

 

「何を怒る。私は彼を蘇らせようとしている。君達だって嘆いているのだろう? 協力してくれてでも良いではないか」

 

若様の顔を持った悪魔が浮かぶポッドが幾つも、幾つも私達の前に現れた。

 

「きっとこの中のどれかは王に目覚める! 長久は蘇り我らに道を示してくれるだろう! それを邪魔すると言うのならば、貴様達はここで死ぬが良い!!」

 

ライトニング号の壁を破壊しながら巨大な悪魔へと変貌したジャックを見て、私は錬気刀の鯉口を縛っていた紐を解いた。

 

「あいつを殺す。若様をこれ以上穢されるのは耐えられない」

 

「たりめえだ。あいつはぶっ殺す、研究成果とやらも全部破壊してやる」

 

「やるぞ、長久君をこれ以上現世に縛り付けてはいけない、調査隊として、彼に助けられた者として、そして彼の安らかな眠りを望む者としてここでジャックを殺す! 各員奮起せよ!!」

 

「「「イエッサー!!」」」

 

「はHAはははハハハハ! 王よ! 我らの王よ! あなたを蘇らせる為に贄をささげましょうぞおおおおお!!」

 

 

4週目の世界 後日譚その2へ続く

 

 




澪達の心を圧し折る悪魔の研究は長久の研究標本化でした。葛葉の術等で擬似霊魂を作り出し自分達の補助AIとしようとしていたわけですね。この光景の元ネタはAKIRAから持ってきたりしております。次回はヒメネス視点での後日譚をやろうと思いますので、次回の更新もどうか宜しくお願いします。
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