4週目の世界 後日譚その2
俺に与えられた個室のベッドに腰を下ろし、俺はこれからの事を考えていた。ジャック部隊の基地の中で見た物は人の業、人の悪意その物だった。
「ふざけるなよ……ッ! やって良い事と悪い事の区別すらつかねえのかッ!」
死んだ長久を解剖し、神子の力を科学的に分析し、神子の力を手にするのだと高笑いしていた葛葉・南条・桐条の悪魔使い達。そして機械に長久の脳を接続し、長久の知識を得た改良型のAIを作ろうとしていた。俺達に出来たのは機械をシャットダウンし、機械に組み込まれた長久を殺し、その僅かな遺体を回収する事だけだった。
「アレックスも消えちまった」
機械に組み込まれた長久の知識をコピーしたAIの改良型がアレックスのデモニカのAIであり、そのプログラムが破壊されたことで歴史が改変されアレックスは消えてしまった。
『未来を変えろ。私が消えたということは未来を変えれるということだ! いつかの長久を救うことは出来る! 私も未来で戦う! お前達はこの世界の未来を変えるんだッ!』
消えていくアレックスは俺達を激励しながら消えていった……その時の光景を思い出し、右腕をベッドに叩きつけようとして俺の腕は空を切った。
「……くそがッ!」
ジャックの野郎は殺す事が出来た。だが複数の悪魔と融合したジャックは強かった。怒りのままに突貫した俺は右腕を失う大怪我を負い、ウルフマン達も俺ほどでは無いが重傷を負っている。今戦えるのはゴア隊長と澪とゼレーニン、それとタイラーとマッキーだけだ。己の不甲斐無さに込み上げてくる怒りに顔を歪めていると背後から楽しそうな女の声が聞こえてきた。
「誰……ルイ……サイファー」
長い金髪を翻し、青いワンピース姿のルイ・サイファーが楽しそうに笑いながら俺を見ていた。
「どこから来た」
「彼が死んだらしいね。弔いくらいさせてくれても良いだろう?」
「答えになってないぞ」
「ふふ、私は何処にでもいてどこにもいないのさ。だからどこにでも入れるし、どこにもでも存在できる」
ルイ・サイファーが桁違いに強力な悪魔とは聞いていたが、正直そんな事はどうでも良かった。
「あんたは強い悪魔なんだよな?」
「勿論。私より強い悪魔なんて存在しないと断言出来るよ」
俺に今必要なのは戦う力。長久が願った地球を救うための力を手にすることだ。
「俺がくたばったら俺の魂と死体をくれてやる。だから力を寄越せ」
「長久から悪魔と契約する恐ろしさを聞いてないのかい?」
「聞いている。だが俺は弱い、弱かったから奪われた。救う事も出来なかった! 俺には力がいる。長久が願った未来を手にするだけの力が居るッ! だからその力を寄越せッ!」
俺の言葉にルイ・サイファーは楽しそうに笑い、不気味に蠢く蟲を俺に見せ付けてきた。
「これはね。人間を悪魔に変える「マガタマ」という物だ。適合すればあんな不出来な悪魔人間とは違う。完全に悪魔と同じ力を手にする事が出来る。良いのかい? デメリットを聞かなくて」
楽しそうに笑うルイ・サイファーの手からマガタマを奪い取る、キーキーとなく嫌悪勘を抱く生物であっても俺には必要な物だった。
「んなもんどうでもいい、腕を失った段階で俺は死んだも同然だ。なら死んだ奴がまた死ぬだけ。何を恐れることがあるんだ?」
「良いね。その強いあり方私好みだよ。さ、ぐっと飲み込むんだ」
「ああ。飲んでやるよ」
大きく口を開けてマガタマを飲み込む、信じられない激痛が俺を襲い個室の床をのた打ち回る。
「死ぬのか、生きるのか、生き残れば君は力を得る。誰にも負けない強い力をね」
「がぁッ! ぐっ! げええッ!!」
身体が作り変えられる。切り落とされた腕に巻かれていた包帯の下が痒くて痒くて包帯を剥ぎ取ると骨が生え、血管が伸び、肉が盛り上がって来ていた。
「うがあッ! がああああッ!」
血涙を流し、血反吐を吐き、爪が剥がれるほどに地面を掻き毟る。どれほど苦しんだのか分からない、1分だったのか、半日だったのか、長い長い苦しみを耐え抜いた俺はゆっくりと立ち上がった。
「これが悪魔の力か、はっ! この力がもっと早ければな、バガブー」
【ヒメネス?】
「そうだ。俺だ、行くぜ。澪達を助けによ」
【ブッ!】
敬礼するバガブーと共に悪魔の力を手にした事で出来るようになった転移でレッドスプライト号から飛び出す。
「ヒメネス!? お前何を!」
「ルイ・サイファーと契約した。地球を救う為の、未来を手にする為の俺の力だ! ゴア隊長! 澪! このクソッタレな蛇女をぶっ殺すぜッ!」
「……そうですね。言いたいことは多々あります。ですが今は言いません。力を貸してくださいヒメネス。私とゴア隊長だけではティアマトを倒すのに火力が足りない」
「任せろ。ド派手にぶちかましてやるぜッ!! いっけえッ!!」
【火炎ブースタ】【火炎ハイブースタ】【マハラギダイン】
【お、オアアアアアアアッ!!!】
「はっはあ! 行くぜ反撃開始だ!」
俺はゴア隊長と澪に向かってそう叫ぶと、このセクターの支配者であるティアマトにバガブーと共に飛び掛っていった。
「貴様はとんだ大間抜けだ! 悪魔人間……いや、魔人になるデメリットも知らないで魔人になったのか!」
「うおお……頼む怒鳴らないでくれ……頭に響く」
「それは良い。貴様の穴だらけの脳味噌に響かせてやる」
ますます声量を上げる大和に耳を塞ぐことも出来ず、俺はベッドに伏せたまま大和からMAGを譲り受けていた。
「魔人は悪魔の中でも最上位だ。MAGを常に吸収し続けろ。さもなくば死ぬぞ」
「OK。それは身を持って体験した」
ティアマトとの戦いの中で俺は身体が急に動かなくなり、ティアマトの攻撃の直撃を受けた。その理由がMAGを使いきったことによる生命力の減退だった。文字通り瀕死だった俺はゴア隊長と澪からMAGを譲り受けて、体勢を立て直したが本当に危ない所だったらしい。
「ヒメネス、チャクラポットを携帯しておけ。良いな?」
「了解、貴重品を貰う事になって申し訳ない」
チャクラポットを下半身だけ着ているデモニカのポーチへとしまう。
「魔人ってことはヒメネスはもう人間じゃないのか?」
「ああ。悪魔人間の上位存在だな、無茶をする」
「無茶だろうが無理だろうが俺には必要だった。地球を救って未来を変えるんだ。そしていつかの長久にあうんだろ? 再会した時に足を引っ張るなんて情けねぇじゃないか」
何時再会出来るかどうかなんて判らないが、それでも再会した時に長久の足を引っ張ることになったら情けないって物じゃない。そのいつかの為に、そしてシュバルツバースの奥へ進む為にこの魔人の力は必要だったのだ。
「俺達の旅路に後はねぇ、前に進む。そうだろ? ゴア隊長」
「ああ。ヒメネス、お前の勇敢な決断を私は尊重する」
人間の身体を捨てても成し遂げなくてはならない物がある。自分が生きる事だけを考えていた俺にしては甘くなったもんだと思いながらも、その甘さはそう悪い物ではないと思えるようになったのも長久のおかげかもしれないと笑うのだった。
【地球を滅ぼさんとするは悔いず、私の生命まで奪いに来たか。破滅の為の進化種人間よ】
最後のセクターホロロジウム、そしてその支配者であるメムアレフは俺達を見据えてそう吐き捨てた。
【かつて我らが共に生きんとした時の面影はもはや無く……人間は醜く堕し、地球を蝕む病魔でしかなくなった。未来を持たず、未来を潰す魂に変じてしまったのだ。貴様達が我ら悪魔を、古の神々を忘れ果てたは不幸であった。己らが全ての中心であると錯誤し……歪んだ魂、堕した魂を再生する術を失ったのだから】
「はっ! てめえらの理屈を俺達に押し付けるんじゃねぇッ!」
「ええ、確かに人間の中にも愚かな者はいる。だけど全てが全てそうではない」
「平和な未来を、地球を救うという願いを持って私達はお前の前に立っているのだッ!」
俺達の言葉にメムアレフは大きく息をつき、その目に宿る光を僅かに柔らかい物に変えた。
【未来を夢見、地球を救うか……大言を良くぞ吐いた。ならば貴様らを試してやろう! 我が名はメムアレフ。地球を覚え、伝える者……
私は守らなくてはならない。この生命あふれる地、地球を!貴様らのような未来を失った魂からッ!】
魂までも震わせるような咆哮をあげるメムアレフに足が竦む。
「怯えてるのか? ヒメネス」
「情けねえな魔人様よぉ!」
「うっせえ! 武者震いだ! 行くぜ、マッキー、タイラー! 未来を掴む為に最初の壁をぶち壊すッ!」
「その通りだ! 人間の為の未来を! そして地球を救う為に! 各員気合を入れろッ!」
「「「「イエッサーッ!!」」」
【来い人間共よ! どちらの理が正しいか! 力を持って示すが良いッ!!」
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「ヒメネス。何を考えているのです?」
「ん? ああ、メムアレフをぶっ殺した時の事を考えていた。もしも長久がいなければ俺はきっとメムアレフについていたと思うぜ」
「でしょうね、貴方は余りにもカオスに近い」
「となると私はロウね。あのペ天使と同じ」
「よう、天使人間様。元気そうだな」
「ええ、元気よ。魔人さん」
俺とゼレーニンは戦いの中で人間の身体を捨てた。それが未来を、しいては長久を救う為になると信じてだ。
『諸君。我々は地球を守らねばらない。君達3人だけを送り出すことを許して欲しい』
「かまいやしねえよ、ゴア隊長。俺達が勝手に今の地球を見捨てるんだ、許して欲しいのはこっちのほうだ」
「そうですよ、ゴア隊長」
『すまない。アーサーは君達の補助としてつける。どうか彼の、長久君の力になって欲しい』
メムアレフを倒し、地球を救った。英雄と呼ばれたのは過去の事、シュバルツバース調査隊は今の地球政府にとっては邪魔者であるが、排除出来ないものであった、だからこそ悪辣な手を打ってくる。人間の悪意には底が無い、自分達の地位と名誉を奪うものをとことん妨害する。次のシュバツルバースが出来てもおかしくない今、MAGの流れが大きく変わり、葛葉の資料にあったアカラナ回廊にアクセスする数少ないチャンスが今日だった。
「行って来ます。ゴア大統領」
「ちゃっちゃとあの馬鹿を助けに行ってくるぜ」
「力になれずすいません」
『いや、構わない。さぁ行くんだ。アカラナ回廊は次開くかも分からない、このチャンスを逃してはならない』
ゴア隊長の言葉に頷き、レッドスプライト号へと乗り込む。小型化され大型船舶くらいのサイズになったが、その性能はライトニング号を遥かに上回る最新、最強の艦だ。それでも名前がレッドスプライト号のままなのは簡単な話だ。
『澪、ヒメネス、ゼレーニン。掴まってください、直ちにスキップドライブを実行します』
司令部に入るなり掴まれというアーサーだ。アーサーがいるからレッドスプライト号のままなのだ。そしてアーサーもまた長久を探す旅路に同行することを望んだ1人である。
「妨害者がいるのですか? アーサー」
『その問いにはYESといいましょう。私を回収しようと桐条が動いています」
「しつこい奴らだな、よし、OKだ! アーサー!」
「私も大丈夫よ!」
『了解、スキップドライブを実行します。進路はアカラナ回廊。時空の乱気流を越え、未来、あるいは過去を目指します』
凄まじい振動が俺達を襲い、上空へ見える空の亀裂へとレッドスプライト号は加速する。
「俺達の道は過去か、未来か? どっちだと思う。澪、ゼレーニン」
「どちらでも良いですよ。若様と再び出会えるなら」
「貴女はぶれないわね、澪」
「ほんとだな」
『おしゃべりはそこまでです。時空の乱気流へ突っ込みます!』
過去と未来へと繋がるアカラナ回廊へと突入する。2度と戻れぬ一方通行の道だったとしても、その先に進むと決めた。
(まずは1発引っぱたいてやるかね)
なんでもかんでも背負い込んで思いつめているであろうあの馬鹿を引っぱたいてやると笑いながら俺達は次元の狭間へと旅立っていくのだった……。
4週目の世界 後日譚その3へ続く
4週目の世界からゼレーニンとヒメネスが同行して澪が旅立ちました。ヒメネスは魔人ヒメネス(リアル変身可能)。天使人ゼレーニン(頭メシアンではない)とクラスチェンジしているので、次回はゼレーニンの変化の所を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうか宜しくお願いします
おまけ
魔人 ヒメネス
物理耐性 火炎吸収 光・闇無効
パッシブ
銃撃ブースタ 銃撃ハイブースタ 火炎ブースタ 火炎ハイブースタ 勝利の息吹 不屈の闘志 劫火の魔人(銃撃・火炎貫通 HP・MP20%UP)
スキル
刹那五月雨撃ち ケイオスタック 地獄の業火 マハラギダイン メギドラ デカジャ デクンダ レフトハンド ライトハンド