4週目の世界 後日譚その3
何が正しくて、何が間違っているのかをずっと私は考えていた。善人と悪人と分かりやすい善悪があれば良いが、どんなに正しい人の中にも悪い部分はあり、どんな悪人にも正しい部分がある。白か黒かなんてはっきりと分けれるほうが稀、人間はその狭間で迷い、苦しみ、後悔しながら正しい道を模索する。それこそが正しい人間のあり方だと私はそう思う。
【どうです、素晴しいでしょう! これが天使の歌唱。神の導きの光なのですッ! さぁ歌唱を受け入れるのです!】
耳障りな声を上げるマンセマットはもう天使だとは思えない。マンセマットの所業は許されざる悪の所業だ。
【LALA~】
【あ、ああああッ!】
【LA……け……LA……】
葛葉、南条、桐条の悪魔使いには思うところがある。長い間長久の事を虐待していたことを思えば、それは紛れも無く悪の所業だ。だがだからと言ってマンセマットの羽を頭に植え付けられ、血反吐を吐きながら血涙を流しながら助けを求めながら歌っている姿は憐れであり、可哀想だと思う。
「あああッ! がぁぁあああッ!!」
「頭がッ! 頭が割れるッ!!」
「ぐ、ぐううおおおおおッ!!!」
幾重にも響く神を讃える歌に調査隊の皆が苦しんでいる。頭の中に流し込まれる神の教えという名の洗脳に抗い、血涙を流しながらその音へと必死に抗っている。
【受け入れなさい、これが神の教え。神の救いなのですよ】
どこまでも傲慢に自分達が正しいと言うマンセマットを睨みつける。
【何故抗うのです。ゼレーニン、貴女は私の教えを受け入れたのではないのですか】
「ち、ちがう……神の教えはそんな物じゃない」
【人間の分際で何を、人間如き矮小な存在が神の教えを説くなど許されることではないですよ、やりなさい】
マンセマットが手を上げると天使の歌唱を歌っている悪魔使い達の声が私へと向けられる。
「うっぐう……主よ……我らが神よ……」
マンセマットの教えではない、私が信じる。父と母と共に信じた神への祈りを捧げる。
【神へ祈りながら何故私を拒むのか理解できませんね】
「違う……から」
マンセマットの教えも、マンセマットが信じる神も私の信じる神ではないと断言出来る。
「天にまします……我らの父よ。願わくは御名を崇めさせたまえ……」
震える声で、マンセマット達の歌唱に抗いながら必死に祈りを捧げる、
「御国を来たらせたまえ……御心の天になるごとく……地にもなさせたまえ」
苦しむ澪達を見ればマンセマット達の歌唱が禄でもないことはすぐに分かる。力を持つ、私達を取り込みに来たのだ。
「我らの日用の糧を……今日も与えたまえ……我らに罪を犯す物を我らが赦す如く……我らの罪をも赦したまえ」
確かに葛葉の悪魔使いは悪行をなした。だがだとしてもその命をあんな風に消して良いわけが無い。
【無駄なことを……早く受け入れなさい、神の教えを】
「我らを試みに合わせず……悪より救いいだしたまえ。国と力と栄えとは、限りなく汝の物なればなり……アーメン」
祈りを続けたが奇跡など起きる訳が無い、頭痛が限界を超え私も澪達と同じ様に地面に倒れ伏せた。
【無垢なる祈り見事なり、汝こそ真なる神の僕。俊樹と同じ様に真なる神の僕なり。力を貸し与えよう、貴女が望む、正しい正義をなすために】
マンセマットとは比べ物にならない神聖な気配を感じた次の瞬間、私は立ち上がって聖歌を口にしていた。
「と言う訳なんです」
「ふうむ……俊樹、確かロウヒーローのオリジナルの名前だったか?」
「あ、ああ。確かにあのドッペルゲンガーはそう言っていたが……ゼレーニンは大丈夫なのか?」
気がついたら私はヒメネスと同じ様に人間ではなくなっていた。ただヒメネスが魔人なのに対して私は天使人……天使の力を手に入れたと言う事でマンセマットとの繋がりを警戒され、大和に検査されていた。
「白だ。マンセマットのような屑な天使じゃない。本物の天使の力を借り受けることが出来たようだ」
「マンセマットとは違うとはどういう意味なのでしょうか?」
「簡単に言うとだな。メシアンは暴走してるキリストの一派だ。本当の意味の天使、シナイ山の山神に従う本当の天使の勢力ということだ」
「本当の天使と今の天使は違うのですか? 大和様」
「全然別物だな。おれはそこまで詳しくは無いが、マンセマット達は他の宗教の神を次々と悪魔へと変えた者であり、自分達だけが正しいという選民思想だ。だが本当の意味の天使の勢力は清らかな物だ。ゼレーニンの力に穢れはない、本物の天使の力だ」
「つまりゼレーニンは味方と考えて良いのか?」
「それに関しては大丈夫だ。むしろマンセマット達の洗脳に対するカウンターになる。マンセマット達と事を構える以上お前の力は切り札になるぞ」
私が切札……そう言われも正直ピンと来なかったが、マンセマット達の洗脳に抗う力になれるなら私はこの力を使おうと思う。
「足手纏いになるかもしれないけど頑張るわ」
私は私に出来る事をする。ゴア隊長達のように悪魔と直接戦う力はないかもしれないけれど、私のこの力が皆の力になるのなら。その為この力を使おうと心からそう思い、この力を使ってマンセマットと戦う事を決意するのだった。
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「結局シュバツルバースが消えても人間のいざこざは無くらないわね、ゴア隊長」
「そうだな、私もそう思う。大統領なんて担ぎ上げられても出来る事など殆どない」
シュバツルバースを破壊した私達は英雄として帰還した。だが英雄と褒め称えられたのは短い間だけ、すぐに私達は邪魔者になり、調査隊同士で連携が取れないように世界各地に転属させられた。
「皆は大丈夫かしら?」
「デモニカは取り上げられたが、悪魔召喚プログラムは皆持っている、最悪になる事はないだろう」
「強かね、アーサー」
『YES。自衛の術は大事ですよ、ゼレーニン』
長久の力を、そしてシュバツルバースの人形とされていた皆の……ユーバー・ゲシュタルトの力を与えられたアーサーはシュバルツバースと共に消え去ったと報告したが、実際はゴア隊長の端末の中に身を潜めていた。
「我々は再び集まる。シュバルツバースの原型の異界が確認された。再びシュバツルバースを発生させるわけには行かないからな」
「ごめんなさい、ゴア隊長。こんな忙しい時に」
シュバツルバースの発生を防ぐ為に戦おうとしているゴア隊長達だけを地球に残して私達は旅立とうとしている。それは酷い裏切りだと私は思っている。
「気にするな、アラカナ回廊は酷く不安定だ。これを逃せば旅立てないかもしれない、むしろ君達だけを送り出す私を許してくれ」
アラカナ回廊……葛葉の里の資料にあった時空の境目。そしてアレックスが私達の時代に来る為に使った時限の狭間……だけどそれは酷く不安定でいつ消え去ってしまうかも分からないものだった。今まで3回確認されているが、1回目よりも、2回目、2回目よりも3回目とどんどん狭間は小さくなっている。
『恐らくこれが最初で最後のアタックです。これを逃せば私達は旅立てない』
「分かってる。分かってるわ、それでも仲間を残していくのは後ろ髪を引かれる想いよ」
「私達は気にするな。私達は私達の戦いをするそれだけだ。さ、出撃準備を急ぐんだ」
「了解です。ゴア大統領」
恐らくこれがゴア隊長達と交わす最後の会話になる。そう分かっていたから敬礼し、大統領府の地下へと足を向けた。
「澪。随分と早いのね」
「私は狙われていますからね。事故に見せかけてずっと地下に潜んでいましたよ」
「とんでもない事をするわね」
「必要なことですから、それよりもゼレーニンも準備を急いでください。アラカナ回廊は悪魔の巣窟、突入と同時に戦闘になることも考えられますよ」
「分かったわ。ところでヒメネスは?」
「30分もすれば合流しますよ。アラカナ回廊が開くまで後2時間ですからね」
後2時間……あと2時間でこの地球ともお別れと思うと悲しいと思うが、それでも私達は行かなくてはならない。
「今の地球に私達の居場所はないものね」
「ええ、でもそれも仕方ないことです」
葛葉の力を持つ悪魔使いの澪、魔人となったヒメネス、そして天使人になった私。3人が3人とも実験台として追われている。誰もが悪魔使いの力を、そして魔人と天使人の力を求めている。
「だからこそ私達は旅立たないとならない」
「新たな火種にならないためにもね」
私達がいれば争乱はいつまでも終わらない、新しいシュバルツバースの発生を防ぐ為にも、そして長久を救うためにも、私達は時空の狭間に旅立たなければならないのだった……。
4週目の世界 後日譚その4へ続く
俊樹と同じく、本当の意味の天使の力を手に出来たゼレーニンでしたが、その力のせいでシュバツルバースが消えた後の世界で終われる羽目になっておりました。人の業は終わらないって所ですね、次回はゴア隊長視点で後日譚は終わりにしたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします
おまけ
天使人ゼレーニン
物理耐性 光・闇無効
パッシブ
ハマブースタ ハマハイブースタ 電撃ブースタ 電撃ハイブースタ 魔術の素養 気功大 食いしばり
マハンマダイン マハジオダイン 天罰 豪雷 メディアラハン アムリタ サマリカーム