収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

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5週目の世界 偽りの千年王国 その2

5週目の世界 偽りの千年王国 その2

 

待ちに待ったセンターへ行く権利を懸けたコロシアムの決勝当日。リーナの能力ならば間違いなくレッドベアーに勝てると確信していたが、今日はレッドベアーが殺されるのではないかという心配を僅かにしていた。

 

「……浮気者がいない」

 

「長久は仕事だ。終わったらすぐにこっちに来てくれるぜ」

 

ぷくうっと音が出そうなくらい頬を膨らましているリーナの姿に深い溜息を吐いた。

 

(あいつなにやってんだ)

 

長久の奴が昨日美女と一緒に酒場にいたと言う話はヴァルハラエリア中に広がっていた。なんせあの堅物を絵に描いたような長久の浮いた話だ。噂好きの連中がほっておくわけが無いのだ。ヴァルハラエリア最強のデビルバスターの名を欲しいままにし、無冠の帝王と呼ばれている。テンプルナイトと揉めて、センターの居住権とコロシアムへの参加資格を失った。

 

(本来ならあいつはこんなところで燻ってる奴じゃない)

 

テンプルナイトと揉めてなければ長久はセンターで暮らし、テンプルナイトへ就職していてもおかしくないほどの能力を持ったデビルバスターだ。だがあいつはいかんせん、正義感が強すぎた。下っ端のテンプルナイトがリーナや、ヴァルハラエリアの幼い少女を強姦しようとしたのを黙ってみていられなかった。テンプルナイト6名を半殺しにした事で長久はセンターから危険人物と認定されてしまったのだ。

 

「良いかリーナ。長久が会っていた女っていうのは長久が面倒を見てもらっていた恩人だそうだ。お前が思ってるような関係じゃない、お前と長久の関係のようなもんだ」

 

「……むう……」

 

「浮気とかじゃねえんだ。長久の奴だって本当はお前の試合を最初から見たいって思ってるさ。だが仕事じゃしょうがねえ」

 

また名前つきの凶暴な悪魔が現れたんじゃしょうがない、長久がいなければヴァルハラエリアのデビルバスターでは手も足もでない相手だ。

 

「仕事がおわりゃああいつはすぐに来るさ。だからまずはリーナ。お前はコロシアムの迷路で道具と装備を整えろ。良いか、すぐにレッドベアーに挑みに行くなよ? あいつはあいつで長久に鍛えられてるからそれなりに強い。良いかお前の長所を生かせ」

 

「長所……悪魔を召喚できる」

 

「それだ。まずは装備、次に仲魔だ。安全マージンを取って慎重に戦え。そうすりゃあレッドベアーと戦う頃には長久もコロシアムに来る」

 

「……分かった」

 

「良し、良い子だ。じゃあ行くか」

 

「うん」

 

リーナだけでコロシアムに行かせるのは些か不安だったのでワシもリーナと共にコロシアムへと向かう。

 

(長久……おめえが導き手なのか?)

 

コロシアムのチャンピオン達の銅像。その中に1つだけある顔のない像……カオスヒーロー、ロウヒーロー、そしてザ・ヒーローの導き手となった最強デビルバスター。ワシも若い頃には導き手がワシを導いてくれるのではないかと思ったこともある。まぁそんな事は無かったのだが……リーナは長久に鍛えられ、メキメキとその才能を伸ばした。ワシがキラーツネと呼ばれた現役時代頃よりも今のリーナは強い。記憶が無く、感情も希薄、人形のようだったリーナが長久に出会って生き生きとしだし、そしてその能力を爆発的に成長させた。それはワシに長久が導き手だと確信させる物なのであった……。

 

 

 

 

リーナがコロシアムの決勝へ挑むその日。俺も最初はリーナと共にコロシアムに向かうつもりだったのだがネームド悪魔の出現の警報に俺はそちらに当る事になってしまった。

 

【ヒャハハハハ!! ヒャハハハハハハッ!!】

 

ヴァルハラエリア周辺に出現する屍鬼ゾンビの高位変異態「血塗れ軍鬼」が振るうサーベルと麻痺や毒の状態異常が付与された銃弾の雨はかなり厄介だった。

 

「長久。どうする?」

 

「一応聞いとくがハマ持ちはいるか?」

 

「……いない」

 

「だよな」

 

ゾンビを相手にするならハマ系の魔法が有効だが、生憎俺含めてハマ系の魔法を使えるデビルバスターはこの場にいない。

 

【でてこおおおい! 非国民どもがあああッ!!】

 

銃が発射される音があちこちに響くのを見て不味いと顔を歪める。

 

【ヒホ? 人間だホー?】

 

【きゃはっ! 遊び道具が来てくれんだ! うっれしーい♪】

 

【グルルグガアアアッ!!】

 

銃声に反応して周辺の悪魔が次々と集まってくるのを見て、俺はスライサーを腰の鞘から抜き放った。

 

「雑魚悪魔は任せる。血塗れ軍鬼は俺が叩く」

 

「しかし長久さんあんた1人じゃ」

 

「このまま雑魚が増え続けるとあの化物は倒せなくなる。雑魚悪魔ならあんた達でも大丈夫だろ? さっさと倒して援護に来てくれ。頼むぜ!」

 

そう叫んで血塗れ軍鬼がリロードしている隙を付いてスライサーで切り込む。

 

【ぬううッ!!】

 

「ちい! 早いッ!!」

 

本能で戦っているくせに反応速度が早い、突きということもあり必中を確信していたが、それを弾かれた事でプランの変更を余儀なくされた。

 

「喰らえッ!!」

 

【シャアッ!!】

 

腰に捻じ込んでいたニューナンブを抜き放ち火炎弾を発射するのと、血塗れ軍鬼が毒々しい色の爪を振るってくるのはほぼ同じタイミングだった。

 

「っちい!」

 

銃と爪では銃の方が早いが、血塗れ軍鬼は肘を千切って伸ばした事でリーチを伸ばし、それが僅かに脇腹を掠める。

 

【ギイイヤアアアアッ!?】

 

ゾンビの弱点はハマとアギ。火炎に飲まれて絶叫する血濡れ軍鬼を睨みながらポーチから取り出したディスポイズンの丸薬を取り出してそれを噛み砕きながら血塗れ軍鬼との間合いを詰める。

 

「はぁぁッ!!!」

 

炎に巻かれている血塗れ軍鬼にスライサーを何度も振るう。スライサーが命中するたびに血塗れ軍鬼の身体からMAGが溢れ出す。

 

「貰うぜ! てめえのMAGをッ!!」

 

【グ、グガアアアアアッ!!!】

 

記憶の無かったこの世界の本来の長久はMAGを吸収する技術が無かった。だが俺がMAGを吸収する術を持っていることで血塗れ軍鬼のMAGを自身のMAGへと変更し、血塗れ軍鬼が握っていたコルトパイソンを拾い上げ、その銃口を血塗れ軍鬼へ向ける。

 

「返してやる。てめえのMAGだッ!!」

 

【マハラギオン】

 

轟音と共に放たれた炎の渦が血塗れ軍鬼を飲み込み、血塗れ軍鬼はろくな抵抗も出来ずその身体を消し炭に変えた。

 

「はぁ……はっはッ!」

 

心臓が痛み胸を押さえて蹲ると雑魚悪魔を倒したデビルバスターたちが駆け寄ってくる。

 

「大丈夫か!?」

 

「毒か、麻痺か!?」

 

「い、いや……無理をしただけだ……少し休めば……治る」

 

MAGを吸収し、運用するだけの能力が肉体に無かったようだ。血塗れ軍鬼のMAGを自分のMAGに変換した事によるダメージが思った以上に大きかった。

 

「さっきの炎か、何をしたんだ?」

 

「切札だよ、俺のな。使うつもりは無かったんだが、手段を選んでる場合じゃないだろ?」

 

血塗れ軍鬼の恐ろしい所はゾンビを次の自分に変える事だ。戦いの中でゾンビが次の血塗れ軍鬼になるのを阻止するには血塗れ軍鬼のMAGを利用するほかの方法が無かった。

 

「お前でもそこまで消耗するほどの切札か、ソロで使うなよ」

 

「そうですよ、長久さんがいないとヴァルハラエリアの防衛力はガタ落ちですからね」

 

「分かってるよ……ふう」

 

その場に座り込んで息を整えようとするが心臓はバクバクと脈打っているし、身体も軋んでいる。

 

(……先に1度試しておいて正解だったな)

 

ただ1回使うだけでこれ、もしも強大な悪魔と戦っている時にこんな隙を見せればその瞬間に死だ。先にMAG吸収、反射のデメリットを知る事が出来たのは幸いだった。

 

「リーナの決勝戦があるんだ。いってやらないと」

 

「車を出してやる! そんなふらついた状態でコロシアムにいけると思うなよ! おい、車を回してくれ」

 

「了解! ちょっと待っててね」

 

車を取りに行ってくれるデビルバスターの同僚に軽く頭を下げ、崩れている建物の壁に背中を預けて俺は大きく息を吐いた。

 

「あんまり無茶するなよ。リーナちゃんが泣くぜ」

 

「あんな良い子を泣かすなよ」

 

茶化すような口調ではなく、真剣そのもので責める様な口調で言うヴァルハラエリアのデビルバスターの室長と実働部隊のリーダーに俺は搾り出すように分かったと返事を返すのだった……。

 

 

 

 

レッドベアーとリーナの戦いをアタシは怖くて見ることが出来なかった。レッドベアーの強さは鍛えて来たアタシが言うのだから本物だ。だがリーナの強さはその上を行く……。

 

「トドメだけは刺さないでよ、リーナ」

 

あの馬鹿の岡本が見つけてきたとは思えない天賦の才能を持つリーナ。レッドベアーは強くはあるが努力の天才だ。天才型のリーナとは雲泥の差がある。だがリーナとの戦いで生き残る事が出来ればレッドベアーは更なる高みにいける。仮にアタシのジムを岡本に取られたとしても、それを差し引いても十分すぎるお釣がある。

 

「羽田さん? あんたこんな所で何してるんだ?」

 

「長久。ふん、あんたを待ってたのよ」

 

「俺を何で?」

 

「あんたがトドメを刺すなって言えばリーナはレッドベアーを殺さないでしょ!? その為よ!」

 

別にコロシアムの勝敗の決め方は生死だけではない、完全に戦闘不能と判断されればそれで決着になる。アタシと岡本の戦いがそうだったように……。だけどリーナは手加減って言葉を知らないので止める事が出来る長久が来るのを待っていたのだ。

 

「あーそれは悪かった」

 

「別に良いわよ。まだ決勝は始まってないし、アタシを待たせた分付き合いなさいよ」

 

ホールオブフェイムはコロシアムの決勝の日しか一番奥までいけない。リーナを止める目的もあったが、長久と共にホールオブフェイムへ向かうのもアタシの目的の1つだった、

 

「大友アキラは割と最近の優勝者ね。長久、あんたはアキラの強さの秘密はどこにあったと思う?」

 

身体は小がらで膂力に劣り、スピードも決してあるほうではなかったがアキラは強かった。その理由は何処にあると思う? と尋ねると長久は大友アキラの像を見上げた。

 

「補助魔法に秀でていたのと、相手の力を利用する術が得意だったんじゃないか? 相手が小柄であれば侮る馬鹿が多い。それを利用したんじゃないか?」

 

「なるほどね、そういう見解もあるわね」

 

やはり長久の観察眼は鋭い。大友アキラが活躍した時代は補助魔法が軽視されていた。補助魔法を使うなら相手を叩き潰せば良いっていうが基本的な考えだったからだ。

 

「キングマッスルとかは地力の強さで押し勝てるタイプだったな」

 

「ええ、それに不思議とあいつの攻撃は致命傷になりやすかったのよね」

 

鍛えに鍛えた肉体を武器にした力任せな戦いが主だったが、致命傷を紙一重で交わしたり、逆に致命傷を相手に与えたりと不思議と運に愛された男だった。歴代のチャンピオンの像とその戦い方の話をしていると長久が足を止めた。

 

「あんただな。羽田さん」

 

「ええ、現役時代のアタシね」

 

フェザーアドニスと名乗っていた頃の自分の銅像を見上げながらアタシは長久へ問いかけた。

 

「現役時代のキラーツネとアタシがもう1度再戦したらどっちが勝つと思う?」

 

「分からないな。あんたと岡本さんの実力は互角くらいだろ?」

 

「あんたの目から見ても分からない?」

 

「分からんよ。少なくとも今の俺と現役時代の羽田さんと岡本さんのどちらかが戦ったとして、楽に勝てるとは到底思えんしな」

 

長久はレッドベアーよりも、リーナよりも強い。そんな長久から勝てるか判らないと言われたのは正直気分が良かった。

 

(未練はあったしね)

 

岡本の馬鹿はアタシとの決勝の前に悪魔と戦い目を負傷していた。それによってあいつの持ち味だった素早さと恐ろしい速さの連続攻撃が見る影も無かった。そんな岡本と戦って勝っても不完全燃焼だった。再戦を望んでもあいつは隻眼になってしまい、しかもアタシとの戦いの中での怪我が原因で再戦も出来ず、酒とギャンブルに落ちぶれた岡本を見ているのはアタシも思うところがあった。だからあいつの借金を肩代わりしたのよねと思いながら通路を進んでいると目的の銅像の前に辿り着いた。

 

「カオス、ロウ、そしてザ・ヒーロー。最強の3人ね、どう……」

 

思うと言葉を続ける事が出来なかった。懐かしさ、悲しさ、苦しみ、嘆き……複雑な感情を宿した目で最強の3人を見つめている長久の姿は余りにも儚くて、今にも消えてしまいそうだった。

 

「まぁこの3人が強いのは当たり前、長久。あんたはこの人をどう思う?」

 

3人の銅像のあるフロアから鍵がかけられている特別な部屋の扉を開き、そこに隔離されている1体の銅像の前に立った。

 

「この像は?」

 

「顔のない像。希望の像、マダムが作った最強の3人を導いた者の姿写しよ」

 

若い時に見たままだったからうろおぼえだったけど、長久と共に見てアタシは振り返りながら長久へ問いかけた。

 

「あんたなの? あんたが希望の導き手なの?」

 

顔がなくてもアタシには希望の導き手の像と長久が同じに見えた。希望の導き手は人類の窮地に現れ、希望へと繋ぐ者。もしも長久が希望の導き手だというのならば今の人間では太刀打ち出来ない脅威が迫っていると同意義だ。

 

「俺はそんな大したもんじゃないし、導くなんて事も出来ないよ」

 

「でも」

 

「違うって、本当に俺はそんな大したことが出来る男じゃない。俺に出来るのはいつだって残酷な選択を押し付けることだけだからさ」

 

後悔しているように見える長久に謝らなければならないそう思ったのだが、今声を掛ければ、触れてしまえば崩れて消えてしまいそうな姿にアタシは動く事が出来なかった。

 

『本日のメイン・イベント! トーナメント決勝戦を行います! チャンピオンを争う戦士は……レッド・ベアーッ! そして リーナッ! READY……GOーッ!』

 

「本戦が始まるみたいですね。行きましょうか」

 

「え、ええ。そうね」

 

レッドベアーとリーナの戦いが始まるというアナウンスが響いた瞬間に長久はアタシの知る長久と同じ雰囲気に戻っていたが、アタシは軽率に踏み込んではいけない場所に踏み込んでしまった事を後悔しながらホールオブフェイムを長久と共に後にするのだった。

 

(武と俊樹……か、ああ。思い出せたな)

 

自分をモチーフにしたであろう銅像を前にし、長久はカオスヒーロー……いや武と俊樹の名前を思い出せたが、ザ・ヒーローと呼ばれる少女の名前はぽっかりと穴が空いたように思い出すことが出来なかった。それが羽田の感じた長久の悲しみと苦しみの理由なのだった……。

 

 

 

遠い過去にて共に旅をした者の想いが長久の失われた力を呼び覚ます

 

武の想い アギ・アギラオを思い出した 力・耐+2

 

俊樹の想い ジオ・ジオンガを思い出した 速・魔+2

 

百合子の想い 魅了無効・精神耐性を習得 運+4

 

??? 0→ ??? LV1

 

魂のメダリオン 4%→12%

 

火炎ブースタ(弱)

銃撃ブースタ(弱)

 

を習得しました。

 

 

 




5週目の世界 偽りの千年王国 その3へ続く

次回レッドベアーとリーナの闘いを書いて行こうと思います。この羽田とのイベントでメダリオンに魂の欠片が回収され、火炎ブースタ、銃ブースタが追加されました。何かのつながり、翔子達の痕跡を見つけると少しずつパワーアップしていくのが今回の長久さんとなります。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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