収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

79 / 114
5週目の世界 偽りの千年王国 その3

5週目の世界 偽りの千年王国 その3

 

センターへの居住権を賭けた決勝戦が行なわれるコロシアムは異常な熱気に満たされていた。リーナの身長は160にも満たない152Cm、それに対してレッドベアーは2m近い巨漢であり、羽田ジム最強の男。普通に考えればレッドベアーの圧勝と考えるのが自然であり当然だ。だがリーナとレッドベアーのトトカルチョの払い戻しの倍率は両方とも同じ。それはコロシアムの運営が2人の実力がほぼ同じだと考えている証拠だった。

 

「どちらも長久に指導を受けているからな……前評判だけじゃ分からないな」

 

「ヴァルハラエリア最強のデビルバスターが師匠だからなあ……」

 

ヴァルハラリエア、そしてコロシアムでも長久の名前は知り渡っており、今まで弟子を取らなかった長久が指導した者同士の戦いという事で誰にも予想がつける事が出来ないでいた。

 

「マダム。レッドベアーとリーナどちらが勝つと思いますか?」

 

「リーナが勝つわ。間違いなく」

 

貴賓席で戦いを見ていた1人の男が金髪の女性にそう問いかける。すると女性……ヴァルハラエリアの支配者であるマダムは迷う事無くリーナが勝つと断言した。

 

「ほう? それは何故ですかな?」

 

「私の勘ですわよ」

 

勘と言ったマダムだが、実際は勘ではなく確信であった。コロシアムの席に座れなかったのか立ち見をしている1人の男を見たからこそ、マダム……いや、かつてアオイと呼ばれた女は運命が再び動き始めたと理解したのだ。

 

(……やっとですね。長久さん)

 

翔子達が姿を消し、五島と共に気が遠くなる年月を天使と戦い続け、転生を幾重も繰り返し何度も戦い破れ、ほんの僅かな人間を生かすためにTOKYOミレニアムの支配者として天使の傘下と成り果て、従い続けて来た。気が遠くなる時間、それこそ発狂してもおかしくないほどの時間を生きてきたのは再び長久がこの世界へやってくる事に縋り、信じ待ち続けてきたのだ。

 

(あの子を導く事が今の貴方の使命なのですね、長久さん)

 

悪魔を召喚し、レッドベアーと対峙するリーナの姿にコロシアムにざわめきが広がるのを見てアオイは小さく微笑んだ。

 

「これは驚きました。分かっていたのですかマダム」

 

「勘ですわよ。それよりもこの戦いを見ましょう、きっと素晴しい戦いになると思いますわよ」

 

そう世界を変える戦いが再び始まろうとしているのだと私は確信し、リーナ、そしてレッドベアーの今の力がどの程度の物か見極める為に2人の戦いに視線を向ける。そこではリーナの召喚したオラクルス、ノッカーがレッドベアーの振るった一閃によってMAGの粒子へとその姿を変え、それを見たリーナはハイピクシーを帰還させスライサーを構えてレッドベアーと対峙している姿だった。

 

「ザ・ヒーローのように悪魔を使役できるようですが、あまり優秀ではないようですね」

 

「まだ経験が足りないのでしょう。ですが彼女は上手くやっていると思いますよ」

 

ノッカーのタルカジャによって自身の力を強化し、オラクルスのラクンダとタルンダでレッドベアーを弱体化させた。

 

(なるほど基礎は押さえているようですね)

 

悪魔と戦う上での基礎は補助魔法にある。ヴァルハラエリア周辺では補助魔法を使える悪魔はさほど多くないが、タルンダとラクンダを使えるオラクルスを仲魔にしていたのは正解だ。力不足と体力不足を補う良い一手だったし、ハイピクシーを帰還させたのはディアを使える悪魔を温存するためだろう、もしくはレッドベアーの動きが鈍くなってからジオンガを当てて畳み掛けるつもりだろう。その姿を見たからか長久さんが僅かに前傾姿勢になったのを見た。

 

(なるほど……リーナに殺させるつもりはないという事ですか)

 

レッドベアーも長久さんは戦力として考えているのだろう。いざとなれば割り込んでくるだろうが、コロシアムの決勝は何も殺す事だけが決着の条件ではない。悪魔使いとしての力を見せたリーナと4対1と圧倒的な不利な条件でも互角以上に戦って見せたレッドベアーは十分に力を見せた。ならば決着の条件としては十分だろうと私は考え、背もたれに深く背中を預けた。今の私には戦いの決着よりも、何百年ぶりに会うであろう旧知の恩人と再会出来るかもしれないという事の方がよっぽど大事だったのだ。

 

 

 

目の前を走る白刃をコロシアムの通路で手に入れたガントレットを駆使して受け流し、反撃にブレードを突き出す。

 

「当らないよ」

 

地面を蹴り舞うように飛び上がったリーナは俺の剣を簡単に回避し、俺と一定の距離を保ち片足でリズムを刻んでいる。

 

(……力が入らない……厄介だな)

 

ノッカーとオラクルスの補助魔法が想像以上に厄介だ。ラクンダとタルンダを重ね掛けされる前にと速攻を仕掛けたが、それでもタルンダを2発食らったのが痛い。

 

(悪魔使い……だからあの人が面倒を見ていたのか)

 

ザ・ヒーローと同じ悪魔使い。まさか生きている間にお目にかかるとは思わなかったが……。

 

「相手にとって不足なしッ!!」

 

タルンダによる力の弱体化など今まで何度も経験している。それにその程度で戦えなくなるのでは長久に頼み込んで師事を受けた意味が無い。

 

「はぁッ!!」

 

「……長久と比べれば遅い」

 

「だろうなッ! あの人は強いからよッ!!」

 

地面を蹴って逃げるリーナを追うが距離を全く詰めることが出来ない。

 

(スクカジャかスクンダを使ってるんじゃないだろうな!?)

 

この辺りではスクカジャなどを使う悪魔はいないと分かっていても、補助魔法を使っているんじゃないかと思うほどにリーナは素早かった。スライサーを下から切り上げ、回転しながら横薙ぎを放ってくる。

 

「くうっ!」

 

咄嗟に防いだが勢いの乗っているリーナの一撃の方が重く、大きく弾き飛ばされる。

 

「見かけ通り頑丈」

 

「そういうお前は見掛けとおり早いな!」

 

タルンダとラクンダが響いているとは言え、それを差し引いてもリーナは強い。少なくとも今の俺よりもずっと強いが……。

 

「「長久より弱いッ!」」

 

互いに長久に師事した者同士だ。相手の力量は十分に把握出来ている。だが悪魔が蔓延る世界という事を考えれば自分よりも強い相手と戦うなんてざらにある。長久という圧倒的な強さの指標を知っているからこそ、この程度の力の差で心が折れることはないと吼え、俺はブレードを手にリーナへと向かって行くのだった……。

 

 

 

決勝戦のリングで戦っているリーナとレッドベアーの会話に俺は頭を抱えていた。

 

「あいつら何言ってるんだ」

 

目の前の相手よりも俺の方が強いとか言うのは止めて欲しい。

 

「随分と好かれてるみたいじゃねえか、ええ? 長久」

 

「そうね。家の最強まであんたを尊敬してるじゃない」

 

羽田さんと岡本さんのからかうような言葉に勘弁してくれよと両手を上げる。

 

「はっ、てめえとまた顔を見合わせるとはな」

 

「そうね。でも良いじゃない、互いのジムの戦士同士の決勝戦なんだもの、会うこともあるでしょう?」

 

舌打ちする岡本さんだが、その表情は少しばかり楽しそうだ。

 

「どっちが勝つと思う?」

 

「今の段階では互角でしょう」

 

タルンダとラクンダによる弱体化を仕掛けてから戦闘に入ったリーナは俺の教えを忠実に守っている。だがレッドベアーの体力と腕力は並じゃない、タルンダとラクンダを使ったとしても完全に弱体化させるのは難しいだろう。

 

「勝負を分けるのはリーナの悪魔召喚ね」

 

「だろうよ、ハイピクシーを温存してるからな」

 

ジオとジオンガという2種類の電撃魔法に相手を幸福感を与えて思考能力を奪うハピルマにディアと攻撃、状態異常に回復と非常に手札が豊富なハイピクシーが勝負を分けるのは間違いない。

 

「レッドベアーもそれが分かってるから距離を離させないわね」

 

「召喚した瞬間に切り倒すつもりか、はっ! 悪魔との戦い方を良く理解してるな。ええ? 長久」

 

「俺のせいじゃないですよ? 強いて言えばあんたの借金のせいだ」

 

岡本さんの借金のせいで、羽田ジムに行ってレッドベアーを鍛えたのだ。

 

「お金の分はちゃんと仕事をしてくれて助かるわー」

 

「借金を肩代わりして貰ってますからね。でもまぁ……勝つのはリーナですけどね」

 

悪魔を召喚出来るとしてもそれはリーナの力の1つに過ぎない。ハイピクシーは確かに勝負を分けるだろうが……仮に召喚出来なくともリーナの方が地力がある。

 

「弟子より恋人かしらん?」

 

「恋人とかじゃないですよ。羽田さん、確かにレッドベアーは強い。あいつの戦い方と噛み合う相手と戦えば負けの目は限りなくゼロだ」

 

レッドベアーの強靭な肉体と恵まれた身体能力は真っ向から勝負を挑んでくる相手ならば間違いなくフィジカルの差で勝利出来るだけの能力はある。

 

「俺はリーナに逃げ回りながら戦えと常に教えましたし、相手の虚を突けとも教えました。だからリーナが真っ向からレッドベアーと戦う事はないですよ。このままリーナの土俵でレッドベアーが戦えば、羽田さんには悪いですがレッドベアーは負けます」

 

スピードを生かし、その柔らかい身体を生かして戦うリーナはレッドベアーとの相性は極めて良い、挑発でもされない限りは安全マージンを取り接近戦を挑むことは……。

 

「お前ちんちくりんだから長久に相手にされてないんじゃないか? 胸だけ大きくても変だ」

 

レッドベアーのその一言で熱狂の渦だったコロシアムが静寂に満ちた。

 

「もう少し顔付きが大人っぽくて背丈があれば誰もが振り返るのにな、惜しい奴だ」

 

レッドベアーは心からそう言った訳ではない、リーナのスピードについていけず、このままでは遠くない内に切り倒されると判断し挑発する事でリーナを乱そうとしたのだ。ただレッドベアーにとっての不幸は色恋など経験しておらず、強くなることに我武者羅だったレッドベアーは恋する乙女や触れてはいけない部分についての知識が余りにも欠如していた。

 

「……死なす」

 

そしてあらゆる感情が抜け落ちた表情のリーナを見て、俺達は示し合わせたわけでは無いが、全く同時に十字を切っていた。

 

「がぁッ!?」

 

よりによって1番してはいけない挑発したレッドベアーの顔面にリーナの飛び膝蹴りが突き刺さった。

 

「お前は言ってはいけない事を言った。なので殺す」

 

「がっ!? げっ!? ごぼッ!?」

 

機械のように無表情で淡々とレッドベアーの顔面に拳を振り下ろし続けるリーナ。しかもただ殴りつけるのではなく、人中や眼、鎖骨など人体の急所を徹底的に打ち抜いている。

 

「やれーリーナ! ぶっ殺せぇ」

 

「女の身体的特徴を馬鹿にする奴は殺せーッ!」

 

「ひ、ひんにゅーは希少価値だから……ステータスだからぁ……ッ」

 

「殺せぇ! 人の身体的特徴を馬鹿にする奴は殺せぇ!」

 

「俺は好きで禿じゃねえんだよボケガアアアアアッ!」

 

レッドベアーの挑発はコロシアムにいる女性陣を完全に敵に回し、容赦のない罵声がレッドベアーへと飛び交う。いやそれだけではなく、容赦なく観客席からゴミや石が投げ付けられレッドベアーを打ち据えている。

 

「羽田よお、流石にあれは不味いだろ?」

 

「分かってるわよッ! あの子、何て馬鹿な事をッ!」

 

センターの居住権を懸けた戦いだった者はレッドベアーの処刑へと何時の間にか変わっていて、どこから持ち出したのか分からない十字架にレッドベアーを括りつけるリーナを見て大変な事になってしまったと俺は天を仰ぐのだった……。

 

なおレッドベアーは十字架に縛り付けられ火あぶりにされる寸前でコロシアムのスタッフによって救出されたが、リーナはそれでは納得しなかったようで……。

 

「がああああああッ!」

 

「倍プッシュ」

 

「ぐおおおおおお!?!?」

 

レッドベアーを石抱きさせて、嬉々とした表情で重りを載せ続け、控え室にレッドベアーの絶叫が数時間に渡り響き続けるのだった……。

 

 

5週目の世界 偽りの千年王国 その4へ続く

 

 




レッドベアーを何とかして生存させたかったのでギャグルートにして見ました。身体的コンプレックスとか普通に言いそうなのでまあギャグとリーナにトラウマを刻み付けられて服従になったレッドベアーとか面白いかなと思ってやって見ました。次回はマダム改めアオイとの再会を書いて行こうと思いますので次回の更新もどうかよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。