収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

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2周目の世界 存在しない時代 その2

 

2周目の世界 存在しない時代 その2

 

千代子達ライドウ候補生の中に混じって俺も鍛錬を行う事になったのだが……悪魔使い、帝都の守護者となる為の鍛錬の第一歩は……。

 

「はっ!」

 

「よっ!!」

 

師範の攻撃に合せての前転でした……皆凄く真剣にやっているけど、この前転に何の意味があるのかと思わず首を傾げてしまう。

 

「若様は葛葉式回避術の鍛錬は初めてでしたね。ご説明させていただきます」

 

……まってこの前転は葛葉式回避術って立派な名前なの? 前転じゃなくて、ちゃんと意味のある行動だったのかと驚いた。

 

「悪魔や悪魔使いとの戦いは基本的に乱戦になる事が多く、悪魔の攻撃範囲は極めて広い物で盾などで防ぐよりも回避する事が確実です。悪魔と力比べをするのは自殺行為ですからね」

 

確かにそれは良く分かる。葛葉の里を飛んでいる小人のピクシーも普通にその身体の大きさからは信じられない物を運んでいるし……戦闘に適していないピクシーでそれだけの力があるのだ。戦闘に適している悪魔がどれだけの力を持っているのかと言うのも容易に想像が付き防ぐのが無謀というのもすんなりと納得出来た。

 

「前転しながら頭部・背中に高密度のMAGを纏う事で攻撃を防ぎながら間合いを取る為の技術です。卓越してくると悪魔の広範囲の攻撃手段である「マハ」の呪文すら無傷で避けれるようになります」

 

それは嘘だろ……いくらなんでも前転で魔法を避けれるようになるとかありえないだろ、いやでもここ数日見てきた物を見ればありえない事も無いのだろうか?

 

「ではやってみましょう。MAGを身体に纏い、前に飛び込むように前転。その後は攻撃しやすい構えに移ってください」

 

師範が飛び込み前転をし、腰に挿している木刀を抜いてみせる。え? 木刀を腰に挿したままやるのか?

 

「どうぞ、若様」

 

千代子違う、俺は木刀を探してたわけじゃない。木刀を腰に挿したまま前転するのに驚いているだけなんだ……とは言え木刀を差し出してくる千代子をそのままにしておくわけにも行かず木刀を腰に挿す。

 

(思ったより重心がぶれるな)

 

当然ながら木刀を差している方に身体が傾いている感じがするが、千代子達と同じライドウ候補生と千代子も俺を見ているのでやるだけやってみるかと道場の床を蹴って飛び込み前転を行なう。木刀を腰に挿したままの前転なんて絶対失敗すると思ったのだが……俺の意思に反して俺の身体は驚くほどにスムーズに前転を行い、腰に挿した木刀を抜き放って師範の方に切っ先を向けて構えていた。

 

「素晴らしい、流石若様ですね。これほど鮮やかな回避術を見たのは久しぶりです」

 

師範の賞賛と千代子達の拍手の音を聞きながら再び腰帯に木刀を通した。

 

(……なんだ、今の感覚は……)

 

こんな動きをした事なんか1回もないのに――俺の身体はそうするのが当然と言わんばかりに動いた。これが葛葉長久の記憶なのだろうかと困惑と俺は本当に何者なんだと言う疑問を抱きいていると師範に壁際に控えて見ているようにと言われ、俺は道場の壁に寄りかかるようにして座り飛び込み前転から木刀や短刀、銃を模した木片を構えている候補生達の姿を見学する。

 

(脇が開いてる、前転からの体重移動が遅い……ってなんでこんな事が分かるんだよ)

 

俺はそんな動きなんて知らない筈なのに、候補生達の動きの悪い点や改善点がすぐに頭の中に浮かんだ。自分が理解していない筈の事をまるで自分の事のように理解しているという気持ちの悪い感覚に思わず眉を顰める。

 

「どうしましたか若様? 何か問題でもありましたか」

 

「あ、いや、なんでもない。ちょっと考え事だ」

 

師範の問いかけになんでもないと返事を返すと師範はそれ以上追求することは無く、今日の鍛錬は何事もなく終わる――そう思っていたのだが、それはあまりにも甘い考えだった。

 

「では鍛錬の終わりに実戦形式の組み手を行なうッ! 千代子は若様とだ。準備を急げッ!」

 

「分かりました」

 

待って分かってないから! 了承してないからと俺は内心慌てふためいていたが、俺の動揺なんて誰も気にとめることは無く実戦形式の組み手の準備を始めてしまう千代子と師範達の姿を見つめていると候補生の1人が俺の側によって来た。

 

「若様どうぞ」

 

「あ、ああ……ありがとう」

 

着物の中に身につけるであろう防具を差し出され、俺は多分引き攣った笑みを浮かべながらそれを受け取った。同じ様に防具を受け取り身につけている千代子を見て、俺も防具を身につける。

 

(いや、駄目だろ)

 

組み手の準備をした俺の脳裏を過ぎるのは完全な暗殺剣のような構え、多分これが葛葉流の剣術だと思うのだが俺よりも小柄で年下の少女である千代子に向かってそんな技を振るうのは俺には無理で、結局俺の穴抜けの記憶にある剣道の構えを取る事しか出来ないのだった……。

 

 

 

 

 

鍛錬の最後は組手だけど、今回は実戦形式という事でしっかりと防具を身につけ戦う準備をしてから若様と向き合ったのだが、そこで私は内心首を傾げた。

 

(若様はこんな構えじゃ無かった筈だけど……)

 

私はいつものように正眼に木刀を構えたが、若様も私と同じ様に正眼に構えてる事に疑問を覚えた。若様の構えは防御に秀でた霞の構えなのになんで正眼に構えているのだろうかと思ったが、これは実戦形式の組み手だ。若様の考えている事は組み手の中で掴めば良いと短い呼吸と共に木刀を小さく振り上げ力強く踏み込みんだ瞬間――若様の姿が私の視界から消えた。

 

「ふっ!!」

 

すぐに私の攻撃に合せて飛び込み前転で後ろに回ったのだと判断して、木刀を振るうが私の木刀は宙を切っていた。

 

(後ろじゃないッ!?)

 

葛葉式回避術で後ろに回ったと思ったのだが、若様の姿は後にはいなかった。

 

「木刀を持ってるからって木刀でって思うのは考えが甘いんじゃないか?」

 

「ッ!?」

 

若様の声がすぐ横から聞こえたと思ったと同時に腕を掴まれた事を理解し、反射的に地面を蹴って若様の投げから逃れる。

 

「自分から飛んだか」

 

「あのままじゃ腕折られてしまうじゃないですか」

 

「いや、流石に組手で腕は折らないぞ?」

 

流石にそこまではしないと若様は言うが……実戦形式なのだから掴まれた次の瞬間に腕を折られると言うのは十分にありえることだ。

 

「行くぞ、千代子」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

鋭い踏み込みと共に振り下ろされた木刀を辛うじて受け止めるが、凄まじい衝撃が木刀越しに伝わってくる。

 

「くっ!」

 

手が痺れたので打ち合うのは不可能だと判断し、道場の床を蹴って後へ飛んだ。だけどそんな回避は若様にとって想定内なのか、短い呼吸音と共に踏み込んできた若様の横薙ぎの一撃が私の腹を払った。

 

「つうっ……今突けましたよね? なんで払ったんです?」

 

「相手が突きで来るって身構えてる所に突き技を使う馬鹿はいないだろ?」

 

……うっ、図星――若様は突き技が得意なので突いて来た所を返そうと思っていたのを見抜かれていて思わず呻いた。

 

「実戦形式って言うけど、基礎が出来てないのに実戦は無理だろ? 実戦で大事なのは駆け引きだ。相手がどう考えて、どう動いてくるか、そして相手をどう欺くかだ。相手の出方を挫いて、自分の流れを作る事が大事だろ? 実戦形式って言葉に踊らされて基礎を忘れて力づくで相手を捻じ伏せに行くからこうやって返されるんだ。自分が考えているように、相手も考えてるって事を良く考えないとな。それに稽古で学んだ事が全然活かされてないぞ、それじゃあ稽古の意味がないじゃないか」

 

なんか今日の若様はまるで師範のような事を言っていると思った。でも確かに実戦形式だからって相手に勝つ事だけを考えていて稽古で学んだ事を発揮できていないのならば、稽古をした意味が無くなってしまう……。

 

「若様、私が言いたかった事を全部言われてしまっては困ります」

 

「師範、悪いな。でも明らかに冷静さを欠いてるし、怪我したら駄目だろ?」

 

「まぁそうですが……若様に全て言われてしまいましたが、実戦という言葉に踊らされて積み重ねた技術を忘れてしまっては意味がありません。どんな時も冷静に、己が修めた術を忘れず、そして己が生きることを諦めないでください」

 

師範の言葉はとても重く感じた。悪魔使いとなると言う事は悪魔やそして悪魔を悪事に使う相手と戦うという事だ。総じてそういう悪魔使いは里抜けをした者が多く、追っ手を殺して生き延びている――そういう相手はずる賢く、そしてあくどい。冷静さを失っては駄目だと言うのは何度も講義で言われているのに実験形式と付いただけで頭に血が昇った自分が恥ずかしい。

 

「ではもう1度です。今度は冷静に、己が成すべきことをしっかりと考えて組手を行なってください」

 

「もう大丈夫だな? 千代子」

 

「はいッ! 若様ッ!」

 

若様の問いかけに返事を返し、私は大きく息を吐いた。それだけで強張っていた身体が良い具合に脱力するのを感じた。これならば普段通りの実力を発揮出来るはずだ。

 

「行きます」

 

「おう、来いッ!!」

 

若様の胸を借りるつもりで私は木刀をしっかりと握り締め、普段通りに霞の構えを取った若様へと挑みかかっていくのだった……。

 

「うー、若様。もう少し手加減してくれても良いと思うんですよッ! 私これでも候補生で1番優秀なんですよッ!!」

 

「悪かった悪かった」

 

ただ冷静さを取り戻しても若様の方が1枚上で、何度も何度も転がされてただの1度も良い所なんて見せられず、笑われてしまった。私よりも2歳も年上なのだから、もう少し手加減してくれと文句を言うが、若様の態度が子供への扱いに見えてますます私は膨れっ面をすることになり、屋敷へと続く道を夕暮れの光を浴びながら歩いていくのだった……。

 

ライドウ候補生と長久への稽古を終えた師範はその足で長老衆のもとへと向かっていた。

 

「御剣です。若様への稽古の報告に参りました」

 

「うむ、入れ」

 

長老衆の言葉を聞いてから御剣は長老達が集まっているとは思えない、粗末や小屋の中に足を踏み入れた。

 

「御剣よ。長久の腕前はどうだ?」

 

「正しく変幻自在の天賦の剣でございます。候補生と共に稽古を始めて3回目ですが、既に千代子を手玉に取るほどです」

 

「ほほう、千代子をな……やはり長久は神の子か」

 

「悪魔使いの修行とは距離を取って剣術や体術の稽古をさせてきたが……本格的に悪魔使いの修行をさせるべきかの?」

 

「しかしなあ、長久は悪魔を召喚出来ぬからのう」

 

長老衆は長久を孫の様に可愛がっていた。生まれた時から長を越える生体MAGを持ち、神の印を持つ長久の存在を葛葉の里の発展の象徴とし、次代の長へと据える事を決めた。だが長久が葛葉の里の長になるのは越えるべき大きな壁があった……それが悪魔を召喚出来ないと言うことだ。

 

「あの膨大なMAGが何故封印されておるのか、そしてその封をした神がなにを考えているか知るべきじゃろうなぁ」

 

「うむ。それを解決すれば長久も悪魔を召喚出来るようになる、さすれば大手を振って長とする事が出来る」

 

「ゲイリンとキョウジは何時戻る?」

 

「近いうちにゲイリンが戻ると報告が入っておる。これで長久のMAGを封じておる神の手掛かりが掴めれば良いのだが……悪魔召喚さえ出来れば里の者は皆長久を認める筈だ」

 

歴代ライドウと比べても遜色ないMAGを持ち、温厚な性格で面倒見もよく、人徳もある。そして葛葉流体術・剣術・射撃術もMAGを使う技術を除けばと条件が付くがほぼほぼ全てを高い修錬度で習得している。だがそれらがあったとしても悪魔を召喚出来ない――たった1つ、だが致命的なたった1つの欠点――それさえ無ければ誰もが長と認め、里を二分することも無かったのだろうにと長老衆は深い溜め息を吐くのだった……。

 

 

2周目の世界 存在しない時代 その3へ続く

 

 




次回はゲイリンを出して何故長久が悪魔召喚出来ないのかという話に繋げて行こうと思います。ライドウ編は5話+1話(後日譚)という構成で進めて行こうと思います。ここら辺もかなり独自解釈が混じってきますが、次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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