5週目の世界 偽りの千年王国 その7
アギラオの業火を素手の一振りで殴り飛ばした褌マン……いや、五島を見て俺の推測が正しいと確信した。そして五島が俺と戦うと言い出した理由も理解して思わず舌打ちした。
「やっぱり俺はあんたの事はあんまり好きじゃねえわ。狸爺」
【酷い言われようだ。私は君の事はかなり評価しているつもりなんだが?】
五島という男は常に油断ならない男だ。確かにその強さは信用出来るが、人格面ではとうてい信頼出来る人間ではない。
「最初から見てただろ、アオイの屋敷の前で偶然出会ったっていうていでな」
俺の問いかけに後藤は満面の笑みを浮かべた。それだけで俺の問いかけがあっていたと確信した。
【分かっていると思うがここは東京であり、東京ではない。私が守ろうとした日本は深い地の底にある。そして私の本体もな」
「地下? 地下があるのか?」
【ある。だが君が想像しているような地下ではない。東京の上に更に新しい大地が作られた。それがここTOKYOミレニアムだ】
なんとまぁとんでもない話になってきたな。しかし俺が感じていた違和感もここが本当の東京ではないとなれば納得出来る。
【地下は地上の悪魔とは比べ物にならないほどに強力な悪魔が屯している。だがそんな事はどうでも良い、君にはやって貰わねばならない事があるッ!!】
強烈な踏み込みと共に振るわれた唐竹割りの日本刀の一撃を後ろに飛んでかわす。
【正解だッ!!】
【回転切り】
振り切った態勢のまま片足だけで回転し放たれたMAGの刃をスライサーで受け止めるが、完全に勢いと威力を殺せず薄く切られた左腕から鮮血が噴出した。
「どこが正解だ! この狸爺ッ!!」
【足を止めていれば両断していたからだッ!!】
【正拳突き】
「くっ!? 俺に何かやらせたいんじゃないのか!?」
音を置き去りにする正拳を勘で回避するが、その余波だけで身体が痛むのを歯を食いしばって耐えながら五島に向かって叫ぶ。
【勿論だ。だがここで私に敗れる程度では私の頼みを成し遂げる事は出来ない。ここからは殺す気で行くぞ】
殺気が溢れ出し、五島の肉体が物理的にでかくなったような錯覚を受ける。
「上等だ。返り討ちにしてやるよ」
【面白い! せひやってみてくれ! 今の全力を出せないその身体でなッ!!】
一息に3連続で放たれる一撃を1つは受け止め、1つは避け、1つは防ぎ、五島と鍔迫り合いをする。
【獲物はもう少し良いものを選んだ方が良いな!】
「だな! 俺もそう思ったところだッ!」
業物の五島の刀である虎鉄と打ち合うにはスライサーでは力不足だった。メシメシときしむ音を立てるスライサーをあえて手放し、五島の腹に手を当てる。
「零距離ならどうだ!」
【ジオ】
【うっぬう!?】
静電気のような音を立てるに留まるのを見て舌打ちしながら五島の腹に全力で蹴りを叩き込み、スライサーを拾い上げて距離を取る。
(まだいけるな、無理は出来ないが……十分使える)
スライサーの刀身には細かい亀裂が走っているが、それでもまだ芯材までは破損していないので振るう事が出来る。ただ無茶は効かないので魔法で少しでも五島を削ろうと考えてジオンガを放つが……。
【温いッ!!】
虎鉄で両断されたジオンガを見て、俺はやっぱり呪文の力を半分も発揮出来てないと確信を得た。ジオ以上、ジオンガ未満。それが俺が使える中級魔法の威力だった。
「余りに弱すぎて情けなくて涙が出るぜ」
確かに知識としてアギラオ等の中級呪文とマハ系の呪文は理解している。理解しているが使えるかと言うと論外の火力しか無かった。
【仕方あるまいよ、魂と肉体に差があるのだ。それを馴染ませるのは至難の技だろう。本来なら時間を懸けて鍛えなおすべきだが……ッ!!】
「どれだけ時間があるかも分からないのにそんな悠長な事を言ってる時間はねえなッ!!」
【その通りだ! この戦いの中で自ら掴め! それが出来なければ君はここで死ねッ!!】
スライサーと虎鉄がぶつかり合い火花を散らす、だが力で対抗せずに受け流し刀身で僅かに指先を切り、血を刀身に塗りつけてMAGの刃でコーティングし、スライサーの柄を握りこんだ状態でアギを唱え、刀身を赤熱化させる。
【面白い、それが葛葉の技か】
「仲魔がいないんでね、今の俺にはこれが限界だな」
悪魔の力を借りる技は見せ掛けだけで、本来の威力には程遠いが、今の俺にはその見せ掛けで出来そこないの技であっても生命線だ。
【謙遜するな、君の実力はなかなかの物だぞ? テンプルナイトよりは強い】
「手羽先もどきの尖兵に似てると言われても嬉しくねぇなぁッ!!!」
【はははははは! それは失礼したッ!!】
大地を抉り、岩が豆腐のように斬り裂かれ吹き飛ぶ。
【おおおおおおおッ!!!】
「はぁああああああッ!!!」
戦いの中で俺は少しずつ研ぎ澄まされて行き、俺と五島の戦いは少しずつ、だが確実に激しさを増していくのだった……。
長久君の存在がどんなものかというのはアオイ君との話し合いである程度は理解したつもりだ。魂だけが別時空あるいは別時空の先祖、あるいは子孫、または同一存在と融合し長久君という存在になっているらしい、それはアオイ君が自分と同じだから間違いないと断言した。
だからこそ、アオイ君と共にどうするべきかと話し合う時間が出来た。そして私の出した結論はただ1つ……。
【死にたくなければ死ぬ気で足掻けッ!!】
「言ってることがめちゃくちゃだぜ! 狸爺!!」
無理矢理にでも肉体と魂の差異を埋めることだった。世界を、時間を越えて転生と憑依を繰り返している長久君の魂は肉体よりも遥かに大きい、そして魂を受け入れるだけの器がなければ感覚に差異が出るのは当然だ。だがその差異を抱えた状態で天使共と戦うのは勿論、地下世界に乗り込ませるのも不可能だ。
(末恐ろしい成長速度だ)
最初は私の方が強かった。だが切り結ぶ中で、魔法が飛び交う中で長久君は恐ろしい速度で成長……いや進化をしていた。
「段々掴めて来たぜ」
【雷電真剣】
放電を繰り返すブレードで切りかかってくる長久君の動きは掴めて来たの言葉の通りに激しく、そして多彩になっていた。
【うぐッ!? く、はははははは! 良いぞ、良いぞ! これが葛葉の刃か! 感無量だな!!】
スライサーの刀身が変化した斧による押し潰しを受けきれず地面に叩きつけられるが、それでも私は笑っていた。才能ある若者、そして護国の刃である葛葉の力を身を持って味わえる。
【本体には悪いが、なんとも楽しい時間だッ!!】
「この戦闘狂ッ!」
【褒め言葉だッ!!】
完全に負け戦になる事を悟った私は未来に希望を託すことを選んだ。日本の古き神と共に恐らく封印される事になるならばと、私は自分の魂を自ら切り裂き、分身を作ることを選んだのだ。
【おお……ッ!? ぬうっ!?】
一瞬スライサーを鞘に収め、抜刀されたと同時にMAGの刃が伸び、左腕を切り落とされるが、それでも私は右手で虎鉄を握ったまま長久君へ向かって走った。
(終わる、ああ、終わる。なんと、なんとも……未練だ)
アオイ君と共にヴァルハラとそこの住まう住人を守る為に影ながら戦い続けた。魔人となった事で天使にも観測されにくくなり、偶発的に遭遇する天使はすべて倒し、地に埋められた東京に涙し、僅かに生き残った人間を守護してきた。だがその役目も終わる、私は私の本体へ戻り目覚める時を待つ。その時を待っていたはずなのに……。
「シッ!!!」
【怪力乱神】
閃光にしか見えぬ一閃による居合いによって袈裟切りに斬られ、傷口からMAGを噴出す。
【見事!】
この短時間で長久君は私を越えた。これで地上の悪魔に遅れを取る事はないだろう……そう思いながら私は背中から倒れこんだ。
「ゴトウさん。結局あんたは俺に何をさせたいんだ?」
【地に封じられた古き神と私を復活させて欲しい。その為の手段は旅をしているうちに分かるだろう】
「つまりあんたは何も知らないと」
【そうなるな、すまん。私は人間を守るのが役目だった、これ以上は教えられていない。それ以上を望むなら別の私を見つけてくれ、地上に後2人、地下に後4人いる】
分身の数は全部で7人にいると伝え、1番最初に長久君に会うであろう私に預けられた物を長久君の前に出現させる。
「これは……錬気刀」
【君が1番それを使いこなせるだろう? ではな、私ではない私とまた会おう!】
今出せる全力を出して敗れた。未練も悔いもある……だが不思議と私は笑っていた。再び長久君に全てを背負わせるのは心苦しかったが、それでも彼の力が必要だ。しかしこの世界で錆び付いた長久君の力をほんの少しでも取り戻す事に協力出来た事で生き続けただけの人生にも意味があった……そう思えたのだった。
圧倒的だった。センターのテンプルナイトであっても勝てない。いやテンプル騎士団が全員集まってもあの男の足元にも及ばないと理解した。
「おい、そこのお前。何時まで見てる」
「っ! 失礼しました! 私はザイン。センターのテンプル騎士団のザインと申します」
私がそう名乗ると男……長久の目がスッと細まった。
「俺を処罰でもしに来たか?」
「ち、違います。センターから私が与えられた命令は2つ。新チャンピオンのリーナ、そして長久さん。貴方をセンターまで案内するように命じられています」
警戒、敵意を向けながらも長久さんは手にしていた刀を鞘に収めた。
「用件はなんだ」
「元老院から貴方への謝罪と、望むならばセンターへの居住権をと聞かされております」
私の言葉を聞いて長久さんは興味無さそうに鼻を鳴らした。
「興味が無いな、だが行かなければならないのなら出発前に挨拶くらいはさせてくれるよな?」
「は、はい! センターにさえ来てもらえれば結構です」
恐ろしいと思うのと同時に羨ましいと思った。圧倒的な強さ、センターの課したルールでさえこの人には何の意味もないと直感的に感じた。
「……長久、何があったの? それ……敵?」
「ザイン……? まさか貴方長久と戦って?」
「グルルルウ」
ボロボロの様子のリーナとヒロコが帰ってきて、マダムの館の前の惨劇を見て私と長久が戦っていたのかと尋ねてくる。
「魔人にちょっかいを掛けられていただけだ。何とか退けたから問題ない、それよりリーナ。花田はどうなった?」
「ちょっと面倒な事になった花田は死んで、魔界の門が開いた」
「なッ!? 何が、何が起きたらそうなる!?」
無表情で淡々と告げるリーナだがそれはとんでもない大事態だ。思わず怒鳴り声を上げるとリーナに睨まれた。
「貴方に話してない、私は長久に話してる。どうしよう?」
「……とりあえずマダムに報告してから考える。簡易封印は?」
「してきましたが、逆を言えばそれが限界でした」
「それだけ出来れば十分だろ。ザインだったな、お前も来い。事情によってはセンターに口引きしてもらう必要がある。元老院から命令されるくらいだからそれなりの地位なんだろ?」
「あ、は、はい! 分かりました。私で出来る事ならば協力したいと思います」
とんとん拍子に進む話に口を挟む余地は無く、取り仕切っている長久さんの言葉に頷き、その後に思った。
(なんだろう、この人に任せれば大丈夫だって思ってしまった)
正直魔界の門が開いたなんて私の手に余る案件だ。それこそ元老院や団長に連絡を取ってから返事をするべきだったのに、私は反射的に了承の返事をしていた。
(まさか、これが元老院が頭を下げるといった理由なのか?)
圧倒的な強さとカリスマ性。テンプルナイトだけではなく、センターを治めるに相応しい資質の持ち主である長久さんをセンターに取り込みたいから私に呼んでくるように命じたのだろうか?
「おい、何してるんだザイン。マダムの所に行くぞ」
「は、はい! 今行きます!」
門の所から私を呼ぶ長久さんに今行きますと返事をし走り出した。この時の私は知る由もないが、この出会いが私の運命を大きく変えることになるとは夢にも思っていないのだった……。
遠い過去の約束が長久の失われた力を呼び戻す
アオイの願い ディアラマ 回復ブースタを思い出した 魔・速+2
ゴトウの計画 コロシの愉悦 怪力乱神を思い出した 力+4
魂のメダリオン 12%→14%
5週目の世界 偽りの千年王国 その8へ続く
褌マンに勝利して錬気刀入手。ザインがカリスマと強さに脳を焼かれつつ、マダムの依頼その1は終わりです。次回で情報を1度まとめてセンターへ行く話へと続けて行こうと思いますが、当然ここでも5週目に関係するオリジナルのイベントをいくつか挟もうと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。