収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

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5週目の世界 偽りの千年王国 その8

5週目の世界 偽りの千年王国 その8

 

花田の捕獲を頼んでいたリーナとヒロコと何故かテンプルナイトを引き摺ってきた長久さんに軽く頭痛を覚えたが、リーナ達の報告を聞いて本格的に頭が痛くなった。

 

「メルクリウスと名乗ったのですね? その獣は」

 

「はい、妖魔メルクリウスと名乗っていました。ただ消滅の間際に自分はこの姿に作り変えられたと受け取れる事を言ってました」

 

完全に黒だ。メルクリウスは地上を守る為にやって来て天使に敗れて改造されてしまったのだろう……そして恐らく私と五島さんの2人で何とか天使の侵略を防いでいた時に協力してくれていた英雄や英傑もまた改造されて天使の尖兵にされている可能性が浮上した。

 

「長久さん。魔界の門閉じれますね?」

 

「お前は俺をなんだと思ってる?」

 

長久さんなら出来るかもしれないと思ったのにと俯くと長久さんは溜息を吐いた。

 

「出来ないことはない。だがそれをすると俺は完全に動けなくなるぞ?」

 

「じゃあ駄目ですね。忘れてください」

 

長久さんにはやらなければならない事があるのでそんな長久さんを缶詰にしてしまうのは論外だ。

 

「センターへ救援を要請します。後はザインのほうでもお願いしますね?」

 

「わ、分かりました。微力ながらご協力させていただきます」

 

天使ならばヴァルハラエリアを切り捨てる選択をするだろうが、まだヴァルハラエリアに利用価値がある以上は切り捨てる選択はすぐにしない筈だと信じるしかない。

 

「とりあえずご苦労様でした。お風呂と食事の準備をしているので身体を休めてください。これからどうするかは明日また話し合いましょう。長久さんは少しだけ残ってもらえますか?」

 

「ああ。構わない」

 

メルクリウスと戦っていたリーナとヒロコ、そして五島さんの分身と長久さんの戦いを見ていたザインにも疲労の色が見えるので休むように声を掛け、長久さんに残ってくれるように声を掛け執事達がリーナ達を連れ出したのを確認してから話し合いを始める。

 

「ザインはなんと?」

 

「元老院が謝罪の準備があるからセンターに来いと言ってるらしいが……」

 

「黒ですね」

 

「黒だよな」

 

元老院……即ち天使が人間に謝る訳が無いと断言出来る。元老院が長久さんを呼び寄せる理由はまず間違い無く洗脳目的だと断言出来る。

 

「洗脳とかは……耐えれます?」

 

「まぁ多分大丈夫だと思う。多分」

 

「本当に大丈夫です?」

 

長久さんが洗脳されて天使の尖兵になったらその瞬間に終わると確信を持って言えるので本当に大丈夫かと何度も問いかける。

 

「まぁ身構えてるから何とかなるだろ。それで俺だけじゃなくてリーナまでセンターに呼ばれているのはなんでだと思う?」

 

「優秀なデビルバスターであり悪魔使い。それを抱え込む事でセンターの存在をアピールしたいのかもしれません……1つだけ言えるのは面倒な事になるというだけです」

 

センターだけでも面倒なのに元老院まで絡めれば面倒事にならないはずが無いと断言出来る。

 

「とにかく明日までに何とかする準備をしてください。長久さんなら出来ますよね?」

 

「まぁ出来るから準備はする。後は岡本さんとかにも一応声は掛けたいし、装備や道具も整えたい」

 

「それに関しては私の方で何とかします。権力って言うのはこういうときに使う物ですからね。センターの品よりも良いものを準備します」

 

センターの武器や防具は強いが天使の力が込められているのでリーナにも長久さんにも良いものではない。ヴァルハラエリアの支配者のマダムという名前を十分に生かして長久さん達の旅が楽になる品を準備するつもりだ。

 

「助かる。じゃあ俺もそろそろ風呂に入ってくるわ」

 

「疲れているのに足止めして申し訳ありません。長久さんも疲れを癒してくださいね」

 

手を振り私の部屋を出て行く長久さんの背中を見送り、私は背もたれに背中を預けて溜息を吐いた。

 

「……私もきっと終わりが近いわね」

 

何度も転生して、何度も死んだ。その間に傷付き磨耗した魂は元には戻らない。今の私が死ねば次は恐らくない、やっと終われると喜ぶべきなのか、長久さんの手助けも、翔子さん達と再会出来ない事を嘆けば良いのか……喜びと悲しみが複雑に入り混じる自分でも制御出来ない感情に葛藤していたのだが……。

 

「ほら。お前にもやるよ、元気でな」

 

私の方がずっと年上になったのに、あの時のように年下のように扱う長久さん。天使への対策で忙しい筈なのに私にもお守りの装飾品を作ってくれた。そのブレスレットは翔子さんの事を忘れている筈なのに翔子さんがつけていたブレスレットに良く似ていて……。

 

(会いたい、そう……会いたいんだ。私は)

 

マダムとしてではなくアオイとしてまた皆に会いたい。それが私の嘘偽りのない願いだと分かり、この日から少しずつだが再び戦えるように身体作りを始めるのだった……。

 

 

 

 

 

岡本と羽田に私が実はセンターの人間であり、センターに戻って来るように指示が出ていると話をすると2人は揃って眉を顰めた。

 

「どう考えても嘘だろ」

 

「そうね、嘘ね。リーナがこの街に着てから半年もないとは言え、本当にセンターの人間ならすぐにセンターが動くわ」

 

岡本と羽田の言葉にザインが眉を細める。

 

「しかし元老院から渡されたリーナの顔写真は完全に合致するのですよ?」

 

「んなもんいくらでもでっち上げれるだろうが、テンプルナイト様には分からないかもしれないけどよ。デビルバスターの素質のある女が産んだ子供はその素質を継ぐ、それに加えてリーナは悪魔使いだ。その力をセンターが欲してるようにしか思えないぜ。長久、お前はどう思う?」

 

「俺も同じだ、そもそも俺はセンターが好きじゃない。とりあえず顔を出すが、すぐにこっちに戻ってくると思う。羽田さんと同じでな」

 

長久に話を振られた羽田は肩を竦めて苦笑いを浮かべた。

 

「あたしはあそこは人間の住む街じゃないと思ったわ。さっさと用事を終えて帰ってくるのよ」

 

「勝手に送り出すんじゃねぇ! んんッ! 長久、リーナ。ここはお前らの帰ってくる場所だ。俺達はここで待ってるから気をつけていって来い。すくねえが旅の足しにしろ」

 

そう言って岡本は長久にマッカを渡し、それを受け取った長久は苦笑いを浮かべながらも微笑んだ。

 

「んじゃあちょっと行って来る。行くかザイン、ヒロコ」

 

「わん!」

 

「ああ、お前もな。パスカル」

 

「はっはっは!」

 

尻尾を振るパスカルも連れ、私達はセンターへ向かって出発した。

 

「長久はセンターがどうして好きじゃないの?」

 

「テンプルナイトだから金も払わず飯を食い、酒を飲み、気に食わないからと子供に暴力を振るい。女は奉仕しろと横柄な振る舞いをする

奴らをどうして好きになれる?」

 

長久の言葉にヒロコは黙り込み、ザインはその顔色を変えた。

 

「まさかテンプルナイトがそんな事を「してるんだよ。そんな連中を制御出来てないセンターも元老院も騎士団も俺は信用しないだけだ。それとザイン、ヒロコ。お前らに言っておくが1つだけを信じると本当に信じるべき物も分からなくなるぞ。自分の目で、耳で何が正しくて、何が間違っているのかそれを見極めなければ自分すら失うぞ」

 

長久はそう言うと歩く速度を早め、私とパスカルはそれを追って歩く速度を早めた。

 

「なんであんな事を?」

 

「センターの教育は洗脳に等しい。これからもあいつらと行動を共にする事があったとして、後から撃たれる可能性は下げるべきだ」

 

「……敵?」

 

「味方以上、敵未満。リーナ、この世には信用しても良いが信頼してはいけない人間がいる。今の2人はそれだ」

 

そういうと長久は無言で歩き、私は長久の言った言葉を噛み締めながら追いかけてきたザインとヒロコに先導されセンターへと足を踏み入れた。

 

「司教様。リーナと長久さんを連れてまいりました」

 

「お入りなさい」

 

ザインの言葉の後に扉が開き、ザインとヒロコに続いてその部屋の中に入る。その部屋は機械で埋め尽くされた司教の部屋というよりかはデビルバスターの本部に近い作りをして居る部屋だった。

 

「ザイン。お疲れ様でした。リーナもそして長久も良く来てくれました。ささ、これをどうぞ、センターの市民IDカードです」

 

にこにこと笑う司教が2枚のカードを差し出してくるが、長久はそれを手の平で押し返した。

 

「俺達はセンターに顔を出せと言われて来ただけで市民権を貰いにきたわけじゃないからそれはいらないぜ」

 

「……私もいらない」

 

長久がセンターに住まないというのならば私もセンターに住むつもりはないので、市民カードをつき返す。

 

「何故ですか、名誉あるセンター市民になれるのですよ?」

 

「興味が無い、それにヴァルハラエリアで皆に感謝されながら暮しているのも悪くない」

 

「うん……私もそれで良い」

 

私と長久の言葉にセンター司教は眉を細め、私達を睨みつけるような表情をする。

 

「アレフ。貴女は「私はリーナ。アレフなんて名前じゃない」……ッ」

 

なんでも私の本名がアレフだとザインが教えてくれたが、私はアレフなんかよりも長久と岡本が頭を抱えながら考えてくれたリーナの名前が好きなので、アレフなんて呼ばないで欲しいと言うとセンター司教は鬼の形相になった。

 

(これが信用しても信頼してもいけない人間)

 

自分の感情だけを優先し、人の話を聞かない。最も信用してはいけない人間……こんな人間がセンターの司教をやっているというのならばセンターが良くない場所というのはすぐに分かった。

 

「分かりました。貴女達とはまた後で話をするとして、ヒロコ。輝けるテンプルナイトが無許可でセンターの外へ出てはいけませんね。奥で訳を聞きましょう、ザイン。ヒロコを連れて行ってあげなさい」

 

その命令にザインは小さく肩を竦めながらも分かりましたと返事を返し、ヒロコの後へ回った。

 

「リーナ、長久。色々と助けてくれてありがとう。女の子が見つけられなくて残念だけど……いつかまた会えたら良いわね」

 

ザインにヒロコを連れて行かせる命令をしたセンター司教を見て私は長久がセンターを嫌いと言ったからではなく、自分の目で、自分の耳でセンターは禄でもないと確かめ、センターは「今」の段階では敵では無いが、味方でもないと私は判断したのだった……。

 

 

 

 

 

 

センター司教と名乗る老人が人間ではないというのは一目で理解していた。人間ではあるが中身が殆ど違う。

 

(天使の羽を埋め込まれたか……まぁ当然か)

 

ザインとヒロコは違うが、いずれは羽を埋め込まれる可能性が高い。天使の羽を埋め込み洗脳するのはメシアンと天使の常套手段だからだ。

 

「さてとアレフ……いやリーナよ、貴女には救世主となる定めを背負って生を受けたのです」

 

「そんな事は知らない」

 

救世主になる定めを持って生まれたと語り出したセンター司教に即座にそんな事は知らないと告げたリーナに思わず噴出した。

 

「……貴女の素晴しい力は人々を救う為にあるのです。勿論長久、貴方の力もね」

 

「ん? そんな事は言われないでもわかってる。困ってる人間を助けるのは当たり前、それを使命だの、定めだの言われてもなぁ?」

 

「私も長久もそんな事は当たり前にしてる」

 

センターというか、天使の独善的な正義とかやり方が滲み出ている。

 

「それは素晴しい、民を救うのは救世主の定めですからね。我々はこの荒れ果てた世界で人々を救う為にミレニアムを作りました。ですがミレニアムが真の千年王国になるためには救世主が必要なのです。貴女こそが、貴女達こそが神々に遣わされた御方なのです」

 

なんかすげえ胡散臭いな、アオイからミレニアムの生まれた経緯を聞かされているので、こうもぺらぺらと嘘を並べられると呆れながらも少し感心する。

 

「神はメシアとその仲間である貴女達に相応しいパートナーも使わされました。べス、ライドウよ。お入りなさい」

 

ライドウ……まさか、葛葉もセンターと天使に取り込まれているのかと最悪の予想が脳裏を過ぎる。

 

「お帰りなさい、アレフ……いえ、リーナ。貴女は何も覚えていないのね。でも大丈夫、これからは私がついていてあげる」

 

「いや別に困ってないんだけど……」

 

「大丈夫、心配ないわ。少しずつ思い出していきましょう、リーナ。私はもう2度と貴女を1人にしないわ」

 

なんかやべえ女だ……リーナも何とも言えない表情を浮かべているのが分かる。好きの方向性が明らかに同性に向ける物ではなく、異性に向ける物に近いべスと……。

 

「40代目葛葉ライドウです! ご指導ご鞭撻よろしくお願いします!」

 

「……あ、ああ……よろしく」

 

ボーイッシュでありながら胸だけがやけに大きい黒髪の少女が満面の笑みを浮かべて駆け寄って来る。

 

(……露骨すぎる)

 

ハニトラではないだろう。ライドウもべスも初対面にしては余りにも友好的すぎる。それにここに来るまでに見てきたセンターの警備をしているテンプルナイトも多くが男女のペアだったが、どちらかがもう片方に対して余りにも距離が近いというか、好感度が高いように見えていたが……。

 

(そういう風に洗脳されてるってことか)

 

男女のペアにすれば恋仲になれば子供が生まれる。子供が産まれれば戦力を増やせると言った所か……。

 

(やっぱりメシア教はクソだな)

 

天使もメシアンも本当に最悪というのが俺の今までの評価だったが、今回の事で更に俺はメシア教と天使への嫌悪感を強める事になった。

 

「リーナ、そして長久よ。ホーリータウンに大変な事が起こりました。キングフロストがエリアを凍らせ、バジリスクが毒を撒き散らして

多くの人が死んでいます。ホーリータウンの人々を救ってください。

 

「「なんで?」」

 

俺とリーナの声が重なった。ベスとライドウ、そしてセンター司教が驚いた表情を浮かべる。

 

「困った人は助けるんじゃ?」

 

「助けるが、センターの管轄じゃないのか? 俺達はセンターには所属しない。命令を受ける筋合いもないわけだが……俺とリーナを雇うっていうなら話は変わるけどな、それに俺は元老院が謝罪したいって言うから来たはずなんだが、何故命令を受ける必要があるんだ?」

 

そもそも俺は元老院が謝罪するから来てくれというので来たのであって、センターに所属するつもりも命令を聞く理由もない、勿論リーナも同様だ。

 

「なっ! お金を取るんですか!?」

 

ライドウが怒鳴りながら詰め寄ってくるがそれを手で制する。

 

「ホーリータウンはセンターの管轄区画だろ? なんでセンターに来ただけの俺とリーナが対処する必要がある? テンプルナイトが出張る案件の筈だ。ホーリータウンはセンターに金を入れて守ってくれる契約をしてる筈だろ?」

 

確かに困っている人間は積極的に助けるし、余計なおせっかいもするが……。

 

(明らかにマッチポンプだろ)

 

邪龍のバジリスクも魔王のキングフロストも自然発生する悪魔ではない。リーナの救世主としての箔付けの為に用意された悪魔に攻撃されているホーリータウンの住人には悪いが、センターと天使の思惑に無条件に乗るわけには行かない。

 

「バジリスクは邪龍、キングフロストは魔王。デビルバスターへの討伐依頼の相場は2体合わせて14万マッカ、先払いで7万マッカ貰おうか?」

 

「良いでしょう。それで貴方達が動いてくれるというのならお支払いします」

 

お前達に思惑には乗らないとあえて少し吹っかけた値段を口にしたが、予想に反してセンター司教は即決で7万マッカを払うと言ってきたのは少し驚いた。

 

「センター西の入口からホーリータウンへ向かってください。パス・コード0352を入力すればホーリータウンに入れます」

 

「了解。引き受けたからにはやるさ、リーナ、パスカル行こう」

 

「……ん」

 

「わふ」

 

「ベスとライドウはどうする?」

 

「私も勿論同行します」

 

「……私もです」

 

ライドウは少し不満げでべスは何の迷いも無く同行するというので余り乗り気ではないがベスとライドウの2人も連れ、俺達はホーリータウンへと向かう為に司教の部屋を後にするのだった……。

 

 

 

 

 

5週目の世界 偽りの千年王国 その9へ続く

 

 




べスは百合属性付与、ライドウに関しては超力兵団での40代目ライドウを折角なので使おうと思って参戦です。次回は討伐準備や、バジリスクの被害などを確認の話を入れて、その次で戦闘へと入っていこうと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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