5週目の世界 偽りの千年王国 その9
私と長久とパスカルの2人と1匹の旅に厄介なのが2匹もついてきてしまった。これがヒロコならまだ許せたんだけど……。
「ほら、リーナ。これ可愛いわよ、どうかしら?」
「……いらない」
「そんな事言わないで、これ結構丈夫で良いのよ?」
「……いい」
自分と同じ揃いの服を着せようとしてくるべスは正直言ってちょっと、いや、大分鬱陶しかった。
「まだですか! バジリスクとキングフロストの討伐に行く話はどうなったのです!」
ギャンギャンうるさい40代目ライドウははっきり言って邪魔だった。悪魔に対する知識が広くて浅い、大きな特徴は知っているが、細かい性質を知らずにあーだこーだと口を挟み装備を整えるのを邪魔してくるのに段々苛々して来た。
「……準備も無しに行って死ぬの? 馬鹿なの」
「ば、馬鹿だと!? この私を、ライドウに馬鹿だと!?」
怒鳴り声を上げて腰に手を伸ばすライドウを見て、私も腰に手を伸ばそうとし……。
「馬鹿共なにしてる」
「ふぎゃっ!?」
「……ううっ!?」
頭に拳骨を落とされ、ライドウと共に頭を押さえてその場にしゃがみ込んだ。
「あの口で止めれば良かったのでは?」
「出発前に負傷されたら困るからな。ライドウ、早く早くと言うがバジリスクの主な攻撃を知っているのか?」
「毒ブレスと毒引っ掻きだろう!」
長久の問いかけにライドウが自信満々にいうが、私と長久は揃って溜息を吐いた。
「それは若い固体だけだ。バジリスクはそれに加えて石化ブレス、引っかき、パラライズブレス、麻痺引っかき、個体によるがペトラアイなどの魔法による石化も駆使してくるし、ザン系も使うぞ、石化状態でザンを食らうとどうなるか知ってるか?」
「……ば、バラバラに砕け散る」
「正解。さて、その可能性を加味しても出発するといえるか?」
長久の説明を聞いたライドウは顔を青くさせてすいませんと謝罪の言葉を口にした。
「……キングフロストも厄介」
「ああ。あいつはジャックフロストを召喚するし、ジャアクフロストやフロストエースも混ざってくるかもしれん。確実性を取るならバジ
リスクを討伐した後に一度引き返して準備を整えなおす必要があるか……べスとライドウもそれで良いか?」
「私は長久さんの指示に従う様に言われているので異論はありません」
「……そちらに全部お任せする」
ぎゃあぎゃあと馬鹿が騒がなくなったのを見て私は長久の隣に立って、センターのアイテムショップへと向かう。
「火炎弾かアギストーンを買っておく?」
「バジリスクにもキングフロストにも有効だしな……後はディス系のアイテムも買い込んでおきたいし……お、ヒランヤ。こいつも買っておくか」
私と長久はセンターの司教から巻き上げた7万マッカを使い、必要となるであろう消耗品や武器・防具を調えてからホーリータウンへ続く西の入り口へ向かい、パスコードを入力しホーリータウンへ続くハイウェイへと足を踏み出したのだが……。
「さ、寒い……」
「これは……きついですね」
キングフロストが凍らせているのはホーリータウンだけと聞いていたが、センターの扉を出た私達を出迎えたのは一面の銀世界だった。
「準備して良かったでしょ?」
「そうだな。ああ。その通りだ、すまない」
何の装備もなしだったらそれこそ命に関わっていた。時間をかけて装備を整えて大正解だった。
「とにかく、ここじゃあ戦いになったら危険だ。せめて普通に歩けるようにハイウェイから先ずは降りよう。悪魔に見つかったら煙玉で逃げるぞ、とにかく下だ。下に降りよう」
悪魔との戦いの中でハイウェイを破壊されればその瞬間に死が確定する。とにかく今は戦える環境を整えるのを最優先にするという長久の言葉に頷き、私達は吹雪で視界が悪い中ゆっくりと歩き出すのだった……。
バジリスク討伐の為にホーリータウンの近くまで来た私達でしたが、バジリスク討伐は最初の第1歩から躓いていた。もう少しでハイウエイを抜けれるという所でバジリスクからバックアタックを喰らったのだ。長久さんがすぐに煙玉を投げてくれた事で九死に一生を得たが、状況は良くない。
「俺のいう事を聞いていて正解だっただろ? ライドウ」
「……はい……」
バジリスクの強襲を受けたライドウは麻痺、石化、毒の3つの状態異常を付与され、ディスパライズ、ストーン、ポイズンの3つを使ったが完全に治癒はせず、今も青白い顔でぐったりとしていて、バジリスクの討伐ところではなく、パスカルが吐いてくれた炎で氷を溶かし、暖を取りながらビルの中に身を潜めながらバジリスクの痕跡を探していた。
「……いきなり持って来た装備を消費した」
「そういうな、ライドウは運が悪かっただけだ。バジリスクが3頭もいるなんて聞いて無かったからな」
そう、バジリスクは3体いて、それぞれが別々の進化を遂げているだけではなく、交じり合って本来持ち得ない複数の状態異常を1度に付与できる爪を持ち合わせていた。そしてキングフロストの吹雪を隠れ蓑にして行動する為に体毛から肌まで白く染まっていた。
「あんなバジリスクは見たことが無いです」
「そりゃそうだ。あれはバジリスクだがバジリスクじゃない」
「……どういうこと?」
「わふ?」
パスカルの頭を撫でながらリーナがどういうことかと尋ねる。すると長久さんは焚き火にビルの中で見つけた紙を投げ入れながら詳しく説明してくれた。
「バジリスクは雄鶏が苦手で、その鳴声が弱点だ。だがバジリスクがその弱点を克服し進化した個体がいるコカトリスだ。こうなるとバジリスクの弱点は通用しないし、ドラゴンの特性を得ているから炎も使い始める。どうもセンターが俺達を送り出したのはバジリスクがコカトリスに進化する予兆があったからかもしれんな」
センターの悪口を言う長久さんだが、情報は何よりも重要な物であり、その情報が間違っていたのでは命に関わる事を考えれば長久さんの言っている事は間違いではないので訂正させる事も出来ない。
「……どうやって戦う? 下手に出歩いたら奇襲を受けるよ?」
「ああ。それも俺は考えていたんだが……少しばかり周囲の状況を確認したい。出鱈目に行動してもさっきの二の舞だからな、方針としてはまずはスープでも作ってそれを飲んで身体を温める。その後は捜索に出る為の体力を確保する為に順番に眠る。これで良いか?」
実戦経験の少ない私達は長久さんの決定に口を挟める訳も無く、長久さんにお任せしますと口にすることしか出来なかった。
「……うーん。悪い、移動する」
「ん、分かった。いこ、パスカル」
「ワン!」
ライドウが歩けるまで体力を回復した後、周辺を調べたいという長久さんと共にビルの地下を歩き回っているのだが、地下に入ってすぐ長久さんは回れ右をして、別の場所へ向かうと言い出すことを何度も繰り返している。
「長久さん、貴方は何をしているのですか?」
ライドウが爆発しそうなのを見て、私が変わりに何をしているのかと尋ねると長久さんは手帳に何かをメモしていたが、私とライドウへ顔を向けた。
「ん? あ、ああ。そうか、説明して無かったか、悪い悪い。コカトリスは草食なんだ。んで毒を維持する為に毒草しか食べないんだ」
「え? あの図体で草食なんですか?」
2m近い大きさのバジリスク……いやコカトリスは肉食ではなく、草食と聞かされ私は思わず目を見開きながら長久さんに本当なんですかともう1度問いかけた。
「そ、あの図体で草食なんだ。だからキングフロストの魔力で冷やされているホーリータウンの中のどこかで毒草が自生してる筈だから、そこを見つけてからだ。奇襲が得意でも、奇襲を受けるのは慣れていないだろうからな。ま、どっちにせよ。戦う事を考えればコカトリスは雪に紛れて逃げるだろうから、まず逃げる場所を特定するのが最優先って事だ。納得してくれたか?」
私達、いやテンプルナイト以上に悪魔に詳しい長久さんが何者なのかという疑問抱くが、今は味方であり、頼もしいリーダーである事は間違い無く、私とライドウは時折長久さんの説明を聞きながらホーリータウンを目指して歩き出すのだった……。
ホーリータウンを双眼鏡で確認する。吹雪のせいで見えにくいが無数の雪だるま……キングフロストやジャックフロストの姿を確認する。
「装備をしっかり整えなおさないと厳しいな、よし。あっちに見つかる前に逃げるぞ」
このまま突撃すれば良いと言う言葉が喉元まで込みあげて来たが、その言葉をグッと飲み込み回れ右をしてビル街を繋ぐトンネルに潜り、身体や頭の上に積っていた雪を振り払う。
「どうする? 思ったよりジャックフロストの数が多いみたいだけど……」
「まずはコカトリスだ。キングフロストは後で考えれば良い。それよりここだと悪魔に見つかる。早く地下街まで潜るぞ」
さっさと先に進む長久とその後を追って行くリーナとパスカルに続いて、私とべスも悪魔の気配が無い地下まで足早に進んでいると……。
「お前さん、もしかして長久さんかい?」
通路の中ほどの壁から長久を呼ぶ声がして私達は足を止めた。
「盗掘者か、何してるんだ? こんな所で」
「何って商売だよ。とっておきの情報いらないか? 買ってくれるならこっちへ案内するぞ」
盗掘者はセンターでは犯罪者であり、テンプルナイトには発見次第捕縛、あるいは殺害命令が出ているので腰に手を伸ばそうとしたが、その手はリーナによって止められた。
(何をする、相手は犯罪者だぞ)
(犯罪者でも貴重なこのエリアの今の情勢を知る人間には違いない。それに長久の方針に従うと言ったのだから大人しくしてて)
リーナに睨まれながら耳打ちされ、私は不本意ながら構えを解いて長久と盗掘者の会話に耳を傾けた。
「随分と寒いのにご苦労だな、まぁまずはこれで一杯やってくれよ」
「ヒュウ! 良いね良いね、太っ腹だね。ありがたく貰っとくよ」
情報料ではなく、ただで酒でも買ってくれと言ってマッカを渡す長久に盗掘者は上機嫌に笑い出した。
「少しだけ扉を開けるからこっちへ着てくれ、急ぎだぜ?」
その言葉の後に通路が開き、人が1人通り抜けることが出来るかどうかの隙間が生まれた。長久は手招きすると通路の中に身体を滑り込ませ、私達もそれに続いた。
「ほら、ここで座って商談と行こう。お嬢さん方も座ってくれ」
汗臭い部屋に置かれている椅子に座るのは御免だったので壁に背中を預けるが、リーナと長久は迷う素振りも見せずに椅子に腰を下ろした。
「コカトリスの棲家を探している、毒草をどこかで見なかったか?」
「コカトリスと戦うつもりかよ!? クレイジーだな。まぁ良い、それなら150マッカでどうだ?」
150マッカを要求する盗掘者に長久は机の上に1000マッカを乗せた。
「ほかにも色々と欲しい情報があるんだが……まずは150だな。ほれ」
指でマッカを弾き盗掘者の前にマッカが滑りながら移動する。
「流石はチャンピオンとチャンピオンの師匠だな。太っ腹だ。まず、コカトリスだが、キングフロストの冷気から逃げる為のシェルターを
温めている地下区画に住み着いてる。地図は「ほらよ」……上客様だ。丁寧に書いてやるよ」
「ついでに悪魔の出現情報もつけて」
「……OK。1000マッカも貰ったんじゃ、出し惜しみはしねえよ」
そう言うと盗掘者はなれた手付きで地図を書き始める。
「随分と書きなれてるな?」
「バジリスクがコカトリスに進化する前に討伐に出た連中に何枚も書いてやったからな、誰1人戻らなかったけどな」
「そうか……世知辛いな」
「ああ、良い奴ほどすぐ死ぬ。それがセンターの外の理さ。ほれ、出来たぞ」
盗掘者の荒んだ目が向けられ私とべスは思わず身を竦めた。光1つない絶望した瞳、これが同じ人間の目かと思うほどだった。
「キングフロストの討伐もしようと思っているんだが、あいつの回りの情報は何かないか?」
「本気で言ってるのか?」
「本気だよ。んでどうだ? 情報はあるか?」
長久の言葉に盗掘者は本気を感じ取ったのか小さく無駄死にしてくれるなよと呟いてから口を開いた。
「キングフロストの回りはフロスト、エースが固めてる。その外周部はジャアクフロストが1体いてフロスト達を統率してる感じだ。恐らくキングフロストの分身体だとホーリータウンのデビルバスターは考えている」
「なるほど、それでホーリータウンは何か対策を練っていたのか?」
「勿論だ。コカトリスが住処にしている区画に開発中のアギダインストーンというものがある、これで短時間だが一気に周りの気温を上げて、キングフロストを叩く計画だったんだ」
「……だけどバジリスクが住み着いてしまったんだ?」
「ああ、アギダインストーンは魔力を使えば起爆準備の赤色になる。点滅を始めれば爆発10秒前だ」
「OK。色々と助かった。これとっておいてくれ」
「毎度。生きて帰ってきてくれよ、戻ったらご馳走と美味い酒を奢るからよ」
泣き笑いの笑みを浮かべる盗掘者に見送られ、私達は再び冷気に満たされた通路に足を踏み入れた。盗掘者のくれた地図とその周辺を当て嵌めながらこの周辺の立地を確認した所で私達は一時的な拠点に選んだビルへと戻った。
「長久。あの盗掘者だが……何故あそこまで情報通だったんだ? もしかしてお前の知り合いだったのか?」
とても盗掘者が持っているとは思えない情報を幾つも持っていた。もしかしたら長久はあの盗掘者の知り合いだったのか? と尋ねると長久はまさかと言いながら方を竦めた。
「キングフロストのせいでホーリータウンの住人はシェルターに缶詰だ。食う物も無くなって外に食料を求めて安全なシェルターを抜け出してきた連中の生き残りだろうよ。元はホーリータウンのデビルバスター、しかもかなりの上役だと思うぜ」
元はホーリータウンのデビルバスターが盗掘者に身を窶している。デビルバスターはセンターからの給付金も出るので、安定して暮せる筈なのに何故……。
「何故って当たり前だろ。ホーリータウンにセンターが支援をして無いのは見れば分かる。テンプルナイトも出撃させず、俺とリーナとべスとライドウだけ、誰がどう見ても見捨ててる以外に考えられない」
「センターはそんな事を……そんな事を……」
していないとは言い切れなかった。ホーリータウンの周辺やハイウエイの周辺にはキングフロストとコカトリスの討伐に挑んだであろうデビルバスターの遺体もあった。それらはとてもコカトリスやキングフロストと戦えるような装備はしていなかった、それ所かテンプルナイトの支給品の装備より劣るものしか装備していない遺体もあった。センターでは見ることのない現実を見て私の言葉は尻すぼみに小さくなっていった。
「立つ位置が変われば正義や悪なんて簡単に変わる。何が正しくて、何が間違ってるかなんて誰にも分からないんだよ。言われたから、こう教えられたからじゃなくて、自分で何が正しくて、何が間違っているのか考えないとロボットになっちまうぞ。じゃあ俺は仮眠を取るから何かあったら起こしてくれ」
そう言って仮眠すると言って部屋を出て行く長久とそれを追いかけていったリーナとパスカルの背中を見つめる。
「べス。まだ1日も経っていないのに、センターの教えが正しいのか私には分からなくなって来た」
「……私も、何が正しくて、何が間違っているのか……か」
センターの教えは何よりも正しい完璧な教えだと思っていた。だがそれが本当に正しい教えなのか、センターの外で見た現実を前に私とべスは分からなくなってしまった。
「私を抱いて寝たら温かいよ?」
「駄目に決まってるだろうが、この馬鹿」
「……けちんぼ……ッ! パスカルは一緒なのに」
「わふ?」
「犬と同じ扱いを求めるな、馬鹿」
「長久に犬扱いされるならありだと思います」
「おやすみ」
「いじわる~ッ」
長久と一緒に寝ようとして何食わぬ顔でついて言ったリーナが長久に部屋から追い出されている光景を見て、あれは間違っているなと思いながら思わず笑ってしまったが、この日から私とべスはセンターの教えに疑問を抱くようになるのだった……。
5週目の世界 偽りの千年王国 その10へ続く
イベントのないところなのでイベントを付け加えて見ました。何が正しくて、何が間違っているのかは永遠のテーマだと私は個人的に思っております、次回はコカトリス撃破まで書いて行こうと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。