収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

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5週目の世界 偽りの千年王国 その12

 

5週目の世界 偽りの千年王国 その12

 

大教会の中は外に負けないくらい冷気に満ち、外よりも強力なジャックフロスト達とアクアンズなどの精霊に加えて厄介な者が大教会には巣食っていた。

 

「女は子を産め! それだけが女の価値だ!」

 

メシア教の旗を槍のように振るい、私やライドウに下卑た視線を向けてくるメシアン「狂信者」

 

「ひゃは、はははは! 良いぞ、良いぞ、今度は良い女揃いだ!」

 

ぼさぼさ頭に痩せ細った骨と皮ばかりの男「スキャナー」

 

「新しい女、新しい女だああ!」

 

「ぶひゃひゃひゃひゃ! これも神の思し召しなりぃいいい」

 

上半身裸で斧を手にしたメシアン「ブッチャー」と子供の落書きのような顔が書かれた頭陀袋を被り、チェーンソーを手にしている「エグゼクター」。テンプルナイトが表向きの実働部隊だとすれば、闇の実働部隊とも言える男達。それが大教会を棲家としていた。

 

「リーナ」

 

「ん、ランタン君」

 

【ヒーホー!】

 

【マハラギオン】

 

ヒーホー君の掲げたランタンから放たれた火炎が長久の手にしている赤い刀へと吸い込まれる。

 

「人間でありながら悪魔に堕ちた者を俺は嫌悪する。失せろ、目障りだ」

 

【火炎忠義斬】

 

長久が回転しながら振るった炎の斬撃がメシアン達を切り裂き、切り裂かれた場所から炎が侵入し人肉の焼ける不快な匂いとメシアン達の断末魔が大教会の中へ響き渡る。

 

「待ってろ」

 

「あ、待って、いき、いきます、私も」

 

「わ、私も行く!」

 

メシアン達が出て来た部屋について行こうとするべスとライドウに向かって長久は鋭い視線を向けた。

 

「待ってろと言ったはずだ。女子供が見るものじゃない。パスカル、見張ってろ」

 

「グルウ!」

 

長久の次に強いパスカルがその部屋の前に陣取ってしまえば私達が無理矢理長久を追う術はない。ベスとライドウはぶつぶつとこんなのがメシア教がやるはずが無い、センターがやるはずが無いと呟いているが、私はテンプルナイトに襲われ掛けたこともあるのでメシア教はクソという感想しか抱かない。そもそも特級階級だからセンターの外の住人に何をしても良いと考えているメシアンに好感を持てるわけが無い。

 

(早く現実を見れば良いのに)

 

ベスとライドウも早く現実を受け入れれば良いのにと思いながら私はチャクラドロップの封を空けて、口の中に放り込みMAGを回復させながら長久が部屋から出てくるのを待っていた。

 

「終わった?」

 

「ああ、ちゃんと埋葬して来た。それとメシアンがなんでこんなに大教会の中にいたのか分かったぞ、見てみろ」

 

乱雑に閉じられた紙が投げ渡され、私はそれを受け取り表紙にでかでかと書かれていた文字に眉を顰めた。

 

「メシア計画?」

 

「「え?」」

 

私の呟きにべスとライドウも私の方に駆けて来て、私の手の中の計画書に目を通した。そこにはデビルバスターもしくは、高純度のMAGを内包している適齢期の女を捕まえて無理矢理子供を産ませ、メシアを作り出すことを目的とした元老院からの指令書だった。

 

「うそだ、元老院が……センターが」

 

「で、でも……これは元老院の……わたしの、私達の信じていたものは……なんなんだ……」

 

メシア教の悪辣さ、そしてそれが下っ端の暴走ではなく、元老院、強いて言えばセンターの司祭からの命令だったと分かり崩れ落ちるべスとライドウを横目にもう1枚の計画書に目を通している長久に近寄る。

 

「それは?」

 

「これか? これは霊的国防兵器について書かれている」

 

「霊的国防兵器?」

 

霊的国防兵器という聞き覚えの無い言葉に首を傾げながら鸚鵡返しに尋ねる。

 

「まだ東京があった時代に日本の守人をしていた英霊、英傑を指す言葉だ。そしてここにはその霊的国防兵器に繋がる何かがある」

 

「ああ、それで……納得した」

 

この大教会の奥から感じる荒々しく、だが神々しいMAG。恐らくそれが霊的国防兵器に関係する何かなのだろう。どの道キングフロストを討伐しなければならないので奥に進むのは良いし、長久がいるので霊的国防兵器も見つけることが出来ると思うのだが……。

 

「あれどうするの?」

 

元老院とセンターの計画であるメシア計画の計画書を見て青い顔をしているべスとライドウを見てどうする? と尋ねる。

 

「俺もどうしたら良いか分からない」

 

「やっぱり?」

 

「わん?」

 

何でも出来るし頼れる長久でもどうしようもないことがある。それが今のベスとライドウの状態であり、私と長久は2人の気持ちの整理が付くまで装備の点検をして待つ事にするのだった……。

 

 

 

私達の信じていた物が全て崩れ去っていく……ホーリータウン。センターのお膝元で、センターの権威を示す聖なる街。その象徴たる大教会の中では司祭と元老院から指示を受けたメシアン達による女性の誘拐および強姦が行なわれていた。しかも飽きたり、壊れたら悪魔の餌にしていたという事実。あちこちに残されている血文字による被害者の遺言、そして肉片が僅かにこびり付いた人骨を見る度に私はテンプルナイトである自分が酷くおぞましいものに思えてきた。

 

「ヒャッハアアアア!」

 

「きゃあッ!?」

 

暗がりから飛びかかって来た狂信者の手が私の服を掴み服が破られ、そのまま押し倒されると思った次の瞬間長久さんの回し蹴りが狂信者の顔面を蹴り砕き、吹き飛ばされた狂信者の喉にパスカルが喰らいつき狂信者を絶命させる。

 

「油断するなと言ったはずだ。ここのメシアンはお前達が知るメシアンやテンプルナイトとは違う。司祭と元老院の指示に従えば何をしても良いと思っているような連中だ。自分の身は自分で守れ。俺にも出来る事と出来ない事はある」

 

説教と共に投げ渡された外套を受け取り、破かれた服を隠すように外套で身体を覆う。

 

「……これがセンターの……メシア教の本質」

 

「俺とリーナは少なくともそう思っている。選ばれた人間だから何をしても良い、何をしても許される。べスとお前は違うかもしれんが、少なくとも殆どのメシアンとテンプルナイトはそう思っているだろうよ」

 

「私も長久がいなかったら慰み者になってたと思うよ」

 

リーナでさえもテンプルナイトに襲われかけたと聞かされ、私が信じていたメシア教は全て幻だったと思い知らされた。

 

「長久さん……私はこれからどうすれば」

 

もうセンターに戻っても私は今までのようにメシア教徒としてセンターに尽くすことは出来ない。誇りと伝統あるテンプルナイトの穢れなき白き装束を纏う事にも抵抗がある。

 

「それは俺がどうこういうことじゃない、言っただろ? 自分の目で、自分で何が正しいのか、何が間違っているのかを考えろってな」

 

私を突き放すような言葉を口にしてリーナとパスカルと共に歩き出す長久さんの後ろをついていくライドウを見て、私は反射的にライドウの手を掴んだ。

 

「どうしたべス」

 

「ライドウはなにも悩まないの? それとももう答えは出たの?」

 

センターとメシア教の闇を見て、私は何を信じれば、何をすれば良いのか分からない。だけどライドウは普段通りに見え、何の迷いも感じられなかった。

 

「私はライドウとして、葛葉の血を継ぐ者として何をするべきなのかは分かっている。テンプルナイトではあるが、私にテンプルナイトでなければならないという考えはない、長久は言った。何が正しく、何が間違っているかは自分で考えろと、だから私は長久とリーナについていく。それだけだ」

 

外套を翻し長久とリーナの後を追って歩いていくライドウ。私は暫くその場で立ち尽くしていたがメシア教の教えでも、センターの教えでもなく、自分で決め、自分で考える必要がある。ライドウは既に自分の道と考えを決め、私はまだ何をすれば良いのか、何が正しいのかは分からないが……今は前に進むしかないと思い慌てて長久さん達の後を追いかけた。

 

【やぁ! 久しぶりだな! 長「なんであんたはいつも褌なんだ! 服を着ろ服をッ!!」……はっはっはっ! ぐっほっ!?】

 

筋骨隆々の褌姿の男の姿に私達を襲おうとしていたメシアンの姿が脳裏を過ぎり、私だけではなく、ライドウもリーナも戦いの中で崩れた氷を拾い上げ全力で褌姿の変態に向かって投げ付け、3つの氷塊は褌姿の股間へと吸い込まれるように命中し、褌男の変態は股間を押さえながら崩れ落ちるのだった……。

 

 

 

股間を押さえて蹲って呻いている変態はそのまま溶けるように消え去ったが、消滅した訳ではない。とりあえず敵意は感じられなかったので、とりあえずあの変態の事はおいておいて。

 

「あの変態は知り合いなのか? 長久」

 

「知り合いと言えば知り合いだが……かかわりたくない胡散臭い爺だな」

 

どうも長久でも説明しきれない複雑な知り合いらしいと思わず笑いかけたのだが、突如部屋の中に溢れ出した濃密なMAGに咄嗟に刀を抜いて身構える。

 

【良くぞ参った。葛葉の血を引くものよ】

 

【ただ1人は余りにも未熟ではあるようだな】

 

【我らは汝らに試練を齎す者】

 

【全力を持って抗うが良い】

 

「目を塞げ!」

 

甲冑を身に纏った4体の人型の悪魔のうちの1体――ビシャモンテンが剣を振り上げるのと、長久がポーチから小さな鏡を投げるのは殆ど同じタイミングだった。

 

【マハラギオン】

 

『魔反鏡』

 

マカラカーンの効果を持つ鏡がバリアを作り出し、マハラギオンが反射され凄まじい光が放たれる。

 

【はぁあああッ!!】

 

「ッ!」

 

裂帛の気合と共に棒を突き出してきた悪魔の姿に少し遅れて刀を振るい、その棒を弾くが即座に振り下ろされた棒に肩を打ち据えられる。

 

「くっ!」

 

【遅いぞッ! その程度かッ!】

 

横薙ぎ、突き、下段からの突き、変幻自在の棒術の嵐に私は致命傷を防ぐのがやっとだった。

 

「はっ!」

 

【軟弱未熟脆弱!】

 

なんとか合間を見て反撃を繰り出すが、棒を持つ悪魔……ゾウチョウテンは私の刀を巻き込むようにして受け流し、その足で刀を踏みつけ私の手から刀が抜け落ちた。

 

【ふんっ!】

 

「ッ!?」

 

ゾウチョウテンが手にしていた棒が投げ付けられ、それを咄嗟に掴む。その間にゾウチョウテンは氷に突き刺さっていた刀を引き抜いて正眼に構えた。

 

【刀とも呼べぬ棒切れではあるが……今はこれで構わんか! 行くぞッ!】

 

「ちいっ!!」

 

恐ろしい速度で切り込んでくるゾウチョウテンの姿に私は棒で防ぎに出る。だが悪魔であるゾウチョウテンの膂力に女である私が耐え切れる訳も無く、切り上げによって私の身体は簡単に宙へ弾かれたが、弾かれた勢いを利用して天井に着地し、思いっきり天井を蹴ってゾウチョウテンに向かって急降下しながら棒を突き出したとき私は信じられない物を見た。

 

【シッ!】

 

【葛葉乱舞】

 

「ッ!? ちいっ!?」

 

腰打めに構えた刀から振るわれる無数の斬撃。それは長久も使っていた葛葉の剣術、このまま突っ込んだらバラバラに切り刻まれると気付き、咄嗟に棒を氷に突きたて強引に軌道を変える。

 

【ほう、反射神経だけは妥協点か。だが葛葉を名乗るには余りにも軟弱】

 

「……お前は葛葉の悪魔か」

 

【かつてはな。とは言え天使に破れ、メシアンにこの場に封じられた敗残者よ。故に我はメシアンを憎む、そしてメシアンに組する弱き葛葉を許しはしないッ!】

 

振るわれる刀を飛びのいてかわすがそれを見てゾウチョウテンは落胆した素振りを見せる。

 

【なんと弱い、弱き葛葉に生きている価値は無いッ!!】

 

「がっ!?」

 

一瞬で追いつかれ振るわれた刀の一撃が脇腹を捉え、私はボールのように吹っ飛ばされ氷壁に背中からぶつかり、呻き声を上げた。

 

(強い……これが、葛葉の悪魔)

 

痛みはある、そして死ぬかもしれない恐怖もある。だがそれ以上に歓喜が胸を占めていた。

 

「私はもうメシア教にもセンターにも従がう事はないだろう。今までのメシアの葛葉ライドウはもういない、ただのミズキとなる」

 

今までの自分と決別し、ただのミズキとなる為の試練と考えればこのゾウチョウテンとの戦いは私が文字通り今までの自分を殺すための儀式だ。そのまま死ぬと言うのならば、私には葛葉もライドウも背負うだけの能力が無かったということだ。

 

【口先ではどうとでも言えるぞ】

 

「ああ、だから偉大なる先達の仲魔に見極めてもらうとしようッ!」

 

葛葉でも、ライドウでもなく、ただのミズキとして生きていく為に、何が正しく、何が間違っているのか己の目で見て歩む為に、命と己の全てを懸けてゾウチョウテンとの戦いに挑むのだった……。

 

 

 

振るわれる二筋の閃光を赤口葛葉で弾きながら地面を蹴って間合いを離す。リーナ達の投げた氷塊で股間の紳士を攻撃されて消えていたのに何時の間にか復活していたゴトウと甲冑を殆ど失い、刀だけが万全な状態のビシャモンテンの猛攻撃は赤口葛葉でなければ防ぎきれなかったなと苦笑し、片手ではなく両手で赤口葛葉の柄を握り締めゴトウとビシャモンテンを睨みつける。

 

【なるほど、中々やる】

 

【だろう! 彼の才覚はずば抜けている!】

 

「それにしたって厳しすぎるだろうが」

 

ゴトウとビシャモンテンの2人掛かりはいくらなんでも厳しい。ビシャモンテンがメシアンとの戦いの傷が癒えて無いので万全では無いからこそ戦いになっているが、ベストな状態ならば俺はとっくの昔に地面に這い蹲っているだろう。

 

【完全ではない我と】

 

【魂の欠片である私に敗れるようでは】

 

【【お前達に未来はないッ!!】】

 

その一喝で空気が振るえ、思わず身震いするほどの威圧が当てられる。確かにその通りだ、天使に支配されたこのディストピア。ベスとライドウがセンターとメシア教に疑問を抱いた以上俺達の存在はセンターとメシア教にとっては邪魔になり、排除する為に刺客が送り込まれるのは目に見ている。ここで倒れていては道半ばで倒れるのは間違いない、この2人に勝つだけの力が無ければ俺達の旅路はここで終わりとなるだろう。

 

「は……そりゃそうだ。ギアをあげていくぜ」

 

【ラスタキャンデイ】

 

【ランダマイザ】

 

ラスタキャンデイとランダマイザの乱用は俺の寿命を削ることになるが出し惜しみをして勝てる相手ではない。

 

【その覇気……良いぞ、かつてのライドウを思い出す】

 

【彼に勝る護国の刃など存在しない】

 

【ふっふっふ、ああ。直接刃を交えれば分かる】

 

「四天王にそこまで賞賛されると俺はガキだから調子に乗るぜ?」

 

赤口葛葉を振るいMAGを伴った飛ぶ斬撃を放つと同時に地面を蹴って飛ぶ斬撃に追いつく。

 

「おおおおおッ!!」

 

【怪力乱神】

 

先に飛ばしたMAGの刃に追いつき、上段からの一撃で十字に切り裂く。

 

【葛葉十字斬】

 

【ぬううんっ!? くは、クハハハハハハっ!! 良いぞ良いぞ! これでこそお前の前に立ち塞がった意味もある!】

 

【調子に是非乗ってくれ! そして君の全力を私達に見せてくれッ!】

 

「言われなくても見せてやる! 覚悟しなッ!!」

 

リーナ達も四天王との戦いに苦戦しているのは分かっているが、今のランダマイザとラスタキャンデイで少しは楽になる筈だ。

 

「今の俺が何処まで出来るか確かめる相手に不足なし! 行くぜッ!!」

 

【【来いッ!!】】

 

俺は好戦的では無かったと思うが、どうもこの身体の持ち主はかなり戦いが好きだったようで、燃え上がる闘争心を押さえきれず俺は獰猛な笑みを浮かべ、ゴトウとビシャモンテンも恐ろしさを感じさせる笑みを浮かべ、後の事は何も考えず目の前の敵を打ち倒す為だけに刃を振るうのだった……。

 

 

 

5週目の世界 偽りの千年王国 その13へ続く

 

 




メシアンのクソさを直面したべスとライドウのセンター離反イベントを発生しつつ、四天王+褌マンとの戦いとなっております。次回はリーナとパスカル、それとべスの戦いを書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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