収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

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5週目の世界 偽りの千年王国 その13

5週目の世界 偽りの千年王国 その13

 

 

ジコクテンと名乗った悪魔は鎧も兜も砕け散っているが、手にしている剣だけは完全な形を保っていた。その姿を見るだけで守りを捨て、自分の全てを攻撃だけに振り切っているのが一目で分かった。

 

「パスカル! GOッ!!」

 

「グルうう!」

 

ジャックフロストやランタン、ハイピクシーでは力不足なのは目に見えておりパスカルと私を主体に、デモノイド オラクルスや地霊ノッカーの補助呪文で私達を強化し、ヒーホー君とランタン君達には遠くからブフやアギで攻撃して貰っているが届かない。

 

【温いッ!!】

 

【マハザンマ】

 

マハザンマを攻撃ではなく遠くからの魔法を防ぐ為に展開し、牙を向きだしにして飛び掛ったパスカルと切り結ぶジコクテンの隙を突いてスクカジャで強化した最大加速の踏み込みで突きを放つ必中を確信した攻撃だったのだが……。

 

【その程度か! 足りんぞ!】

 

【極・物理見切り】

 

なんらかのスキルが発動し、攻撃が透かされた。ジコクテンが剣を振り上げるのを見て致し方なく煙玉を足元に落とし、煙幕に紛れてジコクテンから距離を取る。

 

「パスカル」

 

「わん!」

 

パスカルに向かって魔石を投げるとパスカルは見事に魔石を空中で食べ、傷付いた身体を回復させる。

 

【どうした、この死に体の悪魔1匹に攻撃を当てることすら出来ないのか?】

 

ジコクテンは確かに死に掛けだ。一発でも当てることができればその瞬間に勝てる、だがそれをさせない。

 

「当てるよ。私が更に前に進む為に、だって貴方は私の為の敵……そうでしょう?」

 

【ほう?】

 

ジコクテンが興味深そうに声を上げ、続けろと促してくる。

 

「長久は純粋に強く、指揮官の2人。ライドウは道を定めるための、べスは自分の役目を理解させる為、そして私には同じタイプの敵」

 

小柄な私はどうしても補助を筋力に回さざるを得なく、防御を捨てることになる。その為にスピードを伸ばして来た避けて防ぐ、それは一撃クリーンヒットで貰えばその瞬間に終わりの私に出来る攻防一体にして、唯一の戦闘手段だったが、これには欠点があった。当然ながらスタミナの消耗が激しく、持久戦になれば足が止まってしまうため私の戦闘は基本的に速攻しかなかった。だがジコクテンは私に別の可能性を見せた。一撃貰えば死ぬ、だから撹乱して逃げるのではない、致命傷だけを防ぐ特殊な戦闘態勢。身につければ私の手札が増えると確信出来る妙技だった。

 

【洞察力と観察力は妥協点だ】

 

「それはどうも」

 

【だがそれだけでは意味はないぞッ!】

 

振るわれる剣の圧力は凄まじく、逃げるべきだと本能が叫ぶが、私はあえてその場に足を止めた。

 

「……くっ」

 

【物理見切り】

 

ジコクテンほどではない、だが僅かに攻撃を見切ることに成功し、返す刀を振るうがそれはジコクテンの指先で止められた。

 

「グルルルウ!!」

 

【ふっ、良いコンビだ】

 

ジコクテンが突きを放つよりも先にパスカルが飛び掛り、ジコクテンが指を放した隙に地面を蹴って距離をとる。

 

「ありがとう、パスカル」

 

「わふ」

 

少し呆れたような鳴声をあげるパスカル。パスカルは長久の仲魔であり、それを私に就けているのは私が心配だから、そして私が弱いからだ。

 

(もっと強く、もっと前へ)

 

足踏みをしていたら長久は手の届かない場所に行ってしまう、それが分かっているから私に足踏みをしている時間は無く、躊躇っている時間も無い。

 

「行くよパスカル、あいつを倒す」

 

「バウッ!」

 

戦いの中で更に前へ、少しでも遠くに見えるその背中に追いつく為に……。

 

(手掛かりは見えた)

 

長久の動きとジコクテンの動きには共通点がある。攻撃の瞬間に、そして防ぐ為にMAGの流れが一瞬だけ見える。長久の強さの一欠けらだとしても、それを身につけることが出来れば私は更に前に進む事が出来るはずだ。

 

【面白い、やって見せるが良いッ!!】

 

ジコクテンが刀を振り上げるその間に僅かなMAGの流れが見える。死の恐怖に震える体を捻じ伏せ、私は振るわれる刀をしっかりと両目で睨みつけ、振るわれた刀に臆する事無く前に踏み出すのだった……。

 

 

 

 

閃光にしか見えない稲妻が私の足元に炸裂する、命中していないのにその余波だけで私は吹っ飛ばされ氷室の中を転がりまわった。

 

「うっ……う」

 

【お前には魔法に対する理解が足りぬ。使えば良い、発動すれば良い、そんな考えでは魔法を使いこなすことなど出来はしない】

 

【アギ】【アギブースタ】【魔導の才能】

 

振るわれた筆の先に灯る炎を見て、私も咄嗟にアギラオを唱えるが……。

 

「嘘!? どうして!?」

 

【言った筈だ、理解が足りぬとな】

 

私のアギラオはコウモクテンのアギに簡単に消し飛ばされ、アギとは思えない業火が迫ってくるのを見て私は頭を庇って積っている雪の中へ飛び込んだ。

 

「っきゃああッ!?」

 

一瞬で雪が蒸発し、身体を守っていてもなお身体を焼く熱に思わず悲鳴を上げる。

 

【叫んでいる時間などありはしない】

 

【ブフ】【ブフブースタ】

 

氷塊が飛んでくるのを見て剣を振るって迎撃に出るが、私の剣は簡単に砕け散り氷壁に突き刺さり、氷塊に吹き飛ばされる。

 

「うっ……うう……な、なんで」

 

魔法の才能はテンプルナイトの中で一番だった。だけど私の中級魔法は簡単に初級魔法に砕かれてしまう。それがどうしても理解出来なかった。

 

【何故か? 簡単だ。何度も言うがお前には魔法の理解が足りない】

 

「理解……?」

 

【全く、論外ではあるな。ただ魔法を覚えればそれで良いという訳ではない。己の素養に合わせ、魔法への理解を深め、MAGの集束を高め、己だけの魔法を作り出す】

 

アギが大きく広く広がり、ブフは氷の槍に、ザンは鎌へ、ジオは眩い光の剣へと変化する。それは魔法を自分の目的に、そしてその役割に応じて変化させ、応用力、そして攻撃力を大幅に増強する私には出来ない技術だった。

 

「あ……ああ……」

 

【理解したな? お前に足りないのは魔法への理解、そして魔法の特性に応じたMAGの練りこみ、お前はただ魔法を覚えただけ、十全に使いこなす私の足元にも及ばない】

 

事実だ。魔法を使えるようになっただけで満足していた、魔法がなんなのか、それをどう使えば良いのか私は考えていなかった。

 

【抗え、そして勝利して見せよ】

 

【アギ】【ジオ】【ブフ】【ザン】

 

マシンガンのように放たれる魔法に少しずつ、少しずつダメージが蓄積する。焼けど、凍傷、裂傷、麻痺……直撃こそしていないが、その余波だけで私はボロボロになっていた。

 

「まだ……まだ」

 

【ディア】

 

信じていたものは虚構だった……。

 

正しいと思っていたものは悪だった……。

 

縋る者は無く……。

 

正しい道だと思っていたものは何よりもおぞましい悪だった……。

 

正義の証、誇りある白き衣装すらも穢れた物にしか見えなかった……。

 

テンプルナイトのべス……私が、私を作っていた物は全て与えられたもので、私が私の力で手にした物は何も無い。

 

【意地か、誇りか、いや、そのどちらでもないな。お前は何の為に立ち上がる?】

 

「……分からない」

 

今の私ではコウモクテンに勝てないのは分かりきっているし、信じている者を全て失って、ライドウや、長久さんやリーナのように進む理由も持たない私にはもう何も無い、何も無いのに……。

 

「私は……死にたくない」

 

まだ何も私の力で手にしていない、まだ何も成し遂げていない、まだ私は歩き出すことすら出来ていない。

 

「前に進む為に私はここでは死ねないッ」

 

【私を前にして吼えるか、良いだろう。ならばその意地を持ったまま死ぬが良い】

 

【アギダイン】【アギブースタ】【アギハイブースタ】【魔導の素養】

 

凄まじい炎がコウモクテンの手にしている巻物から放たれる。まるで目の前に太陽が現れたかのような、人間の力と技術では作ることも叶わない凄まじい業火が私へと向かってくる。余波だけでも骨すら残さないと分かる業火に向かって両手を突き出し、アギラオと叫んだ。

 

【……ほう、悪くない】

 

「はぁはぁ……」

 

アギラオではアギダインは消せない、だからアギラオの熱とアギダインの熱の差を利用して自分1人だけを守る壁とした。無論それでも防ぎきれるものでは無いが、それでも命は繋いだ。

 

【集中を切らすな、死ぬ気で、いや死んだつもりで挑め】

 

「言われなくてもッ!」

 

失うものはないも無い、死ぬのは怖い、生きたい。だけど惰性で何の目的も無く生きたくはない。何の為に生きるのか、何が正しく、何が間違っているのかそれを知る為に、自分が正しいと思う物を胸に抱いて前に進む為に、私はこんな所で立ち止まれないのだから……。

 

 

 

 

どこか分からない薄暗い部屋の中で小柄な悪魔が弾かれたように顔を上げた。

 

【……四天王が目覚めた。まさか……アオイ達が言っていた者が現れたのか】

 

【そうだ。ヒルコよ彼が来た、この世界を救う鍵を持つ者がな】

 

【ゴトウ……ああ、そうか、やっとこの時が来たのだな】

 

地下世界に封印されているゴトウの分霊の1人がヒルコと呼んだ悪魔はその顔を破顔させた。

 

【私の罪が許される時が来たのか……いや、まだか】

 

【その通りだ、確かに長久君は強い。だがそれ以上に天使は強い】

 

【ああ。そして悪辣だ】

 

天使の悪辣さ、邪悪さを身を持って知っているヒルコは不安そうに顔を伏せた。

 

【だが地上にいる私の分身が上手くやるだろう、彼は無事に地下に来るさ】

 

【そうか……お前はそこまで言うのなら信じよう。希望の導き手がこの地下へ訪れる……ガタガタッ!! 驚いた公が動くとは】

 

【分かるのだろう。きっと東京の守護者、最強の霊的国防神将門公も長久君の存在を感じ取ったに違いない】

 

【吉兆か、メシアンと天使の悪辣な策を潜り抜け、彼らがこの地へ訪れる事を祈ろう】

 

【うむ! 彼に返さなければならない物もあるしな!】

 

ヒルコとゴトウの話を遮るように震える折れた刀に呼応するように刀の回りに置かれている銃や剣がうっすらとMAGの輝きを放つ。それはまるで早く会いたいと訴えかけているように穏やかに優しい。TOKYOミレニアムに蓋をされ、太陽の光が届かないこの地の底で、まるで太陽な暖かく優しい光がヒルコとゴトウを照らしていた……。

 

 

 

 

5週目の世界 偽りの千年王国 その14へ続く

 

 




と言う訳で今回は少し早いですが、ヒルコを少し出してみました。それと魔導の素養と見切り系のスキルは本来は初期のメガテンにはないスキルですが、ハードモードということで追加してみました。次は決着まで書いて行こうと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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