5週目の世界 偽りの千年王国 その15
ビシャモンテンのおかげで私は消滅するほどのダメージを負わなかった。長久君との戦いで負ったダメージは深刻だが、それでも今すぐに消滅するわけではない。僅かながらに長久君達と行動を共にすることが出来るのはありがたい計算違いだった。
(少し様子を見ておきたいしな……)
長久君を覚醒させかけたのは失敗だった。長久君はまだ眠らせておかなければならない、「今」はまだ覚醒させてはいけないからだ。ビシャモンテンの封印があるとは言え、少し監視をする必要があった。
「それでバジリスクの討伐とキングフロストの無力化は出来たが、長久とリーナはこれからどうするつもりだ?」
「報酬を貰う為にセンターに戻るつもり。長久もそれで良いよね?」
「ん、ああ。それで良い、これ以上センターに利用されるつもりはないしな。ゴトウさん、あんたはどうする?」
【私達が隠しておいた物資の場所に君達を案内するつもりだが、どうするかね?】
天使の戦いに負けると分かった私とアオイはいつかの未来でやってくる長久君の為に物資を隠しておいた。使える者がいなければ宝の持ち腐れ、それを十全に生かせる相手に託す為に隠しておくのは戦いの基本と言えるだろう。
「ベスとライドウこそどうするんだ? まだセンターで行動するのか?」
「私はもうセンターの命令に従うつもりは無いぞ。表向きは指示は聞くが、お前達と行動を共にするつもりだ」
「私もライドウと同じです。センターの悪行を見てなおセンターに従がう事は出来ませんから」
テンプルナイト2人の離反、その内の1人は長久君と同じく葛葉の血脈だ。これは頼もしい味方が増えたと思うべきだな。
「1度センターに戻るか、司祭がどんなご高説をしてくれるか聞いてみるとしよう」
私の知る長久君よりも皮肉屋めいているが、これはこの時代の長久君の影響か、それとも覚醒しかけているのが原因なのかは判らないが、将門公の魔力が暴走を押さえ込んでくれることを今は祈るしかなく、ホーリータウンからセンターへと戻る準備をして居る長久君達を見ているとライドウは思い出したように何かを外套から取り出した。
「長久、これは使えるだろうか?」
「封魔管か。悪魔は封印されているのか?」
「いや、いずれ使えるようになると言って持たされていただけで、使い方も何も知らない。ただ素晴しい道具だから大事にしろと言って渡された」
メシア教は馬鹿なのか? いや天使が馬鹿なのか? 使い道も分からない道具を大事に持っていろとか本当に馬鹿そのものだ。
「ゴトウさん、ちょっとこれに入っててくれ」
【は……は?】
封魔管を向けられた次の瞬間には私は封魔管の中へと吸い込まれた。
【様々な経験をして来たが、これはダントツだ】
「あんたはメシア教に警戒されているだろ? 直接連れて行くわけにはいかないからな、そこで話を聞いててくれ、あんたの話とメシアの
司祭の話のすり合わせをしたい」
【そういう事なら分かった。悪魔扱いされるのは些か不満ではあるが、メシア教に私がどう伝えられているのか私も興味がある】
どうせ禄でもない伝わり方をしていると思うが、それもまた良いだろうと思い私は封魔管に収められた状態でMAGと傷を僅かながらに回復させながら長久君達と共にセンターへと向かうのだった……。
バジリスクの討伐とキングフロストはリーナの仲魔になっていたので無力化したと報告し、センター司教からマッカを受け取った俺とリーナはそれを手に司教に背を向けた。
「どちらへ?」
「どちらへって仕事が終わったから帰るんだよ」
「は? ヴァルハラエリアに帰る?」
信じられないという様子の司教だが、俺とリーナからすれば司教のほうが信じられなかった。
「まだ貴方達に頼みたい事があるんですよ!?」
「なら今度はヴァルハラエリアにデビルバスター本部に依頼って形で話を回してくれ。じゃあな」
待ってくださいと叫ぶ司教の声を無視してセンター管制室を出る。
「話は終わったのか?」
「ああ、金を貰えば終わりだ。それでライ……いや、ミズキ。ここに来るまでに言っていた資料って言うのはどこにある?」
ミズキは基本的に他のテンプルナイトと扱いが異なっていたらしく、葛葉の資料が保管されている資料室の鍵も持っているらしい。
「こっちだ。閉じ込められる前に済ませてしまおう」
べスとミズキの離反が知られれば間違いなくセンターの出口は封鎖される。早足でミズキが使っていた資料室へ向かい手当たり次第、運べるだけの資料を鞄に詰め込み、アギダインストーンを機械に接続し、簡易的な時限爆弾を作った俺達はセンター中に響き渡る爆発音と火災に紛れてセンターを後にし、ヴァルハラエリアへと向かった。
「な、長久にリーナ!? 帰って来たのか!?」
「そりゃ帰って来るだろ? 何言ってんだ? 岡本さん」
そのまま新岡本ジムに逃げ込むと岡本さんは信じられないという様子で俺とリーナを見ていた。
「いや、センターからお前らはセンターの住人になったって連絡がよ」
「あんな馬鹿しかいない所に住むつもりないよ、それより岡本。部屋はまだある?」
「あるけどよ、どうした? リーナ」
「ん、門下生とペット」
リーナが扉を開きべスとミズキ、そしてパスカルがジムに入ってくると岡本さんはリーナ達に少し待ってろと言って俺の首に手を回して、暗がりに引きこんだ。
「どういうこった? あれテンプルナイトだろ?」
「センターから押し付けられた仕事でメシア教の闇を見たらしくてな。センターから逃げてきた2人だ」
「……何を見た?」
岡本さんを巻き込むことになるが、かつての岡本さんと羽田さんの伝手が欲しくてヴァルハラエリアに逃げ込んで来たのだ。事情を説明するのは早い方が良いはずだ。
「人造メシア製造計画」
「……マジか?」
「大マジだ。それにホーリータウンの大教会でメシアンにめちゃくちゃにされて廃人にされてた人達も介錯してきた」
「それはリーナ達は……」
「やらせるわけないだろ。俺が処理して来た」
薬と魔法で完全に精神を壊された女性が何十人も大教会に放置されていたし、遺体もあった。メシア教のクソ具合を全部煮詰めて濃縮したような場所が大教会だった。
「羽田さんとレッドベアーは?」
「レッドベアーは走りこみだ。羽田の奴はチラシを配りに行ってるが……どうすんだ?」
「どうするもくそも多分メシア教、しいてはセンターと事を構える事になるかもしれないが……良いか?」
俺の言葉に岡本さんは頭を掻き毟りながら椅子に腰を下ろした。
「良いもクソもここまで聞いたら後戻りできねぇだろ。良いぜ、乗ってやる」
「助かる。それで岡本さんにもう1人紹介したい奴がいるんだが、ゴトウって知ってるか?」
「ゴトウ? ゴトウって……あれだろ、ミレニアムが出来る前にセンター相手にテロ行為をしてた永久戦犯の【そう、そのゴトウが私だ】は……はぁああああああッ!?!?
封魔管から出て来た褌一丁のマッチョマンの姿に岡本さんの絶叫が岡本ジムに木霊するのだった……。
頭が痛かった。羽田の奴もセンターの住人になるのを拒絶しヴァルハラエリアに戻って来たが、長久とリーナまで戻って来た。それはまだ良い、まだ良いのだが……。
「ねぇ、岡本。あたし達の知ってた歴史って何?」
「そりゃあ……あれだろ。嘘とクソのメシア教とセンターを崇拝させる嘘の歴史だろ……?」
人造メシア計画に永久戦犯のゴトウ……たった数分で俺達の常識は完膚なきまでに破壊された。
「あーゴトウさんだよな? つまりあんたはその……」
【人間の自由と尊厳を守る為に霊的国防兵器と共に立ち上がったのだが、天使には勝てなかった敗北者であり、無様に生き延びている者だ】
何人ものテンプルナイト、メシア教の司祭を殺した大罪人……それがゴトウだった。だがゴトウ本人と長久達がセンターから持ち帰った資料にはゴトウが何の為に戦っていたのかが事細かく記されていた。俺は利口ではないが馬鹿ではないのでその資料が真実であるとすぐに分かった。
「それで長久……あんたどうするの?」
「暫くはゴトウさんの存在を隠して、べスとミズキの存在をセンターから隠しつつ、戦いに備えたい」
「戦い……センター、いや、天使との戦いか?」
センター、そしてミレニアムは天使、それも最上級の大天使に支配されている。その大天使がいらないと判断すればセンターもホーリータウンもヴァルハラエリアも一瞬で消し飛ばされるだろう。それを防ぐ為にも、自分達を守るためにも力をつける必要があった。
「分かった。ベスとミズキの変装はこっちで準備するし、協力してくれると思う古い知り合いにも連絡する。羽田、お前も連絡して仲間を呼べ」
「OK、懐かしいわね。ミレニアムとセンターの関係性を調べてた時みたい」
懐かしいもう何十年の前の話だ。俺達みたいな世代は本当にセンターとミレニアムが正しいのかって疑問を抱き、行動に出た時代があった。若気の至りって奴だろうが知りたかった。親や祖父母が語る物が真実なのか、自分の目で確かめてみたかった。センターが本当にに救済をしてくれるなら何故自分達はこんな地獄で這いずり回って生きていて、悪魔に殺されないために強くなることを強いられているのか? 本当にセンターが世界を救ったのなら何故悪魔を野放しにしているのか、何故俺達をセンターに迎え入れてくれないのか……今の若い世代だってその不満はある。その正体を知り、年甲斐も無く胸が熱くなってくるのを感じる。
「レッドベアー。長久とリーナと一緒に行きなさい、多分2人だけじゃ厳しいかもしれないから」
「分かった。決勝の時の事は反省しているから許してくれ、リーナ」
「……考えとく」
まだ鬼の形相をしているリーナと巨体を小さくし謝っているレッドベアーに苦笑し、レッドベアーを連れて行けと長久にいうが、長久は首を左右に振った。
「レッドベアー。お前は残れ、ここに来るまでベスとライドウはテンプルナイトの格好をしていたし、テロ行為でセンターが厳重警戒態勢になってる。戦えるお前は残っておけ」
「……しかし」
「大丈夫だ。すぐに戻る。岡本さん、羽田さん。ベスとライドウとレッドベアーを残します、いざと言う時に備えてください」
「おう、分った」
いざ……つまり俺達がテロリスト認定された時に逃げる準備を整えていてくれと遠回しに言ってくる長久に頷きはしたが、隠されている物資までの距離がどれ程なのかが気になった。
「それで物資だが、遠いのか?」
「そこまでは遠くないがMAGに魅かれて悪魔が集まっているかもしれないらしい。連絡をしたらデビルバスターの連中に声を掛けて車を回してくれないか?」
「分かったぜ、なんなら俺と羽田で運転して行ってやるよ!」
天使とセンターの支配から抜け出る、その助けになれる。若い時に夢見た希望の導き手に導かれて世界を救う、そんな夢の続きを見る時が来るとは思っても見なかった。
「貴女達はこっちに来なさいな、今のままだと禄に出歩けないだろうから綺麗にしてあげる」
「あ、えっと。は、はい」
「……別に私はそういうのは興味が無いんだが」
「良いから来る、素材は良いんだからお洒落しないとね! あー楽しくなってきたわねぇッ! ね、岡本」
「ん、ああ。楽しくなってきやがったよ。本当にな」
夢の続き、伝説や神話の一端に俺達がいる。かつて見た夢の続き、夢見た理想の世界を作るための戦いだ。
「じゃあ行ってくる」
「おう。行って来い! へますんなよ!」
「それはこっちの台詞だよ、ヘマすんなよ、岡本さんよ」
人は良いが若干皮肉屋の長久の言葉にうるせえと怒鳴り返し、出発する長久達を見送ってから俺は電話を手に取った。
「よう、俺だ」
『あー? 岡本か。金ならねえぞ』
「わぁってるよ、なぁ、夢の続き見たくねぇか? 堂島」
『……マジで言ってるのか?』
「大マジだ。んでどうよ」
『……話だけは聞いてやるよ』
「そりゃ駄目だ。電話で話せる内容じゃねぇ、気になるなら俺のジムまで来な」
『良いぜ、顔を出してやる。出鱈目だったらぶっ飛ばすぜ』
「おうおうおう、良いぜ。あ、土産に酒……『切るぞ』……ちいっ! あのやろう切りやがった、まあ良いか次々……」
『はい、もしもし?』
「俺だ、俺!」
『なんだ岡本ですか、私には貴方へ何の用も無いですよ?』
「夢の続き見ようぜ、幾月」
『……出鱈目ですか?』
「さぁな、だが後悔はさせないぜ」
『……良いでしょう、失われた時代が分かるなら行きますとも』
「そりゃ助かる、んじゃ切るぜ」
かつて俺と羽田と一緒にヒーロー達の伝説を調べていた仲間達へと次々電話するが、何十人もいた仲間の中で電話に出たのは僅か数名だったし、もう父は死んだと聞かされ始めて友人が死んだというのを知った。だがそれでももう年老い現役を退いたもの、隠居したもの、様々な者がいたが夢の続きを見ようぜという言葉に反応しないものはいなかった。
「へ、皆同じじゃねぇか」
こんなクソッタレな世の中を壊してぇ、自分の子供に、仲間にもっと楽な生活をさせてやりたい。センターは本当に正しいのか、メシア教とは? 様々な想いを胸に抱いていた仲間達は想うように動けなくとも、また集まって来た。
「神取と九頭竜の奴はくたばったか……ちっ、しゃあねえな」
1番力を借りたかった知識人の2人が死んでいたのは想定外だったが、それでも電話に出た何人かの仲間は何十年も過ぎてもまだ約束の言葉を覚えていたことに思わず笑ってしまいながら俺は再び受話器を手に取り、仲間へと声を掛け続けるのだった……。
5週目の世界 偽りの千年王国 その16へ続く
4週目の世界で長久の祖母が桐条美鶴だったので、5週目の世界では引き続き平行存在としてペルソナシリーズからの参戦者です。
ここからはオリジナルルートで、ヴァルハラエリアやマダムの館をメインにして過去周回と繋がりのある話を書いてみようと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。