収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

93 / 114
5週目の世界 偽りの千年王国 その17

 

5週目の世界 偽りの千年王国 その17

 

岡本さんの迎えでジムに戻って来た俺とリーナ、そしてアオイの3人はかつて岡本さんと羽田さんと旅をしていた仲間の3人を紹介されたのだが……。

 

「友達は考えたほうが良いと思う」

 

「私もですね」

 

リーナとアオイが苦言を呈するほどに岡本さんと羽田さんの友達はやばそうな男達だった。

 

「やぁやぁ噂は聞いているよ、無冠の帝王とチャンピオン。僕は幾月修二……スラムで考古学をしている者だ」

 

見た目は紳士なのだが隠しきれない邪悪な気配が溢れている壮年の男性は柔和な笑みを浮かべているがその目に隠しきれない闇がある。

 

「……タカヤと申します。死んだ私の父が岡本さんと友人だったので父の代わりにご協力に参りました」

 

色白で生気が感じられないタカヤは年上なのか、年下なのか良く分からない不思議な感じだった、ただ信用も信頼もしてはいけない人間と言うのはすぐに分かった。デビルバスターなんていうアコギな商売をしていれば脛に傷があるのは分かる。分かるのだが……半谷、須藤、佐々木とどう見てもやばそうな連中ばかりが続くのはどうにかして欲しい。

 

「まぁ性格には問題があるけど実力はあるわよ?」

 

「実力あっても性格に問題があり過ぎると思いますが?」

 

それはあたしも思うのよねぇと言いつつも、友人だったからかフォローしてくる羽田さんの言葉を聞いてると1人の男が前に出て来た。

 

「堂島だ。ファクトリーでのデビルバスターの長官をしていたんだがな、色々合って今はプー太郎だ。まぁよろしく頼む」

 

癖のある連中の中で唯一まともそうな男性の登場に思わず安堵した。色々あってぷー太郎と言っていたが、その目が生きている。

 

「ファクトリーのデビルバスターの長官をしていたんですよね? センターからファクトリーで問題があったと聞いているのですが……そのところはどうですか?」

 

俺がそう尋ねると堂島さんは舌打ちの後に着ていたコートの中に手を入れ、ボロボロの冊子を投げ渡してきた。それを見るとそこにはファクトリーで今何が起きているのかがこと細かく記されていた。

 

「堕天使の出現とデミナンディの暴走」

 

デミナンディは食用に育てられている悪魔だが、温厚で暴れたりしないはずなのだがデミナンディによってファクトリーの作業者が重軽傷を負っているらしい、数は少なく見積もっても約150人、本当ならもっといるはずらしい。

 

「堕天使がいるという確証はあるのですか?」

 

「ああ、あるぜマダム。黒いテンプルナイトが描いていた魔法陣の写真だ、これ召喚陣だろ?」

 

投げ渡されたのは間違いなく悪魔召喚の為の魔法陣が写された写真だった。

 

「これで首になった訳ですか」

 

センターの悪行を見て、それを調べていたせいで首になってしまったらしい堂島さん。服がボロボロなのも証拠隠滅の為に追われているのか、それとも首になってもなおファクトリーの為に働いているからだろう。

 

「そういうこった……ファクトリーに行くなら俺も連れてってくれよ?」

 

「ええ、それはこちらから頼みます」

 

内部事情を知っている相手がいるのはありがたい、しかも本人もセンターの悪行を暴く気満々ならこれ以上にない頼もしい味方だ。堂島さんからもっと詳しくファクトリーの情報を聞こうと思ったとき、首筋にチリッとした静電気が走るのを感じて振り返る。

 

「遅れてすまないな、岡本」

 

「神条! おー久しぶりだな! それでお前の隣のお嬢さんは誰だ?」

 

「九頭竜アマネと申します。父の代役としてまいりました」

 

薄着でどこか浮世離れした雰囲気を持つ美少女がにこやかに笑みを浮かべるが、その笑みを見た俺は背筋に悪寒が走るのを感じた。

 

「あらあらあら! あの九頭竜の娘なの! こんなに可愛い子がいるなんて聞いて無いわよ~! 岡本、ちょっとこの子も着替えさせてくるわね~」

 

「いえ、その私は」

 

「遠慮しなくて良いわよ~ささ、行きましょう」

 

神条と九頭竜アマネ……本能的に何かやばいと訴えてくる何かがあった。もうぼんやりとしか覚えていないが、葛葉の里で誰かを庇って死んだ時……アギダインの業火に飲み込まれ、息絶える数秒までの間に感じた無機質な恐ろしい憎悪と殺意を今初めて思い出した。

 

(なんだ、なんだ今の感じ……)

 

俺を観察しているような、それとも俺の内面を覗き込むような……そうこれはまるで深い闇、底なしの井戸を覗き込んだ時のような言いようの無い寒気を感じた。幾月達も危険だと思ったが、アマネと神条は幾月達がただの小悪党にしか思えなくなるような底なしの闇をあの2人から感じて警戒していたのだが、リーナ達は俺の視線から別の何かを感じ取ったようで責める様なジト目で俺を見てきた。

 

「……長久、胸は私の方が大きいよ?」

 

「長久さん、余りそういうのはよろしくないかと」

 

「断じて違う!」

 

アマネを警戒していたのを薄着のアマネをガン見していたと感じたリーナとアオイのジト目に違うと声を荒げたが、それが返って2人のジト目を加速させる事になり、かといってアマネが危険なのか、神条が危険なのか、それとも両方危険なのか、それとも俺の思いすごしなのか2人にしっかりと説明出来る証拠も何も無く、岡本さんが助け舟を出してくれるまで俺は2人の物理的な威力さえ持っているように思える視線に晒され続けるのだった……。

 

 

 

 

九頭竜アマネを見ていた長久にこいつも普通に女に興味があったのかと最初は思ったが、その目を見て違うと感じた。

 

(警戒してる? いや、これは……疑ってるのか?)

 

女だとか薄着とかではない、自分達に害を成す相手として警戒している色がその目にはあった。リーナがテンプルナイトに襲われかけた時も同じ目をしていたが、この戦う力もなさそうな女の何を警戒しているのかが俺には分からなかった。

 

「あーマダム? 何故長久とリーナと共に?」

 

「忘れていた大事な者にまた会う為にですね、大丈夫ですよ。館には影武者を置いてますから」

 

こんなにマダムってアグレッシブだったのかと驚くのと同時に、余計な事を言うなとその目が物語っているのを見て、俺だけではなく羽田もこれ以上踏み込んではいけない話題だと理解しヴァルハラエリアのデビルバスターの本部から届けられた依頼書を机の上に乗せた。

 

「センターからの依頼書ですか?」

 

「おう。俺と羽田はもう目を通してる。お前も見てみろ」

 

長久に見るように促すと案の定最初の数ページでその顔を歪めた。

 

「センターって本当に馬鹿だな」

 

「おう、俺もそう思う」

 

依頼書は3つで1つの内容で前払いは10万マッカ。依頼達成で30万マッカを「ファクトリー」から受け取れるという内容だった。

 

「堂島。ファクトリーに40万マッカもあるの?」

 

「あるわけねえだろ、ファクトリーの金は殆ど全部センターに流れるシステムだ。ファクトリーの資産なんて良い所22万マッカだ。センターはファクトリーの連中に餓え死ねっていうのかよ」

 

ファクトリーの上層部だった堂島は舌打ちするがその気持ちも分かる。報酬はファクトリーから、そして依頼内容の1つがファクトリーの貴重な食を支えているデミナンディの全討伐だ。

 

「ううーん、これは酷いねぇ……子牛のデミナンディは良いとしても食糧になる個体は全部殺せとは……」

 

「センターらしいといえばセンターらしいですが……やれやれ、本当に悪辣な事だ」

 

センターは自分達さえ良ければ良く、それ以外の場所は労働力程度にしか思っていない……それがこの依頼書からは滲み出ている。

 

「ファクトリーの最深部の堕天使ベテルギウスの討伐……なんでベテルギウスって分ってるんですかね?」

 

「そりゃあれでしょう、自分達が召喚したからでしょ? 長久とリーナを何にしたいのかしらね?」

 

「従順な救世主にでもしたかったんでしょうよ、まぁそんなのに俺もリーナもなるつもりは無いですけどね」

 

ホーリータウンで討伐したコカトリスと討伐したことになっているキングフロストに続き、べテルギウス。長久とリーナに邪龍と魔王と堕天使を討伐した実績を与えようとしているのがセンターの考えだとは分るが……。

 

「本当に何がしたいんだ?」

 

「センターへの求心力が下がっているからセンターに従う救世主を立てることでセンターの権威が健在であるという事を示したいのだよ。岡本」

 

「私もそう思います。ここに来るまでに見ましたがセンターへの不満を持っている住民は多いですからね」

 

神条とアマネはそう言うが、センターの今までの動きを見ていれば何の疑いも無くセンターに従がうのは若い世代ばかりで、少しでも大人の世代はセンターへの不満を胸に燻らせている。それを求心力が下がっているとか言い出すのは本当に馬鹿としか言いようが無い。

 

「テンプルナイトを脱走したライドウの引渡しとべスを殺害したと思われるテロリストの捜索……そこはどう思う? ミズキ、べス」

 

「ライドウなんて知らないですね、私は」

 

誰の事です? ととぼけた様子の少女がライドウと呼ばれていたテンプルナイトなのは明らかだが、ミズキと名乗ってるのならばミズキなのだろうと口を閉ざす。

 

「死んだと向こうが考えているならそれで良いでしょう。やはりセンターを出る前にライドウの資料室を爆破して来て正解でしたね」

 

「うん。あの騒動のお蔭で楽にセンターを出れた」

 

こいつらなにやってるんだと思ったが、センターから出るのに騒動を起すのは1つの正解かと思い、喉元まで込み上げてきた説教を無理矢理飲み込んだ。

 

「んで、どうする?」

 

「受けるよ。ファクトリーにはどの道用があるからさ。な、マダム?」

 

「ふふ、貴方にマダムと言われるのはどうも慣れませんね。まぁ良いですけど」

 

……なんだ? 歳はマダムの方が上のはずなのに、何故か長久の方が一瞬年上のように見えた。

 

「ファクトリーでは様々な異物が出てくる。そうですよね? 堂島さん」

 

「ん? おお、俺達じゃ使い道が分からんものも出てくるが、それがどうかしたのか?」

 

「最終的な俺達の目的の1つにファクトリーが繋がるかもしれないって話ですよ。話は決まりましたし、行きましょうか。堂島さん、車は運転できます?」

 

堂島の運転を頼んだ長久達がファクトリーに出発するのを見送り、俺と羽田は長久達が戻る前に倉庫から引っ張り出しメンテをした武器をそれぞれ腰に下げた。

 

「さぁて、俺達もやる事をやるぜ。来たばっかりで悪いがお前らにも手伝ってもらうぜ」

 

「今のヴァルハラエリアはセンターにとって都合が悪いからねぇ~ファクトリーみたいにめちゃくちゃされると困るからね~」

 

ファクトリーに堕天使を召喚する魔法陣を書いていたと言うテンプルナイト。もしかするとヴァルハラエリアや、コロシアムの周辺にも同じ様な魔法陣が描かれるかもしれないと危機感を抱いた俺達はヴァルハラエリアのデビルバスターに協力を要請し、センターを爆破したテロリストを警戒すると言う名目でテンプルナイトが何か細工をしないようにとパトロールに出るのだった……。

 

 

 

 

長久、リーナ、ミズキ、べス、そしてマダムの5人とパスカルという名前の犬を1匹を乗せた俺はファクトリーへ向かう道中助手席に長久を乗せ、ファクトリーエリアの内情を話していた。

 

「塔? それが見えないとやばいんですか?」

 

「ああ。あの塔からは歌が流れててな、塔が見えないとその歌に洗脳されている証拠だ。ちなみに俺は見えてるぞ」

 

ファクトリータウンでは俺以上に優秀なデビルバスターはいないし、蓄えているMAGも多い。だからその洗脳の歌に抗えている。

 

「なるほどね、それで重労働させてると」

 

「俺はそう睨んでる。言わせて貰えば採掘場はいつ死ぬかも分からないほどに危険な場所だ。そんな所に喜んで潜る馬鹿がいると思うか?」

 

「違いない」

 

採掘途中で死んだ作業者のゾンビに、遺体からMAGを吸い取ろうと群がってくる悪魔に作業者の未練で悪魔化した採掘道具の数々……控えめに言って地獄だ。まともな感性があればとても作業しようとは思えない場所で、大抵の人間は浅い階層でしか作業しないが洗脳された奴は地下へ、地下へと潜って死んでいくのだ。

 

「まずはどっちから攻めるんですか? やはり採掘場?」

 

「いや、まずはデミナンディの牧場から行く、被害者を増やすわけには行かないし、何より……」

 

「洗脳される奴を増やすわけには行かないか?」

 

怪我をすれば生命力が弱まる、生命力が弱まればMAGも弱まる、MAGが弱くなれば洗脳に抗えなくなる。

 

「デミナンディの暴走はセンターへの反逆の意を緩める意図があると?」

 

「俺はそう考えてるぜ、テンプルナイトのお嬢さん」

 

それこそ文字通り死ぬかもしれない劣悪な環境で働いた給金を全部メシア教に寄付するなんてあり得ない話だ。

 

「酷い話だな。センターにいたら知らなかったな」

 

「それは良かった。もっと広い視野で物事を見てくれ」

 

センターで生まれて育った奴は外の世界を知らない、嫌味を言うのは俺の性分ではないが是非とも拾い視野で物事を見るようになって欲しいと思いながら運転をしていると怒り狂った牛の鳴声が響き始めて来た。

 

「どうやら熱烈な歓迎がありそうだ。上を開けるから迎撃してくれるか?」

 

「リーナ、ミズキ。任せても良いか?」

 

「OK。ランタン君行くよ」

 

「私も問題ないですよ」

 

屋根を開けるとリーナとミズキが上半身を出し銃声とジャックランタンの放ったマハラギオンの轟音が車の後から響いて来る。

 

「ちい! わらわら来たぞ! 何とか出来るか!? 出来ないなら1度止まるが」

 

「いえ、このまま進んでください。リーナ、フロスト君を頼む」

 

「了解」

 

車の屋根の上から音がし、開いている助手席の窓にジャックフロストが頭を突っ込み、指を3本立てる。

 

「チャクラドロップ3つか」

 

【そうだホー】

 

「OKだ。頼むぞ」

 

【任せるホーッ!】

 

長久の手にしているコルトパイソンの中にジャックフロストが吸い込まれるという異様な光景に思わず目を見開いた。

 

「そのまま走ってください。一気に処理しますから」

 

「お、おう任せるぞ」

 

無冠の帝王……それが長久の2つ名だ。コロシアムを勝ち抜く実力があるのにテンプルナイトとのいざこざでコロシアムに出場する権利を失ったヴァルハラエリア最強のデビルバスター。岡本と羽田の2人が全幅の信頼を寄せる男の実力はどんなものだとサイドミラーとバックミラーに視線を向ける。

 

【極銀氷忠義弾】

 

轟音と共に発射されたMAGの固まりは着弾すると同時に巨大な氷壁となり、デミナンディ達を纏めて飲み込んで氷の中に閉じ込めた。

 

「大事な食料ですからね。むやみやたらに殺すもんじゃ無いでしょ?」

 

「ふっ、ファクトリーの牧場の奴も喜ぶ。なんせ今は食うものにすら困ってるからな」

 

センターの依頼では全て討伐しろと言われていたが、何も馬鹿正直に全て殺す必要はないと氷の中で仮死状態にするという選択肢を取った長久に強さだけではなく、柔軟性もあるようだ。

 

「デミナンディの暴走が鎮まったらステーキをご馳走してやるよ」

 

「良いんですか? 金ないんでしょ?」

 

「はっ! 牧場主は俺の後輩だ。暴走を沈めたらお礼で良い所を食わせてくれるさ! 牧場までこのまま突っ切るぞ!」

 

センターの一泡吹かせてやりたいと思っていたので長久の対応は俺にとって最高の選択であり、ファクトリーを切り捨てようとしているセンターの司祭連中にざまあみろと内心で嘲笑う。

 

「よっし! 見えたぞ! 飛び出す準備をしてくれ!」

 

何人ものデビルバスターが牧場の扉を必死に押さえてデミナンディが外に出るのを防いでいるのを遠目で見た俺は後部座席に向かってそう叫び、アクセルを目一杯踏み込むのだった……。

 

 

5週目の世界 偽りの千年王国 その18へ続く

 

 




岡本さんと羽田さんの友人みんなやばい人、見たら裏切るって直感で理解する連中揃いですね。それとアマネさんは美少女ですが、その色気よりも本能的にやばいと感じた長久さんでしたが、他の面子は薄着のアマネをガン見していると勘違いされてしまった長久さんに南無。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。