収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

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5週目の世界 偽りの千年王国 その18

5週目の世界 偽りの千年王国 その18

 

ナンディ……ヒンドゥー教の神獣であり、破壊神シヴァの乗り物であり、シヴァが舞を舞う時にその音楽を奏でるとされる乳白色の牛。それがナンディだがそのナンディを人間の食料とする為にデモノイド・デミナンディへと変えた、3M近い巨体にフランケンシュタインのような継ぎ接ぎの肉体はそれそ物が鎧であり車から飛び出すと同時に撃ち出した神経弾は全てその身体ではじかれてしまった。物理耐性があるのは分かっていたが想定以上の防御力だった。そしてその弱い攻撃はデミナンディの怒りの火に更なる油を注ぐ事になった。

 

【ブモオオオオッ!!】

 

【ブモオオオオッ!!!】

 

【【冥界波】】

 

「フロスト君! マハブフーラッ!」

 

【了解ホー!!】

 

攻撃を加えてきた私達を敵と判断したデミナンディから凄まじい衝撃破が放たれるのを見て、私は咄嗟にジャックフロストにマハブフーラを指示し、氷柱で冥界波の威力を削いだが、それでも強烈な一撃が私達を打ち据えた。

 

「くっうっ!?」

 

「うっ……これは結構きついですね……ッ」

 

私と長久、パスカルよりも錬度の低いミズキとべスは大きなダメージを受けてしまったようだ。

 

「リーナ! ベスとミズキを治療しろ! パスカル行くぞッ!!」

 

「グルうう!」

 

【ラスタキャンデイ】

 

【パワーブレス】

 

自分を強化した長久とパスカルがデミナンディへ攻撃を仕掛けている間に私はポーチから傷薬を取り出してミズキとべスにぶちまける。

 

「ありがとう、助かりました」

 

「すまない、足を引っ張る形になった」

 

お礼を言うべスと謝罪の言葉を口にするミズキに大丈夫だと手を上げ、そのまま堂島に視線を向ける。

 

「ナンディはこんなに強いの!?」

 

「いや、こんな化物みたいに強いデミナンディはいない筈だ! くそッ! 待ってろ、今銃を取り出す!」

 

車の後部差席に積んでいる銃を取り出すために走り出す堂島を横目に長久の元へ走ろうとしたのだが……。

 

「こっちは良い! 俺とパスカルで何とかする! 周りの小さいデミナンディと悪魔を頼む! 挟み撃ちにされたらどうにもならん!」

 

来るなと指示を出され、私は駆け出しかけた足を無理矢理止めて反転する。

 

「ランタン君もフロスト君と一緒に後ろを警戒」

 

【了解ホー! 行くぜブラザーッ!】

 

【OKホー! ブラザー!】

 

ジャックフロストとジャックランタンの氷結と火炎で周りの雑魚悪魔は多分何とかなる。

 

「リーナ!」

 

「ん!」

 

投げ渡されたマシンガンを受け取り、その銃口を回りのデミナンディへ向けると同時に引き金を引く。

 

【ブルゥ!?】

 

【ブモォ!?】

 

長久とパスカルと戦っているデミナンディより小さい固体でも1マガジン分を撃ち終えても倒すには至らなかった。

 

「物理は効果が薄い! 神経弾か、睡眠弾で眠らせろ! おらてめえらも立ち上がれ! 撃って撃って撃ちまくれ!!」

 

「「「は、はい堂島さん!!」」」

 

堂島が指揮を取り出し事でファクトリーのデビルハンターにも統率が出来てきた。

 

「ミズキ。長久の真似できる?」

 

「……あれほどまでの威力は出ないぞ」

 

「それでも良い。ここでデミナンディを全部倒す訳には行かないから」

 

デミナンディはセンターの外の住人の貴重な食料だ。ここでデミナンディを全滅させてしまえばセンターは危機的な食糧難になる。それはなんとしても避けなければならない。倒すだけなら長久ならとっくに蹴りがついているが殺すわけには行かないから戦いが長引いている。だがそのまま戦いが長引けば消耗しすぎてベテルギウスとの戦いが厳しくなる可能性が高い、さっき長久が見せてくれた銀雹忠義斬による凍結……それがこのデミナンディの暴走を止めると同時にファクトリー、ヴァルハラ、そしてホーリータウンの住人が生き延びる為に必要不可欠な事だった。

 

「私とべスで何とかする。なんとかして成功させて」

 

「ミズキなら出来ますよ、行きましょう。リーナ」

 

「うん」

 

長久が自由になれば良いが、あのデミナンディは「長久」の為に用意された悪魔だ。恐らく今回もセンターが裏で手を引いている……だからこそ1番簡単な方法は取らずにセンターの、いやセンターの裏で手を引いている天使の思惑を打ち砕く為に私達は敢えて最も難しい道を選ぶのだった……。

 

 

 

 

凄まじい唸り声を上げて襲ってくるデミナンディの突進を横っ飛びで回避しようとしたが、足が少しもつれた……いや、これは……。

 

(ラスタキャンデイが無効化された!?)

 

「わふう……」

 

パスカルも小さな鳴声を漏らしていて、パスカルが使っていたパワーブレスも無効化されてしまったようだが、デカジャが使われた感覚は無かった。

 

(複合スキルかッ!?)

 

突進か唸り声に自分の強化と俺達の強化の無効化する何かがあったのだろう……今のスキルで確信した、このデミナンディはファクトリーで飼育されていたものではない。さっきの鳴声もそうだが、このデミナンディはファクトリーのデミナンディを暴走させるための似た姿をしたなにか別の悪魔だ。

 

(そこまでファクトリーを滅ぼしたいのか、いや……俺とリーナに箔を付けさせたいのかッ!?)

 

コカトリスとキングフロストに続く悪魔なのは間違いない。

 

【ブモオオオオッ!!!】

 

【狂気の咆哮】

 

空気を震わせる咆哮が響き渡ると牧場で草を食んでいたデミナンディ達の目が紅く染まった。これはアスラのアスラローガと同じッ!? ここのデミナンディは狂気状態に陥っているようだ。

 

「パスカル、短期決戦だ。あいつらを潰すぞ」

 

「ワンッ!」

 

【ラスタキャンデイ】

 

また無効化されるのは分かっているがラスタキャンデイで自分とパスカルを強化して、デミナンディへと突撃する。

 

「おおおおッ!!」

 

【ブモォオオオッ!】

 

【スラッシュ】

 

【体当たり】

 

赤口葛葉とデミナンディの角がぶつかり合い、凄まじい音を響かせる。

 

「ちいっ! かてえッ!」

 

【ブモォッ!!】

 

会心の手応えだったが、デミナンディの角を断ち切る事は出来ず、MAGで角を延長させたデミナンディが頭を振り上げる。

 

【薙ぎ払い】

 

角を刃のように使い薙ぎ払ってくる一撃が僅かに腹を掠める。咄嗟にバックステップしたので上半身と下半身が両断されるのは避ける事が出来たが、伸びた角で切り裂かれた痛みに顔を歪めながら腰のポーチに手を伸ばしてアギラオストーンをデミナンディに向かって投げ付ける。

 

【ブモォオオオオ!?】

 

炎に巻かれて絶叫し、デミナンディが動きを止めている間に傷薬で応急処置をする。

 

「パスカル! 来いッ!」

 

アギラオストーンをパスカルが足止めしていたデミナンディへと投げ付け、デミナンディが炎に巻かれて悶えている間にパスカルが俺の足元に駆け寄ってくる。

 

「行くぜパスカル」

 

「わん!!」

 

【極紅蓮忠義斬】

 

【【ブ、ブモオオオオッ!?!?】】

 

炎の波に飲まれて暴走を誘発させていたデミナンディが大きく怯んだ。でかいだけあって非常にタフだが、足を1度止めさせることが出来た。デミナンディに苦戦していた理由はその巨体で突進を繰り返していたので、勢いの乗った攻撃を前にすればどうしても後手に回ってしまった。だが1度動きを止めてさえすれば、その巨体ゆえに再び勢いに乗るまで時間が掛かる。

 

「パスカル一気に決めるぞ!」

 

「グルオウッ!!」

 

その巨体ゆえに防御力も生命力も桁違いだが、攻撃力は元々神牛であり、温厚な性格のデミナンディはそこまで高いものではない。だからこそ突進を繰り返させることで攻撃と防御を両立させていた。だがその突進の勢いが止まってしまえばッ!!

 

【ブモォオオオッ!!】

 

【怪力乱神】

 

「当たるかッ!!」

 

【物理ブースタ】【モータルジハード】

 

強力なスキルを駆使していても、元々は破壊神シヴァの乗り物であり、彼の為の音楽を奏でるナンディは決して闘争本能が高い悪魔ではない、そして攻撃にも躊躇いが見えていれば俺とパスカルを捉えるのは不可能であり俺の振りかぶった一撃と喉元に喰らいついたパスカルの牙によってデミナンディを暴走させていた最も巨大な2頭が地響きを立ててもんどりうって倒れた。

 

「はぁ……はぁ……な、中々きつかった」

 

「きゅうーん」

 

でかいというのはそれだけで武器になる。しかもあの勢いで突進されれば思うように攻撃も出来ずジリ貧に陥ってしまったが、なんとか炎で怯ませることが出来たが、それでなければかなり厳しい戦いを強いられることになっていただろう。

 

「向こうも終わったみたいだが……見様見真似であれをやるか……恐ろしい才覚だな」

 

悪魔が召喚出来ない変わりに俺は葛葉の術をこれでもかと叩きこまれた。いずれ悪魔が召喚出来るようになった時の事に備え、悪魔の力を借りる葛葉流剣術と葛葉流短銃術を学んでいたが、MAGの同調や魔法の深い理解が必要でおいそれと使えるものではないのだが……。

 

「天賦の才能か……」

 

メシアのクソと天使によってまともな術を学んでいなかったライドウ……いや、ミズキだが見よう見真似で銀氷忠義斬を使えるなら見込みありだ。

 

「俺がいなくなった時の事を考えておかないとな」

 

俺は何時まで生きていられるか分からない。リーナの助けになってくれる可能性があり、センターを離反したミズキになら葛葉の術を教えても良いかもしれないと思いながらパスカルを連れてリーナ達の下へ歩き出すのだった……。

 

 

 

長久の極銀雹忠義斬程の威力を出すことが出来なかったが、それでもデミナンディ達を氷の中で仮死状態にする事が出来た。見よう見真似だったので不恰好ではあったが、葛葉の術を1つ身につけることが出来たのはとても嬉しかった。だがそれ以上にファクトリーの住人に喜ばれた。

 

「ありがとうな! これで餓え死にしないですむ!」

 

「助かったよ、ありがとう!」

 

ありがとうと口々に感謝される。センターからの命令で悪魔の討伐に来た時は悪魔を討伐して当然で、お礼なんて言われたことが無かったのでなんともむずがゆい気持ちだったが、胸がちょっと温かくなるのを感じたのは始めての事だった。

 

「約束通り良いところだ。しっかり食って力を付けてくれ」

 

「俺が倒したデミナンディじゃないよな?」

 

「ああ。あれじゃないから安心してくれ、地下に保管していたセンターへ上納する奴だ」

 

「良いのか? そんなの使って」

 

「良いに決まってる。どの道センターはファクトリーを見捨てたならこれをセンターに届ける理由もないからな」

 

デミナンディのステーキが机の上にどんどん運ばれて来た。

 

「そういうことならありがたく貰うぜ」

 

「おう、どんどん焼くからな!」

 

デミナンディのステーキはセンターでも高級品であり、中々食べれるものでは無いが食べて良いというのならありがたく貰うとしよう。

 

「ん、美味しい……」

 

「確かに美味い」

 

テンプルナイトの食堂で食べるものよりも上質で柔らかくてジューシーな肉で、がっつかないように食べていたが、それでもあっという間に1枚食べきってしまった。

 

「どうですか、美味しいですか?」

 

「ええ、とても美味しいですね。活力になります」

 

「そいつは良かった。もう1枚食うか?」

 

堂島のもう1枚食うかの言葉に少し恥ずかしかったが、合成食品ではない食べ物を前に我慢する事が出来ずもう1枚貰う事にした。

 

「ご馳走様でした」

 

「おう良い食いっぷりだったぜ。さてと食ったばかりで悪いが、次の話だ」

 

そういうと堂島は机の上に数枚の地図を広げると長久がすぐに地図を覗き込んだ。

 

「これは採掘現場の地図ですか」

 

「そうだ。ベテルギウスを俺が目撃したのがここ、次がここ、その次がここ」

 

「どんどん奥に潜っていますね」

 

べスのいう通りだ。ベテルギウスの目撃位置は日に日に奥に向かっている。

 

「このままだとベテルギウスは最深部にいることになるな」

 

「まず間違いない、それと地震が最近続いているが……恐らくだがベテルギウスが巨大化して暴れまわってると俺は踏んでいる」

 

堂島が目撃したのは7ヶ月前。つまりそれだけの時間が経っていればベテルギウスはMAGを吸収して巨大化している可能性はかなり高い。

 

「ゾンビと工具系の悪魔が多いんだよね?」

 

「おう。ゾンビや工具に寄生した悪魔の対策は別になる」

 

ゾンビはアギ系、工具や機械に寄生した悪魔はジオ系。そしてゾンビにジオ系は効果が薄く、工具系の悪魔にはアギ系が効果が薄い。

 

「MAGも無限ではないですからね……出来る限り装備で対応したいですね」

 

「今ファクトリータウンで装備を準備させている。それが出来るまでは身体を休めておくと良い、採掘現場は長丁場になるぞ」

 

長丁場になるという堂島の言葉に私達が首を傾げる中、長久とマダムだけがその言葉の意味を理解していた。

 

「何か仕掛けがあるんですね?」

 

「ああ。MAGライトでも照らせない真っ暗闇の通路が幾つもあるし、MAGを吸収するへんな装置もある」

 

「なるほど、アオイ?」

 

「あ、はい……多分昔にゴトウが使っていたトラップだと思いますけど……」

 

かつてまだ東京都呼ばれる都市があった時代の遺物がこの時代でも機能しているというのは驚きだった。

 

「それに坑道内に取り残されている労働者もいます」

 

「死んでない? 遺体を回収すれば良い?」

 

「いや、MAGを吸収する装置を運んで作ったシェルターがあちこちにある。そこに逃げ込んでいれば無事な筈だ」

 

堂島の話を聞けば彼が私達に何を求めているのかが分った。

 

「ベテルギウスの討伐と坑道内に取り残されている作業員の救出ですか」

 

口で言うのは簡単だが、それは余りにも難しい事だった。ゾンビや工具や機械が悪魔化した物が行きかい、ベテルギウスが巣食う坑道から戦えない作業員を救出するのは余りにも難しいミッションだった。

 

「ファクトリーのデビルバスターも俺もサポートで同行する。難しいのは分かっているがやってくれるか?」

 

「出来る限りになりますけど、やれるだけやりますよ。それに悪魔が多いなら技術を学ぶことも出来ますから」

 

技術を学ぶ……長久の言葉に私は弾かれたように顔を上げた。リーナは信じられないという顔をしてその服の裾を握っていたが、長久はリーナに視線を向ける事は無かった。

 

「この採掘場で死に呪われた生に囚われた人達を解放する、その為にいや、これからの戦いに必要な技術を学んでもらう」

 

あくまで長久はゾンビになって今を彷徨ってる人達を解放することを目的だと強調したが、その真意は私とべスを鍛える事は明白であり、私とべスは喜んだが、リーナは血の気の引いた青い顔でパスカルを抱きしめたまま黙り込んでしまい、そんなリーナを見て長久は眼を伏せたがなにも言わず、堂島とアオイと共に食堂を後にするのだった……。

 

「本当にあれでよかったんですか?」

 

「何がだ?」

 

「リーナさんの事ですよ」

 

アオイの責める様な視線に長久は足を止めて溜息を吐いた。

 

「俺とリーナのあり方は健全に見えるか?」

 

少しの躊躇いの後に告げられた言葉にアオイと堂島は何も言えなかった。第3者の目から見てもリーナは長久に依存しており、とても健全とは言えなかったからだ。

 

「俺はまだ死ぬつもりはない、だがこんな世の中だ。何時死ぬか分からない、だが多分今のリーナは俺が死ねば後追い自殺する」

 

それほどまでに依存している事を長久は自覚していた。だからこそ長久はここでリーナを突き放した。

 

「あいつは世界は狭い、狭すぎるんだ。だからその世界を広くしてやりたいんだよ、俺は」

 

「荒療治だぞ、それもとんでもないな」

 

「だとしてもですよ、堂島さん。生きてるうちしか傍にはいてやれない、だから傍にいてやれるうちにやるんですよ、リーナの為にね」

 

リーナが広い世界を見れるように、そして自分の足で立って歩けるようにと……長久はリーナの事を考えていたが、それが良いものなのか、悪い物なのかを堂島とアオイにはいう事が出来ないのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

5週目の世界 偽りの千年王国 その19へ続く

 

 




ベテルギウスの前に若干の亀裂イベントです。これからの事を考えている長久ですが、リーナにはそんな事は分かりませんから、ミズキとべスの方が優れているのか、それとも自分はもう要らないのかと悩むフェイズですね。次回からは採掘現場の話を書いて行こうと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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