収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

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5週目の世界 偽りの千年王国 その19

5週目の世界 偽りの千年王国 その19

 

ミズキとべスにも長久が指導すると聞いてから私はまるで地面が崩れてしまうような感覚を味わっていた。

 

(……私は……いらない? いや、違う、違う違う。長久はそんな事を考えない)

 

確かに私は悪魔を召喚出来る事を除けば大して才能がある訳ではない……ミズキやべスのほうが才能があるのは分かっている。だけどそれを理由に私を長久が……最悪ばかりを考えていた私は採掘場の岩に足を引っ掛けて転びかけてしまった。

 

「大丈夫ですか? リーナさん」

 

だけど地面に倒れる前にマダムが私を受け止めてくれた。

 

「……あ、マダム。う、うん。大丈夫」

 

マダムにお礼を言って離れると長久がミズキと話している姿が視界に入った。

 

(……嫌だ)

 

ミズキが長久に教わって嬉しそうにしている姿を見るのが嫌だった。それは私だけの特権だった筈なのに……。

 

(どうして、なんで……)

 

「くう?」

 

「大丈夫……大丈夫だよ」

 

パスカルが心配そうに見上げてくるので大丈夫と呟くが、自分でもそれはパスカルではなく自分自身に言い聞かせているような気がしてますます気が重くなった。

 

「リーナ。来てくれ」

 

「今行く!」

 

長久に呼ばれて喜んで駆け寄ったが……長久に頼まれたのは私の想像と違っていた。

 

「少しだけミズキと組んでみてくれるか? 万が一に備えてある程度は連携や戦い方の見直しをしたほうが良いと思うんだ」

 

長久とではなく、ミズキと組んでくれと言われてがっくりと肩を落としたが、それでも長久はまだ私を見てくれる。なら今はそれで我慢しようと思いミズキと組んで最初のシェルターに向かって歩みを進めた。

 

「長久さん、分かってますか?」

 

「分ってる。分ってるけどなぁ、俺にどうしろと?」

 

「分ってますよ、出来る範囲で最善を尽くしているのは、だけど……リーナさんの状態は良くないですよ」

 

「確かにな、俺もそう思う。そもそもあいつとどれくらいの付き合いなんだ?」

 

「3年くらいだと思う。俺も情緒や内面が幼いのは自覚していたんだがな……あそこまで調子を崩すとは思ってなかった」

 

ミズキ、リーナ、べスの3人の戦いを見ながら長久達はリーナの不調を見て、自分達が思っている以上にリーナが長久に抱いている独占欲そして依存具合にどうしたものかと頭を悩ませながら採掘場の奥へ向かって歩き出すのだった……。

 

 

 

 

 

ゾンビ、工具の悪魔化した物と戦いながら長久に教えられた技術を自分の物へと落とし込む。

 

「はぁああッ!!」

 

【げぼぉッ!?】

 

錬気刀に宿ったMAGの光がゾンビを両断し、その身体をMAGの光に変え粒子となり消滅する。

 

「まだまだだな、認識が甘い」

 

「……難しいな」

 

私が長久に教わったのはMAGを錬気刀、いや、錬気刀だけでは無く武器に纏わせその形状を変化させるという技術だった。MAGの練りこみ、集束具合によってその破壊力やリーチを変える。しかもMAGは悪魔を倒せば回復できるので実質ノーコストの強化だが……イメージを纏めるというのがどうにも上手く行かなかった。

 

「これを使え、暫くそれで戦ってろ」

 

「っと」

 

投げ渡されたのは10cmほどの刃がある小振りな槍だった。

 

「わ、私は槍なんか使ったことが」

 

「使った事ないからMAGで変化させれないんだ。ここはセンターの監視がない、俺が教えれるのはここだけだぞ。外では俺はお前には何も教えん。無理だというならそれでいい」

 

突き放す長久と手の中の槍を交互に見て、ゾウチョウテンと戦った時のように槍を構えた。

 

「やってやる。なんとしても物にしてやる」

 

外に出れば長久は何も教えてくれないと言っているのだ。泣き言なんか言ってる時間がないのは私自身が分かっている。

 

【ガアアア!】

 

【毒引っかき】

 

暗がりから飛び出してきたゾンビの一撃を槍の腹で受け、そのまま傾けて受け流して距離を取る。

 

(切れる場所が少ないな。やはり距離を取って)

 

槍は相手から距離を取って戦う武器のはず、ここは1度距離を取ろうとした。

 

「シッ!」

 

長久が赤口葛葉にMAGを通して槍の形へと変化させ薙ぎ払う姿を見て距離を取ろうとした足を止めた。

 

(そうか、槍は……突くだけじゃない)

 

遠心力を生かした薙ぎ払い、持ち手を変えての斬撃、槍だから突くという先入観を捨て去る光景だった。

 

「なるほどな。少しだけ分った」

 

【アギャア!?】

 

【ゲボッロオ!?】

 

薙ぎ払いでゾンビを2体まとめて両断し、半歩だけ下がり踏み込みと共に繰り出した刺突で機械……ブルドーザーと融合していたマシン悪魔の動力部を破壊する。

 

「先入観、そうだな。それが私の欠点か」

 

センターの教えは捨てても、センターで教えられた知識はまだ私の中に残っている。槍はこうでなければならない、斧はこうでなければならないという先入観がMAGを変化させる術を邪魔していると悟り、自分の中の先入観を捨て去る為に次々と襲ってくるゾンビ相手に槍を只管に振るうのだった……。

 

 

 

 

長久さんの教えは私が今まで考えようも無かった事ばかりでした。採掘現場の中に隠されているシェルターの中には負傷した作業員の方がいて、すぐにディスポイズンを使おうとしたのだが、それは長久さんに止められた。

 

「ディスポイズンに限らず、治療薬の多くは患者の生命力を消費する。今使うと死ぬぞ、まずは俺のを見てろ。リーナとミズキは無理だろうが、アオイとべスは多分出来るだろう」

 

長久さんはそう言うと青い顔で倒れている作業員の1人に近づいた。

 

「お、俺……助かるのか?」

 

「大丈夫ですよ。少しだけ我慢してください」

 

長久さんが作業員の胸に手を当ててMAGを放出する。

 

「MAGを譲渡して足りないMAGを補充するんだ。ただ無理に補充したら駄目だ、相手の具合と様子を確認しながら少しずつMAGを譲渡する」

 

倒れていた作業員の顔に血の気が戻った所で長久さんが改めてディスポイズンの丸薬を口に含ませる。

 

「うっ、に、にが……」

 

「苦いってことは生きてるって事だ。我慢しろ」

 

「う、そうですね……堂島さん」

 

「これで良し、後は傷薬で良いだろう。リーナ、リーナ悪いけどスープを作ってくれ。リーナ?」

 

「あ、うん、分った」

 

長久さんに何回か声を掛けられ、はっとした表情で持ち運びの鍋の準備を始めるリーナを見て私もリーナさんの精神状態が良くないという事が分かったが、私とミズキが原因なのでリーナを励ますことは出来ないので長久さんに見せられた通りにシェルターに逃げ込んでいた作業員の治療を手伝う。

 

「う……」

 

「ああ、すいません」

 

「い、いや、大丈夫だ。痛いっていうのは生きてることだからな」

 

作業員の方がそうフォローしてくれますが、私の治療が上手く行ってないのはすぐに分かった。

 

「相手の呼吸に合わせてMAGを少しずつ譲渡するんです。ディアの練習の時の感覚ですよ」

 

「あ、は、はい。分りましたマダム」

 

マダムの助言に頷いて本当に少しずつMAGを譲渡していくと作業員の顔に血の気が戻って来た。

 

「どうぞディスポイズンです」

 

「ありがと……手持ちをもう全部使ってしまっててね」

 

大分時間が掛かったが、なんとか治療することが出来たが、長久さんが5人、マダムが3人治療している間に私は1人がやっとで……。

 

「魔法の理解が足りないってこういうことなんだ……」

 

使えば良い、覚えれば良いという訳ではないという事を身を持って知った。ミズキも長久さんに教わり新しい術を得ている。この坑道をでれば長久さんは何も教えてくれない、この坑道の中で覚えれる全てを覚える。教えられても身に付けられなかった術は時間を掛けて覚える……私は私で決めた自分で正しいと思った道を進む為に、自分の道を作る為の力を覚える事に私もミズキも全てを掛けていた。そしてそんな私達に長久さんは惜しむ事無く、躊躇う事無く様々な技術を教えてくれている。

 

「出来た」

 

「ん、流石だな。よし、リーナ。皆に配ってやってくれ」

 

「うん、分った」

 

ただその所為でリーナの精神状態が良くない物になっていることは私もミズキも分かっていて……。

 

「どうすれば良いんだろう」

 

「……分からない」

 

今まで長久さんの傍にはリーナしかいなかった。それに私とミズキが割り込んできた……それがリーナの精神を危うい物にしてしまっている。この坑道に潜む悪魔の事を考えれば取り返しの付かないことになるかもしれない……そんな嫌な予感を抱かずにはいられないのだった……。

 

 

 

 

長久は指揮官としても指導者としても優秀だった。まるで何年も前から誰かに何かを教えてきたかのように高い指導力と、相手の力量を見極めて的確な指導を行う技量があった。

 

(歳不相応なほどに……あの馬鹿共が希望の導き手かもしれないというほどに……)

 

コロシアムにある希望の導き手の像は俺も知っている。ヒーロー達を教え導き、そしてヒーロー達を守り死んだ男。何れ蘇り希望への未知を示す者。されどその未来に導き手はいないとされる伝説、神話の類の人物だ。

 

「どうかしましたか?」

 

「あ、いや。お前達が来てくれて良かったって思ってたのさ。本当にありがとう、感謝してる」

 

シェルターに避難していた30人近い作業員は全員無事だった。とはいえ、体力を消耗しているので連れ出すわけにも行かず、外から結界を張ってシェルターの内部侵入出来ないようにして保護し、俺達は地下へとおり続けていた。

 

「まだ御礼を言うには早いですよ。地下の悪魔を倒さない事には同じ事の繰り返しですからね」

 

「そうだな……気を引き締めて行こう」

 

ここから先は悪魔の力の影響によって視界が塞がれる闇の世界だ。ここから先に進むのは本当に危険であり、MAGライトを掲げて闇の中へ足を踏み入れる。

 

「これはかなり厳しいですね」

 

「だろ? ここを通らないと最深部にはいけないんだ」

 

この採掘場の中で1番危険なのが、この闇のエリアだ。悪魔も凶暴な物が多く、決して長くは無いが危険度は桁違いに高い区画だ。

 

「パスカル、悪魔の気配はあるか?」

 

「わふ」

 

「今は大丈夫みたいですね。どうします? 一気に駆け抜けますか?」

 

「それも1つの手段だな、ここの悪魔は共食いしていて変な変異体がいる。悪魔の気配がないなら駆け抜けてしまいたい」

 

戦っている間に別の悪魔が出てくる危険性が高い。まぁ闇の中から出てくることがないから……。

 

【ウボアアッ!!】

 

【シャアア!!】

 

「な!? 外に出て来る事なんかないのに!」

 

ゾンビ同士が融合したレギオンのような悪魔とドラゴンゾンビとか言いようのない悪魔が闇の中から飛び出してきた。

 

「グルオオウ!」

 

【ファイヤブレス】

 

パスカルの吐き出した炎に巻かれてゾンビレギオンとドラゴンゾンビがその動きを止める。

 

「べス! マハンマ! リーナはハマストーン!」

 

ベスの唱えたマハンマの光とリーナが投げたハマストーンが闇の通路を明るく染め上げる。

 

「堂島。聞いてた話と違うぞ」

 

「俺もだ。こんなの見たことがない……どうなってるんだ」

 

一瞬明るく照らされた通路の壁はゾンビが融合して一体化していた。通路自体が悪魔へと変化していてパスカルが匂いを気配を感知出来なかったのだろう。

 

「どうする。長久」

 

「……通るだけでも危険だな。スクカジャを掛けて強行突破しかないな」

 

「ゾンビが手を伸ばしてるから強行突破は無理だろ?」

 

「いや、それしかない。ここで消耗すればベテルギウスと戦う余力は無くなりますよ」

 

確かにこれだけのゾンビを倒していけばMAGも装備も道具もその殆どを消耗してしまうのは目に見えている。だがとてもこの通路を強行突破できるようには見えないが……長久には何か切札があるのだろうか?」

 

「余り得意じゃないんだが……四の五の言ってられん」

 

【ハマダイン】

 

コルトパイソンを握ったままハマダインを唱えると長久が手にしているコルトパイソンが白く輝き周囲を白く染め上げる。

 

「いっけえッ!!」

 

【極・光破弾】

 

轟音と共に放たれた白い弾丸が暗闇を白く染め上げ、ゾンビとなっていた作業員達が白い光と共に昇天する。

 

「ぐっ……」

 

「長久!? どうしたの、大丈夫!?」

 

「だ、大丈夫だ。それより走れ! またゾンビが出てくるぞ!」

 

壁が蠢き、少しずつゾンビが出てくるのと、ハマダイン白い光が薄れて行き闇が戻って来るのを見て俺達は慌てて走り出し、闇の区画を走りぬけたのだが……。

 

【ゴガアアア!?】

 

「なっ!? うおッ!? がぁッ!?」

 

通路から出た瞬間に響いた悪魔の咆哮と長久の悲鳴が採掘場の中へ響いた。

 

【キッシャアアアアッ!!】

 

「武器を構えろ! 早く態勢を立て直せッ!」

 

長久を殴り飛ばしたのは異常なほどに巨大化したベテルギウスだった。その鋭い牙を剥き出しにし、威嚇するように吼えているベテルギウスを見て態勢を立て直せと叫び、ベスとミズキはその叫びに反応し、俺が指示を出すよりも早く長久の治療の走ったマダムと壁に叩きつけられて意識を失っている長久が攻撃されないようにベテルギウスへと攻撃を仕掛ける。

 

「なが……ひさ……?」

 

だがリーナだけは長久が意識を失ったことに理解がおいついていないのか、ベテルギウスの咆哮によって採掘場の天井が崩れ落ちている中も呆然とその場に立ち尽くしたまま、崩れ落ちて来た天井によって俺とミズキとべス、そして長久とリーナとマダムの3人に分断されてしまった。

 

「わん!」

 

「くそッ! パスカルそっちは頼む! ミズキ! べス! なんとか立て直すぞ!」

 

人間が通り抜けることの出来ない隙間を駆け抜け長久達の元へ走るパスカルを追ってベテルギウスが手を伸ばすが、そうはさせまいとハマストーンを全力でベテルギウスのガンメンに向かって投げ付ける。

 

【グルルルウッ】

 

「そうだ、てめえの敵は俺らだ! こい化けもん! ぶっ殺してやるぜ!」

 

ハマストーンはベテルギウスにダメージを与える事は無かったが、煩わしいといわんばかりの視線を向けてくるベテルギウスに向かってもう1度ハマストーンを投げ付けながら俺はベテルギウスに向かって啖呵を切る。

 

(頼むぜ、マダム、パスカル。早く長久達を復帰させてくれ)

 

小山ほどに巨大化したベテルギウスを倒すのは俺達だけでは不可能だ。今の俺達に出来る事、それは長久とリーナが復活するまでの時間稼ぎだが、ここまで凶暴化したベテルギウス相手にどこまで時間稼ぎが出来るか、いや時間稼ぎすら出来ずに死ぬかもしれない、無常な現実を前に冷たい汗が背中を流れ落ちていくのだった……。

 

 

 

5週目の世界 偽りの千年王国 その20へ続く

 

 




長久がダウンしたことでリーナ呆然自失、堂島、べス、ミズキの3人だけで巨大ベテルギウス戦。ゲームで言うと3人だけで1度ベテルギスを突破、そして長久たちの視点でベテルギウス突破、そして6人が合流してベテルギウス討伐みたいな感じの段階的に倒すギミックボスみたいに考えております。つまりそれだけベテルギウスもパワーアップしているということですね、次回は戦闘描写マシマシで文字数もぐんと増やして行こうと思いますので次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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