収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

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5週目の世界 偽りの千年王国 その20

 

5週目の世界 偽りの千年王国 その20

 

ベテルギウスの攻撃は両手を振り回し、その巨体を使ったパワフルな肉弾戦にマハラギオン、マハジオンガを交えた広範囲攻撃と大威力の一撃を織り交ぜた少しでも油断すれば一撃で絶命するほどに強力な物だった。長久が奇襲で離脱、マダムとパスカルが支援に向かい。リーナが茫然自失と普通に考えればどう考えても死んでいる状況で生き延びることが出来ていたのは堂島の力が大きかった。

 

「オラオラッ!!」

 

マシンガンを乱射しながら縦横無尽に走り回る堂島の陽動が生きており、そのおかげで私もべスもリーナも大きなダメージを受けずにいる事が出来ていた。

 

「これならどうだッ!」

 

錬気刀にMAGを通しながら抜刀する事で飛ぶ斬撃をベテルギウスへと飛ばす。だがベテルギウスは採掘場の穴の中に身を顰め姿を隠してしまう。

 

「堂島! これを!」

 

「すまん!」

 

ベテルギウスは反撃を受けると地下に隠れる。その隙に新しいマガジンを堂島に投げ渡す。

 

「べス! リーナはどうだ!?」

 

「駄目です! 声を掛けても反応がありません!」

 

リーナの精神状態が良くないのは分かっていたが、長久の姿が見えなくなっただけで廃人同然になるなんて想定していない。

 

「ちいっ! ベス! 私と変われ!」

 

「わ、分りました!」

 

走ってきたべスと入れ変わりでリーナの元へ走る間も採掘場の地響きは激しさを増し、その振動でバランスを崩して転倒しかけた瞬間に地下に隠れていたベテルギウスが勢いよく飛び出してきた。

 

【シャアアアアッ!】

 

【チャージ】【怪力乱神】

 

飛び出てきた勢いのまま振り下ろされた右拳は運よく私達の誰にも当たることは無かったが、振り下ろされた拳の衝撃で崩れ落ちて来た岩が私達を打ち据える。

 

「ぐっ!?」

 

「くそ! 当たっても外れても攻撃になるとか冗談じゃねえぞ!」

 

さっきの一撃を喰らっていれば間違いなく一撃でミンチだったが、上空から落下してくる岩のダメージもかなり大きい。

 

(このままだと不味いッ!)

 

長久もマダムとパスカルも離脱しているから対応出来る範囲が狭く、ベテルギウスの猛攻を凌ぎきれない。

 

【グガアア!】

 

【マハラギオン】

 

「くっ……」

 

【マハラギ】

 

ベテルギウスのマハラギオンとべスの唱えたマハラギがぶつかり合う。だがベテルギウスのマハラギオンはべスの唱えたマハラギよりも高位の魔法であり、威力を僅かに相殺させるのに留まり広域に広がる火炎が私達を飲み込む。咄嗟に外套で身を守ったので受けたダメージは低いが、べスや堂島は慌てて傷薬を身体にぶちまけるほどの大きなダメージを受けている。それだけのダメージが私達を襲っているのにリーナは身じろぎ1つしなかった。マハラギオンの熱は間違いなくリーナを襲っているのにリーナは苦悶の声1つ出さなかった。

 

「おい、リーナ! リーナッ!」

 

「……」

 

肩を掴んで揺さぶるがリーナの目には何の光もない。目は開いているが、何も写していない。

 

「リーナ! おいッ! リーナッ!」

 

かなり乱暴に身体を揺さぶるがリーナはへたり込んだまま全く反応を見せない。いや、反応と呼べる物では無いが、リーナに僅かに動きが見えた。

 

「長久……長久がいない、駄目……私はもう駄目……わたし……私……な、長久がいないと私はなにも出来ない、分からない」」

 

長久の名を繰り返し呼び、長久がいなければ駄目だと、何も出来ない、分からないとぶつぶつと繰り返すリーナは長久に会う前の私だった。自分で何も考えず、メシア教の司祭に言われるすべてが信実だと思い、自分で何も考えず、何もやろうとせず人形であり続けた私とベスと今のリーナは同じだった。テンプルナイトであることが全て、自分で考えることを許されず、命じられたまま動く事しか許されない存在に自らなろうとするリーナに無性に腹が立ち私は右手を大きく振りかぶり、全力でリーナの頬を打つのだった……。

 

 

 

左の頬に走った痛みも私にはとても遠い物だった。長久がいない、長久が道を示してくれない……何をすれば、どうすれば良いのか何も分からない。ミズキとベスの面倒を見る長久の姿とベテルギウスの攻撃を受けて採掘場の壁に叩きつけられて崩れ落ちた長久の姿ばかりが脳裏を過ぎる……長久はもういない、長久はもう私を助けてくれない……それしか考える事が出来ない。

 

「良い加減にしろ、リーナッ!!」

 

「うっ!?」

 

背中から採掘場の壁に叩きつけられ、色を失っていた私の視界に色が戻って来た。

 

「ミズ……キ」

 

「リーナ! 良い加減にしろ! どうして自分の足で立とうとしないッ!」

 

ミズキが私を怒鳴りつけるが、それも私にはどうでも良いことだった。長久がいない、長久の声がしない……もうそれだけで何も考えたく無かった。

 

「長久をどうして安心させようとしない、いつまで長久に心配を掛けるつもりだ!」

 

「しん……ぱい」

 

「長久は最悪を考えた。自分がいなくなった事を、自分が傍にいれなくなった時の事を考えて私とべスに戦う術を与えた。それが何故だかわかるか!」

 

「……私が役立たず……「違う! お前が心配だったからだ! リーナッ! お前の事を長久は考えて! 自分がいなくなった時の事を考えていた! そこまで心配されて恥ずかしくないのかッ! どうして安心させようとしない! 何時まで長久に縋るつもりだ!」

 

私が長久を不安に……させていた。私が心配だからミズキとべスを鍛えていた……ぼんやりとしていた意識がハッキリとして来た。そうだ

長久はいつも自分で何が正しくて何が間違っているのか考えろと言っていた。

 

長久がいないからへたりこんでいるのは間違っている。

 

長久が導いてくれないから歩き出せないのは間違っている

 

長久を何時までも不安にさせて良いのか? 良いわけがない。

 

もう自分は大丈夫だと長久に見せるのは正しい事か? それが何よりも正しいことだ。

 

脱力していた身体に力が戻ってくる、歪んでいた視界が戻ってくる。

 

「……ごめん、ミズキ。ありがとう、もう大丈夫。あの悪魔を倒す」

 

「人にいえた事では無いが、お前の行動を見て判断する」

 

「うん、それで良い。キングフロスト来て」

 

何を言っても信用されないだろう、だから信用を勝ち取るためには行動で示すしかない。私は迷う事無く、今持ちうる最強の手札のキングフロストを召喚した。

 

【あいつをやっつけるホー?】

 

「その通り、行ける?」

 

【バッチリだホー】

 

頼もしい仲魔の声に私は何をしていたのだと自分で自分が恥ずかしくなる、頬を勢いよく叩いて気合を入れる。

 

「行こう、ベスと堂島が心配」

 

「ああ。もう不甲斐無い姿を見せるなよ」

 

「分ってる」

 

ミズキのいう通りだ。いつまでも長久に心配を不安にさせてはいけない、長久がいないのは不安だし、恐ろしいが、それでも自分の足で前を向いて進まなければならない、そうで無ければいつまでも長久が安心出来ない。

 

「行くよ。キングフロスト」

 

【OKホ~】

 

【ブフダイン】

 

【偽・極銀氷忠義斬】

 

「はぁああああああッ!!」

 

【ギ、ギギャアアアアアアッ!?】

 

ブフダインの力が宿った刃でベテルギウスの背中を切り裂き、戦いが始まってから恐らく初めてベテルギウスの大きなダメージを与え、ベテルギウスの耳障りな絶叫が採掘場の内部に響き渡った。

 

 

 

 

ミズキとリーナが復帰したおかげで何とか戦線を維持できるようになって来た。だが逆を言えば戦線を維持出来るだけだった。

 

「堂島さん! スクカジャを使います!」

 

「頼む! 出来ればラクカジャもッ!」

 

べスにそう頼みスクカジャとラクカジャを使って貰う。べスの魔力でもベテルギウスの攻撃を防ぐほどの魔力の鎧を作ることは出来ない。だがラクカジャの鎧は今の俺達にとって生命線の1つだった。

 

「上から4つ来ます!」

 

べスの警告の直後に振ってくる巨大な岩の雨にベテルギウスの攻撃が加わればどうしても落石と攻撃に対する対応が甘くなる。だがスクカジャとラクカジャがあれば落石をある程度回避できるし、岩が当たっても致命傷を防ぐ事が出来る。

 

【グルアアアアッ!!】

 

「跳べッ!!」

 

俺自身も跳躍しながらそう叫ぶとミズキ達も跳躍し、俺達の足元をベテルギウスの尾が通り過ぎる。

 

「はぁッ!!」

 

着地と同時にミズキが振るった刃からMAGの刃がベテルギウスの身体に当たる。だが鱗に直撃しただけでMAGの刃は霧散し、ベテルギウスにダメージが通っているようには見えないがそれで良い。

 

「走り回れ! とにかく陽動を続けろ!」

 

今の所分かっているのはマハラギオンとマハジオンガに加えて強力な物理スキルがベテルギウスが今の所使ってくる攻撃だ。

 

(間違いなくもっと強力なスキルがある)

 

ベテルギウスは余力を残している、ベテルギウスの目には俺達を見下している色が宿っているからそれは間違いない。そもそもベテルギウスは堕天使に分類される強大な悪魔であり、強力な悪魔は知性も優れている。そんなベテルギウスがこれほど単調な攻撃しかしてこないわけがない。それは即ちベテルギウスはいつでも俺達を殺せるのにそれをしていないに他ならなかった。

 

(ベテルギウスは様子見をしてる……ということは……ッ)

 

崩れ落ちた岩の先に視線を向ける、パスカルとマダムが完全に崩れ落ちる前に長久の元へ走った。だから手当てを施されたのか……それとも……。

 

(最初から致命傷を避けていたか……だな)

 

リーナの為に荒療治をすると言っていたが、もしも最初から致命傷を避け気絶した振りをしていたのならばこの戦いの後に長久の頭を1発殴るくらいは許されるはずだ。

 

「アギラオッ!!」

 

「いけっ!」

 

べスの放ったアギラオとミズキの撃ちだした火炎弾がベテルギウスの顔面で炸裂し、その巨体が僅かに揺らいだ。ダメージは大きくない

、その衝撃でベテルギウスの身体をよろめかせる事は出来た。

 

【ギロリッ】

 

「そうだ! こっちだ! こっちに来い!」

 

「ランタン君! アギ連射! ピクシーはジオを連射ッ!」

 

ダメージには期待していないが、それで良い。走りながら魔法や銃を撃つ事で俺達に注目を集めることが出来る。

 

【ガァアアアアアアアッ!!】

 

【マハラギオン】

 

「マハラギで少し威力を殺しますッ! とりあえずなんとか避けてくださいッ!」

 

「おう! 分ってる! とにかく引きつけろ! 時間を稼ぐぞ!

 

俺は長久が演技してる可能性も考えているが……本当に負傷してる可能性もある以上とにかく長久が復帰するまでの時間を稼ぐ必要がある。だがその時間稼ぎは口にするよりも余りにも厳しい物だった。

 

【グルオオオオッ!!】

 

【ヒートウェイブ】

 

採掘場という立地上逃げ回れる場所には限られ、下手に暴れまわれさせすぎれば採掘場の落石を招くことになる。ベテルギウスもそれを分かっているから大技を連発することは無いが、それでもこれだけ暴れまわれば採掘場の天井が何時落下するかもしれない。いや、それ以前に強すぎるベテルギウスにも何かセンターが施した仕掛けがあるのではないかという考えまでもが脳裏を過ぎる。

 

「あーくそッ! この化け物めッ!! いい加減にしろよなッ!」

 

俺だってファクトリーエリアのデビルバスターの長官を務めた男だ。そこいらの悪魔には負けない自信があったがその自信を悉く打ち砕いてくる自体の連続に思わずそう叫びながらマシンガンの引き金を再び引く。

 

「固い……全然攻撃が通らないッ」

 

「リーナ! ラクンダはないのか!?」

 

「ないッ!」

 

「なら効かないと分かっていても地道に攻撃を続けるしかありませんね!」

 

MAGを使った攻撃も、魔法も、銃弾も殆どダメージとして通らない余りにも硬すぎる身体を持つベテルギウスに自分達の攻撃が殆ど何も効いていないと分かっていても、それでも俺達は誰1人心を折る事無くベテルギウスとの大人と子供のような力量差がある中で必死に戦い続けるのだった……。

 

 

5週目の世界 偽りの千年王国 その21へ続く

 

 

 




と言う訳でリーナ達サイドは今回はここまでです。リーナの戦線復帰と強すぎるベテルギウス、何故ここまでの力量差があるのかは次回長久サイドで触れて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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