5週目の世界 偽りの千年王国 その22
数多の魔法を操り、その巨体を生かした強力な攻撃を繰り出してくるベテルギウスは確かに堕天使に属する強力な悪魔であることは疑いようが無かった。その力に疑いは無いが、戦っている内にその存在には疑問を抱かずにはいられなかった。
【偽・銀氷忠義斬】
リーナが振るった刀の軌道に沿って放たれた零度の嵐でさえもベテルギウスには届かない。
「おらおらおらおらッ!!!」
堂島が両手に持ったガトリングによる銃弾の嵐もベテルギウスの身体を貫かない。
「これならどうだぁッ!」
【偽・雷電忠義壊】
MAGで錬気刀を斧へ変形させたミズキの一撃によって電撃が走り、周囲を激しく揺らすがそれでもベテルギウスは健在だった。
「ちいっ! どうなってやがる!?」
「さっきまで攻撃は効いていたのに……急に何が」
さっきまで微々たる物だがベテルギウスに攻撃は通っていた。だがそれが突然無くなったことに困惑するリーナ達に向かって私は声を張り上げた。
「攻撃は通っています! だけど回復量がそれを上回っているんですッ!」
ミズキの一撃は電撃だったからダメージを回復するまで時間が掛かっていたからみえたのだ。まるでビデオの巻き戻しのようにベテルギウスの傷が回復している事に……。
「回復魔法か!?」
「そんなレベルじゃない! なにかは分りませんけど、普通じゃない!」
考えられるのは圧倒的なMAGによる再生ですが、あれほどの巨体のベテルギウスを回復させるだけのMAGを供給できる存在なんているとは思えない。
「……どうすれば良い」
「長久さんたちを救出して一端離脱、それしかないと思います。これ以上は私達も採掘場も持ちません」
崩れ落ちてくる天井にひび割れに加えて私達の体力もMAGも武装も限界だ。
「あの岩をなんとかしないと合流できねえぞ」
「私が何とかする。チャクラドロップはあるか?」
雷電忠義壊を使えるミズキならあの岩を破壊出来るが、MAGが足りないのかチャクラドロップはあるかと言われるが……。
「悪い、さっき最後の1つを使った」
「……私も」
「すいません私もです」
回復や補助を維持する為にチャクラドロップを使用していたのでもう手持ちのチャクラドロップはない。
「アギダインストーンでも使うか?」
「全部吹き飛ばすつもりですか」
アギダインストーンの火力ならあの岩を破壊することは出来るだろうが、私達も生き埋めになるのは確定だ。
【キシャアアアアア!!】
【暴れまくり】
「クソ逃げろ! 固まるなッ!」
「押し潰されるぞッ!」
それに加えてベテルギウスが暴れ回っているので落石も激しくなり、どうするかと話し合う時間もなく、落石から逃げ回っているとベテルギウスの巨体が伸びて来ている黒い穴から何かが飛んできて、それを咄嗟に受け止める。
「これ……チャクラドロップ……?」
どこからと少し考え、それがすぐに誰が投げ渡してきたか分かった。
「おおおおおッ!!」
【極・雷電忠義壊】
【ギッ! ギャアアアアアアアッ!?!?】
弾丸のような勢いで穴から飛び出して来た長久さんの振るったミズキよりも遥かに強力な雷電忠義壊の一撃が採掘場を白く染め上げ、ベテルギウスの凄まじい絶叫が周囲に響き渡った……。
採掘場に響き渡った雷鳴と共に姿を見せた長久の姿に歓喜が胸を埋め尽くしたが、今は再会を喜んでいる場合ではなく、飛びついていきたいという思いをぐっと堪える。
「……遅い」
「悪い。アオイと地下でベテルギウスの無敵のカラクリを破壊してきたんだ」
「何が、何があったの?」
何があったのかと問いかけると長久は忌々しそうに顔を歪めて地下を指差した。
「生贄だ。採掘場でテロを起こしていたテンプルナイトの生命力でベテルギウスを強化してたみたいだ。回復の経路は断ったがベテルギウスの蓄えたMAGは【グルオアアアアアアアッ!】見ての通り健在だ。回復は断ったがここからだ、油断するなよ」
長久の一撃は私やミズキの物よりも上だったが、その傷はほぼ塞がっていた。その圧倒的な再生能力は今まで私達が戦ってきた悪魔の中でも群を抜いていた。
「あの化物を倒すアイデアはあるのか?」
「あるぞ。とにかく叩いて叩いてあいつが蓄えているMAGを削りきる」
「つまり何も考えていないわけですね?」
「そうともいうッ!」
地下から伸びて来たベテルギウスの尾を跳躍して交わした長久はその尾の上に飛び乗り、ベテルギウスの身体を上を走り始める。
「ワンワン!」
その後をパスカルが追って行くのを見て私もそれを追おうとしたのだが、ベテルギウスとの戦いで蓄積していた疲労が噴出し、膝が折れた。
「支援をします! それとバックアタックへの警戒を!」
背後から攻撃に備えろというマダムに長久達が何を警戒しているのかすぐ分かった。
「……本当にセンターは最悪」
「本当だな、私もそう思うッ!」
自分の上を走って来る長久とパスカルを振り払おうと暴れるベテルギウスに向かって銃を構える。
「ピクシー。力を貸して」
【りょーかい!】
私とミズキの構えた銃にピクシーの唱えたザンの魔力が宿り、手にしている銃に緑色の輝きが宿った。
「行くぞ!」
「……ん」
【【疾風弾】】
轟音と共に放たれた風の力を宿した銃弾がベテルギウスの顔面を捉える。
【シャアアッ……ギャアアアッ!?】
ただの銃弾では無かった事でベテルギウスの視線が私とミズキに向き、その腕を振り上げたその次の瞬間ベテルギウスの背後が爆発し、ベテルギウスの絶叫が周囲に響いた。
「周りをちゃんと見ないと危ないぜ!」
「隙だらけです」
堂島の投げた手榴弾とマダムの唱えたアギダインが炸裂し、ベテルギウスの巨体が大きく揺れた。
(弱くなってる……いや、今はそんな事を考えてる場合じゃない)
明らかにベテルギウスの動きは精彩を欠いているが、それを気にするよりも早くベテルギウスを突破するべきだと長久の支援を続ける。だが実際にリーナが感じた通りベテルギウスは大きく弱体化していた。長久とアオイが殺した黒いテンプルナイト達はベテルギウスにMAGを供給するだけではなく外付けの知性でもあり、それを失ったベテルギウスは本能で暴れる事しかできなくなっていたのだ。
「……長久ッ! 行って!」
「長くは持たないぞッ!」
私とミズキの放った疾風弾はベテルギウスではなく長久の近くを通る。長久なら出来ると思ったのだ、疾風弾の風を利用して長久が高く跳躍出来ると……。
「行くぜ! パスカルッ!!」
「わおーんッ!!」
疾風弾の風に乗り長久とパスカルが飛び上がり、ベテルギウスの頭上を取った。その姿を見て私は私達の勝利を確信した。
【極・紅蓮忠義壊】
巨大な火柱としか思えない一撃がベテルギウスを両断し、ベテルギウスの巨体が採掘場の穴の中へと消え、私の前に長久が着地する。
「やった?」
「多分な、回復力を奪えば倒せない事は無いだろ。とはいえ危ない、早く離脱しよう」
「おう、あれだけ派手にドンパチしたんだ。何時崩れてもおかしくない、早くおさらばするとしよう」
落石が激しくなってきて、これ以上は危険だと採掘場から出ようとした瞬間だった……。
【ガアアアアアアッ!】
【マハムドダイン】
両断され右半分だけの目で私達を睨みつけたベテルギウスが漆黒の呪詛を放ち、その身体をMAGへと変換させる。だが放たれたマハムドダインは消える事無く私達へと迫ってくる。
「ちいっ!! 間に合えッ!」
長久が私達の前に飛び出し、指で空中に何かを描きそこから溢れ出した光がマハムドダインを相殺した。
「何をしたんですか?」
長久の今の行動は完全に私達の理解を超えていた。長久が何をしたのかが全く理解出来なかった。
「葛葉の術の1つだな……と言っても……ちょっと無理を……した」
「……なが……ひ……さ? え、あ……え?」
糸が切れた人形のように崩れ落ちる長久の姿に私は目の前の光景が理解出来なかったが、その光景を理解する時間は私には与えられなかった。戦いの反動に採掘場が耐え切れず、凄まじい落石が始まったのだ。
「くそったれ! 俺が担ぐッ! 早く出るぞ!!」
「リーナさん! 私達で道を開きますよ! ミズキさんも、ベスさんも!」
「わ、分った! リーナ! 何を呆けてる! 行くぞッ!」
「急ぎますよ!」
「わ、分ったッ!」
堂島が長久を担いでくれたのを見てからこの採掘場から脱出する妨害になるであろう悪魔を倒す為にマダム達と共に暗闇の中へと走り出すのだった……。
5週目の世界 偽りの千年王国 その23へ続く
というわけで今回はかなり短いですが、ベテルギウスとの戦いはかなり短い物なので短いですが、ここで切って。この後の話で短い分を補おうと思います。状況整理とか、倒れた長久の理由とかを書いてみようと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。