収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

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5週目の世界 偽りの千年王国 その23

5週目の世界 偽りの千年王国 その23

 

それは知らないのに知っているそんな不思議な夢だった……俺の根底を揺さぶるような、俺を試すかのような夢だけど夢とは思えないリアルな夢だった。

 

『素晴しい景色だろう、これが僕の望んだ世界。君がいたから作り出すことが出来た世界だ。人は醜悪で愚かだ、だからこそ支配しなけれならない』

 

幽子に似た青年と死体とそれに貪りつく悪魔人間に溢れた世界を見て笑う夢だった。人間がいない、悪魔と悪魔と融合した悪魔人間だけの赤い世界……それを幽子に似た青年は素晴しい理想の世界だと言って嗤った。

 

『敵対する者を全て滅ぼす、それが護国の究極の形だ。お前がいたから気付く事が出来たんだ』

 

機械巨人に守られ、空へ浮かぶ日本。そして日本から発射される悪魔が収められたミサイルが世界を破壊する光景を見て千代子に似た男が笑う。日本を守る、その為に全てを滅ぼす。守る事の究極の形は敵対者を全て滅ぼす事だが、成層圏にまで上昇した日本に最早生きている人間などおらず、ただ日本という入れ物だけを守り、中身を守る事を忘れた青年が嗤う。

 

『全部全部僕が思うがままなんだ。破壊も創造も全部僕が思うまま! 今度は少しだけ見てみようか、それともすぐに壊そうか、どっちが面白いかなあ?』

 

作っては壊し、壊しては作り、人間は人間という名前の別の種族になり、悪魔と天使が交互に支配する世界の神となった翔子と似た少年が狂ったように笑う光景を俺はただ見ているだけだった。気紛れにどちらがより支配者として優れているのか争う天使と悪魔は気付かない、自分達もまた自分達が侮っていた人間と同じ、ただ観察され、利用され、価値が無くなった瞬間に殺されることを夢にも思わず、そして自分達が上位存在だと信じて疑わない愚か者を見て翔子に似た少年は嗤っていた。

 

『地球に人間は必要ない、俺は滅びの地を見てそう理解したよ。人間がシュバルツバースを作り出したのならば、人間は自らの滅亡によって地球に贖罪しなければならないのだ。そうでなければ人間が犯した罪を償うことは出来ない』

 

地球だった場所に地球ではない星ができ、その繁栄を見ながら澪に似た男性が笑う、だがその目は真っ黒に染まっていてきっと何も見えてはいないだろう。確かに人間は罪を犯す、だがその罪を償う為に全てを消し去り地球という存在を消し去るのはどう見ても間違っている。だがそれこそが贖罪の形なのだと澪に似た男性は嗤った。

 

『私には何もかもが許される。殺す事も、生かすことも、与える事も、奪うことも、それらは全て神の特権。私は救世主から神へと至った、貴方の導きのお蔭ですよ』

 

王座に腰掛けたリーナに似た少年は自身を神と呼ぶ声に満足そうに頷き、そして出鱈目に命を与え、奪う、それは暴君にしか見えない光景だった。どの夢もどの光景も悪辣で醜悪で悪逆という物を煮詰めたような、そんな光景だった。だが1番醜悪だったのは……。

 

『大丈夫、何も間違っていない。お前の選択以上に正しい物なんてないんだ。悩む事はない、悔やむことはない、後悔する事はない、お前の行動全てが正しいんだ』

 

黒い外套を身に纏った顔の無い俺、何もかもを取り返しの付かない方向に誘導し、壊れていく様を滅びていく様を見て嗤っている俺自身が最も醜悪で醜く存在であり、俺の知る相手がおかしくなっていく様を俺は笑っていた。

 

「はぁッ! はっはっは……はっ……ゆ、夢……?」

 

寝汗でびっしょりだった。まるで長距離を走ったかのように俺の息は弾み、額からは汗が零れ落ちていた。

 

「……長久?」

 

「あ、リーナ……「……長久ッ!」ぐぶおっ!?」

 

弾丸のような勢いで突っ込んで来たリーナの頭が鳩尾に突き刺さり、潰れた蛙ような呻き声を上げながら俺の意識は再び闇の中へと沈んでいった。

 

「3日!? 3日も俺は眠っていたのか!?」

 

「そうですよ、最後のマハムドダインを防ぐのに力を使いすぎたのか長久さんのMAGが枯渇寸前だったのでチャクラポットの点滴などを行なってMAGを供給していたんです」

 

マハムドダイン……あれは確かにマハムドダインだったが……。

 

「女の声は聞こえなかったか?」

 

「……聞こえてないよ? 大丈夫幻聴とか?」

 

「ベテルギウスの唸り声は聞こえたがな」

 

「女の声は聞こえませんでしたよね?」

 

「ああ。それは間違いないぞ、動揺していたから聞き違いをしたんじゃないのか?」

 

「……いや、俺の気のせいだったかもな、結構限界だったしな」

 

リーナ達にも俺の聞き違いじゃないかと言われ、俺も聞き違いだと言ったが、俺は絶対に聞き違いではないと確信していた。マハムドダインなら防げていた、そしてマハムドダインを防いだ瞬間に確かに聞こえたのだ。

 

(いや、間違いなく聞こえた)

 

【貴様の存在が世を乱す。ここで死に果てよ、それが真なる意味で世界を救うと知れ】

 

【幾千の呪言】

 

マハムドダインを遥かに越える強烈な呪詛。それこそ最上級の神クラスの何かがあの一瞬消え去ろうとしていたベテルギウスの身体とMAGを使って俺に攻撃を仕掛けて来ていたという確信があった。

 

「とりあえずだ。お前を含めて全員ボロボロだ。今は体を休めて、それからどうするか考えるとしよう」

 

「リーナさん達もですよ、今は長久さんをゆっくりと休ませて上げましょう」

 

堂島さんとアオイによってリーナ達が連れ出され、俺の護衛として残されたパスカルが伏せている姿を見ながらもう思い出せない悪夢、そして俺を呪殺しようとしていた女の声を思い出そうとしたが、俺の意思に反して疲労とMAGの枯渇の影響によってか、俺は泥の中に沈むかのように眠りに落ち、目が覚めたときには悪夢の事も、女の声の事も全て忘れているのだった……。

 

 

 

 

長久を車椅子に乗せて歩くリーナと不満そうにしている長久と共にファクトリータウンを見て回る。

 

「俺は歩けるんだが?」

 

「……暫くは大人しく」

 

「ワンッ!」

 

リーナだけではなく、パスカルにも吼えられ、長久はやれやれと肩を竦める姿を見ながら私はファクトリータウンの住民達に視線を向けた。

 

「ここの住人達はめちゃくちゃなことをするな」

 

「それはまだミズキの考えがセンター寄りだからだ」

 

「そうだろうか……だがセンターの恩恵を全て捨てるのはどうかと……」

 

ファクトリータウンの住人はセンターからファクトリーエリアに来るための通信橋のパスワードを変更し、新しい通路まで作り出している。それはセンターからの支援……いや支配からの脱却とも言えた。

 

「……どの道センターはファクトリーを見捨てた、ならもセンターに従がう理由はない」

 

「その通りだ、リーナ。デミナンディを全て殺せばファクトリーは食物を失う、そして俺とリーナにベテルギウスの討伐の金を払えばファクトリーは破産する」

 

「どちらにせよ、ファクトリーは終わりだったわけか」

 

ベテルギウスを討伐してもし無くともファクトリーは終わりだった。それが分かっているからこそ、ファクトリーの住民は自分たちで自分達を守る事を考えたのだろう。

 

「ストップそこだ。ミズキ、この陣をそこに書いてくれ」

 

「了解した」

 

長久に渡された紙を見ながら地面に魔法陣を描く。ファクトリーの住民が自分達だけで生きようとしても、それには限界がある。このファクトリーエリアには住民を洗脳している何らかの悪魔がいるし、仮に籠城したとしてもあくまで工業区域であるファクトリーエリアには出来る事が限られている。

 

「まさかこんな事まで出来るとは」

 

「まぁ俺も使うとは思って無かったがな」

 

その問題を解決するのが長久だった。葛葉由来の術による結界とトラエスト、トラフーリをアレンジする事で人同士の移動は出来なくともヴァルハラエリアから物資を送ることは出来るように長久は準備を整えていた。

 

「出来たぞ、こんな物でどうだ?」

 

「上出来だ。っちっと」

 

長久がナイフで指先を刺し、そこから滴り落ちた血が魔法陣に落ちると魔法陣がぼんやりと光り出す。

 

「これで良しと、とりあえず一度堂島さんの所に戻るか」

 

「……ん、了解。行こう、ミズキ」

 

「あ、ああ。分った」

 

長久を見ていると常々思う。私は葛葉の術も、そしてその力をどう使うのもかも理解していなかったと……私には長久のようなことは出来ないが、何れは長久が扱う術も覚えて見たいと思っている。

 

(人を守る、人を救うか……)

 

センターでテンプルナイトとして活動している時は私は人を守り、救っていたと思っていた。だがそれは違っていたのだ、センターに従がう一部の人間だけを守り、そして救い、センターの意向に従わない者は全て見捨てて来たのだとファクトリーを見て知った。長久に何が正しくて何が間違っているのか、それを自分の目で確かめろと言われ、自分で広い世界を見なければセンターの外にこんな世界が広がっている事を私は死ぬまで知ることは無かったのだろうなと思いながら戦えない長久と長久の護衛をしているリーナの前にパスカルと共に出て、周囲を警戒しながら堂島のいるファクリーの指令エリアに向かって歩き出すのだった……。

 

 

 

長久の術でファクトリータウンへと向かっている洗脳を防ぐ為の結界を作り、指令エリアに戻って来た私達には新たな問題が発生した。

 

「アルカデイアエリアに来てセンターの正しさを知ってください……か」

 

「1000%嘘」

 

「だろうな」

 

私と長久の意見は同じで例えどんなにアルカデイアエリアが素晴しくとも、それでセンターを信じることは出来ないと断言出来る。

 

「ですが、ここでアルカデイアエリアに行かないと後々面倒なことになるかもしれません」

 

また私と長久に箔をつけさせる為にセンターがどこかであくどい事をする可能性があるとマダムが言う。

 

「……アルカデイアエリアってどんなエリアだ?」

 

「センターの理想としている1000年王国のテストケースをしているエリアですね、私達と同じテンプルナイトのギメルが統治者となっています」

 

「それとヴァルハラエリアのコロシアムを突破したチャンピオンも多く暮らしているぞ、悪魔もおらず、人々は平和に暮らしていると司教が言っていた」

 

「うさんくせえ」

 

「胡散臭いね」

 

どう見ても怪しいし、それを信じれるような行動をセンターはしていないが、ヴァルハラエリアやファクトリーエリアにまたちょっかいを出されても困る。

 

「……行こうか? 長久」

 

「だな」

 

行きたくはない、行きたくは無いが、行かなければ想定外の災害が起きるかもしれない。それを阻止する目的も兼ねて私と長久はアルカデイアエリアへと向かう事を決めた。

 

「とりあえず私達は待機している」

 

「ファクトリーエリアを安全な拠点にする為に周辺調査などをして待っていますね」

 

「それが妥当か、お前達を連れて行くわけには行かないしな」

 

ミズキ達が生きている事をセンターに知られるわけには行かないので私と長久、そして……。

 

「わん!」

 

「おう、頼りにしているぞ。パスカル」

 

「わんわん!」

 

悪魔犬のパスカルと共にアルカデイアエリアへと向かう事になったのだが、そこで私達を待っていた千年王国とは名ばかりのおぞましいディストピアの姿だった……。

 

 

5週目の世界 偽りの千年王国 その24へ続く

 

 




前の長久の暴走に続き、長久の影もしくは闇について触れました。5週目の世界は長久の本質に触れて行きますが、複数の世界、そして複数のペルソナを操る、そして何度も憑依転生を繰り返していても自我を保てるのは最初の顔のない状態が大きく関係しているとだけ言っておきます。次回はアルカデイアでの話を書いて行こうと思いますので次回の更新もどうか宜しくお願いします。
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