女王の女王   作:アスランLS

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1年生編、これにて最終話になります。
1年生編は学級崩壊寸前の烏合の衆でしかなかったDクラスが綾小路君の暗躍や堀北さんの成長を経て、クラス一丸(高円寺は除く)となって他クラスと戦っていけるようになるまでの軌跡……というのが私の見解であり、あまり原作から外れてしまうとDクラスが再起不能になりどこかでストーリーが破綻してエタッてしまうのが目に見えていたので、二年生に移るまでは極力原作に沿って進めようと決めていました。正直オリジナリティに欠ける、と厳しい指摘を受けてもちょっと反論できそうにありませんね……。
しかし2年生編からはもう吹っ切れて、オリジナル展開もガンガン入れていくので楽しみに待っていてください。




勇気を翼にこめて

 

3月31日。

とうとう茜さん達の旅立ちの日がやってきた。

いつものように朝4時に起床しいつものようにルーティンをこなした後、例によって居候中の有栖を起こして朝食を摂り、長期休暇恒例と頭のネジゆるゆるモードの彼女を3時間ほど甘やかしてから部屋を出た。約束の時間は12時ぴったしだけど、早めに到着して待っておくのが出来た後輩の在り方だよね。

30分ほど余裕を持って正門前に向かうと、なんとそこには既に先客がいた。

 

「清隆君じゃん、ぐもーにーん」

「おはようございます綾小路君」

「本条と坂柳か、おはよう。お前達も学に呼ばれたのか?」 

「いえ、私達は橘先輩のお見送りです。同じタイミングでここを去るのは、お二人の関係から考えてもそう不思議ではないかと」

「無事Aクラスで卒業できたことだし、もう周囲に気を遣う必要もなくなったんだ。思う存分バカップルのごとく乳繰り合えるね」

「乳繰り合う、か……百歩譲って橘はともかく、あの学がそんな愉快な光景を繰り広げるのはちょっと想像つかないな」  

「わかってないなー清隆君は。ああいういかにも堅物そうな人ほど実はムッツリで、一回タガが外れたらそれはもう─」

「ほ ん じょ う く ん ?」

「随分と好き放題言ってくれるな」

 

噂をすれば影とはよく言ったもので、憮然とした表情のコランダム先輩と怒髪天を突かんばかりに憤怒の表情を浮かべた茜さんがやってきた……恋人繋ぎしながら。

俺達の視線が集中してるのに気づくと慌てて離しちゃったけど、別に繋いだままでいいんだよ?

 

「ぐもーにんです御両人。せっかくの晴れ舞台だってのになんだか不機嫌そうですねー、門出にケチがついちゃいますよ?」

「誰のせいですか誰の!まったくもう……結局君は最後の最後まで問題児のままでしたね」

「先輩の教えの賜物です」

「教えてませんよ!?何さりげなく私のせいにしようとしてるんですかっ!」

 

むきーっと言わんばかりに両手を振り上げ怒る茜さんと、それを見て勝手に和む俺。……もう幾度となく繰り広げたやり取りではあるが、今日で見納めと思うと寂寥感が湧いてくる。

 

「茜、俺は綾小路と話すことがある。そしてお前も本条達とは積もる話があるだろう」

「そうですね学君、いつぞやと同じく別れて話しましょう」

「ああ、正午直前にここ正門前で合流するぞ」

「はい」

 

俺達は茜先輩に連れられ正門から少し離れた場所へ移動すると、早速気になったことを詰問しにかかる。今日の俺は情け容赦という言葉を知らないぜ。

 

「学君、かぁ……」

「……」

「学君ねぇ……以前は会長、もしくは堀北君だったのに。付き合ってからも対外的には苗字呼びのままだったのに、いつのまにか呼び方が学─」

「ああもういちいち言い回しが鬱陶しいですね君はっ!?こ、ここ恋人を名前で呼ぶことに何か問題でもあるんですか!?」

「ふふ、顔がまるで林檎飴のようですよ橘先輩。相変わらず可愛らしい方ですね」

「坂柳さんも頭撫でないでくださいっ!先輩に対する敬意が感じられませんし、本条君に影響されないでください!」

 

どうやら羞恥に悶える茜さんは、生粋のサディストである有栖も大好物だったようだ。

しばらく玩具にされ続けその度に怒り続けた茜さんは、やがて肩で息をするほどグロッキー状態に成り下がった。見た目通りタフネスは微妙だから仕方ないね。

 

「ゼェ……ハァ……ゼェ……ハァ……なんでせっかくの、門出の日に、こんなに疲れなきゃ、ならないんですか……!」

「仕方ないじゃないっすか、こうして茜さんを弄り倒して和めるのも今日で見納めなんすから。これから俺は少なくとも2年は禁茜さん生活に突入するんだから今日の内に思う存分摂取しときたくて」

「禁酒とか禁煙みたいなノリで言わないでくださいっ!しかも2年経ったら私また弄られるんですか!?」

「冗談っすよ」

 

流石にこれ以上茜さんに負担をかけるのも忍びないので、名残惜しいけどここらでそろそろ真面目にしよう。シリアスは嫌いだけど、おちゃらけてばかりでは逆に飽きちゃうから。

 

「思い起こせばこの1年、色んなことがありましたね」

「きゅ、急にまともな話になりましたね……」

「何を今更、桐葉と会話しているとよくあることじゃないですか」

 

有栖うっさい。さてはいつも茶々入れてるの根に持ってたな?

 

「持ち上げて振り回しては怒られてたり、絶叫ボイスを聴かせてはバックドロップされたり、後ろから頬をむいーってやればチョークスリーパーで落とされ、リアカーに乗せて自転車で暴走してネックブリーカーで沈められたり、コランダム先輩用に用意した義理チョコを粉砕してパワーボムでKOされたり、エトセトラエトセトラ……」

「聞いてる限りろくな思い出が無いですね」

「そうですよっ、私がひたすら本条君に振り回されてただけ─ってちょっと待ってください!?わ、私そんなプロレス技で反撃なんてしてませんよ捏造しないでください!」   

「……そして極めつけは、やはりあの混合合宿っすね。あのとき俺は、アンタがみやびん先輩の悪意に晒されているのを気づいていながら、私的な理由で見殺しにしました。だというのにアンタはそんな俺を見限ることは無かった。まったく、お人良しにも限度があるんじゃないっすか」

 

この学校に来てから一番、そして今までの人生を振り返っても二番目に自分の想定から外れた出来事を思い返していると、茜さんは「こいつ本当にどうしようもねぇな……」と言わんばかりに深く深く溜め息をついた。不出来な後輩ですんません。

 

「あなたって人は本当に……いいですか本条君、あのときも言いましたが、私はあなたに助けを求めていませんでした。私が一人で抱え込んで、勝手に追い詰められていただけです。あなたには何も非ありませんし、むしろ私の為に大量のポイントを用意してくれたことに感謝してますよ」

「いやまあ、理屈はそうっすけどね……」

 

そう、確かに理屈のみで考えれば俺が責められる謂れは一切無い。が、人は理屈で感情を完全に抑えられるような器用な生き物じゃあない。

親しくしていた相手に、自分が苦しんでいることに気づいていながら見てみぬ振りをされれば、大抵の人が感じるのは失望、落胆、あるいは怒りや嘆きといった感情だろう(……いやまあガッツリ怒られはしたけどアレは別の理由だろうしノーカンだよね)。

普通なら絶縁されてもおかしくないところを、この人はビンタ一発でチャラにしてくれた。もう器が大きいとかそんなレベルじゃないよね……最初俺がこの人に目をつけたのに大した理由は無く、どことなく桐花ちゃん()に似ていたってだけで、一番尊敬する先輩云々は正直リップサービスだったんだけど……いやはや、まさか本当になるとはなあ。

 

「本条君が私を慕ってくれるように、私にとっても本条君は大切な後輩なんです。そう簡単に私があなたを見限ると思ったら大間違いですよ」

「……ふふふ。桐葉、素晴らしい先輩を持ちましたね」

「そだね、俺がこうまで読み違えたのは有栖以来だ。……あのときの2000万は決して無駄ではなかったよ」

 

こうして笑顔で外へ巣立っていく茜さんを見送れることに、俺は誇らしさと共に一抹の寂しさを感じる。

そう、寂しさ……茜さんがいなければ抱くことができなかった感情。この人と出会えただけでも、俺はこの学校に来るだけの価値はあった。取り戻したというには微々たるレベルで、また他にも未だ俺の感情には欠落が多いが、それでも完全に取り返しのつかないことでないとわかっただけでも行幸だ。

 

「……来年から南雲君は本格的な改革を進めるでしょう。そして本条君、彼はきっとあなたと綾小路君をつけ狙います」

「コランダム先輩にしていたようにっすか?」

「ええ。既に学年全体を掌握しAクラスでの卒業を磐石にしている南雲君は、現状に退屈し刺激を求めています。体育祭で自分に土をつけたあなたと、学君が目をかけていた綾小路君を標的にしてもおかしくはありません。十分に注意をしてください」

「りょーかいっす」

「桐葉を狙うとなれば私も黙ってはいられませんね。来年からも退屈せずに済みそうで安心しました」

 

実際はみやびん先輩よりも月城代行の方が厄介な強敵になりそうだけど……いやまて、2人を別勢力と決めつけるのは危険だね、2人とも俺や清隆が狙いなわけだし手を組んだとしても不思議ではない。もっと言うなら新入生の中にも代行の協力者が紛れこんでいるかもしれないし……中々に骨が折れる状況だね。有栖の言う通りこれは確かに退屈はしなさそうだ。

その後、茜さんとコランダム先輩二人分の携帯番号を教えてもらい(在学中は連絡禁止なため使い道は無いけど)、正門前に戻ると……長かった髪を肩にかかるかぐらいまでバッサリと切ったホリリンを、コランダム先輩が優しく抱き寄せているという兄妹愛溢れる光景に出くわした。

そして有栖と茜さんは無言のまままるで打ち合わせでもしたかのような見事な連携で、俺の両脇を固め近寄らないように配慮した。

天使と悪魔が手を組んでまで俺を封じにかかるという非常に愉快な光景だけど、心配しなくてもここで茶々を入れるほど面の皮は厚くないと弁明したいところだ。ただまあ、普段が普段なので多分信じてもらえないだろうなあ。気分はすっかり狼少年の気分。

 

「鈴音、俺はお前のことを大切に思っている。そしていつか俺を越えるだけの力を身に着けてくれるような期待を抱いた。……だがお前は俺という幻影に囚われた。俺に劣っていると決めつけ、俺の背に追いつくことを終着点に定めてしまった。……俺はその自らの伸びしろを捨てる選択を、どうしても許せなかった」

 

前言撤回。有栖と茜さんに拘束されてなきゃ絶対に茶々入れてたわ。何かやたらと邪険にしてた理由がそれって、どんだけ不器用だよこの人。

 

「お前に1つ謝罪しなければならないことがある。」

「謝罪……?」

「何年前だったか、俺は長い髪の女性が好きだと言ったことがあったな」

「は、はい」

「あれは嘘だ」

「!?」

 

数年越しのカミングアウトにホリリンは目を見開いて驚愕しているけど、あの子は茜さんの髪が大して長くないことについては疑問に思わなかったの?……いや、それだけコランダム先輩だけを盲信してたってことかな。

 

「短い髪型を好んでいたお前が、俺の言葉1つで自分の色を失ってしまうのか気になり、それを確かめたくてついてしまった。すまなかったな」

「……酷いですね、兄さん」

「言い訳のしようもない」

 

コランダム先輩が今の今までその嘘を放置していたのは、きっとそれを目安にしていたんだろう……ホリリンが兄の呪縛から解き放たれたことの、ね。

 

「許します。その嘘のお陰で、きっと今の私があると思いますから」

 

ホリリンもそれをわかっているからこそ、精一杯の笑顔を浮かべてそれを許した。そのことにコランダム先輩も、今まで見せたことのないような柔らかい笑みを返すのだった。

 

「鈴音。2年後、俺は正門の外でお前を待つ」

「はい。精一杯、最後の最後まで戦います」

 

……拗れに拗れた二人の関係は、最後の最後でようやく元の鞘に戻れたようだ。やっぱり兄妹なんだからなかよくしないとね。

 

「さて、そろそろバスが出るお時間ですね。最後にお二人の門出を祝って餞別を贈りたいと思います」

 

そう切り出しつつ俺は懐から花束を2束取り出し、それぞれに手渡した。

 

「……ほんと、どう隠し持ってたんでしょうか?」

「ああ、結局最後までわからずじまいだったな」

「タネがバレちゃ手品師はおしまいっすよ」

「最後までユニークさを忘れない奴だ。……なるほど、グロリオーサか。確か花言葉は─『栄光』、『勇敢』、そして『燃える情熱』か」

「3年間、お疲れさまでした!この学校にあなた達がいたことを、俺達は決して忘れません!」

 

俺が締め括りつつ敬礼すると、有栖も清隆君もホリリンも俺に続いて敬礼してくれた。おお、流石皆知能指数高いだけあって、打ち合わせもしてないのにぴったり合わせてくれたよ。

 

「また会おう」

「私達も、あなた達のことは決して忘れませんっ」

 

茜さんとコランダム先輩はそう言い残し、二人仲良く手をつないで正門をくぐっていき、俺達はその後ろ姿を、瞬きもせず見つめ続けた。

 

 

 

 

 

 

「それでは私達はもう行きますね。新年度からもよろしくお願いします」

「ええ、現状はAクラスが大きくリードしているけれど、このまま逃げ切りを許すわけにはいかない。学年末試験の借りは必ず返させてもらうわ」

「勿論受けて立ちましょう。私も個人的な借りは必ずお返ししなければなりませんし。ね、綾小路君?」

「勝てたのは偶々だし、正直勘弁して欲しいんだが……」

「勿論却下です♪」

 

当たり障りのないやり取りをしてから俺と有栖は寮へと歩みを進める。ちらりとホリリンの様子を見ると……あー、これは涙腺が決壊寸前だね。そりゃようやく和解できた兄とまた離れ離れになったんだから仕方ないか。

有栖に伝えると絶対ろくなことにならないからここは黙っていよう。清隆君もどうにか察してさっさと離れてあげるかなー?いやでもあの子有栖に負けず劣らずサディストのきらいがあるしなー。頑張れホリリン、面子を守りたいなら一刻も早く清隆君を撒くしか手はないよー?

   

「新年度から私達はより一層マークされる立場になりますね」

「クラスポイント差が大分付いちゃったからね。執拗な狙い打ちはまあ当然として、下手したら他三クラスが結託するかもねー」

 

そうなったらぶっちゃけきついなんてもんじゃない。単純な物量差だけなら俺がひっくり返すけど、Dクラスには俺と同格の六助がいるからそうもいかない。あいつ普段はサボマイスタのくせして、俺が絡むと急にやる気になっちゃうんだよね。

その上積極性に欠けるとはいえ清隆君もいるわけだし、六助の性格からして無いとは思うけど、2人がかりで来られたらいくら俺でも打つ手無しだ。

総評して、流石に三クラスに結託されたら勝ち目は薄いというのが俺の見解だ。

まあこれまで歪みあってきたクラス同士がいきなり足並を揃えられるとは思えないけど……()()()が主導するなら可能性は無くはない。

 

「……どうやら桐葉も同じ状況を懸念しているようですね。ご安心ください、ちゃんと手は考えています」

「ん、それなら俺から言うことはないね」

 

権謀術数をめぐらすのは有栖の役目だ、俺が口出しするようなことではない。

ホリリン、リュンケル、卍解ちゃんと差し合うのは有栖だ。未だ有栖との決着は着かざれど、立場として俺はあくまで駒の1つであり─

 

 

 

 

 

女王(有栖)女王(クイーン)なのだから。

 

 

 

 

 

to be continued…




【学生データベース(3/31時点)】

本条桐葉
クラス:1年Aクラス
誕生日:12月24日
身長:179㎝→181㎝
体重:73㎏→77㎏
活動:空手部→無所属
特技:色々
趣味:自己鍛練、ガーデニング、手品
仲の良い生徒:坂柳有栖、橘茜、高円寺六助、橋本正義、鬼頭隼、神室真澄、その他大体の生徒
相性の悪い生徒:橋本正義、櫛田桔梗、桐山生叶、白波千尋、渡辺紀仁
好きなもの:有栖、植物、想定が外れた出来事、思い通りにいかないこと
苦手なこと:退屈、怠惰、シリアス、継続、予定調和
将来の夢:お花屋さん、植物学者、ビオトープ管理士、森林インストラクターのどれか
座右の銘:その日の気分でコロコロ変わる
名前の由来:植物好きというキャラに相応しくそれぞれの漢字に「木」が入っていることと、桐の英名が「Empress tree(女帝/皇后の木)」であることから


学力……A+
運動能力……A+
機転思考力……A
社会貢献性……A+
総合……A+










これにてこの作品は完結となります。
ここまでついてきてくれた読者の皆様、本当にありがとうございました。二年生編も随時投稿していくので、どうかもうしばらくお付き合いください。






 
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