何のとりえも無い少女が異世界で生き抜くお話(チート能力は無い模様)   作:カルデアの廃課金マスター

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モルガン祭は1,800箱ちょっとと悔しかったです。7章前に投稿出来て満足。


10冊目

 

「遅くなってごめんね」

 

 彼女はそう私に謝った。

 謝られても……と私は思う。

 それと同時に、彼女の美しさや姿勢に見惚れていた。

 いや、その前に返事をしなきゃ。

 

「あ…え。は、はぃ」

 

 声がほとんど出なかった。

 当然だった。

 つい数秒まで息を止めてるに等しい時間だったのだ。

 今でも息がうまくできない。

 でも、彼女は私の様子を見ると満足そうに頷いて前を向く。

 

「ちょっとだけ待ってね。直ぐに終わらすから」

 

 そこからは一方的な蹂躙だった。

 ドラゴンが動くとそれに合わせて彼女も剣を振るう。

 風に揺られて宙を舞う木の葉のようにドラゴンの攻撃をユラユラと避ける。

 ただ避けるだけでなく、避けると同時に剣を振るって着実にドラゴンにダメージを当てえていく。

 

 攻防……と言って良いのか分からない程鮮やかな舞は、ほんの数秒で終わった。

 終わってしまった。

 

 

 先ほどと打って違いスッと力を抜く剣士。

 そこから先は見えなかった。

 瞬きも忘れて見惚れていたにも関わらず。

 剣術の鍛錬を長年受けているのか、同い年の子供よりも遥かに優れた動体視力。

 三大流派の中級ともなれば、一般の兵士かそれより少し強いとパパウロが言っていた。

 ならば、私は年齢の割には強い方なのだろう。

 でも、そんな私でも見えなかった。

 

 気が付けばドラゴンの首が落ちていた。

 生物を殺す上で最も効率的な殺傷方法。

 その辺の魔物や魔獣なら分かる。

 でも、落ちたのはドラゴンで、やったのは20代に見える女性。

 

 疑問に思うと同時に私を襲ったのは安堵感だった。

 まだ安全地帯ではない。

 魔物や魔獣、戦争を行っている兵士、そしてドラゴンと言う最上位生物が現れるこの場所はまだ安全とは言えない。

 しかし、これまでの捕虜生活や歩き通しの数日間、ドラゴンを前にした緊張感からの疲れは心身ともに限界を迎えていたのだろう。

 

 ドラゴンの首を落とし終えたのを最後に、私の記憶はここで途絶えた。

 一瞬だけ、その人が慌てたように近寄って来るのが見えた…かもしれない。

 

 

 

 

H月A日

 ということがあった。

 あの後、目が覚めると誰も居なかった。

 これまでの捕虜生活で負った傷や汚れが綺麗さっぱり消えており、何なら清潔な服まであった。

 服というよりは旅服に近いかもしれない。

 サイズも少し大きいだけで着れないこともない。

 せっかくなので貰った。

 

 というのが昨日の出来事。

 今日は昨日の出来事を振り返って、現状の確認をしていた。

 この場を離れたい気持ちがあるけど、まだ精神的に疲れているから休みたかったのと、居なくなった女の人が戻って来るかもしれないと言う希望からだ。

 もう疲れたので寝る。

 寝るけど、何時人が来るか分からないから怖い。

 

 

K月O日

 何度も起きたので眠かった。

 でも、日中こそ一番活動が活発な時間なので起きておかなきゃいけなかった。

 女の人は帰って来なかった。

 どこに行ったのだろうか?

 最後に見えた表情から、単純に見捨てるって事はないと思うんだけど……。

 待つ。

 

 

I月B日

 凄い。

 清潔な服と一緒に置いてあった剣が凄かった。

 切れ味が物凄く鋭く、木どころか岩すら紙を割くように切れた。

 私ではそんな上級レベルの技量を持っていないから、この剣が物凄いって事が分かった。

 調子に乗ってその辺にある物をスパスパと切って遊んだのは反省。

 気を付けないと斬っちゃいけないものまで斬ってしまいそうだ。

 私が未熟だからなのかな?

 とりあえず、折れてしまった剣の代用は見つかったので一安心。

 武器も無しに見知らぬ土地(戦争してるっぽい危険地帯)を渡り歩けるはずもない。

 

 

E月G日

 今日も動かずに待ってみた。

 飲み水は魔法を使って生成。

 それ以外で必要な場合は近くにあった川を使った。

 ルーデウスみたい馬鹿みたいに魔力が有り余ってる訳じゃないから、できる限り魔法は温存しておきたい。

 というのも、幼女先生との夜のお勉強でそう習ったからだ。

 川は思った以上に綺麗だったので助かった。

 食べ物は専ら木の実や野生の果物と野菜。

 お腹に当たることがあるかもしれないけど、ゼニスママに習った初級の解毒魔術が役に立ってる。

 

 

A月K日

 近くに小さな動物がやって来たので狩った。

 初めてだったから少し緊張した。

 素早く勘も良いので仕留めるだけでも一苦労で、その後の皮を剥いだり、血を抜いたりするのが地獄だった。

 パパウロから習っていなかったのが敗因だろう。

 ただ楽しく剣を振るうだけだった私と違い、ルーデウスみたいに新しい知識に貪欲で居たら違ったかもしれない。

 後悔ばかりが襲ってきて病みそう。

 とりあえず、久しぶりにお肉が食べれたのを喜ぼう。

 あまり美味しくなかったけど。

 

 

 

I月T日

 数日経った。

 多分5日くらい?

 自分でもよく生きていられると思う。

 幸い、近くに果物の群生地があったので助かってるけど、全部なくなったり冬になったら餓死しそうだ。

 

 本題はこっち。

 いくら待っても私を助けてくれた人は一向に現れない。

 何か理由があって帰ったのだと信じたい。

 あんなヒーローの様に現れて助けてくれたのに、実際は悪意があったとは考えたくもない。

 

 

D月E日

 今日はこの場を去る準備をした。

 持てるだけの果物を用意した。

 カバンなんて便利なものは無いから、服に着いてあったポケットに詰め込んだ。

 一日一食で我慢しても2日分あるかどうか……。

 両手いっぱいに運べばまだまだいけるかもしれない。

 でも、手がふさがっていると咄嗟の時に剣を抜けない。

 魔物や兵士、私を狙ってくる者たちは沢山いるのだ。

 と言う訳で却下。

 ルーデウスなら魔法を使って物を運べるカバンを作れるかもしれない。

 土魔法かな?

 暇があればフィギュア作ってたからなぁ……。

 あんな技術何処で習得したのだろう?

 独学だとしたら天才だ。

 神は兄に複数もの才能を与えすぎだ。

 双子なのだから私も欲しかった。

 

1月8日

 魔物数体と出会っただけ。

 軽い傷だけで仕留められた。

 火魔法で焼いて食べる。

 怖いのでコゲが付くくらいは焼いた。

 ……この炎と煙で人が寄ってこないだろうか?

 火の始末をして寝る。

 

4月5日

 何もなかった。

 果物食べて寝る。

 そろそろ別の果物見つけなきゃ。

 

h月A日

 短期的な目標として街、最終的には家に帰る事を思って行動しているが、一つとても重要な事に気づいてしまった。

 ……ここ何処?

 今まで必死だったので考えが逃げる事しか考えていなかった。

 現在地が分からなければ、どの方角に向かえばいいのかも分からない。

 でも、ここが中央大陸ではない事は何となく分かる。

 幼女先生主催の夜のお勉強でそう言ってた気がする。

 あれ?ルーデウスだったっけ?

 どっちも良い。

 私が習得しているのはブエナ村、もっと大きく言うならアスラ王国の公共言語である人間語だけだ。

 この地に跳ばれされて以降、出会った人たちは皆私が聞き取れない言語で話していた。

 となれば、人間語以外の言語を使っているのだろう。

 流石に私でもこのくらいは分かる。

 が、それ以外が全く分からない。

 ダメだ、記憶が曖昧なので寝ながら考えることにする。

 

 

K月O日

 今日も移動。

 迷った時は動かない方がいいと聞くが、あのままでも何も変わりそうにないので移動する。

 せめて人里まで行けたら何とかなるはず……。

 

 昨日の夜、寝ながら考えた。

 この辺の人達が私の分からない言語を使っているということは、考えられるのは別の大陸ということ。

 ブエナ村があるアスラ王国は中央大陸と言う大陸だったはず。

 私の記憶と幼女先生の話が本当なら、中央大陸にある国は人間語を使っていると言っていたはずだ。

 なので、多分中央大陸ではない。

 次に魔大陸絶対に違うだろう。

 私を捕えていた兵士は如何にも人間だった。

 肌の色も(前世感覚で)人間の範疇を超えていなかったので、幼女先生の様に人間に物凄く近い種族が集まっていなければ魔族も有り得ない。

 魔族って見た目が明らかに変な種族もいるらしいし……。

 って事で魔大陸も除外。

 

 次に考えられるのは、ミスリル大陸?とベガ何とか大陸。

 ミスリル大陸はゼニスママの故郷がある大陸で、世界で2番目に大きい国だそう。

 たしか……ミリス教。

 あれ?ミリス大陸?

 まぁ、正式名称は今はどうでもいい。

 ミリス大陸なら人間語は通じるはず。

 よって此処も除外。

 なら、最後のベガ何とか大陸が一番濃厚だろう。

 

 ……それで、ベガ何とか大陸はどんな大陸で、世界の何処に位置する大陸だったけ?

 

 

 

B月I日

 今日も移動した。

 現在地は不明だけど、森を抜けたら何か変化があるかもしれない。

 でも、戦争している人たちから隠れて移動しなきゃならないのが辛い。

 少しずつ、少しずつ移動するのだ。

 進み続けたら帰れると信じて。

 

 

M月Y日

 痛手を負った。

 今日遭遇した兵士は強かった。

 北神流の中級だたっと思う。

 技量は当然私よりも上。

 でも、全流派の上級を収めているパパウロには程遠い。

 回避や逃げに徹したから逃げきれた。

 最後に投げてきた剣に足をやられたけど、治癒魔法で何とか直した。

 魔力が少ないので寝る。

 

 

O月U日

 今日は見つかりにくい場所へ移動しただけ。

 完治には至っていなかったらしく、少し足に力を入れたら痛かったから。

 戦闘になったら間違いなく足を引っ張る。

 完治まで休憩と行こう。

 

 

D月E日

 念を入れて数日様子を見てた。

 お陰で足は完治出来た。

 しかし、歩き回れなかったので食料確保が出来ていない。

 何とか食いつないでたが、今日でそれも無くなった。

 

 

S月I日

 身体が怠い。

 水だけな日もあったから、栄養失調は確実だろう。

 何か……何でもいいので食料ください。

 

 

T月A日

 朝、目が覚めるとアレがあった。

 アレ……。

 言い方は色々ある。

 女の子の日とか、下り物とか……ぶっちゃけると生理だ。

 そっか……もうそんな時期か。

 確か、このベガ何とか大陸に飛ばさせる数日前が10歳の誕生日だったから、年齢的には少し早いけど有り得なくない。

 捕虜生活中に何週間、何か月経ったかも分からないから、もしかしたら11歳や12歳になっていてもおかしくはないけど……。

 そんなにも時間が経っていないと信じたい。

 何年も行方不明とか、家族に心配をかけるのは嫌だ。

 早く帰ってパパウロに謝りたいし。

 

 

K月U日

 生理が来た、と言う事は身体が二次成長期を迎えたと言う事。

 あれから身体の節々が痛い。成長痛だ。

 治癒魔法で和らげたい気持ちが物凄くあるけど、これは外的要因じゃないから受け入れる事にした。

 成長に支障が出て、一生ロリ幼女姿なのはいただけない。

 無事に生還した時、ルーデウスが大きくなってて、対してこちらのが成長してなかったら私は凹む。

 だから痛みを我慢するのだ。

 

 

R月I日

 今日は最悪だった。

 まだ体調が万全じゃないのに敵兵と出会った。

 幸い、人数は少なかったけど、二人だけやばかった。

 多分中級の北神流と上級に近い魔術師。

 パパウロとルーデウスを同時に相手取る鍛錬をしてなければ、殺されるか捕まっていたはず。

 パパウロ程剣は鋭くなく、ルーデウス程多彩な魔法で攻めてこなかったのが幸い。

 水神流で受け流しながら逃げに徹したから逃げきれた。

 逆に数太刀入れたから、近くは追って来れないはず。

 

 

S月U日

 休みたかったけど、距離を取るのが先だと思って歩いた。

 感覚を研ぎ澄まして少しずつ歩くのは非常に疲れる。

 木の実だけだと力が出ない。

 

 

M月A日

 久しぶりのお肉。

 美味しくないけど、食べれなくない程度の焼き加減が分かってきた。

 ただ、保存方法はどうにかならないかな?

 水魔法の氷結領域で上手く凍らせたら保存できないかな?

 でも、冷凍庫みたいにするならずっと魔法を使ってなきゃいかないし……。

 あ、それなら入れ物も作らなきゃならない。

 私はルーデウス程器用じゃないから、そんなこと出来るはずがない。

 

 

S月U日

 こうして実践や緊急事態に瀕してみると、無詠唱魔法がどれほど有能で羨ましいか分かる。

 戦闘時には不意を突けるし、集中力はゴリゴリに必要だけど剣術と両立出来るのも偉い。

 それ以外では詠唱を思い出す必要がない。

 この身体の頭が弱いのか才能がないのか、両方だと思うけど生きるのに必須な水を出すのにも一々時間を必要としない。

 ルーデウスが家庭教師に行く前にコツを聞いてみたが、感覚派過ぎて分からなかった。

 逆にルーデウスは剣術の方は感覚じゃ分からないみたいだから、真逆と言えば真逆だけど……性能の差が激しい。

 攻めて詠唱を短縮出来ればグッと楽になるはず。

 毎日飲料水を出してたら経験値が溜まって出来ないかな?

 

 

 

 

 

2月0日

 恐らく数週間経った。

 何度か遭遇した兵士さん達を行動不能にして逃げていると、出会った兵士さん達が私を見つけると指を指して撤退する様になった。

 ふっ、有名になったものだと慢心して居たら、逆に逃げない兵士さん達も十数回に一回は居た。

 そういう隊は大抵中級以上の剣士と魔術師が居る、軍の中でも精鋭に当たる隊だったかもしれない。

 心身ともに休まる時が無いからか、私の体力や剣は鈍る一方。

 どこかで一休みしたいけど、こんな危険地帯の中じゃ無理だ。

 

 しかししかし。

 数週間経ってようやく変化が見られた。

 森を抜けたのだ!

 広がる草原、遠くに見えるのはブエナ村に似た感じの村……。

 だったら良かった。

 

 何度見返しても、遠くを見ようを目を凝らしても、見えるのは砂。

 砂、砂岩、砂漠だ。

 ……これ、生きて帰れる?




今年最後の更新になります。少し早いですが、よいお年をお迎えください。
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